知識も無いのにポケモン世界にチート転生したが何も面白くない 作:Imymemy
「ありがとう、ウィン君」
「いえ、こちらこそありがとうございます」
俺とサカキは最後に握手をしてポケモンバトルを終了させた。と言うのも授業時間いっぱいまで千日手の状態でスピアーとサイドンの戦いが続いてしまったためだ。
ゾウ対アリならぬ恐竜vs蜂、スピアーは奇跡的に攻撃を避け続けてサイドンへとチクチク攻撃を撃ち込んでいたが、ダメージがあるのかないのか分からないままの戦いが続いた。
スピアーもポケモン、つまり生物? なので、疲れが出てきてしまっていて、スピアーの体力が無くなって躱せなくなるか、サイドンの体力を削り切るかのどちらかだったが、最終的に時間切れで決着がつかなかったことでサカキは消化不良だったようだが、時間は時間と言うことで一旦止めにしてもらった。
「バトル中にも言ったが、久しぶりにワクワクさせられたよ。なるほど、スクールの先生方が君に手も足も出ないというのは全くデタラメではなかったということだね」
「恐縮です……」
「難しい言葉を知っているね、本を良く読んでいるからかな?」
「あー……えっと、なんで知っているんですか?」
「さて、何故だろうね」
そう言って笑みを浮かべた目の前の男、サカキというジムリーダーはどうにも食えない人のようで、ただ質問しただけではのらりくらりと躱されてしまう。ポケモンバトルをするより、どこかの組織で纏め役でもやっていそうな腹芸の上手い人物だった。
握手を終えたサカキは、いつの間にか隣にいたアキに目線を向けると、先ほどよりいくばくか優しい表情で口を開いた。
「アキ君、試合終了後に軽く話したが、君には素晴らしいポケモンバトルの才能がある。君の父も素晴らしいトレーナーだ。彼からよく見て、よく聞いて、よく学びなさい。君の実力はまだまだ伸びていく」
「……それは、私の実力は、この人を……ウィン君を超えることができますか? 彼に、勝てるようになりますか?」
隣に本人がいる中でこの人に勝てるかどうかとか聞くべきじゃないのでは、と思う部分もあるが、こうやって他人と実力なんかを比較してくれる人がいる機会はそう多くないのかもしれない。俺は何も言わずに黙って聞くことにした。
「……アキ君、君がそうやって尋ねるという事は、彼の存在を、まるで越えることのできない高い壁のように感じているんだろう」
「……はい」
「そしてそれは私に聞くまでもなく、私以上に君自身が理解しているんじゃないか? 自分では勝てないと」
「……」
「……人は、一人で何かを成し得ることはできない。たった一人で高い壁を越えることや、大きな夢を叶えることは困難だ。しかし君は一人ではない、君にはポケモンがいるだろう」
アキはヤドンの入ったボールをギュッと握りしめ、俯いていた顔を上げた。
「君とポケモン、二つの力を合わせれば、高い壁も越えることが出来るかもしれない」
「はい……! ありがとうございます! 私、頑張ります! ポケモンと一緒に!」
頷いたサカキは改めて俺の方を見る。
「ウィン君、君の方は少し退屈しているようだね」
「あ、いえ、別に……」
「今の話じゃなくて、ポケモンバトルについてだよ。いや……ポケモンにも、そこまで興味が無いのかもしれない」
サカキの言葉を聞いていたアキは、俺の方をジッと見つめている。
「別に答える必要はない。ただ、君の才能をこのまま埋もれさせてしまうのは、一人の大人としても、ジムリーダーとしても、惜しいと感じてしまう」
「ありがとうございます」
「どうだろうか、君は先ほど座学の時に旅に出る気はなさそうだったが、見識を広めるために旅に出てみるというのは?」
「あー……」
興味が無いと言えばウソになる。せっかく第二の人生を送ることになったのだから、色々な場所に行ってみるというのは決して悪いことではないのかもしれない。
「君のスピアー一匹にしてやられた私が言うのも何だが、世の中には強いトレーナーは星の数ほどいる。旅を続けていれば、君自身を満足させるようなトレーナーに出会うことが出来るかもしれない」
「そうかも、しれないですね」
俺の反応を見て満足したのだろう、サカキはスーツの内側の胸ポケットから上品な名刺入れを取りだすと、名刺入れの中に入っていた名刺を1枚手に取った。
「ウィン君、君がこのカントー地方のバッジを7つ集めて、再びトキワジムであいまみえた時、その時に君とまた改めて話をしたい」
「――名刺ありがとうございます。ジムに挑戦するか分からないですが、もし機会があれば是非」
「あぁ、楽しみに待っているよ」
そうして授業も終えて、アキと俺との話も終えたサカキはスーツを軽く直した後にスクールから去っていった。サカキ――というよりジムリーダーは、ジムリーダー業自体が忙しいのもあるが、大抵は別に仕事を持っていたりで非常に多忙らしい。
今回のトレーナーズスクール訪問も急遽決めたことと言うことで、ジムリーダーが次回も来てくれる保証は無いようなので、もしかしたら次トレーナーズスクールに来るのはジムトレーナーの方かもしれない。
「……ウィン君」
「うん?」
アキは俺を呼び留めると、少し言いにくそうにモジモジとしていたが、覚悟を決めたようで俺自身の目をハッキリと見ながら話を始めた。
「私はウィン君に……嫉妬していたんだと思う。私はうんと小さいころから色んな人に褒められて、才能があるって言われて、トレーナーズスクールに通うってなった時も一番を取り続けるんだって心のどこかで思ってた」
「でもスクールの最初のバトルで貴方に負けて、それからずっと、ずっと、ずっと負け続けて、夢にまでウィン君が出るようになって。そんな強い人の筈なのに何てことの無い態度で毎日過ごして、それで旅に出ないなんて言い出して、悔しかった」
トレーナーズスクールでは一般常識などを含めた通常の授業に加えて、毎日のようにポケモンバトルが行われている。確かにアキとは当たる回数が多く、その都度勝っていた記憶があるが、2度目以降は泣くことは無かったので勝手に大丈夫かと思っていたけれど、割と精神的にやられていたのかもしれない。
「だから今日、サカキさんに倒してもらうって意地悪を考えたけど……負けたのは、また私だった」
「アキちゃん……その――」
「いいの、さっき教えてもらったから」
「私は、私と仲間のポケモンたちで貴方に勝つ。ポケモンバトルをつまらない、楽しくないなんて言わせないように、必ず勝つから。それまでポケモンバトルをやめないで!」
そんな言葉に今世で初めて心が動かされた気がした。
ポケモンバトルは相変わらず楽しくはないし、ポケモンにそこまで興味を持てないけれど、一人の人間が発した一言は案外心に響くものだった。
それから一言二言と交わして、エキシビションで使用したモンスターボール1つをボールを管理する台に戻した。
「……みんな教室に戻ってるよ。アキちゃん、帰ろうか」
「……うん」
多くの言葉を交わしたわけではないが、以前より仲が良くなることができたんじゃないだろうか。
10歳になって、ようやくというか、もうというか、ポケモンを所持する資格を取得できることになった。ついでにトレーナーズスクールも卒業なので、さてこれからどうしようかと考えることが増えてきた。
「ウィン、君にトレーナーズスクール卒業証書を与える」
「ありがとうございます」
「申し訳ないね、まともに君の相手になってやることが出来なくて」
トレーナーズスクールの校長先生は最近少し白髪の増えた髪の毛を掻きながら、申し訳ないと謝ってくる。しかし感謝をすることはあっても恨むことは無いだろう。
「大丈夫ですよ、それよりも毎日ギリギリまで図書室を使用していて申し訳ありませんでした」
「はは、それこそ気にしなくていい。君がそれで少しでも楽になるのなら、何も言わないよ」
「……ありがとうございます」
幾つか卒業後の資料を手渡しながら校長先生は話をつづける。
「これからウィン君はどうするんだい? ……孤児ということだったが、一応成人したということで孤児院の扶養からは外れてしまうだろ?」
「それも大丈夫です。旅をするお金は一応頂いているので、それを少しずつ使ってカントー地方を巡ってみようと思います」
10歳で成人して旅をしている途中、お金が無くなったりした場合はどうするのか、というのは割と手段が豊富だった。住み込みで働きながら旅の資金を集めたり、何かしら手に職をつけてお金を稼ぎながら旅をしたり、旅先で開催されている大会などで成績を残して賞金を手に入れたり。
手段を選ばなければお金を集めるのは全く不可能というわけでもない。色々なところで現代とルールや常識が違うのが功を奏したという感じか。
「なるほど、君ほどのポケモンを使いこなす実力があれば食っていくには困らない……か」
校長先生は一通り資料を渡し終えると、最後にとモンスターボールを5つくれた。卒業祝いということだったが、実はモンスターボールは結構高いので、無料で貰えるのは嬉しい。
「それと、君がスクールで
「あ、俺も同じで大丈夫です。スピアーは要りません」
「な……良いのかい?」
「はい。別にスピアーじゃなくても旅は出来るので、スクールで使ってください」
「いやいや、違う。君は入学してから4年間スピアーしか使用していないと聞いている、愛着とか愛情とか――」
「別にないです」
適当に言って初心者トレーナー向けのポケモン3匹の内、1匹が入ったボールを引っ掴んでスクールから出てきた俺は、入り口の前で待ち構えていたアキと遭遇する。
「ウィンく――ウィン。終わったんだね」
「うん」
「私は明日から旅に出て、ニビシティに向かっていくけど。ウィ、ウィンはもう今日から?」
「そのつもりだよ」
それを聞いたアキは「ちょっと待って」と言うと、スクールに通うときに使用していたバッグの中からメモ帳とペンを取りだして何かを書き始めた。
「……よし、これ。ポケギアの電話番号だから、旅の途中で手に入れたら登録して連絡して!」
「ポケ……なに?」
「ポケギアを知らないの!? ……ジョウト地方の方が多く出回っているから知らなくても無理はない……?」
「まぁ、覚えていたら登録するから」
色々言われながらもアキとも別れて、ニビシティ方面へのトキワシティの出口に到着した。
「ニビ、ハナダ、クチバ、タマムシ、セキチク、ヤマブキ、グレンか。遠い旅になりそうだ」
そう言ってサカキから貰った名刺には、トキワジム、ジムリーダーと書かれている。サカキにもう一度会うために、一旦旅の目標はジムバッジを揃えることとしよう。そうと決まれば、まずはニビシティ。石の男として有名なジムリーダーに会いに行こう。
こうして俺のカントー地方の旅が始まった。