ナザリックのアトリエ! 〜プロローグ〜   作:水風浪漫

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置き謝罪:一部モモンガさんとヘロヘロさんの台詞の区別がつきにくいかもしれません。申し訳ありません。
登場人物:モモンガ、ヘロヘロ、ヒカねぇ
     戦闘メイド プレアデス
     アルベド
     セバス・チャン

修正:不死者のOh!を読んで、ヘロヘロさんの一人称を「私」→「俺」に変更しました。


蛇足/その後もしかしたらこうなってるかも……なイフ
1.NPC動き始める〜指示出し終わり


「……え、永遠であれー」

「……ううん〜?」

「……サーバーダウンの延期ですかね?」

 

 決め台詞を放った姿勢のままモモンガさんとヘロヘロさん、そして私の三人を待ち受けていたのは何とも言えない微妙な時間。

 たった今たしかにサービス終了の時を迎えたはずなのだが、強制的にログアウトされることもなく時間が経過する。唯一の大きな変化は視界のあちこちに広がっていたHPバーやMPバー、現在地を示すウィンドウ等が24:00を境に消えたことだ。

 ゲーム中常に視界の端にあった表示が消えたにも拘わらず、私たちの目の前には依然としてナザリック地下大墳墓が広がっている。その事実がかえってゲームに何かしらの不具合が起きたのだと私たちに───少なくとも私以外の二人には───告げているように感じたようで、モモンガさんはため息を吐きながら玉座に腰を下ろした。

 まさか本当に? と戸惑いつつも未だ半信半疑な私を他所にモモンガさんがやるせなさ気に呟いた。

 

「最後の最後にこれか」

「あっはっは、クソ運営ここにありって感じですねぇ」

「ここまで来て自分でログアウトはしたくないですし、強制ログアウトまで待ちましょうか」

「ログアウトボタンポチッじゃ風情がないですもんねー。あっ、コンソールは出せなくなってるみたいです。中途半端にシステムが落ちたのかな……? こうなるといつブツ切りされてもおかしくないですね」

「あぁ〜もう……折角良い感じに決まったと思ったのに、ほんっとここの運営は……!」

「ま、こういう終わり方もユグドラシルらしくて良いんじゃないですか?」

「ヘロヘロさんは寛大ですね〜。……でも、そうですね。たしかにコレはコレで“らしい”かもしれません」

「明日のネットニュースに期待ですよ! コメントでぼろくそに叩かれること間違いなしです」

「あっ、それはちょっと楽しみかも!」

 

 のんきな笑い声を響かせる二人を横目に、ばくばくと激しく脈打つ鼓動を感じながら、私は意識を隣に立つ黒髪のメイド───ユリ・アルファへ向ける。

 これが真にただの不具合なら、ユリはNPCのままであり、少しも身動ぎすることなく正面を向いてあいも変わらぬ微笑を浮かべているはず。けれどもし不具合でなく、私の知る「OVERLORD」の展開通り"異世界転移"の影響なのだとしたら……生き始める(・・・・・)彼らには変化が生じているはずだ。

 ユグドラシルが現実になるという期待半分、動く筈の無いものが動くかもしれない恐怖半分を胸に、ゆっくりと視線をユリの方へ動かすと───

 

「ぅ……くっ……うぅ……」

 

 そこには静かに体を震わせながら、崩れそうになる表情を取り繕おうと、酷く悲しげな笑みを顔に張り付けた一人の女がいた。

 ユリは、戦闘メイド"プレイアデス"七姉妹の長姉 ユリ・アルファは、耳を澄まさなければ聞き取れない程にまで噛み殺した嗚咽をあげながら、その切れ長の双眸から、ほろほろと途絶えることのない涙を零し続けている。

 

「ゆ…ユリ……?」

 

 上擦った声が喉から漏れる。

 

「も、申し訳、ありません。しっ、至高の御身の前で、こ、この、このような無様な姿をお見せしてしまいっ……」

「え、いや、えっと」

 

 私の呟きを聞き取ったユリの口から絞り出すように、蚊の鳴く様なか細い声が漏れ出た。彼女はこちらに向き直ると床に膝をついて頭を垂れる。止める間もなく、淀みの無い流水のような美しい所作で膝つきの姿勢───いわゆる絵画に描かれる“臣下の礼” を取った。

 

「えっと、えっとね」

 

 如何にその可能性を頭の片隅に置いておいたとはいえ、NPCが本当に動き、喋り始めたことに対する衝撃は想像を遥かに超えていた。

 

 今思えばこの時、即座にモモンガさん達と身を固めてNPC達と距離を取ることがこの事態に対して相応しい行動だった。けれど、逆にそんな振る舞いを見せていたら彼女達からの信頼を大きく損ねていた危険性もあったのだから、この後の私の行動は間違ってはいなかったのだと思う。

 

 まあ、当時の私の茹で上がった頭では「とにかく目の前で号泣しているこの子をどうにかしないと!」ということで手一杯になっていただけだったのだが。

 

「だ、大丈夫! よく分からないけどっ、と、とりあえず落ち着いて! ほら、涙も拭いて!」

「い、いけません! わ、私ごときの涙で御方の装備を(けが)すなど!」

「そんなのいいから!」

 

 顔を逸らして逃れるユリの頬をマントで無理やりに拭うと、血の気の引いた顔でいて目元だけ真っ赤に腫らした潤んだ瞳と目が合った。体を小刻みに震わせ嗚咽を漏らすその姿は演技やプログラムによる物と言うには余りに真に迫っており、空気を通して伝わってくる彼女の息遣いや動揺を思えば、嘘や欺瞞でないことは明らかだ。

 そして私は、至近距離で私を見つめる酷く不安げなユリの瞳の中に「桜色の髪を持つ少女」の姿を認めたことで、雷に撃たれた様な衝撃と共に立ち上がった。瞳の中の私もまた、アバターと呼ぶには現実的(リアル)すぎる動揺した表情(・・)を浮かべていたのだ。

 

「わ、私どうなってる!? も、モモンガさん! ヘロヘロさん!!」

 

 勢いよく振り返り二人の名を呼ぶと、ユリを見つめながら呆然とした様子で固まっていた二人が弾かれた様に私に視線を向けた。それと同時に骨が擦れる硬質な音と液体が跳ねる水音が耳に届く。

 

「え!? ど、どうって、いつもと変わらない可愛らしい姿ですけど」

「いやっ、口! 口が動いてる! 表情も!」

「あっ、たしかに!?」

「やっぱり!? 体の感覚もさっきから急にリアルになってて、肌も普通に柔らかいし、顔も普通に動くし……ってなんだこの肌!? スベスベすぎ!? 最高かよ!? うわっ、見て! 胸も硬くない!*1

「ちょわっ、その手()めて!? マジでBANされます!」

「何やってんですか!? そんなことしてる場合ですか!」

「でもでもモモンガさん! この赤ちゃんみたいなモチスベ肌は女性にとって夢みたいなもので……!」

「だとしても今じゃないでしょうに! ───ひょっ!? ……とりあえずそれは(あと)にしましょう」

「そうそう、モモンガさんの言う通り! ……モモンガさん?」

「今はまず、お二人とも冷静になりましょう」

 

 一瞬、モモンガさんが奇声をあげて硬直する。そして今までとは打って変わり、途端に落ち着き払っておもむろに腰を上げた。急な変化を訝しんだヘロヘロさんの問いかけにはカタリ、と顔を向けて微かに顔を鳴らすのみ。(後で確認したところによれば「愛想笑い」や「苦笑」的なものを見せていたつもりだったらしいが、骸骨顔で分かるはずもない。エモーション機能は偉大であった。)

 

 口に人差し指を当てて沈黙を求めるモモンガさんに従って、私とヘロヘロさんは未だ収まらない興奮と混乱をどうにか呑み込み、抑え込む。

 この場で唯一元気に騒ぎ立てていた私達の声がなくなると、それまで耳に届いていなかった音の存在に気がついた。ぐすぐす、ずびずば、擬音にすればこの様になるだろうか。つまりは先程のユリと同じく、涙混じりの嗚咽がそこかしこから聞こえていた。

 音の出所は未だ私達を挟む形で左右に並ぶプレアデス達だ。跪いた姿勢で涙は止まったものの、真っ赤な顔をして私達を見つめているユリ。堪えきれなくなったのか涙を溢れ出すままに任せ、声を引つらせて号泣しているルプスレギナ。言葉になっていない嗚咽を漏らしながらも、唇を噛み締めて涙を堪えているナーベラル。ヘロヘロさんをジッ……と見つめながら、拳を握り締めて体を震わせ、両目に一杯の涙を溜めているソリュシャン。うううぅぅと低い唸り声を上げ、ぼたぼたと仮面の下から床に大粒の涙を落としているエントマ。カタカタと体を小刻みに震わせて、眼帯のない右目から溢れる涙を流し続けているシズ。

 そして、多かれ少なかれ悲しみの感情を表に出している彼女達とは対照的に黒髪の美女、守護者統括NPCのアルベドと白髭の執事長 セバスの両名は一切表情と体勢を崩すことなく恭しく頭を下げたままでいる。ともすればこの二人だけは異常なく真にNPCのままでいるのではないか? と思えてきてしまう程だ。

 

 モモンガさんはそんな彼、彼女達を一瞥すると黄金の大杖〈スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン〉を高く掲げ、そしてその杖先で大理石の床を激しく打ち鳴らした。嗚咽と慟哭で満ちていた空間が静まりかえり、私達を含めた全員の意識がモモンガさんに集中する。

 モモンガさんは一歩前に踏み出して振り返り、八人のNPCの名を呼んだ。

 

「アルベド、セバス・チャン、ユリ・アルファ、ルプスレギナ・ベータ、ナーベラル・ガンマ、ソリュシャン・イプシロン、エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ、シー……CZ、2128・Δ(デルタ)

 よく聴け……今現在、ナザリックは未曽有の事態に陥っている。俺たちは一刻も早くこの異常に対応する必要がある。へロヘロさんとヒカねぇさんもいるが、この場での最上位者はギルマスの俺───私、モモンガだ。今は私の言葉に耳を傾け、指示に従ってほしい」

 

 決して大きな声ではなかったが、良く通る力強い言葉が響き渡る。冷たい風が吹き抜け、場の雰囲気が変わったような気がした。実際にモモンガさんの言葉の後、プレアデス達の未だに僅か残っていた嗚咽の声も治まったのだ。

 

「まずは……そうだな」

 

 数秒の沈黙の後にモモンガさんは口を開き指示を下す。

 第一から第八までの階層守護者には担当階層、プレアデスにはギルドメンバーの私室を含めた第九階層に異常が生じていないかの調査。セバスにはナザリックの外に出て周囲の探索。そしてアルベドには玉座の間に留まり、階層守護者達への命令の伝達と上がってくる情報を取りまとめるよう指示を出した。

 

「私達は円卓にて今後の対応について話し合う、許可を出すまでは誰一人として近づくことを禁ずる。……よし。では各自、行動を開始しろ」

「「「───はっ!」」」

 

 号令への一音乱れぬ返答の後、プレアデスとセバスは玉座の間を去って行く。ただ一人残ったアルベドは耳元に指を当て小声で何か喋っている。どうやら《メッセージ/伝言》の魔法か何かで守護者達に命令を伝えているようだ。

 

「ではアルベド。後は任せるぞ」

「はい。お任せ下さいモモンガ様」

 

 連絡の手を止め、アルベドは優雅な所作で頭を下げる。ここまでの展開に圧倒されていた私はポカン、と恐らく見るに耐えないアホ面を晒しながら「アルベドの髪艶々だしまじ可愛い」とかどうでも良いことを考えていたのだが、モモンガさんは「うむ、頼んだ」と何か威厳ある感じで応じていた。

 そして私達に向き直ると、指に嵌めた〈リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン〉を示しながらパカっと口を開く。(ほっと一息ついていたらしい。今なら分かるが、当時はまだモモンガさんの表情を読み取るのに慣れていなかったのだ)

 

「それじゃあ、私達は円卓に移動するとしましょうか」

「は、はーい……」

「待って、私指輪つけてない───」

 

 光を散らして姿を消したモモンガさんとヘロヘロさんを見て、私は慌ててアイテムボックスから指輪を取り出し、左手の薬指に嵌めながら高々と指輪を天に掲げたのだった。

 

「え、円卓の間へ!」

 

 視界が切り替わる直前、一瞬だけ優しい微笑みを浮かべたアルベドと目が合ったような気がした。

 

 

to be continued...

*1
ムニムニ




モモンガさん:この作品の彼は一時期ヒカねぇとの間で流行った「NPC名前当てゲーム」に勝つ為に全NPCの名前を暗記したことがある。一瞬シズの名前が出てこなくて焦った。普段の一人称は「俺」だが、ヒカねぇに対しては「私」。ヘロヘロさんと一対一の時は「俺」になるかも?
ヘロヘロさん:モモンガ演説の途中で横に立つソリュシャンから放たれる凄まじい圧に気が付き、どっと冷や汗を流していた(愛じゃよ)。一人称は「俺」
ヒカねぇ:混乱と興奮と恐怖と衝撃で情緒がぶっ壊れている。なお、人型アバターによる自分の胸揉み見せつけは即座にBAN警告が送られてくる危険行為である。

アルベド&セバス:至高の御方々が写真撮影をすると言ったので、撮影終わりの指示が出るまでは決して動く事は許されないッ! と本当は悲しみと苦痛で荒れ狂っている心身を必死に抑え、取り繕っている。鋼の精神。

プレアデス:エントマとか虫だけど泣けるのか疑問な所ではあるが、「彼女達は矜持と悲しみの間で葛藤した上でこんな風に泣いてほしい」という筆者の癖なのでお許しを。
 なおルプスレギナは当初「至高の御方の歓談を邪魔してはならない」と必死に我慢していましたが、ユリの鳴き声に釣られて決壊してしまってからは、メイド(=臣下)の矜持とかは何も考えず我慢せずに泣き喚いてます。
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