知識も無いのにポケモン世界にチート転生したが何も面白くない 作:Imymemy
ズバットから進化を遂げたゴルバットをビリリダマの『じばく』によって吹き飛ばし、相打ちに持ち込むことに成功した。元々はビリリダマで相手のポケモンを一匹落とし、二匹目が出てきた時点で『じばく』を使う想定で考えていたが、今回はその手を使えるほど相手は弱くない。
胸が強く脈打ち、緊張を感じているのを実感する。公式戦でも無いのに勝利を狙うバトルをするのはいつぶりだろうか?
スタジアムの向かい側、戦場を見据えている少年。吹けば飛んでいきそうな細い身体だが、見た目からは想像できないほど強靭な身体をしている。まるで、そう、ポケモンのようにも思えた。
「2匹目は――……ゴー! エレブー!」
ボールの中から現れたのは、でんげきポケモンのエレブー。我々ジムリーダー側が使用する、いわゆる
本来であれば3vs3のバトルで2匹目に出すレベルのポケモンではないが、あくまで暗黙の了解なだけで100%守る必要があるわけではない。どんなポケモン、どんな戦い方、どんな教え方をするかの大部分はジムリーダー側に決める権利があるからだ。
黄色と黒の体色を持つエレブーを見たウィンは無言でボールを放り投げると、中からガスじょうポケモンのゴースが姿を現した。
ズバット――ゴルバット、ゴース、そしてカメール。事前にトレーナーの情報は下調べが済んでおり、新たに手に入れたであろうゴースも含めて持っている手持ちはこの三匹のみなのだろう。
ジムバッジを複数所持しているトレーナーというのは星の数ほど存在しているが、ポケモントレーナーを管理しポケモンジムを運営している団体によって、ポケモントレーナーの情報は(ジムバッジを持っている者に限るが)知ることができる。
もちろん一般トレーナーがそういった情報を知ることは不可能で、それこそジムリーダーでも無ければ情報を知ることは出来ないだろう。私はそういった情報も欠かさず確認し、カントー地方の目ぼしいトレーナーはマークをしている。
前例に無いスピードでジムを攻略していくトレーナー、そんな存在が目につかないはずもない。だからこそ私は彼の事を知っていた。
「『じばく』で道連れにしたこと、あまり気にしていないようですネ? 怒らないトレーナーというのは珍しいデス」
「……勝つための行動だと思えば、別に。それに他のジムでも似たような経験があるので」
似たような事、『じばく』の使用ができるポケモンを扱っているジムともなればニビジムのジムリーダー、タケシだろうか。
彼とはタイプ相性からそりが合わない事もあり、あまり話した事はないが、それでもそういった行動はまず取ることがないような、いわタイプのエキスパートらしいお堅い性格だったのを記憶している。ともすれば、何かしら彼の琴線に触れるようなことがあったのだろう。
『じばく』、『状態異常』、『みちづれ』や『ほろびのうた』。こういった戦法を嫌うトレーナーは少なくない。簡単に言ってしまえば卑怯な戦法。ポケモンバトルをエンターテインメントとして捉えているトレーナーや観客ほどこういった考えを持っていることが多い。
しかし
「――ユーの考え、ミーはとてもライクですヨー!」
「……そうですか」
語り掛けても一蹴されるだけ。共感は不要だと考えているのかもしれない。
「さぁ、バトルを再開シマショー! ユーがどれだけストロングでも、ミーには勝てませんヨ!」
「ゴース、行け」
「エレブー! 『でんげきは』で迎え撃つのデス!」
私のエレブーが放つ『でんげきは』が一直線にゴースへと向かって飛んでいく。
物理的な攻撃を一切通さないような不定形のポケモンであったとしても、ノーマルタイプを除く『とくしゅ』に分類されるような『わざ』のほとんどは命中する。
何故それらの『わざ』だけが命中するのかについての正確な理由は判明していないが、一説ではゴーストタイプに分類させるような不定形ポケモンであっても大抵何かしらの姿を保っている。ということはその姿を一定に保たせるための”核”のようなものが存在していて、『とくしゅ』わざはその”核”も含めて攻撃しているのではないか、ということだった。
さて実際のところ分からないが、事実として存在しているのは『とくしゅ』わざであればゴースの実体を捉えることが出来るということだけ。
『でんげきは』がゴースに当たる直前、ゴースのガスじょうの身体が大きく膨れ上がり、弾け、満ちるように空間に溶け込んでいく。ゴースのガスによって視界は一気に悪くなり、冷えた空気が周囲に立ち込める。
ガスは瞬く間に広がっていき、ついにはスタジアムを覆い隠すほどまでになった。
エレブーが放った『でんげきは』は途中までゴースに向かって飛んで行ったが、ゴースの身体が大きく広がり、本体の核を見失ったことで、電撃による攻撃は虚しくガスで満ちた空気を切り裂くことしかできない。
エレブーが『でんげきは』を撃つ先を見失い、困ったようにこちらをチラリと見る。ゴースは文字通りガスになってスタジアムを包み込んでしまったため、攻撃を当てようにも本体が消えているので見つかるわけもない。
霧のようになったガスによって視界が遮られ、相手の姿が辛うじてシルエットのように見えるだけになり、エレブーの様子も把握し辛いこの状況は恐ろしくマズい。
ポケモンの機微を感じ取って戦うことが優秀なトレーナーにとしては重要だが、エレブーの状況が分からないということはそれだけで非常に大きな隙となる。エレブーが攻めたいのか、引きたいのか、どの技をどのタイミングで打つべきなのか。多くの思考が波のように押し寄せてくる。
そんな私の思考を許さないと言わんばかりに、ウィンが攻勢に打って出た。
「ゴース、『ナイトヘッド』だ」
「エレブー 『ほうでん』!」
日頃のトレーニングの賜物だろう。ゴースの攻撃よりも早く、エレブーは『ほうでん』によって周囲を無差別に攻撃する。ゴースにヒットさえすれば一撃で倒すことが出来るであろうというほど高威力な電気技だが、近くにいないのか、それとも奇跡的に当たっていないのか、ゴースの反応は全く無い。
攻撃が来ない。ゴースも自身のガスの中とはいえ『ほうでん』を食らうのは嫌なのだろう。エレブーも延々と電撃を出し続けていられるわけではない。電気切れを狙っているのか。
ウィンは『ナイトヘッド』の指示を出したきりで、追加で何か指示を出している様子はない。『ほうでん』が収まった後に攻撃をするように追加で命令を出してもおかしくない状況だが、シルエットに見えるウィンの姿は何かを気にしているでもなく、落ち着いた様子でただ立っているだけだ。
育成、トレーニングの中で既にこういった状況の対応策を教えているのか? それともゴースを信頼して特に命令を出していないのか?
疑問は尽きないが、先に『ほうでん』による電撃が途切れた。
「エレブー! 『じゅうでん』を……っ!?」
その時、空気がぐにゃりと曲がったように見えた。
薄紫色のガスが立ち込めるなか、突如として紫色の両腕が現れた。幻覚か実体か、そんな考えを嘲笑うように紫の腕がエレブーの肩と首元を掴み上げる。
決して軽くはないエレブーの身体がゆっくりと持ち上がる。私にも見えている腕は幻覚ではなく実体なのか?
エレブーは両足をバタつかせ、動かせる片腕で首元を掴み上げている死人のような色をした腕を掴もうとするが、霞を掴もうとするように透けてしまい触れることは叶わなかった。
「エ“、エレ“ッ……!」
「エレブー!
突如として現れた紫の腕に首元を思い切り掴まれたエレブーだったが、指示通り『かみなりパンチ』を自身の首元を掴む腕に向かって振るう。紫色の腕は『かみなりパンチ』によってぐしゃりとへし曲がり、それから溶けるように消えていく。それに合わせて肩を掴んでいた腕を消え去った。
拘束が解けてその場に落ちたエレブーはほんのりと恐怖の感情を抱きつつも、フラフラと立ち上がった。
「今のは本当に『ナイトヘッド』……!?」
本来の『ナイトヘッド』とは幻覚を見せて精神ダメージを相手に与える技だが、今の技は幻を見せるだけではなく実体を伴っていた。
どういう仕組みかは不明だが唯一分かったことと言えば、ゴーストタイプの力をここまで引き出すことが出来るウィンという少年は、ゴーストタイプを扱う
「アンビリバボー……。ここまでゴーストタイプのポテンシャルを引き出せるトレーナーはミーもそう多くは知りマセン」
ポケモンが持つ実力以上のパワーを引き出す才能を持つトレーナーというのは実際の所少なくない。
日常をでんきタイプのポケモンと過ごす私が、でんきタイプのポケモンを直観的に上手く扱えるように、常日頃からドラゴンと共に生きる者たちがドラゴンタイプのポケモンの力を引き出せるように、
ガスで覆われたスタジアムの中、ゴースの顔が浮かび上がってくる。一体なぜ姿を現したのか。邪悪な笑みを浮かべるゴースと肉体的にも精神的にもダメージを負ってしまっているエレブー。ほんの一瞬でここまで差が広がるのは予想していなかった。
しかし臆してはいなかった。いや、むしろワクワクしている。こうしてジムリーダーをやっていて強く思う。ポケモンバトルは、最後まで分からないからこそ、やる価値があるのだと。
エレブーも私も未だ戦意は衰えていない。