夕陽が差し込む格納庫。
ここ1年は見ていないが、それでも忘れる事の無い、見慣れた景色。
そこに居る皆の表情が、また「あの日」の夢だと物語っている。
強い選手も居なければ重戦車すら無い、更に言えば練習時間も短い弱小チーム。
そんなチームと戦ってくれる数少ない相手との練習試合を終えたあとのミーティング。
いつもと何も変わらない筈だった。
「今回は残念だったけど、あと1歩まで追い詰められた。動きも良くなって来てるし、このまま練習を続けていればいつか絶対勝てるように──」
でも。
その日だけは違かった。
「いい加減にしてよ!」
「……え?」
「アンタの指揮が下手だから負けたんでしょうが!!アタシ達のせいにしないでもらえる!?」
反論を試みようとし……、口が止まる。
確かに自分達のチームは実力不足だ。
今回も、言ってしまえばたまたま相手の作戦がこちらの狙いに嵌まっただけであり、その実力には天と地ほどの差がある。
……だが、もしこのチームの指揮を執るのが彼女だったら?
もっとちゃんとした試合になっていただろう。
もしかしたらそのまま勝ってしまうのでは?なんて考えすら浮かぶほどだ。
自分はそこまで出来ない。
そう考えてしまったら、もう何も言い返せなかった。
2話 諦めた少女
「あの、鴻上さん?」
放課後。
1人読書に没頭できる貴重な時間なのだが、たまにそれが出来ない日もある。
例えばずっと教室で話している子がいたり、何かで使うために教室を空けなければならなかったり等々。
だが、まさか自分に話しかけてくる子がいるとは思わなかった。
「なんでしょうか?」
目を上げてみれば、そこに居たのはまさに自分とは住む世界が違う人物であった。
容姿端麗、頭脳明晰……かどうかは知らないが、お嬢様然とした彼女は、その活発さを含めて結構な人気者である。
そんな彼女がいったい何の用だろうか。
「戦車道やってたって本当?」
誰から聞いたんだ……?
少し考え、答えを返す。
「お断りします」
「なら私と一緒に戦車道を……、って嘘ぉ!?」
「素の性格出ちゃってるよ」
名前が同じだけの別人という可能性もあるのに、私が戦車道をやっていたという事は確実な情報として話を進めていた。
となると知り合いか。
友人は大体地元の高校に進学していたのだが。
それはともかく。
確か高校の戦車道大会の決勝はこの時期だったはず。
大方それに魅せられて戦車道をやってみたくなったのだろう。
「あんなのは二度と御免かな」
だが、その道は長く険しいものである。
目の前にいる彼女が飽きる事無くそれに立ち向かえるとは思えなかった。
「そっか……」
とはいえ、そんなに落ち込まれると罪悪感が凄いのだが。
彼女をここまで駆り立てるとは……、いったいどんな試合だったのか。
「見たのは決勝戦?それとも3位決定戦?」
「え?決勝だと思うけど」
「わかった」
少し興味が湧いてしまった。
鞄からノートPCを取り出し、スマホ経由でネットに繋ぐ。
確か大会の中継映像は、戦車道連盟のホームページのそれなりに深い所から見れた筈である。
「ん、あった」
結構な間見ていなかったし、場所が変わっていたりそもそも無かったらどうしようと思ったが、要らぬ心配だったようだ。
なんだったらページが増えてすらいなかった。
連盟はもう少し宣伝に力を入れるべきだと思うが、今は好都合。
すぐに目的のページに辿り着き、映像を──
「ん?」
「……どしたの?」
開こうとした所で手が止まる。
そこには試合の詳細が書かれているのだが……。
片方が黒森峰なのは予想どおりとして、その相手は……、大洗女子学園?
聞いた事の無い学校だ。
今までにも、大会に出て来なかった学校が快進撃を見せたことはあった。
だがそれも、ある程度の質の戦車を定数まで揃えた上での話である。
それなのにこの学園はなんだ……?
ポルシェティーガーやIV号はまだ良い。
他も一級品とは言えないがそれに通用する、といったレベルの戦車だ。
だが何だ八九式って。
千波単学園でも最近は九五式や九七式を使っていたと思うのだが?
しかも決勝以外にポルシェティーガーの名前は無いし、準決勝に到ってはその状態でプラウダと当たっていた。
良く勝てたな……。
昨年のプラウダの勝利は実力によるものではないという評価をされる事もある。
だが、たとえ運が回ってきたとしても、実力が無ければ勝利は掴み取れない。
それをたった6輌で破ったというのだ。
正直、この時点でかなりワクワクしている。
「まぁ、とりあえず見てみようかな」
試合を見れば快進撃の理由も自ずと分かるだろう。
「……なるほどね」
試合の映像が終わり、表彰式の映像に切り替わる。
大洗は動きがいいのは勿論、純粋に良いチームだった。
最初こそその機転そのものに驚かされたが、それが出来る人物に気付き、確信してからは、それに付いて行けるチームの結束の固さに驚かされた。
そして今、予想通りの人物が優勝旗を受け取っていた。
「ね?凄かったでしょ?」
「……これは確かに凄いかも」
「なら一緒に」
「なんでそうなるの」
……まぁ、火が点いたのは事実だが。
戦車道をやろうにも、1つ足りないものがある。
「そもそもメンバーが集まったとして──」
「戦車はどうするの?」
「あ」
考えていなかったらしい。
……まぁ確かに戦車が無くとも出来ることはある。
座学とか、その心構えを学んだりだとか、体力を付けたりだとか。
たが、やはり戦車道は戦車に乗ってこそである。
「……買えば良いんじゃ」
正 気 か こ の 子 。
「高いよ?」
「そうなの?幾らぐらい?」
「こんなのでも○○万ぐらいする」
「え?」
……まぁ普通は戦車の値段なんて知らないか。
試しにアンツィオのC.V.33の値段を教えてみたら見事に固まった。
「あと戦車は燃費悪いから燃料費も洒落にならないし、当然弾も高いよ」
「ひえぇ……」
その他にも定期的なパーツ交換やらなんやらの維持費や、試合をすれば修理にもお金がかかる。
淑女の嗜みと言うが、実際お嬢様でなければ個人でやるのは無理だ。
戦車道の競技人口が少ないのはこの辺りも影響しているのだろう。
「あれ?珍しい組み合わせだねぇ。なに話してるの?」
どうやら結構な時間が経っていたらしい。
うんうん頭を捻っているのを眺めていると、先生に声を掛けられた。
最終下校時刻である。
「戦車道をやりたくなった彼女が話しかけてきたのですが、戦車をどうするか考えていなかったみたいで……」
「あらら。まぁ戦車って思いの外高いからねぇ……」
連盟や国も補助金を出したり頑張ってはいるが、期待したほどの効果は得られていないらしい。
そんなことを考えていると、先生からとんでもない発言が飛び出した。
「どうする?うちので良ければ貸せるけど。ドライバー、燃料、整備他諸々込みで」
「へ?」
今何て言った?
うちので良ければ貸せる?
「戦車持ってたんですか?」
「うん。まぁ営業用に魔改造されたのが1輌だけだけど」
営業とはいったい。
それはともかく、断る理由が無くなってしまった。
「戦車確保できたよ?」
「……分かりました。3人居れば最低限の練習は可能でしょうし、お言葉に甘えさせていただきます」
「やった!早く行こ!」
「行くって何処に」
「……?戦車のところに決まってるでしょ?」
「もうそろそろ6時だから日を改めたほうが良いですよ」
「うえ!?もうそんな時間!?そしたら放課後に教室集合で!!また明日!!」
そう言うと彼女は鞄を掴み、廊下をダッシュしていった。
「私、先生なんだけどなぁ……」
そして先生が目に見えて落ち込んでいた。
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