リコリス・バレット   作:倉崎あるちゅ

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Episode 3

 

 

 

 

 翌日、就寝前に連絡をとった相手から、欲しい情報を得られた。追加でストーカー事件が終息するまで付き合ってくれるようだ。

 

「流石だな」

 

 思わず賞賛する。

 詳細な情報がスマホの画面を埋め尽くしている。

 ハッカーは赤石という女子大生。アキさんと同じ大学に通っており、今まで大学内で人気だったが、最近アキさんが目立つようになり、対抗心を燃やしている様子がある、か。

 性格的にこいつはイジメをするタイプだ。他人が嬲られていくのを見て楽しむ性質だと言える。

 スマホとパソコンを同期させ資料を作っていく。

 スマホみたいな小さい画面を見せるより資料を作って持っていった方が見やすいだろ、という至って単純な思考だった。

 

「ん、そろそろ店に行かないとか」

 

 ちょうど印刷し終わったところでセットしていたアラームが鳴る。

 これから先生に手配してもらった非殺傷弾とライフルを受け取りに行くのだ。

 バイクを走らせて数十分、喫茶リコリコに辿り着いた俺は店の扉を押し開いた。

 

「お疲れ様です」

「ん、心か。おはよう」

「おはよーございます、先生」

 

 カウンター席に座るとコーヒーとパンを出してくれる。

 

「朝食、とってないだろ」

「あ、わかる? ちょっと資料作っててさ」

「資料? なにかあったのか?」

「まぁな」

 

 余分に印刷したものを先生に差し出す。

 すると、ハッカーの詳細な情報を見た彼はその緑の目を丸くした。

 

「これほどの情報をどこで……」

「ちょっと特戦群(ウチ)で知り合った奴がやってくれたんだ」

「……あまり身を切りすぎるなよ」

 

 わかってる、と俺はコーヒーを飲む。

 渡しても構わない情報だからと無闇に渡すわけにもいかない。相手がアイツだったからこそ連絡をとったのだ。

 

「まぁ、そんなことよりも」

「ああ。わかっているとも」

 

 ごとり、とカウンターに置かれたのは小さなアタッシュケースと、長いトランクケース。

 小さなアタッシュケースには俺が使うXDMとそのマガジン二本。使われている弾丸は、命大事に、を掲げる彼女と同じ非殺傷弾。

 そして、トランクケースにはSR-25という対人狙撃銃が入っている。これには通常の7.62×51mm NATO弾が込められており、殺傷性が高い。

 

「助かるよ先生」

「これくらいどうってことはない。しかし、SR-25も使う場面が来るか? お前が護衛しているんだろう?」

「最悪の場面を想定してだ。非殺傷弾だと狙ったところに当たらないからな。その点こいつなら、俺は日本でかなりの腕だと自負してる」

 

 そう言うと先生はうむぅ、と難しい顔を作った。

 俺の技量を理解しているがどこか納得していないのだろう。

 

「おはようございまーす! 千束が来ました〜!」

 

 やかましいのが来た。

 彼女は俺のもとへ来るなり、狙撃銃を見てうわ、と嫌そうな顔をした。

 

「なんだよ」

「いや、別にぃ」

「命大事に、ってのは守る。これは万が一のだ」

「万が一って?」

「ドローンに爆弾くっつけて特攻される前に潰したり……とにかく拳銃で撃てない範囲をカバーするためのものだ」

 

 C.A.Rシステムのおかげで拳銃での射撃は良くなった。しかし、あくまで拳銃だ。百、いや五十メートルも離れたら小銃や狙撃銃で撃った方がいい。

 

「……俺だって、人を殺すのは気分が悪い」

 

 そう言うと彼女は意外そうな表情を浮かべた。

 

「心はそういうの気にしない人かなって思ってた」

「心外だ。知ってると思うが、俺は特戦群だ。その部隊で俺は誰よりも人殺しを忌避してる」

 

 八年前のあの日を経験し、俺は敵だろうが自分で殺すことを避けている。人間が行くつく先は死しかない。けれど、それを勝手に早めたり、決めたりしてしまうのは違うだろう。

 裏を返せば、他の奴が人を殺すのは容認しているものだが、それでも俺は自らの手でその人の時を止めたくない。

 

「だから、この銃で狙うのは銃そのものだったり、車だったり、そういうもんだ」

「そっか」

 

 無意識のうちに握り込んでいた左手へ落としていた視線を戻すと、彼女は微笑みながら俺を見つめていた。

 

「……なんだよ」

 

 すっ、と俺は彼女から目を逸らす。するとにひひ、と彼女が笑った。

 

「なんか嬉しくってさ。心もわたしと同じ気持ちだったんだ、って」

「……」

 

 そう聞き、俺は気恥ずかしくなって後頭部に手をやって乱暴に掻いた。

 そんな俺たちを見かねたのかコホン、と先生が咳払いをして話を切り替えてくれる。

 

「心、千束にもさっきの話したらどうだ?」

「さっきの?」

 

 首を傾げる彼女にも作ったばかりの資料を渡す。流し見る彼女はだんだん顔をコロコロと変えてとんでもないようなものを見る目で俺を見た。

 

「なにこれ!? どうしたの!?」

「知り合いに頼んだんだ。それをわかりやすくまとめた」

 

 百面相する彼女の姿が面白くて、俺は笑い混じりに答えた。

 

「はぁー……。こんなすごい資料作れるなんて、その人もかなり優秀なんだ? やっぱり特戦群の人はみんなこんな感じなの?」

「さてな」

 

 俺は肩をすくめる。少なくとも、ウチの情報科より優秀だな、アイツ。

 

「とりあえず、これでストーカー事件の解決には役立つはずだ」

「うん。じゃあアキさんの家に行こっか」

 

 ひょい、と俺のパンを持っていかれ、俺はムッとしながらもコーヒーを飲み干した。

 

「んじゃ行ってくるね、せんせ」

 

 彼女が一足早く店を出ていく。俺もそれについて行こうとすると、

 

「心」

 

 先生に呼び止められた。

 振り返ると、先生は呆れたような、楽しそうな、そんな感情が入り交じった顔で俺を見る。

 

「気をつけて行ってこい」

「……あぁ」

 

 先生に見送られ、俺は二つのケースを持って店から出た。

 

 

 

 

 α

 

 

 

 

 またしても俺のバイクに彼女を乗せてアキさんの家にやってきた。

 二限からの授業だと言っていたので、そろそろ準備を終えているはずだ。

 

「じゃあ、周辺で待機していてくれ。俺はアキさんを大学に送る」

「りょーかい。なんかあったら連絡するよ」

「頼む」

 

 そこから別行動となり、俺はアキさんの家へ。二階建てアパートの二階へ向かい、インターフォンを押す。

 

「柾木心です」

 

 少し間が空く。内窓から俺の姿を見ているのであろう。その後ドアが解錠され、ドアが開けられる前に俺が入り込む。

 いないだろうが、スナイパーに対象を狙われないようにするためだ。

 

「お邪魔します」

「うん、いらっしゃい心くん」

 

 挨拶を済まし、鍵をかけてリビングへ歩いていく。

 リビングについてから俺はウエストポーチからとあるものを取り出した。

 

「アキさん、これを付けておいてください」

「これは……?」

 

 アキさんの手のひらに置いたのは、ひとつのブレスレット。不思議そうに手に取るアキさんに俺は説明する。

 

「宮崎をおびき出すためのものです。これで接触してくる可能性も上がるので」

 

 そう説明するとアキさんは頷いて右手首につけてくれた。

 

「……つけてみて思ったんだけど、心くんがプレゼントしてくれたものだよね?」

「えぇ、まぁ」

「ふぅん。心くんが、私のために」

 

 意味深に呟き、自分の手首に巻かれたそれを眺める。そしてニヤリと笑みを浮かべる。

 からかわれてるな、これ。

 

『へぇ〜、心ってばそういうことするんだ〜』

「いや、別にそういう意味じゃ……」

 

 通信で彼女が煽るように言ってくる。

 年頃のせいなのか、やたらとこういうのに絡んでくるな。

 しかし、今はそれどころではない。大学へ行く時間もそうだが、事前に資料だけでも目を通してもらいたい。そう思い、俺はさっさと本題に入った。

 

「アキさん、これを見てください」

 

 手渡す資料をパラパラとめくり、アキさんの顔がだんだん真っ青になっていく。

 

「知り合いですね」

「うん」

 

 アキさんは弱々しい声音でゆっくりと話す。

 

「一年の頃は仲が良かったんだけど、2年になってからかな……そこから赤石さん、冷たくてさ」

「情報では、ソイツはアキさんに人気が出てきてから、ということになっています。心当たりは?」

「実は二年になるからイメチェンしたんだ。赤石さんみたいに綺麗になれたらって。……たぶん、そこから」

 

 一年はすごい芋娘だったんだー、とアキさんは笑う。

 やはり嫉妬か。醜いものだな。

 

『あー、まぁいるよね。リコリス棟でもあったあった』

 

 懐かしむように彼女はうんうん、と通信越しでも頷いているのがわかる。

 

「わかりました。とりあえず今日は大学へ行きましょう。話はそれからです」

「うん、わかった」

 

 資料を片付けて大学へ向かう準備をする。すると、インターフォンが鳴った。

 事前に誰か来るかも聞いていたので、今日は誰も来ないことは知っている。

 

「……アキさん、届け物とか?」

「ううん、ないはずよ」

 

 アポなしで尋ねてきた人かもしれないが、如何せんタイミングが悪い。

 

「誰か来たかわかるか?」

 

 彼女に通信で訊ねる。しかしインカムから聴こえるのは酷いノイズだけだった。

 思わず舌を打つ。

 懐に手をやりながらドア前へ移動する。内窓から外を見ようとした瞬間、

 

 ──カチャ。

 

「っ! アキさん伏せて──!」

「えっ?」

 

 ドドドドドド! とドアから銃声が鳴った。

 俺は壁際に貼り付いてなんとか回避し、懐からXDMを取り出した。マガジンに非殺傷弾が装填されているのを確認し、次にアキさんの無事を確認する。

 

「きゃああ!?」

 

 リビングに続くドアが銃弾によって破壊され、倒れた。見た感じリビングの奥に行ってくれたようだ。

 三十発ほど撃ったところで弾が飛んでこなくなった。リロードを挟んでいるのだろう。

 今がチャンスだ。

 さっきの銃撃で鍵が壊れたので俺はドンッ、とドアを蹴破り、C.A.Rシステムのエクステンドと呼ばれる構えをする。

 敵はアパートの外通路でマガジンを交換していた。

 

「なっ!?」

 

 厳つい男が驚くが、俺はすぐさまダンッ、と三回ほど拳銃から弾丸を放った。一発目は逸れ、二発目は左肩に、三発目は右脚へ。

 ボディアーマーを着た男が苦悶の呻き声を上げながら、外通路に取り付けられている柵を飛び越えた。

 

「ちっ、逃がすか!」

 

 パルクールのように俺も柵を飛び越え、拳銃を撃つ。男が着地する瞬間に脚に命中し、バランスを崩した。

 不安定な状態で着地した奴は受身を取ることができず、無様に転がる。

 俺も着地し、非殺傷弾を一、二発撃って気絶したか確認する。意識がないのを確認したあと、俺はボララップと呼ばれる非殺傷武器で拘束した。

 ロープが飛び、男を縛り上げる。

 

「雇われた奴か……」

 

 動き的にプロ寄りのアマチュアか。

 でもなんでコイツは一人で──。

 

「っ! アキさん!」

 

 しまった。護衛対象から離れ過ぎた! 

 急ぎアパートの二階まで駆け上がり、アキさんの部屋へ辿り着く。

 

「いやっ! やめて!」

 

 部屋へ行くと、アキさんが悲鳴をあげてボディアーマーを着た男に抑え込まれていた。

 

「アキさん!」

「心く──!」

 

 XDMを構えた直後、もう一人の男がなにかこちらへ投げつけてきた。

 ──手榴弾!? 

 急いで部屋から出ていき、頭を押えて伏せた。

 ドゴンッ! と爆発音を鳴り響かせ、部屋の中を煙で充満させた。

 

「くそっ!」

 

 部屋の中に入った俺は誰もいないリビングで地団駄を踏んだ。視線を窓へ向ける。

 リビングの窓が空いている。そこから入ってアキさんを連れ去ったのだ。

 

「おい、聴こえてるか? 返事をしろ! 錦木!」

 

 インカムで再度連絡を取ってみても返ってくるのはノイズだけ。

 ちっ、と俺は舌打ちをした。

 

「……仕方ないか」

 

 

 

 

 β

 

 

 

 

 アパートから銃声がなった直後、千束はすぐに向かおうと行動し始めたその時に、彼女もまた襲撃にあっていた。

 心と水川に送られた襲撃者と同じくボディアーマーを着た男が二人。千束が潜んでいた路地裏で、襲撃者たちはアサルトライフル──AK-100シリーズを彼女に向けて撃ち放った。

 

「こんな朝から撃つの!?」

 

 言葉は驚きながらも千束の行動はとても落ち着いていた。

 リコリスが持ち歩く学生鞄から愛銃──ストライクウォーリアを抜き、エクステンドの構えをしつつ弾丸を最低限の動きだけで避けていく。

 

「な、は??」

 

 襲撃者の男のリコイル制御はよくやっていた。AK特有の反動をしっかり筋肉で抑え込めていた。

 しかし、相手は錦木千束。

 

 卓越した洞察力で相手の射線と射撃タイミングを見抜く天才。

 

 それが、歴代最強のリコリス、錦木千束という少女なのだ。

 尽く弾丸を避けられ、ライフルのマガジンを交換しなくてはならなくなった男は眼前で行われた業に戸惑った。

 

「どけ、オレがやる!」

 

 狭い路地で、後ろにいたもう一人の襲撃者が銃を構えた。ライフルから猛々しく弾が放たれるが、その射線上に彼女はいない。

 すばやく移動した千束は最初に撃ってきた男に銃を数発撃つ。当たった瞬間、赤い塵が舞う。

 よろめいた隙に、彼女は蹴りを入れて地面に転がしてもう一発銃弾を見舞った。

 

「こいつ!?」

 

 再びけたたましい銃声が鳴る。

 千束は一歩後ろへ後退し、射線を切った。

 

「危ないなー、味方に当たっちゃうでしょ」

 

 呆れたように彼女はそう言う。

 拳銃の構えを胸あたりの位置──ハイにし、ダンッ、ダンッ、と男に撃ち込む。

 ぐぅ、と男は呻く。ライフルを奪い取り、地面に滑らせる。その後さきほどの男にしたように蹴りを腹に入れた。

 男が壁にぶつかり、千束はマガジンの残りわずかな弾を全て使って目の前の男に撃ち込んだ。

 

「これで終わりっと」

 

 ボララップを使って襲撃者二人を縛り上げる。

 心に連絡を取ろうと、通信を行うがノイズだらけで繋がる様子がない。

 

「あれ、繋がんない」

 

 んー? とトントンとインカムを小突くがノイズは鳴り止まない。

 すると、一瞬ノイズが鳴り止み、さきほど使っていた無線とは打って変わったクリアな音声が届いた。

 

『聞こえるか?』

「えぇ!? なんで心が()()知ってんの?」

()()()()()()()()に関しては俺も万が一の時に先生から教えてもらっている。これは、DAの司令官も承諾してる」

楠木(くすのき)さんからも?」

 

 こんなにも早く使うとは思わなかったけどな、と心は苦笑する。

 本来、DA本部に置かれた最強AIラジアータによる通信は外部に漏れることはない。それが承諾されたということは、柾木心は少なからずDAに価値があるという証明に他ならない。

 

『本題に入る。アキさんが誘拐された。すぐに追跡したい』

「あー、やっぱりそっちもか」

『そっちも? ってことはお前の方にも敵が来たのか』

「まぁね。二人だったけど」

『こっちも二人だ。宮崎がいなかったから、奴は連れ去った場所にいるんだろう』

 

 水川が誘拐されたというのにやけに落ち着いていると千束は思った。

 

「なにかあるな、さては」

『あぁ。朝にアキさんにあげたブレスレット、アレは発信器がついてるんだ。それを追えばいい』

「りょーかい。じゃあこの人たちをクリーナーに頼もっか」

『それはもうやった。あと数分で来るそうだ』

 

 手際がいいな、と苦笑いを浮かべる。

 その後心がバイクで千束のもとへ来て男二人を雑に積み上げて、まとめてアキさんの部屋に放置した。あとはクリーナーが持って行ってくれる。

 

「アキさんがどこに行ったかわかる?」

「工業団地に向かってる。移動速度的に車だ」

 

 バイクに搭載されたナビで映し出される信号を辿り、千束を乗せた心のバイクが道路を駆けていく。

 

 

 






 アニメ1話、そして放送された8話、そして今回の話、拘束するために使用している銃みたいなものはアメリカで使用されている「BoraWrap(ボララップ)」と呼ばれる遠隔拘束具です。ロープが射出されて巻き付くものです。

※ボラダブルラップじゃなくてボララップでした。訂正します。

 前書きでも言いましたが、評価ホントにありがとうございます。
 倉崎作品、百合好きには不向きな作品多いので人選ぶんです。評価の方見てもらえると顕著なんで、笑って欲しい。

 感想、評価お待ちしております。
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