寄生虫美女で蜘蛛の世界   作:坂本祐

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クリスマスに投稿できればええなぁ…(無理でした)
今年までには投稿できればええなぁ…(無理でした)
正月までには投稿できればええなぁ…(無理でした)
正月すぎたけど断腸の思いで話を分割して投稿するしかないな…(諦めの境地)



第13話:緑の悪魔③

 張り詰めた空気が居間に降り注ぐ。

 

 さて、動揺を誘い込もうと出会い頭にグリーン・ゴブリンの正体に気づいている旨を当人に告げたもののノーマンは驚いた様子も見せず、狂気的な笑みを浮かべたまま沈黙しており、得体の知れない不気味な雰囲気を醸し出していた。

 

 ポケットに仕舞い込んだスマホが熱を帯びていることを感じつつも、決して目線を逸らす事なくオズボーン氏を注視する。先日、談笑した時と同様に素人目に見ても仕立ての良いスーツに身を包んでおり、武装しているようには到底見えない。

 

 いや例え武装していないにしても油断はできないだろう、相手は幾度もスパイダーマンを欺いてきたヴィランなのだ。警戒したことに越したことはない。

 

 加えて、ノーマンは自分がグリーン・ゴブリンであることに否定はしなかった。ということは、やはり彼は幾度となくスパイダーマンを追い詰めた、宿敵グリーン・ゴブリンとなった、と見て間違いないだろう。

 

 現にこうして相対していると以前とは異なり、彼からはゾッとするほどの殺気が感じられる。向こうはこちらをいつでも制圧できると鷹を括っているらしく余裕の笑みは癪に触る。負けじとこちらも余裕の笑みを浮かべた。

 

「意外、驚かないのね」 

 

「ふっ、パレードの時から君は妙な視線を私に向けていた。最初は疑念だったが……」

 

「貴方には沢山聞きたいことがあるわ。でも、その前に……ハリーは一体どこにいるのかしら…?」

 

「ハリーならいま、寝室でぐっすりと眠っているところさ…」

 

 その言葉に嫌な響きがあり、思わず最悪の展開が脳裏に過ぎった。咄嗟にジャケットの裏ポケットに忍ばせていた小型拳銃を取り出すと、銃口をゴブリンへと突きつけて睥睨した。

 

「まさか、ハリーに危害を加えてないでしょうね…!」

 

 銃口を向けられてもなお、ゴブリンは狼狽した様子も見せず、ニヤリと不敵な笑みを浮かべるだけで攻撃を仕掛ける動作すらない。この程度の武器では恐るるに足らず、と言ったところか。ゴブリンとの距離は凡そ10メートル弱、この距離ならまず間違いなく身体のどこかには命中させる自信はあるが……それは最後の手段だろう。

 

「おいおい、愛する我が子にそんなことするわけないだろ…?」

 

「どうだか……貴方、信用ないのよ」

 

 心外だ、と言わんばかりに顔を歪めて首を振る姿に思わず本心がこぼれ落ちた。

 

 どのような経緯があってこの世界のノーマン・オズボーンがグリーン・ゴブリンへと変貌したかは定かではないが、もし薬物投与による副作用での変貌だとすれば、実子であるハリーにも同様の薬物を投与した可能性は大いにある。まだ、彼の目的が不透明なため断言できるわけではないが、もし、私の予想通りだとすれば考えうる限り最悪な事態だ。

 

「まるで俺を知っているかのような口ぶりだな」

 

「ええ、知ってるわ。誰よりも狡猾で残虐、そして目的の為なら他人の命すら簡単に踏み躙る……そうでしょ?」

 

 脳裏に過ぎるのは各スパイダーマン作品に登場するグリーン・ゴブリン。強力な武器を駆使しつつ狡猾な策を弄してスパイダーマンを相手取り、時には彼の大切の人をも手にかけてファンの度肝を抜くことさえあった。

 

 フィクションなら別に問題ない。だがこの世界に生まれ落ちた今、フィクションであった前世と違ってこの世界は現実世界であり、スパイダーマンの大切な人といえば私にとっても大切な人に代わりない。ならば、この恐るべきヴィランを見逃すわけにはいかない。

 

「ふっ、それで?俺の正体を知っているにもかかわらず、どうしてわざわざ単身で乗り込んだ?」

 

「確かめたかったからよ、貴方がグリーン・ゴブリンであると言うこと。そして、先日の事件で貴方が誰かに嵌められたんじゃないかって…まあ、その心配は杞憂だったみたいだけど…」

 

 これは本心である。私は依然としてグリーン・ゴブリンがノーマン・オズボーンであることを心のどこかで否定したかったのだ。もし、ノーマン・オズボーンがグリーン・ゴブリンになって悪逆の限りを尽くした果てに彼の正体が露見でもすれば、オズコープ社は倒産する危機が当然高まる。

 

 そうなれば、オズコープ社に勤務するカート・コナーズ博士を筆頭に、スパイダーマンに登場する科学者達が路頭を迷い、ドミノ倒しの如くヴィランに堕ちてしまう可能性は必然的だ。

 

 それを阻止する手っ取り早い方法は、ノーマン・オズボーンがグリーン・ゴブリンにならずに科学者達の研究に資金援助をしつつ、平和的な会社経営に勤しんでくることだった。まあ、その希望も今や水の泡と化したが。

 

「それで、貴方、これからどうするつもり…?グリーン・ゴブリンとしてオズコープ社の重役達を殺害したけど、あの壇上のスピーチを見た人たちからすれば貴方が犯人だって誰だって思うし、依然として貴方は行方不明のまま」

 

 

「警察だって馬鹿じゃないし、現に貴方は事件の容疑者としてマークされている。たとえ、このままずっと身を潜めればいつかは会社は貴方を見放す。姿を現せば最悪捕まる可能性だってある。そうなれば、当然、オズコープ社を手放さないといけない…あなた、本当は何がしたいの…?」

 

 再度、沈黙が降り注ぐ。私の問いかけにゴブリンは一切の感情を表に出さず、閉口してこちらを見ていたが、不意に口角を吊り上げて笑みをこぼした。まるで、私の言葉を心待ちにしていたかのような。そんな不気味な笑顔を。そして、ゆっくりと口を開き、

 

「ふっ、それは……」

 

 刹那、背中に鋭い痛みが走る。そして、耳元に風を切る音が微かに聞こえた。

 

「………えっ?」

 

 何が起きたか認識する前に、私はいつの間にかカーペットの上に倒れていた。どういうわけか身体が思うように動かず、何とか余力を振り絞ってゴブリンを見遣ると、彼の手には一本のナイフがあった。黒い蝙蝠を模した、血に濡れた一本のナイフが。ぽたぽたとカーペットに血が滴り落ち、得意げにナイフを揺れ動かしてこちらを嘲笑するかのような表情を浮かべるゴブリンを目の当たりして、一服盛られた事を悟った。おそらく、あのナイフの刃先に神経毒が練り込まれており、それが体内に侵入したことで今こうして指先一つ動かせない状況に陥ったのだろう。

 

 (くそ、やられた…ッ!警戒していたのに……!)

 

 そして、ゴブリンの体が一瞬ブレたかのように見えた直後、彼の身に纏っていた高級なビジネススーツから一変して先日のパーティー襲撃事件に見せたグリーン・ゴブリンを象徴する緑のスーツへと早変わりした。まるで、最初から着込んでいたかのような。

 

「よくできていただろう?我が社が開発したナノテクノロジーは……」

 

 ゴブリンは得意げに笑うと、表情を隠すように手を顔にやった。すると、緑のスーツが隆起してまるで生き物のように動き、瞬く間に彼の顔を覆い尽くす。そして、手をゆっくりと下ろし、緑の悪魔を思わせるマスクが現れた。

 

(最初からこちらを油断させるための罠だったというわけッ…!?)

 

「だが、まさかあいつの言うとおり、こうして一人でやってくるとは思いもしなかったぞ、まあそのおかげで楽に取引を果たせそうだが……」

 

 まずい、毒の影響で意識が朦朧としていて聞き取れない。だが、何か嫌な予感する。取り返しのつかない選択をしてしまったような…

 

 ゴブリンはうつ伏せに倒れ込んだ私の顔を心底愉快そうに覗き込み、ゆっくりと手を伸ばした。せめてもの抵抗に私は強烈に襲いかかる眠気に抗いながらも迫り来るゴブリンの手を払いのけようと試みるが指先一つすら動かなかった。

 

「さて、本当にあるんだろうな…ネオ・ミトコンドリアなんて言うイカれた細胞は……」

 

(くそ……もう意識が……)

 

 薄れゆく意識の中、私は不意に窓の外に人影を見た。

 

(あ………)

 

 赤と青の色を組み合わせ特徴的なスーツを身に纏う、憧れのその人を。そして、彼は立ち並ぶビル群に糸を貼り付けて大きくスイングしては青く澄み切った大空を猛スピードで滑空し、勢いそのままに屋敷の窓を蹴破った。破損したガラスの破片が居間の中に降り注ぎ、突如として大きな音が轟いたことでゴブリンは伸ばしていた手を引っ込め、勢いよく背後を振り返る。

 

「誰だッ…!?」

 

 次の瞬間、ゴブリンは横に吹っ飛んでいき、そのまま壁沿いに備え付けられていた大きな本棚に激突した。闖入者は窓を蹴破った勢いそのままにゴブリンの腹部に蹴りを入れて吹き飛ばしたのである。重厚な衝突音が今に轟き、次々と降ってくる分厚い本が雨霰のように降り注いだ。さしものゴブリンも突然の奇襲と痛みに幾許か呻き、暫し沈黙した様子で直ぐに立ちあがろうとする気配は見せない。

 

 ゴブリンを蹴り飛ばした当人は、蹴りを入れた直後に超人的な身体能力で反動を活かして宙返りをすることで勢いを殺してその場に着地してみせ、そして、私をゴブリンから庇うかのように間に降り立ったのである。

 

 絶体絶命の窮地に突如として現れた、トレードマークである蜘蛛のシンボルが刻まれた彼の背中は、いつにも増して輝いて見えた。それはどの映画や漫画やアニメ、果てはゲームに登場した主人公とは比べ物にもならない程に勇ましく恰好良く、沈みゆく意識の中でいつまでも見ていたいと眠気に抗いながら彼の背中を眺めた。

 

「彼女から離れろ!グリーン・ゴブリン!」

 

 凛とした声が今に響き渡り、高鳴る鼓動を感じながらもすでに限界を超えていた私の瞼は徐々に落ちていく。最後に何とか口を動かそうとするも、口先はピクリとも動かない。

 

 どうしても謝りたかった。浅はかな考えと身勝手な行動により招いたこれから起きるであろう戦闘、そして彼に命の危険を晒してしまう事実に陳謝できないこと、なにより助けに来てくれたことに感謝の言葉を言えないことを恥じながら心の内で何度も謝り続けた。

 

(ああ…ごめんなさい、身勝手だけど後はお願い……スパイダーマン……)

 

 そうして、私の意識は深く沈んだ。




本当はゴブリンの話は三話で完結予定でしたがキリがいいので次回でラスト予定
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