破滅フラグしかない悪役国家に転生してしまった… 作:ハンバーグ男爵
『いい?愛しい愛しいレイラちゃん。
私が唱えられる魔法はね、本当は私のものじゃない。』
『学院でやってるテキストとか正直サッパリ分かんないのよね。
私が使ってる魔法はこの世界だとちょっとインチキなの、過程をすっ飛ばして結果だけ持ってきたみたいな。自分で使っててもなんでこうなってるのか理解できてない、理論も根拠もないし、竹輪みたいに中身は空っぽ。
多分私には…私達のアバターじゃ理解できない仕様になってるんじゃないかなーって…んーやっぱなんでもないよ。
領地守ってる時もこう… バーッ!とやってガーッ!!みたいな。
私ってば雰囲気で魔法使ってるから…ああっ!?そんな可哀想な奴を見る目で見ないでぇ!?』
『けどその若さで魔法教育に興味を持つなんて流石私の娘だねえ。
よし、こんどいい物あげよう。私のお下がりだけど魔法のスキルアップに役立つアイテムだから、貴女の力になってくれるはず。』
『この世界はとっても綺麗で残酷だから。
けどこれだけは覚えておいて。貴女がこれからどれだけ強くなっても、どれだけ魔法を覚えても、その力に呑まれないこと!』
『大いなる力には大いなる責任が伴うの、好き勝手してるとこわーいトカゲにお仕置されるんだから!
…え?じゃあどんな時に使えば良いのかって?
そ〜ねぇ〜…』
『貴女が信じた者の為、貴女を信じてくれる者の為、大切なものを護るためにその力を使いなさい。
世のため人のため救世主になれ、なんて言わないわ。』
『心の赴くままに生きて、結果として大切なものを護れていればいい。
生きてれば「ここだァっ!!」て時が何度もあるの。その時後悔しないように強くなりなさい。誰よりも!』
『大丈夫大丈夫!きっとレイラなら誰より自由で強くなれるわ、いっそこの国で1番強くなって、巷でウワサの番外なんちゃらって奴と友達になっちゃいなさい!貴女ならできるわ!』
『なんでそんな自信満々なのってカオしてるけど、そんなの決まってるじゃない。』
『貴女が私とダーリンの娘だからよ!』
超位魔法とは。
DMMOーRPG『ユグドラシル』において使用可能な位階魔法の頂点に位置する極大魔法、発動まで膨大な時間を要するのと引き換えに戦局を180°覆す程の効果を秘めた超絶魔法。
スレイン法国においては人の身では決して到達できぬ『第11位階魔法』として文献に記されている。
使用出来る者は有史以来、嘗て人類を守り抜いた六柱の神々が発動し、天変地異を起こしたとも、空を覆う龍を召喚したとも伝えられた伝説上の魔法。
どちらにせよ文字通り魔法を“極めた”者のみが唱えられる絶技である。
諸人ならば一生のうちに見る事など決してない神の奇跡を今、漆黒聖典の面々は目撃していた。
現れた“それ”は空を覆う銀幕の如きオーロラの中に聳え立ち、まるで空を泳ぐかのように浮遊する超巨大な逆さまの氷山。衛星のように周りを取り巻く大小さまざまな氷塊が時折ぶつかり合い、削れ弾けた破片が太陽光に反射しキラキラと眩しく輝いた。
その幻想的な光景に誰もが呆気に取られ息を呑む。
「これが…」
「ねーちゃんの超位魔法?」
「ええ、ええ!
皆様よく踏ん張って下さいました、これより先は私の…」
レイラが喋りきるより先に魔樹が動く。
術者が彼女だと気付いたのだろう。真っ先に触腕の矛先が向かい、その速度はアンティリーネさえ反応が遅れるほどだった。
「なっ!?レイ…」
動くな
隊長が飛び出そうとしたその刹那、視界が真っ白に染まる。
否、漆黒聖典全員の視界が真っ白になった。無論突然の攻撃で皆やられてしまったとか、正体不明の弱体化を受けたとかではない。
文字通り、真っ白になったのだ。
戦場だったはずの赤茶けた荒野、魔樹によって栄養を搾られ尽くし一帯の土が変色するほど荒れ果てた土地が。
見渡せば辺り一面、土地も茂る木々も舞う木の葉でさえ白に覆われていた。それら全ての光景が一瞬で凍結したのだと理解するまでに数秒要し、思わず吐いた吐息が宙に溶けていく。
広範囲を完全凍結、しかも自分達やピニスンの本体は凍らせることなく留めているのを見る限り対象を絞って発動が可能らしい。
「お行儀の悪い触手ですね、エロとグロの区別もつかない無能は嫌われますわよ?」
「質問を質問で返すド低脳ですかぁ?」とぷりぷり怒りながら彼女は眼前で凍りつきピクリとも動かない魔樹の触腕、撫でるだけで人を挽肉にできるそれを手で軽く払い除ける。払った先から崩壊が伝播し触腕の根本までどんどんひび割れ崩れ落ちていく。それほどになるまで身体の芯まで凍らされたのだ。
相変わらず言ってる事は訳分からんが。
「《獄界絶凍》、この魔法は…」
「あまり動かないで下さいね。今は皆さんを効果対象から外してますが、常人なら5秒で肺が凍って即死する空間にいるんですのよ?」
『ひぇっ…』
レイラから告げられる衝撃発言に《占星千里》が思わず喉元を抑え顔を真っ青にした。
「《占星千里》ちゃん、魔樹のステータスどうなってるか分かります?」
『…うぅ、ホントに喋って大丈夫なのコレ?
えっと………うわ、何これ。
凍傷と行動阻害と回復阻害がとんでもないくらい重複して竜王に掛かってる、それで根の再生が遅いんだ。』
「ふむ、息してなくても根から水分を吸収しているから余計効きが良いようですね。朗報ですわ。」
ぱちんっ!とレイラが指を鳴らすと冷気が流れ生まれた氷が一瞬で組み上がり、2m程の鎧騎士が30ほど彼女の背後に綺麗な隊列を成す。
驚愕する《無限魔力》が思わず呟いた。
『無詠唱魔法…』
「期間限定ですけどね。
私の超位魔法はあの大氷山が出現している間のみ、あらゆる氷魔法がノーリスクかつ無詠唱で発動可能になるんですの。
それと、一部の魔法を除き氷以外のあらゆる攻撃は全て不発になりますのでそこの所注意して下さいまし。」
《異端の書、冰冠たる天獄要塞》
頭上に聳えるあの大氷山が現れている間、範囲内全ての氷属性攻撃は敵味方問わず大幅強化され逆にそれ以外の攻撃は弱体化される。ユグドラシルにおいて氷系統では二つとない最高クラスの広範囲魔法。
レイラ曰く「ぼくのかんがえたさいきょうのこおりまほう」とのこと。
ルーンにしろ〝撃杖〟にしろ、無詠唱魔法の確立なんて荒唐無稽な考えが一体彼女の何処から来たのか疑問に思っていた《無限魔力》だったがこれで納得がいった。
期間限定ではあるが既に無詠唱で魔法を行使する事ができるのなら、それを雛形に理論を作り上げていけばいい。レイラが開発した無詠唱魔法云々の起源、根源はこの超位魔法なのだ。
片腕をもがれた魔樹は白く染った体表をまるで脱皮のように身震いで無理やり剥がし、苦悶の雄叫びを上げた。しかし地表付近にある取り巻きの根は芯まで凍り付いているのか身震いの衝撃で全てが脆く崩れ去っていく。
3人がかりで止めていた根を一瞬で消し飛ばすその力に戦慄する隊員達。たった一言呟いた余波でさえこの威力なら、この魔法の真価はいったいどれほどのものなのか…
かつんっ!
レイラのブーツが凍りついた地面を叩く。
トレードマークたる白のストールが靡き、皆も見慣れた漆黒のドレス、靡く白銀のストール。その美しい口元にいつもの不敵な笑みを浮かべながら。
彼女は破滅の竜王と呼ばれるこの魔樹を確実に始末する気でいる。
いつも領地防衛の際に相手している亜人達や竜王国のビーストマン、彼等の目的は多少の差異はあれど根っこにあるのは「種の生存」だ。人間が家畜の肉を食物とするように、彼らも食物として人を食い、活力として種を繋いでいる。
だが目の前の魔樹は違う、はるか昔に異なる世界からやって来た
本来なら主人公とその仲間たちが人目の届かぬうちに始末してしまうが、この物語ではそうもいかなかった。
そこに意思は無く、
この世界の弱い人類とは違う、
「皆様の頑張りのおかげでどうにか発動までこぎ着けました、平に感謝申し上げます。
さあ、ここから先は私の独壇場!
たかが世界を滅ぼす大木ひとつ、この私の敵でないとその身に刻んで差し上げましょう!
さあ、アンティリーネ。」
「なによ。」
「いつも通り優雅に華麗に完膚なきまでに、人類を救いますわよ!」
「…ッ良いわね、乗った!!」
神の申し子、最強の二人が厄災の前に立つ。
世界を滅ぼす厄災、空を覆うような大樹を前にして不思議な事に彼女達は笑っていた。
「作戦は?」
「好きに動きなさい、私が完璧に合わせますわ!」
「ははっ!じゃあ遠慮なく行くわよッ!!」
高らかに宣言するレイラ、弾丸のようにアンティリーネが跳ねる、同時に地が凹むほどの衝撃が周囲を襲い、武技なしでも隊長が反応できない程の速度で飛び出した彼女は飛び乗った魔樹の片腕をその大鎌でなぞるように抉りぬけ、彼女の走った軌跡に沿って触腕が2つに裂けていく。
隊長と2人で戦っていた時もアンティリーネは彼に合わせていた。けれど今なら、同格と認めた彼女なら好きに動いても自分に合わせて戦ってもらえる。
それに負けじと先程砕け散った腕を再生させた魔樹が身体を這うアンティリーネを力任せに叩き潰そうと腕を振り上げるが、それを許すほど銀の淑女は優しくない。
「動くなと言ったでしょう!」
無詠唱で放たれた《
「おかわりもどうぞ、沢山召し上がって?」
続けざまに空から降り注ぐ氷柱の雨に体中を貫かれ、地面に縫い付けられた魔樹のもがきはますます激しさを増し、その分だけ地中から根を通して水分を吸収し回復しようとするが、
『おいレイラ!これ大丈夫ですか!?
僕達にも当たったりしませんよね!?』
「ご安心くださいな、ちゃーんと狙って外してありますわよ。ヘジンマール君、そのまま滞空してて下さいね〜。」
【りょ、了解です…不安だ。】
「そぉ〜れバキュンバキュンバキュ〜ン!!
おほほほほほほほ!」
((((不安だ…!!))))
外している、といっても超魔法が空からポンポン降ってくる真っ只中にいるのだ。ノリノリのレイラに尚更心配になったヘジンマールは勿論、彼に騎乗する3人も生きている気がしない。
「ぁぁぁああああああああっ!!」
妨害を受けること無く根本まで2つに裂いたアンティリーネ。
レイラの背後から次々に生まれる氷の鎖。
彼女が生み出す氷の造形は全てゴーレム魔法によるものだ、その名も《
それも超位魔法発動中につきノーコストかつ無詠唱で。
天より降り注ぐ氷柱と武器の群れが魔樹の幹を次々と貫き、白銀の鎖ががんじがらめにして動きを阻害、さらに待機する漆黒聖典の護衛に騎士型のゴーレムを侍らせる。それら全てを
「足場ァ!」
「かしこまりましてよ!」
肩を伝って飛び上がり、すかさずレイラが創り出した無数の氷塊を足場に飛び回る。すれ違いざま魔樹の幹を所々切り裂いては別の足場へ飛び、また飛んでは傷つけていく。回復阻害によって修復が追い付かずどんどん体表を削られ、いつの間にかズタボロになった魔樹は咆哮と共に
「もうそれは見飽きましたわ…よっ!」
咆哮が終わり種子が発射される直前、レイラの振り下ろした手に合わせて特大の六角柱が魔樹の頭に突き刺さる。
鐘を突くかように上から押さえ付けられた魔樹は思わず頭が下がり、発射口が閉じた所を見計らって漂う冷気が口元を縫い合わせるように凍らせた。
魔樹が慌てて塞がった口を開こうとするがもう遅い、行き場を失った弾丸は口内で暴発し、ありえないほど膨れ上がった幹がやがて風船のように弾け飛ぶ。
「「「「「「えぇ〜…」」」」」」
『き、汚い花火ダナー…』
弾けた種の勢いで上半身が無惨に裂け、がくがくと痙攣する魔樹にかろうじてそんな声を漏らした《無限魔力》に皆が無言で頷いた。
まさに圧倒的、先程まで全滅を覚悟していた破滅の竜王をまるで子供を弄ぶかの如く翻弄し手玉に取る彼女たちに隊長は改めて彼女達の格の違いを思い知る。
…もう全部あいつらでいいんじゃないかな
魔樹は弾けた幹を再生…できない。
吹き飛んだ顔面を崩れ掛けの触腕でヨタヨタと触ろうとしているがその動きは鈍く、幾重にも掛けられた弱体化が邪魔をして動く事さえままならない。
超位魔法発動下において魔樹の行動は著しく制限され、レイドボスクラスであれど弱体化はちゃんと通る。それに加えてゲームには存在しないレイラの異能力が《異端の書、冰冠たる天獄要塞》の性能を極限まで引き上げていた。
今の彼女なら国を覆う程の大火であれ、猛る火山の噴火でさえ一瞬で凍土に変えて余りある。
最早ザイトルクワエは狩られる獣、空に掛かるオーロラの帳の下、白亜の天獄要塞がトブの森全域を支配しているのだ。
「《占星千里》ちゃん、奴の体力は!?」
『……ダメ、相変わらず体力に変化なし!
下がってるのは再生能力と他の耐性だけで魔樹本体の生命力は底無しよ!』
「ならば当初の目的通り、決めてもらうしかありませんわね。アンティリーネ?」
「任せて、確実に殺すわ。」
普段閉じ込められていた鬱憤を晴らすかのように暴れ回り、レイラの隣に着地したアンティリーネは待ってましたと言わんばかりに大鎌の照準を魔樹へと向ける。
同時に彼女の背後に現れる十二の時を示す機械的な光の時計板。
「The goal of all life is death」
彼女の呟いた詠唱らしき単語、決して長くないその言葉にレイラ以外の全員が息を呑んだ。
心臓を鷲掴みにされたかのような緊張感、一瞬ではあるが幻視した“死”のイメージに脚が竦む。
アンティリーネとレイラを除く、この中では最も強い隊長ですら思わず目を背けたくなるような嫌悪感に襲われるが、これは自分に向けられたものでは無い、そう言い聞かせる事で何とか表情を取り繕っていた。
「《
おそらく魔樹に致命傷を与える魔法なのだろう、アンティリーネが唱えたそれは言ったきり何も起こることがない。その代わり、背にする時計の秒針がゆっくりと時を刻み始めた。
◆
「…へ?」
思わず漏れたマヌケな声が白い吐息と一緒に口から零れる。
奴を確実に殺す為、即死魔法を唱えた瞬間全てのものが凍り付いて、一切の動きを止めていた。
見れば魔樹はもちろん他の隊員も身じろぎ一つしないし、空に舞うヘジンマールでさえ空中で磔にされたようにピタリと固定されている。
何もかもが止まった灰色の世界で私に優しく笑うのは案の定…
「安心なさい、安心なさいなアンティリーネ。」
なにその絶妙に艶めかしい声、腹立つわね。
「これ、何なの?説明して。」
「何って見ての通り…」
時を止めましたわ!!
「なぁにそれぇ…」
自信満々にぶちかますレイラに思わず私は白目を剥いた。隊長の気持ちがちょっと分かった気がする…
止めた?時を?周りを見れば納得せざるを得ないけど…文字通り時間を止めたと豪語する彼女に詳しい話を尋ねる。
《異端の書、冰冠たる天獄要塞》で凍結の極地へと到達したレイラは遂に
彼女曰くこの超位魔法の発動範囲内で氷属性以外に唯一許された魔法、それが「即死魔法」。私だけ動けているのは即死魔法の発動者だから。
「貴女の即死魔法に私の時止めを重ねました。
言ったでしょう?あの木偶の坊は何もさせずに始末すると。」
「…やってる事めちゃくちゃね。」
「理不尽には相応の理不尽をぶつける、それがこの世界で私達が行えるたった一つの冴えたやり方でしてよ!」
ああ、そう。
時間の止まった世界でも《The goal of all life is death》の効果はまだ続いてる、この技が発動するには時間が必要だから。レイラはこの時間稼ぎがしたかったのね。
時が止まってるのに時間が進んでるなんて変な感覚だけど…
この灰色の世界が終わったら間髪入れずに
向こうからすれば何が起こったのかすら分からない、まさに理不尽極まりない。
「じゃあ最初から時止めすれば良かったのに。」
「対象がデカ過ぎましたからねえ、弱体化を重ねがけしてからでないと耐性に弾かれるかもしれませんから。」
「ふーん。
ほんと、よく考えて動いてるのね。」
体感で分かってる、御大層に「破滅の竜王」と呼ばれるこの魔樹は私達より一回りは格下だ。レイラもそれを分かってるはず。他の隊員を守るというハンデがなければ1人でも魔樹討伐をやってのけるだろう。
それでも彼女は決して策を怠らず、わざわざ自分より弱い隊員達に守って貰い超位魔法発動という賭けまでしてから丁寧に布石を用意して確実に始末しようとした。見かけによらずその慎重っぷりには思わず頭が下がるわね。
…もし私が単独で相手していたらどうなっていただろう、きっと直ぐに異能力を発動して魔樹の持つ耐性とやらにも気付かずに…
シミュレーションが足りてない、全く油断もいい所ね。あれほどこっぴどくレイラに言われたってのに。
針の先は後半へ差し掛かる、魔樹の終わりももうすぐだ。
「私もまだまだ勉強が必要って事か、人類守護の柱を名乗るには経験不足ね。」
「あら〜貴女からそんな単語出てくるなんて意外ですわ〜てっきり無限に強者との戦いを望むバーサーカーだと思ってました。」
「あんただけには言われたくないわよ、この人でなし。」
「そりゃお互い様でしてよ!」
軽口を叩きあえる仲の友達なんて無駄に長い人生の中で初めての経験、なのよねえ…
カチコチ カチコチ
妙に癖になる針の音
「ねえアンティリーネ。」
「あによ。」
「楽しかった?」
「!!……そうね、いい気分転換にはなったわ。」
久々に思いっきり外で力を使える機会だったし、ね?
…ありがと
かくして、晩鐘の音が色の戻った世界に響く
◆
「そして時は動き出す…ですわ。」
アンティリーネの背後に光る時計の針が一周し、天を指すのとレイラが呟いたのは同時。
時を飛ばされた自覚の無い隊員達は突然の状況変化に付いて行けていない。
理不尽なまでの弱体化と数多の波状攻撃、更には口内で自爆までしてみせたボロボロの魔樹の体躯から力が抜け、仁王立ちのままだらんと動かなくなった。
状態異常の名は〝即死〟。有効判定を受ければどんなに力があろうと、どんなに天井知らずの体力だろうと強制的にゼロに至らしめる、
赤く輝いていた眼光も完全に消失し、恐ろしいほど静かになった荒地の大木に恐る恐る《占星千里》がアイテムで目視して驚愕の叫び声が響く。
『しん…でる?
魔樹、完全に沈黙……隊長!?
さっきまで笑っちゃうくらい体力があった筈なのになんで?どうして!?』
「私と獄かい…もういいや、レイラで殺しといたわ。もう動かないし復活もしない。」
『カロンの導き』の刃腹を軽く撫で、なんとなしに言ってのけるアンティリーネに隊長は驚きを隠せないが…
「ホントに死んでる!死んでるよォ!
ボクに繋がってた魔樹の根が消えてるんだ!
もう苦しくないや!わああいやったあああああ!」
大声で狂喜乱舞するピニスンを見る限り本当に討伐されたのだろう。終わりは随分と呆気なかったが。
バキバキと耳障りな音を立て、足下から白く凍っていく魔樹。
この超位魔法内で殺された命は決してもとには戻らない。何故か?そういう
大氷山から放たれる冷気は通常の氷属性魔法のそれではない。身体の芯まで凍てつく波動に当てられたが最後、生命活動が完全に停止しても対象は冰の監獄に囚われ
故に術が解けても蘇生魔法は効果を失い、使用者であるレイラが赦すまで永遠にその罪を償い続ける事になるのだ。
唯一許されている即死魔法もこの効果を補助する為。
再生能力を阻害され、行動を阻害され、弱体化で丸裸にされ体力関係なく即死させられた魔樹は全ての抵抗を失い文字通り何もさせて貰えなかった。
眠るように全身がゆっくりと白く染まっていく魔樹に知能や感情があるなのなら死の間際、心から叫んでいた事だろう。
理不尽だ、と。
100メートルを超える巨体が白く染まりきり、森の中でもひときわ目立つオブジェができあがり。
おーっほっほっほっほ!!!!
誰もが唖然とする前で銀の淑女はいつも通り、自信満々に高笑う。
「世界を滅ぼす暴れ柳如き、私にかかればなんのその!
またまた華麗に世界を救ってしまいましたわ〜〜!!
自分の才能が恐ろしくってよ!」
大氷山が少しずつ崩れ落ち、氷の世界が消えていく。やがて戻った青空から射す光に照らされて、かつて魔樹だった巨大な氷像が輝いて見える。
静まり返った森の中、大きな戦いが終わったのだと漸く理解した。
「…討伐完了、だな。」
安堵を込めた隊長の呟きに皆が頷き、無駄に高い所から魔樹を見下すレイラを半笑いで見つめるのだった。
封印の魔樹、討伐完了!!
◆
ところ変わって、ここはスレイン法国中心部。
神都中央、白亜の大聖堂〝ドラグノア〟内部、嘗て建国の神々が御身自ら創造した由緒ある建築物。その議会の間にて12人の賢者たちは映像越しに事の顛末を観戦し、巫女からの通信が途切れたのか映像が消えた。
誰一人言葉を発さなかった。
否、発する事ができなかった。
何故?
漆黒聖典は全員でないにしろ出撃し、隊員達も皆無事である。満を持して投入した番外席次は、その圧倒的な力で見事破滅の竜王を討伐せしめた。
勝算すら怪しいと散々紛議していたが蓋を開けてみれば人類側の大勝である、彼等を派遣した者としてこれ程誇らしく名誉なことも無い。
なのに議会のお歴々はみんな揃って頭を抱え、ある者は下を向いてブツブツと呟いているしある者は隣と神妙な面持ちで話し合っていた。
そんな中、意を決したようにレイモンが席を立つ。
「破滅の竜王は無事討滅された。
だが後始末は我々が付けねばならない、皆の意見を伺いたいのだが…」
「意見も何もないでしょう。
彼女は…正しく神の申し子だ。」
いの一番に返した風の神官長の言葉に場の空気がぐっと重くなる。
レイラ・ドゥレム・ブラッドレイ
第13席に籍を持つ彼女はそのコードネームに恥じぬ働きをし、神官長達の目の前で番外席次と共に使命を全うした。
その証拠に先程まで写されていた映像には彼女が発動した魔法で完膚なきまでに打ちのめされ、今や森に建つ巨大オブジェと化している魔樹がいる。あれほどの巨体を完全に止めてしまえるほど強力な冷気、それを可能とした大魔法。
此度の活躍をもって、神官長達の認識はひとつになった。
彼女こそ間違いなくこの国において最高、いや現存する人類で最も高位の魔法詠唱者だ。
人の理より隔絶した身体能力
人の知を超えし超魔法の行使
何よりその若さでかのフールーダよりも高位の魔法詠唱者に辿り着いたその才能、彼女から提供されるアイデアには毎度驚嘆するしかない。
番外席次と同じ、正しく『神の申し子』だと。
「相違ない、《獄界絶凍》こそ《絶死絶命》に次ぐ神の御使い。
人類救済へ新たな道が開かれた訳だ。」
「しかも番外席次と違って彼女は
カイレの予期せぬ死亡により国宝は実質運用不可能になったが、レイラの活躍は人類に大きな利益を齎すだろう。
だがしかし、この場に浮かれ気分の者など1人もいやしない。
だって、だって…
「よりによってあの娘がねぇ……」
ぼそりと呟いた水の神官長の言葉が全てを物語る。
かつて国の方針として迎え入れた聖典一番の問題児、やる事全てが破天荒で奇々怪々、この世の理不尽全てを擬人化したような女。訳わかんないこと言いながらしっちゃかめっちゃかに場を掻き回す癖に最後は必ず大団円で納めてしまうヤベー奴。
学生時代、学院内に数々の伝説を打ち立て、卒業した今でも後輩達の間で噂語りになるほど。
辺境領主として社交デビューした際には汚職貴族達の悪行を次々と暴き、某徳〇八代目将軍様の如き手際で華麗に処断した。
彼女の領地に住む者たちは種族問わず平等で、圧政もなく民の満足度が高く、それが生産性向上に繋がって高い利益を生み出しているのだから文句の付けようもない。
国より発行される情報誌『移住したいスレイン領ランキングBEST5』(法国情報部調べ)によれば彼女の領地は国の端に加え、亜人の脅威と隣り合わせというハンデがありながら5年連続1位をキープしている人気領だ。実際彼女の領は高地で夏は涼しく快適で、冬季の冠雪時期と亜人の襲撃に目を瞑ればとても過ごしやすい。ドワーフ工廠やエルフ工房の総本山である為辺境でありながら新たな技術や流行の生まれる場所。
レイモンだって認めたい、「人類救済の為にはレイラの方針が一番正しい」と。
600年続く人類至上主義の教えに反し、柔軟な思考でエルフやドワーフと手を取りながら歩む彼女には
彼女の描く人類救済は国と方針こそ違えど、皆が等しく平等に
だがそれを認めてしまうことはこれまで600年の人類の歩みを否定する事に他ならない。何より仮にこの場の全員が彼女の思想を寛容したとしても、国民達がそれを許さないから。
積もり積もった異種族への思い込みによる差別意識、生まれた壁はもはや一代で取り除けるほど生易しいものではない。それもこの思想を良しとした中央議会の怠慢であり、歩みを止めた自分達へのツケだ。
そんな瓶の底にこびり付いたプライドを払拭しようと立ち上がった者がいる。
「……我々は変わらなければならない。」
漆黒聖典指揮官、レイモン・ザーグ・ローランサンその人であった。
彼の言葉に皆が顔を上げ、続く言葉を注視する。
「国宝の機能不全、《獄界絶凍》の発動した超魔法の存在、そして〝あの御方〟のご帰還。
これ程の事態が立て続けに起こった。」
当初の目的通り封印の魔樹を洗脳しようと動いていればどうなっていただろう。
直前になってカイレが病死し、なかばパニックに近い中レイラの機転がなければこうして現状を把握する事もままならないしアンティリーネの出撃許可すら〝あの御方〟直々の御言葉がなければ今も議会は紛糾したに違いない、そんな悠長な事をしている間に漆黒聖典は全滅していたかもしれない。
聖典壊滅はつまるところ、法国の国力低下を意味する。戦力が個々の力に依存しているこの世界において国に所属する実力者の喪失は防衛力の低下に直結するのだ。
「目まぐるしく変わる情勢の中、いつまでも同じ椅子に固執して待っているのは破滅しかない。
今一度方針を見直し、我々のあるべき立場をあの御方へ示す必要がある。」
お忘れですか?
かの神々が何故我々を救ってくださったか、どうしてスルシャーナ様は不死の命を賭してまで人類を比護して下さったのか。
それは哀れみではなく希望である
文明を得ろ、仲間を増やせ、組織としての基盤を構築せよと。ただ闇雲に日々を生きるのではなく〝活きろ〟と、それだけの時間を賜った。
亜人に虐げられ餌にされる運命だった人類は今日とは違う明日を見れたのだ。
決して『人類が特別だから』などと思い上がってはいけない、それでは自分達を虐げる亜人たちと同じになってしまう。
「何故スルシャーナ様が御身を犠牲にしてまであの御方…ルーファス様を後世に遺したのか、何故今このタイミングでお目覚めになられたのか。」
諭すようなレイモンの言葉を神官長達は黙して聞き続ける。
彼等とて自覚はある、このままの方針で国を運営していれば維持は容易いだろう。だがそれだけだ。度重なる亜人達の襲撃、終わりの見えないエルフとの戦争、そして各人間国家で浮上する問題の解決。未知の課題が山積みの現状において停滞が最善手であるはずが無い。
「残された時間は少ない、国の前に先ずは我々が変わらなければ。」
そう締めくくる彼に再び議場は静まり帰り、静寂が聖堂を包む。
不意に手を挙げたのは火の神官長だった。
「ならば、具体的には何を?」
「各国への問題解決における対応を今一度考え直す必要がある。
比較的安定した帝国は兎も角として、竜王国への支援や王国の犯罪組織など枚挙すれば問題は山のようにある。」
「特に王国の麻薬問題は可及的速やかに解決せねばならない問題だ、黒粉が広まればやがて帝国や我々の国にまで被害が拡大するやもしれん。
早急に情報を精査する必要があるか。」
「『八本指』だったか…愚かな連中だ。」
嫌悪感を露わにする神官長達。
「竜王国へは《獄界絶凍》が派遣されて好き放題やらかしているので様子見として…他には?」
「聖王国との国交はできないだろうか?
かの国とは300年ほど前から地理的な理由で国交が絶たれているが、我々と同じ人間国家だ。味方につければ心強い。」
「あちらの国とは宗教的価値観が違いますからなァ、こちらが歩み寄っても突っぱねられる可能性もある。」
「だが利害関係を結ぶだけなら良いアイデアね。
今代は女の聖王が就いてるようだ、
「それより皆様、一番大事な事をお忘れではありませんか?」
次々と議題を交わし、言葉を続ける一同に冷や水を浴びせるかの如く風の神官長が言い放つ。
「今回の出撃で我々は《絶死絶命》を外へ出し、あまつさえ大規模な戦闘まで許してしまった。
かの竜王が黙っておりますまい。
何よりも先んじて評議国への対応を話し合うべきだ。」
「むう…」
「それは…」
押し黙る神官達。
そう、此度の出撃において法国は秘匿し続けていた番外席次という
これははるか昔に取り決めた竜王との明確な契約違反である。世代が変わったから知りませんでした、で済まされる軽い話ではない。
〝もんだいない〟
『ッッ……!?』
突如脳内に直接声が響く。
それが何を意味するものか即座に理解した彼等は見えない相手に向かって礼を取ろうとするがそんなものお構い無しに声は続けた。
〝いまは 聖女たちに 心から しゅくふくを〟
プツン、と途切れる《伝言》。
顔を上げた彼等は皆一様に安堵の笑みを浮かべながら、自分達の選択が正しかった喜びを享受するのだった。
破滅の魔樹は討滅され
竜国に銀の戦乙女ありき
魔導の寄るべを人に与う
かの御子は蘇った
全ては真なる救済の為
後に「人類の導き手」と呼ばれる護法国家。
スレイン法国の転換期が今、訪れている。
「……これが君の選択か。
残念だよ、スルシャーナ。」
完勝に浸るレイラ達をはるか遠く、探査魔法の知覚外から眺める白金の鎧はフルフェイスの兜を揺らし、僅かに憂いの籠った呟きと共に瞬きの間に消え去った。
《
第9位階魔法
巨大な紫氷で出来た六角柱を落下させる
発動1回につき1~3本落とすことができ、落ちた柱は一定時間高耐久のオブジェクトとして残るので射線を切る壁として利用できる。また周囲を冷やし、場に残れば残るほど氷属性系統の弱体付与成功率を上げていく。
レイラが発動した場合、強度upとはるか上空から落下する氷塊の威力は第10位階魔法《
蒼の薔薇と交戦した際ニグンの目の前に落ちてきたのはこの魔法である。
正直ビーストマン駆除するより神経使って威力を加減した。
ミンチにならなくて良かったね!
《
レイラのオリジナル魔法
ゴーレムクラフトのスキルと異能力を複合させた氷魔法、あえて位階付けするなら8位階くらいだろうか。一度発動すれば無詠唱とまではいかずとも作りたいゴーレムとその「名」を紐付けることにより呼ぶだけで召喚可能。
使用例
『
身長2メートル超の鎧騎士を1~13体ほどの小隊規模で呼び出す
『
先述の鎧騎士を20から最大50騎呼び出す
持たせる装備も変化可能でバリエーション豊か
このように一から組み上げなくても宣言するだけで対応したゴーレムのプリセットを引っ張ってこれる。
簡単に言うと某無〇の剣製、剣から騎士型のゴーレムまで彼女の知るものであればなんでも氷製可能。ゴーレムのレベルは大きさや装備の差もあるため個体によりまちまちだがだいたいレイラのレベルの4分の3程度。マニュアル操作とスタンドアローンに切り替えられる便利な機能付き、一家に1台レイラのゴーレム!
氷のゴーレムなので溶ければ消えるが異能力もあり耐久力は高い、レイラが他対一において最強と言われる所以である。だって1人で軍隊作れるんだもん。
仮に原作の王国がレイラ1人と戦争すれば王都は大量の氷騎士によるローラー作戦に押し潰され1日と持たずに滅亡する。氷騎士1機につき2ガゼフ超あるから是非もないね。
《
超位魔法
ユグドラシルにおいて数ある氷属性の中でも最強と名高い設置型の超位魔法。
発動後、敵味方問わず範囲内のあらゆる氷属性の攻撃に大幅な威力強化と弱体化付与がなされ逆にそれ以外の属性は無効化される。物理エンチャントなども効力を失い無属性に戻され、魔法の場合は例外を除く全ての魔法が不発になり遅延発動する蘇生スキルや回復魔法すら意味を成さない。
唯一の抜け道で第10位階と超位の火属性魔法、及び即死魔法が使用可能。
対策として火属性魔法は大氷山本体に当てる事で物理的に破壊が可能であり、超位魔法なら《失墜する天空》1回、10位階魔法なら平均5回ほどぶつければ破壊する事が出来る。
ただしこの世界においてはレイラの異能力があるので同格の《失墜する天空》でも3回以上は必要になる程の強度を誇り、一度出されたら突破は非常に困難。
更に範囲内のキルに反応して一定時間復活不可状態を付与する、それを補助する為隠し要素として即死魔法が使用可能。即死なんてユグドラシルじゃ対策して当たり前の状態異常なので死にスキルだった。ユグドラシルでは。
魔法発動中の副次効果としてあらゆる氷魔法の無詠唱化、遅延化、範囲拡大も思いのまま、効果時間内は好き勝手できる非常識っぷりは流石超位魔法と言ったところか。
ユグドラシルでも五本の指に入るレベルで嫌われる魔法、超位魔法の特性上先出しで撃たれると大きなハンデを抱えたまま戦闘を強いられ、課金装備で固めた高位の魔法詠唱者がパーティーにいなければ即全滅も有りうる。
だがその分デメリットも大きく、発動までの準備時間が他の超位魔法と比べて1.2倍ほど長く、発動から24時間経たないと再使用できない重い魔法。課金アイテムでの時間短縮や使用回数追加も無効化。
ただしなんでもアリの異世界においてその限りではないのかも…?
『時間凍結』
超位魔法《異端の書、冰冠たる天獄要塞》が保有する時止め能力。
異端の書より生まれた極地の光は生命のみならず空間、時間にまで干渉し世界を白く染め上げていく。
アインズの使った《
魔法取得条件もwikiにも載っていないほど不明な点が多く、とにかく氷魔法を多く習得するのだとか、エンチャンターを取得してから氷属性しか使わずにpkを続けるとか、根も葉もない噂ばかりである。
魔樹戦終わった!第1部、完!
次回、ツアーわからせ