「あと一週間でユグドラシルは終了。それと同時にナザリックは異世界に飛ばされる」
木製の長椅子に腰掛ける銀髪の青年は小さく呟くと、ゆっくりと顔をあげて天井近くに設置されているステンドグラスを眺める。
薄暗い室内を一枚一枚に各天使の姿が描かれたステンドグラスに淡く幻想的な光が照らす光景は神秘的でユグドラシル終了までの一か月間色々と仕込みやアイテム取集に勤しんで来ていた青年の心を癒す。
長椅子に美しいステンドグラス、一見教会のような場所かと思われるがここは現実世界ではなくゲーム内にある青年に与えられた私室である。
そのゲームの名前はDMMO-RPGの一つYGGDRASIL。
ユグドラシルは酷い現実世界を忘れさせてくれる夢のコンテンツだった。
深刻な環境汚染によって空は暗闇に包まれ、海は汚染され、大地はボロボロ。有毒ガスを含んだ濃霧が立ち込めているため、外出にはガスマスクが不可欠となった酷い世界。
さらに巨大複合企業によって国政は富裕層と貧困層の超格差で、凶悪犯罪が日常茶飯事の地獄であった現実世界でユグドラシルはまさしく心のオアシスであった。
ユグドラシルは名前の通り北欧神話をベースにした九つの広大なマップを自由に冒険する。
運営側として未知を冒険して欲しいことから、不親切なまでに情報が無く。尚且つ馬鹿みたいな難易度や初見殺し要素が豊富であった為、プレイヤーからは「クソ運営」と呼ばれていたが絶大な人気と一代ブームが巻き起こった。
その一因として他のゲームと比べて自由度が異様なほど広い事があげられる。700種類にも及ぶ種族と2000を超える職業の数々に加え、別売りのクリエイトツールを使えばキャラクター・アイテム・住居を思うままにデザイン出来る。意図的に作成しない限り、寸分たがわぬキャラクターはできないように作られたシステム。
事実ユグドラシルで名を馳せていた青年のアバターを真似して作られた贋作が一時溢れた。また青年の友人が私室の上にある階層で夜空を再現して他のギルメンを感嘆させたり、天使を舐めた糞ギルメンに頭を下げて私室を美しい教会風にしてもらった。
そんな素晴らしいゲームももうじき終わりを迎える。
しかし、青年は知っている。ユグドラシルは終わらない、青年が所属するギルド、アインズ・ウール・ゴウンはゲームが終わってから本番を迎える。
アインズ・ウール・ゴウンの拠点であるナザリック地下大墳墓は異世界に転移し、NPCの勘違いによって世界征服を始める。
何故それを知っているのかと言えば、青年は転生者でオーバーロードのアニメ及び小説履修済みだったからだ。
神の不手際によって死んだ青年は、お詫びとして三つ特典を貰いオーバーロードの世界で第二の生を受けた。
一応富裕層で産まれたものの前世の世界に比べて酷すぎる現実世界を何とかしようと色々と政策打ち出し、私腹を肥やす豚共と自分の邪魔をする馬鹿共に断罪の刃を振り下ろして貧困層を助けようとあがいた。
それと並行してユグドラシルでは、原作知識を活用してアインズ・ウール・ゴウンに入れるように色々と画策。加入以降はギルメンの悩み相談という名の貧困層の実情調査、転移後に向けてのキャラビルドとアイテムの収集、NPCへの声かけも忘れずに行った。
その努力の甲斐あってか、現実世界の政策はかなり良好で貧困層は前世の日常生活程ではないがかなりマシな生活になっているそうだ。
ギルドは残念ながら青年と原作主人公を除いて辞めていったが、リアルでメールを送れば返信してくれるし、特典の一つを使っているので大丈夫だろう。
「(打てる手はほぼ打った。最近市場で課金アイテムが叩き売りされてるから、それをこの一週間でどれだけ多く入手できるか。現実世界は無茶やり過ぎて信頼できる部下から二週間後に暗殺される計画を聞いたが、その時には俺は異世界だ)」
大きく息を吐き、異世界転移することにワクワクしていると、ふと部屋の端で佇んでいる一人のNPCが目に入った。
そのNPCは青年が作った四人居るNPCの一人だ。
「(最悪の可能性を考えて行動するのは当然だ。もし俺がナザリックと共に転移出来なかったことも考えておく必要があるか……)」
青年は椅子から立ち上がると、NPCの前まで行きコンソールを開いて何やら打ち込んでいく。
「……楽しみだ」
ユグドラシルサービス終了まであと二時間。
ギルド、アインズ・ウール・ゴウンの拠点であるナザリック地下大墳墓。その第九階層ロイヤルスイートにある一室、部屋の中央に鎮座する黒曜石の輝きを放つ巨大な円卓を四十二人分の豪華な席が囲んでいた。
その一席に座るアンデッド種のスケルトン系の中でも最上位種族、
「皆さん。今日は最終日にわざわざ来てくださってありがとうございます!」
「そんなこと言わないでくださいよ、モモンガさん」
「そうですよ。俺たちが言う資格はもうないのかもしれないけど、ここは俺たちの思い出詰まった場所なんですから」
「そうそう。寧ろこっちが申し訳ないというか、ごめんね。引退した分際で最終日だからって理由で急に押しかけちゃって……」
モモンガの感謝の言葉に複数人の異形種が応える。
昨日までナザリックにはモモンガを含め二人しかログインして来なかった。
残りの四十人は
だからモモンガは、自分と一緒に最後までギルドに残り続けてくれた親友と共にサービス終了まで二人っきりなのだと思っていた。
だが、実際はどうだ?
親友は市場に行き、一人寂しく親友の帰りを円卓で待っていると椅子が光り出して続々とギルドを去って行ったかつての仲間が現れたのだ。
しかも装備は低レベルのものだが初期アバターではなく全盛期のアバターのまま。何でも引退をしたはいいが、思い出の詰まったアカウントを消すのは
モモンガは驚きと感動でもう涙声で来てくれたことに感謝し、その姿に戻って来たギルメンは罪悪感やら何やらで心を刺されモモンガに謝りまくる。
そんなことをしていると、ふとハーフゴーレム忍者こと弍式炎雷が声をあげる。
「そういや、俺たちを呼び出した副官殿はどこ行ったんだ?」
「言われてみればいないな。モモンガさんは知ってるのか?」
弐式炎雷の言葉に賛同するかのように、仲の良い
「エルゼルさんでしたら、俺よりも先に来て市場に行ってますよ。何でもずっと欲しかった装備やアイテムがあって自分のNPCを最強装備にするって言ってましたね」
エルゼル・セフィロトス。
彼はアインズ・ウール・ゴウンの前身、ナインズ・オウン・ゴールの初期から加入していた人物でギルド長であるモモンガの補佐役として副ギルド長、副官(武人建御雷命名)に就きモモンガと共に最後までギルドに残り続けた人物である。
エルゼルの存在はギルドにとって居なくては困るものだった。
ギルメンが喧嘩した時、主にたっちとウルベルトの喧嘩では必ず中に入って仲裁した。また仮想世界に現実世界の話の持ち込みを許可していたこともあって悩み相談としてギルメンの
「いや~。あの人のおかげで辛い仕事がかなり楽になりましたからね~」
「本当にね。私も生徒たちの問題や上司のパワハラ、セクハラも対処とか一緒に考えてくれたし」
そう発言するのは強力な酸を放つスライム、
彼らに続き華美な装飾の施された全身鎧に身を包んだバードマンのプレイヤー、ペロロンチーノやその姉、ピンク色の光沢を放ち容姿がアレなぶくぶく茶釜も賛同する。
そこから話題は、自然と副官のエルゼルの話へとなる。
「そういや、たっちとウルベルトさん。副官とは結局どっちが強かったんだ?」
武人建御雷の質問に他のギルメンも二人のプレイヤーへと視線が向けられる。
一人はバッタの異形種にして最強騎士プレイヤーであるたっち・みー。もう一人は山羊の頭部を持つ悪魔にして魔法職最強のプレイヤー、ウルベルト・アレイン・オードルだ。
二人ともアインズ・ウール・ゴウンでは数少ないガチプレイヤーであり、ギルドの主力戦力である。
「難しい質問ですね。一応あの人、私とウルベルトさんが持つレア職業手に入れてるから強いのは間違いないんですけど最後まで決着はつきませんでしたからね」
「たっちさんと同意見なのは癪ですけど。そもそもあの人の頭がおかしいんですよ! 中途半端なキャラビルドでどう見てもロマン型なのにそれをガチ構築にまで仕上げて……! モモンガさんや萌えさん的にはどうなんですか?」
ウルベルトから話を振られたギルド長、ドリームビルドだが桁外れのMPを持ち718にも及ぶ膨大な数の魔法を扱えるモモンガとPK&PKK担当軍師、アインズ・ウール・ゴウンの諸葛孔明と呼ばれるヴァイン・デスのプレイヤーであるぷにっと萌えは思わず考え込んでしまう。
「確かにあの人の対応力はモモンガさん並みですし、あんな細かい計算と膨大な戦術をリアルタイムで瞬時に導き出すのは、失礼ですけど同じ人間とは思えませんね」
「俺も萌えさんに同意見です。だってあの人、一時期ギルドランキング一位のセラフィムに単独で乗り込んで壊滅寸前まで追い込んだ人ですよ」
モモンガの話に「あったな~。そんなこと」「引き抜きにはキレたけど、エルゼルさんの強さと行動力にドン引きしましたね」と昔を思い出してエルゼルのおかしさを再確認した。
ギルメンから酷い言われようだが、ギルメン及びユグドラシルのプレイヤーの間でもエルゼルは有名であり、たっち・みーとウルベルトに並んでアインズ・ウール・ゴウンの最強の一角、最強の魔法剣士または頭のおかしい天使狂信者と呼ばれている。
エルゼルの種族は天使。ユグドラシルにおいて天使の種族は様々なボーナス特典があった。
天使はカルマ値が高いほど魔法攻撃と魔法防御、MPのステイタスを上昇させる特典があり、逆に堕天使はカルマ値が低いほど物理攻撃と物理防御、HPのステイタスを上昇させる特典がある。
基本はどちらかを選びそれに沿ったキャラを構築していくのだが、エルゼルは違った。
彼は種族特典があるとはいえ魔法剣士という中途半端なキャラクタービルドだったが、カルマ値を変動させる魔法。スキル。アイテムを使って自由自在に天使・堕天使となって相手を蹂躙。
カルマ値を変えながらのプレイ。一見簡単そうに見えるが、これは発狂しそうなほど難しいものであった。
リアルタイムで自分のカルマ値の徹底管理。魔法、装備、スキル、発動するマジックアイテムはカルマ値を変動させるものやカルマ値によって威力、効果が変わるものがほとんどで操作を一つでも誤ればカルマ値が狂い敵にボコボコにされてしまう。
そこへさらに相手の攻撃を瞬時に見分けてHPやMP、スキル発動、効果がどれほどのものかも考え行動しなければならない。
そんな変態プレイによる初見殺し&想像を絶するプレイ技術でエルゼルはたっち・みーとウルベルトが持つワールドチャンピオンとワールドディザスターの二つを取得。これはギルメン及びプレイヤーからもガチ引きされ一時期エルゼルを目指そうと天使の種族を選ぶプレイヤーが続出した。
モモンガの話にも出たが、その強さを買われ一時期最強ギルドと言われたセラフィムに引き抜かれそうになったが天使愛が足りない。天使舐めてんのかとのことで一人でセラフィムを壊滅寸前まで追い詰めた。
戦闘スタイルやセラフィムを追い詰めた理由からわかる通り天使をこよなく愛しており、天使の話となればマシンガントークでギルメンを圧倒。他天使プレイヤーが変なことをすれば即PVPで切り捨てて天使狂信者に
天使のこと以外は、紳士的でギルメンの頼れるお兄さんなのだが……
「天使狂信者以外は本当に素晴らしい人なんですけど……っと、そう言えばエルゼルさんに最後は玉座で終わろうと言われたんですけど」
「いいじゃん! エルゼルさんもわかってるね~」
「そうですね。結局誰も玉座までこれませんでしたけど、もしかしたら終了日記念の思い出でここを攻略しに来るプレイヤーがいるかもしれません」
「ならモモンガさん、ギルド武器を持って行きましょうよ」
「そこのセバスたちも連れて行きましょうか」
玉座に移動しようと言うモモンガの言葉に上からペロロンチーノ。ウルベルト。タブラ・スマラグディナ。たっち・みーの順に賛同して、他のギルメンも盛り上がる。
「あ、あと。すいませんが誰かエルゼルさんの私室からNPCのガブリエルを連れてきてくれませんか? エルゼルさんに玉座につれて行くように頼まれてまして」
「なら私が連れてくるよ」
「では茶釜さんお願いします」
任された! と元気よく返事した茶釜はみんなより一足先に円卓を出る。そのすぐ後にモモンガたちも円卓を後にする。
ユグドラシル終了まであと十分……
戻ってきてくれたギルドメンバー
・たっち・みー
・ウルベルト・アレイン・オードル
・弐式炎雷
・武人建御雷
・ペロロンチーノ
・ぶくぶく茶釜
・ぷにっと萌え
・ヘロヘロ
・やまいこ
・タブラ・スマラグディナ
どっちが先に読みたい?
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ナザリック視点
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エルゼル視点
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半分ずつでいいから両方