寄生虫美女で蜘蛛の世界 作:坂本祐
あと、ヴィラン人気ですがいちばん人気がヴェノム、次点がオクトパスで納得の順位でした。ヴェノムかっこいいですよね、僕も大好きです!
てなわけで、第九話どうぞ!
放課後、僕はすぐに身支度を済ませると人気のないビルの屋上で着替えてスパイダーマンとなり、ニューヨークの街中をスイングしていた。あちこちからクラクションの音や人の喧騒の音が聞こえてくるが、スパイダーセンスが感知されないことから犯罪が起きている様子はない。こうしてニューヨークの街中を隅から隅までスイングで移動してはパトロールしつつ、アヤを撃った犯人を探すのが日課となってから約ひと月が経とうとしていた。
警察も依然として犯人の特定には踏み切れていないらしい。このままだと本当に迷宮入りしてしまう。アヤは無事だったとはいえ、捜査が打ち切りとなって犯人が野放しのままは見過ごせないし、犯人がつぎの犯罪に走らないとは限らない。やはり、捕まえるべきだと思う。
「だけど、見つからないんだよなぁ……」
悲壮感溢れる独り言は風を切る音と共に掻き消える。移りゆく景色を眺めながらスイングで滑空移動していると、背筋に強烈な悪寒を感じた。スパイダーセンスが反応した!
「ん?スパイダーセンスが反応したぞ……あっちからだ!」
スパイダーセンスを頼りに現場に直行すると、そこには道路を爆走する一台の車とそれを追いかけるパトカーが目に入った。逃走車は時折窓からマシンガンを後続のパトカーに向けて撃っていることからもおそらく強盗犯なのかもしれない。
警察も負けずに応戦しているものの有効打が打てないのか一向に逃走者を捕まえれる気配はない。おそらく、応援を待って数で押し切るつもりなのだろう。今のところ被害は大したことなさそうだがこのまま見過ごせば必ず市民に危害が及ぶのは間違いない。
「まったく、こんな街中でデッドヒート繰り広げるんじゃないよ!スパイディ、いっきまーす!」
軽口を叩きながら急降下すると、そのままスイングを駆使して爆走する逃亡車のボンネットに着地した。
「さあ、スパイディ選手の得点は満点、満点、満点!文句なしの優勝です!なんてね……」
「おい、いまボンネットから凄え音しなかったか!?」
「んなことよりも、後ろのパトカーをやれ!」
ちらりと顔だけ出して車内の様子を覗き込む。中には今日中々お目にかかれないほどの典型的な犯罪者姿をした黒の目出し帽をした三人組がいた。一人は運転席で車を運転し、後の二人は後部座席でパトカーに発砲している。
すると、パトカーのタイヤに一発当たったらしく、目に見えてパトカーの速度が落ちてしまい、遂には操縦不能になったのか街灯に衝突して停止してしまった。満足げにクラッシュしたパトカーを見送った犯人は窓を閉める途中、ボンネットに張り付いている僕と目があった。あ、こっちに気づいた。
「やあ、ぼくたち。現実ではグラセフみたいな運転しちゃダメってママに教わらなかった?」
「スパイダーマンだ!殺せッ……!」
言うなや否や僕の直ぐ近くにいた犯人の一人が躊躇なく発砲してきた。スパイダーセンスを駆使して銃弾を回避するとそのままウェブを放ち、犯人が発砲していたマシンガン一丁を絡め取り後方に投げ捨てる。
「うわ、そんな危ないものは回収ですよ〜っと!」
「ちくしょう、マシンガン取られちまった!」
「ガラスの破片が降りかかるかもしれないけど、大人しくしてね〜!」
武器を失い動揺を隠せない犯人の襟首にウェブを放ち、僅かに空いていた窓をキックして破壊した。
パリンと割れる音ともにガラスの破片が犯人の頭に降りかかるが、強盗をしたのだその辺りは天罰だと思って我慢して欲しい。
そのまま、ウェブを引っ張って割れた窓から犯人を引っ張り出すと歩行者の道路に投げつける。このままだと大怪我しちゃうから忘れないように追い討ちの如くウェブを放ち、犯人は街灯に引っ付いた。これで一人確保。同じ作業をもう一度します。
「マイケルッ〜!てめぇ、よくも!」
「はいはい、様式美、様式美」
後部座席に座っていたもう一人の犯人が悲壮な声を上げたが、直ぐにこっちを殺さんと言わんばかりに睨み付けて銃口を向けた。それを先程と同じようにウェブで絡め取り、また同じように犯人を捕縛した。残るは一人。
「ちくしょう、トレバーッ!スパイダーマン 、テメェだけは許せねぇッ!」
運転する最後の犯人は後部座席にいた二人が最も容易く捕縛されたことに焦りを覚えたのか、アクセルを全開に踏み切り、ボンネットに陣取る僕を振り落とそうと蛇行運転を繰り返す。
ボンネットにしがみつきながら、この状況を打破しようと一先ず運転手を運転席から引き摺り出すことにした。ウェブを放ちボンネットから手を離して勢いよく運転席の窓を突き破り、滑り込むように車内に入るとそのまま思いっきり犯人に蹴りを入れた。
「ぐえっ……」
渾身の一撃を食らって犯人がかくっと昏睡したのを見届けると、そのまま反対側のドアを蹴破り、フロントガラスの上に華麗に着地する。あとは、この暴走する車を停めるだけ。だけど、気絶した犯人がハンドルをわずかに動かしていたせいか車は左に逸れて走っていた。
「うおぉぉっ!?これは流石に不味いかな!」
直後、スパイダーセンスが反応した。反応した方向に見遣ると、前方は行き止まりでちょうどその前には金髪の女の子が驚いた様子でこっちを見ていた。不味い、このままだと壁にぶつかるし、女の子を轢いてしまう。思考するよりも先に体が動いていた。
「あらよっと!」
フロントガラスから足を投げ出して舗装されたアスファルトに触れると、そのまま力一杯に踏ん張る。段々、車の速度が落ちていくがこの速度だとまだ女の子を轢いてしまう可能性があるので徐々に速度が遅くなるフロントガラスから降り、車の行く手を阻むように地面に降り立つと体を反転させて真正面から受け止める。そして、そのまま押し出すように力を込めた。筋肉から悲鳴の声が上がり始めるが、頑張れスパイディマッスル、まだバルクの限界値は超えてないぞ!
「ふんぬぬぬぬっ……!」
踏ん張ること数秒、限界値を超えるほどの力を発揮してようやく車が完全に停止した。間一髪のところだった。周囲からはことの次第を見守っていた市民たちからの拍手が聞こえる。流石に疲れたので一息吐き、そして、轢かれそうだった女の子の安否を確認しようと、口を開きながら後方を振り返った。
「やあ、無事だったかい?災、難だったね……」
其処には想い人のアヤが目を丸くして僕を見つめていた。たらり、と冷や汗が流れる。不味い、流石にいまの声でバレてしまうかもしれない。
彼女はかなり聡いのだ。それこそ、歴戦の刑事みたいに昔から嘘を見抜く力を持っており、だから、スパイダーマンの活動を始めてから少しだけ距離を置いていた時期だってあった。というか、なぜ彼女がここにいるのか。
ちらりと周囲を見渡せば、ここがミッドタウン高校の近くにあるスーパーの目の前であることに今更ながら気づいた。学校帰りに買い物にきたのだろう。それを偶然にも居合わせてしまったらしい。
一先ず、ここはバレていないことに祈るしかない。
予想外の邂逅に硬直しながらそう思考するが、アヤはスパイダーマンの声が友人であるピーター・パーカーと同じであることに気づかなかったのか、疑心のかけらもない真っ直ぐな瞳で僕に微笑んだ。
「ええ、ありがとう。スパイダーマン 、あなたのおかげで助かったわ」
良かった、バレなかったみたいだ。それならば好都合。今更声を変えるのは違和感を感じてしまうが、この際致し方ない。咳払いをして出来る限り威厳たっぷりな低い声を意識しながら口を開く。それこそ、悪戯好きなグウェンのように。
「いや、当然のことをしたまでだ。気にしないでくれ、それよりも怪我はないかい?」
「ええ、見ての通り大丈夫よ。貴方の方こそ大丈夫かしら?」
アヤは上機嫌な様子で何が面白いのか口元に手を当ててくすくすと笑みを溢しながら、確認するかのような僕の体を一瞥した。幸いにも僕の肉体に怪我はどこもない。スパイダーセンスのお陰で銃弾だって避けれるのだ、怪我をすることなどそうそうないし、それに怪我をしたとしても普通の人間の倍の速度で怪我が回復する。スパイダーマンになってから自然治癒能力が向上したのである。
「なに、慣れっこだからね。これくらい平気さ…」
「そう、それは何よりね。ところで、助けてくれたお礼に……」
「お礼…?別にいいさ、僕はお礼欲しさに人助けしているわけじゃないからね、それに……へっ?」
スーツ越しに微かだが頬に何か温かい感触がした。間抜けな声を漏らしてしまうが、無理もない。何をされたか一瞬理解できなかった。目の前の彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめながらも、口元に手を添えてはにかむ姿は妖艶無比で思わず見惚れてしまった。
「ふふふ、スパイディにキスしちゃった……どう?私のファーストキス、喜んでくれるかしら?」
彼女の言葉を理解して、ようやく自分の頬にキスされたことを自覚して、思わず僕の頭はショートする。情けないが、こんな不意打ち今までのどのパンチよりも僕の体と心にきた。ノックダウンだ。頬に手を当てたまま硬直する僕にアヤは眉を寄せて心配そうに顔を覗き込む。
「あれ?スパイダーマン…?おーい、スパイディ…?大丈夫かしら、急に黙り込んで。流石に無反応はちょっと傷つくのだけど…」
すると、遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえ、思考放棄していた脳が覚醒した。このまま突っ立っていれば最悪、警察にお縄になってしまう。
スパイダーマンの活動を一年続けているが、依然として警察とは折り合いが悪く顔を合わせるたびに僕を捕まえようとするのだ。治安維持活動をしているとはいえ、僕がやっていることは自警団紛いのマスクとスーツで正体を隠す怪しい人物。
その上、蜘蛛の糸をニューヨークの街中に貼り付ける所業も。まあ、数時間したら自然と消えるようになっているけどね。そんなことよりも、依然として心配そうに僕を見つめるアヤに一言残してここから立ち去ろう。
「君のファーストキス、嬉しかった!本当にありがとう!今度は暴走する車に気をつけるんだぞ!」
言いながら周辺にある街灯の上に飛び乗り、最後にアヤに手を振って周辺にある建物にウェブを放つと身を投げ出してその場から逃げるように立ち去る。風の切る音が心地よい。さっきまで火照っていた体が徐々に冷めていくのを感じながら、ニューヨークの街にあるビルにウェブを発射してスイングしてはまた同じ事を繰り返す。移りゆく景色をぼーっと眺めながら思わず先ほどの出来事を思い浮かべる。
まさか、彼女に鉢合わせるとは思いもよらなんだ。
それにしても……
「ファーストキス、だったんだ…」
あれだけ昔からモテてた彼女だ、噂もあったしそれこそ色々経験していると思ってたけどまさかファーストキスだったなんて。キスをされた頬に手を当てながら、噂は当てにならないと改めて実感した。
その日はいつもよりパトロールに身が入らず、数日ほど夢見心地な気分が続いたのは言うまでもない。
強盗犯の名前、マイケル・トレバー・フランクリン。
名前の由来は言うまでもない笑
あと、暴走する車を停めるシーンですがps4のゲーム版をイメージして書きました。あのアクションと映像本当好きなんですよね、車止めるシーンを見たくてストーリーそっちのけで街中徘徊してました笑
続編楽しみです。