元パソコンの美少女と300年後の不思議な世界で生きるだけ   作:囚人番号虚数番

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アニマの狩場

一夜明け、今日はいよいよ村の外でアニマの採取に向かう。先日からオーバーヒートしたリナを介抱し、1時間ほどして正気を取り戻した。その間何かうわごとのように呻くように何か言ってはいたが真意は良く分からない。

 

ただ一つ言えるのは彼女は一般的にいうポンコツであるのだ。受肉前でもスペクの割に時々動作が重かったり何かとエラーを吐いたりと使用可能だが気になる程度に色々問題があった。それが受肉し実際の動作に置き換わった場合の一例を挙げると火を扱えば焦がし、皿を運べば転びかける。寝る時も俺が椅子の上で寝たにも関わらず起きたら彼女の寝室のベッドで二人で寝ていた。おまけに起床直後にまたエラーを吐いた。

 

とまあ、多くの問題を抱えたが昼には準備を終えて村の門前までやってきた。装備は昨日決めた槍と再度リナから渡された手榴弾である。リナは昨日と同じようなきわどい服で防御面が非常に心配だ。一応、彼女曰くクリーンヒットしなければ耐えられるらしい。

 

「(本当にコイツ平気なのかな……?)」

 

と、門の前で話しているとロンソの衛兵が挨拶してきた。

 

「おはよう、兄ちゃんの話ぁ村長から聞いた。この村に住むんだってな」

 

「はい。これからよろしくお願いします(向かう先も決めてないし出る必要が無いからな)」

 

「はっはっは!まあそんな畏まらなくても!で、彼女連れて村の外に出るのか?なら今は少し気を付けた方がいい。昨日から狩人が帰ってきていない」

 

彼曰く、狩人は夜通しの狩りもたまにするが今はそんな時期ではない。となると余程の遠出をしているか珍しい獲物を見つけたか、あるいは事故が起きたて帰ってこれてないか。原因は不明だが要人に越したことはないそう。

 

「おーい、マスター。早く行きますよー!」

 

離れた所からリナが呼んでいる。待たせる前に早く彼女の元へと向かう。

 

「マスター、昨日伝えたこのは覚えてますか?」

 

「アニマの場所か?平気だ、ちゃんと覚えてる」

 

アニマは基本的にこの世界ではどこにでも存在する。形状も様々らしいが大部分鉱脈が占めている。今回のアニマの回収もこの鉱脈を探して手に入れるらしい。ピッケル等の採掘道具が必要かとも思ったが単体はそこまで固くないらしく適当に叩けば割れるらしい。だから俺達の持ち物は袋とロープ、俺は念の為に非常用バッグも持ってきた。

 

「それでは行きますよ。マスター」

 

ー--

 

俺の旧自宅からは事なる方向の森へと向かう。うっそうとした木々が生い茂り薄暗く涼しい。地面には倒れた木の他にかつての建物の基礎のコンクリート塊が散っている。俺の記憶でもここは比較的新しい建物が多い地区だったからそれも納得だ。

 

そんな都会的な場所も今は面影が無い。小鳥のさえずりがどこかから耳に入り、見たことの無い植物も生えて明らかに新たな生態系がここには築かれている。300年と文明の崩壊の影響はとてつもない程に大きいようだ。

 

こうして森を歩いていると子供の頃を思い出す。当時はいつかこんな森で一晩キャンプにでも訪れてみたいと夢見ていた。しかし夢はいつまでも叶わず大人になった今でも現実逃避に動画やブログを眺めていた。

 

「ふんふーんふふーん♪」

 

「(何か楽しそうだな)」

 

彼女も気分が良いのか鼻歌交じりで歩いていた。彼女も俺の次に自然物が好きと嬉しいことを言ってくれた。

 

しかしあの鼻歌、どこかで耳にした事があるような……。あっそうだ。これは俺が昔作曲した半ば黒歴史と化した曲だ。確かネットの海に放流してからは満足して存在をすっかり忘れていた。久々に作成当時の恥ずかしい思い出が脳裏によぎり、陽気に歌う彼女の後ろで一人恥ずかしさでダメージを受ける。

 

「その歌、まだ覚えてたんだな」

 

「マスターの作成した資料は今もしっかりと記録しています」

 

「画像データとかテキストも?」

 

「ええ。閲覧しますか?接続済のデバイスに最適な設備が存在しない為私の能力での再現となります」

 

「いや、そのデータ全部ごみ箱にぶち込んでおいて」

 

彼女はその言葉を聞いて暫く黙り込む。俺が様子を伺うと震えながら空中にホログラムのような画面を表示した。そして設定画面から初期状態に戻すという物騒なコマンドを俺に見せる。

 

「これを実行すれば私の記憶もろともマスターの記憶が消えます。ツクモイドになってからは記録データの消去時にいつくかエラーが発生しますがこのコマンドであれば確実に……」

 

俺は彼女の言葉を待たずしてコマンドが表示されたウィンドを閉じた。ほんの冗談のつもりだったのに本当に削除が可能となると俺も流石に焦る。元は自分の所有物とはいえ彼女の辛そうな所を見ると消す気も失せた。

 

「削除、なさらないんですか?」

 

「済まない。冗談のつもりだった」

 

「……マスター自身も駄作だと注釈がありましたが」

 

……出会った頃より彼女の覚悟は不気味なくらい相当なものだ。ならばこちらも羞恥心に耐えて相応の覚悟を見せてやろう。俺は息を大きく吸い込み深呼吸、そして長年一人カラオケで鍛えた歌唱力を駆使して俺の黒歴史の曲を歌った。

 

厨ニ臭い歌詞と下手なメロディーは俺自身に心理的な致命傷を負わせ、森の静寂に不協和音を響かせる。恥ずかしさから声の大きさはそれ程でもない。

 

「……ふふふっ、以前の音声記録よりもお上手になりましたね。マスター」

 

それでも、彼女が喜んだのなら今だけは悪くない。しばらく二人で歌い合いながら森を進む。次第に景色の光度が下がり鬱蒼と茂る森となる。

 

ふと、視界の隅に光が見えた。ぼんやりと青く光る何か。ふと気になって近づくと光り輝く結晶の欠片だった。手で触れると冷たく、力を入れると劈開する。彼女に見せると確かにこれは物質アニマだという。ただ一点驚かれたのは俺が素手で結晶を割った事らしい。どういう訳かと渡してみせると彼女が同じように結晶を割ると小さく散った破片が彼女に吸い込まれるように消えていった。

 

「ツクモイドが物質アニマを割ると生体アニマとして体内に循環します。そして肉体を維持したり能力のために消費します」

 

「でも君まで割ってよかったのか?頼まれてた物なのに」

 

「このサイズだとあまり役に立ちませんからね。大き目のだけをいくつか拾って鉱脈を削りましょう」

 

草木を掻き分けて更に深くへ、森の木々は高く、それ以上に劣化の少ない人工物が増えてきた。標識が立ち、建物に絡むように植物が生え、まるである種の都市にも見えなくはない。内を潜り進む過程でも古い家具がまだ残っていた。美しくもあり残酷な時の流れを示すこれらは俺には神秘に写った。

 

「到着です」

 

リナが伝え立ち止まる。

 

「ここがアニマの狩場です」

 

「綺麗だな」

 

 

ここは狩り場というのか。だが名前とは裏腹に青く光る凹地は絶景だった。特大の結晶が削られ足場となり、それが辺りの木々を優しく、だが冷たく照らす。

 

「それっ!」

 

彼女は地面から生える結晶を蹴りヒビを入れる。そして力技で折り、そこそこの大きさの結晶を袋に詰め込んだ。俺も真似して何個かを手に入れた。意外と柔らかい結晶で一度軽く蹴るだけであとは簡単に素手で折れる。

 

「…………」

 

「マスター?」

 

ちょっと楽しい。

 

ーーー

 

堀りやすい物を掘ること十数分、袋いっぱいに結晶が溜まった。これだけあればしばらくは補給も必要ないだろう、とリナは言っていた。

 

「採掘お疲れさまです、マスター」

 

「ああ、後はこれを村に運んだら終わりだな」

 

俺が袋を持ち上げると……うん、持ち上がらなくはないけど腰が辛い。だが男のプライドにかけて体に鞭打ち結晶の入った袋を持ち上げた。一歩歩くのも困難を極めるが、彼女のために少しカッコいいところを見せたい。

 

「マスター……?」

 

「これくらい何ともない。早く帰ろう」

 

俺は来た道を戻り覚束ない足取りで森を歩む。だが、彼女は結晶の狩場の真ん中で立ち尽くしたままだ。周りを見ながら浮游する装置を動かしていた。あからさま不自然な行動に俺が困惑していると

 

「……マスター、アニマを置いて抜刀してください」

 

「っ!?」

 

「早く」

 

彼女の様子が一変し、機械らしい本性の冷徹な声。俺はそれに従い木の陰に集めたアニマの結晶を隠した。緊迫した雰囲気の中で機械のモーターの音野見が小さく聞こえる。だが、俺にも聞こえた。

 

「グルル……」

 

獣の様な何かが呻き、こちらに迫る声が俺たちを殺そうとしている。本能的に木の陰に隠れて手榴弾を手にした。この手榴弾はツクモイドと俺には無効、だがそれ以外であれば有効である。だから半ば祈るようにそれを強く握りながら俺は敵の方を見た。

 

敵意に満ちたそれは青い光に照らされてはっきりと姿を確認できる。体は一般的な四足歩行の哺乳類の骨格である。似ている動物は犬だろうか、鋭い牙と爪が生えている。だが大きく異なる点は人程の背丈と暗色に光る点である。知っているようで既知の生物とは全く異なるまさに怪物がそこにいた。

 

「(な、何なんだあの怪物は!?)」

 

「……ああ、あなたもまた誘われたのですね。アニマを求め、獣と化したゴミ屑よ」

 

彼女はそれと対峙してなお堂々としていた。動じず、ただ彼を無感情に視線を送る。まるで彼を何を知り尽くし恐怖を無くしているような雰囲気だ。彼女は振り返り俺の方を見て優しく彼について教えてくれた。

 

「マスター、アニマには2つの種類があります。一つは自然に生成される物質のアニマです。そしてもう一つは」

 

彼女は再び獣の方を見る。そして浮游する機器を止め彼を向いて光り出した。

 

「生体の中で生成された生体アニマです」

 

生体と物質のアニマ、そして結晶の狩り場。俺の中で点と点が繋がる。同時にこれから俺たち、あるいは獣の彼の末路と彼女が何を成そうとしているのかを悟る。勿論彼女を危険に晒す訳にはいけない。だがそれ以上に己の無力さに臆して表には出られなかった。

 

「狩り場の意味は知りましたね。でも安心してください。接近戦は少々不得意ではありますが……

 

 

 

 

私が彼を狩ります。そして、帰りましょう」

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