リコリス・バレット   作:倉崎あるちゅ

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 大変お待たせしました。
 また今年から再開します。


Chapter 4 Walls are for breaking through
Episode 1


 

 

 

 習志野駐屯地。

 そこは柾木(まさき)(しん)が所属する特殊作戦群が在籍する自衛隊の基地である。

 肌寒いこの時期に、その駐屯地ではとあるイベントが開かれていた。

 

「へぇ、自衛隊のイベントって初めて来たけど賑わってるんだね」

「まぁな。今回は目玉イベントがあるし、それ見たさもあるんじゃねぇかな」

「目玉イベント?」

 

 展示される戦車や自走砲、装甲車といったものを眺め、錦木(にしきぎ)千束(ちさと)は心の言葉に首を傾げる。

 あれだよ、と心が立て看板を指さす。

 

「んん? 救助用オート、マタ??」

「そ、災害時に重い物を撤去する時に使われる、自律型無人ロボット。今は冷蔵庫並みにでかいけど、いつかは人並みのサイズにしたいんだと」

「おお、すげーな自衛隊」

「……自衛隊というより、それを開発してウチらに流すアラン機関がな」

 

 千束の称賛に、心は小声で言う。

 表向きはアメリカからの支援で開発したことになっているが、実のところはアランチルドレンが開発し、それを防衛省が買ったものだ。

 

「一般向けに開示できる情報は今回のイベントで一通り開示して、防衛省やそれに類する人らは地下で詳しいものを閲覧できる。俺らはこのイベントを見たあとに先生たちと見よう」

「おぉー、いいねぇ! それじゃわたしアレ見たい!」

 

 ぱぁ、と笑みを浮かべ、視線の先にあるのは一般人の多い展示エリア。

 お祭り騒ぎが好きな彼女らしい提案に、心は微笑む。

 展示エリアには、この間の反機械化部隊派閥との戦闘に用いられていた5.56mmの弾丸を使用する小銃たちが展示されていた。その他にも迫撃砲もある。

 弾丸から戦車まで、一般開示できるものは説明文が添えられている。

 中には自衛隊員が実演して説明するものもあった。

 

「改めて見ると結構凝ってんな」

「心はあんまりこういうの参加しなかったの?」

「まだ子供にやらせると思うか?」

「……そりゃそうか」

 

 今もそうだし、と苦笑いを浮かべる。

 まだ十五の子供にはこういった行事を任せたくない、という大人たちの配慮だというのは心も理解している。現に新しく入隊した元リコリスである八重(やえ)美桜(みお)も同じく十五ということもあり、この行事の仕事はない。

 彼女も、今どこかで展示物を見て回っているだろう。

 

「お? これこっちじゃ全然見ないね?」

 

 千束が振り返って心を見た。

 展示されているものは99式自走155mm榴弾砲だ。

 

「あぁ。こいつは富士教導団っていう、自衛隊の学校から借りたやつだ。愛称はロングノーズ」

「ここにはないんだ?」

「習志野の部隊は第一空挺団と特殊作戦群だしな。特戦群(俺ら)は車輌使う時は普通の自衛隊が使ってる車輌使うし。空挺団も似たようなもんだろ」

 

 目玉である救助用オートマタの展示というのもあり、周辺駐屯地、教導団からも車輌や武装の貸出があった。チラホラと見える自衛隊員の目や顔が死んでいるのは、それまでの経緯やこれからあるであろう書類や仕事が原因だろう。

 心は(こころ)の中で手を合わせ、そっと目を逸らした。

 

「おおー? こっちはサバゲー用のグッズ売ってんじゃん!」

「ホントだ、知らなかった。チェストリグもあるし、ガスガンも電動ガンも売ってる……。誰だよこんなの企画したの」

 

 購入スペースの横には体験スペースも設置されており、参加者たちが物珍しさもあり、ハンドガンやアサルトライフル、スナイパーライフルのガスガンや電動ガンを撃っている。

 

「ありゃ、持ち方がカップ&ソーサーだ」

「映画やらドラマの影響だろ。こんな仕事やマニアじゃなきゃわからんしな」

 

 カップ&ソーサー、またはティーカップと呼ばれるハンドガンの持ち方は射撃の際、上へ跳ねる反動に弱い。

 グリップを握る手を上から覆うように握るのが反動を抑えるのに適している。

 他にも回転弾倉式のハンドガンに適した持ち方もあるが、ここには置いていないようだった。

 

「それに、ガスガンや電動ガンも少ししか反動ないし、アレでも問題ないだろ」

「そっか。……でもなぁ」

 

 職業柄、こういったことは気になるのだろう。

 クスリと心が小さく笑う。

 

「おっちゃん、これ試させてくれ」

「ええ、大丈夫ですよ──って!? ま、柾木いっと……」

「しー」

 

 彼のことをわかっていた隊員だったのか、心の姿を見た瞬間、顔を青ざめて固まってしまった。

 適当に手に取ったハンドガンはM1911──ガバメントと呼ばれる、サバゲーではありきたりなものだ。

 それをいつものC.A.Rシステムの構えではなく、普通のウィーバースタンスで構え、引き金を引いた。

 バスッ、とガスの音が鳴り、射出されたBB弾が的に命中する。

 続けてその左右の的に当たり、最後の遠い的へ狙いを定めて撃った。

 

「あ」

 

 BB弾は失速し的の手前で落ちていった。

 最後の最後で格好がつかない心は顔を顰める。

 

「あはは! 惜しかったねぇ、心!」

「うるせ」

 

 後ろにいた千束にバシバシ叩かれ、彼は渋々ハンドガンを元の位置に戻した。

 それでも参加者たちの(こころ)を掴んだのか、一人の男性が心へ近寄る。

 

「凄いね君!」

「え、まぁ……この間触ったくらいすけど」

 

 本来、サバゲーは十八歳以上という決まりがあるので、心は嘘をつく。

 千束もそれを理解しているからか、口の端が少しニヤついた。

 

「才能かもしれないね! 良かったら今度サバゲーに参加しないかい?」

「あー、はい。大した動けないと思うすけど」

 

 最初は誰でもそうさ、と男性は人のいい笑みを浮かべて名刺を心に渡して去っていった。

 

「……主催者かよ」

「うわ、ホントだ」

 

 名刺を見れば割と大きめのサバゲーの主催者だったようで、世界は広いのだと心と千束は思った。

 その後、千束も体験スペースで撃ち、的に全弾命中させてスペースから出た。

 それを見ていた長い赤い髪をポニーテールにした少女が千束に声をかける。

 

「あらぁ、電波塔のファースト様じゃない」

「げ、お前かよ」

「げ、なんて酷いわぁ」

 

 八重美桜。

 元ファーストリコリスの刀使いが、ファーストの制服を着て目の前に立っている。

 

「いると思ってたけど、会うとは思わなかった」

「私は、部隊長様が来るんだしあなたも来ると思ってたわぁ」

「まぁね。あれから脚は大丈夫なの?」

 

 渋い顔をしながら、千束は美桜の脚を見た。

 彼女の両脚はアランチルドレンである花澤カリンの手によって設計された義肢装具を使用している。美桜が履いているニーソックスの下には、彼女自身の皮膚を培養した肌をもつ義足があるだろう。

 訊かれた彼女はつま先で地面をトントン、と蹴ってニヤニヤと笑う。

 

「大丈夫よぉ。元気すぎて動きたいくらいだもの。けど、今日は訓練はなしって言われちゃって暇なのよぉ」

 

 じろりと切れ長の目で心を睨むが、一転して再びニヤニヤと笑った。

 

「でも千束はいいわねぇ、男ひっかけて楽しくデートだものぉ」

「ひっかけてないわ!? 貴様わかって言ってるだろ!」

「ひっかけられてもねぇが?」

 

 頬を朱に染めた千束が美桜に詰め寄る。

 ……まぁ、千束に誘われたらついて行くけど。

 ……にしても千束の奴、弄ばれて可哀想だな。

 なるほど、と心は納得する。彼女が八重美桜が苦手とハッキリ言う理由がわかった気がする。

 こうやってあることないこと言って場を掻き乱し、のらりくらりと躱すのが苦手なのだろう。普段はうるさいくらいの千束の口が、美桜が出てきた時に明らかに減っている。

 

「暇してんならお前も一緒に行くぞ。これから戦車の演習が始まるんだ」

「あら、お邪魔してもいいのかしらぁ?」

「邪魔じゃないからそのニヤけた笑いをしまっとけ。千束の顔がリンゴになる」

 

 そう言って千束を見れば、散々いじられたせいで顔がまだ赤い。これ以上いじっていた場合は心の言う通り、リンゴのように真っ赤になっていたに違いない。

 

「大丈夫か、千束」

「大丈夫! 次行く!」

 

 むくれる彼女はドスドスと音を立てて次の目的地へ歩いていくのを見送る。

 

「ふふ、やっぱり千束は面白いわねぇ」

「あんまからかうなよ、後が面倒なんだ」

 

 はーい、と美桜が面白がるように返事をした。あまりわかってくれていないようで心は苦い顔を浮かべる。

 先に行く千束を追いかけ、心と美桜は習志野駐屯地に配備されている戦車の演習場へ来た。千束は既に気分を切り替えており、履帯特有の金属音と土を蹴る音を鳴らす戦車を見て感嘆の声を漏らした。

 

「おおー、実際に動いてんの初めて見た」

「10式っていう戦車でな。日本の主力戦車だ。主砲の口径は44口径120mm滑腔砲、新型の徹甲弾を使って貫通力を高めたものらしい」

「ずいぶん詳しいわねぇ、戦車博士みたい」

 

 心の解説に美桜が口を挟む。彼はそれにうるせぇ、と返す。

 

「部隊に入る前に大雑把だが叩き込まれたんだ。それに今じゃ部隊長なんていう肩書きまであるし、覚えない訳にはいかねぇんだ」

 

 なるほど、とファーストリコリス二人は納得した。

 ……リコリコに来る前はずっと先生と自衛隊を行ったり来たりしてたんだっけ。

 ……部隊長は大変だ。

 わたしはあれこれ覚える前にDAから出てったけど、と千束は口笛を吹く。

 ……部隊長様は大変ねぇ。

 ……私も覚えさせられたけど忘れたわぁ。

 我関せずといったように美桜は配置に着く戦車たちをつまらなさそうに見た。

 

「おっ、そろそろ始まんな」

 

 ニヤリと心が笑う。

 その同時に99式の主砲から轟音が鳴り響いた。

 びくり、と千束と美桜が肩を震わせた。

 

『弾ちゃーく! 今!!』

 

 演習場の丘が土煙をあげ、やや遅れて弾着音が聴こえて来る。

 周りの観客たちも皆興味深そうにまじまじと見ていた。

 自衛隊のイベントに来る時点でこういうものに興味があるのは確定しているため、自衛隊員による解説が挟まれる。

 

「昔は人力で測量して撃っていたって聞くけど、今は全てコンピューターによる演算と計測で撃てるのが便利だって部下が言っていた」

「へぇ、でもこれ使う時ってあるの?」

「電波塔のファースト様はおバカさんねぇ。上陸する時は必ず隙だらけになるのよぉ。そこを安全圏で狙い撃てるからこそ重宝されるのよぉ」

「うぐっ……」

 

 千束の質問に美桜が答える。流石に今の質問はなにも考えていなかったのか、挑発気味な美桜の答えにも反論できなかった。

 日本は島国なため、海から攻め込まれた場合は上陸が必要となる。歩兵や兵器を上陸させる時に撃ち込むのがこの自走砲だ。

 

「まぁ、リコリスにこんな情報いらないものねぇ……私も、この間知ったわぁ」

 

 トン、と美桜が義足の爪先で地面を蹴る。

 リコリスたちは日本の治安を維持し、テロ行為を企む者たちを裏で処理する。一般知識、常識は学んでいるものの、流行や専門的な知識は入ってこなく、遅れることがある。

 その専門のリコリスやエージェントは知っていても、戦闘を目的とした錦木千束や八重美桜といった者たちは知らないことが多い。

 

「美桜……」

 

 外の世界を知って、自分が如何に狭い環境にいたのかと思い知った彼女の顔は不貞腐れたようなものだった。

 その表情は次弾が放たれた爆音でかき消され、音にびっくりしたものになった。こほん、と咳払いをした彼女はちらりと腕時計を見て口を開く。

 

「それより、そろそろあなたたちは動いたほうがいいんじゃないかしらぁ? このイベントの目玉が残っているんでしょう?」

「あぁ、そうだな。そろそろ先生と合流したほうがいいな」

「じゃあ、私は別れるわぁ。アレに興味なんてないしぃ。またねぇ、千束〜」

「あ、うん」

 

 ひらりと手を振って、美桜は心と千束から離れた。

 ……いつもの千束ならここで、またリコリコ来いよ、とか言うんだろうけど、相手が美桜だとあっさりだな。

 ……苦手な相手だし仕方ないか。

 スマホのメッセージアプリを開いた心はそう思った。

 心と千束の先生であるミカにこれから向かう旨をメッセージで伝え、千束を連れて10式の砲撃音が鳴る会場から出ていく。

 

「ね、目玉ってオートマタだよね?」

「そ。それをこれから地下まで行って見に行くんだ」

 

 地上の会場で展示されているオートマタはただのハリボテであり、一般人に見せた、という実績作りのものだ。

 地下へ続く自衛隊の施設に入り、心は鼻を鳴らす。

 

「あのオートマタにはおそらく本当の目的があるんだ」

「……本当の目的?」

 

 エレベーターに入り、不機嫌そうに顔を顰める心に千束が胡乱げな表情を向ける。

 

「俺と(やなぎ)さん……特戦群の群長が先に資料を見た感じ、アレには救助の他に──」

 

 ゴゥン、と目的地である地下十階に到着してエレベーターの扉が開く。

 

 

「──おそらくだが、人を殺すための機関が備わっている」

 

 

 すぅ、と千束が息を吸う。

 エレベーターから降り、二人は施設の廊下を歩く。その先にはすでに到着していた黒い肌を持つ和服の男性、ミカと自衛隊服に身を包む初老の男性、柳が待っていた。

 

「来たか、心」

「悪い柳さん、少し遅れた」

「なに、構わんさ。ミカさんと話していたからな」

 

 互いに形だけの敬礼をし、柳は朗らかな笑みを浮かべた。

 次に彼は心の隣にいる千束を見てひとつ頷く。

 

「君が錦木千束さんか。心から話は聞いているよ。特殊作戦群群長の柳だ、よろしく」

「はい、千束です! よろしくお願いしまーす!」

 

 千束と柳の挨拶が済んだところで、微笑んでいたミカが心のほうを見る。

 

「心、本当に良かったのか? 私たちまで来てしまって」

「あぁ。この間の反機械化勢力の件もあるから、DAにもアレについて知っておいて欲しいんだ」

 

 目を鋭くさせ、心は目玉とされるものが展示されている部屋に続く扉を睨む。そんな彼の様子を見て、柳は頷く。

 

「前回の件については幕僚長には私から報告しているが、陸将の動きがどうにもきな臭い。アレを導入しようと進言したのはあの人だからな」

「DAの司令官にはこちらから伝えてあります。もしもの時はファーストリコリスを投入して制圧する予定です」

 

 ミカの言葉に柳は助かります、と頭を下げる。

 

「さ、直に見てみよう。もしかしたら私たちの杞憂かもしれんからな」

 

 確かに、と心は思った。

 しかし、それと同時に彼は前回同様の嫌な予感がしており前向きな考えはできなかった。

 四人は扉を開け、オートマタが展示されている部屋に入っていく。

 体育館ほどの広さで瓦礫を撤去していくオートマタに、四人は目を奪われた。

 

 

 

 





 投稿が中断してたのはコロナにかかってからですね。
 ホントにコロナがしんどくてしばらく後遺症に苦しんでました。この作品を書いてた頃の文章が書けないな、って思い投稿再開ができませんでした。
 
 ちょくちょく他のは書いてリハビリをして今回やっと再会できました。またよろしくお願いします。リコリコアニメ最終回までやる予定です。

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