ソードアートオンライン~デッド・オブ・グレートセイバー~ 作:榛野 春音
それでは、最新話をお楽しみください
1
キリト達がトラップエリア内で戦うをただ見ている訳にはいかない。しかし、部屋の外にいる以上エリウには何も出来ない。
何か方法は・・・・
そう考えつつ、扉に愛剣を挟み込むことで作った隙間から中の様子を見る。
部屋には様々種類のモンスターが無数にひしめいている。そして、それに囲まれる黒猫団とキリト。そしてその中心にトラップアラームを鳴らし続ける宝箱があった。
その時、
部屋に悲鳴が響く。
そちらに目を向けると、たった今例のシーフがポリゴン化して爆散する。続いてメイサー使いが死ぬ。そして槍使いも死んだ。
キリトは、隠していた上位スキルを滅茶苦茶に乱発して次々にモンスターを排除していく。
部屋には、キリトと一人の少女が残る。情報屋の話にあったサチと言う少女だ。
見れば、少女のHPゲージはレッドゾーンに達している。
そして、
「サチ!!!!」
キリトが名を叫ぶ中、少女はポリゴン化して爆散する。
キリトの顔色が焦りから絶望の色へと変化する。
エリウは、瞬時とポケットから《還魂の聖晶石》を取り出して使用を選択。
刹那
《還魂の聖晶石》が爆散すると同時に扉の向こうで爆散したポリゴンが再生し少女を形作る。すぐにポリゴン化が溶け、少女が息を吹き返した。《還魂の聖晶石》は、アインクラッドでは貴重な蘇生アイテムだ。死亡より10秒以内なら使用可能なこのアイテム。偶然にもドロップしていたことに感謝する。
「っ!」
キリトが息を呑み、目を見開く。サチの復活と言う有り得ない出来事に動揺している様だ。当のサチもまだ状況が飲み込めないといった様子で、ぼんやりとしている。
キリトはすぐにサチを背にかばい、モンスター達を次々に凪払う。
ひとまず、サチを救ったのは良いがこのままでは、キリトが持たない。
エリウは、考える。
そして、ある可能性を見いだした。
「やって見なけりゃわかんねーからな!」
エリウは扉に挟まっている愛剣を握る。その切っ先は、部屋の中心にあるアラームボックスに向いている。
あれを破壊すれば、もしかしたら?という僅かな希望を抱き、エリウは、スキルを発動させる。
《アブソリュート・セイバー》固有単発スキル[ヴァンヴォルグ]。
扉に挟まって動かない愛剣を握り締め体だけスキルモーションを取る。
愛剣がスカイブルーのエフェクトに包まれた直後、流星の弓矢の如く、愛剣に溜まったエネルギーが一直線に放出されアラームボックスに飛んでいく。
[ヴァンヴォルグ]がアラームボックスを貫く。すぐさまアラームボックスはポリゴン化して爆散。
すぐにアラームが鳴り止む。そして、キリト達を囲んでいたモンスター達が次々に消滅していった。
キリト達は、何が起こっているのか分からないといった様子で剣を握ったまま辺りを見回している。
このように理不尽なトラップエリアには、一つや二つ裏技的な突破方法がある。今回のような仕様のトラップエリアは、裏ダンジョンには腐る程ある。
エリウはため息を付くのも束の間、すぐさま[ファントム]を起動し開いた扉から愛剣を抜き取った。
再びキリトを見ると、彼は燃え尽きたように座り込んでいる。その顔には只ならぬ罪悪感がにじみ出ていた。
サチは、トラップ終了で使用可能となった転移結晶を握り締めキリトに声をかけた。
「・・・・帰ろう。キリト。」
非常に震えた声で、その声は今にも消え入りそうな声だった。聞いているエリウも心が痛む。
黒の剣士は小さく頷いて、ゆっくりと立ち上がる。
二人は、ホームタウンへと転移していった。
残されたエリウは、黒の剣士のいたところに立つ。
ふと、地面を見るとそこには一滴の悲しみの雫があった。
エリウは、目の前で人が死んだ恐怖と、ギリギリまで何もできなかった自分の無力さを噛み締め、雫の上に乱暴に愛剣を突き立てた。
「・・・・もっと、力が必要だ。」
2
新しいギルドハウスの鍵を持ち、メンバーの帰りを待っていたリーダーは、サチのみを連れて帰って来たキリトから全てを聞いた。
四人が何故死に、何故キリト達二人が生き残れたのかを。
リーダーは、空の表情で一言。
「ビーターのお前が、僕達に関わる資格なんてなかったんだ。」
その言葉に反論しようとするサチを制し、キリトはギルドを離れた。
別れ際
今にも鳴きそうなサチにキリトは静かに言った。
「・・・・ごめん。サチ。」
その後、キリトが黒猫団に関わることは二度となかった。
半年後
「キリ坊は、クリスマスイベント狙ってるらしいゾ。」
「へぇ。」
エリウは、気のない返事をしてアルゴを見る。そろそろアルゴもエリウの態度に慣れてきたようでいちいち反応にムッとするようなことはなくなった。
一通り必要な情報を売った後、帰ろうとするアルゴをエリウは呼び止めた。
アルゴは、怪訝そうに振り返る。
「なんだョ?」
その顔にエリウは、クリスマス用の装飾で飾られた包みを投げる。
アルゴは、慌ててそれを受け止めて不思議そうに眺める。
「いつもの礼だ。それにちょうどクリスマスだからな。良ければ使ってくれ。」
エリウは、飽くまでもぶっきらぼうな口調で言った。
すると、アルゴはひどく驚いた様子で包みを眺めて、小さく言った。
「開けて・・・・いいヵ?」
「お好きに」
そう言って、エリウはアルゴに背を向けた。
いつもアルゴには、世話になっている。しかし、情報の漏えいを恐れる故いつも冷たい態度をとってしまう。クリスマス位は、お礼をしても良いだろう。
背後でアルゴが息をのむのが分かる。
それもそうだ。エリウがアルゴにプレゼントしたのは、最前線の層にある高級雑貨店で最高級のイヤリングだったからだ。情報屋ならこれくらいの商品を目にしたことぐらいあるだろう。しかし、手にするにはいささか一般プレーヤーには不可能な値段だ。
しかし、これだけのものをプレゼントしてもアルゴへの恩は返しきれるものではない。
「なぁ…。」
アルゴが不意に肩をつついてくる。
「あ?」
エリウが振り返ると、アルゴはもじもじしながら小声で言った。
「いや。その・・・・ありがとうナ。そのこういうのはじめてでさ。なんてお礼していいのか・・・・。これスッゴく欲しかったヤツなんだョ。」
「礼とか、いいって。いつも世話になってるのはこっちだ。」
すると、アルゴはこちらをちょっと覗き見るような目をして小さな声で言った。
「あの・・・・さ。これは、売らないって約束するからさ。名前だけでも教えて・・・・くれョ。」
珍しいな。
素直にそう思った。
でも、アルゴなら約束は守るだろう。
だから、エリウは名乗った。
「俺は、エリウ。改めてよろしくな。」
その時のアルゴの笑顔は、非常に強く記憶に残った。多分一生忘れることはないだろうな。
そんなことを考えつつ、アルゴの帰った部屋に残されたエリウは出かける支度を始めた。
明日は、クリスマス。キリトが動くようだ。恐らくクリスマスイベントの報酬である蘇生アイテムが狙い。目的は、言うまでもなく黒猫団のことだろう。
今夜は、これから友人のクラインと夕食がてらに明日のキリトサポート作戦の概要について話あう。もちろんキリトはそのことを知らないし。エリウの存在すら知らない。
それでもエリウは行く。
それが己の進む道だと信じるから。