ソードアートオンライン~デッド・オブ・グレートセイバー~ 作:榛野 春音
1
コボルドロードとの戦いは、割に順調に進んでいた。既にコボルドロードのHPゲージは、四本中三本目が削れ始めている。
が、エリウから言わせれば、遅い。要領が悪いの二言で済ませられる内容だった。
まず1に例の目に付いた二人のプレーヤーのポジションだ。
さっきから視界の隅にちょくちょく捉えるのだが、あの二人はかなり優秀な部類に入る。間違いなくこの攻略隊の中では、トップクラスのプレーヤーだ。だが、二人は決して前線に出ようとはしないのだ。攻略隊のバランスを取ろうとしてるのかと思って見ていたが、そうでもないように見える。
キバオウだ。
あの男が少年の方に何か言ったのを俺は見逃さない。直後から、先ほどに増して少年の動きが消極的になる。相方の方はそこまででもないが、どこか少年の方の勢いに便乗しているように見える。
雰囲気を崩すのもキバオウか・・・・。
そして第二にディアベルの指揮だ。ストレートに攻めればもっと早く済む相手にも関わらず、どこか用心過ぎる。一見敵の様子に注意しているようにも見える。しかし、エリウにはディアベルが何かのチャンスをうかがっているようにも見えてしかたない。ただチャンスをうかがうならいいのだが、ディアベルからは欲臭がする。
俺は、周りの目を盗みつつ兵隊コボルドにスキルを放つ。
《アブソリュート・セイバー》固有三連撃スキル[トライデント]。
エリウは片手で大剣を持ち、しなる弓の如く引く。そして、黄色いエフェクトが大剣を包み込んで その切っ先が三つ叉に変化する。
「せいっ!!」
エリウは、気合いのこもった声と共に大剣を突き出した。三つ叉の切っ先が流星の如く一直線に兵隊コボルドの首元にのびる。
大剣はあっさりと兵隊コボルドの首元を貫く。すぐさま兵隊コボルドの体がポリゴン化し爆散する。
一撃だった。
本当に《アブソリュート・セイバー》の威力は恐ろしい。通常のプレーヤーなら、この兵隊コボルドを倒すのに二回から三回のスキルを行使する。改めてその威力を目の当たりにしてエリウは我ながら舌をまく。
その時、
グオォォオオ!!!!
先ほどとは、声音の違うコボルドロードの砲口がフロアに響く。
反射的にコボルドロードの方を見たエリウは目を見張った。
コボルドロードは、どうっと床を踏みしめ、飛び上がった。そのまま空中で体を捻り、武器に力を込める。落下と同時に充填されたエネルギーが、紅色のエフェクトと共に螺旋風の如く解き放たれた。
水平に360°。見たこともないスキルだった。
前線で戦う隊のHPゲージが一気に黄色ゾーンまで減少する。
そして、それを受けた者全員の頭上に回転する黄色い光、スタンを意味するカーソルだ。
ウグオオ!!!
コボルドロードが次のスキルモーションに入る。対象は正面に倒れているディアベルだ。
終わったな。
心無い感想だが、瞬間的にそう思ってしまう。
そして、その感想どうりディアベルはそのスキルを受け、追い討ちの如く続く三連撃スキルをクリティカルに受けて、大きく吹き飛ぶ。ディアベルはそのまま兵隊コボルドの相手をしていた例の少年のそばに物凄い勢いで落下した。
少年は、相方に兵隊コボルドを任せディアベルに駆け寄る。間もなく、ディアベルはポリゴン化して爆散した。
ディアベルが死んだ。
あまりにもアッサリと散った命にさすがのエリウも息を飲む。
悲鳴がボス部屋を満たした。
誰もがその場に硬直し判断に迷っていた。確かにリーダーの喪失は大きすぎる打撃だ。
しかし、悲しみに打ちひしがれる時間すら与えないのが、ボス部屋である。
すぐにコボルドロードが暴れ始める。
しかし、全てのプレーヤーが動けずいる今、この攻略隊の壊滅は目に見えていた。
ここまでか。
エリウは、ため息をついてゆっくりとコボルドロードに歩いて行く。
正直な話、コボルドロード程度なら自分一人も倒せるだけの自信がエリウにはあった。しかし、スキルの隠蔽を理由にそれは避けたかった。が、今そんなことを言っていてはここにいる全プレーヤーをディアベルの二の舞にしかねない。
エリウがコボルドロードのターゲット範囲に差し掛かろうとした時だった。
「へたってる場合か!」
低い叫び声がフロアに響く。振り返ればその主は、例の少年だった。
「なっ・・・・なんやと?」
キバオウがかすれそうな声で返す。
その後は、コボルドロードの暴れる音に阻まれて聞こえなかった。しかし、その少年が周りに指示を出したのは分かる。
そして、すぐさま少年は相方と共にコボルドロードに向かって駆け出した。エリウは、ため息をついてくるりと踵をかえして、フロアの壁まで歩いて行き、そこにもたれかかった。
その時、少年の横を走る相方がフード付きケープを邪魔そうに引き剥がした。
流星が見えた。
少年の相方は、美しい栗色のロングをたなびかせて疾駆する。とてつもない美人だった。
「やっぱり女か・・・・」
エリウは鼻で笑い、二人の戦いを見る。
見事な連携だ。
無駄が無く、息も合っている。次々と打ち込まれるスキルは、見ていて心地よいぐらいに綺麗に決まっていく。
しかし、十数回続いた剣撃は、コボルドロードの応用力で途切れる。
少年が上段切りのスキルを繰り出す直前、それを見越したコボルドロードは、剣の起動を変え真下からスキルを発動させた。
少年が吹き飛び、相方の少女が怯む。しかし、少女は躊躇わずコボルドロードに突っ込む。
しかし、この判断は間違えだ。
見たところ、今回のコボルドロードが使用したスキルのポストモーションは短い。直後に次のスキルを発動されて可笑しくない状況だ。
そして、案の定コボルドロードは、ディアベルを仕留めたあの三連撃スキルのモーションに入る。このタイミングでは、少女はスキルの直撃を免れない。
しかし、ここで思わぬ助太刀が入る。
「ぬ・・・・おおおッ!!!!」
雄叫びと同時に少女の前に巨大な斧を構えた巨漢が踊りでる。エギルだ。
エギルは、コボルドロードのスキルに対抗するようにスキルを放つ。2つのスキルがぶつかり合う。物凄い衝撃と共にコボルドロードがノックバックする。しかし、エギルは踏ん張り一メートル程度下がり留まった。
その光景を見て、周りのプレーヤーも志気を取り戻す。
その後は言うまでもない。
エリウは、壁にもたれかかりコボルドロードのHPが消えていくのをぼんやりと見ていた。
そしてついに、
グォッ!グオォォオオ
低い苦しげなうめき声の後、コボルドロードはポリゴン化し爆散した。
勝ったのだ。
2
正直、とんだ茶番だった。
馬鹿な友情ごっこでの勝利は、リーダーの死の元にある。アホらしい。
そんなことを考えながら、エリウは欠伸混じりにさり気なく、攻略隊の輪に混じる。
少年と少女、エギルの三人が何か話しているのが見える。
その時、
「何でや!!!・・・・なんで、ディアベルはんを見殺しにしたんや!!!!」
悔しげな叫び声に全プレーヤーの視線が一人注がれる。
この主は、キバオウだった。そして、その言葉は、少年に向けられていた。
「見殺し?」
少年が不思議そうに声を漏らす。
「そうや!アンタ、ボスの使う技知っとったやないか!わいは、聞いたで!アンタがダメだ!って叫んだの!」
すると、周囲から疑問の声が飛び交い始める。
そして、唐突にキバオウは叫ぶ。
「アンタ、元βテスターやろ!やから、知っとった。他にもいろいろ知っとって隠しとるんやろ?」
しかし、その言葉を聞いて驚いた者は少なかった。
エリウ自身も薄々気づいてはいたことだった。
すると、エギルが少年に助け舟を出す。
「でもよ。情報屋の攻略本には、β時代の情報だと書いてあった。もし彼が元テスターなら、むしろ知識は攻略本と同じじゃないのか?」
「そ、それは・・・・あ、あの本事態が嘘やったんや!情報屋がウソを売ったんや!そうに違いない!アイツも元テスターや。ただで情報売るなんてあり得んかったんや!」
まずいな。
エリウは、直感的に思った。このままでは、少年はおろか、他の元βテスター全てにまで敵意が向けられることになる。生死を分けるこのゲーム内でプレーヤー間の分裂は、避けるべきだ。
しかし、思ったところで自分には何も出来ない。エリウは、仕方なく固唾を飲み、少年を見る。
さぁ、どうでる?
すると、少年は意外な行動に出た。
少年は、如何にもふてぶてしく無感情な声で言った。
「元テスターだって?俺をあんな素人達と一緒にしないで欲しいな。」
「な・・・・なんやと?」
キバオウを含めるその場にいる全プレーヤーが凍り付く。
少年は構わず続けた。
「いいか?そもそもSAOの抽選倍率は凄まじかった。受かった100人中、本物のゲーマーが何人いたと思う?ほとんどはレベリングのやり方も知らないニュービーだったよ。今のアンタらの方がましだ。」
そこまで聞いて、エリウは吹き出した。少年の考えとこの先の言葉が読めたからだ。
吹き出したことにより、全員の視線が少年からエリウに注がれる。
「何がおかしい?」
少年が冷たい目でこちらを見る。
エリウは、笑いをこらえ涙目を拭ってから話だした。
「いや。悪い悪い。・・・・要はお前、自分はそんな奴らとは違うって言いたいんだろ?それにこれは憶測だが、お前テスト中、一番最前線で最高階層まで登ったんじゃねぇの?ボスのスキルも上の層で見たことあったから知ってたんだろ?つか、それだとしたら知識量は情報屋どころじゃないんじゃねぇの?」
すると、少年は頷いた。
「ご明察だ。話が早くて助かるよ。」
「そりゃ、どーも。」
エリウは、少し小馬鹿にしたようなおどけた礼をしてみせる。
すると、周囲から少年に対する文句や罵倒が飛び交い始める。
キバオウもチートとか何やら、喚いている。
少年は、それらの言葉を全て無視して一言、
「俺は、βテスターのチーター、ビーターだ。これからは、元テスター如きと一緒にしないでくれ。」
そう言って、少年はアイテムストレージから、黒いロングコートを取り出して、装備する。
「二層の転移門は、俺がアクティベートしといてやる。ここから少しフィールドを歩くから、初見のMobに殺される覚悟のあるやつは付いて来な。」
そう言って、少年は歩きだした。
全てのプレーヤーが驚愕と怒りで硬直する中、エリウは躊躇わず少年の後に続いた。
階段を少年に続いて登る。
「死ぬ気か?」
不意に少年がエリウに声をかけてくる。
「おいおい。人の心配するなんて優しい奴だねぇ?さっきのは演技かい?」
そう、あれは演技に違いない。
この少年は、プレーヤー達が割れることを恐れ、そうなるくらいならとその矛先を自ら自身に向けさせたのだ。
少年の顔が一瞬、驚愕の表情をとる。
やっぱりな。
エリウはそれ以上は言わず、階段を登る。
その時、
少年の相方である少女が駆け上って来るのが見えた。
エリウは、早足に少年を抜き、すれ違い様に言った。
「お客だぜ?」
その後、少年と少女がどんな話をしたのかエリウは知らない。
エリウは、吹き出した時点である決意をしていた。
この少年の為に戦おうと。この少年をどこまでも支えていこうと。
プレーヤー間の分裂を防ぐ為に自身の身を投げ打つなど、少年に出来る芸等ではない。ましてや、その苦しみは計り知れないことぐらいこの年齢なら分かるはずだ。それでも、身を呈した少年には計り知れない勇気と強さがあるとエリウは思った。
この感情は、決して好意などではない。むしろ忠誠に近い感情だった。
後にエリウが少年の名をキリト、少女の名をアスナと言うことを知るのは、まだ先の話だった。