破滅フラグしかない悪役国家に転生してしまった…   作:ハンバーグ男爵

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ああ、落ち着いて

焦ることはありません

あなたにお話があります、いいですか?

どうか、落ち着いて

貴方はずっと昏睡状態だった

ええ、分かってます

どれくらい眠っていたか?

……2ヶ月半です

貴方が眠っている間にHUNTER × HUNTERは連載形式を変え、FGO第7章が始まり、新改定により愛用していた純ティアラメンツは無惨に殺され、アーマードコアの新作が発表され年を越しました。

すべて、貴方が仕事に忙殺され眠っていた頃の出来事です

……ッ落ち着いて!落ち着いて!看護婦、鎮痛剤を!














14 破滅フラグしかない特殊部隊に背中を任せてしまった…

僕が初めて彼女と出会ったのは齢5つの夏。

 

遠縁であるブラッドレイ家に賓客として招かれ、茶会でもてなされた時だ。当主自らが手入れし、自慢する程綺麗に整えられた庭園にテーブルや椅子を並べ、婦人の振るうお茶に舌鼓を打っていたそんな中、茶菓子を運んで来てくれた彼女が目に付いた。

僕と変わらない年頃にも関わらず母親に言われるままメイド達と共に手際よくテキパキと動き、菓子の入ったケーキスタンドを差し出す少女に僕は…有り体に言って〝一目惚れ〟してしまったんだ。

子供ながらに教養と気品を漂わせ、動く度優雅に揺れる銀の長髪、輝くような金色の瞳、雪のようにシミひとつない白い肌に思わず息を呑む。

トドメに社交辞令の笑顔で僕の心はノックアウト、直ぐに両親へ相談した。

 

我が‪国スレイン法国では自由恋愛を認められているものの、貴族階級の者…特に僕のような強力な異能力を持ち、将来を期待されるような逸材にはより優秀な子を後世に遺す為、国から婚約相手を斡旋される事がある。

国の行う政略結婚のようなものだが、より強い子孫を残す為600年前から続く制度でありこの国では珍しくもない事だった。

 

当然僕にもそのお鉢が回り、国から選ばれた娘を娶る予定だったのだけど、そこにレイラが現れたというわけだ。

 

 

ファーストコンタクトは最悪の一言だったけどね

 

 

その頃の僕は…まあその、色々と調子に乗っていた。

両親からは毎日のように妹と比較され、優秀な子だと言い聞かされてきた。僕自身も才能に恵まれている自覚があったし、テイマーとしての実力も他の者より抜きん出ていて、同世代の子供達と喧嘩になった時なんか5対1でも簡単に勝ててしまえる。大人も一目置く僕を止められるものなんて何も無い、そう確信していた。

 

でもそんな自惚れはレイラの前で木っ端微塵に打ち砕かれる事になる。

 

何度会話に誘っても素っ気ない態度を取る彼女にあろう事か勝負を持ちかけて、「勝ったら相手の言うことを何でも聞く」だなんで馬鹿な約束を取り付けたんだ。我ながら本当に愚かしい事をしたと思う…

 

 

結果はお察しの通り大惨敗、両家の見ている前でそりゃもうボッコボコに打ちのめされて暫く立ち直れなかったよ。

 

 

月狼(ムーンウルフ)の群れも、結晶鷲(ダイヤホーク)の大群も、ヤケになって出した切り札ギガントバジリスクさえ冷めた瞳の彼女は容易く蹴散らして、尻餅を着く僕の喉元に刃を突き付けられてやっと格の違いを思い知った。

どれも全く歯が立たず、バジリスクに至っては目が合うと石化するからって理由で彼女はずっと目を閉じて戦ってたんだよ、信じられるかい?

 

レイラと僕では根本から違ったんだ、聞けば僕と出会う以前から鍛錬に打ち込み、父親や衛兵達と共に毎日国境を守るため戦い、何度も戦場を経験した彼女と温室育ちの才能だけでぬくぬくと育った僕では成長の基盤と経験値が段違いだった。

 

両親はそれでも無理を言ってレイラと僕の縁組を組み、若いながら将来を約束され仮初の夫婦となった僕達だったが彼女から向けられる感情はとても淡白なもの。むしろ今まで僕と比べられ、役立たずとして家族内で蔑まれていた妹に甲斐甲斐しく世話を焼き、一緒に過ごす時間の方が多いくらいだ。

 

それから色々なアプローチでレイラの気を引こうとしたけれど結果は全部空振り。流行りの冒険譚、珍しい花や果実、神都からの勧誘すら彼女はなんの興味も示さなかった。

 

地位を盾にし、かなり強引な婚姻だったので相手方の御両親には反対されるかと思ったが、ゲバルト殿は「娘の選択に任せる」とし、当時ご存命だったカナミ様からは「やだ青春!クア君頑張って!」と逆に激励を頂いたりもしたよ。結構放任主義なんだよね、御両親。

 

卓越した戦技、魔法を使いこなし、亜人を蹴散らすその姿はいつも完璧だった。

 

けれど僕らが婚姻関係になったその年の末頃、悲運が襲う。

 

カナミ様が亡くなられたのだ。

 

元々お身体が強くはなかったのだけど、レイラを産んでから徐々に体調が悪くなる一方だったらしい。

それを隠して僕達を屋敷へ招いてお茶を振舞ってくれたり、病をおくびにも出さず他の者達へ気丈に振る舞われていた。本当に強い人だ。

 

葬儀が一通り終わり、名残惜しくも去っていく人々の中最後まで棺の傍に残り続けたレイラ。

 

いつもの自信満々の雰囲気とは違い静かなその後ろ姿に何か引っかかるものを感じて、帰路に着こうと外へ脚を運んでいた妹や両親を振り切って教会へと戻った僕。

 

 

そこで彼女は泣いていた

 

 

麗しい金色の瞳に涙をいっぱい浮かべながら、しゃくりあげみっともなく、カナミ様が眠る棺に抱き着くように縋りついて。

 

葬儀中、皆の啜り泣く声が響く中、終始表情を変えず参列していた彼女が。

 

 

『あの娘は強過ぎるんだ。』

 

 

いつの間にか背後に立っていたゲバルト殿が僕へと語り掛ける。表情こそ殆ど変わらないがいつもの(いかめ)しい雰囲気はなく、沈んだ様子で。

 

『人前ではブラッドレイ家の令嬢たる振る舞いを忘れず、誰にも弱みを見せない完璧な女、そう君の目にも映っていただろう。』

 

 

〝完璧〟

 

 

彼女がまさにそうだった。

誰よりも鍛錬に勤しみ、誰よりも勉学に励んだ。レディとしての作法も領民への気使いも全て、5歳という若さでこなしてみせた。

天才、そういう他ない。

更に努力も怠らず、弱き民を護り、救ってみせるその姿は…

 

『まるで英雄、ないし救世主のようだ。』

 

僕の思考に被せるように彼は続ける。

 

『娘は突然家督を継ぎたいと言い出してね。

それまで蝶よ花よと育ててきたが、本人が望むならと武器の使い方を教えるとあっという間に上手くなって、領兵の誰も娘に敵わなくなった。

正直怖くなったよ。ズブの素人、しかも女の身でありながらひと月も経たず歴戦の近衛兵すら下した娘に。如何に(血濡れ)の血を引いていたとしてもな。』

 

そこから語られるレイラの昔話は壮絶の一言に尽きる。

亜人襲撃の際は周りに反対されても必ず出撃し帰ったあとも血マメが潰れるまで毎日槍を振り続けた、更に母親から魔法の教鞭も受けながら寝る間も惜しんで試行錯誤を繰り返し、敵襲が来ればまた出撃…それを1年近くも続けている。

おおよそ5歳の子供が耐えられるものではない。

 

『努力の天才、そう妻は言っていたよ。

あの娘は自分の為に泣かない。

泣く時はいつだって、誰かの為だった。

共に戦った衛兵が亜人との抗争で殉職した時、領民に被害が及んだ時、そして妻が死んだ時。』

 

齢5つの少女がだよ?と、皮肉って笑うゲバルト殿。

ハッキリ言って恐ろしいとすら思ったよ。同世代の僕らじゃせいぜい持ってたお菓子を地面に落としたとか、友達と喧嘩して泣くとかが当たり前なのに。

誰かの為じゃないと泣かないなんて精神性、5歳の小娘が持っていいものじゃない。レイラはまるで自分に興味がないみたいだった。決めた事を人形のように繰り返し、徹底的に効率を求めるその精神性に狂気すら感じる。

 

『君はそんな女の夫に名乗りを挙げたのだ。

物怖じしたかね?』

 

『ッ………』

 

…したよ、したさ!

そんな彼女と愚かにも付き合おうだなんて思った甘い自分に死ぬほど嫌悪した。

けれど、そんな心境とは裏腹に彼の問いかけに対して僕は笑った。笑えてしまったんだ。

才能にのぼせ上がった甘ちゃんだけど、惚れた相手に怖気付くほど臆病者じゃない。まだ超えるべき壁がある、目指すべき目標がある。人生の指針が今、決まった気がした。

 

 

僕がレイラの夫になります。

構って貰えなくてもいい、足蹴にされても食らいついてその隣に立てるように。

そしていつか僕が死んだら、僕の為に泣いて貰えるように。

 

 

自分でも驚くほど、言葉はするりと口から零れ落ちた。

 

『………そうかね。』

 

それっきりゲバルト殿は喋らなくなった。

 

やがて一通り泣いた彼女が僕たちに気付いて慌てるあまり訳の分からない言い訳し始めたり一悶着あったけど、今は割愛しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お見せしましょう、私の超位魔法を!」

 

 

そう自信満々に宣言するレイラ、何をするつもりかは分からないが彼女が『決める』と言った以上僕の指針は決まってる。

 

「ヘジンマール殿、お願いします。」

 

【わ、わかったよクアイエッセ。

後ろの2人も振り落とされないようにね…!】

 

レイラがアゼルリシア山脈より連れてきたフロストドラゴンの一匹、ヘジンマール殿。

地を這うバジリスクや帝国で起用される下級翼竜(ワイバーン)とは違い本来なら人と共存するなど考えられない上位存在、誇り高き霜の竜たる彼の背に乗せてもらえる事ほど光栄な事もない。

 

「《占星千里》、魔法で僕たちの足場を固定して下さい。かなり速度が出ます。」

 

「分かった…!」

 

サポート特化型の彼女なら普段使わないニッチな魔法も網羅している。足場が安定したのを確認し、僕は意識を集中した。

 

 

 

僕が持つビーストテイマーとしての才能の延長線、モンスター操作を応用させた騎乗能力。

本来なら汎用性はなく、召喚した大型モンスターに騎乗する程度の力しかないが僕の手に掛かれば騎乗モンスターのスペックを最大限かつそれ以上に引き出す事ができる。

しかしこの能力を使うためには僕との主従関係が必要だ、なのでヘジンマール殿には一時的に僕にテイムされてもらい、従ってもらっている。

 

人より強い上位存在であるヘジンマール殿がわざわざ従ってくれているのはこれまで共に培ってきた信頼関係があってこそだ。無理やり付き合わされたレイラの領地防衛で彼とは何度も戦場を共にした。

今回も彼の魔法実験に付き合うのを対価にこうして協力していただいているのだ。

 

…まさか人と竜の信頼関係を法国で得られる日が来るとは思ってなかったね。

 

「『飛行速度上昇(アクセル・フライ)』、『反応速度強化(オーバーリアクション)

千里眼・回避(テレスコープ)』、『中位筋力上昇(ミドル・ストレングス)

『氷纏い』、『物理耐性付与(マテリアルガード)』。

一先ず強化はこれくらいで。ヘジンマール殿、気分はどうです?」

 

【悪くないけど、身体が勝手に動くこの感覚は慣れないなあ…】

 

蒼い巨体がふわりと浮き上がり、高速で飛び上がる。僕達に負荷が掛からないのは《占星千里》の魔法のおかげだ。

そのまま一定の距離を取りながら魔樹の周りを旋回、過去にレイラから学んだ「何があっても対応できる距離」を保ちながら。

 

「申し訳ない、少しの間我慢して下さい。

僕の操作で露払いと陽動を引き受けましょう。

《無限魔力》の魔法による爆撃で気を引き、《占星千里》はマジックアイテムで引き続き観察を。」

 

「はーい。

クアちゃん知らない間にこんなこと出来るようになってたんだ、意外。」

 

「レイラばかりに無理させてはいられませんからね。

本体は隊長と番外席次様が引き受けてくれるはずですが根の量が異常です、壁となるムンウェニア殿への負担は少しでも減らした方がいい。

それに貴女の撃杖、小回りが利かないでしょう。」

 

「あれ、バレてた。」

 

「広域殲滅が貴女の得意分野です、これだけ開けた上空なら周りが巻き添えになる事もないでしょう。

回避は僕に任せて、あとはお好きにどうぞ。」

 

「流石クアちゃん分かってるぅ。

……親友の腕潰されて平気な顔してられるほど人間捨ててないんだよねー。」

 

気持ちは分かりますけど声のトーン下げるのはよしてくださいよ、《占星千里》が怯えているでしょう。

かく言う僕も許嫁を傷物にされて(はらわた)煮えくり返ってる訳ですが…

 

目の据わった《無限魔力》が被っていた三角帽子からずるりと四角い箱のような撃杖が這い出て、それを肩に担ぐ。

気だるそうな瞳に殺意を込めて巨木を睨みつける姿は普段の彼女とはかけ離れていますね。学院生の頃レイラと共に上級生に喧嘩売りまくってた時期の雰囲気に似ています。

 

レイラ、君は周りにもっと愛されている自覚を持った方がいい。

妹しかり彼女然り、貴女の為に暴走しかねない連中が聖典内に何人もいるのだから…

 

 

 

「「よし、ぶっ殺すか。」」

 

 

 

(この人達真顔で超怖いよぉ…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、頼みましたわよ皆様!!」

 

 

レイラの合わせた手から広がる特大の魔法陣。

ドーム状の光中に曼荼羅の如く緻密な魔術の描かれた線が空に走り、傍目から見てひと目で「ヤバい魔法が来る」と分かる異様な光景の中心で彼女は詠唱を始めた。

 

それを見た途端目の色を変えて襲い来るザイトルクワエに再びムンウェニアが突撃をかます。

それに続くようにアンティリーネと隊長が左右に陣取り、触腕に向かい合った。

 

先程までレイラが纏めて相手していた分だ、隊長とはいえ気を抜けば一瞬でミンチにされる。そんな面持ちで挑む彼の横ではアンティリーネが得物の大鎌を振るい、叩きつけられた触腕を払う。そして返す刀で太い根を袈裟斬りにして見せた。

何の気なしにやってみせるその姿に自分との格の違いを改めて理解する。

 

「思ったより再生が早い…面倒ね。

隊長、右を頼むわ。左は任せなさい。」

 

「…ッ了解!」

 

トブの森から栄養をリアルタイムで吸収し、瞬く間に修復されていく触腕を呆れ半分に眺めながらボヤくアンティリーネに言われ、槍を握る手に力が篭もる。

思えば彼女と一緒に戦うなど生まれて初めての経験だ、ついて行けるか自信はないが…

 

(遅れを取る訳にはいかないな…!)

 

かかる触手を紙一重で躱し、触腕の接合部分を的確に貫く。国より貸し与えられたこの槍は姿こそみすぼらしいが強度と切れ味は他に比類なき神の国の業物だ、その鋒は自分が思うより深く魔樹へと食込み、威力のほどは苦悶の悲鳴となって森へ反芻した。

 

 

【《凍晶装甲(アダマシアライズ)》…】

 

 

喉を鳴らし唸るムンウェニアから吹き出す冷気、視覚出来るほど濃く白い絶対零度の霧が彼女を覆い、爪、翼、牙、果ては尻尾の先までも深蒼の鎧で武装した彼女が大地を踏み締める。

 

咆哮と共に周囲の気温がぐっと下がるのを感じた。

アゼルリシアに古来より住まう凍土の竜種、『霜の竜』の一頭たるムンウェニア=イリスリリム。血筋だけならあの『白金』にも通ずる、この世界で原初の端くれである彼女はレイラと戦線を共にする中で本人も無自覚のうちにかの竜王が操る始原の力、その一端に触れていた。

 

レイラが異能力と位階魔法で行っているそれとは根幹が違う、氷属性の元素を用いた『始原の魔法』。もっとも、白金の竜王が放つような莫大な命のエネルギーの放出より規模は数段下がるが、嘗て八欲の王が敷き今や世界中に馴染んでしまったユグドラシルの理に囚われることの無い神秘の結晶だ。

 

岩肌を思わせる頑強な氷の鎧を纏うこの技は耐久性もさることながら、破損しても氷属性の魔法を浴びると自動的に修復される機能を持つ。そして周囲が冷えれば冷えるほど鎧の硬度は上昇し、防御力はムンウェニアの巨体で振り回せばそのまま攻撃力へと転じるのだ。

 

【食い破ってくれる!!】

 

蒼い暴君が迫り来る根の波状攻撃を容易く引きちぎり、蹴散らす。

人には決して真似出来ない異形の暴力をもってして蹂躙するそのさまは正に『竜』と呼ぶにふさわしいだろう。

 

「凄いな、これがアゼルリシアの霜の竜…」

 

感心する隊長を他所にアンティリーネは魔樹の異変を感じとり皆へ通達する。

 

「ッ嫌なもの見ちゃった…

地上班、注意しなさい。キモイのが向かってる。」

 

空の一部に黒い斑点が見える。魔樹に使役されてか共生関係なのか、表面からうぞうぞと小さな虫系のモンスターが這い出して、耳障りな羽音と共に空を覆う群れをなし襲いかかろうとしていた。

 

「隊長、いったん離れるわよ。取り付かれたら面倒だわ。」

 

「了解、僕も集られるのは御免です。

《無限魔力》!」

 

『あいあいさー…!!』

 

2人が身を引いたのとほぼ同時に、赤い稲光が何本も迸り黒い空に穴が空く。

隊長の呼び掛けに応え上空から無限に放たれる《赫灼の雷電網(ブライトオブ・スプライトウェブ)》、駆け抜ける赤雷の網が轟音と共に羽虫を焼き尽くし、瞬く間に灰に変えていった。退路を確保した2人はムンウェニアの傍へと着地。

 

【2人ともじっとしていろ、《雪崩の吐息(アヴァランチ・ブレス)》!!】

 

ムンウェニアの吐く白い炎を思わせるドラゴンブレス、アゼルリシアのフロストドラゴンが放つ通常のものとは比にならないほど強力な絶対零度の吐息が広範囲に渡って撒き散らされ、残った虫達を瞬時に氷砕した。

レイラを守る地上班もそれぞれの連携を駆使し虫に対処している、空から降り注ぐ《無限魔力》の魔法に合わせ大小様々な虫系モンスターを捌いていた。

 

(…知らなかった、私と竜がいてもこいつらこんなに連携取れてるんだ。)

 

隊長の合図に合わせクアイエッセの操る騎竜が魔樹の注意を逸らし、《無限魔力》の飽和爆撃で的確にダメージを与えレイラ護衛の3人の負担を減らしていく。ヘイトをずらし攻撃を分散させる上手いやり口だ。

 

隊員達は知らないだろうが、普段出撃する事など殆どなく、あっても一人で全て解決してしまうアンティリーネにとって此度の出撃は長い人生で初となる合同作戦だった。

なので「レイラと隊長は兎も角、練度の低い他の連中が着いて来れなかったどうしよう」と内心心配していたのだがそれも杞憂に終わる。むしろ突然現れた自分の指示を十分理解し、それぞれの役職が即座に最善の判断を取ろうとするあたり漆黒聖典のチームとしての有能っぷりが否応にでも分かる。

 

(団体行動じゃ私が一番後輩、か。)

 

彼らに感心する反面、ここに来て己の任務経験の少なさに僅かな焦りを感じた。こればかりは肉体の練度や戦闘技能だけに限った問題ではなく時間と経験の積み重ねなのだ。

以前の彼女ならこうはいかなかっただろう、独断先行で全て片付けてしまうアンティリーネだがレイラと共に訓練に励み、今は他者との協調性を理解している。

 

(ほんと私、何にも知らないな…)

 

国より厳しく秘匿され、大聖堂の奥で宝物番という名の軟禁生活。いつも見上げるのは無駄に綺麗に掃除された白い天井。興味はあれどおいそれと外出するわけにもいかず、レイラと話すようになるまで外に目を向けることなど終ぞなかった。

しかしここ数年、特にレイラが入隊してからこの国は変わり始めている。長命な彼女ゆえ、永きに渡ってスレイン法国の内部を眺めてきたなかでひしひしとその変化を感じていた。

そこに追い討ちを掛けるように『あの御方』の復活、もはや疑いようもない。

 

スレイン法国は今、改革の時を迎えているのだ。600年の歴史に胡座をかき、人類を庇護する目的のあまり亜人憎しの行き過ぎた排斥を唱える上層部の連中が成さねばならないこの国始まって以来の試練。

 

 

(問題はあの()()()()()がどう動くかだけど、今は目の前の問題を解決しないとね。

…案外その辺から私達を眺めているのかも。)

 

ここまで派手な戦闘を繰り広げていては間違いなく件の竜王に察知されてしまうだろう。仮に魔樹を討伐できたとしても問題は山積みだ。

特にレイラの存在に関して竜王がどのような裁定を下すかアンティリーネにも想像がつかない。けれど身勝手な言いがかり如きで数少ない(唯一の)友人を殺されるのは絶対に御免こうむる。

 

「ねえ隊長。」

 

「…?なんでしょう。」

 

「レイラを守るわよ。今もこれからも、あらゆる脅威から。案外人類の命運って彼女が握ってるんじゃないかしら。」

 

「流石にそれは言い過ぎ…

いや、貴女がそう仰るのならあながち間違いでないかもしれませんね。

取り敢えず今は彼女の魔法発動に期待しましょう。あれほど自信満々なのだから。」

 

「ふふふ、りょー…かいッ!!」

 

気合い一閃とばかりに飛び出したアンティリーネが目にも止まらぬ速さで魔樹の片脚を切り刻む。半分ほど幹を削り取られ堪らず膝を着く魔樹の顔が降りてきた所を見計らい、弾丸の如くムンウェニアが魔樹の眉間へとその巨体ごと飛び上がった。

ごしゃりと鈍い音が響き仰け反った魔樹が仰向けに倒れ、地を揺らす。

 

「なんか、人型に近付いたせいか戦いやすくなってない?」

 

【だな、バランスが崩れやすくなっている。】

 

力任せに振り下ろされる触腕の鞭もムンウェニアが盾となり2人を守る。入れ替わるようにして人類最高峰の戦士達が再び魔樹へ襲いかかった。

 

(やはり凄まじいな彼女達は、僕も遅れをとる訳にはいかない…!)

 

人と竜による人智を超えた戦い、それに交じる隊長も番外席次と肩を並べるまたとない機会に高揚していた。

 

 

『みんな聞いて!

破滅の竜王がさっきの大技を撃とうとしてる!』

 

不意に隊員達に届く《占星千里》の警告。

戦闘中に彼女がここまでハッキリとものを伝える時がどういう事か分かっている者たちは即座に呼応し、戦いながら指示を待つ。

 

「ようやく視えたみたいですね。」

 

『うん、ドラゴンの背中からバッチリ。

“溜め”の時間は15秒くらいでそこから《獄界絶凍》に届くくらい長い射程距離がある。見た目通り物理系統の攻撃で発射弾数は85から最大150発。

でも二足歩行状態で撃つ時は竜王にも大きな反動があるから必ず半歩引いて射撃体勢を整えないと撃てないみたい。』

 

まるで解説のようにスラスラと述べる《占星千里》の自信には理由がある。

彼女が持つ『叡智の結晶』はユグドラシル産、それも末期に産まれた初心者救済用のアイテムだった。

戦闘中にモンスターの情報を記録し攻撃パターンや弱点を知らせてくれる便利アイテム、だったのだが中級、上級者となればモンスターの弱点など幾らでも暗記しているし、何なら攻略法も非公式wikiを見ればひと目で分かる。結果「装備枠1つ潰す癖に戦闘中にわざわざ段階踏んで情報開示とか何このクソアイテム、頭運営か?」としてプレイヤー達から嘲笑の的にされていた代物だ。

 

ま、そんなことはゲーム時代のお話。

人類にとって未知が溢れ便利な攻略サイト(Wiki)など存在しないこの異世界において情報アドバンテージを得る事が出来る数少ないアイテムだった。

それが上手く機能し、《占星千里》から得られた情報をもとに隊長とアンティリーネは細かな指示を出し、空と陸から連携して根の侵攻を食い止める。

 

「予備動作が分かるなら対処のしようもあるな。

《獄界絶凍》、どうだ!?」

 

「あともう少し、もう少しですわ…!」

 

じれるレイラ、展開した大魔法陣はまだ点滅を繰り返し膨大な情報(リソース)が頭の中を駆け巡っている。そちらの処理に手一杯で防御は完全に護衛任せだ。

 

「お姉さん奥から3本来てる!

盾の人は後ろ回って2本!筋肉の人、正面から5本!なんだこれえメッチャ大変だあ!?」

 

「「「そりゃお互い様だ!」」」

 

(仲良いですねこの人達…)

 

詩による強化を行いながらレイラの隣で護衛される《神聖呪歌》は緊張感の無い3人と1匹を眺めながら喉の調子と相談しつつ各員にバフをばら蒔いていた。

 

(それに比べて《獄界絶凍》…いえレイラは普段の態度からして有り得ないほど落ち着いていて、雰囲気もガラリと変わって真剣な表情をしています。

超位魔法、でしたっけ。人智を超えた究極魔法だと聞き及んでいますが流石の彼女も真面目にならないと勝てないと悟った様子ですね。普段からこれくらい清廉で居てくれれば……いけないいけない、こんな事口に出していたらまた《無限魔力》から「あ、ママだ。」だなんて揶揄されてしまいます。

まったく…私はまだ未婚です!レイラとだって1つしか歳違わないんですから!誰がママですか誰が!

…それにしても何故彼女からこれほど神聖な()を感じるのでしょう。この娘一応扱いはスルシャーナ教の筆頭聖女ですけどそれだけが理由なわけないでしょうし。謎ですわ…)

 

 

 

 

 

 

 

(うおおあああああ頭ン中破裂しそうですわ!

ゲームの時だと魔法発動までの時間って待つだけでしたんでしょうけど現地人が使うととんでもねえ処理能力要求されますのね!

けど負けない!

うぉぉオン、今の私は人間魔力融合炉、流石にちょっと本気出しちゃいますわよ〜!!)

 

魔法陣の中、すまし顔で処理を行っているように見えるが本心はこんな感じである。緊張感死んでるのかお前は。

 

 

 

突如、いつだか聞いた雄叫びと共に魔樹が半歩さがり“溜め”の仕草を取る。その直線上には未だ魔法を唱えるレイラがおり、憎しみすら込めた魔樹の双眸は明らかに彼女をターゲットにしていた。

どうやら大技を放つ際にヘイトの誘導は関係ないらしい、一番危険度が高いと判断した相手のみを狙い撃ちにするようだ。

それを見るなり隊長が通信機越しの大音量で叫ぶ。

 

「総員、大技が来るぞ!」

 

【…仕方あるまい。

ヘジンマールよ、後は頼む。】

 

【え、義母上(ははうえ)?】

 

生返事のヘジンマールをよそにそれだけ告げて飛び上がるムンウェニア、向かうは魔法陣の中に立つレイラの前。着地した衝撃で周囲の根は蹴散らされ飛散する中、彼女は降り立った。

同時にタイミングを測る《占星千里》が告げるカウントダウンに伴って魔樹の全身から軋むような不快音が響き渡る。

 

『発射まであと10秒だよ!』

 

【鎧の限界を試すには丁度良いか…

セレスティアよ、私に向かって氷魔法を撃て!無限にな!】

 

『ちょっ、本名は出さないで!仕事中!』

 

【そちらの事情など知らん、急げ!】

 

『んもー!!《魔法座標固定・個(マジックターゲティング・ワン)

氷塵乱れ吹雪(ディスターブ・ヘイルブリザード)》!!』

 

喚くセレスティア、もとい《無限魔力》から放たれた縦に伸びる氷雪の大竜巻がムンウェニアに直撃し、纏う冷気が膨れ上がる。

岩肌のようだった氷の鎧はますます大きく膨れ上がり刺々しい氷柱で被われ、分厚い氷が何層も重なって得られる強度はいかほどか。まるで重装歩兵のようだ。

 

【まだ足りん!もっとだ!】

 

『それ以上纏うとたぶん自重で動けなくなるけど!?』

 

【構わん、やれ!】

 

『じゃ、遠慮なく…!!』

 

レイラから手渡された《無限魔力》の天災撃杖(ディザスターショットワンド)、その銃口の先が肥大化した翼を盾のように構えるムンウェニアに向かって火を吹く。

9つの発射口に展開された魔法陣から撃ち出される《雹塵乱れ吹雪》が彼女へ殺到するのと魔樹が動いたのは同時だった。

 

激突音が響く、ムンウェニアが盾にした翼に種子の弾丸がぶち当たり、飛び散った流れ弾が周囲の森を抉り飛ばした。

 

【ぬううぅぅううううッッッ!!!】

 

勢いの留まらない種子に鎧は所々が欠け続け、同時に降り注ぐ雹塵の大竜巻がそれを修復し続ける。無限に鎧の破壊と修復を繰り返されながらそれでもなお彼女は盾役として立ち、最後の一発を終えるまで倒れること無く耐え抜いたのだ。

 

「マジか…耐えちまいやがった。」

 

「感心してる場合じゃないっての筋肉ども!

手ぇ動かせ!」

 

大技を終えても根が襲い来る事に変わりは無い。

寧ろ後が無くなったのか攻撃はより一層激しさを増し、ピニスンの指示が間に合わなくなるほどに忙しい。

 

「隊長、デカいの来るわ!」

 

「了解!」

 

最早なりふり構わないといった様相の魔樹が振り上げた両の触腕を番外席次と隊長が受け止め、弾く。更に《流水加速》、《大斬撃》、《疾風超走破》など数多の武技を駆使しバラバラに切り裂き大きな隙を作り出した。

 

(ッいける!このまま…)

 

大魔法陣の点滅が早くなり、徐々に収縮を始めたその直後、レイラの周囲から根が現れ襲い掛かる。

すかさずクレマンティーヌがそれを処理、持ち場へ戻ったのだが傍にいた《神聖呪歌》が何やら周囲の様子がおかしい事に気付き声をあげた。

 

「ッ危ない!」

 

切られた根の先から別の根が更に生え、再び動き出したのを見た《神聖呪歌》は咄嗟に前へと躍り出てレイラを庇う。

完全に不意を突かれた形だった。クレマンティーヌと護衛2人は別の根を相手していて気付いていなかったし、地中の動きでなかったのでピニスンが反応できるわけが無い。魔樹の超回復力にものを言わせた強硬突破。

ただ1人、アンティリーネだけは視界の端に捉えてはいたもののこの距離ではどう足掻いても間に合わない。

 

レイラに当たれば魔法は失敗、故にただ1人動けた《神聖呪歌》が変わりに串刺しにされる。

そんな未来がアンティリーネの脳裏に過ぎった。

 

 

 

 

「思ったより根性あるのね、あいつ」

 

 

 

突如として現れた鈍色の鎖が目の前まで迫った根を絡め取り、纏めて拘束し地面に打ち付けた。拘束を解こうとびちびちと気持ち悪くはね回るそれを眺めながら唖然とする《神聖呪歌》のすぐ後ろ、ピニスンの本体である木に寝かされていたボーマルシェが根性で意識を取り戻し、貧血で息も絶え絶えになりながら震える手で神器を握りしめている。

 

「………戒めの…鎖よ…ッ!」

 

其れは、何も出来なかった男の最後の足掻き。

 

ユグドラシル産アイテムに相応しくその拘束力は折り紙付き、何本も展開された鎖が2人を守るように這い回り、次々と根を捕らえていく。それに気付いたクレマンティーヌが慌てて合流したその時。

 

 

「お待たせ致しました。」

 

 

天を衝くように巨大だった魔法陣が完全に収縮し、レイラの掌に収まったと思うと彼女を中心に可視化出来るほどの力場が生じた途端、拘束された周囲の根が瞬時に氷塵になって散り去っていく。

 

 

 

魔法発動には“名”を呼ぶ必要がある。

この世界で唯一普遍の定義であり、彼女が人生でもっとも取り組んだ専門分野。

 

そんなレイラの集大成にして、ユグドラシルでも魔法職を極めた者しか唱えられぬ大魔法。

 

 

宙に揺蕩う主なき極地の光

 

 

 

 

異端の書、冰冠たる天獄要塞(エイボンレコード・イイーキルス)

 

 

 

 

 

 

 

 

 





赫灼の雷電網(ブライトオブ・スプライトウェブ)
第6位階
赫い稲妻が広範囲を焼き尽くす、発射時の後隙の無さやイカしたエフェクトはユグドラシルでも人気だった。その威力も相まって雑魚散らしに最適。コスパと汎用性に優れ、取得の為のスキルツリーも必要ないことから覚えるのが用意なので中〜上級プレイヤーまで幅広い層に使われている。
属性魔法を覚えるならとりあえずこの魔法を取得しておこうってwikiにも書いてあった。


氷塵乱れ吹雪(ディスターブ・ヘイルブリザード)
第7位階
縦に伸びる竜巻が標的へ襲いかかり、凍てつく風の刃で切り刻む。
軽度の裂傷、氷属性への弱体化、凍傷などを同時に付与し特にPvPで活躍する魔法。更に持続ダメージを与える為受けたのが凍晶装甲状態のムンウェニアでなければあっという間にHPはゼロになってしまうだろう、それを無限に受けるとか気が気でない。

ちなみに

ムンウェニアはLv75近接タンク
凍晶装甲込の防御力ならLv90までの攻撃を余裕を持って受け切れる。
レイラと領土防衛に明け暮れた結果、本人の才能が開花したのかポンポンレベルが上がりだした、体躯は更に大きくなり纏う冷気も強力に、肺等の器官が強化された事でブレス攻撃が強化、鎧を纏うぶんスピードに欠けるが安定感は増した。
実力は既に一族最強であるオラサーダルクを大きく上回っているが随分永いこと里帰りしていないのでこの事実を彼が知ることは無い。


ヘジンマールはLv69高機動魔法職
信仰系と死霊系以外の属性魔法なら満遍なく使用可能、筋力はそこそこだがそれでも故郷の子供達の中でいちばん強くなってしまった。つーか2匹ともオラサーダルクより強い、フロストジャイアントとの領土争いとか一晩で終わらせられる。
でも性格が陰キャの魔法オタクだから色々な所で損してる、痩せてかっこよくなったのに勿体ない。その挙動不審ぶりにお義母様も呆れ気味。



後半…あとは仕上げだけだからなんとかなりそう
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