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「父さん、母さん! やっぱり帰ろうよ」
これは……夢?
「まだ言ってるのか? 楽しみにしてたじゃないか」
「そうそう。今日を逃したらしばらく東京に来れないのよ?」
あぁ。夢か。
親父も、母さんも、この時に死んだんだもんな。
「でもさ──」
ゾワリ、と強烈な不快感が身体中を襲う。
そうだ。この嫌な感じがした瞬間、
避けられなかった。親父に手を引かれてたし、今みたいに何もしてなかったから動けなかった。
機関銃による乱射、そしてグレネードによる爆風と破片で、その日──。
俺は、全てを失いかけた。
α
独立治安維持組織
そこは山間に建てられた、秘密裏の基地である。その基地内にて、司令官である女性──
「敵の正体すら掴めんとはな……」
目頭を揉み、楠木は息をつく。
最強AI、ラジアータで日本全土に武器の所持、または危険な行動の演算をかけているにも関わらず検知できず、事件が起きてからそれが確認された。
敵勢力による多数の爆弾──おそらくC-4で陥没し、瓦礫によって地形は変化。また、地下鉄駅構内も爆風により荒れてしまい、戦場と化している。
その戦場で敵勢力はゲリラ戦をしかけていた。
『情報通りなら、明らかに戦闘慣れしているな。相当訓練されている』
「ええ。どういう意図を持って行動しているのか、聞き出さねばなりません」
電話から聴こえてくる声は、喫茶リコリコの店主であるミカ。
「ミカ、千束の方はどうですか」
『やる気十分だな。心の部隊を見たいとはしゃいでいる』
「心……あの少年か」
楠木が目を細め、別の資料を手に取って見る。それには自衛隊の隊服に身を包む彼の写真が載せられている。
電波塔事件の際、電話を受けたミカが突然司令部を抜け出して救出したのが、この写真に写る柾木心である。
『ん゛ん! それで、DAからは誰が来るんだ? 千束が気にしてるぞ』
あからさまな話題転換に楠木はふっ、と短く笑う。
「それは合流した時の楽しみにしておけ、と伝えておいて下さい。では、また後ほど」
心の資料を机に戻し、楠木は電話を切った。椅子を回転させ、彼女は司令室の大きな窓から外を見つめた。
「司令、心というのは?」
ふと、近くで待機していた女性の助手が楠木に質問する。楠木は机に戻した心の資料を指でトン、と叩いて口を開く。
「ミカが救出した少年だ。陸上自衛隊特殊作戦群機械化部隊所属、コードネーム彼岸花。本名は柾木心。正直、化け物だと私は思っている」
「それほどなのですか? ……というより、彼岸花?」
「あぁ。彼岸花については
司令である楠木の言葉に半信半疑の助手に、楠木は心の資料を手渡す。
「これは……」
助手が目を見開いた。
「遠距離狙撃による最高記録、三五四〇メートル!?」
「遠距離だけではない。近接格闘もよく見てみろ」
「……え?」
助手が見たそれは、一対多数による近接乱戦時の記録だった。
たった一人で制圧し、無傷で自衛隊の精鋭たちを薙ぎ倒したというものだ。文字と数枚の写真でしか判断できないが、その異常さが伝わる。
また、遠距離狙撃については急所をわざわざ外し、初めから対象を動けなくさせるものであった。
──化け物。
その一言が助手の脳裏を過った。楠木の言うことも理解できる。
「遠近は化け物だが、中距離、拳銃射撃は素人に毛が生えた程度だ。どうやら千束に教えを受けているみたいだが……千束だからな」
肩を竦めて、楠木は助手の手から資料をかっさらう。
「さて、どう転がる……?」
心の資料の上に少し古いカメラを置き、楠木は手を組んだ。
β
喫茶リコリコを出てしばらく車に揺られ、俺はいつの間にか寝てしまっていた。電波塔事件の時の夢を見てしまい、寝覚めが悪かった。
吹っ切れたと思っていたが、どうやらまだみたいだ。
「し〜ん? 大丈夫?」
「え? あ、あぁ。別に」
隣に座っている千束が俺の顔を覗き込んでくる。その血のように赤い眼が近くて、俺は視線を逸らした。
「なんか怖い顔してたけど?」
「少しな。昨日からずっと嫌な予感がして止まないんだ」
「嫌な予感か。わたしは感じないな」
「俺だって知らん。昔からなんだ」
へぇ、と彼女が興味を持ったように相槌を打って背もたれに背中を預ける。
「例えばどんな時に感じんの?」
「ん、そうだな……」
顎に手をやり、俺は思い返す。
「わかりやすいのは、昨日の模擬戦だな」
「え、模擬戦でもあんの?」
「あぁ。嫌な予感、ではないんだが……。こう、なんというか、ここに攻撃が来るっていう直感がある」
あの時は、まさか銃で殴ってくるなんて思わなかった。いや、仕事の時に稀に殴ってるところを見てはいるが、俺にそれをやってくるなんて思ってもみなかった。
俺があれを避けられた理由は、ここに攻撃が来るな、と予感がしたからだ。
顔を千束へ向けると、彼女はキラキラと目を輝かせていた。
「なにそれチートじゃん!」
「その言葉、そっくりそのままお前に返す」
コイツ、どの口が言ってんだ。
「えー、なんでよ」
む、と千束が唇を尖らせる。どうやらブーメランに不満のようだった。
「銃弾避けるとかチート以外なにもないだろ」
「あんなのただの勘だよ。でも心のはわたしのより凄いって! 先生とミズキもそう思わない?」
運転席で車を運転するミズキは興味無さそうにそうねそうね、と適当に相槌を打つ。対して助手席に座る先生はこちらに振り向いて、俺たちを困ったように見る。
「二人とも凄いでいいだろう?」
そう言う先生に俺と千束は首を横に振った。
「いーや、千束が一番ヤバい」
「そんなことないって。心の方がヤバい」
「なんも根拠の無い予感なんて、どこがヤバいんだよ」
「それ言うなら、わたしはただの勘で避けられてるだけなんですけどー」
「「あ゛?」」
ゴツン、と彼女の頭と俺の頭が衝突した。そして、バチ、バチ、とまるで火花が散るかのように目を合わせた。
どう考えたって俺の意味わからん予感より千束の方が凄いに決まってんだろ。自覚しろ。
「ええい、お前たち仲がいいのか悪いのかハッキリしろ! というか、リコリス達と合流ポイントまで来たぞ」
その言葉で、俺たちは渋々互いの頭を離し、正面を見た。
フロントガラスからポイントを確認する。すると、合流ポイント上にいたのは、赤い制服を着た茶髪の少女と紺色の制服を着た少女二人。
その三人の後ろには白いバンが停められてる。中には白い制服を着た少女が数名乗っている。
「あれ?」
隣に座る千束が声を上げ、車が停まった途端窓を開ける。
「フキじゃん! おひさ〜」
「千束……」
フキと呼ばれた少女が、千束の顔を見た途端不機嫌そうな表情になった。後ろにいる少女二人は、紺色のリコリス制服のことから、セカンドだとわかる。
「そっかぁ、DAからのメンバーはフキだったんだ。わたしがいるからかな」
「そうなんじゃないか。あたしは嫌だけどな」
「えー、そんなこと言うなよー」
千束が窓からファーストのリコリスにだる絡みをした。絡まれているリコリスは見るからに不機嫌だ。セカンド二人はそんなファーストの様子に不安そうにしている。
「合流したし、そろそろ出発するわよー」
「はーい。フキもこっち乗りなよ、ね」
「はぁ? あたしは向こうに戻──」
「いいからいいからこっち乗る」
車のドアを開けて、千束はぐい、とファーストのリコリスの襟を引っ掴んで車の中に引き込んだ。
うわ、強引すぎんだろ。
「てめぇ、千束ォ! なにすんだてめぇ!」
青筋を立てて車内で大きな怒号が響き渡る。
額を大きく見せる髪型のせいで、よくその青筋が見えている。
「まぁまぁ、久しぶりなんだしいいじゃん」
「よくねぇから言ってんだろ。アァ!? ゴム弾で頭の中ゴムが詰まってんのかてめぇ!」
キレるのも仕方ないな、と俺は思いながら席を詰めた。
席は後部座席の左は俺、真ん中は千束、右はフキと呼ばれたリコリスだ。
「いいじゃないか。そのまま乗っていけ、フキ」
「っ! せ、先生!? ……は、はい……」
先生が助手席から振り向いて言うと、ファーストのリコリスは顔を赤くして俯いてしまった。
「んじゃ、そういうことで、ごめんだけど君たちはその車で一緒に来てね」
手を合わせて、千束は車の外で呆気に取られているリコリス二人に謝る。ファーストのリコリスがここまでなし崩し的に車に連れ込まれたのだ。棒立ちになるに決まっている。
リコリス二人は何度か頷いてバンに乗り込んだ。それを見て、ミズキが車を発進させた。
「んで、誰」
車の窓際で頬杖をついて、俺は真ん中に座る千束とその隣に座る未だに顔を赤くしているリコリスを見る。
「あぁごめん。昔、リコリス棟で同室だった子。
千束に紹介されたことに気づいた彼女は、初めて俺を視認した。片眉を上げ、訝しむような目で見られている。
「なんだ千束、男でも作ったのか」
「ちゃうわ! えー、でもなんて言ったらいいんだろ?」
弟みたいな人? いやでもな……同僚? でも心はリコリスじゃないし、と千束がうんうん唸っている。
全部俺聴こえてるんだが、もしかして、俺って異性として見られてないと思っていいのか。おいミズキ、鼻で笑うな。先生も一緒になって笑うな。
「知るかよ。で、誰だよ」
「まぁいいか。わたしと一緒にリコリコで働いてる、
柾木心。今回一緒に仕事する自衛隊の部隊の部隊長さん」
彼女がそう俺を紹介すると、春川フキはほお、と俺に視線を向けた。
「お前が機械化部隊の部隊長か。あたしは春川フキだ。フキでいい」
「柾木心だ。俺も心でいい。千束と同じ部屋ってことは、コイツのヨダレも知ってんだな」
「は??」
「あぁ。すごいよなコイツの」
「ちょ、ちょいちょいちょい!」
俺とフキが千束を挟んで会話をすると、彼女がぐい、と俺に詰め寄った。
「きさま、なに言ってんの!?」
「いや、だってお前映画見てる時とかゲームしてる時とか、寝落ちするだろ? そん時のヨダレがまぁ俺につくんだわ」
「仕方ないじゃん! いい感じに眠くなるんだから」
珍しく可愛らしい焦りを見せる千束に、俺は少し加虐心が湧いてきた。それはフキも同じなのか、ふっ、と笑って千束を見ている。
「リコリス棟でも凄かったぞ? 枕にヨダレべっとり垂らしてなァ?」
「ちょぉいちょいちょいちょい! それは昔のことでしょー!? 子供の頃だしいいじゃん! それ言うならフキだって歯軋りすごいじゃない。カリカリし過ぎ」
「んだとォ!? だいたいはてめぇのせいだぞ千束ォ!」
うわ、フキが喋り出したら千束止まらなくなった。つか、なんだコイツら。打てば響くところの話じゃない。うるさい。
ヒートアップし過ぎて車が揺れるほど、千束とフキのファーストコンビは互いに口撃し合っている。
「先生、コイツら昔からこうなのか?」
「まぁな。DAに入ったのが一日違いでな。そういう縁もあって仲がいい」
「へぇ」
今もなお、昔はああだった、こうだったと言い争う千束とフキを見やる。
リコリスたちは孤児だ。故に誕生日も定かではない。
そんな彼女たちの誕生日と定めるものは、DAに入った日だという。千束の誕生日は九月二十三日。フキはその一日後らしい。
そういや、今は七月か。まだ先とはいえ千束の誕生日になにか用意した方がいいのか? いや、重いとか思われそうで嫌だな。けど、用意しなかったらしなかったで不貞腐れそうだし。
「はぁ……はぁ……」
「ぐぬぬ……!」
息を荒らげるフキと、臨戦態勢の千束。本当に仲良いな。
「そろそろやめたらどうだ?」
「最初に言い始めたの心だからなぁ!?」
「噛み付くな千束。話を広げたのはお前たちだろ」
俺がそうピシャリと言うと、彼女は不機嫌そうに頭の後ろで手を組んで背もたれに寄りかかった。
はぁ、と俺はため息をつく。鞄からとあるものを取り出し、千束の目の前に突き出す。
「ほらよ」
ちらりと彼女を見てみれば、目を見開いて次第に顔が緩み始めた。
取り出したものは和菓子。錦木の葉をモチーフにしたものと、三本ほど入った団子だ。
「お前が寝てる間に作っといた。これで機嫌なおせ」
「あ、甘いもので買収しようなんて……」
「いらないなら……フキ、食べるか?」
「あ? いや、あたしは──」
「食べます、食べますぅ!」
俺の手からそれを奪い取り、千束は和菓子を口にして一気に破顔した。単純なヤツ、と内心思いながら別のものを取り出す。
こちらは先生お手製の団子セット。本来なら俺が食べるはずだったんだが……まぁ、反応を見る限りフキにあげたほうが面白そうだ。
「ほら、フキも」
「いや、だからあたしはいらねぇよ」
「こっちは先生お手製だ」
「……っ! て、てめぇ……!?」
フキの顔がほんのり朱に染る。
ほぉ、なるほどなるほど。
「今朝作ったばっかだから美味いぞ? なぁ、先生?」
「ん? そうだな。良かったら食べてくれ、フキ」
「……い、いえ。今は仕事中、なので……」
「そうだそうだ、食べなよフキ〜」
「てめぇは口にもの入ってる時に喋んな!」
「だっへ心の和菓子美味しいんらもん。あむ」
心お茶ー、と千束に言われ仕方なくお茶のペットボトルを放り投げた。上手くキャッチした彼女は口に入っているものを飲み込み、お茶を流し込んだ。
「ん〜! 最高!」
「そうかよ」
再び千束はあむ、と食べ進める。
一方、フキはというと、団子セットを手に持ったまま固まっていた。
食べればいいのに、と俺は思う。周りにはリコリスはいないし、周囲の目は俺たち以外にはいないのだから。
「フキ、早めに食った方がいい。目的地まで少しだ」
「……あぁ」
そう言ってフキはごほん、と咳払いをして団子を一本手に取った。
「せ、先生、いただきます」
「あぁ。喉に詰まらせるなよ」
穏やかな笑みを浮かべて、先生はフキを見守る。
こういうところだろうな、先生がモテる理由。まぁ、俺は先生が男色家であるのも知ってるし気持ち的にはアレなんだが。というか、フキは知ってるのかこのこと。
知らないんだろうな、と俺は千束を見る。すると、彼女に伝わったのか、首を振る。
やっぱ知らんか。
ふと昔、失礼ながら先生に聞いたことがある。俺は範囲に入ってるのか、と。
先生曰く、息子同然の子供なのだからそんなものはない、とのこと。そもそも子供自体あんまり好きじゃなかったみたいだし。
今じゃ、
γ
都心から少し外れた地下鉄駅。その周辺では道路規制がなされ、一般人が通れないようにされている。DAのエージェント、そして俺の部隊の隊員がそれぞれ配置されていた。
駅入り口の前で、俺たちは武装の確認を行う。
俺の手持ちはいつも使うXDMと今回使うヴェクター、そして非殺傷用の手榴弾。弾薬もゴム弾だ。
千束はいつもの装備で、いつもより多めにマガジンを持ってきた。
俺の部隊は全員ヴェクター装備。その他に殺傷用の手榴弾や弾丸も用意されている。
「おー、銃声が聴こえる」
「だな。にしても、聞き覚えのある銃声だな」
俺と千束が駅の前で、マガジンの確認する。
地下というのもあって銃声が籠っていてあまり正確には捉えづらい。それでも、この銃声はどこかで聴いた覚えがある。
「心、今は嫌な予感ある?」
「なんだろうな……漠然とした嫌なものは感じる」
「そっか」
俺がヴェクターの確認をしていると、千束がこちらに体を向けた。顔だけ彼女に向けると千束はにっこり笑っていた。
「命大事に、だからね」
身長差で千束は俺を見上げるようにして見ている。それがなぜか、悲しそうな、寂しそうな、心配そうな、そんな雰囲気があった。俺は彼女の綺麗な赤い瞳を見返す。
ふっ、と俺は笑う。
「わかってる」
右手で千束の艶やかな白金色の髪を撫でる。
「ちょいちょい、なに、どうしたの?」
一瞬、嫌がるかなと思ったが、彼女は困ったように俺を見るだけだった。
女の子の髪を勝手に触るのは良くないとミズキが言っていたのを触ってから思い出して、俺は気まずくなり目を逸らす。
「いや、なんかそんな気分だった?」
「なんで疑問形なんだよ」
「うるせ」
千束の頭から手を離すと、タイミングを見計らったかのように、後ろから半長靴の靴音が聴こえてきた。
「部隊長、失礼します」
振り返れば、そこには見た目三十代後半の男が敬礼しながら立っていた。名前は伊達アキマサ。階級は三等陸尉で、機械化部隊の副部隊長を務めている。
「部隊全員、準備完了しました! いつでも行けます」
「わかった。改めて指示を出すけど、基本は非殺傷弾。危険だと判断した場合は殺して自分を守れ。あとは任せる」
「了解しました」
再び敬礼をし、伊達はふと俺の後ろを見て微笑む。俺は少し首を後ろに向けると、すぐ近くで千束が伊達を興味深そうに見ていた。
「あなたが部隊長と仲のいいリコリスの方ですね。自分は部隊の副部隊長を務めている伊達と言います。よろしくお願いします」
「おー、ちゃんとした自衛隊の人だ」
「俺を見ながら言うな」
じとりと千束を睨む。しかし、彼女は意に返さず伊達に挨拶を返した。
「どうも、錦木千束でーす! いつもウチの心がお世話になってまぁす!」
「なってねぇ! つか、俺はお前のじゃねぇ! 伊達、笑うな。腕立てさせるぞ」
「んんっ! いえ、笑ってなど!」
嘘つけ、口の端がピクピク動いてんぞコノヤロウ。
俺は腕を組んで、自分より背が高い男を睨みつけながら見上げる。次第に伊達の顔が引き攣り始めた。
「に、にしても、部隊長のその制服、お似合いですね」
「あからさま過ぎんだろお前」
「……昨日は自分、見れなかったので」
話題変えるが下手すぎる。
というか、本当に似合ってんのか?
「お世辞ならいらねぇぞ、伊達。素直に言えよ」
「いえ、本当ですよ。部隊長のコードネームにピッタリかと」
コードネーム、その単語で俺は顔を顰めた。対して千束がえっ! と歓喜の声を上げる。
「なに! 心ってコードネームあんの!? どんなのなの! ねぇ、教えてってぇ!」
「うるせぇ、近ぇ、黙れぇ!」
後ろから千束が俺に抱き着くように俺の体を揺する。
彼女の顔が近くて俺は顔を背けるが、そうはさせまいと逆側に回ってくる。
「ははっ、錦木さんは部隊長のコードネームが気になるんですね」
「そりゃあそうですよ。だって、映画の主人公みたいな感じするし! 伊達さん教えてくださいよ〜」
「教えたら部隊長にシメられるんで、自分で訊いてください。では、自分はこれで」
「えぇ〜、そんなぁ」
シメるどころの話じゃなくなったけどなァ、伊達ェ! とは、言えなかった。すぐ近くに千束がいるせいで下手に声を出したくない。
今の俺の顔はとんでもないくらい複雑な顔をしているだろう。
「ねぇ、教えてよ〜! し〜ん?」
「うるさい。離れろ」
「教えてくれるまで離れませーん」
「クソガキめ……」
マジで接客してる時や仕事してる時に出るあの真面目さと大人っぽい雰囲気を少しでいいから俺に向けてくれ。毎回俺に対してクソガキムーブしてくるのは流石に腹が立つ。けど、怒るに怒れない……!
「ほらー、言えよー」
「嫌だ。言いたくない」
なにが嫌だってリコリス相手に俺のコードネームを言うことが嫌だ。
銃床で頬を突かれるが、俺は口を曲げて喋らないようにする。
「……はぁ、頑固だなぁ心は」
「……笑われるから嫌だ」
「笑わないって。……わからんけど」
「おい」
そこは笑わないって断言してほしかった。
今はフキがDAとの通信を行っていて、まだ突撃許可が降りていない。そのため時間がまだある。それまでの間、こうして千束に駄々を捏ねられるのは鬱陶しい。
仕方ないか、と思い長いため息をつく。ため息をつくと幸せが逃げると言うが、果たしてどうなのか。
「……じゃあ、言うからな」
「お! うひひ、やったぁ!」
心底嬉しそうに、彼女は笑う。その笑顔が眩しくてドキリとする。
千束の笑顔を直視できなくて、俺は顔を背けながら言葉を紡いだ。
「……ばな」
「ん?」
聞き返してきた彼女に、俺は少し大きめの声で発した。
「彼岸、花」
俺がそう言うと、急に千束が黙りこくる。そんな彼女の様子を見たくなり、目だけそちらへ向けた。
視線を向けると千束の口元がすごい変なことになっていた。
「なんだその、変な口」
「いや、なんか、その」
にやっと、いや、にちゃっとしていてとても気持ち悪い。先ほどの眩しい笑顔に戻して欲しいくらいだ。
「たぶん、嬉しい、のかな。うん、嬉しい」
「なんで嬉しいんだ?」
そう訊くと、千束は少し考えた。
少しの間うーん、と唸ってから、
「……わからん」
「なんだそりゃ」
こんなことならさっさと言ってしまえばよかったか。
てっきり、似合わないとか言って笑われると思っていた。それが思ったより反応が薄かったし、彼女の顔が変になったくらいだ。
「でも、そっか。彼岸花だからリコリス制服なのかぁ」
「そうなるな。わりと動きやすいし防弾もしっかりしてるから文句言わずに着てるけど」
好きな点は、名探偵ホームズのようなインバネスコートみたいになってるところか。意外と好きなところだ。
長いものではなく、半袖のようなタイプなため、動きに支障が出ない。
時期的に夏用の制服を着たいが、今回は万が一がないよう長袖のものだ。
夏用の制服だとインバネスコートのヒラヒラがないんだよな。そこが少し残念だ。
「わかる。わたしもそれいいなって思ってるんだよね〜」
わたしも欲しい、と千束が俺の制服を見つめる。
「先生に言え。これ用意したの先生だし」
「マジか。今度言お」
そんな他愛のないことを言っていると、通信終えたのか、フキがセカンドリコリスを率いてこちらへ歩いてきた。
「てめぇらは先生を労われ。ていうか、千束は黙ってそのままリコリス制服着てろ」
「お、フキじゃん」
「通信は終わったのか?」
「あぁ」
ぶっきらぼうに返事をする彼女が、後ろにいるセカンドリコリスを見やる。
「今回からセカンドになったリコリスだ」
「えっと、
「
自己紹介をするセカンドリコリスは二人とも髪が短く、明るい髪の色だった。
蛇ノ目エリカはそばかすのある気の小さそうな子で、篝ヒバナは女子にしては体が大きく、頭にカチューシャをつけている。
セカンド、ということはリコリスの中でも実力があるのだろう。
たまに勘違いしそうになるのが、ファーストリコリスである千束がおかしいのであって、決してファースト以下が弱いとか実力不足とかではない。
「今回、自衛隊からの部隊を任されている部隊長の柾木心だ。よろしく。心でも、柾木でもどっちでもいい」
「は、はい。よろしく、お願いします……」
「りょーかい」
で、とフキが千束を見る。
「これが電波塔だ」
「これって言うなこれって! しかも名前言えやフキィ!」
本当に仲良いなコイツら。
電波塔と聞いて二人も、目の前の白金色のリコリスが錦木千束だと理解したのか、目を丸くした。
結構リコリスの中でも有名らしい。それもそうか。最後の大事件を解決した歴代最強のリコリスだからな。
リコリス四人を放っておき、俺は地形データをスキャンしている方へ顔を向けた。
「ミズキー! スキャンどうだー?」
「オッケよー! 機材が最新でとても使い心地いいわ〜」
「それは聞いてねぇ」
離れたところでウチの隊員と作業をしているミズキに進捗を聞き、スマホにスキャンされたデータが送られてくる。
「おーおー、派手にやったな」
「どれどれ」
スマホを見ていると千束が顔を寄せてきた。
「近ぇよ」
「別にいーじゃんこれくらい」
良くないから言ってんだよ。少しは俺の気持ちを考えろ。
気を取り直してデータを見ると、完全に地形が変化していて、とても電車が通れるものではなかった。
しかも、敵が潜伏できる地形もあるため、現状の泥沼化にも納得がいく。
「二手に別れる線路があるな。そこは俺らで行くとして、もう片方はウチの部隊とサードリコリスでゴリ押しをしてもらうか」
「大丈夫なのか?」
作戦方針を呟くと、フキが腰に手を当てて怪訝そうに訊いてきた。
「ウチの部隊はこういうのに慣れてる。サードリコリスをカバーしながらでも十分動ける」
「……ならいい。準備はできてんだろ? 行くぞ」
「あぁ」
DAとの共同戦線ということで、ラジアータによる通信はウチの部隊も使用許可が出されている。
インカムをつけて部隊に指示を出し、俺は千束と並んで駅構内へ入っていった。
今回は日常パートとして書いてましたが、まさか一万字行きそうになるなんて思ってもみませんでした。
エリカとヒバナは移転組とか言われてないんで本編開始二年前でセカンドになったと捏造しました。
千束とフキの絡みとても楽しいのでこれからも書いていきたい。
感想、評価お待ちしております。