リコリス・バレット   作:倉崎あるちゅ

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 リコリコロス中の読者のために更新時間を23時半に変更だぁ!


Episode 4

 

 

 

 学生服を着た少年──リリベルと交戦を始めてから、彼らとの接敵率が上がった。

 おそらく、反機械化勢力のプライドで先に前線に出ていたが、尽くやられてしまいリリベルを投入したと、俺は予想する。

 

「ちっ……!」

 

 バキリ、と嫌な音が地下鉄内で響いた。

 機械化部隊の隊員が腕を抑えて座り込んだ。

 

「大丈夫か?」

「ええ。大丈夫です、右腕を撃たれただけなので」

 

 それを聞き、彼の右腕を見るとピクリとも動けない状態だった。

 

「無理すんな。物資隊まで下がれ」

「しかし!」

「ダメだ。またあの人に怒られんぞ」

「ぐぅぅぅ……!」

 

 不満たらたらな唸り声を上げて、隊員は物資隊の場所まで下がっていく。

 未だに銃弾が飛び交う地下鉄内で、隣にいた千束がマガジンに弾を込めながら俺に質問してくる。

 

「あの人って?」

「ウチの医者……医者か? そういう人」

「へぇ。なんか嫌そうにしてたけど」

「あの人、怒ると怖いんだ」

「あー、わかる。わたしも定期的に病院行くけどさぁ、嫌なんだよねぇ」

 

 そう言いながら、彼女は自分の身体を抱きすくめるようにする。

 確かにコイツも一ヶ月に一度くらいの頻度でDA管轄の病院に通っている。それを不思議に思ったことはなかったが……なにかあるのか? 

 

「部隊長、正面クリア! 行けます!」

 

 っと、千束のことを考えるより戦闘に集中しなきゃな。

 

「わかった。千束、弾の補充はできたな?」

「おっけー、行ける」

 

 カシャン、と拳銃のスライドを鳴らし、千束はリコリス鞄を背負い直した。

 俺は頷き、ヴェクターを構える。

 

「ここから先、線路が別れる。俺と千束、フキと蛇ノ目、篝で片方を。もう片方には機械化部隊とサードリコリスたちで制圧してくれ」

「物資はどうしますか」

「数人こっちに来て欲しい。流石に敵地のど真ん中で弾が枯渇するのは避けたい」

 

 地下鉄内に入って数え切れないほどの戦闘をし、ヴェクターのマガジンを何度も空にした。

 三十三連マガジンを五十連マガジンに変えたり、たまに懐にしまっていたXDMで撃ったり、としていた。

 俺のチーム、〝セイバー〟はAS VALで銃撃してくるリリベルと、反機械化勢力の自衛隊隊員を最小限の被害で払い除けているが、他の〝アーチャー〟と〝ランサー〟は何人か亡くなった奴も出ている。

 それは機械化部隊も、サードリコリスも同じで、もっと速くこの事件を解決しなければと焦燥感に駆られる。

 

「別れた先も線路が別れる。十分気をつけてくれ」

 

 重々しく、それぞれ一様に頷いた。

 行くぞ、と声をかけて俺たちは別々の線路を進んでいく。

 

「はぁっ……はぁっ……!」

「エリカ、大丈夫?」

「う、ん。まだ平気」

 

 ちらりと蛇ノ目と篝を見る。

 やはり消耗は激しいか。

 俺も少し肩が上下するくらいには疲れている。隣の千束は問題ない。フキも俺と同じくらいに消耗していて、セカンド二人は息も荒々しい。

 

「二人は休んでいてもいいぞ。物資隊から水もらってくれ」

「すみません……」

「気にしなくていい。仕方ないことだしな」

 

 ゲリラ戦は体力と精神に著しい負担を強いる。

 いつ敵が現れるかわからない、まだ戦い続けなければならないのか、と集中力を妨げてくる。

 俺も水を飲むか、とポーチに入れてあるペットボトルを取ろうとした瞬間、ピリ、と直感が働いた。

 

「また来たか」

 

 言いながら胡椒手榴弾を放り投げ、相手の出方を伺う。

 パン、と手榴弾が弾けて胡椒が舞った。咳やくしゃみをしないことから奥へ引いたようだ。

 

「心、あたしが千束と一緒に行く。エリカとヒバナを頼むぞ」

「わかった。気をつけてな」

「だいじょぶだいじょぶ、この千束さんがいれば楽勝よ」

「油断すんなー」

 

 ただでさえ暗いのだ。物資隊から遠くなれば照明は無く、薄暗い地下鉄内で戦闘を強いられる。

 そもそも、眼に頼っている千束はこの条件は厳しい。手持ちのフラッシュライトがあるとはいえ、それでも視野は狭くなる。

 物資隊の一人を千束たちの方へ向かわせ、俺はいつでも救援が呼ばれてもいいよう、走れる準備をしておく。

 

「いつまで続くのさ、これ」

 

 篝が蛇ノ目を支えながら呟いた。

 

「今回の、ゲリラの指揮をしている奴を倒さなきゃ終わらないだろうな」

 

 そう言うと篝が顔を苦しそうに歪める。

 相当参ってるな、これは。

 リコリスといえど、年齢は十代だ。身体も精神もまだ若く、未熟だ。それは俺にも言えることで、今の泥沼な戦闘に、気を抜くと苛立ちと疲れが押し寄せてくる。

 再び、ピリ、と直感が働く。しかし、これは……。

 

「……俺じゃない? じゃあ──」

 

 呟いた瞬間、千束とフキが向かった奥から、ドオォォン、と爆発する音が二、三回響いてきた。

 爆発音からしてC-4爆弾。

 

「っ、千束……!」

 

 地を蹴った俺は蛇ノ目と篝、物資隊を置いて爆発音がした場所へ走り出す。

 薄暗い地下鉄内を少し走ると、線路を塞ぐように瓦礫が壁になっていた。

 

「え、これって」

「うそ……」

 

 遅れてきたセカンドリコリス二人が喘ぐ。

 ちっ、と俺は痛烈な舌打ちをした。すぐに無線で千束とフキに呼び掛けを行うが、返ってくるのはノイズのみだった。

 ジャミングされている可能性は低い。最強のAI、ラジアータにモニターされているのでハッキング、ジャミングの類はゼロと言っていい。

 すなわち、無線が破損したか紛失したかだろう。

 

「こうなったら……」

 

 左手で拳をつくり、俺は振りかぶった。

 

「ぶ、部隊長! それはマズイですって!」

 

 そんな俺に物資隊の隊員が俺の腕を取り押さえた。

 俺より十は上の男性隊員が血相を変えて俺を必死に抑えている。

 

「そんなのでこじ開けたら奥にいる錦木さんと春川さんが大変なことになりますよ!」

「ちっ……!」

 

 舌を打った。

 確かに、その通りだ。彼の静止がなければそのまま拳を叩きつけていただろう。

 早計だった。普段ならこんな浅はかな行動をとることはなかったはずだ。俺も相当疲労がたまっているのか。

 とりあえずは、ミズキにスキャンをかけ直してもらうとしよう。

 

「ミズキ、聞こえるか?」

『えぇ、聞こえるわよ』

「千束とフキと寸断された。またスキャンをかけて地形を把握したい」

『まぁ、あの子なら大丈夫か……。わかったわ。スマホ、まだ圏外じゃないでしょ?』

 

 そう言われ、俺はスマホを取り出す。幸い、まだ圏外ではない。いくら地下鉄内とはいえ、こうも瓦礫が多くては電波を遮断してしまう。

 少し待ってなさい、とミズキが言う。

 

『終わったわ。今送る』

「助かる。……最悪だ」

 

 スマホに送られてきたデータを確認し、俺は悪態をつく。蛇ノ目と篝がこちらに寄ってくるので、スマホを向けた。

 

『目の前の瓦礫だけど、退かすのは無理そうね。何時間かかるのか』

 

 彼女の言葉にセカンドリコリス二人が表情を暗くする。

 俺は画面に映されるデータを穴があくほど見つめ続ける。

 目の前の瓦礫の厚さはドリルでもない限り退かすことはできない。仮に、俺がやろうとしていたことでも、できなくはないが何度も行うことになる。

 あれこれ考えているうちに、スキャンされたデータを見てふと気づいた。

 俺たちがいる場所から少し戻ったところに、壁越しだが線路がもう一本通っている。この線路は、目の前の瓦礫の奥と最終的には繋がる。

 俺はすぐに行動を起こした。データを頼りに、壁が一番薄い場所へ走って移動する。

 

『ちょっと心、なにする気よ?』

「壁をぶち抜いて千束と合流する」

『いやいや、無理でしょ! アンタ、今ドリルとか持ってないわよね!?』

「方法ならある」

 

 ヴェクターを背負っている鞄に引っ掛け、俺は拳を壁にピタリとくっつけた。

 遅れて来た物資隊の隊員が、俺が今しようとしていることに気づき、口を開く。

 

「部隊長、だからそれは……!」

「手加減するに決まってんだろ。じゃなきゃ生き埋めだ」

 

 そう言って、俺はぐっ、と壁に左拳を押し付ける。

 軽く拳を固めた瞬間カシャン、と鳴り、壁に大穴が空いた。

 

 

 

 

 α

 

 

 

 

 物資隊から弾丸の補給をしてもらい、千束は薬室(チャンバー)に弾を送る。

 さっきの爆発には驚いたな〜、と彼女は思う。

 幸いにも、千束とフキ、物資隊の隊員には怪我はない。リコリスが背負っているサッチェルバックには防弾性のあるエアバックが内蔵されているので、それで身を守れた。

 ……まぁ、爆風でインカムがお釈迦になったけど。

 ……仕方ないよね〜。

 

「千束、準備はいいか?」

「いける。弾ありがとうございます〜! ホントに助かったぁ!」

 

 うひひ、と笑う。

 千束が持つ1911(ガバメント)をカスタムした銃は弾倉(マガジン)に六発しか弾が入らない。薬室に一発送っても合計六発+一発にしかならない。

 リロードはよくするし、千束自身もよく弾を撃つ。消費は著しかった。

 

「春川さんも弾は大丈夫ですか?」

「あたしはまだあります」

 

 瓦礫のせいで心たちと合流は不可能。奥に進むしかない。

 奥に進めば敵の数は増えていくが、そこはファーストの実力を示す時だ。示す相手が瓦礫の向こう側にいるのが、やや不満点か。

 物資隊がいるおかげでフラッシュライトを構えながら動かなくて済むのは大きかった。後ろから明かりが照らされ、自衛隊員とリリベルとの戦闘は問題なく行えた。

 

 心たちと別れてから何十分か経った頃、目の前には四人のリリベルたちが千束とフキにAS VALを構えて、弾丸をばら撒いてくる。

 フキは姿勢を低くし、その小柄な身体を利用した高機動な戦闘スタイルを披露する。白い制服を着るリリベル──おそらくサードに値する彼らは、春川フキというファーストに圧倒され、グロックの銃弾をその身に受けた。

 

「フキー、殺さないようにねー!」

 

 よっ、と千束がAS VALから放たれる銃弾を回避する。

 撃ってきたリリベルへ急接近し、お返しに弾丸を放つ。少年の身体から赤い花が咲く。

 

「わかってる! お前こそ、しっかり意識飛ばせよ」

「言われなくてもやりますぅ〜! ほい!」

 

 ナイフで接近戦をしかけてくる敵に対し、千束が胸元で銃を構え、引き金を引く。再び赤い花が咲き、無防備な腹に蹴りを入れた。

 

「とんでもないな……」

 

 物資隊の隊員が思わずポロリと、そんなことをこぼした。

 自身の部隊長もとんでもないが、それと同等だと思わずにはいられない。フキのあの戦闘スタイルは男性はもちろん、女性に対しても有用なスタイルだろう。姿勢を低くし、限りなく被弾を避けて自身を発見しづらくさせるあの動きには脱帽ものだ。

 千束の戦闘スタイルは……化け物だ。

 銃弾を避けるなどできるわけがない。部隊長である柾木心も大概だが、彼女は完全に読み切った上で弾丸を避ける。

 どことなく心と似たような動きの近接格闘で打撃や足技を対象に与えているような気がした。

 

「というか、部隊長まんまでは……?」

 

 彼女が心に似ているのか、彼が千束に似ているのか、隊員は混乱する。

 もうどっちでもいいか、と彼は思考を放棄した。

 

「よし、これで動けまい」

 

 ボララップで千束はリリベルたちを縛り上げる。

 いくらリリベルがリコリスと同様の訓練を受けているとはいえ、装備を一切外され、手足を拘束されていれば抜け出すことは容易ではない。

 

「データ上だと、そろそろ敵勢力の本部が近くにあるかと」

「おほ〜、盛り上がってきた!」

「遊びじゃねぇんだぞ」

「そんなのわかってるって。けど、ワクワクするじゃん」

「映画の見すぎだ」

 

 マガジンを交換し、千束が興奮気味に笑う。そんな彼女にフキは呆れながらも冷静に奥へ注意を向けている。

 ファーストの二人は互いの死角を埋めるようにクリアリングしつつ奥へ奥へと進む。すると、銃声と共にキラリとオレンジ色の光が奥で瞬いた。

 

「伏せて!」

 

 千束が身をかがめて叫ぶ。

 フキと物資隊の隊員が身を守るため遮蔽物へ隠れた。

 割られないよう物陰に照明をつけ、反射光で辺りを照らす。

 千束とフキが遮蔽物からチラリと奥を見ると、自衛隊の戦闘服に身を包んだ男がライフルを構えていた。その周囲には複数人のリリベルもいる。

 

「おぉ、盛大なお迎え。フキー、いけると思う?」

「さぁな」

「自分が手榴弾を投げます。その間に仕掛けてください」

「お、いいですねぇ!」

 

 物資隊の隊員がアーマーリグから胡椒手榴弾を何個か取り出し、ピンを抜く。一番奥、中間、手前、と正確に投げ入れた。

 

「撃て」

 

 自衛隊の男が指示を出し、リリベルがドドド、と手榴弾を狙い撃つ。

 銃口がこちらから外れた瞬間、千束とフキが走り出す。自衛隊の男がライフル──HK417の引き金を引き、NATO弾が射出される。薄暗いが、照明の反射光でギリギリ見えている。

 千束、放たれた銃弾を避ける。自衛隊の男に自身の拳銃の弾を叩き込んだ。

 

「ちっ!」

 

 着ていたアーマーに当たり、赤い花が咲く。

 フキ、低姿勢で素早く移動する。リリベルたちが対応するよりも早く、急所を避けて弾丸を見舞った。

 一連の流れが終わっても、フキは走り続ける。自衛隊の男がまだ健在だからだ。

 

「君たちか、リコリスというのは!」

 

 言いながら、男が腰だめでHK417の弾を吐く。

 フキが走りながらグロックを放ち、腹を捉える。しかし、それはアーマーに阻まれた。

 

「ちぃ! クラスⅡアーマーか!」

 

 フキが思わず悪態をついた。

 グロックの弾は9mm。使用している弾種はフルメタル・ジャケット(FMJ)で貫通力がある。だが、クラスⅡのアーマーはその弾丸を防いでしまう。

 それは千束の銃もまた同様で、胸、腹に撃ったとして、衝撃はあっても意識を刈り取るには至らない。

 

「拳銃だったのが仇になったな?」

「いーや? そうでもないですよ〜?」

 

 自衛隊の男がマガジンを交換しながら言うと、千束がC.A.Rシステムの、銃を顔に近付けたエクステンドの構えをとる。

 

「私を倒せる。そう言いたいかな、ゴム弾のお嬢ちゃん」

「当たり前でしょ。さっさと終わらせて、心と合流しなきゃだし」

 

 にこやかに二人は会話するが、目は笑っていない。

 睨み合って数秒、千束が動き出した。

 自衛隊の男がアサルトライフルの銃弾を吐き出す。しかし、千束に狙って放たれた弾丸は尽く避けられ、地下鉄内に消えていく。

 その赤い眼を見開き、彼女は男の動きを見逃すまいと集中する。

 ダン、ダン、と千束が握るストライクウォーリアから銃声が轟いた。

 

「化け物め!」

「失礼なやつ」

 

 腹から赤い花を咲かせながらも自衛隊の男はお返しとばかりにマガジンに残った弾を吐き、遮蔽物となる瓦礫に身体を隠してリロードを行う。

 そして狙うのは、

 

「っ、フキ!」

「ちっ!」

 

 千束に呼ばれ、フキは背負っているサッチェルバックを前に出し、エアバックを作動させた。

 膨れ上がる白いエアバックにHK417の銃弾が次々に撃ち込まれる。

 ……クソが! 

 ……あたしが足でまといみてぇじゃねぇか! 

 そんな思いが過り、奥歯を噛み締める。ふと、目線がリリベルに行く。とあるものが視界に入り、フキは目を見開いた。

 千束は自衛隊の男が銃を撃っている間に胡椒手榴弾を放り投げ、男を遮蔽物から退かす。

 地面に転がり、ボン、と弾けた。自衛隊の男は口を抑えながら後退していく。

 そんな隙を千束が見逃すはずもなく、マガジンに残った三発の弾を放ち、腕と脚に命中した。

 

「ぬうぅ!」

 

 男が堪らず呻く。

 千束、空のマガジンを地面に落として銃弾が詰まったマガジンに交換する。

 フキ、彼女が作り出した隙を突き、リリベルが所持していた武器──AS VALを構え、引き金を引いた。

 フルオートで吐き出された銃弾が自衛隊の男の太ももから下にかけて直撃する。太ももを弾丸が貫通し、血が地面に飛ぶ。

 どさり、と膝を着いた男は最後の抵抗にHK417を撃とうと片腕を上げる。しかし、その銃を蹴り飛ばされた。

 見上げれば、赤い瞳をした化け物(錦木千束)が立っている。

 

「……ははっ」

 

 乾いた笑いが出た。

 ダン、とストライクウォーリアの銃声が鳴り、男の額から赤い花が咲いた。

 

 

 

 

 β

 

 

 

 

 鋭い痛みを覚え、男──永山一等陸佐は目を開けた。

 

「おー、起きた」

 

 目を開ければ、そこにはさきほど自分の額にゴム弾をぶち当てた少女の顔があった。

 すぐにでも携帯している拳銃でその顔に銃弾を叩き込もうとするが、腕は動かず、足さえまとまに動けないことに気づいた。

 

「あー、ダメダメ。下手に動くとまた血ぃ出るよ?」

 

 少女──千束は軽い口調で永山の脚にテープを貼り付ける。

 

「なんの真似だ」

「ん? 応急処置だけど」

「バカにしているのか? 殺そうとした相手の処置なんて……」

「放っておいたら死んじゃうじゃん」

 

 さも当然のように千束はそう言う。

 テープとワセリンをサッチェルバックにしまい、彼女は背負い直した。そのそばで、フキが深いため息をついた。

 

「ったく、相変わらずだなお前」

「当たり前でしょ。わたしは殺しなんてしないよ」

 

 それより、と千束はフキの方へ体を向ける。

 

「フキも怪我してない? 肩の部分破けてるし」

「あぁ? 制服が掠っただけだ」

「えぇ、ホントぉ?」

「あたしがこんなもんで怪我なんかするかよ」

 

 鬱陶しそうに彼女は千束から離れ、物資隊の隊員から補充用の弾薬を受け取る。

 そんなフキを見てまぁいいか、と千束は肩を竦めた。

 

「で、聞きたいんだけどさ」

 

 カチャリ、と彼女は永山に銃を突きつける。

 

「なんでこんなことしてんの?」

「言うと思うか?」

「また痛い思いすることになるけど」

「……」

 

 彼女が本当に撃つ気だと感じ、男は冷や汗を流す。いくら致死性のないゴム弾とはいえ痛みは感じるし、最悪死に至る可能性も極わずかだが存在する。

 生唾を飲み、永山は口を開いた。

 

「……そこにいる機械化部隊を潰すためだ」

 

 彼はフキに弾薬を渡す物資隊の隊員を見ながらそう言った。物資隊、正確には機械化部隊補給物資班はその名の通り機械化部隊の一員だ。

 千束は目を細め、永山を睨む。

 

「同じ自衛隊でしょ、なんでそんなこと」

「コイツら機械化部隊は、自衛隊内でも強大過ぎる。だから潰すんだ」

「強大って……そんな理由で……」

「君にわかるか? いつ、どのタイミングで牙を剥くかわからないやつらを手元に置いておく恐怖を!」

 

 そう言う彼は本当に恐怖を覚えているのか、その大柄な身体を震わせていた。

 そんな男を見て、千束は突きつけていた銃を下ろす。

 

「錦木さん、自分が話します」

 

 物資隊の隊員が後ろから声をかけてきた。彼女は振り向いて隊員を見つめる。

 

「まず、自分たち機械化部隊は、特殊作戦群の中の一部隊です。しかし、一部隊といっても命令権が違うんです」

「命令権?」

「はい。自分たち機械化部隊は、陸将の命令、および防衛省の命令を無視することが可能です。機械化部隊を本当に動かせるのは別のところなんですよ」

 

 だから牙を剥く、という表現だったのか、と千束は納得する。

 機械化部隊の戦力が大きくなるにつれ、命令権が違う彼らが国に対して牙を剥くのではという恐怖、そしてその被害は計り知れない。そうなる前に手を打った。

 国に対する脅威と判断し、リリベルに依頼してまで機械化部隊を排除しようとした。

 

「……結果はこのザマさ。私たちでは彼らを潰すことは叶わない」

 

 反機械化勢力はリリベルを除いて、八割ほど制圧できているだろう。あと数十分も経てば全ての反機械化勢力を無力化できるはずだ。

 

「だが、彼岸花だけは」

 

 ピクリと千束が反応する。

 

「あの少年だけは殺さなくてはならない。……あんなおぞましいものだけは、なんとしても……!」

 

 苦しそうに、永山一等陸佐は声を絞り出した。

 ダン、と千束が発砲する。自衛隊の男の顔スレスレに着弾し、赤い粉塵が舞う。

 

「心はおぞましくなんかない」

「……いいや。君もそう思う時が──いや、止そう。君も同類だったな」

 

 一体どれくらい気を失っていたかわからないが、戦闘時に彼女に化け物と言ったな、と男は思い出した。

 不機嫌そうに、千束が目を細める。

 

「おい千束、そんなのに構ってないで行くぞ。本部が近いなら畳み掛けるべきだ」

 

 もう一発ゴム弾を撃ち込む寸前で、フキが声をかけた。

 千束は深く息を吸い、長く息を吐いた。

 ……そうだ、フキの言う通りだ。

 ……それでも、心をおぞましいなんて言うのを否定したい。

 

「無駄だよ。本部に行っても誰もいない」

「なに?」

 

 永山がボソリと呟いた。

 

「もうすでに、本部に残っていた隊員とリリベルは彼岸花の方へ向かった。奴のことだ。壁を抜いて別ルートを通ってもおかしくない」

 

 そして、と彼は言葉を続ける。

 

「そのルートはすでに把握済みだ。もうそろそろ陸将補が彼岸花と交戦するだろう」

 

 その言葉に、千束の瞳が揺れる。本部にどれだけの戦力が残っていたかわからないが、まず間違いなくそれなりの人数で攻め込むだろう。

 心とエリカ、ヒバナ、そして物資隊の隊員数名。

 少数精鋭で行動していたのが仇となった。

 

「千束、すぐに向かうぞ」

「わかってる」

 

 すくっ、と千束は立ち上がり、永山に背を向ける。

 フキと物資隊が先に奥へ歩いていく。千束は数歩歩いて、男に振り返った。

 

「すっごいムシャクシャするから言うけどさ。心は化け物でもないしおぞましくもないよ。笑うと可愛いしね」

 

 そう言って彼女はにこりと微笑む。永山の返事を待たずに、千束はフキたちを追う。

 取り残された男はははっ、と乾いた笑い声をもらした。

 

「類は友を呼ぶ、か」

 

 永山一等陸佐の(こころ)に、柾木心と同類の錦木千束というトラウマが刻まれた。

 

 

 

 





 最終回、ホントにハッピーエンドでよかった。
 Twitterの喫茶リコリコのアカウントも再開されて泣きましたね。ちさたきのあの画像やばいですよ、ええ。

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