何もペイントされていない戦車はここでは少数派だ。
当然注目を集める。
そして私は、車輌の周囲の安全を確認するためにキューポラから身を乗り出していた。
知り合いに見付かったとしても、それは当然だろう。
6話 Lack of ability
「やっぱりそうだ。元気だった?」
「えぇ、それなりには。秋名さんも?」
「もちろん」
富士演習場で出会った黒森峰の生徒。
彼女はかつてのチームメイトであり、自分が戦車道をやめた後、隊長としてチームを引っ張っていたらしい。
それだけであれば後輩とも言えるのだが……。
「それにしても、まさか戦車に乗った鴻上さんと会えるとは思わなかったな。私に全部押し付けてやめていったから、2度と戦車には関わらないつもりだとばかり」
……話してるこっちがハラハラする。
まぁこの子の場合、言葉の選び方が悪いだけで悪意はないし、気が付けば訂正──
「何よそれ!?喧嘩売っモゴ」
「ちょっ、ストップストップ!!」
──する前に優香が爆発してしまった。
真琴も抑えてくれているが、時既に遅し。
「いや、そんなつもりは無いんだけど……」
「大声出して、いったい何の騒ぎよ?」
あれだけ大声を出してしまっては誰でも見に来る。
自分が副隊長を務めるチームの戦車のそばとなれば尚更だろう。
「昔のチームメイトが居たので、少し話を。少し会話が食い違ってしまいましたが」
「少し?その割に相手は結構頭に来てるみたいだけど」
そこに現れたのは亜麻色の髪と碧い瞳を持つ少女──
逸見エリカその人だった。
いや、いずれにせよ此方の早とちりが原因だし、助けなくては。
「あー、大丈夫ですよ。言葉の選び方が悪くて余計な一言になっただけなので」
私がそう言うとエリカさんはこちらを見てから視線を戻し──
盛大にため息を吐いた。
「またなの?」
……もしかしてこの子は黒森峰でもちょくちょく勘違いされてるのか。
「何でこう思ったそばから口に出しちゃうかな」
「その、ごめんなさい」
「それで損するの秋名さんでしょうに」
良くこれであのメンバーを纏められたな。
宮路さん辺りが早々にぶちギレそうなものだが……。
「まぁ何にせよ、うちのメンバーが迷惑掛けたわね」
「いえいえ、馴れてますから」
「そう?なら良かった」
「ほら、あと10分で私達の番よ。早く準備しなさい」
「その事で少し話が」
「……何よ」
「彼女達は1輌しか居ないらしいので、私達と模擬戦などをしては如何かと思いまして。1輌だけでは出来る事も限られるでしょうし」
「相手の都合次第ね」
まぁ、好都合ではある。
黒森峰女学園と直接やり合える機会なんてそうそう無い。
だが。
「正直に言って、アンフェアだと思いますよ?」
「もちろんこっちから何輌かそっちに回すわよ?1対1も両方に相当な腕がないと試合にならないし」
「あ、いえ。うちの車輌はM18はM18でも、スーパーヘルキャット仕様の魔改造車ですからね……。パンターとは相性最悪かと」
「……あ、そっちなのね」
まぁ確かに多対一も普通ならフェアではないが。
ヒットエンドランを徹底すれば常に一方的に砲撃できるというのも大概である。
上手い隊長なら裏をかいたり後の先を取ったりで対応出来るだろうが、30キロ以上もの速度差を埋めるには相当な 早 さ が必要になる。
「それを覆せる相手なら例え1対1でも私達の負けでしょうし、覆せないなら1対1じゃ話になりません」
「まぁそうね……。指揮がこの子だとしたら何輌ぐらい耐える自信ある?」
エリカさんはそう言うと秋名さんを指し示す。
指名された秋名さんは面白いほどに動揺していた。
「私ですか!?」
「と言うか一緒にやっていたので……。ほぼ確実なのは2輌ですかね」
「鴻上さんまで!!」
……まぁこればかりは口を出す訳にも行くまい。
指揮が出来るだけの素質と実力があるのは確かだし。
「3輌はどう?」
「ここ1年間でどれだけ腕を上げたか、そして私の腕がどれだけ鈍ってるか。……まぁやってみない事には」
ここに居るのはパンター3輌にティーガーⅡ1輌だし、そういう意味でも丁度良いだろう。
下手なことを言って少し離れた所に待機している本隊に出てこられても困るし。
マウスとかたった1輌でどないせーと。
「そっちがそれで良いって言うなら最初はそれで。ただ、あまりにもバランスが悪いようなら私も出るわよ。弱い方に付く第3勢力って感じかしら」
「勝っても負けても嫌なんですけど」
負けるのはもちろん嫌だし、パンター部隊に勝ったとして報酬は正真正銘の重戦車、ティーガーⅡ(しかも黒森峰の副隊長指揮車)からの砲弾である。
正直な話どっちも面d……、気が重い。
まぁどうせなら楽しい方を選ぶだけの事なのだが。
「さぁて、どう出てくる?」
結局申し出を受け、戦闘を開始してから30分。
そこらに生えてた草で擬装も済ませ、接近してくるであろうパンターを索敵中である。
相手の開始地点からの距離を考えると、早ければそろそろ姿が見えて来る頃だ。
「……いや、見付けた。1時の方向」
まだ姿は見えないが、丘向こうに土煙が見えた。
飛ばしすぎなのか、それとも1輌では無いのか。
結構な大きさの土煙が上がっている。
少しすると、隊列を組む3輌のパンターが現れた。
流石は黒森峰、綺麗な隊列である。
……だが。
「これなら思う存分逃げ回れるな」
1輌でも別に動いていれば常にその位置を考えながら行動しなければならなかったが、3輌まとまって居るならその必要は無い。
逃げた先に敵が居ないと分かっているというのは、非常に楽なものである。
戦術的にも、心理的にも。
「それじゃあまず1発。先頭の1輌狙ってみようか」
「……え?この距離から?」
「うん。いつもこの距離撃って当ててるでしょ」
「それ動かない的相手なんだけど!?」
「相手の動きはそこまで速くないから予想しやすいし、何より的の10倍はデカイから平気平気」
無風とは言え、あのサイズの的に初弾から当てる腕を持ちながら何を言っているのか。
最近では学園艦から離れて牽かれる的に対する命中率も上がってきているし、砲手としては間違いなく一流だ。
そもそも、外したとしても何度も待ち伏せを繰り返す間に修正出来るだろうし。
「そんなもんかなぁ」
「そんなもんだって。……砲撃準備。目標、先頭のパンター」
「ふぅん……、砲撃準備完了。いつでもどうぞ」
「撃てッ」
指令を出してから気付いたが、この車輌では初の対戦車砲撃である。
轟音と共に放たれた一発目の砲弾は──
重力に導かれるがままに、パンターの左側面へと吸い込まれていった。
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