リコリス・バレット   作:倉崎あるちゅ

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 徐々にお気に入りが増えて嬉しい、嬉しい、嬉しい!



Episode 4

 

 

 

 

 低音のエンジン音が閑静な道路に鳴り響く。

 俺たちは工業団地までナビを使ってバイクを走らせていた。

 

「ん?」

「どったの、心」

「いや、ナビがおかしい」

 

 砂嵐のように映像が乱れていく。ハッキングだろう。

 

「近くにドローンいないか? そいつを潰してくれ」

「えぇ……わたしあんま自信ないんだけど」

「俺だって拳銃の自信なんてない。小銃や狙撃銃なら自信あるが、今は撃てない」

 

 俺は今バイクを運転しているし、わざわざ停車して狙撃銃を取り出すなんてしていたらドローンが隠れてしまう。

 

「仕方ないなぁ」

 

 彼女は渋々左右を確認し、バイクのサイドミラーで後ろを確認した。俺もちらりとサイドミラーを見ると、ほんの少しドローンの端が映り込んでいた。

 

「いた、四時の方向」

「ホントだ」

「実弾は持ってるだろ? それで撃ってくれ」

「はいはい」

 

 後ろで彼女がマガジンを交換している気配を感じながら、俺はバイクの速度を上げた。

 アキさんを連れ去った場所は大体の予想がついている。この工業団地に連れ去る場所は少ない。最近まで稼働していた工場があったが、そこは今はトラブルで倒産したと聞く。その廃工場を使っているに違いない。

 正直、ドローンを壊さなくてもいい。しかし、壊した場合はこちらが奇襲しやすくなるというメリットがある。

 

「んじゃ、スリーカウントで。バイク横向きにしてね」

「わかった。いくぞ」

 

 幸い、道路を走行しているのは俺たちのみだ。急停止して横向きにしても事故になんてならない。

 

「三」

 

 カシャン、と彼女がストライクウォーリアのスライドを引いた。

 

「二」

 

 続いてすぐに撃てるように彼女が身体を逸らした。

 

「「一!」」

 

 急ブレーキをかけ、タイヤが嫌な音を立てる。車体が滑り、バイクは横を向いた。

 瞬間、ダンッ、と銃声が鳴った。彼女が放った弾丸はドローンのプロペラ基部に当たり、体勢を大きく崩した。

 

「もういっちょ!」

 

 再び銃声が鳴る。

 今度はドローン本体を貫き、空中できりもみ回転しながら墜落していった。

 それを横目で確認したあと、すぐさま俺は車体を前へ向きなおしてエンジンを吹かす。

 ドローンを撃墜したおかげでナビは回復した。

 

「心、今の見たー? どうよ、すごいだろ」

「おう、流石だ。俺にはあんな距離は無理だ」

 

 狙撃ならなんともないが、拳銃だと俺には不可能に近い。俺は拳銃の才能がまるでないのだ。

 

「ふふん、もっと褒めてもいいんだぞ〜? おおっと」

「ちゃんと掴まってろアホ」

 

 割れた道路を通過したため、車体が揺れた。

 銃をしまったあと、彼女はしっかりと俺の体に掴まる。俺はバイクの速度をさらに上げ、工業団地の奥へ侵入していく。

 

 

 

 

 α

 

 

 

 

 廃工場付近、黒いバンの車内で一人の女がほくそ笑む。

 ドローンをさきほど壊されたが、それでもこの状況はこの女にとって悪いものではない。

 とあるツテで学んだハッキングで遊んでみたが思ったよりも暇つぶしができたと笑う。

 あの芋娘だったやつとそれにご執心な男、宮崎をオモチャにして、ハッキングをし、ストーカー行為を助長させて慌てふためく彼女を見た赤石の心は満たされた。

 

「ふふっ……あたしより目立つからこうなんのよ」

 

 膝の上に置いたノートパソコンとは別に、スマホの画面に映し出されているのは、なにかのボタンらしきもの。

 それを見てニヤニヤと口の端を吊り上げて嫌な笑みを浮かべながら、女はノートパソコンへ目線を移した。それに映るのは、宮崎とボディアーマーを着た男二人、そして、その男二人に連れられる水川アキ。

 

「そんなに嫌そうな顔しないでよ、水川ぁ」

 

 まるで親切心でしてあげたかのように呟く女は映像の音量を上げた。

 

『離してっ……!』

『アキ、これでまた僕たちは一緒だ……! あの男はここに来ない!! 依頼した人たちが始末してくれたはずさ』

 

 生きてるけどね、と赤石は思った。

 しかし、どうせ来ても遅い。水川と宮崎がこの場にいる以上、目的は果たした。

 それにしても、と女は思う。()()()()武器を持っていてビックリした。半信半疑で実行隊を雇ったが正解だった、と。

 

「アンタが悪いのよ、あたしより目立つから……」

 

 だから、と続ける。

 

「そのメンヘラ男と一緒に、死ね」

 

 醜い嫉妬心を覗かせ、女は歯を軋ませた。

 すると、突然彼らがいる廃工場の入口のドアが蹴破られ、ドアが飛んでいく。

 

『そい!』

 

 飛び出してきたのはどこの学校かもわからない赤い制服を着た白金髪の少女ただ一人。その手に握られているのは特徴的なマズルを装着した黒いハンドガン。

 

『なんっ!?』

 

 ボディアーマーを着た男たちが驚愕する。

 宮崎は目元を引き攣らせ、水川は表情が明るくなった。

 

『千束ちゃん!』

『やっほー、アキさん。ごめんね、危ない目に遭わせて』

 

 余裕すら感じられるセリフに赤石、雇われた男二人、宮崎に不快感を与える。

 すぐ終わらせるから、と錦木千束はそう宣言した。

 

「すぐ終わらせる、ですって……」

 

 青筋を立てて、親指の爪を噛んだ。

 

『な、ち、近づくなぁ!! 近づいたら、こ、これを押す!』

『なにそれ』

 

 映像で、宮崎は露骨なスイッチを掲げて見せる。千束は首を傾げて様子を伺う。その様を見て赤石は笑う。

 カチリとマイクをオンにし、口を開く。

 

「それはねぇ、その男につけられた爆弾のスイッチよ」

 

 そう告げると、千束ではなくボディアーマーを着た男二人があからさまに反応した。

 

『な、聞いてないぞそんなこと!?』

『ふざけるなよ、そんなのお前たちが勝手にしてろ!』

「じゃあさっさとその子供を片付けたら?」

『ぐぅ……!』

 

 女の言葉に渋々従い、男二人はAKを千束に向けた。そんな光景を見せつけられた千束はうわぁ、と嫌そうな表情を浮かべる。

 赤石はマイクをオフにし、赤い制服を着た少女が蜂の巣になるのを待つ。

 路地裏での件は擬似的に一対一を作り出されてしまっていたからだと結論付け、二人からの射撃には対応できないだろうと決めつける。

 それに、と内心思う。

 

「爆弾のスイッチは、本当はあたしの手にあるんだけどね」

 

 もっと悲惨な状況でスイッチを押してやる、と女はいやらしい笑い声を上げた。

 

 

 

 時は遡り、数分前。千束が廃工場へ突入する直前。

 バイクを走らせたあと、心たちは水川が連れ去られた廃工場へ辿り着いた。ちょうどその時、心のスマホが鳴った。

 ──ちょうどいいタイミングだ。

 

「一人で行けるか?」

「え、来ないの?」

 

 心の発言に驚いた千束が、バイクから降りない彼の方へ振り向く。そんな彼はスマホをいじり、その画面を彼女に見せた。

 

「ハッキングしてた女は近い。これ以上なにかをされても困るしな」

「なにかって?」

「ちょうど情報が来てな。どうやら宮崎に爆弾を括りつけてるみたいだ。しかも、スイッチはこのハッカー崩れが持ってる」

「うーわ、陰湿」

「違いない」

 

 心は肩を竦めてスマホをポケットに戻す。

 

「じゃあ心がその人を確保したら合図ちょうだい」

「わかった。撃たれそうになった場合はやってしまって構わないから」

「りょーかい。頼むよ」

 

 ぐいっ、と拳が突き出される。心は面食らいながらも千束と同じように拳を突き出し、互いに合わせた。

 

「……散開」

 

 心のその言葉で、千束は振り向いて廃工場へ走り出す。彼もまた、バイクで狙撃できる場所まで移動していく。

 廃工場の窓から、中の様子を見れる位置に陣取り、ハッカーの女がいるバンの様子もよく見えた。

 廃工場から離れた、現在も稼働中の工場の屋上で、心はSR-25のバイポッドを立てて照準を合わせる。

 

 それと同時に、千束が廃工場内のドアを蹴破った。

 

「開始だ」

 

 

 

 

 β

 

 

 

 

 雇われたボディアーマーを着た男二人が揃ってAKの弾丸をばら撒く。しかし、錦木千束にとってその弾丸は避けるのは簡単だ。

 千束の頭に当たるはずだった弾は、彼女の艶やかな白金色の髪を掻き分けて通過していく。

 バケモノじゃないのか、対面している男たち、いや、宮崎すらそう思った。

 ダンッ、と彼女が所持するストライクウォーリアからマズルフラッシュが明滅する。

 

「がっ!?」

 

 一人、男が頭から赤い粉塵を撒き散らしながら倒れた。

 その光景に宮崎が目を見開く。水川を強く抱き、爆弾のスイッチを握りしめた。

 

「は、はやくなんとかしろよっ!?」

「うるさいぞガキ!」

 

 撃たれなかったもう一人の男が、状況を上手く把握していない宮崎に怒鳴る。男は遮蔽物として廃棄された棚を背にし、千束の行動を伺う。

 彼女の姿を盗み見ようとしたその時、白金色の髪が視界を覆った。

 

「よっ」

 

 男が反応しようとした瞬間、千束がストライクウォーリアでボディアーマーに覆われていない腹部を殴りつける。

 そしてそのまま、拳銃の引き金を何度も引いた。

 

「あ、があぁっ……!?」

 

 苦悶の声を漏らしながら男が崩れ落ちた。

 それを映像で見ていた赤石は痛烈な舌打ちをした。使えない。あまりにも使えない、と女はガツン、とバンのダッシュボードに拳を振り下ろす。

 

「おー、イライラしてる」

 

 廃工場内は千束に任せておけば安心だと判断している心が、そんな赤石をスコープ越しで見つめる。

 女がスマホの画面に指を這わせようとした瞬間、彼は照準をバンのタイヤに合わせ、深呼吸をしてSR-25の引き金を引いた。

 ドォンッ、と低めの銃声が鳴り、弾丸は見事タイヤを貫いた。

 いきなり車が傾き、驚いた赤石はスマホを持ってバンから飛び降りた。戸惑った表情であたりを見回している。

 

「すぅ……」

 

 心が再び深呼吸をする。ゆっくり、肺に溜まった空気を吐き出し、引き金を引いた。

 二度目の銃声が鳴り響いた。狙った場所は、右手に握られているスマホ。下半分は握られているため狙えないが、上半分は狙える。小さな的に狙って放たれた弾丸は、寸分の狂いもなく吸い込まれた。

 

「きゃあぁっ!?」

 

 急に右手に衝撃が起こり、女は頭を抑えてしゃがみ込んだ。スマホは弾が貫通し、地面に転がっている。

 それを確認した心は廃工場へとスコープを移動させる。

 廃工場内では、ジリジリと千束が宮崎に近寄っていた。しかし、

 

「やば」

 

 最初に気絶させた男が千束の後ろで起き上がっていた。それを宮崎は理解して彼女を引き付けている。水川が気づくかと思われたが、宮崎に抱かれている彼女からは死角になっていて見えていないのだ。

 ボディアーマーを着た男がAKを構える。

 無線を繋げ、心は千束の名を叫んだ。

 

「千束!」

 

 同時に狙撃銃の引き金を引く。その弾丸は廃工場の窓を破壊しながら、構えられたAKの機関部に叩き込まれる。その衝撃で男が横に傾いた。

 

「ぐぅ!」

 

 心に名を呼ばれ、千束はすぐに後ろに振り向き、ダンッ、と拳銃を何発か撃った。再び男が廃工場の床に沈む。

 

「ひっ!?」

 

 心による外からの銃撃と、千束の行動に宮崎は思わず水川を抱く腕を弛めた。それを見逃さず、水川自身が身体をよじってストーカー男から離れ、千束が瞬時に宮崎に接近する。

 ストライクウォーリアのスパイク状の銃口が、宮崎の目の前に出現した。

 引き金が引かれ、銃声が鳴る。

 

「……」

 

 弾は射出されなかった。千束は接近した際、マガジンを空にし空砲にしていたのだ。

 そんなことなど露知らず、ストーカー男は撃たれたと錯覚し、気絶してしまった。

 

「千束、ちゃん……」

「アキさんお待たせー!」

「う、ちさとちゃぁん……!」

 

 救出された水川は、千束の笑みに安堵し彼女に抱きついて涙を流した。

 

 

 

 

 γ

 

 

 

 

 雇われた男たちはクリーナーに依頼して後始末をしてもらい、宮崎と赤石は自衛隊()経由で警察に移送され、逮捕という流れになった。

 俺と千束、そして何故かその場にいたとされる身元不明の自衛隊員によって証言がなされ、宮崎は逮捕。赤石は俺が依頼したハッカーによって証拠を出され言い訳を連ねることもなく逮捕になった。

 

「今回は本当に助かった。俺が出せる情報はもう見たか?」

『ああ。もっと出せるだろうとか思わなくもないが、これでいい』

「はは……勘弁してくれ」

 

 依頼相手の手厳しい言葉に俺は苦笑いを浮かべる。

 

「爆弾の情報は助けられた。あれがなかったら俺も突入してからな」

『君の行動はわかりやすいからな。情報の出し方やタイミングで誘導するくらいどうってことない』

「……わざとわかりやすくしてんだよ」

『ふっ、どうだか』

 

 合成された声で相手が笑う。

 俺の動きがわかりやすい、すなわち正直なのは、このハッカーにわざと誘導してもらうためももちろんある。そして、ハッカーが言う俺の性格も起因する。

 性格八割、わざと二割。俺に知恵が働くなら、そもそもコイツは俺に協力なんてしてくれなかっただろう。今まで俺が行動していき、価値があると示したからこそ協力してくれている。

 

『それと、例の件だがな』

 

 さきほどとは一転し、真面目な雰囲気をまとった合成音声がスマホのスピーカーから流れる。

 

『まだボクのところに()()()()()からの依頼は来ていない。悔しいが、実力や知名度が足りないようだ』

「……そうか。その件は気長に待つとしよう。変に焦って悟られるのは良くない」

『その通りだ。……しかし、話を聞いて思ったんだが、あの無償の支援をしている組織になにかあるのか?』

 

 その言葉に、俺は左手を握りしめた。

 

「支援を受けた者には、何かしらの使命が存在する。まるで、自分たちの価値観が最善かのように振る舞う奴らが、マトモだと思うか?」

 

 知らず知らず言葉の端々に力が入ってしまう。

 

『……君に何があるのかはこの際問わない。然るべき時に聞かせてもらうよ』

「……悪い」

 

 そんな相手の良心に感謝し、俺は握りしめていた左手を解いた。握りしめていたというのに充血のしない手のひらを見て、俺は眉間に皺を寄せた。

 

『それじゃあ、ボクはこれで失礼する。今度はマシな依頼をしてくれよ』

「あはは、わかった。今回は本当にありがとう」

 

 釘を刺され、俺はカラカラと笑った。

 

「これからもよろしく頼む、ウォールナット」

 

 ブツリ、と電話が切れた。

 その後、電話を終えた俺は喫茶リコリコの地下、射撃訓練所から地上の喫茶店へ戻った。店内は閑散としていて、先生はコーヒーを飲んでいるし、彼女は先生お手製の試験管団子を頬張ってる。

 ミズキは……確かお洒落してどこかに出かけた。

 

「お、仕事の電話終わった〜?」

「あぁ。最初は刑事さんに怪しまれそうになったが、まぁ、そこはウチの部隊の連中に投げておいた」

「うわ、かわいそう」

 

 そう言いながら彼女は餡子の団子を咀嚼する。ムグムグと団子を飲み込んだ彼女がそういえばさ、と口にした。

 

「心って電波塔事件の時ってどこにいたの?」

 

 ビクッ、と俺と先生が反応した。

 

「さぁな。あの時は必死だったし場所がわからない」

「先生覚えてないの?」

「……ぅん……どこだったか」

 

 おい先生、演技下手か。

 

「なぁんか、今回の心の狙撃に見覚えあってさ〜」

「狙撃なんてみんな同じだろ? 気のせいだ」

 

 そう言いつつ彼女の試験管団子をひとつ横取りする。適当に盗ったが、味は醤油。

 

「いやいや、タイミングといい精度といい、同じだったんだよ。あの時にさ」

 

 んぐ、と喉に詰まりかけた。

 一瞬、彼女のその赤い眼が細められたことに気づいた俺は背中に嫌な汗をかいた。

 

「心ってさ、今どこに住んでんの?」

「え、ここからあんまり遠くないけど」

「ふーん。じゃあさ、わたしの部屋の隣に引っ越して」

 

 一瞬、何を言われたのかわからなかった。

 

「は?」

「あ、何軒かあるから全部ね」

「何軒か!?」

「いやー、たまにいるんだよね。銃持ったお兄さんたちとか」

 

 そのためのセーフハウス何軒かあるんだー、と飄々とした態度で言う。

 

「ふざけるな、その費用はどこから出んだよ」

「そんなの楠木さんに言えば出てくるから大丈夫大丈夫。先生が楠木さんに頼んだら聞いてくれるし」

 

 先生頼みかよ。そんなのでいいのかDA。チラリと先生を見ると、大柄の黒人男性がすごい渋い顔でスマホとにらめっこしていた。

 いや、なに真に受けてんだ先生。

 

「錦木、そんなの無理に決まってんだろ」

「あれ〜? 今日名前で呼んでくれたのに戻っちゃったの〜?」

「うっさい、黙れ」

 

 クソ生意気な態度で、彼女はニヤニヤと笑う。そんな彼女のことが腹立たしくて、でも眩しくて。すごい複雑。

 顔を背け、俺は口を開く。

 

「お前なんか、嫌いだ」

「えー、わたしは結構心のこと好きだよ?」

 

 ドキリ、と非常に遺憾だが胸が高鳴った。耳がかぁ、と熱くなる。

 

「弟みたいで」

 

 その一言で一気に氷点下まで下がった。

 まぁ、わたし家族なんていないけど、とあっけらかんと笑う。

 

「はぁ……」

 

 そんなこんなで、なぜか始まってしまった俺の引っ越し企画。こんなのがずっと続くなんて俺のメンタルは無事で済むのか? 

 幸先が不安になる横で、先生はDAに連絡してて、目の前の彼女──千束がはむ、と美味しそうに団子を頬張った。

 

 

 

 

 Δ

 

 

 

 

 時は現在に戻る。

 二ヶ月前のあの理不尽な引っ越し企画も無事──かはさておき──終わり、俺は喫茶リコリコの厨房で和菓子を作っていた。

 朝食後のCQB強化訓練を乗り越えたあとは今のように作っている。主に、カウンター席に座る千束用だが。

 和菓子を作りながら二ヶ月前のことを思い出し、俺はふっ、と鼻で笑う。すると、テーブルで頬杖をついていた千束が反応した。

 

「なに、どしたの?」

「二ヶ月前のことを思い出してた」

「あー、そっかそっか。あのストーカー事件からもう二ヶ月か」

 

 時が経つのは早いなー、と彼女は笑う。

 あれからストーカー被害に遭っていた水川アキさんはリコリコの常連となり、たびたび同じサークルメンバーを連れてきてくれている。

 

「アキさん、二ヶ月前と今じゃ全然違うよね。明るくなった」

「だな。ストーカーもなくなって活き活きしてる」

 

 話しながら和菓子を作り終え、千束の目の前に置いてやる。すると彼女は目を輝かせて破顔した。

 

「ん──! 美味しぃ♪」

「そうかい」

 

 柔らかそうな頬をいっぱいにし、満面の笑みを浮かべる千束を見て、俺は満足する。

 リコリコ(ここ)で出した当初よりは和菓子をうまく作れるようになった。両親から教わった作り方をベースにネットで探したり、SNSを通じてプロから教わったりしていた。

 

「心ってさ、なんで和菓子作れるの?」

「ん、両親が職人だったんだ。んで、俺も小さい頃からずっと手伝いをしてて教わってた」

「へぇ……」

「まぁ、もう二人ともいないがな」

 

 自分用のコーヒーを飲み、なぜか黙ってる千束へ視線を向けると、彼女の顔が固まっていた。

 

「どうした」

「いや、あー、その、ごめん」

「なに謝ってんだ。もう八年経つんだ、吹っ切れてる」

 

 申し訳なさそうに謝る彼女に俺は苦笑いを浮かべた。それに、と言葉を繋げ、

 

「今は()()だろ?」

 

 そう言うと千束はニヤリと表情を変えた。

 すると、店のドアがカラン、と鳴って開かれた。俺と千束はドアの方へ体を向けて笑みを浮かべて迎える。

 

「「いらっしゃいませ!」」

 

 

 

 





 リコリコアニメがあと少しで終わってしまう……。
 終わって欲しくない……。

 今回でこの章は終わりです。
 次回から新章が始まります。原作みたいに少しずつ情報を小出ししていきたいのに技量が足りなくて事故るのが悔しい。

 それと、Twitterありますので、よろしければ。
 @kurasaki_arutyu
 でやってます。

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