破滅フラグしかない悪役国家に転生してしまった…   作:ハンバーグ男爵

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オリジナルの名称や設定があるから注意な
頭空っぽにして読もう



有難いことに水霞(すいか)様から素敵なイラストを頂きました
感謝申し上げます


【挿絵表示】


ノースリーブがセクシー!エロいっ!
さてはおぬしの癖じゃな?



※8/13
最新刊で第11席次の2つ名が『無限魔力』と判明したのが分かったので変更してます。他の席次に関しては知らん、想像
※8/15
同じく最新刊で第3席次の2つは『四大精霊』と判明したと報告があったので訂正、あとクアイエッセの番号も間違ってたので修正。
原作の新刊が次にいつ出るのか見当もつかないので16巻までの法国の情報で話を作ろうと思ってます。キャラの性格や口調が未来の原作と違っても許して欲しい。新刊出る度一々直してたらかけるかこんなもん


1 破滅フラグしかない特殊部隊に所属してしまった…【挿絵あり】

 

 

 

 

《汝らの信仰を捧げよ…》

 

 

 

 

とある国、とある建物の薄暗い大広間、荘厳な雰囲気と共に12人の男女が跪き、目の前に鎮座する己が神を模した石像に向かって祈りを捧げていた。

服装は様々、西洋甲冑に身を包んだ騎士風の男も居れば布製の学生服…俗に言う『 ブレザー』に近い服装をした女性も見受けられる、更には下着姿にローブ1枚というだらけた服装の者も居るし、なんとも統一感のない格好をした集団だった。だがその行動に一切の迷いはなく、片膝を突き祈る姿は彼等の清廉な信仰心の表れだ。

 

彼等の願いはただ1つ、「人類存続の為」

 

しばらくの間祈りを捧げていた彼等は先頭で跪く隊長らしき軽装備の青年に従ってそれぞれの椅子へと戻っていく。

 

大きな漆黒の丸卓に並ぶ14席の椅子へ全員が着席し、青年は口を開いた。

 

「おはよう。

早朝の招集にも関わらず全員揃っているようで何よりだ。」

 

その口ぶりはやや皮肉っぽく、それを聞き呆れた笑みを浮かべる者もちらほらといる。

視線の先にあるのは2つの空席、片方はほぼ居ないものとして扱われる為本来誰も座ることはない“番外”の席なのだが、隣のもう1つ…13番目の空席だ。

 

「隊長、あの小娘は何処行ってる?」

 

「僕に聞かないでくれ《人間最強》、彼女の行方はいつも分からないんだ。

招集の事は屋敷の執事に伝えたハズなんだがな…」

 

上半身半裸のガタイのいい大男が茶化すように隊長へと問い掛け、隊長は自嘲気味に笑った。

 

《人間最強》、とは偽名である。彼等には本来の名前とは別に最高神官長により与えられたコードネームを名乗る事が許されており、相応の実力者である証明。

この国では最高の栄誉に当たる事だ。

 

「遅刻だなんて、信仰心の足りていない証拠です。

後で説教をしてやらなくては。」

 

「いやあ、今更でしょ。ていうかあの人に説教なんて意味無いって、時間のムダ〜…」

 

まるで聖女か天使の様な神々しい風貌をした女性が憤慨する横で、下着姿で机に突っ伏している少女がひらひらと手を振っている。

 

「《神聖呪歌》と《無限魔力》は居場所を知らないのか?」

 

「「知りません(知らなーい)」」

 

「というか、彼女の行方ならば《一人師団》か《疾風走破》に聞くのが一番早かろう。」

 

「それもそうだ。なあ、()()()よ?」

 

「……僕は知らない。」

 

そう小脇をつつかれた《一人師団》と呼ばれた彼は心底居心地悪そうにしている。

それを見て、件の彼女に関して彼には頼れないなと直感し隣のブレザー姿の少女に目を向けた。

 

「《占星千里》、予言は…」

 

「あるわけないでしょ。」

 

「……だろうな。」

 

予言を行える異能を持つ少女に一縷の望みを掛けてみたが取り付く島もないとはこの事か、そろそろ隊長は頭痛がしてきた。

 

義姉(ねーちゃん)なら一昨日の夜から行方不明だよん。

部屋に書置きがあったから、大方いつもの放浪癖なんじゃなぁい?」

 

「《疾風走破》、書置きにはなんと?」

 

「『アッポゥペェが食べたいのですわ!』だってさ。」

 

金髪猫目に軽装の少女《疾風走破》の微妙に本人に似せた声真似になんのこっちゃと首を傾げ、本日何度目か分からないほど皆が呆れる中、唐突に広間の扉が凄まじい勢いで蹴り開けられた。

皆が身構え、静まり返る堂内に淑女の声が響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

「ごっっきげんようでしてよ皆の衆!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かの大国、スレイン法国には一部の者しか知り得ない秘密の特殊部隊が存在しているらしい。

六色に分けられたその部隊は、日々亜人達から虐げられている人類を救う為日夜奔走している。その中でも特に秘密性の高く、人智を超越した戦闘力を持つ者だけが選ばれた《漆黒》を冠する組織。

 

部隊名は《漆黒聖典》

 

死の神を崇拝し、国宝を護る為組織された特殊部隊だ。

 

 

ただし、問題が1つ。

神の子孫たる神人のみが入隊できるこの聖典は国中から集められた信仰厚い面々、色々とキャラが濃い。

宗教によって国をまとめ、人々の意志を強くするのがスレイン法国の組織形態であるが故なのか、入隊してくる漆黒聖典の面々は如何せん扱いが非常に難しいのだ。特に此処には居ない番外席次なんかがいい例である。

そうでなくても特殊部隊という立場なので先述した他の部署(聖典)や外部との積極的なコミュニケーションも取りづらく、組織内でも浮いている。

まあぶっちゃけ皆人間辞めちゃった超人集団でなんでもありなんだから人格面はほっといても仕事に差し障りないだろう。とはこの部隊の指揮官であるレイモン・ザーグ・ローランサンの言であった。

彼も今は引退した身ではあるが過去に漆黒聖典に所属しており、この部隊の扱いを充分に心得ている。

 

 

 

そんな中、隊長である歳若い彼はそんなメンツをよく纏めている方だと思う。

 

だがしかし、この女!

 

第13席次はワケが違った!

 

 

その容姿は世の男達が振り向くであろう長身でスタイル抜群のボディに太ももまで届く銀の髪、そして法国でも珍しい黄金の瞳が印象的な美女。礼服のように真っ黒なドレスの上から雪のように白く輝くストールを首に掛け、これまた真っ黒な軍靴に似たブーツを履き、両手にはワインレッドの薄手袋。

 

 

彼女こそ本来存在しないはずの十三番目(インビジブル)、その名を……

 

 

 

「第13席次“《獄界絶凍》、レイラ・ドゥレム・ブラッドレイ“

早朝から華麗に参☆上☆ですわ!」

 

バアアアアアアアアアンッ!!

 

広間に響き渡る突然の大声に寝落ちしかけていた《無限魔力》はビクッと身体を震わせる。

他のみんなは一瞬ぎょっとしてポカーンだ、もしくは虚無だ。約1名「殺せ…殺してくれ…」と頭を抱えて呻いていたが。

 

「本日もお日柄よく、雁首揃えてご苦労様ですわね!早朝会議と聞いて私、アゼルリシアの山間から飛んで来ましたわ!

ええ!文字通り《飛行(フライ)》を使って!」

 

おーっほっほっほっほ!と閑静な議事堂内に高笑いが響き渡る。隊長は白目を剥いていた。

そんな彼の気も知らずにタイルをかつん、かつんとブーツが鳴らし片手に巨大な銀の御盆を載せたレイラが自分の席へ歩いていく。同時に甘〜い香りが起き抜けで朝食も取れていない面々の鼻腔を擽り、胃袋がアップを始めたようだ。

絶対中に美味いもん入ってるだろ。食欲旺盛な男性陣は食い入るように御盆を凝視している。

 

「あー…《獄界絶凍》。言いたい事は色々あるんですが取り敢えず礼拝を済ませて…」

 

「っ!オットそうでしたわね私とした事が!」

 

正気に戻った隊長に指摘され、御盆を机に置く直前でくるっと踵を返し、それに従って男達の視線もぐるっと一回転。

先程まで隊長達も拝んでいた石像の前へうやうやしく御盆を置き、軽くカーテシーをするレイラ。

 

「……」

 

そして何故かもう一度カーテシーを行うレイラ

 

ぱんっ!ぱんっ!

 

柏手を2回鳴らし最後にもう一度石像へ向かいカーテシーで〆た。

 

そして何事も無かったかのように再び御盆を手に今度はちゃんと机に載せ、呆気に取られる他の面々も気にせず悠々と自分の椅子へと座るのだった。

 

 

「さあ隊長、本日の議題はなんでしょう?

早朝からこの私を呼び出す程の事ですもの、余程の事態が…」

 

 

「「いやちょっと待て(待ちなさい)!?!?」」

 

 

思わず叫ぶ《神聖呪歌》と隊長の声が重なった。

 

「……?はい?」

 

「いや貴女…なんっ…何なんですか今の礼拝は!?」

 

「なんもかんもありませんわ、我が家に古くから伝わる礼拝の作法でしてよ。たしかお母様は『ニレーニ・ハック・シュイッチレー』と呼んでましたわ。人の名前みたいですわよね。」

 

「はあっ!?聞いた事ありませんよそんな作法!!!!」

 

「そういえば皆様の前で礼拝するの初めてですものねえ…私としては最後のカーテシーでスカート捲る高さに拘っていて…」

 

「いやいやいや!拘りを聞いてるんじゃないのよ《獄界絶凍》!貴女の礼拝絶対おかしいわ!?」

 

「むっ!我が家の礼拝にケチ付ける気ですのナッちゃん、いくら共にお紅茶を嗜む仲とはいえ貴女に我が家の伝統をどうこう言われる筋合いはありませんわよ?」

 

「貴女のお家は昔からそれなの…?(驚愕)

あと職場で『ナッちゃん(あだ名)』は止めなさい!《神聖呪歌(コードネーム)》で呼んで!」

 

やいのやいのと2人が捲し立てるもレイラは何処吹く風、5分くらい口論になった後最終的に「用意したお菓子が冷めますわよ?」という彼女の一言により渋々2人は引き下がり、事なきを得た。

 

「はァ…はァ…朝から無駄な労力を使った気がする…」

 

「気張り過ぎは身体壊しますわよ隊長?」

 

誰のせいだと思ってんだこの女ァ…と口から漏れかけたのをすんでのところで飲み込んで、代わりに特大の溜息を吐く隊長。

気を取り直して、早朝に集まって貰った理由と、レイモンから賜った仕事内容を記した羊皮紙を配布し説明するのだった。

 

なおレイラは同じタイミングで御盆の中身(巨大なアップルパイ)を公開し切り分け他の隊員に与えていた。勿論隊長の説明など頭に入るわけも無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……以上が漆黒聖典の今後の活動方針となる。

トブの大森林奧で観測された魔力の歪みの正体もふまえ《占星千里》の予言は近いうちに必ずやってくる、とレイモン様はお考えだ。

亜人共の動向にも注意し、人類の存続の為奮闘する必要がある。いいね?」

 

「予言が起きる事を予言するって、これもう分かんねえですわね。」

 

「………では今日はここまでにしよう、各自解散してくれ。」

 

レイラのツッコミは綺麗に無視された

 

 

 

 

 

 

 

 

「〜〜♪」

 

巨大なアップルパイは漆黒聖典全員により無事完食され、上機嫌で皿を片付けるレイラのもとに駆け寄ってくるのは《疾風走破》と呼ばれた猫目の女の子。名前はクレマンティーヌという。

 

「ねーちゃん!」

 

「あらあらあらぁ、甘えん坊ですわねクレマンティーヌ。」

 

胸に飛び込んでくるクレマンティーヌを抱きしめ、頭を撫でる。甘えてくるその姿は本物の猫のようだ。(そんな事本人の前で言えば串刺しにされるのは目に見えているので誰も何も言わないが)

 

「2日も何処行ってたのさ、一緒に訓練できなくて寂しかったんだよー?」

 

「ふふ、急に食べたくなったものですから。書き置きだけして屋敷を飛び出してしまいましたの。

でも苦労して採ってきた甲斐がありましたわ、美味しかったでしょう?」

 

「うん、チョー美味しかったよぉ。アッポゥペェ…?だっけ?」

 

「ええ、ええ。

アゼルリシア山脈の森の奥地で見つけた林檎で作ったアッポゥペェですわ!レシピを考えましたので、ちょっと作ってみたかったんですの。

採れた林檎はちょっと金ピカで眩しかったですけれど、皮ァ剥いて生地に入れちまえば同じですわね!」

 

「えっ金ピカ…?その林檎金ピカだったの?」

 

クレマンティーヌの知る林檎の皮は赤だ、それは漆黒聖典…いやスレイン法国の者なら誰でも知っている常識。なのにそれが金…?

急に顔色を変えた第三席次、黒のフードを被った魔法詠唱者(マジックキャスター)らしき風貌の男がレイラに詰め寄っていく。

 

「おいっ《獄界絶凍》!いいいい今の話本当か!?

今しがた我々の食った菓子の中には金色の林檎が使われていたと…」

 

「ん〜?どうなさいましたのクロ…んんっ《四大精霊》。

確かに、金色の林檎でしたわねえ。アルゼシリアの山奥の…よく分からない遺跡の奥に生えてた木に成ってましたの。道中で森妖精(ドルイド)やらゴーレムやらが邪魔してきたので処理が面倒でしたわ。」

 

まっ、最終的に遺跡ごと纏めて全部氷漬けにしてやりましたけれど!おーっほっほっほっほ!

と、自慢げに語るレイラとは裏腹に《四大精霊》の顔から感情がみるみる抜け落ちていく。

 

「あらあらァ?どーなさいました?」

 

困惑するレイラに気の毒そうな面持ちで下着姿の《無限魔力》がふわふわと漂ってきて、ぽんっと肩に手を置いた。

 

「《獄界絶凍》ちゃん。その林檎ね、多分だけど《四大精霊(おっさん)》がずっと探してた素材アイテムだと思うの。」

 

「……ほわぁい?」

 

「『知恵の実』って言ってね、六大神様が遺した資料にあったよ。持つ者に更なる叡智を授ける魔法の果実なんだって。

魔法の素材としても貴重で六大神様も所持していたらしい文字通り“神の果実”。それを切り刻んで焼き菓子にしちゃうなんて…」

 

「あらぁ〜そぉだったんですの。」

 

「ち、因みに貴様が林檎を採ったというその遺跡は…」

 

「脱出した時に谷底へ遺跡ごと真っ逆さまでしたわね。」

 

今度こそ《四大精霊》の魂が抜けていくさまが見えた

 

 

「《四大精霊》が死んだ!」

 

『この人でなしっ!』

 

一生を懸けてでも得ようとしていたマジックアイテムを知らない間に菓子に混ぜて食わされていた。

可哀想な彼を哀れんだのか隊長含めた他の男達が悲痛な表情で叫ぶ。

 

流石に気の毒に思ったのか、レイラも取り繕うように白くなって意気消沈した《四大精霊》に向かって笑顔を向けた。

 

「ご、御安心なさいな!

皮…そう!皮なら切った後のものが残ってますわ!」

 

「…何ッ!?それは本当か!」

 

「ええ!今でも我が家のゴミ箱に皮が残って…あっ、でも行きがけにメイド長(ベル)がゴミを纏めているのを見ましたわね…もしかしたら手遅れかもしれないですけど…」

 

「ッッッ〜〜!!!!《飛行》っ!」

 

大声で叫ぶ《四大精霊》、魔法で浮力を得た彼は一目散に広間を飛び出し空の彼方へ消えていった。目的地は…大体察せるだろう。

 

「…まさかあの人、他人の家のゴミ箱を漁る気じゃないですよね…?」

 

「さ、流石にそれはねえだろあの人に限って。ハハハ…大丈夫だよな?」

 

「「ははははは…」」

 

第二席次と第六席次が顔を見合せ乾いた笑いを浮かべる。

 

「っていうか私達、そんなモノが入ったお菓子を食べさせられてたの…?確かにものすんごく美味しかったんだケド。」

 

「まぁ皆様に毒や呪いの類は付与されていないようですし問題ないかと…寧ろ調子が良くなったくらいです。」

 

「食った後妙に身体が軽いと思ってたら、そういう事だったのか。

…まあ偶然にも神の供物を賜ったという事で、納得しよう。」

 

ひそひそと《占星千里》と《神聖呪歌》が話す横で眉間に指を当て呻く隊長はもはや色々と諦めている。

この部隊の隊長を勤めてから結構経つが、この女の奇行には毎度毎度頭を悩まされていた。

 

何処から捕まえてきたのか、自身の管理する領地の警備にフロストドラゴンを起用したり…

 

領内に巨大な工廠を建てたと思ったら、これまた何処からか連れてきたドワーフ達をそこで働かせ、武器や装備を開発したり…

 

「奴隷エルフメイドとか属性盛り盛りで最っ高にcoolですわね!」と言って自身の屋敷にエルフの奴隷を連れてきてメイドとして教育していたり…

 

何かと奇行の目立つ彼女であった。

 

 

 

(またレイモン様に報告しなければならない事が…全く対応に困る人だ。

だが、フロストドラゴンを連れた衛兵が国境付近の領地で警備をする事で亜人達への牽制を行い、国の負担が減っているのもまた事実。

工廠から提供されるドワーフ産の武具も他とは比べ物にならないほど頑丈で、性能も良い。何より彼女の音頭と酒を提供すれば喜んで働いてくれるのが奴隷にして無理矢理従えるより手間も掛からず楽だ。

そして俺など優に越え、《絶死絶命》に匹敵する程の実力を持つ《獄界絶凍》…国としても俺個人としても頭が上がらないんだがな。)

 

スレイン法国は「人類主義」を国是とする宗教国家だ。弱い人類は団結しなければ亜人や異形種に対抗出来ないとし、国民には潜在的な亜人種への排除意識が存在している。

隊長自身も亜人やビーストマンには嫌な思い出しかないし、彼らが自分達人間を『餌』としか認識していないであろうことも理解していた。だから排除を掲げ、今まで多くの亜人種をこの手で葬ってきた。

 

しかし、レイラは違った。

 

『人類は生き残るため、あらゆる手段を講じて強く在らねばなりません。

個としての強さだけでなく群れとしての強さが今の私達には必要なのです。故に排除のみを掲げるのではなく、手を結べる相手とは種族問わず手を結び、共に歩むべきですわ。

人類だけではどうにもならない問題もエルフやドワーフの知識、ドラゴンの手助けがあれば解決するかもしれません。選択肢は多い程良いのです。

腕力ではなく頭で、考えて行動しなければ。

排除する事ばかり考えていては中央政府のクソジジイ共みたいになってしまいますわよ?

それに私まだ死にたく無いのです、私達のような中途半端な強者なら尚更頭ァ使って生き残るんですわよ!』

 

 

これがエルフ達をメイドに雇った際、流石にやり過ぎだと隊長がレイラを問い詰めた時に放った言葉である。因みにこの後口論の末アームロックをかけられた隊長は屋敷の窓から放り投げられた。

 

その日から漆黒聖典隊長の任を務める彼にも、今の法国の管理体制について疑問を抱く事が日に日に多くなっている。

 

(潰してばかりでは新しいものは生まれない、ということか。

だが彼女の最後の台詞、どうしてああも必死だったんだろうか。)

 

自分やあの番外席次と並ぶ法国で数少ない神の血を完全に覚醒させた強者、その余りある強さから派遣先の竜王国では『銀の戦女神』と比喩されるような彼女が自分を「中途半端」と言い、「死にたくない」とあそこまで必死になるのは何か理由があるのではないか。

そう思わずにはいられなかった。

 

(それにしても、彼女が来てから漆黒聖典も賑やかになったな。)

 

法国最強の特殊部隊、《漆黒聖典》。

外部からほぼ隔絶されたこの組織は本来ならもっと陰鬱で、今日のような会議終わりに無駄話をするような者はいなかった。居れば背教者の謗りを免れない。人類を護るという大役を引き受けた身である彼等には仲間内で冗談を言い合うだけの心の余裕すら無かったのだ。

 

清廉な信徒なのはいい事だが、人間として最低限のコミュニケーションも必要だし部隊の雰囲気も大事である。彼も心の片隅ではそう考えていたが、なまじ隊長という立場である為易々と口に出すこともできず内心歯痒い思いをしていた。

 

そこにやってきたのがレイラ、《獄界絶凍》という爆弾である。

部隊統括者レイモンからその実力を認められ、満を持して本来存在しないはずの13席次という地位に就いた彼女は着任早々「親睦会ですわ!」と豪語しこの荘厳な広間にあろう事か綺麗な飾り付けを施して、料理で隊員達をもてなしたのだ。全員参加を強要され、来ない者は彼女が直々に連行してきたりとかなり強引だったが彼女の料理の腕も相まって結果は好評だった。特に男性陣は隊長を含め胃袋を掴まれてしまったのか、彼女が出席する報告会には必ず顔を出すようになり、メンバーのコミュニケーション向上に繋がっている。聞くところによると女性陣には定期的に「女子会」と称して自分の屋敷に招待しお茶を振る舞うなど、心を砕いているそうな。

 

 

そして彼女の登場で最も変わったのは誰あろう、クインティア兄妹だ。

第5席次《一人師団》、本名クアイエッセ・ハイゼア・クインティア。第九席次《疾風走破》クレマンティーヌ・ハイゼア・クインティアの2人は家族ぐるみでレイラと付き合いがあるらしい。というかレイラは名義上はクアイエッセの許嫁だ、クレマンティーヌは義妹にあたる。

クアイエッセは《一人師団》の名を持つ程優秀なビーストテイマー、だがレイラの前だと普段の聡明で厳格な彼が想像もつかない程大人しくなり、彼女の言動に振り回され言葉少なになってしまう。あれはきっと俗に言う「嫁の尻に敷かれる」というやつなのだと隊長は察した。クアイエッセには強く生きて欲しい。

《疾風走破》、クレマンティーヌは普段の残虐性がなりを潜め、借りてきてた猫の様に大人しく義姉に甘える素振りを見せる。これがレイラを前にした普段の姿なのだろう。ただただ仕事をこなす装置ではなく彼等も人間なのだと、隊長は安心していた。

 

 

「隊長、そろそろ私も失礼致します。

ほらクレマンティーヌ行きますわよ。クアイエッセ様も。」

 

「はーい。」

 

「う…む、分かった…」

 

「……?クアイエッセ様お腹でも下しまして?」

 

「違う!」

 

「クソ兄貴はねーちゃんの前だと未だに恥ずかしいんだよねぇ〜童貞だから。」

 

「ええい黙れ愚妹!

僕は自分の許嫁がいつ他所様に失礼を働かないかと気が気で無いだけだ、ただでさえ問題ばかり起こすからなレイラは!

あと誰が童貞だ!」

 

「えっ、じゃあもう姉ちゃん抱いたの?この前1人だけ泊まりに行ってたもんねぇ?」

 

ニヤついたクレマンティーヌの爆弾発言に《神聖呪歌》と《占星千里》が顔を赤らめ、《無限魔力》も机に突っ伏したままだが魔法で聞き耳を立て興味津々。男性陣からヒューヒューと囃し立てる声が上がる。如何に厳格な宗教国家の特殊部隊とはいえ、彼らも年頃の男女である。何時の時代も他人の恋路は世間話のネタだ。

 

「ぐっ……!?それ…は……だな…」

 

「その日、クアイエッセ様なら一晩中私の部屋に居ましたわよ?」

 

頬を染め(ども)るクアイエッセの横で再びレイラが爆弾を投下した。

どうせ手も出せなかったんだろ、と高を括っていたクレマンティーヌも呆気に取られ、目が点になる。

 

「ぶふぉっ!?れ、レイラ!?」

 

「えっマジで!?マジで遂に抱かれちゃったのねーちゃん!!!!」

 

「クアイエッセ様、とっても激しかったですわ。

主に遅延発動を提唱した魔法論文への批評が一番…」

 

「「「「はあ?」」」」

 

「夜が更けても私の部屋で書物を漁り、激しく知識を求めるクアイエッセ様。

とても勤勉で良い事だと思いますが?」

 

「「「「論文の話かよっ!!!!」」」」

 

「でもぉ…私もクアイエッセ様も寝巻きでしたし、ベッドだってスグ横にありましたのに…」

 

一転、妙に艶かしい声でクアイエッセの方を向くレイラの指が彼の顎に触れる。

 

「ちっ近い…!顔が近いぞレイラ!」

 

「押し倒しても良かったんですのよ♡」

 

「〜ッッッ!?!?」

 

耳元でそっとそんな台詞を囁かれた。

レイラの顔面偏差値は法国でも最高クラス、そんな顔が至近距離まで迫ってクアイエッセの赤い顔が更に茹でた蛸のように真っ赤にのぼせ上がり、頭から湯気が上がり始めた。

《神聖呪歌》、鼻息が荒いから落ち着きなさい。《占星千里》は手元の羊皮紙にいったい何を描いているんだい?凄い速度でペンが動いているよ?

 

「まっ、未だに手を繋いで2人で街を歩く事すら恥ずかしがってできないクアイエッセ様に私を押し倒す度胸なんてあるわきゃねーんですけど!ですわ!」

 

「ち…ちっくしょおおおおおおおッッッ!!!!」

 

一転、半笑いのレイラにぺちぺちと頬を叩かれたクアイエッセは悲痛な叫びと共に《四大精霊》が開きっぱなしにした扉から脱兎のごとく飛び出し、あっという間に見えなくなった。男のプライドとかズッタズタだろうこれは。隊長は哀れな彼を見送るしかできない自分を密かに恥じた。クアイエッセ、強く生きて。

 

 

 

その後、クレマンティーヌと共に家路に就いたレイラは自宅の庭で必死にゴミを漁る第3席次を見なかった事にした。戸惑う使用人達に事情を説明し、彼が満足するまでそっとしておいたのだとか…

 

 

 

 

 

 

此処はスレイン法国。六柱の神によって創設され、彼等亡き後も600年間人間種を守り続けてきた人類守護の要の地。

 

そして、敗北の定められたやられ役国家

 

この物語はそんな国に産まれた1人の淑女が自身の破滅を全力で回避する為に色んな方向に奮闘して、周りが振り回されるお話。







生存報告代わりのにわか短編だから過度な期待はしないでください
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