元パソコンの美少女と300年後の不思議な世界で生きるだけ   作:囚人番号虚数番

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付喪の種族

「隣失礼」

 

俺は彼女、仮称初代の隣に座る。ソファーは見た目の通りバネが死に表面の状態は非常に悪い。

 

割れた窓から見える目の前の景色は俺の知る街とは大きく変わっていた。住宅街、ビル、店、ありとあらゆるものが今や緑の草原で建物らしい建物は少し遠くに見える小さな家々だけである。だがそれよりも向こうの山や概ねの高低差には過去と重なるものがある。

 

暫く場が鎮まる。風に靡く草木の音は長らく聞いていない。大自然の光景など何時振りだろうか。不謹慎にも滅びかけの世界は心を落ち着けるにはいいのかもしれない。彼女もまた片耳を抑えて目を閉じて、音楽でも聴いているみたいに頷いている。

 

「どうしましたか?」

 

「……ああ、ごめんなさい。今、少しマスターについて仲間に連絡をしていたんです」

 

この世界で電波はどうなっているのだろうか。インカムを使っているのは分かるがこの世界で回線類が生きているのは不思議である。そしてまた彼女は目を閉じ連絡に戻りまた静寂が訪れる。

 

「昔、戦争があったんです」

 

ふと彼女は語りだした。

 

「私も伝え聞いた話でしか知りません。画像も音声ももう劣化が激しく現存する資料はこのような遺跡と私達ツクモイドの存在だけです」

 

「そのツクモイドとは何ですか」

 

「人類がかつて考えて作り出した、概念が物質アニマにより受肉した存在です。丁度人類と入れ替わるように私達は誕生し今や私達のみが文明を維持しています」

 

それからの彼女の話を纏めるとこうだ。

 

ツクモイドとは、俗的な言葉を用いれば道具の擬人化という事だ。概念だの色々を彼女は言っていたものの要点は簡単だ。物質アニマが誰かの道具を素依り代とし、人の形を成した種族だそう。彼らは元となった物に対応した力を用いる事が出来る。彼女の通信もパソコンのネットワーク機能から派生した能力であるそうだ。

 

「随分と飲み込みが早いですね」

 

「…………いいえ、今は驚きよりも色々と情報が必要だから冷静になる事が重要です」

 

「流石マスターです。自己に対しての冷静さは随一ですね」

 

自己に対して……それは一体。しかも嘲笑のニュアンスを含んだ物言いとは随分と反抗的だ。彼女はインカムを直しながら当たり前の衝撃の事実を言った。

 

「私はマスターの全て見ていましたからね。笑顔から怒り、泣き顔、それと……ちょっとえっちな部分も。だからそんなに無理なさらないでいいですよ」

 

そういえばコイツは俺のパソコンだった。当然様々な用途で使用し勿論その手の意味でも大変お世話になっていた。だからまさかパソコン自身に見られていたとは出来る事なら知りたくなかった。

 

「マスターのゲームの履歴やお買い物の履歴は特に興味深かったです。過去にはあのような道具も……マスター?どうして赤くなっておられるのでしょうか」

 

理由は分からないけれど愛しているなら俺か自分を殺してくれ。俺にはこの羞恥プレイはきつ過ぎる。少しでも話題を変える為に俺は頭を巡らせて次の話題を彼女に提示した。

 

「あー、初代さん?」

 

「いつも通り呼び捨てで構いません。気楽に話してください」

 

「今の君を初代と呼ぶのは今はなんか違うんだよ。あー、いい呼び名ある?」

 

「そうですね……一応仲間内からはリナ、そう呼ばれています」

 

「そうか、リナ。俺達はこれからどうするんだ」

 

「まずは拠点に帰省してマスターの存在を伝えます。あの建物が見えますか」

 

彼女の指差した先にはあの建物群だった。曰くあそこは彼女達の小さな村であり彼女もあそこから派遣されたそう。しかし自身は俺を待っていた為に10年近くは連絡で関わるのみで帰宅していないらしい。高低差と目測の距離は歩きでも行けなくはない距離だ。

 

俺は一度荷物があると彼女に伝えシェルター内に戻る。さっき見た非常用キットには簡単な保存食が内蔵されていた。賞味期限切れはしているが開封はされていないからまだ食べられる。それ以外はまだ使えて全て何かしらに有用そうだ。それらを背負い再び暗いシェルターから出た後、俺たちは草原へと歩を進めた。

 

ーーー

 

300年と数ヶ月ぶりの昼間の散歩は心地よく、疲労感あふれる物だった。長年の運動不足が祟り若いペースにはついていけない。仕方なく彼女と会話しながら隣で歩いてもらった。話題の多くは俺の生きていた頃の話であった。とはいえ、俺からしたら特に特筆すべきような世界ではない為俺はそこまで楽しくはない。対象に彼女、リナはどんなことでも楽しそうに聞いてくれた。

 

「私はマスターに夜遅くにお手伝いさせて頂きましたよね。でも大体は音楽を流すお仕事ばかりでマスターもあまり使ってくれている様子ではありませんでした」

 

「ああ、会社のパソコンとは別にBGMを流すのに別のパソコンの方が便利だったからな。もう仕事も無いし音楽はしばらくいいよ」

 

「マスターは旅のご様子もお好きでしたっけ」

 

「だな。普段会社で忙しかったからお世話になったな」

 

ブラック勤めの頃は毎日が嫌な意味で忙しく現実逃避にチラチラ見ることだけが娯楽だった。他は安酒だ。だが僅かな時間を見つけて調べていたからしている場所は多い。それらの名所やこの場所での出来事、文明の栄華の様、それらをどこか懐かしむように彼女は聞いていた。

 

「平和故争いが絶えず続く時代、不思議です」

 

「平和だからこそ柵が複雑だったんだ。あの頃はいっそ滅んでくれと何度思ったことか。だからこんな時代になってくれて清々してる。平和っていいよなー」

 

しかし言葉は返ってこない。どういうわけか彼女の方をちらっと確認すると何とも言いづらそうな顔をしていた。ああ、もしかして野生の動物や野盗でも出てくるのかな。確かにその点はあの頃とは大きく違い、その点は昔はまだ良かったと言えるだろう。

 

事実彼女に問いただすとまさにその危険を危惧していたらしい。野盗というのはツクモイドの性質上あまり出ないらしい。だがどうもツクモイド以外の生物が色々と危険とのこと。

 

「一応この辺りは巡回の狩人さんのお陰で危ない動物はいません。あっそうだ」

 

彼女は浮遊する箱から何かを出して俺に手渡す。小さな茶色い瓶にピンの付いた蓋がされた、過去の現代の知識で言えばいわゆる火炎瓶と手りゅう弾を想起させる。実際に彼女はこれを非常用の手榴弾だと断言した。

 

「一応護衛用に渡します。中身は私達と人間には無害です。ですが破片は鋭ですから扱いには気を付けてくださいね」

 

「お、おう」

 

やはりこの世でも人は動物には勝てないと決まっているようだ。そうして歩き続けているといつの間にか丘を下りきり草木が生い茂る林を通っていた。ふと草木の合間に他とは違う岩を見つけた。形状的に碑石のようで公園の名前が彫り込まれていた。そうなると昔の位置関係からこの先にあるのは元運動場の場所だろう。

 

更に5分程歩き金属製のバリケードを抜けると煉瓦で舗装された道に切り替わる。トイレの廃墟の横を通り過ぎ、段々と人気のある場所に近づくのを感じると小さな木製の門まで来た。

 

「衛兵さん、お疲れ様です」

 

「おう嬢ちゃん、久しぶりだな。隣の若い兄ちゃんは初めて見る顔だ」

 

「彼は村長に頼まれて連れて来た私のマs……お世話にしてもらった方です」

 

俺も衛兵に挨拶する。皮鎧の初老の男でまるでファンタジーの登場人物だ。リナから後で聞くと壊れかけのロングソードだった者らしい。ツクモイドの年齢は受肉時の品質によって決まるらしい。彼は俺の顔を見て物珍しそうにこちらを見てきた。

 

「んー?俺ぁ長いこと生きてきたが兄ちゃんみたいなツクモイドは初めてだ。素体を聞かせちゃくれないか?」

 

そういえばこの世界では人類珍しい所ではないのか。初めて見る者がいてもおかしくはない。ここは正直に話して理解を得た方がいい。だがリナが先に俺の口を塞ぎ叶わなかった。

 

「彼は自身についての出自を忘れてしまったんです。だからその相談も兼ねているんですよ」

 

「おぉそうか。兄ちゃん、いやな事聞いて済まねえ。何もない村だけど楽しんでくれ」

 

そして俺達は彼に別れを告げて門を潜る。ここはイグーヤ村と言い小さな木造の建築物が立ち並ぶだけの素朴な雰囲気な村だ。人口も少ないらしく出歩く人は少ない。ただ、なんというか行きかう人の雰囲気ははっきり言って異様だ。時代や立場が様々で何というかカオスみを感じる。うん、どこか嫌な予感はしていたのだ。隣のSFチックなのが普通に相手された時点でいろいろ察していた。

 

「なあ、この村には何があるんだ?どこか連れていくなら先に少し歩いてみたい」

 

「いいですよ」

 

村を一周するとこの村の奇妙さがより深まる。中世ファンタジーのような牧歌的な物を想像していたのだがどうにも違う。勿論田畑や家畜に関しては相応だった。だが村の端でたまたま謎の装置を見つけた時に……

 

「え?マスター知らないんですか?」

 

「知らないも何もあんな場違いな物が何でここにあるか知りたいくらいだ。あれ、明らかに機械だよな」

 

「村唯一のどこにでもある普通の火力発電機です」

 

「ああ、だからあんなに木があるのか……発電!?」

 

一応そのあとの情報からこの村では加工用以外では使用できず、ツクモイド全体でも電力はあまり使われていないらしい。とまあ、どうやらツクモイドの技術レベルはどこかしら歪んだ進化をしているらしい。

 

そして最後に周りから向けられる視線を感じながら村の奥にある一番大きな建物の中に入る。

 

「お邪魔します」

 

「村長、マスターを連れてきました」

 

建物の中は沢山のイスが並び、その奥には演台、そして何かを象徴するように金属製の枯れ木の像が置かれていた。単に雰囲気だけで判断するとするならば、ここは教会といった風である。

 

「リナ、ここは?」

 

「ここは……」

 

彼女が答える前に奥の方から誰かの足音が聞こえた。視線を足音の方に向けるとそこには白と黒の修道服に身を包んだ少女が佇んでいる。

 

「タリス教会へようこそ。終末を生き延びた最後の英雄様」

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