ソードアートオンライン~デッド・オブ・グレートセイバー~ 作:榛野 春音
近々SAO篇ラストです!
それでは、最新話をお楽しみください!!
1
エルとアールの一件から数日後、エリウは偶然にもキリトを見かけた。
しかし、キリトの様子はいつもと違っていた。
キリトは自身の象徴の一つである黒一色の装備をしていないのである。代わりに白に赤いラインの入ったコートを着込んでいる。
そこでエリウは、とあることを思い出した。
そういえば、キリト血盟騎士団に入ったんだったな。
そして、再びキリトに視線を戻すと別のことに気づく。
キリトの横に二人ほど知らない奴がいる。一人は、長髪灰色頭の両手剣使いで、疲れた顔してる。もう一人は、もみあげと顎髭のつながっている茶髪の斧使い。かなりオッサンくさい感じ。
どちらも血盟騎士団のメンバーのようだ。
訓練にでも行くのだろうか?
まぁ。暇だしついて行こう。
エリウは、そっと物陰に入って、隠蔽スキル[ファントム]を発動させる。
黒い靄に紛れるようにして、エリウの姿が完全に周りから見えなくなる。
準備を整えて、キリト一行にそっとついて行く。
すると、エリウの背に背負っている大剣からが囁くような声がする。
「エリウ。あれクラディールだよ」
ストレアの言葉にエリウは首を傾げる。
「誰?」
「忘れたの?この間、七十四層迷宮区行く前にキリトがデュエルした血盟の人。アスナの元監視役みたいな人よ。あの髪長い方」
そう言われて、なんとなくだがそんな人もいたなぁ~程度に思い出す。
「ってことは、キリトと仲悪いんじゃね?なんで一緒?」
「さぁ?でも噂だと、血盟騎士団の訓練とかパーティーって上が勝手にメンバー決めるみたいだからさ。好きで組んでる訳じゃないんじゃない?」
「あぁ。なら、仕方ないかぁ。まぁひとまず追うぞ」
そう言ってエリウは、キリト達を追うべくして歩を進めた。
キリト達は、その後大峡谷地帯のフィールドで訓練戦闘を行った。
その間、エリウは武器や防具、スキルの情報誌を読みふけっていた。
「エリウ。キリト達休憩するみたい」
ストレアの言葉に情報誌から視線を上げる。
キリト達は、丁度昼飯の配布をしていたところだった。
今回のリーダーらしい例の斧使いが、キリトとクラディールに袋を投げてよこしている。
「私達もごはんにしない?」
ストレアがそう言って、ウィンドウを開く。
エリウが欠伸混じりにストレアに向き直ろうとした時、視界の隅に配られたドリンクを飲もうとするキリトが映る。そして、それを見てニヤリと笑うクラディール。
「いや、待てストレア。あれは」
次の瞬間。
キリトがドリンクを投げ捨てる。ドリンクが爆散すると同時にキリトと斧使いがその場に倒れ込んだ。
二人のカーソルには、麻痺アイコンがついていた。
そして、
「うひゃひゃひゃ!!!!」
クラディールの笑いが当たりに響く。
斧使いが驚愕の表情で呟く。
「このドリンクを用意をしたのは・・・・・・クラディール。お前!」
すると、クラディールはニヤニヤと笑いながら斧使いに近づく。
「ゴドフリーさんよぉ。あんたお人好しすぎなんだよっ!!」
言うなり、クラディールは両手剣を斧使いのゴドフリーに突き刺した。
「ぐはっ!!」
ゴドフリーが思わず声を漏らす。
「うふははは!!」
クラディールは、嬉しげに剣をゴドフリーの背に深々と突き刺す。
野郎!!
エリウが振り返るとストレアが頷く。
エリウは、ストレアを剣に換え飛び出した。
[ファントム]の効果で姿は見えない為、クラディールはこちらに気づかない。
エリウは、思い切りクラディールを蹴り飛ばした。
「っ!!!!」
クラディールがものすごい勢いで吹き飛んだ。
エリウは、すぐにゴドフリーの背から剣を抜いた。
見ると、ゴドフリーもキリトも何が起こっているのか分からないという顔をしている。
クラディールは、目を白黒させながら立ち上がる。
「なっなんだ?」
そう呟きながら、クラディールは剣を拾おうとする。
エリウは、その剣を遠くに蹴ろうした。
しかし、突然に彼方背後から何者かの気配を感じて飛び退いた。
その次の瞬間。
クラディールを閃光が貫いた。
再びクラディールが吹き飛んだ。
アスナだ。
突然に現れたアスナは、キリトに駆け寄るとキリトの麻痺を解いた。
アスナは、キリトに何か言うとオドオドとしているクラディールに視線を向けた。
いや、待てゴドフリーさんは?麻痺解いてやれよ。ったく。これだからリア充は・・・・
仕方なくエリウは、ゴドフリーの麻痺を解いてやる。
そして、すぐにアスナとクラディールに視線を戻した。
「ア・・・・アスナ様これは、その・・・・訓練の一環で・・・・」
明らかに動揺しているクラディールをよそにアスナは、細剣で一突き。
「ひっ!!」
クラディールが悲鳴と同時によろめく。
アスナは、たたみかける如く次々に突きを入れた。
クラディールが叫び、そのゲージがどんどん削れていく。
クラディールのゲージがレッドゾーンにさしかかった時、クラディールの左腕の装備が破損した。
「「「「「!」」」」」
空気が凍った。
キリト、アスナ、ゴドフリー、エリウ、ストレアが息をのむ。
なぜなら、クラディールの左腕にはとある紋章が刻まれていたのだ。
エリウは、つい先日その紋章を見た。
笑う棺桶。
「ラフィン・コフィン・・・・」
キリトが呻く。
エリウは、口を噤む。
エルとアールの件は、ラフィン・コフィンごっこに過ぎなかった。今回もそうだと願いたい。しかし、だとしてもあの殺人ギルドの紋章が世に回ることは好ましくない。まるで、まだラフィン・コフィンは終わらないとでも言うようなほどの出現率。エリウは、エルとアール以外にも数日前にラフィン・コフィンを名乗るオレンジを三人程、牢に送っている。
嫌な傾向だ。
エリウは、取り敢えず姿が見えないままその場から少し離れる。
果たして、クラディールはどちらなのだ?
「クラディール。あなた・・・・それ」
アスナが呟く。
すると、クラディールは笑った。
「ふふふ。さっきの麻痺テクもここで習ったんだ。おっと、勘違いすんなよぉ?ラフコフ擬きじゃない。本人に習ったんだ」
それを聞いて、キリトが目を見開く。
「本人って・・・・まさかお前!」
キリトが声を荒げると、クラディールは凄みのある顔でニヤリと笑う。
「そう!ラフコフの男。Pohだ。アイツに習ったんだ」
Poh。最強の殺人プレーヤーにして、ラフィン・コフィンのリーダー。友切り包丁=メイトチョッパーを扱うカリスマ性抜群の男。
ラフィン・コフィン壊滅後も捕まらず、今もどこかでプレーヤーを狙っているらしい。
そしてこの様子だと、今は直接手を下さず、間接的に殺人を行ってると見た。
クラディールは、恐らくPohの人形。
ったく、酷なことしやがる。
エリウは、唾を吐いた。
前方では、アスナとキリトがクラディールと睨みあっている。
「まっ。知られちゃ。仕方ない。この紋章だけは見せなくなかったんだがなっ!!」
そう言って、クラディールが両手を挙げた。
すると、峡谷の岩陰などから数人のフードを被ったプレーヤーが現れる。
フードを被ったプレーヤー達は、あっという間にキリト、アスナ、ゴドフリーを囲みこんだ。
クラディールが笑う。
「そんな訳で、ここで三人とも死んで?」
言うなり、三人にフードのプレーヤー達が飛びかかった。
2
フードのプレーヤー達とクラディールがじりじりとキリト達に詰め寄る。
エリウは、隅の方でいつ出るか様子を窺っていた。
迂闊に飛び出せば、ことは直ぐに終息するが事後処理が厄介になる。
どうすべきか・・・・。
と思った時、
「キリトぉぉぉおお!!!!!」
大声が辺りに響く。
その場にいた全員が顔を上げた。
すると、崖の上から複数のプレーヤーのシルエットが降ってきた。
降って来たのは、クラインを含むギルド風林火山のメンバーとエギルだ。
突然の増援にフードのプレーヤー達とクラディールが後退りする。
そして、
「撤退!」
クラディールが叫び、フードのプレーヤー達が駆け出した。
クラディールもそれに混じって逃げ出した。
「おい!待てオメェら!」
クラインが怒鳴り、追いかけようとする。
しかし、キリトがそれを制した。
「クライン。大丈夫だ。あとは、任せよう」
「はぁ? だっ誰に?」
クラインが訳が分からないという顔をする。
しかし、キリトは答えない。
その代わり、逃げていくクラディール達の背を眺め、そっと呟いた。
「・・・・エリウ」
×××
エリウは、ファントムを使用したままクラディール達を追っていた。
足音が聞かれたくなかった故に左右の壁をジグザグに跳ねながら追いかける。
正直ラッキーだった。あのままクラディール達と戦闘になっていればこちら側のリスクが大きい。何せフードのプレーヤーのほとんどがレッドだったからだ。間違いなく誰かが死ぬ。
敵が死ぬのはどうでもいいが、こっちが死ぬのは困る。
それにもう一つラッキーなのは、ちょっとした疑問が解消できることにある。
先ほどフードのプレーヤーが現れた時、エリウはあることに気がついた。
それはフードのプレーヤーの中に一人グリーンがいたのだ。
犯罪者集団にグリーンがいるのはけして珍しくはない。レッドからグリーンに戻る復帰クエストをこなせば、どんなレッドもグリーンに戻れる。
しかし、エリウが着目したのはそのグリーンが纏う雰囲気だった。
周りが殺意をたぎらす中、そいつからは微かに怯えが感じられた。
エリウは、クラディール達が休憩するべく立ち止まったのを見計らい、飛び出した。
クラディール達の頭上でファントムを解除する。
そして、スキルを放った。
アブソリュート・セイバー固有九連撃技[エリュアム・ダッジ]。
赤いエフェクトと共に九つの閃光が剣より飛翔する。
九つの閃光は、グリーン以外の全てのプレーヤーを貫いた。
その場にいた全員が驚愕した表情となり、上空より現れた暗黒点に目を向けた。
閃光に貫かれた全員のHPがゼロになる。
そして、
次々にプレーヤー達がポリゴン化して爆散。
最後に悔しげな表情でクラディールが呟く。
「この・・・・人殺しが・・・・」
クラディールが消え、その場にはエリウとグリーンのプレーヤーが残される。
エリウは、グリーンのプレーヤーに向き合った。
「お前、汚れ仕事は初か?」
すると、グリーンのプレーヤーは微かに頷いた。
エリウは、続けた。
「今後二度とこういうことに手を出さないと誓えるなら、逃がすが・・・・。どうする?」
そう言った時、グリーンのプレーヤーが口を開いた。
「なんであんたにそんなこと言われなくちゃなんないの?」
その声は、男のものではなかった。
グリーンのプレーヤーは、フードを脱いだ。
そこには、整った容姿のロングヘアーの少女がいた。少女と言ってもエルやアールよりも年上な感じがする。
少女は続けた。
「殺したければ、殺す。それが私。ヒーロー面かなんだか知らないけど、今目の前で殺しをしたあんたに言われたくない」
そう言って、少女は腰からレイピアを抜いた。
そして、
「あんたは、私が殺す」
そう言って、エリウをキッと睨みつける。
エリウは、冷ややかな目で少女を見る。
「俺は、状況理解力に乏しい女は嫌いだ」
言うなり、エリウは一瞬にして少女に詰め寄り、レイピアを奪う。そして、有無も言わせぬ速さで少女を突き飛ばした。
少女が物凄い勢いで壁に叩きつけられる。
苦しげに顔を上げた少女の頭を掴み、エリウは自分に引き寄せる。
「お前の言うことは、最もだ。確かに目の前で殺しをした奴に殺しは良くないと言われたら腹が立つ。でも、見方を変えればこうだ。殺した経験があるからこそ、他人にはその経験をさせたくない理由がある」
「っく」
それを聞いて、少女はエリウを睨みつけたまま声を漏らす。
エリウは、そのまま少女を地面に叩きつける。
少女が苦痛に顔を歪めた。
「もう一度聞く。二度と殺しに荷担しないなら見逃すが、どうする?」
その声は、無人の峡谷に凜として響いた。