「……見つけた!少し右にアンテナが見えてる!」
「オーケー、こっちでも確認した。……3、2、1、今ッ!!」
車体が崖に飛び込む直前、急加速のGが身体を襲う。
その加速でM18の前方が持ち上げられ、そのまま空中に躍り出る。
視界がパンターで満たされ──
砲声が鳴り響いた。
8話 決着
「え?」
気のせいでなければ今、目の前でパンターに大穴が空いたような……。
着地後確認してみると、確かに白旗が揚がっていた。
……確かに『跳んだ後すぐ』って言ったけども。
まさか空中でぶっ放すとは。
まぁ撃破は出来たし、結果オーライである。
「優香、ナイスショット」
「真琴ちゃんが良い角度で跳んでくれたからね」
「まさか空中で撃つとは思わなかったけど」
「え?」
……いや、呆気に取られたのはこちらなのだが。
だが、まだ戦闘は終わっていない。
「真琴、足回りの様子は?」
「音、振動共に異常無し。まぁ大丈夫なんじゃないか?」
「やるねぇ。それじゃラスボス戦と洒落込もうか。多分もう出てきてる筈だから……、BF5経由のBE8で後ろ取れるかな」
今まで戦っていたパンターを見ていると忘れそうになるが、相手は高校戦車道の王者、黒森峰である。
その副隊長ともなれば今までのような簡単な手には引っ掛かってくれないだろう。
かと言って主砲戦距離での砲撃戦など論外である。
砲火力に差が無い以上、装甲の厚さが重要になってくるが、はっきり言ってM18の装甲は紙切れだ。
それに対し、ティーガーⅡの正面装甲は傾斜無しでも150mm、傾斜を含めると200mmを超える厚さを誇る。
設計思想を全否定する事にはなるが、はっきり言って中~長距離では話にならない。
もしかしたら本当に真正面を高所から撃てば貫ける事もあるかもしれないが、斜めを向かれたら最後、こちらの弾は一切通らなくなる。
……さすがに砲身に直撃させるなんて神業は期待するだけ無駄だろう。
大洗のⅣ号やプラウダのIS-2ならやりかねないが。
それはさておき、正面からの遠距離砲撃には意味がない。
ではどうするか。
1つが、距離を取って気付かれないように回り込む事。
だが──
「左回避!!」
「ッ!!」
あと少しで射点に着くというタイミングで、左で何かが動くのが見えた。
咄嗟に回避を指示し、車体が急減速しながら旋回する。
それとほぼ同時に、横合いから88ミリが撃ち込まれた。
ギリギリで回避が間に合い、砲塔のすぐ右を砲弾が貫いていく。
もし地面がもう少し滑りやすかったら直撃していただろう。
何はともあれ、砲撃が飛んできたという事は、こちらの動きは筒抜けだったという事である。
距離を取って再び回り込むのは……、恐らく無駄だろう。
こちらの想定を上回る索敵能力を見せられた以上、別の形で機動力を活かした方がM18にとっては有利である。
「懐に潜り込む!全速前進!」
……まぁ、指揮官としては不甲斐ない限りだが。
「今のを避ける、か。やってくれるじゃない」
今の一撃は、並の相手なら反応できないだろうタイミングで、照準も完璧な一撃だった。
だが、練習でも週に一度あるかないかのそれを放つ瞬間、M18の車長と目が合ったのを感じ……、結果、ギリギリで交わされてしまった。
あの短時間で、状況に適した行動を選び、回避まで成功させる。
仮にあのM18に搭乗したとしても、それが出来る車長が黒森峰にどれだけ居るのか。
ティーガーⅡの車内で、エリカは気合いを入れ直した。
相手は回避した勢いをそのままに、こちらに突っ込んで来ている。
足が遅いティーガーⅡでM18相手の格闘戦をするのなら、ただ集中するだけでは追い付かない。
相手の足を少しでも鈍らせておく必要がある。
「榴弾で足回りを狙いなさい!外れてもダメージは入るはずよ!!」
だが、その前に相手からお返しの砲弾が飛ばされてくる。
その弾は弾道が低く、直撃コースからは外れていた。
(外した?)
予想通り、砲撃はティーガーⅡを掠める事無く手前の地表に着弾する。
そして、地面が爆発した。
「ッ!?」
地中に潜り込んだ榴弾が爆発したのだろう。
乾燥した土が巻き上げられ、一時的に視界が遮られる。
「土煙を被ったぐらいじゃ壊れない!突っ切るわよ!」
砲撃で煙を散らす事も考えたが、今はそれほど意味がないと結論付ける。
仮に今この煙を散らせたところで、相手の次弾でまた視界が覆われるだけである。
それなら素直に移動して抜けた方が、駆引きの時間が短くなる分こちらにとってプラスになる。
エリカは自分に駆け引きの才は無いと考えていた。
もっとも、比較対象は強豪校の隊長クラスなのだが。
榴弾のままではこちらの装甲を貫く事が出来ない以上、仕掛けて来る時には徹甲弾を装填しているタイミングが必ず訪れる。
そのタイミングであれば、視界を取り戻す事も可能だろう。
徹甲弾ではあれほどの土煙を上げる事は出来ないし、榴弾に再装填するとも思えない。
そしてそれは──
「右!」
音の聴こえる角度が変わったこのタイミング以外にあり得ない。
足回りに負担をかける事になるが、ティーガーⅡに出せる限界ギリギリの急旋回をかけさせる。
煙を抜けた先には、至近距離でこちらの横を取ろうとしているM18の姿があった。
榴弾の土煙で目眩ましをしながら突っ込み、全速力で横を取りに行ったのだが。
待っていたのはこちらに旋回しつつある砲口だった。
「……ッ!?右旋回!!」
こちらの向かう先に照準が合わされているという事は、見えてから反応した訳ではなく、完全に読まれていたという事だろう。
この早さで副隊長とは、あの隊長はどれだけの早さを身に付けているのか。
懐に切り込む事で、相手の射線はなんとか避けるが、避けられたのは射線のみだった。
旋回時、戦車の重心は少なからず前方に移動し、後部のグリップが低下する。
機動力の高いM18ではそれが顕著であり、あまりにも高速で旋回しようとすると車体後部が外に振られてしまう。
真琴はそれを逆に利用し、高速域ではドリフトするようにM18を回していたのだが……。
榴弾で吹き飛ばした土が薄く積もっており、想定よりも外に滑ってしまう。
そして膨らんだ先には──
ティーガーⅡの巨体が待ち受けていた。
「……マズいッ!衝撃に備えて!!」
叫んだ直後、激しい衝撃が車内を襲う。
数十トン単位の物同士がほぼ最高速で激突したのだ。
更にはティーガーⅡとM18には実に3倍近い重量差がある。
いくらかは車体が回転して逃げたとはいえ、残ったエネルギーだけでもM18を吹き飛ばすほどであった。
弾き飛ばされたM18は、千切れた履帯や転輪を散乱させつつ回転しながらも、慣性に従い滑っていく。
そして正面にはティーガーⅡの横腹が見えていた。
飛びながらでもパンターを射抜いた砲手がその隙を見逃すはずもない。
「行け……ッ!」
静止するのを待たずに放たれた砲弾は、狙いを逸れてなおティーガーⅡの横腹に叩き込まれ──
M18とティーガーⅡの双方から白旗が揚がった。
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