Episode 1
毎日の日課を終わらせ、俺は家に帰る。今日は鍵が勝手に空いていることはなく、普通に鍵を自分で開けて中に入った。
シャワーを浴び終えた俺は、千束の家の中に勝手に入り込む。
「くぁ……んん……」
リビングに行けば、ソファに寝転んでヨダレを垂らす千束の姿がある。
俺は極力彼女の姿を視界に映すことなく台所へ移動した。
コイツ、俺が家に入ることに慣れ始めやがったな。
最初は俺の家でも着てる部屋着で寝ていた。しかし、時が経つにつれて千束の寝る時の姿があられもないものになっていった。それと、テーブルと床に散らばるディスクの量も比例していく。
「適当にパンと目玉焼きでいいか……」
冷蔵庫の中を見てみれば、見事に何も無い。
ベーコンかハムかあれば少しは違うのだが、あいにくと卵しかない。ラピ○タパンと洒落こもう。ジ○○飯は美味いしな。
はじめにコーヒーを落としておいて、次にパンと卵を準備する。
じゅー、と気持ちいい音を立てて卵が焼かれていく。パンも焼かれ、台所には美味しそうな匂いが充満していた。
「んぁ……?」
千束が起きたのか、寝ぼけた声を出す。
「起きたかー? 部屋着に着替えとけよー」
「……はっ!? ちょ、見たなきさま!!」
「見てねぇよ、アホ」
最初の頃は見てしまって殴られたが、今は学習して視界に入らないようにしている。というか、見られて恥ずかしいならそんな格好で寝るな。
ちょうどいい焼け具合のトーストの上に半熟の目玉焼きを乗せてダイニングテーブルに俺と千束の分を持っていく。
コーヒーは……お、良さそう。
「俺が来るってのは知ってるんだから、それなりの格好しとけよ」
「はーい」
不満そうに返事をする千束に、俺はため息をついた。
ますます男として見られてないんじゃないかと不安になってくる。でもその割には恥ずかしがっているし、どうなんだろう。わけがわからない。
目玉焼きを乗せたトーストを齧り、そんなことを思う。
綺麗に黄身をこぼさずにトーストを食べ終え、俺はコーヒーを飲む。千束も着替え終えてトーストにかぶりついた。
さて、と俺は切り替える。
「そうだ、千束」
「んー?」
むぐむぐと咀嚼しながら、彼女は俺を見た。
「付き合ってくれ」
ごくん、と飲み込み、千束はコーヒーを飲む。
そして、
「ふあぁ!?」
彼女は顔を真っ赤にして口をパクパクと、可愛らしい反応をした。
……あれ、思ってた反応と違うな?
α
「ふはははっ!」
「わーらーうーなぁ!」
場所は変わり、都内に存在するとある病院。
その病院への道で、
朝の会話は、この病院に付き合ってくれ、というものだった。
「仕方ないでしょー? 最初にあんな言い方されたら勘違いするのは当たり前だって」
「タイミング的にねぇだろ、アレは」
頬を膨らませて、千束は心を睨む。
「でも、お前なら告白くらい何度かあるだろ?」
客観的に見ても錦木千束の容姿は整っている。
光に当たれば金のように光る綺麗な白髪に、赤い瞳、健康そうできめ細かい肌。天真爛漫で分け隔てなく接する人間性。
本人には言わないが、告白されていてもおかしくないと心は思っていた。
「んー? いや、ないな……」
「ないのか……」
これまでの記憶を遡り、千束が言う。確かに、喫茶リコリコに来る男性客は一番若くて作家の米岡で、それより若い男性客はあまり来ている印象はない。
若い層がいないというわけでもないのだが、たまに来るというだけだった。
「……まぁ、悪かったよ」
病院の前に到着し、心が話を戻した。彼が謝るが、千束はまだ根に持っているのか少々機嫌が悪かった。
「なんか奢るから、そのふくれっ面をなんとかしとけ」
心がそういう言えば、彼女は一瞬嬉しそうな顔になるがふい、と顔を背ける。それを見た心は笑いそうになるのを堪えて病院の中に入っていく。
「んじゃあ、行ってくる。行きたいところ、目星つけておいてくれよ」
「たっかいとこ選んでおいてあげる」
ニヤリ、と千束がいやらしい笑みを浮かべる。
コイツ、と心はジトリと千束を見るが、彼女はもうすでに待ち合いの席に座ってルンルンでスマホを眺めていた。
……別に高くても構わんけども。
……金は使ってないから貯まってるし。
受付に向かって手続きを済ませ、心は病院の奥へ向かっていく。
この病院は、これから会う人物のためだけに作られた病院であり、
「お、来たな」
一番奥の診察室に入れば、高そうな椅子に腰掛ける高身長な女性がいた。
「部隊の皆から聞いていたよ。心くんが左肩を撃たれた、とね」
待っていた、とその女性は爽やかな笑みを浮かべた。
「じゃあ、話は早いな。この腕、なんとかしてくれカリンさん」
「いいとも。それが私の使命であり、君への支援だ」
そう言って、カリン──
それを心は複雑な眼差しで見つめる。
「……伊達くんの件は残念だったな」
「ああ」
その目線に気づいたカリンがチャームを弄ぶ。
「アラン機関のせいだと、君は思っているのか?」
自身の服のポケットから、彼女と同様のフクロウの首飾りを取り出した。今にも握りつぶしそうなほどそれを握りしめ、心はカリンからの質問に肯定する。
「当たり前だ」
カリンはその肯定に息をつく。
短めに切った黒い髪を揺らして、彼女は側に置いてあったカートから
「そのアラン機関が、君の生を繋いだというんだがな」
「……」
押し黙る心に彼女は肩を竦めた。
「新しい腕だ。上を脱いでくれ」
「おう」
指示された通り、心は着ていたシャツを脱いで上裸になった。左腕を見れば、前回の戦闘で銃剣を防いだ際に傷ついた跡が残っている。
その傷は肌色の皮の下まで届いており、金色の幾何学線を描いた黒色が見える。
「ふむ……やはり耐久性に難アリか」
「銃弾に貫かれてるし、明らかだよな」
「そうだな。悔しいが改善点がよくわかるよ」
肩は銃弾に貫かれ、腕は銃剣により傷がついた。加えて、そんな状況下でカートリッジによる打撃強化と衝撃波である。耐久性に難がある腕でそんなことをしていれば、機能不全を起こしても不思議ではない。
「では、始めるよ」
ガシュ、と左肩から下の腕が外された。
「つぅっ……!」
「操作性を向上せるために神経を繋げているんだ。痛いのは仕方ない」
我慢しろ、とカリンが冷たく言う。心は顔を顰め、歯を食いしばった。
激痛を耐えること数十秒が経ち、再びガシュ、と音が鳴る。
「ふぅ……」
「これで終わりだ。どれ、脚も見てやる」
「頼む」
右脚を台に乗せて、カリンは簡単にチェックしていく。カシャン、とカートリッジが装填される場所が開かれ、清掃、関節の動作チェックなども行われた。
「さて、これで要件は済んだわけだが……」
「なんだよ」
チラリ、とカリンはパソコンのモニターに映る監視カメラを見た。
そこに映し出されるのは、スマホをニヤニヤと笑いながら弄る白金色の髪をした少女。
「彼女連れとは恐れ入った」
「ちげぇよ。バカかアンタは」
心は呆れた表情を浮かべてシャツを着る。
「錦木千束、だろう?」
名前を言われ、ピクリ、と反応した。ギロリとカリンを睨み、殺気を放った。
「なぜ知ってる?」
「ふっ、君なら予想ついてるんじゃないか?」
白衣を着た女性は小さく笑って、フクロウのチャームを人差し指で掲げて見せる。
「支援者からチラッと聞いたんだよ」
「なに?」
その言葉に、心は驚愕した。
……支援者? カリンさんの支援者が、なんで千束を?
……っ! そういうことか。
ほんの一瞬思考をめぐらせ、彼は答えに辿り着いた。
「千束もアランチルドレンか……!」
「なんだ、知らなかったのか?」
「あぁ。この四ヶ月、一緒にいたけど、アイツ自分のこと喋らないんだ」
四ヶ月も一緒にいて、アラン機関が支援する対象者──アランチルドレンだと示すフクロウのチャームを見たことがなかった心は、少なからずショックを覚える。
……仲はわりと良かったと思ってたんだけどな。
……いや、千束のことだし、聞かれなかったから、とか言いそうだな。
装着したての左肩を回しながら、彼は思う。
アランチルドレンだと理解した上で千束のこれまでのことを思い返す。なるほど、と心は納得した。
相手の服や筋肉の動きで次の行動を予測、卓越した洞察力で射撃タイミングと射線を見抜くのは、神から贈られた才能、とアラン機関なら言うだろう。
「アンタの支援者と千束の支援者は同じか」
「私たちだけじゃないさ。君もだ」
「……そういや、カリンさんがソイツに話して俺は今ここにいるんだったか」
「そうとも」
アラン機関はアランチルドレンに接触することを禁止している。
しかし、花澤カリンはその才能を活かすためには支援者の積極的な協力が必要だと説得した上で繋がっていた。
「心くん、彼女のこと……好きなんだろ?」
「うっさいぞ」
心の耳が赤く染る。
それを隠すように、彼は荷物を持って診察室から出ようとする。そんな彼にカリンが再び名を呼ぶ。
立ち止まって彼女を見ると、その表情は至って真面目だった。
「正直言って、八年も片想いをしているなんて……狂ってるよ」
一目惚れし、会って話したのが四ヶ月前。千束をひと目見ただけで、彼は八年間も片想いをしている。
事情を知っている者から見て、それは異常に思えた。
「ふん、機械をずっと弄ってるアンタの方が狂ってるぞ」
「……これは一本取られたな」
じゃあな、と心は診察室から出ていった。
確かに、一般的に片想いを続けるのはあるところはある。対して、機械を弄ることしかしていない者の方が狂っているだろう。
ふふ、と笑ってカリンは診察室の奥へ向かう。
開けられた部屋の中には、黒く、金色の幾何学線が入った精巧に作られた義手、義足が大量に並べられていた。
「さて、続き続き」
にやっと口を歪めて、彼女は台に乗せられた機械を手に取った。
β
病院を出て数十分後、心と千束は都内にあるお高めな喫茶店にいた。
若干千束が挙動不審に周囲を見渡し、正面に座る心を見る。
「い、いいの?」
「なんだ、千束が選んだんだろ?」
メニュー表を眺めていた彼は呆れたように千束を見た。
「そうだけどぉ……めっちゃ高いよ?」
喫茶店にしては、と続ける。
「金ならある」
「それはそっか、部隊長だもんな」
じゃあいっか、と千束は気持ちを切り替えた。
「千束は決まったか?」
「んー、甘いの食べたいけどお腹減ってるんだよね〜」
「どっちとも食べれば?」
「食べた分動けばノーカンだしね!」
メニュー表を二人で見て、これがいい、あれがいい、と言い合いをしつつ決めていく。
「わたしこれ。心は?」
「俺はこれにする」
「おっ、美味しそうだな……ひと口ちょうだい?」
「仕方ねぇな。……ホントにひと口だからな?」
「わかってるって」
釘を刺す心に千束がひらひらと手を振った。心は、彼女がそう言って半分もスイーツを食べたことがあることを忘れはしない。珍しく楽しみだったプリンをひと口と言って半分食べられたことは今でも刻まれている。
「心配なら、わたしのもひと口あげてしんぜよう」
「……そうする」
店員を呼び、心が二人分の料理とドリンクを注文する。それを終えたあと、千束がスマホを彼に見せてきた。
「食べモグのクチコミでさ、さっき頼んだパスタが美味しいんだって」
「へぇ。……俺が頼んだやつも好評みたいだな」
「そう! 心は見る目あるよ」
「そうかい」
にひひ、と笑顔を向けてくる千束に、心はドキリとして視線を少し逸らす。
「この間のフィギュアスケート見た?」
「みたみた。アランチルドレンが金メダル取ったやつでしょ?」
ふと、周りのテーブルからそんな会話が聴こえてくる。
千束は頬杖をついて、その会話に耳を傾けた。
「金メダルかぁ、すごいなー」
どこか羨むように彼女が言った。
「他の選手を寄せ付けないほどの点数らしいな」
「へぇ」
心がスマホでその記事を見つけ、テーブルの中央にスマホを滑らせる。
それを見て千束はいいな、と呟いた。
「なにが?」
「いや、自分の才能がわかってるってのが」
そう言って彼女は服の下にしまっていた首飾りを取り出した。
「実はわたしも持ってんだよね、これ」
親指にひっかけて心に見せたのは、彼も持っているアランチルドレンを示すフクロウのチャーム。
……やっぱ、話題にならなかったから話さなかったやつだったか。
……良かった。本当は仲良くなかったとかじゃなくて。
アランチルドレンであることには驚かず、心はまったく別のことで安堵した。
彼の反応を見て不思議そうに千束が首を傾げる。
「あれ、驚かない?」
「……俺も持ってる」
「へ?」
心がそう言うと彼女は目を丸くする。
カチャリ、とそれをポケットから取り出してテーブルに置いた。
「わぁお」
突然のカミングアウトにより、千束がしばらく瞬きを繰り返す。その後大きな息を吐きながら、彼女は背もたれに寄りかかる。
「そっか、なるほどねぇ」
「なにがだ?」
「心の直感に納得した」
こりゃアランチルドレンだわ、と千束は頷いた。
戦闘行為による回避、攻撃の最適化、奇襲時の察知、ボードゲームでの異常なまでの勝率、いずれも心が直感的に選びとった選択が勝敗を決めている。
「俺も、千束がアランチルドレンで納得した。その洞察力は誰にでもできることじゃない」
「勘で避けてるだけじゃわ。……けど、そうなのかな……」
先日の車でのやりとりを再びするかと心は思ったが、千束が店の窓から外を見た。その表情に翳りが見えた気がした彼は頭を搔く。
「自分の才能ってさ、わかる?」
「……周りに言われないとわからん」
「でしょ? わたしもそう。けど、心と一緒に仕事してると、わたしの才能ってこの眼なのかなって……思うようになった」
その言葉の端々から、小さな寂しさを感じ取った。
「誰かを救うための才能があるって、思ってたけど……眼だけじゃなぁ?」
あはは、と千束が笑う。
「ごめん、せっかく美味しいもの食べに来てるのに」
心にはそれが無理して笑っているように見えて、つらくなった。
こんなにも早く料理が来て欲しいと思ったことはない、と彼は思う。料理が来たら、千束の曇った顔を見ずに済むのに、と。
テーブルに置かれたお冷の水面に、心自身の顔が映り込んだ。ふと、彼は思い出す。
「……あるはずだ」
「んー?」
……俺はあの時、電波塔事件で自分すら失いかけた。
……けど、そんな俺を救ったのは、目の前にいるコイツだ。
「誰かを救う才能は、千束にはあるはずだ」
水が入ったコップを見ながら心が言う。
「誰かを助けたいって気持ちは、誰にでもあるもんじゃない。それは立派な才能だ」
落としていた視線を上げて、彼女の赤い眼を真っ直ぐに見つめ、心は自身のチャームを握りしめる。
「俺はそう思う」
「……」
彼がそう言うと、千束はばっ、と顔を背けた。
……心にそう言われるとは思わなかったな。
……なんか、顔あっつ。
急に顔を背けた彼女に不思議に思った心は眉を顰める。
「どうした、千束?」
「いや、なんも」
僅かに頬を朱に染める千束はゴクリとお冷を飲み干した。
すると、タイミング良く注文した料理が運ばれてくる。
この頬に感じる熱さをなんとかしたかった千束にとって、このタイミングは最高だった。
「うわ、めっちゃ美味そう」
料理を目の前に置かれた心が、思わずそんなことを零す。
彼の言う通り、注文した料理たちはとても美味しそうに湯気を放ち、香りもとても良いものだ。
「おほー! これは美味しそう!」
いただきます! と二人は手を合わせてフォークを手に持つ。
心が頼んだものはチーズがたくさん盛り付けられたパスタ。ひと口口に運ぶと、彼の目が丸く見開かれた。
「なんだこれ美味っ」
「えー! わたしも食べたいぃ!」
「わかったから、その代わりに千束もよこせ」
「わかってますぅ!」
お互いひと口ぶんを取り皿によそって交換し、口の中へ。
「「うまっ!」」
瞳をキラキラさせ、心と千束は顔を見合せた。
「めっちゃ美味しいじゃーん! 心、もうひと口だけ!」
「仕方ねぇな、俺ももうひと口」
「任せろー! てか、なんなら半分にしない?」
「おうおう、それでいいんじゃないか?」
話はトントンと進み、それぞれ半分にして舌包みを打つ。
パスタを食べ終え、そのあとのスイーツも食べ終えたあと、千束がとあるものを発見した。
「ね、あれ乗らない?」
「ん? ……水上バス?」
「そ、渋滞を気にせずに進めるよ」
「へぇ、そんなのあったのか」
約八年、東京に住んでいる心だが、水上バスがあることに気づいていなかった。
義肢装具によるリハビリ、自衛隊の訓練に仕事、ミカとの訓練に彼の仕事の補助、八年間ずっとそんな生活をしていた彼には街を見る暇などなかった。
行くぞー、と千束に手を引かれて、チケット販売機まで連れていかれた。
水上バスに乗った二人は流れる墨田区の風景を眺めていた。
「結構変わるだろ」
「ああ」
川から見られる景色はいつもと違い、新鮮な気持ちで眺められる。
景色を眺めながら、心は口を開いた。
「千束は、なんでDAから離れてるんだ?」
この問いは、千束と出会ってから抱いてきた疑問である。
話題に出なければ話さない、というのはもう理解している心は、この際一歩踏み出そうと考えた。
彼からの質問に、千束はあー、と逡巡する。
「嫌なら答えなくていい」
「いや、そういうんじゃないよ」
彼女はガコン、と近くに設けられた自販機でコーラを買い、一本心に渡す。それを受け取った彼は千束を横目で見た。
まぁいっか、と千束は独りごちる。
「コレくれた人を探すのと、その人と約束したから……かな?」
服の下にしまっているフクロウのチャームを指す。
「……約束?」
そ、と千束は相槌を打った。
「救世主になるっていう約束」
顔も覚えてないんだけど、と千束は小さく笑う。
なるほど、と心は思った。
人を救う才能があれば、と言っていた理由が明確になった。アランの支援者とそのような約束をしたのであれば、そう願うのは不思議ではない。
それと、と彼女は心を見つめた。
「電波塔事件の時にわたしを助けてくれた人を探すため」
「……っ」
きゅ、とコーラを握る力が強まった。
「そうか」
コーラを流し込み、心は再び景色を見る。
そんな彼を見た千束は、座っていた席に寄りかかった。
「……まぁ、その人は大体見当がついてるんだけどね」
「良かったな」
心の返事が雑になっていく。
仕方ないな、と千束は苦笑いを浮かべ、話を切り替える。これ以上言っても何も得られない。
「そんで、心は? なんで特戦群なんかに?」
「……それも込みで、この前の約束も果たすか」
「この前? あぁ、なんで狙われるのかってやつ?」
「それ」
ちょうどいい機会だ、と心は残ったコーラを飲み干す。
「結論から言うと、俺が特戦群に入ったのは、アラン機関の意思だ。んで、ウチの部隊が狙われる理由は……全員、身体のどこかが機械で、その機械にはあるギミックが施されている。それを過剰戦力だと見られているからだ」
「……は?」
口をぽかんと開けて、千束は声を漏らした。
そんな彼女に、心は自身の左腕を掲げて見せる。
「この腕と右脚、そして左眼が機械なんだ」
なんともないように、つまらないように、心が言う。
パチリ、と千束は目を瞬かせた。
一瞬、理解ができなかった。数秒の時間が経ってようやく咀嚼できて、飲み込めた気がする。
……じゃあ、近接戦の時に左腕や右脚で攻撃を避けてたのはそういうこと?
……でもなんで、機械になったの?
考えれば考えるほど、千束の頭はいっぱいになっていく。
映画の主人公のように、才能があって特殊部隊に配属されてたのかな、と一瞬でも考えた自分を殴り飛ばしたかった。思っていたよりも、彼が背負っていたものは重かった。
「……それって、いつから?」
「電波塔事件に吹っ飛んで、そのあと」
千束がハッ、と息を呑んだ。
救えてなかった、助けられてなかった、と彼女はらしくもないことを考えてしまった。
「あぁ、でもよ」
ふと、心が千束に笑いかける。
「これすげぇんだぜ? 殴ったら衝撃波が出る」
へ? と彼女が声を上げる。
心の呑気な発言に、千束は肩透かしを食らったような気分になった。
……ちょっと暗くなったわたしがアホみたいじゃん。
……いや、でも。
「なにそれカッケー!」
好奇心には勝てなかった。
「え、今度見せて見せて!」
「おう。それくらいなら見せてやる」
子供のようにせがむ千束に、彼は鬱陶しそうにしながらも笑みを見せた。
脚にもある、と言った時には彼女が大はしゃぎし、水上バスのスタッフに注意されてしまった。
短かったような、長かったような水上バスが終了し、船から降りた直後、不意に千束がくい、と心のシャツの裾を引っ張る。
「わたしもさ」
「ん?」
にっ、と笑って指で胸の辺りを指し示す。
心がチャームのことか、と思った瞬間、
「ここ、丸ごと機械なんだ」
指し示された場所は、心臓。肺ではないと、心の直感が断言した。
「……一緒だな」
「そ、一緒。ホントに似てるなぁ? わたしたち」
そう言ってうひひ、と千束は笑った。
組織の外で活動し、たまにその組織の仕事を手伝い、同じアランチルドレン、身体のどこかが機械。これほど似ている境遇はいないだろう。
嬉しそうに笑う彼女に、つられて心も笑みを浮かべた。
柾木心のプロフィールを載せておきます。
柾木心
年齢15歳。身長170センチ。
誕生日7月2日。血液型A型。
髪の色オレンジ。目の色黒。
左腕、右脚、左眼が機械化。腕、脚には打撃の威力を増幅させ、衝撃波を生み出す機構が備わっており、使用時には専用のカートリッジを使う。左眼には、スコープと暗視装置、熱検知といった機能が存在する。
やっと義手や義足、義眼だと判明できたのでプロフィールが書けました。
誕生日は深い意味はないです。リコリコの初放送日なだけです。
脳内再生される声優は個人的に内田雄馬さん。
まだまだ深堀したいのに技量が追いつかない。
読んでくれる方々には本当に感謝しています。
感想、評価お待ちしております!