元パソコンの美少女と300年後の不思議な世界で生きるだけ 作:囚人番号虚数番
世界が滅ぶ前の最後に何をしたいだろうか。大切な人に会う?最後の晩餐を楽しむ?社会に縛られずに強行に走る?あるいは自ら死を選ぶ?
各々色々な行動を取るだろう。さて、そこで俺が選んだのはコールドスリープだった。
時代は2千と数十年、人類は技術の最盛期を迎えた。しかしそれは逆説的に人類の限界を示し、結局あれからシンギュラリティもSFチックなあれこれも何もかもがただの夢に終わった。AIが暴走しないしイルカも攻めてこない、某青狸も完成はしなかった。それでも家庭用核シェルターとコールドスリープと永久機関の普及だけは現実化して、実際に役に立ったと思う。
何故なら世界が滅んだから……ではなく、ただ単に操作による事故で選ばざるを得なかったからだ。お恥ずかしながら購入直後に締め切った核シェルター内でコールドスリープ装置を3時間設定と300年設定を間違えて起動し運悪く冷たい棺桶の中に閉じ込められたのだ。おまけに商品が悪かったのかこの筐体は後にリコールとなった商品であり、一度使えば最後、途中で離脱も出来ず時間経過前に電源を切れば中の人物は死亡する。
「コールドスリープ、300年間、実行」
だから最後に聞こえた無慈悲な声に俺は必至だった。凍り付いて動きを止めつつある意識の中で俺は最後から逃れる為にひたすらに焦り、だが最後の願いは遂に叶わなかった。それは生に執着するでもなく、ある生き恥への執着の為にだ。
「(SSDのデータ消し忘れたあああああああああああああああ)」
さて、最後に永い休眠の最中であるこの哀れな被害者いついて少し語ろう。俺は鹿瀬 浩(かのせ ひろ)、なんてことはない心はいつまでも少年な成人男性である。ただ特筆すべき点としては元ブラック勤めである事を除けばだ。当然社会的な立場は常に弱者の方であり、その日は会社を遂にクビになり同時に偶然当選したシェルターなどを試していた経緯がある。
人間関係は友人無し、出会い無し、コネなし、恋愛経験なし、の四重奏だ。恵まれた人間関係とは真反対の対人素寒貧である。だからこそ彼は気ままで、一人孤独に生きてきた。趣味はゲーム、過去には様々な創作物に手を出したものの長続きせずに放棄した。
……とまあ、俺はろくでもない普通な人生を歩んできたのに途中で道を踏み外してしまった、というわけだ。だが、この時の俺は知らなかった。俺の事情とは関係なく棺桶の外は再びお熱く燃え盛っていた。世界は再び炎に包まれて世界を巻き込んだ大戦争が勃発した。この戦争は今までの人類史で類を見ない程に苛烈で多くの核シェルターが過去になる程であった。その点ある意味俺は幸運だったのかもしれない。多くは戦争によって死亡し何も知らずにこの世を去って行った。
だからこの先にある目覚めが生前の何もかもが通用しない奇妙な世界である事は考えてもいなかったのだ。
ー--
現在位置 地下シェルター
「300年経過、既定の期間に達した為コールドスリープを解除します」
プシュー……カシュッ
「……クッソ、まじで300年寝てたのかよ……」
白く無機質なカプセルから体を起こした直後、俺の頭の中は絶望に染まっていた。俺の単純なミスで1江戸時代を寝て過ごし、突発的な事で遺書とSSDの後処理も出来ずにいたのだ。前者は言わずもがな後者は特に俺の生き恥である数々の黒歴史創作物とエロゲーとエロ画像を残してこの世を去るなど男の風上にも置けない死に方だ。正確には多方面での意味だ。8割は社会的に。
一度落ち着いて回りを観察する。つい最近作った300年前のシェルターの中は狭く陰鬱としていた。電気系統は300年経過しても起動しているらしい。だが明かりは小さな電球が一つだけ点灯しているだけで暗い。買い建てで家具も何もなくただ段ボールが無数に積み重なる光景も殺風景さを助長している。ただ埃だけは相応に積もっていてカプセルの外面にも少しついている。
段ボールの中、なんだっけ。確か初期サービスで付いてきた物を置いておいたような。どうせいつ出ても問題は多いのだから試しに小さな箱から一つずつ開封してみる。
まず一番小さいはこの中身はよくある非常用避難キットだ。背負鞄の中に小物が色々と詰め込まれる形で色々な小物が入っている。十徳ナイフがあるあたりサバイバルも意識しているらしい。どうしてそんなものが……
続いて中くらいの箱には服一式。これは設置した業者が『念の為に用意しておいた方がいい』と言われてクローゼットに入らない分をここに入れておいた。まあ、これは今更ながら思い出した。因みに今の恰好はTシャツジーパンだ。
そして、問題は一番大きな箱である。
「…………(これだけは言える。こんな段ボール流石に知らないな)」
一辺が身長程で直方体の箱で他と違いテープが剝がされて開封された跡がある。重量はかなり重く、人1人分は余裕である。箱には良く分からない外国語が羅列され、辛うじて認識できた製造年数は俺がコールドスリープされてから更に100年近く経って生産された物であった……つまり、このシェルター内に誰かが入ってきた?
「(でも一応、これも開けておこうか)」
段ボールを開くと中身はボロボロの一枚布で覆われていた。そしてそこに張り付けられた一枚の段ボール製のメモが置かれている。内容は「ユーザーネームh3r0へ。私はツクモイド、デスクトップパソコンの『初代』です。」
です。どうぞいつものようにお使いください」と書かれている。
……ツクモイドとは何だろう。俺が寝ている間に遂に有用な機械を開発したのだろうか。ただこれをここに置いた者はどうやら俺を知っているらしい。「初代」という名は俺が使用していたPCの名前でありh1r0というのは確かに俺のユーザーネームだ。余談だがこのPCには俺の生き恥の大半が入っている。つまりPCの場合は真っ先に破壊したい。
「(誰か知らないけど病気以外なら貰っておくか)」
布は粗製であり、どこかの博物館の展示物のようなある種の野性的な質感の麻布だ。こうなってくるといよいよ箱の中身もきな臭く感じる。恐る恐る布をめくり、箱の中身とご対面だ。
「…………女の子……の人形?いや、ちゃんと呼吸してるな」
箱の中身はなんと高校生程の女の子であった。狭い箱の中で座り死んだように寝ている。死んでいるかと思ったが生きてはいるようで呼吸の度に体が僅かに動いていた。恰好は見える範囲だと黒髪の整った顔立ちの若い女性で服装は全身的に黒で統一されている。そして方にはどこかで見覚えのあるシールが貼られていた。確かこれは……PCのCPUのブランドのシール?しかも俺が使っていた種類だ。いや、まさかな。
「おーい君、起きた方がいいんじゃないか?」
彼女の肩を揺らす。すると顔を上げて寝起きの顔でこちらを見る。偶然にも彼女の碧眼と視線が合った。
「…………んぅ、一体誰ですかもう」
「お、起きた。ねえ君、どうしてこんなところにいるのか教えてくれるかい?一応ここ、俺の家のシェルターなんだけど」
「そうですよー……私のマスターがここで眠っているので目覚めたら起こして貰えま……」
と、ここで彼女は頭が冴え始めたのかハッと目を見開き急いで箱の中から出る。
「わわわっ起きた起きた起きた起きた!本当に、300年ぶりのマスタ―だ!!」
段ボールを半壊させながら彼女は箱から出てくる。その間、彼女を観察すると近未来的な雰囲気で統一され、黒と青のレオタード、耳元にはアンテナの付いたインカム、またカメラとファンのような小さな箱が浮遊して彼女を追従している。
人間的な部分も勿論あり顔は整い大きな胸と尻は実に好みである。まるで……俺のパソコンの中身を映したかのような、性癖どストレートな外見だ。
「……ええと、君は?」
一目見ただけで非現実で非人間的な彼女に疑問を持つが彼女の態度から恐らく俺に何かしようというわけではないようだ。
「あ、もうちょっと待っていただいて……ふー……よし、お待たせしました。まずご確認ですがあなたが私のマスターでしょうか?」
「マスターかは分からない。俺は鹿瀬浩、この家の持ち主です」
何だか怪しいが聞かれ方だが素直に名前を教える。俺の名前を知った彼女はしばらく何かを考え込んだ後唐突に涙を流した。
「かのせ……ひろ?あれ、じゃあ私のマスターはどこに……せっかく300年も待ったのに……」
……いや、まさか。そんなことがあり得るのだろうか。俺のパソコンによく似た彼女が求める彼の名前を俺は祈りを込めて伝えてみた。
「あー、一応ヒロ、エイチいちアールぜろなら俺ですが」
「……! じゃあやはりあなたが英雄様ですか!」
彼女はそういうと俺に勢いよく抱き着いた。あまりにも急で力も強くタックルみたくなり俺は体勢を崩して尻もちをついた。彼女の豊満な胸が俺に押し当てられて、だが小さなことを考える余裕はない程に泣いて喜ぶ姿に俺は困惑した。
「何年も何年も何年も、あなたが目覚めるまで私、沢山待ちました!だから、だから、うああああん!」
「えっと、俺がそんなに特別?」
「はい、マスター。あなたはこの世界の最後の人類、ツクモイド最後の希望です……」
希望?それは一体どういうことだろうか。しかし俺が疑問を彼女に伝えるより先に彼女は抱くのを止めた。そして見て欲しい物があるとシェルターの出口へのはしごを登る。数世紀振りの運動は年齢のせいもあり少々堪えた。
「あの、最後の希望って何の事?それにツクモイドって君の事?」
「はい、私はツクモです。マスターは知りませんよね。全ては……マスターが眠られた後でに始まりましたから。ですが、これだけは先に教えます。この世界ではもう人類はいません」
彼女が蓋を開け久々の日光が俺を照らす……日光が?家を見ると半壊し屋根が抜けて青空が見えていた。床や壁も植物に浸食され何百年前の廃墟といった風に変貌を遂げていた。300年という長い時は頑丈な家ですらもただの遺跡にしてしまうのか。
「マスター、見てください。ここからの眺めは素晴らしいですよ」
彼女は風雨にさらされボロボロのソファーに座っていた。
「…………確かに、そうだな」
そこはかつてリビングルームだった部屋。大きな窓と液晶テレビ、ゲームにテーブル、普遍的な家具がかつて使われていたままに置かれている。だが全ては劣化し窓と画面は割れ、家具と壁から植物が生えている。壁の一部も破壊され、その向こうにある筈の街並みも緑一色の草原に姿を変えていた。小高い丘に建つこの家の景色、認めがたいが確かにに美しい。
同時に俺は遂に認める事になった。この世界は確かに終わりを迎えたようだ。