知識も無いのにポケモン世界にチート転生したが何も面白くない   作:Imymemy

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ビリリダマ

「ヘイ! ユーの戦い見てましたヨ! なかなか良いタクティクスを持っていますネ!」

 

 大きな声でそう叫びながらスタジアムに入ってきたのは、クチバジムのジムリーダーであるマチスだった。がっしりと鍛えられた身体を勲章がいくつも付けられた迷彩服に包み込み、短く整えられた金髪に碧眼、文字通り外国の軍人という風貌だ。

 

 マチスは強面の容姿に見合わないほどフレンドリーな態度で慣れ慣れしく肩を組んでくる。こういった輩は無駄に抵抗すると面倒なことになると俺は知っているので、愛想笑いで早く試合を始めてもらうことを祈るしかない。

 

「戦いのルールは3対3のシングルバトル、モチロン君は交代してもオーケー」

「大丈夫です」

「オーケー。じゃあスタジアムの向かいに立ったらバトル開始デース!」

 

 今までに無いタイプでとてつもなく話しにくい。俺はさっさと回復マシンからボールを回収して、スタジアムの向かい側に移動する。

 

「君の事、チョットは知ってるヨ。プアリトルボーイ? 旅を始めて数日でミーに戦いを挑むなんて身の程知らず! ミーのエレクトリックポケモンはナンバーワン。ユーも戦場の敵ソルジャーみたく、ビリビリシビレさせるよ!」

「はぁ……」

 

 プア……? なぜ俺が貧乏なことを知っているのかとても不思議だが、ジムバッジを複数取っているトレーナーの情報っていうのは案外出回っているものなのかもしれない。

 

 お互いがスタジアムに立って向かい合う。片やモンスターボールを手に、片やハイパーボールを手にしている。マチスは自信満々といった表情で、己の勝利は決して揺るがないとでも思っているのかもしれない。強者特有の自信、俺も見習う所はあるだろう。

 

「準備はイイ? 行くヨー!」

「……どうぞ」

 

「ゴー! ビリリダマ!」

「行け、ズバット」

 

  ハイパーボールの中から出てきたのはビリリダマと呼ばれる、モンスターボールに酷似した見た目を持つポケモンだった。

 

 俺がズバットを出したことにマチスは首を傾げて、理解できないといった様子で尋ねてきた。

 

「ンー? ユーはタイプ相性、知ってマースか?」

「……まぁ、なんとなくは」

「オーケー。知ってて出しているなら、問題ないヨ」

 

 マチスの開かれた眼が細く鋭い目つきに変わっていく。ポケモンバトルのスイッチが入ったのだろう、先ほどから継続していた飄々とした話し方を潜め、まるで人が変わったかのようだ。

 

「行くヨ。ビリリダマ、『でんきショック』」

「電撃全般に当たるな、避けろ」

 

 攻撃指示は出さず、電撃から避けることだけを考えてズバットを行動させていく。ビリリダマは牽制として『でんきショック』をまばらに放ち、こちらの様子を窺っている。飛んで回避に専念しているズバットに対して、直接的ではない電気技では当てるのが困難と判断したのだろう。

 

「勢いが足りないのなら――ビリリダマ、『じゅうでん』だ!」

「『どくどくのキバ』」

 

 電気技の威力を向上させるため、『じゅうでん』を始めたビリリダマに対してズバットは『どくどくのキバ』を当てんと向かって行く。『じゅうでん』を一時取りやめ、ズバットの攻撃を掠りつつもギリギリのところで転がりながら回避したビリリダマを見て、マチスはヒューと口笛でも吹くような声を出した。

 

「『ちょうおんぱ』を撃たない、接触技を使う。……特性分かっているネ、それもミーのビリリダマの特性がピンポイントで? たまたまじゃ無いナ?」

「……どうですかね」

 

 『ぼうおん』という特性によってビリリダマは音に関する技を無効にしている。つまりズバットの『ちょうおんぱ』が効かないため、小細工抜きでビリリダマを押していく必要がある。

 

 タイプ相性は最悪で、搦め手の一つが封じられている。ポケモンを交換するのが得策だとまともなトレーナーなら判断する。だからこそマチスは交換をさせるまいと強気に攻めてくる。

 

「ビリリダマ、『チャージビーム』を!」

「避けろ」

 

 ビリリダマは『どくどくのキバ』によって毒状態になっているが、そんなものは気にしないとばかりに『チャージビーム』を撃ち出してくる。『でんきショック』とは違った直線的な電撃のため、回避をすること自体は難しいことではない。

 

「ハッハッハ、『チャージビーム』は電気を溜めつつ撃ちだす技! 避けてるだけじゃ、ドンドン電気の威力、上がっていくヨ!」

「ズバット、『エアカッター』」

 

 ズバットは『チャージビーム』を回避しつつ、攻撃と攻撃の隙間を縫って、翼を大きく振るい、風の刃と形容するべき『エアカッター』を2つ撃ち出した。

 

「避けろ、ビリリダマ!」

 

 その言葉に反応したビリリダマは飛んできた『エアカッター』を回避しようとするが、『チャージビーム』を放つ体勢からの動きだったため一瞬遅れが生じ、初撃の『エアカッター』が直撃する。

 

 ダメージを受けつつもその場から飛び退いたため2つ目の『エアカッター』を受けることは無かったようではあるが、一度目の『エアカッター』が急所に当たったようで、ビリリダマは大きく身体を揺らしている。

 

「くっ、良いウデしてるヨ! ビリリダマ、『ソニックブーム』!」

「『エアカッター』」

 

 ビリリダマの周囲がぐにゃりと歪み、そこから半透明なブーメラン状の衝撃波が放出される。高速で飛んでくる衝撃波に対して、ズバットは『エアカッター』を撃ち返して相殺しようとする。

 

 その目論見通り、『エアカッター』と『ソニックブーム』は互いの攻撃を打ち消し合い、本来の形を保てず消散していく。それを見たマチスは眉をひそめる。

 

「オーノー、コレも通らないですカ……」

 

 『どくどくのキバ』と『エアカッター』の掠りによって、ビリリダマの体力はすでに半分以上消費されている。このまま逃げ回っていても勝てそうだが、電気技のゴリ押しでズバットが押し切られる可能性は決してあり得なくはなかった。

 

交換をするか、このまま戦うか、どちらを取るか考えはするが、結局このまま戦うことを選択。ビリリダマ逆転の一手でもある『じばく』をリーサルウェポンとして抱えているので、新しくポケモンを出してダメージを貰う必要はないだろう。

 

「ビリリダマ、『チャージビーム』!」

「避けろ」

 

 そして再び始まる不毛な『チャージビーム』、威力速度ともに申し分ないものだったが、弱っているビリリダマが全力で撃てるわけもなく、全盛期の状態からは何段階も弱った状態の電撃が飛んでくる。

 

 ズバットは手慣れた様子で『チャージビーム』を避けつつ、俺の次の指示を待っている。だが才能チート(オート操作)が攻撃指示を出すことはない。このまま体力が完全に尽きて倒れるのを待つほうが攻めるより最善だと判断したのだろう。

 

 ビリリダマとズバットの戦いをボーっと眺めつつ、マチスの方をチラリと見る。そこでマチス自身と視線が合ってしまう。このマチスという男は口角を上げてニヤリと笑った。

 

「攻撃でハなく毒での戦闘不能を待って決してアタックしてこない。用心深く慎重に慎重を重ねるこのスタイル、ミーととっても似ていますネ」

「……」

 

「カウンターを狙うユーのファイトスタイル、ユー自身の才能と動体視力によって可能なそれは一見、セーフプレイ且つ無敵に見えますガ――」

 

「常に後手と言うコトは、相手に付け入る隙を与える弱点がありますネ!」

 

「ビリリダマ、『ころがる』で詰め寄るのデス!」

「――ズバット、『エアカッター』」

 

 『チャージビーム』を止め、『ころがる』でこちらに向かってくるビリリダマを迎撃するべく『エアカッター』を指示するのを確かめてから、マチスは大きく叫んだ。

 

「ビリリダマ、そのまま受け止めて、『でんきショック』を撃ってください!」

「ズバット、上に大きく飛べ」

 

 ズバットによる『エアカッター』を全て受け止めきったビリリダマは、すぐさま『でんきショック』に攻撃を切り替えると、更に上空へ逃げ出そうとするズバットに向かって電撃を放つ。

 

 度重なる『チャージビーム』によって強力な電撃技と化した『でんきショック』は相当の威力と速度を持ってズバットを撃ち抜いた。

 

「よし! クリティカルヒットですヨ!」

 

 電撃によって地上へと落下していくズバットを見て、握り拳で喜びを表現したマチスはそう叫んだ。実際急所に入ったのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。威力を考えると『ひんし』は免れないダメージだったはずだ。

 

「……きのみ」

「やはり良い目をしてますネ、そうデース、オボンの実と言うきのみデス」

 

 オボンの実。体力を回復させる効果がある『きのみ』の一種で、削られた体力を一時的に回復させた状態で『でんきショック』を撃った。弱っているときよりパワーが出せるのは間違いないだろう。

 

「戦闘不能デス、ズバットを戻して――」

 

 マチスは視線を俺からズバットへと移して、驚愕に目を見開く。

 

「なっ……!」

 

 倒れたはずの、地に転がったズバットが光り輝くそれは進化の光。ズバットは倒れる直前でズバットからゴルバットへの進化を遂げようとしていた。マチスは慌てて追い打ちを撃たんとビリリダマに指示をする。

 

「ビリリダマッ! 『チャージビーム』を――」

「ゴルバット、『エアカッター』」

 

 それよりも早くゴルバットへと指示が通り、光の中から風の刃が飛んでくる。マチス同様、進化の光によって気を取られたビリリダマは『エアカッター』に直撃してしまう。

 

「オーシット! ビリリダマ、耐えるのデス!」

「――『どくどくのキバ』」

 

 ゴルバットは光の中から一直線にビリリダマに向かって飛んでいくと、その巨大な口を開いて噛み付こうと牙を光らせた。

 

「――勝負を決めようと焦りましたネ?」

「――――」

「ビリリダマ、『いやなおと』!」

 

 ゴルバットを飲み込まんと大音量の不協和音をかき鳴らしたビリリダマは、『どくどくのキバ』を貰う前にゴルバットの動きを一瞬であるが完全に停止させた。その一瞬の空白、隙を狙ったマチス本人は耳を抑えて、口をパクパクと開いた。

 

「『じ ば く』」

 

 爆音によって戦闘が止まったフィールドを、ビリリダマを中心とした巨大な爆発が覆いつくした。渾身の『じばく』によって進化したてのゴルバットは吹き飛び、ビリリダマも勿論吹き飛んでいく。

 

 白と黒の煙がフィールドどころかスタジアム全体を包み込み、お互いトレーナーの姿を観測することができなくなる。しかし煙の奥で、確かにマチスが何かを言っているのが聞こえた。

 

「――勝利を得るためにありとあらゆる手段を用いる。争いという点ではポケモンバトルも戦争も、同じようなものデス」

 

 砂煙が徐々に晴れて、倒れて転がっているゴルバットとビリリダマの姿を見ることが出来た。

 

「これで互いにポケモンを1匹消耗しましたネ。ユーほどの才能と実力に対して、手を抜くのは無礼ですヨネ。ミーも勝つため、フルパワーで戦いますヨ……!」

 

 マチスは笑って、次のボールを構えた。

 


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