ヘロヘロさん
ヒカねぇ
セバス・チャン
ユリ、ルプスレギナ、ソリュシャン
前書き:う、嘘はついてません。
連続した場面の転換に◇を使ってみました。
仕事を終えたマーレと遅れ馳せながら合流したアルベドに指輪が贈られてから、私達は一旦解散することとなった。
「お前たちもそろそろ寝た方がいいぞ」
モモンガさんの言葉を疲労無効、睡眠不要な彼らはどう受け取ったのだろうか。単なる言葉の綾として聞き流したか、それとも真面目に"命令"と受けとり布団を被ったのか。
何はともあれ部屋に戻ったはいいものの、昼寝のしすぎで眠れなかった私はナザリックの探索がてら散歩に乗り出して、同じく起きたばかりで時間を持て余していたヘロヘロさんと遭遇した。
この数日間のことを話題にしながら、無人の裁判所や稼働していないウォーターパークなざぶーん*1等を見て回った後、確実に起きているモモンガさんの部屋にこれ幸いと転がり込んだ。
部屋に碌に家具がなかったので、クラン時代に談話スペースで使われていた物を第九階層の倉庫から引っ張り出してきたのだが、これがなかなか、色々と懐かしいものが転がっていて大いに盛り上がった。
……が、部屋に戻っても三人で暇つぶしに使える物はトランプくらいしか無く、それも二時間が経つ頃には
結果八対五対五でモモンガさんの勝利で幕を閉じたトランプ大会。その後、モモンガさんはおもむろにイベントリから〈
ナザリックは名前通り地下にあるので自然光は届かない。そのせいで時間間隔を失いがちだ。以前なら視界内に時計が表示されていたのだが、今では時計を確認しないと正確な時刻は分からない。
メイド達は共通して創造主のシンボルが彫刻された懐中時計を持っているので*2、私は時間が気になるたびに彼女らに聞いていたが、モモンガさんは時計を持ち歩くようにしているらしい。それでふと、日の出を見てみようと思ったらしい。
「これも操作が分からない……」
「コンソールなくなって不便になりましたよね〜」
「何をするにもコンソール経由だったからね。便利な機能も集約されてたし」
「いや、でも〈遠隔視の鏡〉が使えないと結構困りそうなんですよね。欠点はありますけど、ノーコストで距離無制限ってのは唯一無二ですし……」
操作方法を模索し始めたモモンガさんに釣られるように、自然と私達も〈遠隔視の鏡〉を持ち寄った。
ユグドラシルでは使い所が限られた道具だったので部屋の倉庫を漁る羽目になったが、地平線の彼方から立ち昇って来た
空の向こうで太陽が昇り切ったのを見届けて、目的を達成した私達はそのまま何をするでもなく、お喋りを交えながらナザリック周辺を見て回っていた。
そうして、衛星写真よろしく上空から面白そうな物がないか探していると、ふとモモンガさんが「うん?」と声を漏らした。
◇ ◆ ◇
「これは祭り、か?」
「いえ、これは……」
「……虐殺」
耳に飛び込んで来た不穏な言葉に思わず手が止まる。そちらを見やれば、モモンガさんの肩越しにセバスが鏡を覗き込んでいた。
ヘロヘロさんとモモンガさんの背後に回り込んだ私の目に飛び込んできたのは、画面一杯に広がった飛び散る鮮血と背から剣を突き立てられる男性の姿。
あまりに強烈でグロデスクな映像に反射的に目を背ける。
「うっ……!」
「ファンタジー映画で見るような粗末な服に鎧と剣ですか」
「ナザリックが秘境にあるとかでなければ、あまり文明が発達していない世界なんでしょうか?」
「異世界転移系のエスエスにありがちだけど、そうかもしれませんね」
血の気が引いていく思いをしている私の隣で二人は平然と会話を続けていた。
「ち、ちょっと……二人とも何で平気そうなの……?」
人が殺される場面を直視したのだ。しかも無修正な上、至近距離からの映像だ。目を背けるまでの数秒しか見ていないが、背中から地面に縫い付けられた男性の体に向けて、何本もの剣が繰り返し振り下ろされていたのに……。
〈遠隔視の鏡〉は音こそ聞こえないが、軍人でも警官でもない私達にとっては刺激が強すぎる……見るに堪えない映像のはず。現に今、私は背骨に金属を差し込まれたかのような悪寒と吐き気に全身を掻き乱されていた。
それがどうだ、NPCだからそういうものだと納得出来なくもないセバスを除いて、モモンガさんもヘロヘロさんもアニメのワンシーンでも見ているみたいに落ち着いた様子で自分の考察を披露している。
今の今まで、彼らに何か変化が起きているようには感じていなかったけれど、二人とも間違いなく何かおかしい。
そんな私の指摘に二人は虚を突かれたように一瞬茫然として、激しい動揺を見せた。
「ッ……そうですよ、普通こんなの卒倒してもおかしくない!」
「マジで、ヒカねぇさんに言われるまで気が付かなかった。俺どうなってるの!?」
「私とヘロヘロさん、明らかに普通じゃありませんね。どうして、こんなに落ち着いていられるんだ……?」
この映像を見ても何の動揺もなかったし、今も見るとちょっと不愉快になるくらいだ。ホラー映像さえ苦手だったのに……と二人は狼狽える。
彼らの正常な困惑振りを見て、逆に私は少し落ち着きを取り戻していた。駆け寄ってきた一般メイドに汗を拭ってもらいながら、私は磨り減った古い記憶を辿っていた。
……そうだ。今更になって思い出したけれど、原作の序盤には襲われている村をモモンガさんが救い出すエピソードがあった。
名前はたしか、カルネ村。理由は思い出せないが、兵士が敵国の村を襲っていたのだったか。そこでモモンガさんが子供の姉妹を助けたことから、トントン拍子に偶然が噛み合い、「OVERLORD」の物語が進んでいくんだ。
最初の村、か。たしか……エンリというお姉さんが殺されそうになるんだ。しかし
つまり今こうしているうちにも、かつて私がモニターと文字の向こうに見た少女達が無残に殺されてしまうかもしれない。
「あぁ……くそ、知らなければ無視できたのに」
誰にも聞こえない声で呟く。知らなければ、私の与り知らない所で起きた悲劇の一つ、対岸の火事に過ぎなかったのに。
今まさに虐殺の目撃者となってしまった上、私がいない本来の流れではカルネ村は救われるということを思い出してしまったのなら、ここで見捨ててしまえば私の胸の奥に一生ものの暗い影を落とすことになるだろう。
加えて記憶が正しければ兵士と私達の間には大人と子供以上に力の差があるはずで。尻込みする必要はどこにもないはずなのだ。
……本当なら、今こうして悩んでいる時間すら惜しい状況のはずだ。
ちらりと横目で二人を窺うと、モモンガさんは完全に落ち着きを取り戻している様子だった。ヘロヘロさんも殆ど混乱を抜け出している。
……助けに行きましょう。
喉まで出かかった一言を口にする前に、側で控えていたセバスが私達に問いかけた。
「いかがなさいますか?」
「……」
「……」
無言だった。
どうすれば良いのかなんて私達が聞きたい。出鼻をくじかれてタイミングを逸した私は、場の重苦しい雰囲気に心の勢いが
「それは……助けに行くか、それとも見捨てるか、ということか?」
「全ては御方の
「そうか」
モモンガさんの視線が私に、次いでヘロヘロさん、セバスへと流れて止まる。数秒ほどセバスの顔を見つめてからモモンガさんは「これは、ただの我儘なんですけど」と沈黙を破った。
「助けに行きたいって、思ってます。確かに今もこの光景に動揺していないのは本当なんですけど、助けに行くべきだと思います。今のままじゃ
「わ、私も! ……助けに行きたいです。見つけちゃったなら、見なかった振りはしたくない、から」
「……俺は反対ですよ」
苦々しげな声でそう言い放ったのはヘロヘロさんだ。
いつもなら見るからに柔らかい粘体の体だが、今の彼は腕を組みながら静かに身を強張らせていた。
「もしあそこに行ったら、戦うことになるんですよ。それで負けたら死ぬんです。暴れまわっている奴らは揃いの鎧姿からしてプロの兵士、一方俺達は所詮ただのプレイヤー。この世界での強さの程度も分かってない。最悪、鎧袖一触で殺されるかもしれない」
流石にそこまではないと思うんだけど……。吐き気を抑えて観察した感じだと、兵士たちも常識外れな力を感じさせるような動きはしていない。もちろん、力をセーブしているという可能性はゼロではないけど、アバターの力をそのまま振るえる私達ならリスクだって極端に減らせるはずだ。
特にヘロヘロさんは種族的に物理攻撃に滅法強いから、兵士が見た目以上の力を発揮したとしても傷一つ負わないんじゃないか。
「俺の力が本当に変わってないのかさえ分からないのに」
……あ、ヘロヘロさんは起きたばっかりだから自分のスキルの確認とか出来てないのか。
モモンガさんと私で検証した結果から危険は殆どないと判断していることを伝えると、ヘロヘロさんは何度も繰り返し真偽を問い正しながらも「安全が確保できるのであれば」と不承不承に認めてくれた。
ここで説得が通じなければ「互いの意思を尊重する」という規範を維持する為にも、AOGの多数決ルールが持ち出されていたかもしれない。自分の身───ひいては"仲間の身の安全"という絶対的な優先事項を出されたら、仲間思いのモモンガさんが意見を
フル装備に加えて安全のために護衛のNPCを連れて行くことを条件に出されたが、元からそうしたいと考えていたからあって無いようなものだった。
「セバスはこのまま同行、アルベドは完全武装で合流させるとして、最低もう一人必要ですね」
「それならルプスレギナを呼びましょう。九階層にいるからすぐ来れるし、
「……でもそれだと敵に100レベル級がいた時、ルプスレギナが守りに付く一人が手薄になりますよね。護衛にプレアデスを呼ぶならもう二人は呼びませんか?」
「とすると……誰が良さそうかとか、ヒカねぇさん分かります?」
モモンガさんの質問に私は頭に手を当てながら、プレアデス達を創ったときの記憶を掘り返す。
追加の護衛一人目を考えるに当たって、まず一番低レベルで遠距離狙撃がメインのシズと使う蟲次第でステータスが変わるエントマは除外する。長姉のユリは格上にも戦える近接主体のアタッカーにしたせいで防御面は手薄だったはず。残るは
レベルはナーベラルが姉妹で一番高いが、それで能力面に然程差がつくわけでもない。強いて言うなら隠密系のソリュシャンの方が防御が薄そうな気がするけれど、かと言って魔法職のナーベラルが硬いかと言われると……。
「決めました───追加の一人目はソリュシャンにしましょう。プレアデスの中では硬い方でしたし、何より職業スキルで全ての
「……分かりました、私はそれで良いと思います。ヘロヘロさんはどうですか?」
「まぁ、俺はプレアデスのステは把握出来てないから何も言えないんだけど、ヒカねぇさんのことは信頼してますから、それで大丈夫です」
信頼を寄せられる嬉しさと同時に、その思いに応えられるのかというプレッシャーを感じながら、私は大急ぎで装備を探しに自分の部屋へ移動した。
その後、一分もかからず目当ての鉄拳武装を見つけ出したのだが、戻ってきた時には既にセバスを含めた三人の姿は無かった。ぽつん、と使用されたと思しき
マイ武器を預け、〈恐怖抵抗のポーション〉を一気飲み。いざ私も転移門に足を踏み入れようとしたその時、背後から扉が開かれる激しい音と共にユリ、ルプスレギナ、ソリュシャンの三人が駆け込んで来た。
「ヒカねぇ様、お待ち下さい!」
「ナイスタイミング! はい、ユリはそれ装備して!」
駆けてくるユリに向かって深い青色の鉄拳を投げ渡す。
「これは?」
「やまちゃんの古い装備。ノックバック効果に特化してるからいざという時は時間稼ぎをお願い。ソリュシャンには、防御と回復系の巻物! モモンガさん用の〈
「なっ……」
「ありがとうこざいます」
「私には何かないんすか〜?」
「ルプスレギナには何もない! 守りと回復で護衛の要、期待してるからね!」
「了解っす!」
「じゃあ……行くよ!!」
即座に各属性ポーションを投げられるように構えながら、私は転移門に踏み込んだ───目に飛び込んできたのは、何かを囲むように集まっている四人と、その中央で何者かに覆いかぶさる幼な子。
そして、その幼い少女の下で、胸に剣を突き立てられたまま、血の海に沈む栗毛色の髪の少女の姿だった。
to be continued...
カルネ村:三人がかりなのもあって、原作より早めに発見された。
モモンガさん:セバスの後ろに勇と義を持ち、そして誰よりも優しかった男を見た。心が強くなくては生きていけないかもしれないが、優しさを失ってしまえば人は生きていく資格を失うのだ。友達と一緒にいるのだから、彼らの友達である自分のままでいたかった。
ヘロヘロさん:惨い光景に怒りが湧かない訳じゃないけれど、誰かの為に自分の命を投げ出すような真似をしていては、
実際のヘロヘロさんはそんなごちゃごちゃ考えてはいないだろう。ただリスクと自分の良心を天秤に掛け、それが良心に傾いたのだ。
セバス:最初から話が見捨てる方向に傾かなかった、嬉しい。
ユリ達:緊急召集を受け全速力で駆けて来た。残りの三人は厳重警戒へ。一般メイドはモモンガ様付きのデクリメントを除いて、安全が確認されるまでは部屋から出ないこと! ユリは急に創造主の武装を渡され歓喜と衝撃にふっ飛びそうだった。
評価、感想お待ちしております。
先の話ですが、クレマンティーヌの扱いについてお聞きしたいです。
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殺され、死体は行方不明で終わり(原作√)
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死後、何故か蘇生して話に絡む(逃亡編√)
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何かしら主要キャラ枠になるメインキャラ√
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話に絡むが、本編の外で何かする番外編√