The 日常回&次話の下地作り。
とある日柾木心は、錦木千束に貰ったヘアゴムで前髪を上げて、喫茶リコリコの厨房で働いていた。
最初につけて接客した時は驚かれたが、今ではわりと好評で、常連客の伊藤は満面の笑みで何度も頷いていたほどだ。
そして、今現在も伊藤は原稿そっちのけで心を見て満面の笑みを浮かべている。
「な、千束」
「なぁにぃ?」
千束スペシャルを作っている彼女に話しかけると間延びした返事が返ってきた。
「そんなにいいもんか、コレ」
「いいと思うよ。わたしは好きー」
「っ……」
「ほいできたぁ!」
千束の言葉にドキリとした心が耳を朱に染める。
それを側で見ていたミズキが呆れ気味に息をついた。
……コイツ、単純ねぇ。
……アタシもこういうのがしたかったわぁぁ!!
彼女は悲しみのあまりドン、と厨房の台を叩く。
「……なにやってんだ?」
「アンタらのせいよおぉ!!」
「えぇ……?」
心にとっては理不尽な怒りを向けられ、困惑しながら注文されたおはぎを作り終える。
注文したのは漫画家の伊藤。彼女に持っていくと、隣にいた北村がいきなり声を上げた。
「見てくださいよー! この間火事になった金閣寺!」
「うわ、ひどいわねー」
「あぁ、これかぁ。残念だよね」
北村が指さすのはニュースを流している小型テレビ。それを見た伊藤と阿部が反応する。
そのテレビでは、先日火事が起こった金閣寺の映像が映されていた。
映像ではすでに消火されたあとの金閣寺が映っており、アナウンサーが現場で話している。
「でもこれ、結局は一部しか燃えてなかったんですよね?」
「そう! けど京都行ってもしばらく見られないなぁ」
北村ががくりと肩を落としてコーヒーを飲んだ。
「京都かー、行ってみたいなー」
ふと、千束が小さく言う。
そんな彼女の近くに寄って、心はテレビを見た。
「行ったことないのか?」
「ない。DA本部と都内の往復くらいかなぁ」
「ふぅん……」
「そういう心はあんのかよー?」
にへらと笑う彼女から、未だに金閣寺の映像が流れるテレビへと視線を移す。
「ある」
「おー、いいなー」
「っていうより、もともと俺は京都出身だ」
「……マジ?」
「嘘ついてなんになるよ」
苦笑いを浮かべながら心が言うと、千束が少しショックを受けたような顔を見せる。なにかやばかったか、と彼が心配になった瞬間、
「なんで京都弁じゃねぇんだよ」
「……はぁ」
心配して損した。
「なんでため息つくんだよー」
「ため息もつきたくなるだろ。アホめ」
「んだとぉ!」
「余計アホに見えるからやめろ」
詰め寄る千束の顔を手で押し返し、距離をとる。
……久々だな、このやりとり。
……なくなって欲しかったんだが。
再びため息をひとつ。
「七歳までしかいねぇのになんで京都弁喋んだよ」
「いやそうだけどぉ……」
釈然としない千束はカウンター席にドカリと座り込んだ。
「なんだい、心くんは京都出身なのかい?」
「え、まぁ。昔っすよ」
阿部に急に話しかけられ、心は大雑把に返答した。
下手に話して深く訊かれでもしたら対応できない。冷や汗をかきながら、彼は視線を逸らした。
「心、買い出し行ってきてくれないか?」
話を広げないように厨房に引っ込んだ心に、ミカが彼にそう頼む。心は頷いて金を預かり買い出しの準備を行う。
「ん? 買い出し?」
「あぁ。一緒に行くか?」
「いいね、行こ行こ」
常連客たちと楽しく話していた千束が、エコバッグを持っている心の隣についた。
「んじゃあみなさんごゆっくり〜!」
にひひ、と笑って千束は常連客たちに手を振って、店を出ていく心の後を追った。
閉じられる店のドアを見つめながら、常連客たちは本当に仲良いな、と内心一致でそう思った。
店を出た二人は先ほどのニュースについて、歩きながら話す。
「あれ、事故ってなってるけど違うだろ」
「たぶんねー。楠木さんに聞けばわかるかなぁ?」
「話してくれると思うか?」
「んー、無理そ」
だろうな、と心は苦笑する。
金閣寺炎上事故。表上事故となっているが、おそらくテロによる火災だろうと二人は思っている。
「京都支部にもファーストはいるんだろ?」
「いるよ。支部には最低一人はファーストいないと機能しないからね」
「へぇ」
ある程度DAについて知っていたつもりだったが、それは知らなかったと心は頷く。
ファーストということは、以前一緒に行動した春川フキと同等の実力があるということだ。心の隣で歩いている錦木千束はファーストリコリスの中でも異常な実力を持っているせいで基準にならない。故にフキを基準に考える。
フキと同等のファーストがいてあの被害、となるとテロリストも相当な仕込みをしたのだろう。
「フキ並のファーストがいてアレ、か」
「いんや、アイツは特別よ」
ぽつりと呟いた心に千束が応えた。
「特別?」
「そ、特別。他のリコリスと違って、アイツの戦い方は異常だからね」
どの口が言うんだと、心は目の前にいる歴代最強のリコリスを怪訝な顔で見つめる。
「ちょいちょい、疑ってるかもだけど、実際そうだからな?」
「……そういうことにしておく」
「信用ないなぁ」
あはは、と千束が苦笑した。
そんな彼女を見て、心は思う。こればかりは信用、信頼などの話ではない。
「千束を見てたら、そこらのリコリスなんて特別でもなんでもないからだ」
卓越した洞察力に、本人に自覚はないが人を惹きつけるカリスマ性、近接戦闘による技術などあげればキリがない。
心がそう言うと、千束が急に立ち止まった。
「千束、どうした?」
「……なんでもない!」
立ち止まる彼女に振り返って訊くが、千束はズカズカと彼を追い越していく。
……最近おかしいなぁ。
……くそ〜! 顔あっつ。
心は何気なく言ったつもりだろうが、千束はここ最近、彼の言動に動揺することが多くなってきていた。
そもそも、先ほどの言葉はリコリスの戦闘面の話をしていたのであって、人物そのものの話をしているわけではない。千束もそれを理解しているが、それでも揺れてしまう。
若干悔しい思いをしながら、千束は心とともにミカに頼まれたものを買いに向かった。
α
「うおりゃあ!」
「あ、それアウト」
「はあぁぁっ!?」
「ざっこ」
「んだとしぃん!!」
『ホントにアホねー千束』
その日の夜。
依頼もなく、暇な夜になった心と千束、ミズキはButtonと呼ばれるゲーム機をテレビに接続して、アリオパーティというゲームで遊んでいた。
場所は心の家のリビングで心と千束はソファに並んで座り、ミズキは自身の家でオンラインで一緒に楽しんでいる。
アリオパーティ、通称アリパは人生ゲームのようなマップゲーム、ミニゲームをひたすら遊ぶモード、その他にも遊び方がある。
三人はそのひたすらミニゲームを遊ぶモードで遊んでいるのだが、
「意図せず千束をボコボコにしちゃうな……」
「悪意がないってわかるのに腹立つなぁ?」
顔をひきつらせて、千束が心を睨む。
このButtonは、珍しくゲーム機に興味を示した千束にせがまれ、心が購入したものだ。ついでにミズキにも買って押し付けた。
こうして三人でのアリパが始まったのだが、あまりにも千束が弱すぎた。
王道なパーティプレイこそ、ボードゲームの知識でなんとか食らいつくが、ミニゲームの才能があまりにもない。いくらかマシなゲームがあったが、直感的にゲーム内容を把握し、直感的な操作を行う心に圧倒的な差をつけられて二位にされてしまう。
「くそぅ! もう一回!」
『それ何度も言ってるわよぉ』
「何度でも挑戦! そして心をギャフンって言わせてやる!」
「言う時が来るか怪しいな」
『煽るな煽るな』
「見てろよぉ!」
次に選ばれるゲームは、クレヨンでどれだけ正確に線が引けるかを競うもの。
至って真剣に、千束がコントローラーを操作する。
「よぉし! これはいいんじゃない!?」
「どうなるかなぁ?」
『ホント何度目よ』
ガッツポーズをして心の肩にドン、と自身の肩をぶつける。
画面が切り替わり、結果が発表される。
「……は?」
「ぶっ!」
『ま、マジか』
すると、千束が操作していた赤い帽子を被ったキャラの頭上には、四の数字が浮かんでいた。
一位、心。キャラは骸骨。二位、ミズキ。キャラはピンク色のキャラ。三位、NPC。キャラは緑色の竜。
「ぬぁんでコンピューターに負けてんのわたしぃぃ!!」
「下手だからだよ」
全くその通りである。
流石に哀れに思ったのか、ミズキは笑うことなく千束にフォローを入れている。
「納得いかないよぉぉ」
「まぁ、確かにNPCに負けるのは納得できないか」
『当たり前よねぇ。アタシも悔しいわ』
そう言うミズキも、何度か緑色の竜に敗北していた。異様にこの緑色の竜、強い。心からすれば弱い部類に入るのだが、千束とミズキにとっては強く感じるのだ。
「じゃあ次は三対一で心をボコボコにしてやるわぁ!」
「やってみやがれ」
「覚悟しろよー!」
『コイツら……体力ありすぎじゃね……?』
アタシ限界、とミズキが呻いた。
すでにゲームを始めて三時間が経った。ミズキにとってはかなりの消耗になる。
結局千束は三対一でも勝てず、心にボコボコにされた。不機嫌になりそうだったところで、NPCを一番強く設定して、心と千束、ミズキの三人で攻略するという方針に変更された。
ミズキが通話から落ち、心と千束もゲームを切り上げてそれぞれ入浴して、再び心の家のリビングに集まった。
「しーん、これ観ようぜ〜」
「ん? ガイ・ハード? 前に観なかったか?」
「この間続編が告知されたでしょ? それで観たくなったわけじゃよ」
なるほどと納得し、心はガイ・ハードのパッケージを受け取ってディスクを取り出した。
「ま、ガイ・ハードは何度観ても面白いしな。ワイルド・ターボも好きだけど」
「わかる! ワイタボいいよなぁ!」
千束は笑いながら、その白金色の髪を後ろで二つに結った。
そうだ、と彼女はリモコンを操作する心に訊く。
「心の一番好きな映画ってなに?」
質問された彼はんー、と唸る。
そう訊かれると悩むところがある。自分で良さそうなものを観る時もあれば、千束が勧めてくるものを観る時もある。彼女が勧めてきた映画の中で好きな物はワイルド・ターボだ。しかし、あのアーベルのヒーローが忘れられない。
よし、と心は好きな映画を決めた。
「結構悩んだけど、アイアンガイだな」
「おー、やっぱ男の子だなぁ?」
「うっせぇ、でもカッコイイだろ」
「だね。ありゃあカッコイイよ」
うんうん、と千束も頷く。
「スパイダーガイも捨て難いけど」
「街を糸で自由自在って良いよねぇ!」
ソファに並んで座り、テレビを眺める。画面には注意事項や禁則事項が流れている。
心は千束が言った糸で自由自在、という言葉に少し考えた。
……カリンさんに言えば左腕にそんな機構作ってくれるか?
……あの人、カートリッジ付ける時も男のロマンだとか言って勝手につけてたし。
一応、カートリッジを別のものに変更すると掌から撃つことが可能である。しかし、速度はいいところ吹き矢程度。アイアンガイのように掌からビームを撃つことはできない。
「あのイカレメカニックの成長次第だな……」
「ん、なんか言った?」
「いんや、なにも。ほれ、始まんぞ」
「やべ、飲み物〜!」
心に言われ、千束がバタバタと冷蔵庫へ走っていく。そんな彼女の姿を見て、心は呆れ気味に微笑んだ。
モゾりと頭を置いていたものが動き、千束は目を覚ました。
「あ、れ……」
眠気の強い瞼を開けて、彼女はテレビを見つめる。画面には先ほど終わったのだろう映画のエンドロールが流れていた。
ふと口元に手をやると、ヨダレが出ていたのか少し濡れている。ゴシ、と手で拭く。
……あー、調子に乗ってワイタボも見たんだっけ。
……途中まで観てたけどそっから記憶ないなぁ。
ガイ・ハード、アイアンガイを観て、そこからワイルド・ターボまで視聴し、千束は寝落ちしてしまった。
「……起きたか?」
「……?」
未だにぼーっとしながら、彼女は声がする隣を見た。
そこには、ソファの肘掛けに肘を乗せて、頬杖をつく柾木心の姿がある。
そして、彼の右腕にはシミのようなあともある。
やべ、と千束は頬を引き攣らせた。
「全く、何度目だよ」
心も眠いのか、怒ることなくその物腰は柔らかった。苦笑いを浮かべた彼は千束を見つめる。
「っ」
かぁ、と彼女の顔が熱くなった。
やはり最近、こういうことが多くなった気がする。
「もう面倒だろうし、俺のベッド使っていいからちゃんと寝ろよ〜」
「……そうする」
心がソファから立ち上がり、コップやその他を持ってキッチンへ向かう。千束はガバッ、と立ち上がって急いで心の寝室へ入り、ベッドへ飛び込んだ。
布団にくるまり、彼女は小さく呻く。
「うわあぁぁぁ、はっず!!」
下着姿を見られた以上に恥ずかしい気がした。
今回のような件は幾度となくしてきたが、千束が途中目覚めることはなかった。せいぜいソファやタオルケットにヨダレを垂らすくらいだろうと千束は思っていたが、どうやら心の服に何度も垂らしていたようだった。
器用に静かに喚き、のたうち回った。そのうち彼女は、心の匂いに包まれて、いつの間にかその意識を手放した。
翌日、顔を真っ赤にした二人が喫茶リコリコで働き、常連客たちが心配していたそうな。
千束が某パーティが苦手なのは声優の安済知佳さんがめっちゃ苦手だったからですね。
ワイルド・ターボはワイスピ。アイアンガイとスパイダーガイはアイアンマンとスパイダーマン。この三作品はどれも私が好きな作品ですね。
感想、評価お待ちしてまぁす!!