知識も無いのにポケモン世界にチート転生したが何も面白くない 作:Imymemy
強い。ジムリーダーであるマチスと戦って、素直に出た感想がそれだった。
ガスじょうポケモンであるゴースがフィールドをガスで覆い、その不定形な身体を駆使してエレブーを狙うがどうも当たらない。マチスの指示によって深追いはせず、エレブーを直接狙う攻撃に対するカウンターだけを狙っている。
やっていることは単純で、『ナイトヘッド』による幻覚で目くらまししつつ、幻覚の陰から『したでなめる』や『しっぺがえし』で直接体力を削っていくという、タネが分かると何てことのない戦い方だが、知らなければ幻が攻撃してきたとでも思うだろう。
ゴースがガスに紛れて『したでなめる』を撃ち込もうと近寄るが、エレブーは『じゅうでん』によって蓄えた電撃を用いた攻撃によって近寄る隙を少しも与えてくれない。負けはしないが勝てもしない、そんな微妙な状況は過去に一度陥ったことがある。
これはポケモンの地力の差によるものだ。
俺が神様にお願いをして、神様が俺に搭載した『ポケモンバトルの才能』という
ポケモンを視界に入れると、体力がどれくらい残っているのか、どんな技を持っていそうなのかが分かること。
トレーナーの方へ視線を向ければどの技を指示しようとしているのか、そういったものが何となく分かること。
バトル中は
最初はあまりに曖昧な俺の願いごとを全て叶えようとした結果こうなってしまったのではないかと思っていた。しかし何だか違う気もする。
そんな疑問が尽きないチートにも欠点があるのが分かった。1つ目は俺の操作が完璧ではないこと。2つ目はチートがポケモンに出す指示は必ず勝ちに導いてくれるものではないということ。そして最も重要な3つ目は、ポケモンバトルをしている間、俺自身の体力がガリガリと削られていること。
1つ目に関しては、チートが判断しきれないような状況が差し迫った時、問題解決に人力の判断が必要な時はオート操作がマニュアル操作に切り替わる。それとオート操作といっても最低限の融通は利く。例えばバトル中、ポケモンへの指示を出すときに、声――つまり命令を出さないという選択肢も(一応は)ある。喉が痛いときでも構わずチートは指示を出そうとするので、その部分での抵抗が利く。
そして2つ目は、今この状況そのものだった。
マチスのエレブーは明らかにこちらのゴースより格上だ。一回り以上離れたレベルのエレブーが放つ技の威力は一撃でも貰ってしまえば『ひんし』に至るのはチートの有無関係なく見て分かった。
「どうしまシタ? アタックしてこないのデスカ?」
ゴースが攻撃を止めて少し引き下がる。どれだけ有利な環境を作っても一撃喰らえば逆転してしまう状況なのは理解していて、ゴース自身だけでは勝てないのがわかっているからこそ、時間を稼いで次に俺が出す指示を待っているのだろう。
ゴースの攻撃は決め手に欠けており、倒すには攻撃を積み重ねるしかない。マチスもそれを分かっていて挑発しているのだ。
「来ないならコッチから行くヨ! エレブー、『でんげきは』!」
エレブーの頭部に付いた両角の中心から、『じゅうでん』によって集められた電撃が不安定な軌跡を描いて放たれる。ゴースは『でんげきは』を受けまいと、フィールドに充満したガスに紛れて避けつつ、『ナイトヘッド』による反撃を行う。
「地面に『かみなりパンチ』を打ちナサイ!」
その命令を受けたエレブーは電撃を纏った拳を地面に叩きつけ、その風圧で自身の周囲を覆っていたガスを吹き飛ばす。ガスがはけた場所ではゴースは本体を晒すしか無く、ガスと『ナイトヘッド』に紛れての奇襲が不可能となった。
『ナイトヘッド』によるダメージは微々たるもので、『しっぺがえし』や『したでなめる』といった攻撃で削ったエレブーの体力は6割程度と見える。
使える技の中で比較的威力の高い『しっぺがえし』で残りの体力を削り切るには2,3度は当てなければならないことを踏まえると、良い状況ではなかった。
「ゴース、『あやしいひかり』」
再び『でんげきは』を放とうとしていたエレブーに、ゴースはガスの中から『あやしいひかり』を発する。
「……っ! エレブー! 目を閉じて『でんげきは』を撃ちナサイ!」
「避けず、そのまま『しっぺがえし』」
先ほどからずっと使用していた『でんげきは』は一度たりとも直線的な軌道で飛んでくることは無かった。おそらく回避しようとすると当たるように撃っている。だからこそ今回は回避をしなかった。
ゴースの中から黒い影のような実体が、無数の触手のように伸びてエレブーに向かっていく。本来であれば避けずに向かってきた相手に対するカウンターを用意していたのだろうが、今回は目を瞑ってしまっているため迎撃のチャンスを逃している。
影のような触手がエレブーにクリーンヒットし、エレブーは耐えきれず大きくよろめいた。しかし、倒れずに『しっぺがえし』を受け止めたエレブーは、目を開いてゴースを捉えると、バチバチと帯電していた拳を振りかぶった。
「
隙を見せたのはどちらだったかと言わんばかりのカウンター、エレブーに『かみなりパンチ』を指示したマチスは攻撃命令を言い切る前に、己の判断が間違っていたことを理解したのだろう。驚愕に目を見開いてこちらを見た。
マチスが叫ぶのと同時に撃ち込まれたエレブーの拳が空を切り裂き、隙だらけになったエレブーの身体に『しっぺがえし』が叩き込まれる。
維持していた均衡を一気に崩したゴースの『しっぺがえし』は、瞬く間にエレブーの体力を根こそぎ奪い取り、黄色と黒の身体を場外へと弾き飛ばし、戦いの勝敗を決定づけた。
エレブーをボールに戻したマチスは悔しそうに首を振ると、一言呟いた。
「『うらみ』、ですか」
長期戦の中で幾度となく使用された『かみなりパンチ』、最後にガスを散らすために使用したタイミングに『うらみ』を使い、一時的に『かみなりパンチ』を打てない状態へと持っていくことで技を空打ちさせることに成功した。
電撃を纏わないパンチはノーマルタイプの技同様、ゴースの実体を捉えることはできない。別の技を撃つのが正解だったが、『でんげきは』から『かみなりパンチ』に移行する流れが非常にスムーズだったところを見ると、予め決められていた動きをしていたのだろう。
俺が小さく頷くとマチスは納得したようだった。最後のポケモンが入ったボールを取り出すと、ニヤリと笑みを浮かべる。
「こいつでラスト。しかし、まだまだこれからが本当のスタート、ネ!」
マチスはボールを上に向かって投げつける。野球選手のように真っ直ぐ飛んでいったボールが天井にぶつかると、中から最後のポケモンが姿を表した。
「ライ!」
オレンジ色の体毛を持つ大きなネズミのようなポケモン、ライチュウが既に準備万端の状態で上から降ってくる。ライチュウの頬にある電気袋に蓄えられた電気はバチバチと音を立て、放出のタイミングを今か今かと待っていた。
「ライチュウ! 『10まんボルト』!」
空中で出てくることによって、ボールから出るタイミングの隙を無くすと同時に、ガスの範囲外である空から攻撃をすることが可能となる。
空中で太陽のように光り輝いているライチュウは、溜め込んでいた電気をフィールドに向けて放つ。
「ラァ――イ!」
『かみなり』と錯覚するほどの轟音を立てながら、ライチュウの放った『10まんボルト』はガスを消し飛ばしながらフィールドを駆け巡る。
ゴースが必死に『10まんボルト』を避けているが、マチスの狙いはゴースではなくガスそのものなのだろう。フィールド全体を覆っていたガスの殆どはあっという間に吹き飛ばされて、ゴースの有利な環境が無くなってしまった。
ガス掃除を終えたライチュウが地面に着地すると、逃げ場が無くなり慌てた様子のゴースと対面する。ライチュウが一歩、また一歩と強気に前へ進むと、ゴースはジリジリと後退をしていく。
「……フゥ。厄介なガスはこれで掃除が完了しまシタ。あとは本体のゴースだけ、逃げ場はないヨ! もう一度『10まんボルト』!」
「ゴース、左に回避しろ」
レベルの高いライチュウが放つ電撃を避けるのは現実的ではないが、とりあえず安全な位置へと回避指示を出す。ライチュウの放つ『10まんボルト』がのたうち回る蛇のように動いて地面を叩き、ゴースの傍の地面を抉りとばす。
「ゴース、『さいみんじゅつ』」
「っ! ライチュウ、
電撃を途中で止めたライチュウは後ろに飛び退き、ゴースの『さいみんじゅつ』による光線を危なげなく回避する。マチスはそれを見て、額に浮かべた汗を拭うふりをした。
「やはり覚えてましたカ」
「……えぇ、最初から」
「やりづらいですネ……!」
マチスはそう言って、笑みを浮かべる。なぜ笑っているのか、その理由を気にする前に、思考が次のポケモンへの指示へと切り替わっていくのを、俺は冷めた気持ちで感じていた。