リコリス・バレット   作:倉崎あるちゅ

3 / 17


 リコリコアニメが放送されたので更新です。




Chapter 1 Possibility to catch up
Episode 1


 

 

 

 

 錦木千束と邂逅してから数日が経った。

 この数日間、午前中はC.A.Rシステムを彼女と同等レベルまで向上させていくといったハードなもので、何度も何度もペイント弾を喰らったり、ハンドガンを盗られたり、蹴飛ばされたりと徹底的に指導された。

 おかげでCQBは以前よりも上達した。ハンドガンでの射撃はお世辞でもよくはないが、先生から見た話だと良くはなったようだ。

 そして午後からは、というと、

 

「いらっしゃいませ! カウンターへどうぞ〜!」

 

 先生が店長を務めている喫茶リコリコという店で彼女と働いている。

 和風な店で、店員は皆和服で接客している。皆、と言っても従業員は先生と彼女、俺、そして元独立治安維持組織、Direct Attack(DA)情報部出身の中原ミズキという女性しかいない。

 しかも、ホールスタッフは主に彼女一人で、ミズキはほとんどが酒を煽っているだけだ。

 

(しん)ー、季節の練り切りひとつと、抹茶ひとつお願いしまぁす!」

「はーい、少々お待ちください」

 

 俺のやってることは、ほとんど厨房というか、菓子作りだ。

 数日前までこの店は先生の出すコーヒーや団子、おはぎがメインだったのだが、俺が入ったことでメニューが増えた。

 理由は簡単だ。俺が和菓子を作れるから。

 そこからはまぁ、わりと忙しかった。俺と先生はコーヒーや抹茶を作り、ホールに関わることができないレベルになるほど。あの時の先生の顔は面白いほどに忙しなかったと思う。

 

「はい、おまたせしました。どうぞ」

 

 お客さんの前に和菓子と抹茶を出すと、お客さんは笑顔になった。ここ数日で見慣れた表情だが、不思議と飽きないものだった。

 ふと彼女を見てみると、常連さんと話していてにひひ、と眩しい笑顔を浮かべている。

 

「どうだ、慣れたか?」

「ん、先生か」

 

 DAとの通信を終えた先生が、杖を突きながら俺に話しかけてきた。

 俺は食器を洗いながら彼の質問に答える。

 

「少し慣れた」

「だろうな。千束のことを見つめるくらいには慣れたろう?」

「なっ!?」

 

 ばっ、と俺は手に泡がついたまま後ろにいる先生へ振り向いた。目線の先にはニヤついた表情をしている黒人の男がいる。

 

「どうした? 耳が真っ赤だぞ?」

「うるさいぞ、先生! いいからアンタはミズキを呼んできてくれ。そろそろあのアホの休憩時間だ」

「ははっ、まだまだ子供だな」

 

 カラカラと先生はミズキを呼びに厨房から出ていった。

 まさか見られていたとは。流石元DAの訓練教官と言ったところなのか、俺がわかりやすかっただけなのか。

 

「おーい、休憩だ。そのままお客さんと話しててもいいぞ」

「おっけ〜! 心も話そうよ」

「お、いいねぇ。心くんともちゃんと話したかったんだよね」

 

 にこやかにそう言うのは明るい色のジャケットを羽織った中年の男性。警視庁の刑事で、たまに彼女が仕事の手伝いをしている。

 

「うす」

 

 つい首に手をやり、会釈をすると彼女が人を面白がるような表情(かお)で俺に指をさす。

 

「あー! 心ってば人見知りしてるぅ!」

「アホは黙ってろ」

「あぁん!? やるってかぁ!?」

「その反応もやめろ、余計アホに見える」

 

 どうしてこう、模擬戦の時みたいに真面目な顔ができないのか。いや、別に今の彼女を貶しているわけではないのだが。

 

「あははっ、仲良いねぇ。今までの千束ちゃんも可愛いけど、今の方がもっといいね」

「だって心!」

「調子に乗せるようなこと言わんでください」

「ごめんごめん」

 

 刑事さんが微笑みながら謝る。

 

「そういえば阿部さん、困ったこととかない?」

 

 空になったカップをお盆に移しながら、彼女が刑事さんに訊く。すると、彼は少し考えた素振りをしたあとに思い出したようにあぁ、と声を上げた。

 周りのお客さんを見回してから、俺と彼女にだけ聞こえるように小声で話し出す。

 

「実は少しね。最近ストーカー行為を受けたってウチに通報があってねぇ。どうやら痴情のもつれらしいんだけど……」

「警察は動きづらいと」

 

 確かに警察じゃ上手く動けないか。事件が起こってから動く組織だしな。

 

「そうなんだよねぇ。その点千束ちゃんなら話も上手く聞けるかなって」

「うんうん、任せてくださいよ」

「お、流石千束ちゃん! アルバイト代も出すから」

「おぉ〜! やったぁ!」

 

 刑事さんのひと言で彼女はだらしなく頬を緩めた。

 

「あ、そうだ。心も一緒にやる?」

「そうだな。その調子だと数日暇になりそうだし」

 

 彼女がそのストーカー被害者に付きっきりになるだろうし、午前の模擬戦は中止になる。午後の喫茶店の仕事に関しては、先生から彼女がいる間だけという条件だ。

 なぜその条件なのかというと、彼女の仕事を観察しろ、という意味らしい。

 歴代最強のリコリスがなぜ前線を離れて喫茶店で接客や、コーヒー豆をヤクザの家まで届けたり、日本語を勉強する外国人の手助けをするのか、その理由を己自身で見つけろ、それが先生から出された課題だった。

 

「いやぁ、悪いね。心くんにもアルバイト代出すから」

「あぁ、いえ、お構いなく……」

 

 刑事さんにそう返事をすると、隣から笑いを堪える音が聞こえてきた。

 

「そのリボンちぎってやろうか」

「やれるものならやってみなさい♪」

 

 イラッ、と青筋が立った気がする。

 数日前まで可愛いとか思ってた過去の俺をぶん殴りたい。ここまで接していて気づいたのは、この女がクソ生意気だったということだ。

 天真爛漫なのは構わないが、ここまで弄られるのは我慢ならん。絶対模擬戦でぎゃふんと言わせてやる。

 

「……んで、そのストーカー被害にあった人の連絡先教えて下さい」

「そうだったそうだった。ここに書いてあるから、連絡取ってみて」

「はーい!」

 

 元気よく彼女が連絡先が書かれた写真を受け取り、それを和服の袖へと入れた。

 

「んじゃ、僕はそろそろ戻るよ。心くん、和菓子美味しかったよ」

「また来てねー!」

 

 刑事さんが代金を支払って店を出て行くと、彼女は嬉しそうに俺へ話しかけてくる。

 

「初めてじゃない? こういった仕事」

「そうでもない。奥で話すぞ」

「はーい」

 

 厨房の奥にある休憩室に入ると、そこにはすでにミズキが座っていた。

 

「おつかれー」

「おう、おつかれ。ちょっと仕事手伝うことになった」

「あっそう」

 

 興味無さそうにミズキはノートパソコンをいじっている。

 仕事をしろと言いたいが、これでもSNSでこの店のことを発信しているのは、この酒臭い女性なのだ。

 まぁそれはそれとして。

 

「ミズキ、ホール」

「えぇっ?」

「もうお客さんいないから行ってこい」

 

 そう言うとミズキはかけていた眼鏡をかけ直し、文句を垂れながらホールへ向かって行った。

 

「さてさぁて、とりあえず連絡しないとね」

「あぁ。被害者は……水川アキさん、か」

 

 俺はテーブルを挟んで彼女と向かい合う形で椅子に腰掛ける。その際に顔写真の裏に書かれている情報を読む。

 

「被害者の人ってどんな人?」

「2年の女子大生。一人暮らし。この間交際相手と別れてから付け回されてるみたいだな」

「あー、警察だと難しいわけだ」

「だろうな。しかもあの刑事さんの管轄外だろ?」

「そそ。ま、だからわたしがたまに受けてんだけどね」

 

 頬杖をついて彼女は飴玉をひとつ頬張った。俺にも分けようとひとつ差し出してくる。

 

「現状細かいことがわからないし、連絡して直接会った方が良さそうだ」

 

 飴玉を受け取って俺も頬張る。彼女はだね、と相槌を打ってスマホを取り出した。

 

 

 

 

 α

 

 

 

 

 都内のとあるファミリーレストランにて、心と千束はストーカー行為の被害者である女子大生、水川アキさんと落ち合う予定だった。

 平日の昼間なので店内は比較的空いている。心たちは店の端の席に座り、心が注文したコーヒーを飲みながら彼女が来るのを待っていた。

 ちなみに、千束はコーラフロートを飲んでいる。彼女はストローに口をつけてズゾゾーッと音を立てていた。

 

「アホ、行儀悪いぞ」

「んぐ、ふぅ……ごめんごめ〜ん。てか、アホ言うな」

 

 悪びれもなく彼女は謝ると、再びストローに口をつける。

 心も店員にコーヒーのお代わりを頼んだあと、視線を窓の外へ向けた。

 

「……あの人じゃないか?」

「ん? あ、そうじゃん」

 

 千束が窓の外にいる、顔写真と同じ人物へ手を振ると、気づいたのか彼女が会釈する。

 店内に入ってきた彼女と合流し、それぞれ自己紹介をし始めた。

 

「錦木千束でーす!」

「柾木心です。よろしくお願いします」

「水川アキです。ごめんなさいね、こんなことに君たちまで巻き込んで」

 

 申し訳ない気持ちを滲み出すような表情で水川がそう言うと、千束はいやいや、と手を胸の前で振る。

 

「大丈夫ですよ、なんせわたしたちバイトですし」

「……そう言ってくれると少し楽になるわ」

 

 そこからストーカー被害の話に移り、水川のスマホに残った、元交際相手の写真を見せてもらっていた。

 

「彼、私が初めての彼女だったみたいで」

「ふむふむ……。そんなに執着するもんなの、心?」

「は? 俺に訊くか?」

「だって男は心しかいないし」

 

 至極真っ当な返答に心は黙りこくる。

 心自身、交際経験なんてものはない。八年前のあの日から、訓練しかしていなく、その上彼の(こころ)の内には錦木千束が少なからずいたからだ。

 

「……俺も、交際経験なんてないしよくわからない。けど、アキさんのことを大事に思ってたんじゃないか?」

「うん、それは私もそう感じた。けど、束縛が強くてね。私はもっと自由な付き合い方が良かったんだ」

 

 あー、と千束が同意するように頷く。

 心としてもその気持ちは理解できる。交際相手の自由を侵害するのだ。その彼女に別れを切り出されても仕方のないことだろう。

 

「じゃあ、早速動きますか」

「ええ。お願いします」

 

 千束が心の顔を見る。

 

「心はなにか方法思いついた?」

「そうだな……。束縛が強いなら、俺がアキさんと行動してなにかしらのアクションを待つ、とかなら今すぐにでも行動できると思う」

 

 そう言うと彼女はんー、と考える素振りをみせる。

 

「……なにか悪かったか?」

「いやぁ、わたしがフォローに回れば良いかなーって」

「……まあ、お前に回ってもらった方が助かる」

 

 千束と出会ってからまだ数日ほどしか経っていない。だが彼女の人当たりの良さと、コミュニケーション能力の高さは確かなもので、心としては彼女がフォローに回るのが一番適任だと考えている。

 

「うん」

 

 命大事に、それが千束の方針だ。今回の件は、要は心が囮となって炙り出すということなのだ。

 千束本人としては命の危険の可能性があるものは避けていきたい。

 しかし、今回は水川の身の安全と犯人の炙り出しを考慮すると、どうしても心が囮になる必要が出てくる。

 心には千束自身が訓練をつけているし、大丈夫かと彼女は納得した。

 

「んじゃ、心がアキさんとデートしてね」

「まぁ、そうなるわな」

 

 突然の宣言に心は苦笑いを浮かべる。水川も驚いたように目を丸くしていた。

 

「え、っと……千束ちゃんはいいの?」

「ん? いやいやぁ、わたしと心はそんなんじゃないんで、大丈夫すよ」

「……」

 

 少し、心のメンタルが削れた気がした。

 

 

 

 

 β

 

 

 

 

 翌日、俺は目立つようにしてバイクでアキさんを大学まで迎えに来た。

 俺の服装は、ファーストのリコリスが着ている制服を灰と赤の割合を逆転させて男子版にしたようなものだ。この制服はつい最近仕上がったばかりで、防弾性もあるため先生に着て行けと言われた。

 彼女はこの制服を見て顔を輝かせていたな。本当に、その辺は子供というか、可愛らしいというか。

 

「すっげ……」

「カッコイイんだけど、あの人」

「エグいってあのバイク」

 

 大学の真ん前なのでそんな話声が聞こえてきた。

 黒の大型二輪だし目立つのも不思議ではない。

 

「心くん、ごめんね待たせちゃって」

「いえ、全然大丈夫なんで。とりあえずどこか行きたいところありますか?」

 

 トタトタとアキさんが小走りでこちらに寄ってきた。

 昨日見せてもらった写真の男に似た奴は見えないな。どこかで監視してるのか? 

 

「じゃあ、服を買いたいの。しばらく買えてなかったから」

「了解です。じゃあヘルメット被ってください」

 

 一番は歩きなのだが、万が一のことがあるしバイクで移動する。その万が一というのが、突然車で拉致されることだ。

 相手は大学生だし、一般的に免許を持っていても不思議ではない。

 

「ねぇ、千束ちゃんは?」

「アイツなら、後ろにいますよ。原付で俺たちを追ってます」

「へぇ……すごいんだね、君たちって」

「まぁ、そういうバイトなんで」

 

 ヘルメットに内蔵されたマイクとスピーカーでそんな会話をする。

 リコリスや俺の立場は一般人には内密だ。

 独立治安維持組織のエージェントが、JKだなんて誰が想像するものか。俺も書類上では陸自の特戦群なので機密事項。

 刑事さんからの推薦があったからこそだろうが、よくもまぁ、一般人にあれこれと言い訳を思いつくものだ。

 

「ここで良いんですか?」

 

 ショッピングモールの前まで辿り着き、俺はアキさんに場所を確認する。

 

「ええ。いろんなお店が入ってるからとても便利なのよ」

「はぁ……」

「ごめんね、興味なかったかな?」

「あぁ、すんません。あんまりこういうところ来ないんで」

 

 今まで似たような服を先生に頼んで買ってたから、本当にこういった場所に縁遠いんだよな。

 駐車場にバイクを停め、俺たちは中へ入っていく。俺たちの後ろを追っていた彼女は原付のため、外の駐輪場に停めているだろう。

 

「じゃあ、今日心くんの服、お姉さんが決めてあげよっか?」

「……え、あー、大丈夫すよ、うん」

 

 急な提案に俺はしどろもどろになりながら答えた。

 すると、左耳に着けていたインカムからザザッ、とノイズ音が聴こえてきた。

 

『いいじゃん、いいじゃん! 決めてもらいなよ!』

「……いや、俺は別に」

『せっかくの機会だぞー? あっ、そっかぁ! それともわたしに決めて欲しいのかなぁ??』

「ウザ……」

 

 図星だった。

 できることなら彼女と一緒に、なんて淡い期待をしていたなんて口が裂けても言えない。言ったらウザいくらい絡んでくるに決まっている。

 

『なんかあったら言ってねー。わたしも見てるけど!』

 

 そう言ってノイズを混じらせて切られた。

 通常、リコリスが用いる通信はノイズなんて入らない。

 全ての通信インフラの優先権を持つ、DA本部に設置された中央AI、ラジアータによってモニタリングされ、通信障害なんていうものは起きないからだ。

 俺がなぜそんなDAの機密情報を知っているのか、というと先生とミズキから教えてもらったことだ。俺自身、書類上とはいえ特戦群のため、政府と連携しているDAの情報は少しでも握っておきたいのもある。

 今回使っているのは普通の無線。ある程度は傍受されないように細工されている。そこは元DA情報部のミズキの仕事だ。

 

「……ん?」

 

 ふと、嫌な視線を感じた。

 アキさんに向けてではない。俺に明確な敵意の視線が向けられていた。しかし、どこか機械的なものだった気がする。

 

「誰か不審なやついないか?」

『いんや、見えない。多分ドローンか監視カメラかな。こうなると面倒だよ、この件』

 

 そうだな、と俺は相槌を打った。

 ……ハッキングか。アキさんは随分と執着されているな。

 少し先を歩く女子大生の背中を見て、俺は警戒を引き上げた。

 

 

 






 プロローグ早々評価ありがとうございました。
 嬉しかったです。

 評価、感想お待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。