元パソコンの美少女と300年後の不思議な世界で生きるだけ 作:囚人番号虚数番
「タリス教会へようこそ。終末を生き延びた最後の英雄様」
修道女は大学生くらいの少女であり村長という肩書とは到底似つかない。それでも美しい細身の体での露出が少ない服と周りの神性な雰囲気からあの女が只者ではないと感じさせる。
「まずは、こちらへどうぞ」
彼女は奥の扉を開け俺達に入るように促す。不気味な雰囲気ではあるが敵意は感じられない為俺は彼女に従い部屋の中に入る。無数の本棚とそこに所せましと分厚い本が並んだ書庫である。この村の規模であれば簡単な図書館として利用できそうだ。
「長い間眠られて大変でしたね。まずは適当に座ってください」
机を挟んで適当にイスに座り、リナも俺の隣に座る。どうにも距離感が近く体の一部が時々当たっている気がするが目線で離れるように訴えても気づいてくれなかった。修道女は俺達が座ったのを見てから話しだす。
「私はシルバー、この村の村長です。あなたを最後の人類として英雄になってもらうべくあなたをここに呼びました」
彼女は証拠として大きな携帯電話のような機器を見せた。曰く、これで彼女と定期的に通信して先程のリナへの連絡も彼女かららしい。ここに連れてくるのも彼女だそう。
しかし「英雄」か、さっきリナも言っていたがずっと眠っていた俺にそんな暇はない。仮に世界を救ったりでもしていたら俺の方が驚愕だ。シルバー村長は俺の疑問を一冊の厚い本を目の前に置くことで俺の疑問をねじ伏せた。
「いいえ、あなたは英雄です。こちらをご覧ください」
タイトルは「人類賛歌」と日本語で書かれ表紙には先ほど見た枯れ木の絵が描かれている。中身はぱっと見何かの経典みたいだ。
「それは遥か昔の人類、我々の最初の造物主が生み出した過程を記した『被造の骸』の経典です」
邪教かな。ギリギリ口には出さなかったが顔に出るくらいには率直に思った。リナにはバレたみたいで村長に失礼ではないでしょうか、と注意された。
「そう警戒しないでください。名前は物騒ですが私達の教えに危険性は少ないです。造物主も被造物も等しくあるべき、それを私達は信じています」
「みんな仲良く平等に……と、まあそういう事なら」
「ですがその中でもあなただけはその例外、人類はツクモイドの上に立つ存在です」
ツクモイドは3つの関係を持って生まれる。被造物と造物主、それと使用者。それは自身を縛る枷であり同時に道でもある。造物主が道具を作り出したその意味が被造物の行動の原理となり、使う物が彼らを受肉前にどう使うかが彼らの生きた経歴となる。人間はこの中で彼らの最初の造物主に当たるらしい。
「勿論造物主は人でなくともいいのです。ツクモイド同士の創造行為も当然可能です。ですが同族での創造では時に『淀み』を生みます」
「淀み?」
「これは今は置いておきましょう。この淀みは人間の手で創造した道具では起こりません」
つまり俺には職人になってほしいというのか?
「そこまでは求めていません。あなたには淀みのもう一つの抑制条件を求めています」
彼女はそこで言葉を止め、何かを決心してから願いを言った。
「あなたは造物主になってください。たった1例、人が創造したツクモイドがこの世界には存在しました。詳しい事はこの本の中に書かれています。ですがあなたは知るべきでしょう。人に創造された個体は強く、永久に淀まないと伝えられています」
彼女の話だと人類は彼らにはない何か特別な力を持った存在、という事か。しかし伝説にもなるような行為となるのなら責任はそれ相応に重要だ。これは俺が請け負うべきなのか、俺は答えに詰まり黙り込む。
「迷っていられるのですね」
俺が答えられないのを察して彼女は優しく語り掛ける。
「ならば私からあなた達に一つ頼みましょう。世界を知ればあなたも何か変わる筈です。それまではこの村でゆっくり過ごしてください。この書庫も自由に使って構わないですから時間があればぜひ顔を出してくださいね」
「わ、私だってマスターのお世話をしますよ!」
リナもシルバーに出遅れて自慢げに主張する。年下の女の子に養われるのは少々抵抗はあるものの地位も金も無い俺にとってはこれ以上となく有難い。深々と頭を下げて俺はお礼をするも村長は謙遜していた。加えて俺を歓迎する他に世界を知る為にアドバイスもしてくれた。
最近この村では物質アニマが不足しているらしい。物質アニマはツクモイドの受肉の他に肉体の維持に使用される。普通は空気中の成分として溶け込んでいる分だけで済むものの医療用と貿易にも使用する分が減ったから取ってきて欲しいとのこと。そしてこれが成功すればこの村の人からもきっと認められるとも教えてくれた。
「リナ、彼を村の外に連れて物質アニマを取ってくるのを手伝って下さい」
「はい、私が責任を持ってマスターに協力します」
リナは食い気味に返事をして俺の手を引く。シルバーも微笑んで手を振り見送ってくれた。が、扉を開けた直後に俺達を引き止めた。
「ああ、それとリナ。いつまで猫を被っているつもりですか?」
「村長?」
「普段のあなたであれば私に出会った途端に飛びついてくるのに思い人に対して耐えられる筈がないと思いま……」
バタン!
あからさまに大きな音を立てて扉が閉じる。タイミング的に会話を途切れさせる目的だろう。彼女は威圧感のある笑顔で言及するな、と暗に訴えかけてきた。触らぬ神に祟りなし、暫く無言のままで二人はいた。
「あの、無理しなくていいからな」
静寂を破ったのは俺の方だった。
「え、ムムム無理だなんてしていませんから。ええ、まったく」
目を逸らし声も裏返っている。あからさまな動揺で何かを隠しているのはバレバレだ。それに初めて出会った時の態度と、今話した村長との会話から色々察してしまうだろう。だけどここではこれ以上は言及せず、今は村長からの頼みを達成するために動く事にした。
「リナ、村長が言ってた物質アニマってどうやって手に入れるんだ?」
「とりあえず今日は帰宅です。準備を整えてから明日に村の外でアニマは集めましょう」
ー--
彼女の家は村はずれにある他よりも少し大きな家だった。外見は他の家とはあまり変わらない木造建築である。しかし他と違う事があるとすれば例の火力発電のある家であったのだ。どうやらさっき見たのは裏口から見た目らしい。
中に入りリビングに通されると綺麗な部屋であった。電気的な設備が存在しない意外は普通に快適そうだ。文明レベルを考慮すると思わず感心した。
しかしどうにもこの部屋はあまり使われていないようであまり家具が動かされた形跡はない。あの箱で待っていた事を考えると彼女は長期的にあそこで俺の起床を待機していたのだろうか。だとしたら彼女には悪いことをした。
色々と語ってしまったけれど今はこの部屋に用がある訳ではない。だからさっさとリビングから奥の部屋に入る。様々な工具と作業台、それと金属製の器具が多数設置されている工房であった。部屋には様々な道具が整頓され、隅には山積の壊れた電子機器の山がある。
彼女はこの村では技師の仕事をしているらしい。彼女の元となったパソコンの性能は彼女の計算能力と設計能力を大きく影響し、よく壊れた機械を入手して電子機器の作成をしている。また本職ほどではないが工芸関係という事で内需と交易用に金属製品も作っているそう。
「マスター、筋力には自身がありますか?」
「え、無いです」
「武術の心得は?」
「全く」
大学以来まともに運動などしていない。運動量の自信を聞かれたらこれ以外の回答はない。
「筋力が少ないとなるとナイフ、いやそれだと最悪太刀打ちできないから剣とかボウガンかな。今在庫あったっけ……?」
彼女は答えを聞くと収納の中から適当に道具を見繕いてきぱきと中身を机に並べていく。ついでに物騒な独り言が耳に入りこの先の将来が不安になった。そこまで村の外とは危険なのか、と彼女に問うと念の為に手榴弾だけではいざという時の対処に困るからだそう。是非ともこの武器を使う事が無い事を願おう。
数分もしない内に作業用の大きな机に数多くの武具が並べられた。槍や直剣、ボウガンなど21世紀からの視点でも前時代的な金属武器の数々である。
試しに剣を一本持ち上げてみる。金属塊らしく相応の負担が手に加わる。当然俺が振り回すのは不可能ではないが事象のリスクがあり技能的に使いたくはない。それでもシンプル故のカッコよさに惹かれ、いつか時間が空いた時には使い方を学びたいと心の奥底で思った。
リナにお勧めを聞くと俺にはボウガンが適しているのではと言われた。理由は俺がよく銃を撃つゲームをしていたからだそう。実際に持ってみると剣とは違う遠距離の安心感はある。
「マスターは私の記録によると一時期は最高ランクにまで到達する腕でした」
「でもなあ、ゲームとリアルだと勝手が違うからな。というかボウガンの使い方知らないし」
「………あっ!」
……300年のブランクとは恐ろしい。彼女はまた焦りだし必死にミスを隠そうと取り繕う。というかそろそろ薄々感じていた疑問を直接ぶつけてみた。
「あの、少し確認したいんだけど」
「マスター?」
「君、どこか抜けてるとか言われてない?」
「そんな、私はマスターの愛機のパソコンです。当然高性能に決まっていますよ!」
口では自信満々に宣言するもその裏で浮遊するカメラとファンの動きはこれ以上となくけたたましい音と共に荒振っている。顔にも汗を流し動揺しているのは見え見えだ。詰め寄って顔を近づけて圧力をかけてみた。すると彼女は顔を赤くし、狼狽える。
「あ、あんまり近づかないで下さいよ」
「…………」
「うぅ……」
遂に観念したのか彼女は黙ってうつむいた。少しの優越の後年下で体格さもあるのに意地悪だったと後悔する。すぐに離れ、彼女に謝罪を……
「……ターの」
「? リナ、どうした」
「マスターの前でオーバーヒートしない様に必死だったんですー!!」
二人っきりの攻防に彼女の心の底からの羞恥の叫びが響く。と同時に彼女の頭がオーバーヒートし処理堕ちからのフリーズ、そして顔面レッドスクリーンで応答を停止した。現役の時はここまで酷くなった事は無いけれど、思えば定期的にフリーズをしたPCだった。懐かしさと同時に一抹の申し訳なさを感じながら俺はツクモイドの再現度に関心した。
ちなみに最終的に残った中距離かつ扱いやすそうな槍を選んだ。