知識も無いのにポケモン世界にチート転生したが何も面白くない 作:Imymemy
「一時閉鎖、ですか」
ハナダシティを出てから暫くの間ずっと南に進み、ついにヤマブキシティへと到着した。距離的にはそこまで遠いわけではないが、目と鼻の先というわけでも無い。特におつきみやまの移動はだいぶ強行軍だったのを反省して、ハナダからヤマブキシティへの移動は少しゆっくりにしてみたが、案の定一日以上掛かっての到着となってしまった。
空を見上げればすでに明るさのピークが過ぎて、後は沈むだけになるのが分かった。もうあと1,2時間もすれば夕方から夜に移り変わっていくだろう。
ヤマブキシティはカントー地方を上から数えて1,2位を争うほどの大都市で、いくつもの巨大なビル群が立ち並び、人口も他の街と比較して倍以上もあるという。
そして巨大企業の一つであるシルフカンパニーの本社が置かれており、人口、施設の発達具合を見れば、カントー地方で最も発展している都市と言って間違いないだろう。
そんな大都市ヤマブキシティは街の中と外を区切る目的で、ヤマブキシティの東西南北に出入り口を管理するためのゲートが設置されている。ゲートを除いた街の周囲は柵や壁で塞がれていて、ゲート以外からの勝手な侵入を極力防ぐような作りになっていた。
ハナダシティから真っすぐ歩いてヤマブキシティに到着し、北口のゲートに入ったのはいいが、ゲートを管理する警備員に止められてしまい、冒頭のセリフを言われてしまったのだった。
「はい。今、ヤマブキシティは一時入場を制限させていただいております。詳細をお伝えすることは出来ませんが、現在ヤマブキシティの治安に関わる非常に深刻な問題が発生していて、その問題を解決するまで暫くの間、一般の方を街の中に入場させることが出来ない状況となっています」
どうかご了承の程、よろしくお願いします。警備員がそう言って申し訳なさそうに頭を下げるのを見て心中でため息をつきつつ、しょうがないと切り替えることにする。
警備員側も似たような話を連日続けているのかあまり休みが取れていないようで、目元には隈が浮かび、見るからに寝不足で疲れ切っているようだ。何か飲み物でも奢りたいところだが、生憎ヤマブキシティに入ることも出来なければ飲み物も最低限しか持ち合わせていない。
何を考えてもヤマブキシティに入ることが出来ないのは変わらないだろう。警備員に別の街への移動ルートとして、ゲートを出てすぐ傍にある地下通路からクチバシティに向かうルートを勧められた。
緊急避難用として作られた地下通路で、ヤマブキシティの北口から南口のゲートと、東口から西口のゲートを繋いでいるらしい。どうしてこういう作りになっているのか理解できないほど使いにくい構造をしているが、どちらにせよ地下通路を通ってクチバシティに向かうか、大幅に戻ってハナダシティを東に向かうしか道は無い。
ハナダシティにもう一度戻るか、すぐ傍の地下通路を進んでいくか。俺は少しも悩むことなく地下通路を通ることを選択した。クチバシティに向かう道がすぐ傍にあるのにわざわざハナダシティまで戻るのもおかしな話だ。
警備員に感謝の言葉を告げて地下通路に降りていくと、最低限の照明が等間隔で設置されているだけで殆ど直線の道が広がり、薄暗い闇の中へと繋がってる。
ヤマブキシティの地下を通っているだけあって、ここを抜けるのはヤマブキシティを縦断するのと同じだ。ビルや壁、柵、人込みなどの障害物が全くない地下通路の方がヤマブキシティ縦断より圧倒的に早いはずだが、それでも長い間この暗闇の中を歩かなければならないのは少し億劫に感じた。
地下通路を通っている最中にトレーナーともすれ違ったが、流石にこの暗くてあまり広くない通路の中で戦おうと考える者はいないようで、俺の事をちらりと見るだけですぐに通路の奥に消えていった。
しばらく暗闇の中を進んでいけば、ようやく地下通路の出口らしきものが見えてくる。出口から伸びる日光によって出口付近は照らされて、外に続くであろう上りの階段がハッキリと目に入った。その階段を一段飛ばしで歩いて出口を抜けると6番道路が広がっていた。道路の先には海と、海に隣接するよう形で発展を遂げたクチバシティが既に見えている。空は徐々に暗くなりつつあるが、この距離なら夜中にでも到着できるだろう。
地下通路を出てから数時間経ち、クチバシティにようやく到着した。
外はもうだいぶ真っ暗で、地下通路を抜けた時に想定していた時間より大幅に遅れての到着となってしまった。理由は簡単で、外にいたトレーナー、いわゆるキャンプボーイ、キャンプガールに勝負を挑まれてしまったからだった。
一人のキャンプボーイにバトルを挑まれ断っていると、後ろから新しいキャンプボーイやキャンプガールがぞろぞろと集まってきて、最終的には3人のトレーナーに囲まれてしまうこととなった。
子供は大人と違って感情的に行動してしまうきらいがある。ポケモンバトルをできない、したくないといった俺の言葉は、血の気の多い少年少女にとって相容れないものらしく、ポケモンが『ひんし』では無いのならバトルは絶対やるものだという態度だった。
ロケット団のようにトレーナーに対して攻撃を行ってくる相手であれば、こちらも正当防衛として相手に直接攻撃をするのが手っ取り早い。だが、彼らは最低限トレーナーとしての体裁を整えている。暴力的な行動に出るのは負けた気がして良くないし、かといってポケモンバトルで一人ずつ相手にするのはあまりにも時間が掛かってしまう。
色々悩んだ末に、俺は3人同時――いわゆるトリプルバトルを行うことを提案した。彼らはダブルバトルを知っているようだったが、トリプルバトルについてはあまり知らなかったようだった。しかし興味を持ったようで、どちらにせよポケモンバトルが出来れば満足らしい。
そうして3人同時に相手をしてみたが結局負けることは無く、3人を一蹴とはいかなかったが、問題なく勝利を掴むことができた。
ポケモンを同時に3匹出したところでトレーナーが命令できるのはポケモン一匹のみ、トリプルバトルでトレーナー3人を相手にする以上、命令できる対象の数で大きくハンデが付いてしまう。
このハンデを埋めるのは口が3つあって同時に別々の動きを命令できるようになるか、命令していないポケモンが勝手に動き、相手のポケモンと戦ってくれるのを期待するくらいだ。とはいえ、ジムリーダーほどの実力も無いトレーナーと戦ったとしても、その程度のハンデで負けることは無かった。
本当にただただ無駄に時間を消費しただけではあるが、クチバシティに到着することは出来ているので、当初の予定通りということで納得する。
港町、夜中でも関係なく漂ってくる潮風の臭いに吐き気を抑えつつ、早々にポケモンセンターへと直行する。街に着いてからの行動は既に手慣れたもので、ポケモンセンターに行って早々に寝床を確保するのは優先的にやるべきことだと学んでいた。
先ほどまで眠っていたらしい寝ぼけまなこで目元を擦るジョーイさんにボールを預け、空いているという個室を借りることに成功する。
港町ということで船員や旅行客など多くの人がクチバシティに来ているので、ポケモンセンターに泊まる者も決して少なくないという考えだったが、案外そうでもないらしい。ポケモンセンターに泊まるのは殆どがポケモントレーナーだけで、旅行客はちゃんとしたホテルに泊まるのが常識なんだと、ジョーイさんからそういった内容とその理由について教えてもらったが、理由の方は殆ど聞き流してしまっていた。
話半ばで切り上げ、借りることのできた自身の個室に入ってベッドに飛び込む。
2日、3日は外だったか? あ、いや、1日程度だったかもしれない。だが外で野宿していた日数を数えるのは意味のない行為に他ならない、どちらにせよ久々のベッドの上で俺は信じられないほど疲れていた。
ベッドから這いずり出ると、バッグの中に入っていたエナジーバーを取り出して一口二口とかぶり付く。口の中に甘ったるいチョコレートの味が広がり、不快感が鼻腔を駆け抜けていくのを、顔をしかめて受け入れつつ咀嚼していく。
エナジーバーが美味しくない問題について三日三晩でも語れるくらいの不満はあるが、それをぶつける相手はどこにもいない。口の中でボロボロになったエナジーバーの欠片を、バッグから取りだした水で流しこんで終わりにする。
夜中のため食事は明日の朝だ。今日は取り敢えずシャワーに入って、それから、それから、それから……――――
夢の中で小さな、幼い、もっと幼い頃の自分と出会った。
黒い霞にまみれて顔も見えない、おそらく両親であろう男女二人に支えられている小さな身体。
物心が付いたときか、付いていないときか。記憶すら曖昧な幼い時期の出来事を、こうやって夢の中で再現するように思い出すことがある。いや、こんな明晰夢のような夢現の状態でしか思い出すことができない。
ちょうど今日、クチバシティに着いたときに嗅いだ潮風。俺は船にいて、両親と一緒に乗っていた。
ポケモンバトルかどうとか、人生がどうとか、ポケモンとか、赤ん坊と変わらない頃の自分には全く理解できない言葉をずっと話し合っていて、その時に見せてくれたポケモンがそうだ、ギガイアス。ギガイアスという名前だった。
その後の事はあまり夢の中では再現されない。雷、強い風、打ち付ける波。モンスターが存在するこの世界では当たり前に起きる事故が発生して、俺は孤児になった。
それだけ。たったそれだけ。
目が覚めたのはもうとっくに朝で、シャワー行かなくちゃなんて考えて寝落ちしてしまったのはもう明白だった。予定は変わらず、シャワー、ご飯、ボール回収、クチバジム、あとは軽く観光して……荷物を整えて追加で一泊か。
明日の朝にクチバシティを発てるように色々やることはあるが、取り敢えずシャワーに入ってから全て考えよう。もう汗で服がベトベトだ。