知識も無いのにポケモン世界にチート転生したが何も面白くない   作:Imymemy

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クチバジム

 汗を流して前日に預けたポケモンを受け取り、少し遅めの朝食を摂ってからポケモンセンターを後にする。

 

 クチバジムに向かうまでの道中で、改めてクチバジムに関する情報をまとめていく。でんきタイプを扱うジムで、ジムリーダーの名前はマチス、別の国の元軍人だという。外国の元軍人でも問題なくジムリーダーになれるのは不思議だと思ってしまうが、そういうものなのだろうか。

 

 逆に国籍や経歴は特に問わず、相応の実力があればジムリーダーになれるのだろうか? もし自分の将来で食うに困ったのなら、ジムリーダーを目指してみるというのも良い選択肢かもしれない。

 

 そんな話はともかく、今回のジムで使用されるのは『でんきタイプ』で、俺の持っているポケモンとの相性があまり良くない。カメールもズバットも相性的には最悪だし、いきなりゴースを起用して活躍できるのかという問題もある。

 

 しかし正直なところ、自分の才能チート(オートバトル)がどれだけ不利な状況で勝利に導けるのか気になるところではある。テレビを見ている限り、ポケモンのタイプ相性が悪くとも試合に勝利しているトレーナーというのは少なくない。多少の不利であってもトレーナーの指示が良ければ幾らでも試合はひっくり返すことが出来るのだ。

 

 

 ジムの前に到着したがどうにも人が少ない。今までのジムのように多くのトレーナーが訪れているわけではないようで、ジムの外観を見る限り他のジムと同じく大きいのだが、それが逆に人気の無さを浮き彫りにしているようだ。

 

「君は……ジム挑戦希望者かい?」

 

 入口の前に立っていると、中から大柄な船乗りのような恰好をした男が出てきた。ジムトレーナーというのは別の職業も兼任していることが多いようだが、この船乗り姿の男もジムトレーナーなのだろうか。疑問を抱えつつも質問には首を縦に振って答えた。

 

「マジかよ! あー……ちょっと待ってくれよ。 マチス!」

 

 俺を入口前に立たせたまま、船乗りの男は踵を返してジムの中へと駆けていった。何か込み入った用事でジム挑戦が出来ないのかもしれない。

 

 少し待つと、先ほどの船乗りの男が戻ってきて、手をサムズアップの形に変えて爽やかに笑った。

 

「ジム挑戦、オッケーだ。申し訳ないが、ジムのギミックが今調整中でな。本来ジムリーダー挑戦のためにやってもらうチャレンジがあるんだが、今回それは無しとさせてもらいたい。大丈夫かな?」

 

「チャレンジ、ですか」

「ああ、中に入ってくれ」

 

 船乗りのジムトレーナーに続いてジムの中に入る。ジム内はまるで体育館のような部屋の作りになっていて、部屋の中には大量のゴミ箱が、それも中身がぎっしりと詰まった状態で、等間隔に設置されている。

 

「……?」

 

 俺が等間隔に置かれているゴミ箱の意味を探っていると、ジムトレーナーは笑いながら、本来のジムチャレンジについて教えてくれた。

 

「クチバジム、ジムリーダーのマチスは元軍人で、とても用心深い男なんだ。ジムリーダーがいる部屋に向かうための扉には鍵が掛かっていて、その鍵を開錠するためのスイッチが――」

「……このゴミ箱の中」

「そういうことさ。ただ、生憎今日はこの鍵の点検日でな。一時的にスイッチを切ってあるんだ。だからゴミ箱漁りは無しってことだ」

 

「なるほど、分かりました」

 

 何故このジムの人気が無いのか良く分かった。ジムに挑戦しに来たと思ったらゴミ箱を漁らなければならなくなるとは思いもしないだろう。他のジムでも挑戦するために似たようなチャレンジが設けられているところもあると見たことがあるが、流石にゴミ箱を漁るチャレンジは他に無いだろうな。

 

 ゴミ箱を漁る手間が無くなった代わりにジムリーダーへ挑戦するためにジムトレーナーと戦う必要があるという。俺はその提案を受け入れると、すぐさまジムトレーナーとの対戦に移ることになった。

 

 

 

 ジムトレーナーと共に別室のスタジアムに移動して、試合を始める前にルールのすり合わせを行っていく。ジムトレーナー、挑戦者どちらも使用するポケモンは一匹のみ。ジムバッジの所持数や時々でルールは違うらしいが、今回は割と厳しい条件だという。

 

 1対1はポケモンの入れ替えが出来ないので、トレーナーの腕が如実に出てしまうという。ジムバッジを何個も持っているトレーナーであっても、ポケモンを自由に入れ替えることのできないルールというのは非常に苦戦するものらしい。

 

 

「さぁ、準備はいいか?」

「大丈夫です」

 

 ジムトレーナーの『ふなのり』タツヒコがニヤリと笑った。

 

「ジムバッジを2つ持っているからと言って、簡単に突破できると思ったら大間違いだぞ! 行け、ピカチュウ!」

「行け、ゴース」

 

 ボールの中から現れたピカチュウとゴース。どちらも出た瞬間には技の準備に入っていた。

 

「ピカチュウ、『かげぶんしん』だ!」

「『あやしいひかり』」

 

 ゴースが口の中で怪しく光る球状のエネルギーを作り出し、それを『かげぶんしん』に入る前のピカチュウにぶつける。

 

「ピ、ピカッ……?!」

 

 『こんらん』状態に陥ったピカチュウはその場でフラフラと千鳥足を踏みながらも、必死に踏ん張って『かげぶんしん』を行う。しかし『こんらん』状態で作りだされた『かげぶんしん』は不安定で、本体のピカチュウ以外の『かげぶんしん』はどこか掠れている。

 

「バレバレか、なら『でんきショック』だ、ピカチュウ!」

「ピ――カッ!!」

 

 指示を聞き入れ『でんきショック』を放つピカチュウだったが、『こんらん』によって狙いが定まっていないようで、周囲に電撃を放ってしまっている。ゴースはそんなピカチュウを見て隙が出来たと感じているのか、攻撃指示を待つようにチラリと俺の方を見た。

 

「近寄るな、『あやしいひかり』だ」

 

 ピカチュウは周囲に電撃を滅茶苦茶に撃っていて『こんらん』状態のように見えたが、ゴースが『あやしいひかり』を撃つのを見ると大きく後ろに飛び退く。そしてその場には小さい食べカスが、何かの『きのみ』を食べている痕跡があった。

 

「ラムのみ、知っていたのか?」

「……さぁ?」

 

 俺がそう答えると、ジムトレーナーは更に深い笑みを浮かべた。

 

「状態異常への対策を読んでいたか、それともたまたまか――しかしまだ試合は終わってないぞ! ピカチュウ、『でんこうせっか』に『かげぶんしん』だ!」

「『うらみ』、『さいみんじゅつ』だ」

 

 『でんこうせっか』によって高速でスタジアムを駆け巡り、『かげぶんしん』によってデコイを増やしていくピカチュウ。ゴースは『さいみんじゅつ』をピカチュウに向かって撃つが、疑似的な高速移動の環境では当てることはできないだろう。

 

「打つ手なしと見える! ピカチュウ、『エレキボール』を撃て!」

「ピッ!」

 

 素早くゴースの死角に移動したピカチュウは、自身のイナズマ状の尻尾からボール状の電気の塊を圧縮した技『エレキボール』を撃ち出した。

 

 背後から『エレキボール』を受けてしまったゴースは少し吹き飛ばされてしまうが、これくらいのダメージで倒れることはない。ジムトレーナーはその様子を見て、改めて『かげぶんしん』を指示する。

 

「ピカチュウほど速くはないが、レベルが低いわけではないか。あとどれだけ耐えられるかな! 『かげぶんしん』を続けるんだ!」

「『あやしいひかり』、『うらみ』」

 

 スタジアムの中心にいるゴースを取り囲むように、ピカチュウの『かげぶんしん』が大量に出現している。『あやしいひかり』をがむしゃらに撃ってみるが、勿論それで当たるわけもない。

 

 ゴースの使える技の中に『かげぶんしん』をまとめて攻撃できる技はない。『シャドーボール』や『あくのはどう』で一掃できるが、現在のゴースのレベルでは到底使えるものではなかった。

 

「『エレキボール』!」

「『あやしいひかり』」

「避けろピカチュウ! 『かげぶんしん』だ!」

 

 非常に命中率の高い技である『あやしいひかり』を確実に避けるため、『かげぶんしん』と『でんこうせっか』での回避を行っているピカチュウは、攻撃よりも回避を優先している。

 

「『あやしいひかり』をもう一度だ」

「『かげぶんしん』を、ピカチュウ!?」

 

 ピカチュウは『かげぶんしん』を行おうとゴースの周囲を走っているが、先ほどまでの勢いは完全に削がれ、『かげぶんしん』を使う事が出来なくなっている。

 

 『でんこうせっか』によってスタジアムをぐるぐると回っているだけのピカチュウに対して、『あやしいひかり』が命中する。

 

「なっ、なぜ――」

「『さいみんじゅつ』」

 

 再び『こんらん』状態に陥ったピカチュウに重ねて『さいみんじゅつ』を撃ちこんでいくゴース。当たりづらい技ではあるが、『こんらん』によって動きの止まったピカチュウに当てるのに苦労はしない。

 

 何も出来ずに『ねむり』へと陥ったピカチュウはスタジアムに沈んでいった。

 

「――『たたりめ』だ」

 

 どれくらい『ねむり』状態が続くかで次の攻撃が変わったのだろうが、今回は直接攻撃することに切り替えたようだ。本日初めての攻撃である『たたりめ』によってピカチュウを攻撃する。

 

「ヒ“、ビカ”ァ“……!」

 

 ゴースは今までの恨みを晴らすように、ピカチュウの首元を締め上げていく。本来であればここまでの威力は出ないはずだが、『ねむり』状態のピカチュウには非常に効果的のようだった。

 

 『ねむり』状態のままのたうち回るピカチュウだが、不定形でガス状のゴースに対してはほぼほぼ無力。『ねむり』状態が解除されるまで待つしかないが、残念ながら今回の睡眠パターンは死ぬまで起きないだろう。

 

 苦しそうな表情で見つめるジムトレーナーだったが、『ひんし』に陥る直前になって慌てて大きな声を出した。

 

「ま、負けだ! 俺の負けだっ!」

 

 その声を聞いてゴースはチラリと俺を見る。あんな卑怯な戦法を使ってきて憎いのは分かるが、俺に対して「どうしますか兄貴」みたいな顔で見られても困ってしまう。トレーナー戦であることを考えてほしい。

 

 俺が首を横に振ったのを見て、ゴースは渋々とピカチュウから離れてこちらに戻ってくる。ゴーストタイプのポケモンはどうにも陰湿な奴ばかりのようで嫌になる。俺はゴースの顔を見ずにボールへと戻した。

 

「ピカチュウ、大丈夫か!?」

「……ビッ、ビピッ」

「待てよピカチュウ、すぐに回復してやるからなっ」

 

 痙攣状態に陥っているピカチュウをボールへと戻して回復マシンにセットすると、ジムトレーナーのタツヒコはその場に座り込んだ。

 

「はぁ。勘弁してくれ、ゴーストタイプとの対面は胃に悪いんだ」

 

 そうは言っていたがすぐに立ち上がると、手をハンカチで軽く拭ってから俺に握手を申し込んできた。

 

「お疲れ、今の戦いには驚かされたよ」

「……どうも」

「盤面に踊らされない君の冷静沈着な指示があってこその勝利、胸を張ってくれ」

 

 ジムトレーナーは先ほどの戦いなんて無かったかのように笑って俺の肩をバンバンと叩いた。それからすぐに少し驚いた声色のまま話を続けた。

 

「な、見かけによらず結構鍛えてあるんだな、納得だよ。マチス少佐――マチスは試合の結果を見て君の挑戦を受けるつもりだそうだ。しばらくしたらここに来るから、それまでポケモンの回復をして待とうか」

 

 どうやらジムリーダーに挑むことはできるようだ。ポケモンをジムトレーナーに預けて回復とジムリーダーの到着を待つ間、手持ち無沙汰になった俺はスタジアムに設置されているイスに座って待つことにする。

 

 バッグから旅のガイドブックを取り出して読み始めれば、次の試合を待っている間の時間はさほど気になることは無かった。

 

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