元パソコンの美少女と300年後の不思議な世界で生きるだけ   作:囚人番号虚数番

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狂犬と槍のツクモイド

彼を狩る、言葉の後に隠れた木の向こうでリナが先に動く。カメラのレンズが輝いたかと思うと獣を狙い光線が放たれる。獣はこれを回避し、だが回避先にリナはファン状の装置からも放射状の弾幕を置く。獣は攻撃を体に受けて動きを止めた。

 

「チェックメイト」

 

その隙にカメラが獣の目の前に移動し無慈悲に脳天を貫いた。獣は絶命しその場に倒れた。木の陰から恐る恐る出て獣の死体を見る。絶命して間もない死体でまだ生きていた頃の温かさが残る。頭に光線が貫通した穴が開き、紛うことなく即死の傷で既に息は無い。

 

「危なかったな」

 

「いえいえ、これくらいなら別に何ともありません。それよりもまだ敵は近くにいます」

 

リナはまだ周りを警戒している。俺も周りを見渡すも獣らしき姿は見えない。俺は出来るだけ音を立てないよう細心の注意を払い隠れた敵に警戒する。緊張で自身の心拍が煩い。いつ何時襲われるのか分からない恐怖がジワジワと精神を蝕んでいく。

 

ガサッ……

 

「……っ!」

 

自身の後方で物音がした。こちらの様子をうかがうように2、3歩ふらふらと歩き間合いを調べている。俺は手元の槍を握りしめいつ動き出してもいいように手榴弾も投げられるようにする。

 

「何時でも来い、今すぐ倒してやるからな……!」

 

口では強気でも足腰は緊張で震える。出来ることなら今すぐ逃げ出したい。しかし逃げれば自身がどうなるかは目に見える。緊張が走る中、敵の4歩目の音と同時に均衡が崩れる。

 

「マスター離れて!」

 

だが、攻撃は音の鳴る真反対の俺達の背後だった。倒れるリナの音で俺は振り向く。そこには彼女の上に馬乗りになる先程よりも大きな獣だ。野生の動物の力に彼女は当然太刀打ちできず抑え込まれている。弾幕も獣に向かい撃たれるも彼女の動揺を示すかのように多くは見当違いな向きに飛ぶ。

 

だがそんな状態でも彼女はの指示は冷静だった。肉体を裂かれつつも彼女は俺に叫んだ。

 

「マスター、何でもいいから攻撃を!」

 

「ッ……はいっ!」

 

俺は手に持った手榴弾のピンを抜き獣に叩きつけるようにぶつける。しかし手元が狂い獣の体からは外れて近くの地面へと落ちた。だが俺はそれには目もくれず獣の横っ腹に槍を突き立てた。気色の悪い感覚が柄を通して伝わり青い血が吹き出た。獣は驚いて彼女の上から離れ標的を俺に変えて飛びかかってきた。

 

「怯んではいけません!踏み込んで、まだ追撃を!」

 

「う、ひいぃぃぃぃい!」

 

彼女に応えて無意識に回避する本能から攻撃に。恐怖に青ざめ半ば朦朧とした意識のまま良く分からずに最適な行動を踏み獣を口元から引き裂いていく。

 

「ありがとうございますマスター!あなたもいい加減狩られなさい!」

 

無数の弾幕が放たれハチの巣にされた。同時に手榴弾が破裂して獣の大きく体が吹き飛ぶ。そして遂に絶命したのか地面に転がると暫くして獣の体が青白く光りながら動かなくなった。

 

「はぁ……はぁ……た、倒した……」

 

どさっ

 

緊張感がほどけると同時に全身から力が抜けて膝から崩れ落ちた。全身からも汗が噴き出て改めて生を実感を感じる。男の癖に情けないが今はこのまま安心感の余韻を暫く感じていたい。が、そんな場合でもない。高鳴る心臓の音を聞きながら俺は傷ついたリナのもとに向かった。

 

「リナ!平気か!?」

 

「外部に軽度の損傷です。時間経過での完治も可能です」

 

彼女はそう言っているものの怪我はこちらの血の気が引くほどに酷い。獣の爪跡が全身に傷を作り首元には大きい噛み跡がある。出血も致死性は無い量だが全身からの出血で心配になる。どうにかして傷を塞いだ方が感染症や清潔さの為にもいいだろう。

 

すると彼女は放置していたアニマの結晶を持ってくるように頼んだ。訳は分からないが今は彼女の頼みが優先だ。重い袋から一つを彼女の元に持っていき渡す。彼女はそれを砕き傷に塗り込んだ。全身の傷には1つでは足りなかったのか追加で3つ程砕いて5分後には出血が止まり傷一つない肌に体が戻っていた。

 

本来は専用に加工したアニマを使用した方が効果があるそうだが応急処置でアニマの結晶を砕いて代用したらしい。原理は良く分からないが……まあ、解決したならばいいか。

 

「体、治ってよかったな」

 

「これくらいなら大した問題ではありませんよ。それよりもあの『スクラップ』の中身をいただきましょう」

 

「『スクラップ』?」

 

「ああ、あの犬の事ですよ。マスターに事前に説明していなくて申し訳ございません」

 

スクラップ、彼女曰く生体アニマのツクモイド以外の持ち主である。彼らは淀みから生まれアニマを糧として生き、アニマの為であれば動物的な本能でツクモイドを襲う残虐な生物であるそう。もっぱら彼らはツクモイドの敵であり、見つけ次第倒せる者は倒す事が推奨される。

 

スクラップはツクモイド同様アニマを持つものの多くは動物の姿である。しかしその全てが家畜には絶望的に向かない。屑と名付けられるのには相応の理由が必要で、これは他者に害を成す。屑が屑であるのはそれだけでよい。

 

彼女はその獣のスクラップを俺の槍を借りて腹を捌く。何故だか知らないがともかくこれだけはしておくべきだそう。内臓を引きずり出し乱雑に切り裂くと中から青く濁った塊が飛び出る。これもアニマだということで俺は袋にさらに詰める。だが彼女はそれで止まらず残りの肉塊も解体する。

 

「……ああ、やはり。これはそういう事なのですね」

 

肉塊に手を入れ脊椎を折り、抜き出す。しかし出てきた物は一丁の古い長銃であった。

 

「銃?」

 

「この銃はこの村の狩人の依り代です。恐らく彼はこの獣に襲われて……」

 

……衛兵が言っていた。狩人が一夜明けても帰らないと。つまり獣に襲われて、つまりそういうことなのだろう。自然と体が動き俺はその銃に手を合わせて祈っていた。顔も知らない誰かだけれど彼はきっと最後まで狩人だったのだろう。

 

だがリナはまた別の事を考えているらしい。村の方角を見てインカムに手を合わせている。次に俺の槍を見てからもう一度インカムで会話する。

 

「……はい。彼に一任します」

 

会話を止め俺の方に向き直る。

 

「マスター、帰りましょう。急遽あなたにはもう一つやるべきことが出来ました」

 

こうして村長からの依頼は無事に終えることができた。いっぱいの結晶と一丁の銃を抱えて村に帰る。荷物を置き、村長に声をかけに教会に向かった。

 

「村長さん、頼まれていた物は終わりました」

 

「ええ、すでに彼女からは伝え聞いております。スクラップに出会われたそうですね。村の狩人も死んでいたとも」

 

しかし村長は微塵も残念そうにはしていない。微笑んで、冷徹にも思えるような穏やかな雰囲気である。

 

「悲しくないのか?」

 

「…………もともと、彼は淀んでいます。だから彼は屑と化しました。ただ、それが今日だっただけです」

 

「おい、そんな言い方はないだろう」

 

「マスター」

 

村長に言い返す前にリナが何か言ってきた。

 

「スクラップの過去の詮索は速やかな忘却をお勧めします。彼らは救いがたき者らです」

 

彼女はそれを言った後、教会の内部に入る。彼女は俺を中に通すと教会の中は先日とは違いイスが端に寄せられ広いスペースが出来ていた。恐らくここで何かしら始めるというのは目に見えて分かる。

 

「アニマを砕いて下さい。それが新たな個体となり、無機物に生命を与えます」

 

彼女からは事前に結晶を一つ持ってくるように指示されていた。何に使うか知らなかったが彼女曰く作るそう……作る、とは。

 

曰く、ツクモイドは依り代と濃いアニマから生まれる。原理的には自然的にも生まれるらしい。しかし意思を持った存在が人為的に作り出せば製造した個体の人格や性能、行動原理が制限できるそう。まるでそれは一種の工芸であり、説明には少々の倫理が欠けている。

 

「依り代はあなたの槍を使いましょう」

 

「これで良いのか?」

 

「この槍はあなたに使われた。たとえ一度とてきっと何かしらの光景は出来たはずです。まして初の戦闘の恐怖と新品に近い品質です。きっと良い個体が生まれる事でしょう」

 

彼女の指示で俺は槍を地面に置く。血油に濡れそのままのだから一度先に手入れをしたいと考えた。だが、彼女は手入れはいらないとしていた。敵に臆さず殺す為には血に慣れた方がいい。

 

「……残酷だ」

 

淡々と準備をする彼女らの横で本音が漏れる。しかしリナには聞かれてしまったのかそうですか、と返された。

 

「でも村を守る為にも誰かしらの犠牲の上で成り立っています。マスターもきっと慣れますよ」

 

「でもさ、可哀そうじゃないか?生まれた時点で命を危険に晒す運命が決まっているだなんて」

 

「それが道具です。あと準備が整いました。受肉の儀式を始めましょう」

 

いつの間にかそこには儀式の用具が広げられていた。というより武具類が円形に並べられただけの場所にも見える。円の中心には槍とアニマの結晶、それと村長が。

 

「さあ、英雄様。こちらに」

 

俺は村長のいる武器の円の中に入り長の指示で結晶を手に取る。あとはこれをあの槍の上で砕けばいい。だから俺は多少の警戒をしつつアニマを砕いて槍に欠片を振りかけた。

 

初めの数秒は何も変化はしない。だが突如割れた結晶が触れた部分が優しく光りだす。段々と強くなる光量に合わせ槍は大きくなり途中で枝分かれして人の形を成す。無機物に命が宿り人になる光景に俺は感動と同時に異様なものを前にしたおぞましさを感じる。息を呑み、ただそれを黙ってみるしか無かった。

 

しばらくすると今度は体の萎縮が始まった。光量は段々と減り体の輪郭が顕になる。大きさは小学生程に落ち着き頭には動物の耳、臀部には尻尾が見て取れる。そしてそのどちらも毛皮に包まれていた。

 

そして完全に光が消える。武器に囲まれた儀式の場の中には犬と思わしき部位の生えた一糸まとわぬ少女が寝ていた。近くには依り代によく似た槍が落ちていた。これは只残されたものなのか、それとも彼女なのだろうか。

 

「う…………うあ?」

 

彼女が起き上がる。ここがどこか分からない風にあたりを見回して俺と目が合った。と同時に槍を抱えて部屋の角に逃げ出した。彼女は俺達に酷く怯え目を閉じて丸くなる。隠れているつもりらしい。そんな彼女に対しリナと村長は何やら不思議な事を話していた。

 

「村長、これはどういうことでしょうかね」

 

「……恐らく使用者のせいでしょうね。産まれたまま、というのが本当に名の通りというのは依り代的に考えられません」

 

……つまり槍の彼女があそこまで怯え全裸であるのは使用者の俺のせいという事か。曰く本来はある程度の装備や場合によっては武具等が付いてくるらしい。それが彼女には一切ない。代わりに犬耳と尻尾が付いている。ついでに言うと彼女とは意思疎通が出来なかった。何回か呼びかけてみても怯えるだけで近づこうにも腰の引けたか前で槍を突き立ててくる。

 

「う”ぅぅッ……!」

 

何よりも彼女には言語的な部分が致命的に欠如している。これでは意思疎通どころか会話すら成り立たない。さて、これからこの新たなツクモイド、どうしようか……

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