知識も無いのにポケモン世界にチート転生したが何も面白くない   作:Imymemy

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フシギダネ

「フシギダネ、『はっぱカッター』!」

「ヒトデマン、『こうそくスピン』で攻撃を避けなさい」

 

 フシギダネが背中に背負った(つぼみ)の影から、三発の『はっぱカッター』が放たれ、弧を描きながらヒトデマンへと向かって飛んでいく。当たれば『ひんし』は免れないだろう攻撃ではあったが、ヒトデマンは冷静に、自身の主人の命令通り自身の身体を高速で回転させつつ、その場から跳ねるように飛び退いた。

 

「そのまま『スピードスター』を撃ち続けて牽制よ!」

 

 攻撃を避けられて距離を取られたフシギダネが困ったようにレッドの方に目線をやると、レッドは頷きと共に即座に次の指示を出す。

 

「フシギダネ、『せいちょう』だ!」

 

 ハナダジムのリーダーであり、みずタイプの使い手でもあるカスミは、『せいちょう』――いわゆる『変化技』を指示した挑戦者の様子を見て、また一つ評価を上げた。

 

(ここで『せいちょう』を使う判断。決め手に欠けるこちら側としてはやりにくいったらないけど――)

 

 ヒトデマンが『こうそくスピン』によって身体を回転させつつ、雨あられのように『スピードスター』を撃ってくる中、耐えるという選択肢を取ったフシギダネは、『スピードスター』による攻撃を受けつつも『せいちょう』によって自身の身体を一回り大きく成長させた。

 

「ヒトデマンの『スピードスター』……じゃ、もう『はっぱカッター』は相殺できないか――なら、ヒトデマン! 『こうそくスピン』でフシギダネに近づくのよ!」

「っ! フシギダネ、『つるのムチ』!」

 

 ヒトデマンの動きが突如変わる。くるくると旋回するように空を飛んでいたヒトデマンは、放たれた矢の如く、フシギダネに向かって直線的に飛んでいく。

 

 『こうそくスピン』の勢いに乗ったヒトデマンの動きは、先ほど『はっぱカッター』を避けた時よりも更に素早い。フシギダネは虚を突かれる形でヒトデマンの『こうそくスピン』を正面から受けて、ぐらりと身体をよろめかせる。

 

「ポケモン自身の判断が遅れたわね、まだまだトレーニング不足の証ね。『あやしいひかり』!」

 

 よろめきつつも『つるのムチ』を撃とうとフシギダネがヒトデマンの姿を捉えた瞬間、ヒトデマンの中心のコアが妖しく光り、フシギダネの思考を散らす。

 

「……っ!!」

「ヒトデマン、『サイケこうせん』でトドメよ」

 

 ヒトデマンのコアから続けざまに『サイケこうせん』による光線が放たれ、混乱状態によって身動きが取れないフシギダネに吸い込まれていく。そして『サイケこうせん』は物理的な威力を伴って、フシギダネの身体を見事に後方に吹き飛ばした。

 

 数メートルほど後ろに吹き飛ばされたフシギダネは辛うじて立ち上がったが、両足はフラつき、もう満足に動くことはできないように見える。

 ひんし一歩手前といった状態ながら戦意を失わず立っているフシギダネの姿を見たカスミはふと、今の状況が先日のバトルと似ていることに気がついた。

 

 それからカスミは、ほんの少し挑戦者の判断を待つためポケモンに指示を出さなかった。これはあまりの大きな隙で、本来であればこのまま畳み掛けるというのがポケモンバトルの常ではあった。しかしこれはあくまでジム戦であり、公式的なポケモンバトルではない。

 

 こういったひんし間際の状態で、ポケモンを交換するか継戦するかを決める判断力も含めた、トレーナー自身を育成する(・・・・・・・・・・・・)というのもジムの目的の一つだった。

 

「レッド、フシギダネはもう限界! 交換するべきよ!」

「……アキ」

 

 挑戦者――赤い帽子を被った寡黙なトレーナー、レッドは、アキにチラリと視線を向けてから、しばし目を伏せた。対面に立っていたカスミから見ても、帽子によってレッドの表情が隠れて分からない。しかし判断をしかねているのは間違いなかった。

 

 レッドによるカスミとのジムリーダー戦は二対二のシングルバトル。現在場に出ているポケモンはお互い一匹目で、互いに控えのポケモンは万全の状態で残っている。

 

 ここでポケモンを交換するのは決して間違いではないが、正解でもない。先に二匹目のポケモンを出してしまうというのは情報的なアドバンテージを与えてしまうし、ポケモン交換の隙を狙われて攻撃を受けてしまう可能性だってある。

 

 しかしこのまま戦いを続けたとして、弱り切って動きの鈍くなったフシギダネが活躍する見込みは薄く、逆に足を引っ張ってしまう可能性もある。

 

 ひんし間際で動きが鈍くなっている隙を突かれてしまえば、フシギダネが行ったように『せいちょう』、ヒトデマンで挙げるとすれば『ちいさくなる』などの『変化技』を使用するための基点にされてしまう事だって考えられる。

 

 ポケモンバトルは生物同士のぶつかり合い。ポケモン自身も体力が減れば動きが遅くなり、疲労が溜まれば判断力も鈍る。デジタルゲームや、ボードゲームのように決められたルールなんてものは存在しないのだ。

 

 だからこそトレーナーはこういった際の判断力というものが求められる。トレーナーの指示は逆転の一手にもなるが、敗北の決め手にもなる。カスミはそのことを痛いほど理解しており、だからこそ新人トレーナーには特別このような選択を迫る。

 

 

「……フシギダネ」

 

 レッド(挑戦者)はフシギダネに呼びかけた。

 

「ダ……ネッ!」

 ヒトデマンとカスミへ意識を向けつつ、ふらついたフシギダネは、それでもレッドと視線を合わせた。ほんの少しの間があって、それからレッドはふっと笑った。

 

「――いくよ、フシギダネ」

「な……レッド!?」

 

 アキは驚いた様子で後ろからレッドに呼びかけるが、レッドは首を横に振るだけで、取り付く島もない。それを見ていたカスミはレッドからフシギダネに視線を移した。

 

「それがアンタの判断……ってことね」

「はい」

 

 ならばと、カスミは深い笑みを浮かべる。

 

「ヒトデマン! 『こうそくスピン』でフィニッシュよ!」

 

 ヒトデマンは飛び上がり、回転によって更に一段回加速を行いながら空中を飛び回る。ここまで加速したヒトデマンに対して、フシギダネが空中に向かって撃ち込める技はもう当たらない。

 

 回転を伴ったヒトデマンはまるで流れ星のように流れる線を描きながらフシギダネの頭上に降ってくる。それをレッドとフシギダネは、ジッと見つめていた。

 

「――『タネばくだん』」

「ダネ!」

 

 ヒトデマンの『こうそくスピン』が衝突する瞬間、『せいちょう』によって大きく膨れていたフシギダネの蕾が爆発した。爆発音と共に蕾の先端から凄まじい勢いでタネが撃ち出され、向かってきていたヒトデマンにぶつかるともう一度爆発音が響いた。

 

 撃墜されたヒトデマンはフシギダネに当たることなく吹き飛ばされて、水の中にどぼんと落ちていく。それを見たカスミは目を閉じて、首を振った。

 

「逆転――2度目ね。『しんりょく』を伴った威力と速度を見誤ってたわ。お疲れ、ヒトデマン」

 

 カスミがヒトデマンをボールに戻している最中、レッドも限界を迎えつつあるフシギダネをボールに戻した。まだやれると意気込み、ボールに抵抗するフシギダネであったが、抵抗虚しくボールの中へと帰っていく。

 

 お互いボールにポケモンを戻したためフィールドは空になり、また仕切り直しとなる。

 

「これで1対1。ねぇ、チャレンジャー? 実はハナダジムってね、ジムバッジが3つ未満の――ルーキーの突破率が一番低いジムなのよ。なんでだと思う?」

 

 レッドは視線を上に向けて少し考えてから、首を横に振る。分からなかったらしい。その様子を見たカスミは悪戯な笑顔を浮かべると、手に持っていたボールを軽く降った。

 

「わからない? なら教えてあげる。それはこの子が奥の手だからよ! 行きなさい、スターミー!」

 

 カスミはその言葉と共にボールの開閉スイッチを押して空へと投げる。ボールから発せられる青い光を伴って、中から最後の一匹が顔を出す。

 

「ピカチュウ!」

 レッドの声に応じて、ボールの中からでは無く、常にレッドの傍にいたピカチュウが勢いよく飛び出して――。

 

「『でんこうせっか』から『スパーク』!」

「『リフレクター』よ」

 

 電撃を身に纏い、高速で駆け抜けてくるピカチュウを『ひかりのかべ』で受け止めたスターミーのコアが朱く光る。

 

「さて、2戦目を始めましょうか」

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