元パソコンの美少女と300年後の不思議な世界で生きるだけ 作:囚人番号虚数番
次の日、俺たちは先日作成したライフルの方、元狩人に挨拶に向かった。教会には既に村長と共に彼は不在だった。人伝に追っていくと元狩人の自宅に着いた。扉をノックをして狩人が出てくる。
「おお、貴公らが。村長からの話は聞いている。入りなさい」
「お邪魔します」
狩人の家はその名の通り古い型の様々な武器類と銃弾、自然物から採取した素材に置かれている。それと部屋の奥の箱から微かに鉄臭いに匂いが漂う。チラチラと見える中身的に保管庫なのだろう。彼はその蓋を閉めた。
ちなみに村長はここにはいない。どうやらもう帰ったらしい。
「貴公らはヒロとリナ、正体不明とパソコンのツクモイドだと聖職者の村長から名は聞いた。まずは座れ、茶を出そう」
「ありがとうございます」
彼は慣れた手付きで茶を出す。見たことのない茶葉だが匂いは良い。しかしリナには何気ない行動が不自然らしい。
「ライフルさん、誰かに茶葉の場所を教えてもらいましたか?」
「依り代が残っていたから、だろう。体は不思議と覚えている」
彼女の言動はまるで彼が覚えていない事を見据えた物だった。
「……?」
「マスター、依り代が同一でもツクモイドは生成される度半ば別個体として扱われ、記憶が消失します」
リナは俺の疑問にすぐに答えてくれた。つまり彼は恐らく初めて訪れたであろうこの家で迷わずに物の位置を把握できていたということだ。あたり前だが死人は蘇らない。蘇ったとしてもそれは別の誰かなのだ。彼はリナの説明に頷き、内容が本当の事だと示す。
「そうだとも。私の記憶は今朝目覚め初めてここへと訪れたのだ。しかし依り代は全てを知っている。初めてのこの家を難なく受け入れて、ここの道具の使い方や成すべき役割、それすらも感じている。私は狩人、獣を殺すのを生業としている」
「……」
「して、私からも一つ尋ねよう。彼女に服は着せさせないのか」
「……」「……」「がうう!」
椅子に座る俺たちとは更にもう一人、床の上で伏せる少女がここにいる。名はスピカ、鉄槍のツクモイドだ。彼女は服を着ていない。いや二人がかりで着せようとはしたのだ。しかし暴れて中々着せるのに苦労した上、運良く袖を通せたとしても力任せに破られてしまった。しかも家に置いておくわけにもいかないので苦渋の決断として体を洗って清潔にした後手を拘束し首輪を付けて連れてきたのだ。
元々ツクモイドには服が自動で生成される。しかし元から存在しないとなると困惑するのは無理ない。俺達だって苦渋の決断だった。
スピカは犬耳をピクピクと動かし尻尾を揺らす。今朝の高速の変更のせいでいつ暴れてもおかしくない。未だ落ち着いているのは彼女の機嫌を取る為に俺の保存食を全部与えたからだ。正直俺も食べたかったのは内緒だ。
「なら私が見繕おう。少し待ってくれ。余った毛皮なら少しある」
狩人が奥の部屋に行き数分後、戻ってきた彼の手に握られていたのは黒いワンピースだった。俺はそれを受け取ってリナに手渡す。リナはそれを素早く身に纏わせ、サイズ調整の為にその場で一回転させる。
「お?お?」
スピカはこの一連の流れに追いつけできないようだ。けれどこれでちゃんとした服を着せられ……
「お"おん!」パァンッ!
……られなかった。着せ終えた途端に服を破り捨てたのだ。狩人には申し訳ない。だがこの服は素材と一緒に保存されていた物らしく、おそらくボロ布なのだろうと彼も許した。確かに破片をよく見ると黒いというより何かで染め上げられた感じだ。
「破損は別に構わない。お礼のついでだと思ってくれ」
「すみません、助かります」
「それで、貴公らはこれからどうするんだ?」
「特に予定は決めていません」
「なら幾つか私の話を聞いてくれないだろうか。今回の件も含め礼ならする」
「貴公らよ、村の狩人にならないか」
「狩人!?」
ーーー
前提としてこの話は彼が村長から聞いた話らしい。この村は慢性的な人口不足に悩まされている。特に戦力的な問題が圧倒的に不足し現在の村で実質的に戦えるのは衛兵と狩人のみであった。戦闘性能だけならリナもいる。しかし彼女は村の中で非常に長い工業技術を持つ。怪我や死亡で動けなくなれば影響は大きい。いつスクラップが攻めてくるかわからないひ早々に戦力を整えたいところだ。
「コウ、貴公は獣を相手して戦い殺してみせたのだろう」
戦って殺したのは事実である。しかし「戦う」というにはだいぶ酷いで。生き残れたのが不安なくらいである。彼はむしろその怯えながら戦った、というのが重要らしい。死を恐れる当たり前の感覚こそが戦うには重要だとのこと。
その点スピカは彼にとっては相当優秀な人材であるそうだ。類まれない野生と実力を見極める確かな目。今はまだ粗製のなまくらだがうまく鍛えれば強くなる。
「だから彼女はあんなに落ち着いているのですね。この狭い室内では槍の間合いから逃げ出すのは困難。しかし相手は三人であり自身には拘束がされている」
「リナが言いたいのはつまり戦力的に拮抗してるから暴れない、そういう事か」
「はい、マスター」
スピカがそこまで凄いのだろうか。リナと二人で彼女の顔を見つめる。しかしやはり俺の目には心身共に犬のような彼女が心地よく寝ているようにしか見えなかった。
しかし俺が狩人、か。自分たちよりも遥かに強く危ない彼らと俺が全線で戦う。想像するのはかっこいい、しかし実行となるとどうにも躊躇してしまう。ツクモイドの作成以外にも出来る事が増えるのは俺も嬉しいが選択は慎重にするべきである。俺は一度よく考えさせてもらうと彼からの提案を一度断った。
「マスター、リナがここに飽きてきたので散歩次いでに自宅に戻ります」
「ゔう!」
散歩に向かう彼女らを見送りながらそんなことを考えていた。俺に用があるから待ってくれと一時的に離席していた狩人が戻る。彼には彼女の帰宅を説明し納得してくれた。
「もとよりこれからの話には彼女らは必要ないからな」
「で、話って何ですか?」
「ああ、私の不手際の始末のお礼だ」
彼は机の上に一丁の古い拳銃を置いた。ゲーム等でよく見るような形で手に持つと大きい。細部をよく観察すると本物の銃の構造に疎い俺でも見慣れない加工がされていることが分かった。青い水晶が嵌められた小さな円盤状の物であり近未来的な物だ。既知のカスタムのどれもと一致しない。
狩人曰く古い技師が作り出したアニマを利用した銃弾無限化装置だそう。ツクモイドのアニマの用法を解析し弾倉に応用したらしい。同様にツクモイドの武器はアニマの限り潰えない。銃弾も無限らしく、故にあまり他の武器には手を出さないそう。
「これは私の武器庫の奥底に眠っていたものだ。私には自前の物がある。だから君にはお礼としてこれを授けよう。自衛の為や狩人になるならば有効に使え」
ーーー
「狩人、か」
家に戻るなり俺はベッドの上で横になり考える。狩人、狩人ね。正直まだ実感がない。この世界にきて一週間も経っていないのにいきなり狩人になれと言われても困惑しかない。それに俺が狩人として狩りに出るなんて想像できない。
「マスター、迷っていらっしゃるのですか?狩人の件」
「んー……どうなんだろうな。ただ狩人になってどうなるのかなって考えてた」
「別に無理になる必要はありません。マスターの仕事は適度にツクモイドを作成する事です」
「それは確かにそうなんだけど……」
リナはいつも通り冷静で的確なアドバイスをする。しかし俺の心は揺れている。もし村でスクラップに襲われた時に何も出来ないのは嫌なのだ。
「この村では戦闘が可能な人材は貴重な存在です。たとえ私と同じ殉職が許されない立場でも今はそれすらも惜しいのです」
「……じゃあ人材が増えるまでは俺も協力してみようかな」
「了解しました。マスター」