天使狂信者のいるナザリック地下大墳墓   作:セフィム

2 / 5
第2話 原作開始と想定外

 白亜の城を彷彿させる、尊厳さと絢爛さを兼ね備えた世界。

 見上げれば高い天井に一定間隔で吊り下げられたシャンデリアが、暖かな光を放っている。広い通路の磨き上げられた床は大理石のように、天井から舞い降りる光を反射し、星を身に宿しているように輝く。

 

 その世界を黄金の七匹の蛇が絡みあった杖を手にする死の王が歩いて行く。そのすぐ後ろを様々な異形種がついて行く。

 

 やがて半球状の大きなドーム型の大広間に到着した死の王たちこと、アインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーは久しぶりに見る光景に次々と思い出話をしていく。

 

「えっと確か、ソロモンの小さな鍵(レメゲトン)でしたっけ?」

 

 弐式炎雷の言葉にギルメンたちは、壁に掘られた七二個の穴にソロモン七二柱の悪魔をモチーフにした超貴重金属をふんだんに使用して作られたゴーレムが配置されている。

 

「そうですね。で、確か製作者は……」

 

「るし★ふぁーさんですよ」

 

 製作者の名前に思わずギルメンたちは、うわぁと声を漏らしてしまう。

 何せその製作者は、アインズ・ウール・ゴウンの中でもかなりの問題児で様々なやらかしをしてギルメンの頭を悩ませたのだ。特に強いゴーレムを作ったと言って仲間達を呼び出し、起動したらAIのバグで突然襲ってきたことなどは今ではいい思い出だが、あの時は彼に怒鳴ったものだ。

 

「あれ? これってソロモンの悪魔をモチーフにしてるんですよね。何で天使の像もあるんですか?」

 

 ゴーレムを眺めていると、確かにペロロンチーノの言う通り六七体は悪魔の像なのだが、五体は天使の像が置かれている。

 そのことについてギルド長であるモモンガが苦笑しながら答える。

 

「あぁ、それは……エルゼルさんが『あの糞野郎! 俺が一番好きな天使の名前しておいて仕事を途中で放り投げるなど許さん!』とか言って、自分から材料を調達して残り五体のゴーレムをアイテムを使って作ったんですよ」

 

「な、なるほど。エルゼルさんるし★ふぁーさんのことかなり嫌ってましたけど何だかんだ面倒見はよったですからね」

 

「でもソロモンの悪魔って言ってるのに、天使の像を作るってぶれないね~エルゼルさんは」

 

「いや、あながち間違ってませんよ」

 

 やまいこの言葉に脳食い(ブレインイーター)のプレイヤー、タブラが反論する。

 

「諸説あるんですけどソロモン七十二柱の悪魔の中には、元天使が混ざっているそうなんです。天使狂信者のエルゼルさんのことですから知ったうえで作ったんでしょう」

 

 その説明にタブラの知識に感心しつつ、天使狂信者のエルゼルに呆れてしまう。

 

 モモンガたちは、レメゲトンを横切り、向かいにあった大きな扉の前に立つ。

 五メートル以上はある巨大な両開きの扉の右扉には天使が、左扉には悪魔の彫刻が異様な細かさで施されている。これもるし★ふぁーの作品なのだが、元々右扉には女神を描くつもりだったが、「そこは天使だろ!」とエルゼルに言われ天使に変更したのだ。

 

 モモンガが扉に触れると、自動ドアであるかのように、だが重厚な扉に相応しいだけの遅さで、ゆっくりと扉は開いていく。

 

 空気が変わった。

 

 今まで神殿のごとき静謐さと尊厳さを兼ね備えていたが、目の前に広がる光景はそれすらも凌ぐ。雰囲気の変化が圧力となって、全身に伸し掛かってくるような精巧な作りこみだ。

 

 ナザリック地下大墳墓最奥にして最重要箇所、玉座の間。

 その作り込みは、いつ見ても感嘆を漏らすほど素晴らしいものだ。壁には各ギルメンを象徴する紋章が描かれた大きな旗が天井から床まで、計四二枚垂れ下がっている。

 金と銀をふんだんに使った部屋の最奥には十数段の低い階段があり、その頂には巨大な水晶から切り出されたような、背もたれが天を衝くように高い玉座が据えられていた。

 

 そして玉座の横に立つ女性型のNPCがギルメンの視界に入る。

 

「彼女は……」

 

「アルベドですよ。私が製作したNPCの一人でナザリック地下大墳墓階層守護者統括でナザリックにいるNPCの頂点にたつキャラクターです」

 

 自慢げに説明するタブラに他のギルメンたちは彼女のことを思い出し、それにつられてアルベドの姉妹のことも思い出して一部ギルメンは、恐怖で身を震わす。

 

 ギルド長であるモモンガは、玉座に腰掛けその左右に他のギルメンたちが並ぶ。

 玉座、モモンガとタブラの近くにはアルベドが跪き、階段の下の左側には連れてきたセバス達が一列となってアルベドと同じように跪いている。

 

 ユグドラシル終了まであと十分、各々がユグドラシルでの思い出を語り合っていると玉座の門が開かれる。

 皆が話を止めて入室してきた者を見るとピンク色の姿がアレなスライム、ぶくぶく茶釜がエルゼルのNPCを連れて玉座までやって来る。

 

「お持たせ~。エルゼルさんのNPC連れてきたよ」

 

「うわぁ。エルゼルさんのNPC、アルベドに負けないぐらい美人じゃないですか。まぁ俺の一番はシャルティアですけど」

 

 最後の言葉を無視しても、ペロロンチーノの言葉に他のギルメンたちも同意する。

 

「確か、名前はガブリエル。エルゼルさんが作った四大天司の一人で第四階層領域守護者ですよ」

 

 ガブリエルと呼ばれたNPCはペロロンチーノの言う通り、かなり美人なキャラクターだ。

 一昔前の映画や小説の題材に使われていた漆黒の修道服に身を纏い、慈愛に満ちた優しく一瞬で男心を奪ってしまうほどの美貌と黄金を溶かしたかのように美しいウェーブのかかった金髪を黒いヴェールで隠している。

 確かにNPCキャラクターといえど目を奪われるほどに美しいが、ペロロンチーノを含めて男性陣が一番目を向けたのがそのプロポーションだ。

 アルベドや戦闘メイドのソリュシャンを超える特大バストは体のラインを強調する修道服により凶悪に見え、思わずその容姿で天使ひいてはシスターは無理だろと言うだろう。

 

 エロに厳しいユグドラシルで中々際どいキャラクターを作ったな~。っと思いつつ、連れてきた彼女をセバスたちとは反対側の位置に配置し、他のNPC同様に跪かせる。

 

「しかし、副官殿はまだ来ないのか? あと二、三分でユグドラシルは終了しちまうぞ」

 

「それが、さっきからメッセージを飛ばしてるんですけど繋がらないんですよ」

 

 モモンガの言葉にギルメンたちは困惑してしまう。誘った本人が来ないとはどういうことかと、しかし時間は待ってはくれない。

 

 23:59:50……51、52、53、54、55、56、57、58、59。

 

 0:00:00。ユグドラシルは終了した。

 

 ギルメンたちは強制ログアウトした後、エルゼルに文句を言おうと考えたが……

 

「え? サーバーがダウンしない?」

 

 モモンガの言葉の言葉通り、自分たちは強制ログアウトされずにナザリックの玉座に居るままだ。これにはギルメンたちも困惑を隠せない。

 

「どういうことだ? これは?」

 

「終了延期ってことか?」

 

「ちょっと! 明日も仕事早いんですけど!?」

 

「てかみんな!? コンソールが開かないんだけど!」

 

「え、ほ本当だ! GMコールも……ダメです!」

 

 明らかな異常事態。もしかしたら副官エルゼルと連絡が取れないのもこの異常事態のせいなのかもしれない。

 現実世界では警察官ですぐに冷静になったたっち・みーとギルドの長であるモモンガは、自身も困惑しながらも皆を落ち着かせようと声を上げようとした時、それよりも先に自分たちの知らない女性の声がした。

 

「至高なる創造主様、どうかなさいましたか?」

 

 アインズ・ウール・ゴウンに所属する数少ない女性プレイヤー、ぶくぶく茶釜とやまいこの声でもない。

 思わずギルメン全員が声の方へと向くと、そこにはNPCであるはずのアルベドの姿があった。

 本来自主的に動かないはずの彼女が動き、言葉を発する。しかも表情にも変化がある。一体何がどうなっているのか、余計に困惑してしまう。

 

 ギルメンたちは、このままユグドラシル2が始まったのかと考察しながらアルベドに聞こえないように小声で会話する。

 

ちょっと、これどういうことですか!? タブラさん!?

 

いや、私もこんな仕様知りませんよ! 私が止めて以降のアップデートであったんじゃないんですか!?

 

いや、それはないんじゃないかな。それだとユグドラシル終了? 前まで何も喋らなかったアルベドたちが急にしゃべりだすなんておかしいですよ

 

ユグドラシル2という線もありますけど、そんな噂は聞いたことありませんし、もしそうならもっと大体的発表やニュースになってるはずです!

 

なんなら私が一回殴ってみようか?

 

ちょっとやまいこさん。異常事態にそんな脳筋思考止めてもらえませんか?

 

ウルベルトさん、それは心外ですよ! たっちさんもそう思いますよね!

 

いや、それはですね……

 

はっきりものを言えや、クソたっち!

 

 何故かウルベルトとたっちの間で喧嘩が起こりそうになり、アルベドの事を放置して異常事態について話し合うギルメンたちの耳にパンッ! パンッ! と大きな手を鳴らす音が聞こえた。

 この手の鳴らしかた。かつてギルド内で揉め事が起きた時や皆の意見がバラバラで纏まらなかった時に副官が鳴らして自分に注意を向けさせ場を納めていたのと同じものだ。

 

 ギルメンだけではなくアルベドやセバスたち皆がその方向を向くが、そこには頼れる副官の姿はなく。替わりに彼が作り出したNPCの一人が立っていた。

 

「皆様、落ち着いてください」

 

 どこか儚げながらも、凛とした美声が玉座の間に響き渡った。

 

 

◆◇◆

 

 

「……どういうことだ」

 

 アインズ・ウール・ゴウンの副ギルド長にして転生者であるエルゼル・セフィロトスは目の前に広がる光景を見て頭を痛めていた。

 

「(落ち着け、今までの俺の行動を思い出せ。俺はユグドラシル終了の三時間前にログイン。その後、急いで市場で課金アイテムや神器級アイテムを格安で購入。終了三十分前にナザリックに転移したら、場所はナザリックではなく広大な丘陵地帯で空には満天の星空……)」

 

 「ふざけてるな……」と悪態をつくエルゼルは、改めて現在の状況を確認する。

 

 意識は極めて明瞭、四肢の感覚もある。草木の匂い。遠くから聞こえる獣らしき咆哮も聞こえ、肌寒さを感じることから五感も正常。

 現在の格好はユグドラシルの時に作ったアバターのまま、装備も見た限り紛失したものは無い。コンソールは開けないがアイテムボックスは仕様可能、中には市場にて買った課金アイテムなどがある。GMコール及び強制ログアウトも不可能。

 

 続いて周りの状況は、エルゼルが知る限りユグドラシルのどこにも存在しない未知の場所。現実ではまずない光景……そこから導かれる答えは。

 

「俺だけ単独転移。もしここが俺の知る異世界なら……ここは恐らくアベリオン丘陵」

 

 一応エルゼルはこうなることも予想していた。

 転生者という異分子によってもたらせる未知は計り知れない。故に創造力を働かせてどんな状況でも対処できるように準備、己のNPCにも手を回した。

 恐らく原作通りにナザリックがエルゼルと同じ異世界に飛ばされれば己のNPCが働いてモモンガの負荷をかなり削減できるだろう。

 

 ナザリックの心配もいいが、今は自分のことを優先する必要がある。

 何せ本当にここがアベリオン丘陵かどうかすら怪しいのだから。故に今から行う行動は情報収集と拠点確保、その次にナザリック地下大墳墓の捜索とモモンガとの合流である。

 

「まずは近くの国、ローブル聖王国に向かうか。しかし、これは僥倖だな」

 

 改めて言うがエルゼルはオーバーロードのアニメ及び小説を履修済みである。故に多くの布石や対策を取ることができたのだ。

 そしてエルゼルが異世界に転移したら、絶対にやりたことがあった。

 それは……

 

「(カルカ・ベサーレスを絶対に聖棍棒、打撃武器などにはさせん! 丸山先生のことは尊敬しているが聖王女のことだけは許せん! 悲惨過ぎるわ!)」

 

 ローブル聖王国の女王、カルカ・ベサーレスを救う。

 それを胸に深く刻んだエルゼルは背中に力を入れる。するとバサッっという音と共に背中に現実世界の時にはありえなかった純白の十二枚羽が現れる。

 

 まるで産まれたその時からあったかのような違和感の無さと手足のように自由に動く翼に、エルゼルは前世でも感じたことのないほどの感動に思わず涙が出そうになる。

 ゆっくりと羽を羽ばたかせると足が地面から離れ、宙に浮かぶことができる。

 

 飛べることがわかったエルゼルは、今度はバンッ! と空気を叩き一気に上空に急上昇、星が掴めるほど高い高度にまで飛び上空から地形を把握する。

 

「北に見える光の集合体と北北東に見える山脈から、あれがリ・エスティーゼ王国とアゼルリシア山脈。東に見える光がスレイン法国。そして北西に見える海と西に見える光がローブル聖王国」

 

 モモンガたちと早急に合流するならばリ・エスティ―ゼ王国なのだろうが、エルゼルには絶対に成し遂げたいことがあるため、目的地をローブル聖王国へと定める。

 目的地を決めて羽ばたこうとしたその時、東から強烈な光が襲う。

 

「ッ! 朝日か! 見るのは前世以来。本当に異世界に来たんだな……」

 

 しばらく朝日を見つめたエルゼルは今度こそローブル聖王国に向けて大きく羽ばたいていった。

 

 翼を使って大きく聖王国までの道のりをショートカットしたエルゼルは途中あった廃砦に降りて翼を消すと旅人を装うためにローブを纏い、フードを深く被って徒歩で聖王国にたどり着いた。

 

 原作知識で聖王国の大方の知識あるとはいえ、聖王国の特徴の一つ中国の世界遺産万里の長城に似た要塞線に思わず感嘆を漏らしていると、聖王国に入国するための巨大な門に設置された検問所の衛兵から声をかけられる。

 

「そこの者、貴様は旅人か? 冒険者プレートは無いように見えるが?」

 

「あぁ、遥か遠くから来た旅人だ。冒険者にはこれからなるつもりだ」

 

「そうか。今は亜人共が活発になっていてな、冒険者となってくれるのなら我々としては大助かりだ」

 

 「なるほど、それは良かった……」と適当に相槌を打ちながら、これからの予定を練っていると衛兵の口から聞き捨てならない言葉が聞こえた。

 

「しかし、お前は運がいいな! 今日はローブル聖王国、聖王女の二十歳誕生祭だ。首都ホバンスには及ばないが、ここカリンシャでもお祭りをするんだ。出店が沢山あるから楽しんでほしい」

 

「……そうか。なら楽しませてもらう」

 

「では、前線で会ったその時は頼む」

 

 そう言って快くと入国を許可してくれた衛兵に軽く頭を下げたエルゼルは少し足早に門をくぐり抜けると急いで裏路地へと逃げ込むように入った。

 そして周りに誰もいないことを確認すると、大きく息を吐き悪態をつく。

 

「ふざけるな……! 原作だとカルカは二十代半ば近く。つまり俺は原作開始の約五年前には転移したということだ……!」

 

 原作前に転移することも一応頭の中にあったエルゼルだが、単独転移という想定外に続いて原作前スタートというさらなる想定外に上手く事が進まずエルゼルは頭を抱え苛立ってしまう。

 

 ナザリックとエルゼルの転移ズレが一か月程度であれば、打てる手はいくらでもあった。

 しかし、約五年も待たないといけなくなると、ほぼ何もしない状態でナザリックが来るのを待たなければならない。下手に動いて原作と乖離してしまえば原作ブレイクしてしまう=原作知識という大きな武器、情報アドバンテージを失い策を練るのもかなり大変になってしまう。

 

 かと言ってナザリックが来るまで何もせずに約五年もじっとしているのは、嫌である。

 

「……それでも俺のやることは変わらない。ナザリック、モモンガさんたちと合流とカルカの救済は絶対だ。まずは今できる事をするとしよう」

 

 エルゼルはローブを翻して、祭りで賑やかになっている人混みの中に紛れて行った。

どっちが先に読みたい?

  • ナザリック視点
  • エルゼル視点
  • 半分ずつでいいから両方
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。