ガールズ&パンツァーイェーガー   作:Valid Bear

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第7話 Hellcat ☆

 戦車道の大会では低速の偵察機等が飛行し、審判や中継等に重要な役目を果たしている。

 だが、模擬戦の1戦1戦まで飛ばす訳にはいかず、そもそも急に決まったこの戦闘には手配が間に合わない。

 ではこのプロジェクターに映されている映像は何で撮られたものなのか。

 答えは簡単。

 黒森峰女学園の戦車道チームが所有する、空撮用のドローンによるものである。

 チームメイトが操縦するドローンからの映像を見ながら、エリカはかなりの衝撃を受けていた。

 最初こそ、元の車輌が高性能である以上、魔改造したとしてもそれほど化けはしないだろう、と考えていた。

 戦車道のレギュレーションで技術レベルが指定されているのだから、当然と言えば当然の考えである。

 だが、蓋を開けてみればまるで別物だった。

 機動力だけを見れば、現代戦車を含めたとしてもアレに敵う戦車は居ないのでは無かろうか。

 それに──

 

「初弾命中……!」

 

 1発目からしっかり当てる砲手の腕もだが、そこで欲張らずに場所を移した車長の判断も流石の一言である。

 残ったパンターが砲撃体勢に入る頃には既に稜線の向こうに隠れていた。

 1発でも当たれば終わるような装甲しか持たない以上、砲撃される機会を極限まで減らそうという訳だろう。

 パンター隊も射点に向かうが、そこに辿り着く僅か3分足らずの間に回り込まれている。

 足の速さを活かした行動を取るM18に対して、パンター隊は60キロにも満たない速度を完全に持て余しているように見えた。

 だが──

 

「ほう、どちらも中々やるじゃないか」

 

 隣にいる隊長の感想は、パンターを動かす彼女達をも認める物だった。

 

「どちらも、ですか?」

「あぁ。M18の動きは勿論、秋名の方も指揮をする際の勘所を良く押さえている。経験者であっても無茶な指示を僚車に出したりする事はあるからな」

「なるほど……」

 

 確かにパンターの動き自体にはある程度余裕が見てとれる。

 でも押されていますよね?という視線を感じ取ったのか、隊長は「……まぁ、作戦選択は少し間違えたかも知れないがな」と付け足した。

 今のパンター部隊の動きは後の先を制す動きであり、パンターとの相性は良い。

 だが、それはあくまで相手よりこちらの方が、走攻守のいずれかで優る場合に限った話だ。

 速度では大きな差があり、砲撃はどちらも当たれば貫けるが射程で劣る今回の戦闘に適しているとは言えない。

 M18の2度目の砲撃は運良く外れたが、このままではジリ貧。

 遠からず決着が付くだろう。

 

「ちょっと早めに出ますね。あまり遅いと相手を待たせる事になりそうですし」

「あぁ、その方が良いだろう」

「……何か言いたげですね、隊長?」

「なぁエリカ、本当に私は出たら駄目なのか?凄く楽しそうなのだが……」

「まだ言ってるんですか。まぁ、思ったよりも腕は確かなようですし、一応聞くだけ聞いてみますが……」

 

 

 答えは一言「ムリ」だった。

 隊長はヘコんだ。

 

7話 Hellcat


 

「ごめん、外した!!」

「大丈夫。弾が尽きるまでに当てれば良い」

 

 本当に弾が尽きるまで外されると、その後のティーガー戦で使える弾がトレーラーにある10発しか無くなり、結構気を使う事になるのだが。

 あくまで言葉のあやである。

 それにしても。

 

「何でこう、悪手ばっかり取ってくかなぁ……」

 

 互いの位置が分かっていない序盤ならまだしも、今の状況であんなに散開したら大体は各個撃破されるだけだろうに。

 最初であれば各個撃破されたとしても、相手の位置情報という点で多少優位に立てるが、既にある程度の位置が割れている現状ではほとんど意味がない。

 こちらの位置が分からなくなっているとは考え難いし、1輌が気を引いている間に背後を取るにしてはこちらとの距離が近すぎる。

 

「まぁこっちとしてはやりやすいんだけど」

 

 再び目の前に現れたパンターへ砲撃し……、今度はちゃんと仕留める。

 あと1輌もこの調子で仕留めてしまえばこちらの勝利なのだが……。

 

「──正直、物足りないよねぇ?」

 

 もしこの台詞を、去年突っ掛かってきた彼女が聞いていたなら「そういう所が隊長失格だって言ってんの!」と叫ばれていた事だろう。

 私とて、パンターに勝つにはヒットアンドアウェイを続けるのが正解だと言うのは重々理解している。

 

 ──だが、それではどちらも楽しくない。

 

 林に入ってからのパンターは速度がかなり下がっていて、最早普段の練習と変わらない。

 相手にとっても一方的に撃たれるというのは結構なストレスだろう。

 それに相手の動く気配が無い以上、こちらが待ち伏せしても我慢競べになるだけだ。

 そうなれば不利なのはこちらである。

 先程隊長の参戦は断らせて貰ったが、それを聞いてきたという事は恐らくだが、あと10分もすればティーガーⅡが加わると見て間違いないだろう。

 そうなれば対処が非常に難しくなってしまう。

 出来ればその前にパンターは片付けておきたい所だ。

 幸い、ある程度までであれば位置を絞り込む事は出来る。

 2輌目を撃破するまでに聞こえていた音と、最後に確認した位置、そして林の中でのパンターの速度。

 これらから推測出来る範囲内で待ち伏せに適した地形……、は無いから、適したように見える地形となると……。

 

「……ここ、かな?マップBのD2」

 

 1ヶ所、ある事はあった。

 確かに普通の戦車であればそのポイントの目の前を通る可能性は高いだろう。

 ──普通の戦車であれば。

 

「真琴?」

「どうした」

「ちょっと無茶頼みたいんだけど、良い?」

 

 だが、このM18の速力とガチガチに固めた足回りがあれば普通は行かないルートを通る事も出来るかもしれない。

 

「……性能的に可能ならやってやるさ。何がしたい?」

 

 聞いてみるとそんな頼もしい答えが帰ってきた。

 それなら試してもらおうかな。

 

「荷重を少し後ろに移しながら5メートルの崖から全速ジャンプ。行けそう?」

「水平じゃなくて良いなら簡単だが……、良いのか?着地後に隙が出来ると思うが」

「敵の注意は正面向いてるだろうから大丈夫だと思う。水平に飛ぶの失敗して鼻から地面に突っ込んだらマズイし。優香は砲塔後ろ回しといて。跳んだ後すぐ撃てるように」

「「分かった」」

「それじゃ、行こうか」

「ねぇ葵ちゃん私は?私は何か無いの?」

「……頭ぶつけないように気を付けてて」

 

 

 

「……来たみたいだな」

 

 坂の下でM18を待つ事5分。

 このフィールドに居るのは自分以外は2輌のみ。

 こちらに猛スピードで近付いてくる独特なエンジン音を聞き間違えようもない。

 この坂は崖を一部切り崩して昇降が出来るように作られており、左右は崖に挟まれている。

 また、崖は長く続いており、ここ以外から降りるには相当遠回りをしなくてはならない。

 ティーガーⅡが迫っている現状、M18は確実にここを降りてくると踏んでいたが、予想通りこちらに向かってきている。

 

「それにしても随分と飛ばしているな。音で丸分かりなんだが……」

 

 やはり1年のブランクは腕を維持するには長過ぎたのだろうか。

 以前なら気付かないうちに裏を取られたり、逆に音で誘い込まれたりが日常茶飯事だったのだが、今のM18の動きからはそんな気配は感じられなかった。

 かなり近付いている今もこちらにまっすぐ突き進んで……。

 

 ……待て。

 

 目の前の坂を下るなら、そろそろ真横から聴こえるのはおかしい距離なのではないか?

 

「……ッ!後退!!」

 

 だが、それよりも早く。

 何 か が木漏れ日を遮り、砲声と衝撃がパンターを襲う。

 少し遅れて側面から聞こえた砲声とは異なる轟音、その発生源に目を向けた少女は、思わず動きを止めた。

 

「……嘘だろおい」

 

 視線の先には若干バウンドしながら着地し、こちらに砲を向け続けるM18の姿があった。

 その砲身からは薄く煙がたなびいている。

 

「崖から飛んで空中で砲撃とか、それはもう戦車の動きじゃないだろ……」

 

 かつて共に戦った少女が駆るそれは、パンターに白旗が上がったのを確認すると、再び猛スピードで森の中を駆け抜けていった。




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