リコリス・バレット   作:倉崎あるちゅ

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Episode 2

 

 

 

 瓦礫を撤去していく、冷蔵庫ほどの大きさの機械──自立型オートマタに千束は興奮したように目を見開いた。

 

「すっげぇー! これあれば重機なんていらないじゃん!」

「そうだな。重機に比べて重さは約半分以下まで落とされているし、オートマタのマニュピレータも丈夫で上手く瓦礫を退かせている」

 

 瓦礫エリアと鑑賞エリアを隔てるガラスの近くに置かれている資料に目を通しながら、心は感嘆の声をあげる。

 ……このスペックを高めながら人型に持っていく? 

 ……馬鹿げてる。けど、それができるのがアランチルドレンか。

 内心冷や汗を垂らし、コンクリートの壁を撤去するオートマタを見た。

 

「ふむ……これがあれば震災の復興も楽になるな」

「ですね、人手不足に陥っていた自衛隊もこれで楽になるのでは?」

「試験運用してみないとわからないですが、かなり楽になると思いますよ」

 

 柳の独り言にミカが反応し、大人二人はあれこれと震災や被災地の復興に関する会話をしていく。

 難しい話をする大人たちに千束はうへ、と辟易とした表情(かお)をし、眉間に谷を刻む心の方を叩いた。

 

「ね、他の自衛隊の人いないの?」

「だいたいの人たちは上で一般人の対応をしているし、上層部はすでにコイツの仕様を把握しているんだ。だから、いても俺の部隊くらいかな」

「そっか。そらそうだよな」

 

 思い返せばそうだ、と千束は頷く。

 ……んー、心じゃないけど嫌な予感するなぁ。

 ……この千束ちゃんも遂にアランチルドレンとしての才能が開花? したか。

 むふふ、口の端を上げる彼女に心は呆れたように息をついた。

 ……またロクでもないこと考えてんな、こいつ。

 ……半年経ってもこういうところは変わらんか。

 千束と顔を合わせて早半年。

 彼女のよく出る子供っぽいところが心にとっては好きなところであり苦手なところでもあった。苦手な理由としてはこういった場でアホなことを考えているからなのだが。

 

「にしても、ここのマニュピレータの形状……」

 

 再び彼の眉間に谷が刻まれる。

 己の義肢を手掛ける花澤カリンと関わりがあるお陰で、機械に関しては多少の心得があった心は、オートマタのマニュピレータを注意深く見ていた。

 マニュピレータというよりそれより前。人間で言うならば上腕部。耐久力を高めるためかやや太く作られているそこに、彼は注目している。

 ……そもそもなんで手となる部分が小さいのに腕がこんなに太い? 

 ……まるで後付けしたみたいに不自然に思える。

 昔やっていたアニメの歩行ロボット、タ○コマの手をポンと後付けした形をしており、パッと見ではまとまっているように見えるが、アランチルドレンがデザイン、製作したと言われると首を傾げたくなる気持ちがあった。

 

「そーいや、なんでこれ体? のとこ縦長なんだろうね」

「え? ……それは、制御装置やらカメラやら詰め込んでるからだろ。将来的にはこれを人型にって──」

 

 その言葉にふと疑問を持った。

 ……なんでわざわざ人型にする必要があんだ? 

 ……このまま順当に体を小さくして、腕と脚を丈夫に作ってオフロードにして自由に動けるようになれば良いんじゃないのか。

 心がそう思った時、ミカと話していた柳が声をかける。

 

「心、やはりコイツは殺人兵器だ。腕は銃身、冷蔵庫並の体の中身はおそらく弾倉だろう」

「さっきの千束の言葉に私たちも疑問に思ってな。殺人兵器として見方を変えると、よく設計されていると思ったよ」

 

 心と柳は前情報で〝おそらく人を殺す機関があるだろう〟と思っていた。しかし、お互い悲観してはいけないと思い実物を見れば杞憂だったのでは、と思えるかもと二人は考えていた。

 実際、最初こそ被災地の復興に使えるとアレコレ意見が出た。地上にいる自衛隊員たちもコイツのお陰で仕事が楽になると思うだろう。

 しかし、千束の言葉によって大量の疑問と違和感が溢れ出た。

 ……アランチルドレンならこの手の機械を最小化するなんて簡単だ。それこそカリンさんの手を借りればもっと進む。

 ……柳さんの推測が正しければボディの上部はコンピュータとカメラ、その下からは弾倉。弾はおそらく7mmから12mm。銃口はマニュピレータの中央か。

 

「え、えーと……わたしのせい?」

「いいや、お手柄だ千束」

 

 不安そうに挙動不審になる千束の頭にぽん、とミカがその大きな手を置いた。

 

「そう? 余計なこと言ってない?」

「千束の疑問がなかったら、俺たちはこのまま救助用だと決めつけてた。ありがとう」

「……お、おう」

 

 続いて心がそう言えば、彼女はふい、と視線を逸らした。

 ふふ、とミカが目を細めて微笑む。

 

「これから地上に戻る。心、花澤女史に連絡をしてくれ。写真からでも彼女ならばどういうものかわかるだろう?」

「了解。資料も軽くまとめて送り付けておくよ」

 

 指示された通り、心はスマホでオートマタの写真を撮って資料を軽くまとめてカリンにメッセージを送信した。

 すると、すぐに既読がついて〝ほう〟と一言返信される。

 

 

 

『これがこのオートマタの資料だ』

『軽くまとめたから目を通してくれ』

『意見が欲しい』

 

『少し時間をくれ』

 

『わかった』

 

 

 

 カリンとのメッセージを終え、心は顔を起動し続けるオートマタに向ける。

 変わらず瓦礫を撤去している冷蔵庫並みの大きさのロボットに、彼は嫌な予感を覚えた。

 

「しーん! そろそろ行くってー!」

「……わかったから騒ぐなって」

 

 大声で呼ぶ千束に悪態をつき、心は三人が待つ廊下へ向かう。

 機械いじりが生活の最優先となっているカリンからすればこの手の話題は大好物だろう。早めの連絡が欲しい、と彼は心底そう思った。

 

「これからのことだが、陸将に言ったところで話にならん。幕僚長に直接言ってくる。心はお二人を特戦郡本部にお連れしろ」

「了解」

 

 エレベーターに乗り込み、地上へ。

 地下十階から地上へのエレベーターは長い。ゴウゥン、とエレベーターの音を鳴らしながら昇っていく。すると、突然心たちを乗せた地上へ向かっているエレベーターが動きを停めた。

 

「お、到着?」

 

 千束が気の抜けたように呟いた。

 心はそれにかぶりを振り、ホルスターからXDMを抜く。

 

「今はまだ地下五、六階だろうな。電気も止まってるし、なにかあったな」

「心、エレベーターの外の状況把握をしてきてくれ」

「了解だ。柳さんは先生のことを頼む。千束も一緒に来てくれ」

「千束さんに任せなさい」

 

 柳と心によりエレベーターの救出口が開けられ、そこから心と千束が抜け出す。エレベーターの扉を無理やりこじ開け、二人は薄暗いホールに顔を出した。

 

「えっと……ここは六階かぁ」

 

 千束がサッチェルバッグからライトを取り出し、表示されている階を照らし、階を確認してげんなりとした顔を見せる。

 

「みたいだな。ひとまず、階段まで安全を確保しよう」

「だね。けど、ここ自衛隊の敷地だよ? そんなに警戒しなくても良くない?」

「忘れたのかアホ。俺たち、その自衛隊に命狙われたんだぞ」

「……そうでした」

 

 あはは、と彼女が頭を搔く。

 不意にぞわりと不快感が心の身体を襲う。

 ……嫌な予感が強くなった。

 ……なにか来るか? 

 警戒しつつ階段までの非常灯で照らされる道を進み、ふと疑問を抱く。

 

「あれ」

 

 千束も同じ疑問を抱いたのか、声を漏らす。

 

「人がいない……?」

「あぁ。この階は武器を置いてる階だ。誰か一人はいてもおかしくはないんだが……」

 

 不自然に思えるほど誰もいない。

 ……もともと居なかったと言われたら納得するほど気配がない。

 ……不気味だな。

 ホラー映画にでもありそうなシュチエーションに、普段なら千束と一緒に笑みが浮かぶが、状況が状況なだけに心の表情は硬い。

 

 ──キュイィィン。

 

「っ! 千束!」

「えっ? ちょーちょちょい!?」

 

 千束のリコリス制服の襟を引っ掴み、近くにあった部屋に引きずり込む。

 

「急になにすんの!?」

「静かにしてろ」

 

 しっ、と心が頬を赤らめる彼女の口を抑える。

 すると再びキュイィィン、とモーターの音が聴こえてくる。部屋に備えられている窓から廊下の様子を伺えば、非常灯に照らされる()()()()()()()()()の物体が二つ動いていた。

 

「……なんでアレ動いてんの?」

「俺が訊きたいよ……」

 

 オートマタが脚の先をタイヤに変え、廊下を徘徊していた。

 ご丁寧にマニュピレータがあったであろう箇所はマズルブレーキが装着されている。

 

「ガッツリ殺人兵器じゃねぇか……!!」

「まってまって! じゃあなに? アレが動くからここの人たちいなかったってこと?」

 

 歯噛みする心に、千束が小さく叫ぶように言う。

 それに彼は首肯し、XDMのグリップを強く握りしめた。ギチ、と拳銃が軋む。

 

「そもそも、なんで今なの? 上には一般人だっているじゃん」

「おそらく上も停電していると思う。一般人はそれで退かし、地下にいる俺たちや特戦郡を殺る算段だと思う」

 

 このあまりに大胆な行動に、千束は顔を引き攣らせた。

 リコリスとして活動する彼女でもここまで大胆に動いてくる敵は電波塔事件以降いなかった。猛烈な殺意に、千束は気分が悪くなる。

 

「とりあえず、この状況を先生たちに……って、電話できねぇ」

 

 電話をかける心だったが、ノイズまみれになりまともに繋がる様子がなかった。

 試しに千束も掛けてみるが彼と同じくノイズに阻まれ、繋がらない。心は痛烈な舌打ちをし、廊下を徘徊するオートマタへ視線を移す。

 

「アイツらが見えなくなったらエレベーターまで一直線に走る。遅れんなよ、千束」

「ふふん。心こそわたしに付いてこれんのかぁ?」

 

 視線を交わし、心が部屋のドアノブを握る。

 

「3」

 

「2」

 

「1」

 

「「GO!」」

 

 ドアを開け放ち、二人が飛び出す。

 隠れていた部屋から一気にエレベーターホールまで疾駆する。すでに二機のオートマタは先を進み、心たちとは逆方向の角を曲がっている。

 安堵しながらも走る速度を緩めない。

 

「ひぃ……! ホラー映画みたい!」

「つべこべ言わずに走れ……! ここのフロアが二機だけなんてわからな──っ!?」

 

 瞬間、キュイン、と角からオートマタの顔が覗いた。

 心と千束を視認したオートマタのモノアイカメラが赤く点滅し、太いアーム部をぐるんと回転させる。

 

「やべ……」

 

 さぁ、と血の気が引くのを感じる。

 ……視認されたから処理まで多少のラグがある。

 ……けど、マズイな。

 そう思った心は千束に声をかけた。

 

「千束! 両側から攻めるぞ」

「攻めるったってどうすんの!?」

「とりあえず撃て! 非殺傷でも牽制にはなんだろ!」

「適当すぎだろしぃぃん!!」

 

 言うや否や、千束は銃を撃つ。非殺傷弾特有の赤い花が咲くがオートマタは気にも留めない。廊下の両サイドから攻める彼らに、オートマタが二本のアームを二人に向けた。

 ビリッ、と心の直感が働く。

 

「っ! 全速力で張り付け!」

 

 心、走りながらオートマタのカメラを狙いつつ射撃。

 千束、指示通り全力で駆けてオートマタの横を通り抜ける。

 心を射線に捉えたオートマタの銃口が火を吹いた。

 

 バババババッ! 

 

 放たれる弾丸が心を貫く寸前彼は壁を蹴り、射線から逃げる。

 空中に舞う心を追って狙いを定めようとするが、ガン、とアームの曲がる限界まで来ており、真上の心を撃てないでいた。

 ……コイツらのアームには仰角が限られてるのはわかってた! 

 ……あとは! 

 通常の9mmを使う拳銃が有効ではないのは先ほどの射撃で把握できていた。オートマタを撃退、ないし破壊をするには対物ライフルかそれ相応の火力が必要だろう。

 

「ぶち抜く……!」

 

 空中で左腕の制服を捲り、心は左拳をオートマタのボディ上部に振り下ろした。

 ガツンッ! と衝撃音と同時にオートマタに凄まじい衝撃波が襲う。べこ、とオートマタのボディが凹み、モノアイカメラが激しく明滅する。

 

「っと」

 

 カシャン、と左腕の義肢装具からカートリッジが排出され、床に転がる。

 着地した心はガクガクと振動し、次第に動かなくなっていくオートマタを尻目に、千束のほうへ視線を送る。

 

「また来るかもしれねぇし、さっさと動こう」

「うん」

 

 薬室(チェンバー)に弾を送った千束が頷く。

 再び、心と千束がエレベーターホールへ向けて走り出した。

 

 

 

 

 ‪α‬

 

 

 

 

 習志野駐屯地・地下十階。制御室。

 ここでは新しく導入されるオートマタの制御を担う精密機器が多く鎮座している。モニターが敷き詰められた壁の前で、禿頭(とくとう)の巨漢が腕を組んでいた。

 

「一機撃墜……。彼岸花か」

 

 撃破される寸前の映像を見た彼が鼻を鳴らす。

 オートマタから吐き出される銃弾を両サイドに走って回避する彼と彼女に禿頭の男──陸将・黒瀬(くろせ)は目を細めた。

 ……アームの可動域は一八○度しかないことにこうも早く気づくとはな。

 ……彼岸花の動きもそうだが、リコリスも相当のものだ。

 映像では心が壁を蹴り、オートマタの上空を取ってカメラから消えたところだった。消えたと思った瞬間には映像が砂嵐(スノーノイズ)に変わってしまった。

 黒瀬はスマホで部下に電話をかける。

 

「私だ。出せるオートマタを全部出せ。キルモードにして特戦郡諸共、機械化部隊を殺せ。一緒にいる女と黒人もな」

 

 見られた以上、リコリスである千束とその関係者であるミカも逃がしてはならないと禿頭の巨漢は思考する。

 

「機械化部隊──特戦郡がアラン機関の手にある以上、私たちの手でこの自衛隊を……日本を守らねばならんのだ」

 

 映像に映る心の顔を見つめ、男は苦々しい表情を浮かべる。

 アラン機関さえ関与していなければ黒瀬は大手を振って彼らを迎え入れたであろう。しかし、結果は機械化部隊はアラン機関が指示系統を支配していた。

 加えて、所属隊員は皆揃って特殊義肢を装備しており、彼ら彼女らがアラン機関の指示の元、自衛隊を壊滅させることなど簡単だった。現に、大規模作戦として機械化部隊の殲滅を狙ったが、惨敗に終わっている。

 

「アランチルドレンの支援を受けねばならなかったのは業腹だが、致し方あるまい」

 

 オートマタの開発は表向きはロボット工業を扱う企業からの出資となっている。しかし、本当はアランチルドレンからの支援、または実験である。

 アラン機関の手にある特戦郡を殲滅するためにアラン機関が育て上げた者の力を借りる。幕僚長を除いた上層部で協議した結果、煮え湯を飲む気持ちでこの作戦を決行していた。

 

「恨みはいくらでも受け入れよう」

 

 そう言う黒瀬がいる制御室の外で、オートマタの駆動音が廊下に響いていた。

 

 





 やっべ、執筆進まない……。
 頑張ります……。

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