知識も無いのにポケモン世界にチート転生したが何も面白くない 作:Imymemy
ガス状の気体と化して逃げ回るゴースの背後ギリギリを電撃が通過していく。
両手の指で数え切れない数の攻防を経て、ゴースはライチュウの電撃を完全に捌くことに成功していた。
「――『ナイトヘッド』」
「下がれ、ライチュウ!」
ライチュウを飲み込まんとガスが波のように押し寄せフィールドを侵食していく。それを間一髪で避けたライチュウは、引く間際に『でんきショック』でこちらの行動を牽制してくる。
未だ
「フゥー。幻覚を見せる『ナイトヘッド』をガスに混ぜるなんて戦い方、初めて見たヨ。ガスじょうポケモンのゴースならではの技だネ!」
「……バレないかと思ってました」
「ミーはジムリーダー! 色々なトレーナー、タクティクスを見てきたから分かるんだヨ! ライチュウ! 地面に向かって『かみなりパンチ』!」
「ライッ!」
ライチュウがくるりとその場で回転し、勢いに任せて帯電した小さな拳を地面へ叩きつけると、足元を覆い尽くそうとしていたガスを四方へ吹き飛ばした。
「何度も同じ手は貰わないヨ」
「――ゴース、『さいみんじゅつ』」
「それもさっき見たネ! ライチュウ、避けなさい!」
ライチュウの動きは俊敏で、ゴースの妖しく光る瞳から放たれた輪状の光線に触れること無く『さいみんじゅつ』の圏外まで退いていく。
こちらが攻撃を避けることが出来るように、相手がこちらの攻撃を避けることが出来るのは当たり前のことで、命中率の低い『さいみんじゅつ』なら尚の事だろう。
「『せいでんき』を嫌がって極端に接触技を避けてるのがわかる動きだネ。ミーのエレブーの特性が『やるき』なのを初見で見抜けたトレーナーなんて初めて見たヨー!」
「見たらわかりますよ」
「ユーのジョーク、中々ファニーね! ミーのライチュウに触れたくないならコッチから触りに行ってあげるヨ!」
――『でんこうせっか』。ライチュウは息を止める仕草をすると、先ほどまで嫌がって近づかなかったガスの中へと高速で駆け抜けていく。この動きを追うことは今のゴースでは不可能だ。
「ゴース、上へ飛んで距離を取れ」
「ライチュウ! 『こうそくいどう』からの『スパーク』!」
指示が同時に飛び交い、先に行動したのはゴースだった。近寄られまいと上空へと飛び上がったゴースを見て、ライチュウは『スパーク』の準備を終えると、更に加速して一気に距離を縮めてくる。
「『さいみんじゅつ』」
「気にせずゴー! ライチュウ!」
地面を覆っていたガスを突き破り、大量の電気を帯びたライチュウが打ち上げロケットのようにゴースへと突き刺さる。強烈な衝撃を一身に受けたゴースは甲高い声で叫びながら『さいみんじゅつ』を放つ。
「『たたりめ』だ」
「っ――ライチュウ!」
ゴースが吹き飛びつつも、ガス状の身体から影のような紫色の触腕を出してライチュウを射抜き、そのまま地面へと叩き返す。
『さいみんじゅつ』による『ねむり』効果によって意識を失いかけていたライチュウは、苦悶の表情を浮かべつつも、
「……カゴの実」
「
上空に逃げ延びたゴースは『スパーク』によるダメージを受けてフラついているが、『まひ』状態になること無く五体満足で生存している。捨て身の攻撃を行ったライチュウはダメージこそ与えるのに成功したが、状態異常下での『たたりめ』による反撃で非常に大きいダメージを受けている。
視界に映るゴースとライチュウの体力はどちらも黄色を指し示しているが、ライチュウの方がダメージを受けているのが見て取れた。
野生のポケモンや普通のトレーナーが相手であれば、このまま押し切って勝つことも可能だが、ジムリーダーという実力者が相手では簡単にはいかない。
マチスとライチュウ。どちらもまだ諦めた様子は無く、十分な戦意を維持している。ジムリーダーという役職がそうさせるのか、経験によるものなのかは不明だが、ポケモンバトルを学んでいく中で分かったことは、完全に不利な状況であっても決して諦めないトレーナーやポケモンは珍しく、そういった相手は得てして強者だということだった。
あと一度か二度、そこそこの威力を持つ攻撃を命中させることができれば、ライチュウの体力は削りきれる。マチスの方もそれが分かっているからか、おいそれと攻めてくることはない。
マチスは流れる汗を拭うこともなく次の手を無数に考え続けているのが、俺の瞳には全てが映し出されている。かげぶんしん、こうそくいどう、でんこうせっか、でんじは、10まんボルト。何をするべきか、攻撃か、防御か、妨害か、回避か、どの手が最も良いかを必死に考え、指示したい技が次々と切り替わっていく。
これがあまり強くないトレーナーであれば、指示する技が切り替わることは無く、指示を出す技は固定されている。どれだけ考えていたとしても最初から出す技は何一つ変わらない。
相手の動きを待っている俺を見て、マチスは焦りを感じさせない落ち着いた声色で話しかけてくる。
「ユーの方が有利なこの状況で、何もしてこないのですか?」
「……そちらこそ、降参してはどうですか」
「サレンダー? ハハハ! ノー ノー。ミーのライチュウ、まだまだ諦めてないヨ! ポケモンが諦めてないのにトレーナーが先に諦めたら駄目ネー!」
そう言うとマチスはライチュウに視線を移し、ニヤリと笑った。
「これで準備ができたネ。ライチュウ、『10まんボルト』!」
「ゴース、避けろ」
指示を待っていたと言わんばかりに互いのポケモンが素早く動き出す。ライチュウの『10まんボルト』がゴースへ向かって放たれるが、回避の準備を既に済ませていたゴースは難なく回避する――はずだったが、予定していた以上に『10まんボルト』の速度が速い。
『10まんボルト』による電撃は明らかに先ほどよりも速くゴースに向かって飛んでいく。それを辛うじて回避したゴースは攻撃に対する牽制として『さいみんじゅつ』を放つ。
「ライチュウ、避けろ!」
「ゴース、そのまま『さいみんじゅつ』だけ撃って回避に専念しろ」
ライチュウは『さいみんじゅつ』の光線を避けると即座に『でんきショック』による攻撃へと切り替えてくる。電気を溜め込んで準備をしていたのだろう、あまりにも攻撃への反転がスムーズに行われている。
『でんきショック』に当たることなく回避を行い続けるゴースに対して、ライチュウは攻撃の姿勢を決して崩さず、それどころかより熾烈なものへと変化していく。先ほど撃たれた『10まんボルト』の威力が上がっていることから、ライチュウが『わるだくみ』でもしていたのだろう。
「――『こうそくいどう』!」
何度も技を撃つが、ガス状のゴースが回避に専念してしまうと中々命中しない。痺れを切らしたマチスは『こうそくいどう』を積むことで対抗しようと考えたのだろうか。
先ほどエレブー戦で見せた『うらみ』による技のガス欠を警戒しているのだろう。これ以上の消耗はまずいと早期決着を狙っているのは火を見るより明らかだった。
「ライチュウ、『スパーク』したままゴースへ一気に近づけ!」
電撃を帯びたライチュウがガスを切り裂いてフィールドを駆け出す。『スパーク』は少なくともあと2回当てなければ倒せないことを理解しているであろうマチスが取る手段は、『わるだくみ』を積んだ状態による『10まんボルト』、『でんきショック』、大穴で『エレキボール』の三択。それ以外は『さいみんじゅつ』か『あやしいひかり』のカウンターが来る可能性を考えると、
であれば遠距離からでは命中しづらい『さいみんじゅつ』や『あやしいひかり』を撃つより、攻撃で妨害していくべきだ。
「ゴース、『たたりめ』」
「くると思ったヨ! ライチュウ、『スパーク』」
止まる事無くフィールドを高速で駆け抜けるライチュウは攻撃の射程距離に入ると、速度を保ったままゴースへ向かって、弾丸のように飛び込んでくる。流石に『こうそくいどう』をしたライチュウの『スパーク』を避ける術はない。
ゴースは『スパーク』を纏ったライチュウに衝突されて、声にならない悲鳴を上げる。しかしその状態でも放った『たたりめ』はライチュウの身体を的確に貫く。しかし状態異常下ではない『たたりめ』は威力に欠けているため、一撃で倒し切ることは不可能。
「ライチュウ、このまま『スパーク』で押し切りますヨー!」
『スパーク』でゴースを倒しきった後は『わるだくみ』を積んだ電気技で後続と戦う気なのだろう。こちらの最後はカメールであることを考えると、マチスが俺の3匹目のポケモンを知っているかどうかはともかく、タイプ相性で勝てる可能性は十分にあると考えるだろう。
だが3匹目は来ない。
「――『シャドーボール』」
レベルは足りていた。後は来るタイミングを待つだけ。
『スパーク』によって体力を削り切られようとした瞬間、ライチュウの放つ『スパーク』の光に混じってゴースが光り出す。
偶然ではなく必然だが、見るものが見れば奇跡と呼ぶだろうそれは――本日2度目、進化の光だった。
「What's the……!!」
驚愕の表情に染まったマチスが何か言おうと口を開く前に、この戦いは決着することとなる。
ゴースがゴーストへ進化することによって、削りきれるはずだった体力に若干のスペースが生まれる。
『スパーク』を受けつつ、ゴーストは新たに手に入れた虚空に浮かぶ両手の中に『シャドーボール』を生み出すと、間髪入れず至近距離でライチュウに撃ち込んだ。
「ラ“ッ……!」
「ノー! ライチュウ!」
ライチュウは空中へ弾き飛ばされるとそのまま地面へと落下していく。『たたりめ』こそ耐えたライチュウだったが、『シャドーボール』を耐える体力は既に無かった。