最強になれる能力を手に入れたけど平穏に暮らしたい 作:なーお
……さて、ようやく東の森に着いたわけだが。お、いたいた。
森の中に入りしばらく捜索を続けけていると視線の先に目的のゴーレムを見つけた。人の倍くらいの大きさをしたそれは、岩でできた人型の魔物だ。力と耐久力はあるものの俊敏性はあまり無く、討伐ランクもDランクであり、正直俺にとっては楽に倒せる敵である。ただし、ゴーレムを構成する魔力が込められた岩は様々な武器や防具の素材になること、この辺りにゴーレムが出現することは珍しいということもあり、難易度以上の報奨金が用意されるのだ。
片手剣を抜刀した俺は、ゴーレムに気付かれないように木に隠れながら近づいていく。ギリギリまで近づいたところで、俺は魔法の詠唱を開始する。唱える魔法は、〈氷結魔法(Lv.3)〉だ。氷で相手の足元を凍らせ、動きを封じ片手剣で一刀両断する。そんな一連の流れをシミュレーションし、実行に移す。
「くらえっ!」
影から勢いよく飛び出し氷結魔法を唱える。ゴーレムはすぐにこちらに気付くもその俊敏性の遅さから反応に送れる。見事に氷結魔法が命中し、ゴーレムの足元が凍り付く。Lv.3程度の魔法では大したダメージにはならないが、動きは充分に止められる。
俺は自身に〈肉体強化魔法(Lv.4)〉を唱え、地を蹴り、一直線にゴーレム目掛けて駆ける。片手剣に魔力を込めると同時に俺は高く飛びあがりそのままゴーレムを上段から切りつけた。固い体を持つゴーレムだが、魔力を込めた俺の斬撃を前にあっさりとその体は真っ二つに切れてしまう。
ズズンとあたりに響く音を立てながらゴーレムが地面に崩れていく。
「……もう少し苦労すると思ったけどな」
あっさりとクエストを達成してしまった為、そんな独り言を呟くと同時に全身の力が抜けてしまう。
流石にもう少し位、受けるクエストの難易度をあげてもいいかもしれない。
そんなことを考えながらゴーレムの素材を回収するかと革袋から解体用の道具を取り出そうとしている時だった。
かすかにだが、遠くの方から何かが咆哮するような音が聞こえてきた。俺は動きを止めて集中し、耳をすませる。するとまた聞こえてきた。
……魔物だろうけど、聞いたことの無い声だな。
かなり遠くにいるようではあるが、万が一こちらにも危険が及ぶということもある。それにイーアさんの言っていたこともある。この魔物の正体の確認はしておいたほうがいいだろう。
辺りを見渡し、この辺りで一番背の高い木を見つけて見据える。
俺は再び自身に〈肉体強化(Lv.4)〉を唱え、数メートルほど跳躍し、見つけた背の高い木の枝に飛び乗り、その後も続けて上の枝に乗り移り続けていく。ものの数秒で頂点までたどり着いた俺は、先ほど聞こえた咆哮の方に目を凝らす。そして二キロほど離れた地点にその魔物はいた。しかし流石に遠すぎて詳しく見えないため、〈遠視魔法(Lv.4)〉を唱えて改めてその正体を見つめる。
な、なんだあれ!?
全長十メートル以上はあるドラゴンがいたのだ。黒い鱗に覆われており、獰猛な牙と爪に棘に覆われた尾を携え、背中には大きな翼がある。
……あれって、ここら一帯の主のカースドラゴンじゃないのか?
俺も本や人からしか聞いたことが無いが、その特徴の一致からカースドラゴンで間違い無いだろう。討伐ランクSを誇る本物の化け物だ。高い知力を持ち、魔法は勿論、強力な身体能力と強力なブレス攻撃を誇る。そのカースドラゴンは過去、いくつもの町を滅ぼしたこともあるという話があるほどだ。
……でも確かカースドラゴンって普段は山脈の頂上付近で大人しくしてるんじゃなかったっけ……。これも魔王軍が活発化してきていることに関係してるんだろうか?
とにかく考えるのは後だ。今はとにかく避難が先決だ。流石に距離が離れている為、こちらに被害が及ぶことはないと思うが念のためだ。
急いで地面に降り立ち、ゴーレムの素材の回収を急ぐ。
ゴーレムの討伐は何度か行っていたこともあり、素材の回収は十分ほどで完了し、急いで荷物をまとめる。
……くそ、相変わらず重いな。
ゴーレム討伐クエストの唯一の欠点、素材が重すぎることを煩わしく思いながら、急ぎ足でその場を離れる。
でもカースドラゴンの咆哮も聞こえなくなったし、どこかに行ったのかもしれないな。そんなことを考えながらも進む速度は緩めずに森の中を進んでいく。
途中、何度か芋虫型の魔物や猪型の魔物に襲われることはあったが、どれも苦戦することもなくあしらっていく。
……よし、もう少しで森を抜ける。
森の奥の方に陽の光が見えてきて、足を速める。
そして俺は森を抜けた。しかし、なぜか陽の光は俺にあたらず影が俺を覆う。その違和感に不思議に思うもすぐにその正体に気付く。
……カ、カースドラゴン?
目の前にいたのは、カースドラゴンだった。その巨大さ故気付くのが遅れた。
突如現れたカースドラゴンはとにかくでかく、その存在感はまさに圧倒的だった。猛禽な黄色い瞳を俺に向けてくる。明らかに俺に狙いを定めている。
思考が停止し、まるで蛇に睨まれた蛙のように全身が硬直する。
そんな俺に対し、カースドラゴンは大きく咆哮をあげ、その巨大な肉体をくるりと回転させ、遠心力を得た尻尾が猛烈な勢いで俺に向かってくる。
カースドラゴンの咆哮で我に返った俺は、ほぼ脊髄反射で最大出力で〈物理防御結界魔法(Lv.6)〉を唱える。魔法が完成した直後、俺は尻尾の一撃を受ける。それは強烈であり、物理防御結界を易々と貫通し、俺はそのまま後方に吹っ飛ばされる。結界のおかげで衝撃はある程度低減されたものの、意識が吹っ飛ぶそうになる。口の中には血の味が広がる。
そのまま俺は何もできず水平方向に十メートル以上吹っ飛ばされ、植物に突っ込んだ。生い茂った草や枝がクッション代わりになったおかげで何とか意識を保つことができた。これが木の幹や岩にぶつかったら危なかった。
全身に激痛が走る中、口に溜まった血を吐きつけ目の前を睨む。
カースドラゴンがズンズンと地響きを立て、木をなぎ倒しながらこちらに近づいて来る。
まさに絶体絶命。
ここからこの傷ついた肉体で逃げることは不可能だろう。いや、万全の状態でも逃げ切ることができたかどうか。
……し、しかたないか。
だが俺には例の最強になれる能力がある。
平穏に暮らすと言う目標がある以上、封印していた能力だが、それも命あってのこと。ここは能力を使わざるを得ないだろう。
ここでカースドラゴンがその大きな口を開き口の奥が光り出す。すべてを焼き尽くすと言われているブレスを吐きつけようとしているのだろう。
最早思考している暇は無かった。
俺は女神に貰った能力を発動させた。
……っ!?
その瞬間、明らかな変化が生じる。
全身が力に溢れてくるのだ。力ではなく魔力もそうだ。それにカースドラゴンの動きが一気にスローモーションになる。まるで止まっているようだ。
次の瞬間、俺の頭に一気に情報が流れ込んでくる。
〈全属性魔法耐性強化(Lv.10)〉
〈全物理耐性強化(Lv.10)〉
〈ブレス耐性強化(Lv.10)〉
〈全状態異常耐性強化(Lv.10)〉
〈全ステータス強化(Lv.10)〉
〈自動生命力回復(Lv.10)〉
〈自動魔力回復(Lv.10)〉
〈意識速度強化(Lv.10)〉
〈魔法詠唱速度強化(Lv.10)〉
〈魔法攻撃呪詛付加(Lv.10)〉
…………。
……な、なんだこれ?
驚愕する俺をよそに次々と、恐らく能力発動により、得た能力の情報が流れていく。まるで子供が考えたような無茶苦茶なスキルやら強化魔法が付与されていく。
女神が言った最強になれる能力。その言葉に一切の嘘は無かった。
こんな能力を持つ生き物に勝つことは不可能だ。というかダメージを与えることすら不可能な気がする。しかも物事を考える思考能力も飛躍するらしく、与えられた膨大の数のスキルや魔法の数々を全て把握することができる。
……こんなの反則だろ。
あまりに凄すぎてドン引きしてしまうというのが正直なところだ。
こうしている間にもさっき受けたダメージが凄い速さで回復していっているし。
俺が驚いているとカースドラゴンのブレスがこちらに吐きつけられる。
あたりの木々を焼き払いながら迫ってくる灼熱の炎は、まさに死そのものである。しかし、今の俺にとってはなんてことの無いただのそよ風も同然である。
だが森が焼かれることは俺にとっても不都合だ。この森はクエストの舞台によく登場する、俺の生活を支える重要なインフラ基盤なのだ。
俺は数ある魔法から〈水流魔法(Lv.10)〉を選択し唱える。最高威力を誇るLv.10となれば理解するのも難しい複雑な魔法構築と詠唱を必要とするが、今では挨拶の言葉を投げかけるように詠唱を完成させ、魔法を発動させる。
蛇のように荒れ狂う巨大な水流が虚空から生み出され、迫りくるブレスを全てを飲み込み、その勢いを殺さずにカースドラゴンに襲い掛かる。
ブレスによって多少軌道をずらされたそれは、カースドラゴンの左腕を削り取る結果に終わる。
カースドラゴンは明らかに狼狽える様子を見せ、そのまま逃げるように翼を羽ばたかせ、空中に逃げていった。すぐに俺との実力差を見抜いたようだ。
能力が発動してからまだ三十秒ほどしか経過しておらずとどめを刺そうと思えばできたがそうせずに敢えて見送る。
代わりに俺は、〈索敵魔法(Lv.10)〉を発動させる。魔法の発動と共に周囲にいる生命体の反応を探る。周囲五キロ以内に、魔物の反応は疎らにあるものの、人の反応は無かった。俺にとって恐ろしいのは、今の俺を誰かに見られること。そんなことになったら俺の平穏な暮らしは終わりを迎えるだろう。
カースドラゴンを討伐しなかったのにも当然理由はある。
あのカースドラゴンは間もなく討伐クエストによって派遣された冒険者によって倒されるだろう。その時に既にカースドラゴンが既に討伐されていた、なんてことになってもまずい。その時、じゃあ一体誰がカースドラゴンを討伐したんだとなるからな。その時、ゴーレム討伐で近くにいた俺が怪しまれることになるだろう。
俺は能力が続くうちに能力をフル活用してその場から逃げ、アマの町に急いで戻った。アマの町が見える頃に俺の能力は時間切れを迎えた。
最後まで索敵魔法を使っていたが、俺の能力が見られたという事はないだろう。
なぜカースドラゴンが俺を狙ったのかなど疑問は残るが、何とか一件落着だろう。
しかし、結論として今日能力を使ってしまったことで、意外なところから平穏な暮らしが脅かされることになる。
その日の夜。
俺の家のドアをノックする音に、この時間に誰だよと文句を言いつつ、ドアを開けるとそこには予想もしなかった者がいた。
腰まで伸びたサラサラの緑色の髪。白い肌に包まれた小さな顔。髪とお揃いの緑色を基調とした露出が多めの衣装に身を包んだ魔物――討伐ランクAを誇るドライアドがいたのだ。
魔物にしてはあまりの美しさを誇る存在を前に固まる俺に対し、ドライアドは妖しく笑みを浮かべると、頭を下げてこんなことを言ってきた。
「はじめまして。私は森の精、ドライアドと言います。突然ですが、私のマスターになっていただけませんか?」