ソードアートオンライン~デッド・オブ・グレートセイバー~ 作:榛野 春音
それでは、最新話をお楽しみ下さい!
「私ストレア。よろしくね?」
目の前の少女は、そう言ってニコリと笑った。
「・・・・え?」
わけが分からず、エリウの口からは思わず疑問の声が漏れる。
すると、ストレアたる少女は続けた。
「私ね。プレーヤーじゃないの。AIって知ってるかな?」
ストレアの言葉にエリウは、無言で頷く。そして
「プログラム人工知能って、わけか・・・・半ば信じがたい。・・・・それより、そのAIが俺になんのようだ?」
エリウの不機嫌丸出しの口調に怯む様子もなく、ストレアはニコリと笑う。
「私は、《アブソリュート・セイバー》の最後のピース。」
言うなり、ストレアの身体が発光し紫の光へと変化する。そのまま光は、エリウの眼下で螺旋の描き大剣の形をかたどる。
そして、
「これは・・・・。」
エリウの前には、紫の大剣。異形の装飾とその刃の輝きからただならぬ強さを感じる。
ストレアは、大剣に変化したのだ。
大剣となったストレアは、宙に浮いている。
「《アブソリュート・セイバー》は、私と共にある。私という武器を手にすることで《アブソリュート・セイバー》は完成するの。」
ストレアの言葉を聞き、エリウは目を見開く。
「なんだ・・・・と?」
確かにストレアの上には、プレーヤーカーソルが存在していない。そして、現にストレアの変身した大剣をタッチすると武器オブジェクトを示す表示が出現する。
[デッド・オブ・グレートセイバー]
それがこの大剣の名だった。
エリウはそのステータスを見て息をのむ。
「パラメータ全てがカンストしてる・・・・だと!?」
すると、ストレアは答えた。
「これが武器としての絶対剣。・・・・私を使ってくれる?」
エリウはその言葉を聞き、改めてストレアをそっと手に取り見入る。
最強にして最高だ。
最強を手にする喜びよりも、この力で救えるだろうものの多さに全身が震える。
これが本物の《アブソリュート・セイバー》。
あと200が遂に埋まる。これで救える。これで・・・・守りたい全てが守れるのだ。
あまりの興奮と喜び、そして偉大なる力を得る責任にエリウはグッと拳を握る。
震える体を歯噛みすることで抑え、ゆっくりと息を吐く。
そして、
「もちろんだ。・・・・ストレア・・・・俺の刃となれ!!!」
その言葉にストレアは、無言の代わりに刀身をキラリと煌めかすことで返事とした。
2ヶ月後
アインクラット第三十五層迷宮区。
「ストレア!スイッチ!!!」
「オッケー!!!」
エリウの声と共にストレアがエリウと入れ替わり、モンスターに攻撃を食らわせる。
ストレアの持つ大剣を受けて、リザードマン型のモンスターが仰け反る。
それを見たエリウが、すかさず前に出て叫ぶ。
「ストレア!ブレードチェンジ!!!」
刹那
ストレアが紫の光に変化し、すぐさまエリウの手元で大剣[デッド・オブ・グレートセイバー]に変身した。
エリウは素早くそれを逆手に握り、スキルモーションに入る。
ストレアと組むことで《アブソリュート・セイバー》の熟練度が上昇した。それによる新スキルの追加。
かますぜ新スキル!!!
《アブソリュート・セイバー》固有二十八連撃技[リジェルデート・ヘイン]。
逆手に持ったストレアを高速で次々に振り回す。途中に回転切りと、通常両手切りを加える。
合計二十八連の剣撃は、緑色のエフェクトと共に次々に放たれる。
グオォォアアア!!!
リザードマン型のモンスターは、呻き声と共にポリゴン化して爆散。
かなりオーバーキル過ぎた。
そう思ったがそれでも、新スキルを試せたことは満足した。
残されたエリウは、ゆっくりと息を吐いた。
「ストレア。・・・・もう、いいよ。」
すると、ストレアは煙のようになり元の姿に戻った。
ストレアは、フッ息を吐いて笑う。
「流石エリウね。」
しかし、エリウはさして気にする様もなく適当に答える。
「ストレアいてこその力だ。・・・・それにこいつは、オーバーキル過ぎた。」
そう言って、エリウはストレアとすれ違う。
「またまたぁ~。なんでエリウはいつもそうかなぁ?私をほめてくれるのはうれしいなっ」
ストレアは、差も嬉しそうに首を傾げる。
「事実なんだ。・・・・それより帰るぞ。」
「・・・・うん。」
エリウの冷めた言葉にストレアは、頷いてそれに続いた。
ここに《アブソリュート・セイバー》は完成した。
Message body
2
2024年
六月
マップ上から突然にキリトが消えた。
キリトは、四十八層の主街区リンダースにある[リズベット武具店]に入って行ったのを最後に行方知れずとなった。
こっそり付けたペイントインクの効果は、まだ持続してるはず。しかし、マップにはキリトは存在しない。第一層まで行って生死を調べたが、死んでもいない。
ならば、どこか特殊なダンジョンに行ったのだろう。
最前線で無い限り、キリトが死ぬことは有り得ない。実力、判断力、そして最近遂に手にした例のあれ・・・・。どれを取ってもキリトに対する不安要素は皆無だ。
ならば、キリトの居場所が分からない今はエリウにとってオフということになる。
ふと、マップから顔を上げたエリウは、部屋のベットでスヤスヤと寝ているストレアを見る。ベビードールと言うなんとも際どい格好が目に付くがあえて流す。向こうもその気で着ているのだろう。
「本当、とてもAIには見えねーな。」
そう呟き、エリウは大きく伸びをする。
さて、今日はどうしよう。クライン達と戯れてもいいし・・・・いや、ストレアがいるから行動に制限かかっちまうしなぁ。クラインは止めた。
と、その時、脳裏に一人のプレーヤーが浮かぶ。
「あ。 それも有りか。」
エリウは、欠伸混じりにそのプレーヤーにメッセージを飛ばした。
『今日、暇か?』
一時間後。
五十二層の主街区アルプーレ。
エリウとストレアは、朝食のホットドックを食べながら、中央広場をベンチに座っていた。
すると、
「いやぁ。お待たせしたョ!」
元気いっぱいの声で広場の向こうから駆けてくるのは、情報屋[鼠]ことアルゴだ。
しかし、アルゴのいつもとは違う様子にエリウは口をあんぐりと開けてしまう。
いつもなら、自慢のネズミのお髭メイクにフードつきケープというシンプルかつ地味なスタイルのアルゴなのだが・・・・。
「よ・・・・よぅアルゴ。その格好は?」
エリウの言葉にアルゴにニヤリと笑う。
「そりゃね。エリウにわざわざメッセージ頂いたら、オシャレせざるをないョ~。」
オシャレ・・・・。
確かにアルゴは、オシャレだった。薄い青色のミニワンピースと黒に黄色いラインの入ったプリーツスカート。おまけにこの間エリウのプレゼントしたイヤリングまで付けている。そして、何よりネズミヒゲがない。
おかげで一瞬誰か分からなかった。
あんまりにじろじろと見すぎたようで、アルゴがもじもじとする。
「・・・・なんだョ。」
そう言って、こちらを見る上目づかいなアルゴが妙に乙女に見えてしまう。
「いっ・・・・いや、何でもない。」
少し不思議な空気を破ったのはストレアだった。
「やっほー!アルちゃん久しぶりっ!」
ストレアの声で我を取り戻したアルゴは、少し動揺気味に答える。
「あ。・・・・あはは。本当久しぶりっスーちゃん。」
アルゴには、売らないという約束でストレアのことと《アブソリュート・セイバー》のことを一通り話した。初めは信じていなかったアルゴだが、全て実演すると目を輝かせて驚いた。というより、なんだか喜んでいた。
ストレアと戯れてるアルゴは、心底楽しそうに見える。
「それよりよアルゴ。例の件、遊びがてら行ってみるか?」
「おっ!いいね~。」
例の件とは、アルゴが俺たちの為に唯一売らずにおいた特別クエストの情報だ。
「けれどその前にっ!」
「ちょっと遊ぼうョ!!」
そう言うなり、右腕にストレア、左腕にアルゴが飛びついて密着してくる。
「は?ちょっ・・・・二人共?」
戸惑いを隠せないエリウを見て、二人は嬉しそうに笑った。
それから半日、エリウは二人の乙女に振り回される事となった。
服を見るにしても二人共わざわざこちらの反応を伺うような素振りを見せ、何か食べる時は私が私がと言わんばかりにエリウに食べさせて上げようとしてくる。
はじめは何かの冗談かと思ったが、時々見せる二人の本気の顔を見てエリウは悟る。
この状況は・・・・。
昼を過ぎた辺りでやっと、例のクエストを開始するに至った。
「よぉーし!ガツンと終わらしてレア食材ゲットよ!!!」
ストレアのテンションがいろいろ可笑しいが今は流しておく。
クエストの名前は、[影の脅威]。内容は単純で、ダンジョンの特殊エリアに出現する指定モンスター一体の討伐だ。報酬は、レア食材。
ストレアも同行するアルゴもレア食材がお目当てだが、エリウはレア食材よりもモンスターの方に興味があった。そうモンスターの方に・・。
3
五十二層の東エリアに存在するダンジョンの特殊エリア内。
クモ型のMobモンスターを片付けながら、小一時間程度で目的の部屋につく。
「いくぞ・・・・。」
二人が頷いたのを確認して、エリウはそっと部屋の扉を開けた。
二人を背にかばいつつ、エリウは部屋の中に入る。
部屋の中は、空で特にモンスターが潜んでいるようには見えない。
「ダミーか?」
エリウが呟いた時、
「エリウ!影!影だョ!!」
アルゴがエリウの足元を指差して飛び退く。
慌てて足元に視線を向ける。
「っ!」
エリウの影に赤い目があった。目は、ぐるりと動きその先にエリウを捉える。
「わぁっ!!」
ストレアも慌てて飛び退く。エリウもすぐさま影から離れる。
すると、自分のものであるはずの影は、エリウから離れ部屋の中をグルグルと回る。
そして、部屋の中央に止まり、その場で影が震え出しその中から何かが出てくる。
出てきたのは、真っ黒なエリウだった。
「影のエリウ・・・・。」
アルゴが呟く。
エリウは、一歩前に出た。そして、後ろにいる二人に言った。
「俺にやらせてくれ。」
そう。これが目的だった。噂によればこの影は自分と全く同じ存在らしい。ならば、今の自分を超えるには丁度良すぎる相手だ。
20分後
グォォォ
影のエリウがポリゴン化して爆散する。
影も元通りになりエリウは、フッと息を付いた。
手応え抜群だった。
あの影は、まさに自分そのもの。あえてスキル無使用で挑んだだけにかなり苦戦した。
「お疲れ様。」
「ナイスガッツだョ!!」
振り返ると笑顔のストレアとアルゴがいる。
エリウも静かに微笑んだ。
「帰ろうか。」
すると、元気な声が二人からかえってくる。
「「うん!」」
その後、NPCから報酬のレア食材[フェアリーフェザーの肉]を受け取った。エリウ達は、たいしてあげてもいない料理スキルでなんとかレア食材を調理して夕食とした。
「いやぁ~流石レア食材だネ。」
食後の第一声を上げてアルゴは満足そうな顔をする。
「おいしかったぁ~。」
ストレアも頬に手を添えて、先ほどの余韻に浸っている。
こうして見ると、二人とも普通の女の子にしか見えない。しかし、一人はAI。もう一人は、鼠の情報屋。どちらももう一人の自分がいる。
このほのぼのとした状況を楽しむ自分も普段の自分とは違うものだと思う。
本当は、みんなこうして笑っていたいのだろう。けれどあの男、茅場晶彦によってその全てがアバターというミノに隠されてしまった。
やむ終えず自身を殺し、アバターという新しい人格を自分に強要する苦しみは耐えられるものではない。なかにはキリトのように自身を変えずして別の方向で苦しみを背負っているプレーヤーもいる。
どちらにせよ、これ以上の苦痛を避ける為には一刻も早くこのゲームをクリアしなければならない。
だが・・・・
そこまで考えてエリウは、フーッと息を吐いた。そして、少し微笑みその続きを内でそっと呟く。
このような苦しみの中にあるからこそ、本当に楽しい時に楽しいと感じられるのかもしれない。それならば時にこの世界も悪くない。
と。
こうして、エリウ達の束の間のオフは終わった。
しかし、この後に待ち受ける凶運をエリウ達は知る由もなかった。