破滅フラグしかない悪役国家に転生してしまった… 作:ハンバーグ男爵
※注意※
この物語には過度な過去改編、独自解釈、原作キャラの捏造などが多分に含まれます。そして今後、原作で正史の流れが判明しても今作ではこの設定で物語が進みますのでご了承ください。
原作スキー、オリ設定が嫌い、及びその他の改変要素が苦手な方は即座にブラウザバックをキメた方が身のためですので重ねてご了承ください
それでもいいって人は…
今週も、作者の地獄に付き合ってもらう
調子乗って書きすぎて3万字超えで前後編になった…
やあやあツアーちゃん久しぶり!
君…カナミかい!?どうしたんだこんな大陸の端で、ずっと音信不通だったじゃないか。
私はいつだって真実の愛を探して放浪中だよ!
散歩してたら見た事ある鎧見つけてつい声掛けちゃった!
元気してた?
元気、と言われれば元気だね。
君のほうこそ、無駄に元気そうで安心したよ。
無駄は余計よ!
懐かしいねえ、最後に会ったの鯨の魔神を討伐した時だっけ。
「最後の魔神倒したー!」って《伝言》貰って以来じゃないかな?
そうだね、懐かしいよ。
やらかした事もよく覚えてる。
魔神の住処を君の毒で満たして燻り出したのは今でもドン引きしてるんだ。
だーってあの神殿罠だらけだったじゃん!
いちいち攻略するより毒流した方が効率的だったでしょー?
本体も倒しやすくなったしさ。
それはそうだけども。
君、あの時暗黒騎士が何言ったか覚えてるかい?
真顔で「この女だけは絶対に敵に回さないでおこう」ってボソッと呟いてたよ、いつもの大仰な口調も忘れて。
マジか、騎士くんそんな反応してたんか。リーダーとリグリッドめっちゃ笑ってたのに。
キーノだって呆れてたさ、全く。
あっははー!ホント懐かしいなあ!
そんな騎士くんはどう?元気してる?
…彼は悪魔の混血とはいえ寿命は人間だ、もう亡くなっているさ。
そっか、そうだよね。
騎士くんは…やっぱ寿命?
ああ、そうだね。けど仕方の無い事だ。
何だぁ寂しいなあ。
騎士くん、ほんと良い奴だったのに。同郷だから話も合うしさ。
天使について熱く語り合えるのはあの子だけだったんだよ?
君はいつも通りだね…
じゃあ、リーダー!リクは!?
騎士くんより年下だったしギリギリ生きて…
いや、彼も寿命で息を引き取った。その場に立ち会えた事は僕の誇りだよ。
……そう、なぁーんだ。
その感じだと大神官のオッサンもかぁ…
うん?
なんでもない、この身体って時間の感覚が曖昧でさ。
気付いたら何年も経ってるんだよね〜。
リーダー、最期になんか言ってた?
裏切り者とはいえ仲間斬っちゃったこと、パーティ解散した後も引き摺ってなきゃいいけど。
…そうだね、彼は最期まで悔いたまま逝ってしまった。
カナミも今度評議国に遊びにおいで。
僕の住処に招待するよ、思う存分昔の話でもしようじゃないか。
ッまじ!?
評議国かぁ、楽しそう!
でもツアーちゃんの住処って薄暗い洞窟とかじゃないの?
そんで財宝いっぱい抱えてその上にふんぞり返ってるイメージなんだけど。
この上なく失礼だな君は…
竜種全員が光り物に目が無いと思ったら大間違いだよ!?
当然、僕だって違う。
まったく…リーダーといい君といいなんで同じような事を言うんだ。
だってねぇ、私達のイメージだとドラゴンってそんな感じだし。
他にも岩に擬態したり月明かりで姿消したり重油食ってたり?
なんだいそれ、竜種の概念が壊れるなぁ……
あっはははは!
じゃあ今度人間国家のある辺りに行ってみる予定だから時間見つけて遊びに行くね。
リグリッドとかキーノちゃんも呼んでさ、年長組のオフ会とかどうよ?
〝オフカイ〟が何か知らないけど話の内容からしてどんな事をするのかは察したよ。
了解だ、色々と準備しておく。
ウチの住所だ、迷ったら此処に向かうといい。
ありがとー♪
そろそろ行くね、アディオスアミーゴォ!!
それ一体どこの国の言葉………もう行ったか。
まったく落ち着きのないぷれいやーだな。
……………………
………………
…………
……
…
スレイン法国の北端、亜人と人類の境界線、辺境都市ローグレンツにて。
〝豊穣祭〟と称するこの一大イベントは娯楽の少ないスレイン法国で唯一と言っていいほどの大型行事だ。
老若男女問わず多くの人が訪れ大いに賑わい、経済活動も活発になり白金貨にして5万枚の大金が動くとも言われている。
期間内には専用の大型馬車を運行し神都及び最寄りの主要都市からアクセス手段を増やす事で集客率に拍車を掛けていた。
普段は宗教に傾倒し、質素と清貧を旨とする若者達もこの日だけは自身の財布の紐を弛め、北端の地に集う。
ある者はお気に入りの装飾品を買う為、またある者は最新のマジックアイテムを品定めする為、三日三晩のお祭り騒ぎに参加するのだ。
活気に溢れた大通りは人でごった返し、販売物によって区切られたブースに所狭しと展開された露店にはこの祭りを商機と捉えた商人達による選りすぐりの品々が並ぶ、食材を取り扱う店舗からは溢れんばかりの美食の香りが垂れ流され、買い物に疲れた人々の空きっ腹を大いに刺激した。
しかし人が集まれば活気が生まれ、それに伴ってトラブルも生まれるというもの。
商人同士の諍いや祭りの熱に当てられて血気盛んな若者達が起こすトラブルは数しれず、そんな問題事を解決するため3日間限定で組織されるのがローグレンツ警備チームである。
首領はもちろんレイラ、実働部隊の筆頭として義妹のクレマンティーヌと参謀役を務めるクアイエッセ、その下で普段からその身で領地を護る
開催期間中の領地防衛はどうなっているのかというと、治安維持に回した兵力はレイラの父、ゲバルト率いる聖典OB達が補っていた。
老いや怪我等で一線を退いたとはいえ彼等の実力はそこらの亜人など歯牙にも掛けない精強な猛者ばかりなので当代領主も安心して祭りの運営に打ち込めるというもの。
「流石に未だ現役のゲバルトのようには動けませんな」
「しかし得物を持つとつい昔を思い出してしまうわい」
「ははは、まだまだ我々も捨てたもんじゃァない。それにカナミちゃんと約束したからのぉ」
「あの子の明るさにこの老骨、何度救われた事か。
皆の憧れじゃった、ゲバルトがいなけりゃ儂が…」
「おっとそれ以上はいけない。
ところでクインティアのせがれ、今日の賄いはなにかね?」
「帝国から珍しい香辛料が手に入ったとの事でレイラは〝マァボトゥフ〟にすると言っていました」
「ほう、それは嬉しい。
あの辛いやつだろう?好物なんだ。尚のこと警備に気合いも入ろうというもの」
「ご歓談もその辺りに。敵襲だ。
参謀、位置を」
「はっ!
…ヘジンマール殿の報告によれば数は70程度、中型の
「匂い立つなァ…どこもかしこも亜人だらけじゃないか」
「では皆の衆、参りましょうか。
〝我等は神の代理人、神罰の地上代行者、我等が使命は、我が神に逆らう愚者を、その一片までも絶滅する事〟」
聖句を唱え、自領へ侵攻する愚か者共を見つけたクアイエッセを含めたった6人は亜人の群れへ襲い掛かり10分と経たずに殲滅を完了した。
◆
拝啓、天国のお母様。
貴女の愛娘レイラは今、人生で5本の指に入るほどの危機を迎えています。
もちろん1番はナザリックな訳ですが、次点で候補に上がる程の大事件。
それが目の前に座る白銀の鎧、本名ツァインドルクス=ヴァイシオン。
この鎧は本当の姿ではありません、これは遠隔操作で動かす人形の様なもので中身は伽藍堂。私の
魔法で動き遠隔操作できる鎧…技術者の端くれとしてはそのカラクリがとてもとても気になる所なのですが、今はそんな場合ではありませんわね。
彼ははるか昔から生きる竜種で、本体は評議国でユグドラシルアイテムを護ってるんでしたか。片時も離れない所を見るに相当な心配性なんでしょう。
そんな彼が分身を使ってまで動かねばならない、それだけで事の重大さを物語っています。
まあ出張理由は火を見るより明らかなんですが!
そう、私ですわ!!
…正しくは私とアンティリーネでしょうか
「お茶は?
ちょうど新芽の美味しい茶葉がはいっているのですが」
『遠慮するよ。
落ち着いているんだね、こうして発見されたのだしもっと警戒されると思っていたんだが』
「金品狙いの賊なら挨拶無しで首を刎ねればおしまいなのですが、貴方はそうでも無さそうですからね」
『…そうかい、そうならなくて良かった』
まあ、嘘ですが。
原作知識でこいつツアーじゃねえかって分かってましたし、価値観や道徳観は別としてこの竜は他の竜王達と比べてある程度会話が成立する事も知ってます、だから即戦闘は避けました。紅茶もブラフですわ。
「鎧姿の人型個体が現れたら間違いなく中に人が入ってる」って普通なら思いますものね。
中身に気付いてないフリを続けましょう。
不法侵入に関しては全く納得してませんが!
いくら立場や種族の違いがあるとはいえ他所様の家に姿消して無断で立ち入りあまつさえ盗み聞きとかやってる事が外道過ぎてぶち殺したくなりますわね!
おf○ck!!!
「貴方、お名前は?」
『どうしてそれに答える必要が?』
「殿方が女性の部屋に無断で押し入って名前も名乗らないなんて不躾にも程がありますので。
不快で思わず氷漬けにしてしまいそうですわ」
『……リク、
そう呼んでくれ』
はいダウトォ!ダウトですわ!
アインズ様にも名乗ってましたよねえそれ!
余程気に入ってるんですか?
いいえ違いますわね、忘れられないんでしょう?
「よろしくお願いします、アガネイア様。
私はレイラ・ドゥレム・ブラッドレイ。
スレイン法国辺境都市ローグレンツでしがない領主を務めさせて頂いております。
それで、御用件は?
ただいま年間行事の真っ最中につき基本的に商談も面会もお断りしているのですが」
『商談ではないよ、君に尋ねたいことがあるんだ。
単刀直入に聞こう、君は〝ぷれいやー〟なのかい?』
ンンンンンンその台詞オバロ二次創作で腐るほど聞きましたわあああ!!まさか私が言われるとは!
「ぷれいやー、とは我が国に伝わる神の別称ですね。
私如きがその名を語るなど烏滸がましいにも程がありますが…どうしてそうお考えなのです?」
『トブの森での顛末を観戦させてもらった。
君の力は危険だ、連中に匹敵する程にね』
「………連中、というのは八欲王の事ですわよね?
流石に建国の神々を連中呼ばわりされるといち法国民として黙っていられないのですが」
『そこは自由に捉えてもらって構わない、兎に角君には〝ぷれいやー〟かそうでないかを問いたいんだ』
うーん高圧的。
アカン、下手な誤魔化しは死を意味しますわね!さっきから息も詰まるような殺気がバッシバシ叩きつけられてますもの!(粋なギャグ)
もう開き直って素直に喋っちゃいますか…よく考えたら私なぁんにも悪い事してませんし、存在自体が悪だと言われたらどうしようもありませんけど。そう、なるべく穏便に…
やるっきゃねえですわ!
◆
「結論から申し上げますと、私はぷれいやーではございません。
ですが私の家系はかの血を濃く受け継いでいるのでその影響かもしれませんわね」
レイラの回答に鎧の向こうから思案するツアー。
イビルアイからの報告で知ったスレイン法国の強者、この世界では上位に相当するイビルアイが手も足も出ずに倒された(本人は負けてないと言い張っていたがいつもの強がりだろう)らしい目の前の女性はレイラ・ドゥレム・ブラッドレイと名乗った。
見た目は普通の人類種となんら変わりは無い、というかツアーは他種族の個体別情報など殆ど区別しない、唯一違うのは嘗て共に戦った13の英傑達くらいのものだ。
だというのに何故だろう、レイラからどこか懐かしい気配を感じてしまう。
見た感じ、人当たりは良さそうだが腹に一物抱えていそうな女。突然現れた自分に対し戸惑う素振りも見せず客人として扱うあたり、強者ゆえの余裕が伺える。
『君たちの歴史は知っている。
国を興したぷれいやーの遺した影響が600年経った今も続いている事がね。
彼らの血を濃く継ぐものほどぷれいやーに近く、強者となり得るんだ。君もその1人だろう』
「ええ、その認識で間違いございません。
それで私のどこが危険だと?
生存競争以外で無益な殺生はしない主義なのですが」
『全て、だ。
ぷれいやーの血を継ぐその身体、天候をねじ曲げる程の位階魔法、それら全てが世界の脅威になりかねない危険な力だよ』
嘗て八欲王が所持し、今なお彼らの拠点だった空中都市にて稼働を続ける神のアイテム。
名を《
故あって拠点から離れられない身なので実際目にした訳ではないのだが、かのアイテムの稼働は竜の持つ超感覚故に体感で分かる。それほど強大な力を秘めているということも。
それが最近になって頻繁に…それはもうポンポンと新しい魔法を記録していくのを感じたツアーは何事かと焦り、鎧を使って世界各地を調べ回っていた所だった。
「それを使わなければ死ぬ状況でしたので。
私必要な事を必要な時に行っただけですので反省は一切しておりません」
『……』
「ご納得は…されないようですわね。
ではなぜ世界の脅威、というわりにはこうして話し合いの場を設けていただけたのでしょう?
こう言っては何ですが、挨拶無しに姿を消したまま私の首を取りにくればそれでおしまいだったのでは?」
『そうだね、確かに危険だが君は〝悪〟ではない。そう判断した。
だからこうして接触したんだ』
「まぁ、それはそれは…
光栄だと喜べば良いのかしら」
魔樹を討伐した事に限っての話ならツアーは彼女に感謝すらしている。本来なら自分が始末を着けなければいけないはずの異物を彼女達が代わりに排除してくれたのだから。
「あの魔樹が人類圏に及ぼす影響を考えれば放っておく訳にもいきませんでしたし、お気になさらず」
『すまないね。
序でに尋ねておきたいんだが、氷像はあの場に残り続けるのかい?』
「ええ、何年掛かるか分かりませんが今まで吸った栄養を大地へ還すまで残り続けるでしょう。
時が来れば勝手に崩れ落ちるはずです」
『…ふむ、嘘ではないようだ。
てっきり法国はユグドラシルアイテムなり使ってこっそり手中に収めるんじゃないかと危惧していたけど杞憂だったようだね。
すまない、こちらの話だ。気にしないで欲しい』
(おわっはー!?
もしかしなくても国宝使ってたら詰んでましたわね?)
ポーカーフェイスを崩さないレイラだが衝撃の事実に焦りまくりである、もしカイレが存命で魔樹に対し国宝を使っていたらこの場も設けられる事はなく問答無用で自分は殺されていただろう。内心間抜けな悲鳴をあげながら必死に表情を取り繕っていた。
その後も何度か質疑応答を繰り返し、聞かれた事を正直に答えていく。
もともとレイラは誠実なのでおかしな嘘で誤魔化すようなこともしない、もちろん国家機密に関わるような事項は「教える事が出来ない」とハッキリ断りながら。
ツアーからしてみれば意外も意外だ。
不法侵入同然の真似をし、高圧的な態度で迎えた初対面。彼自身の種族差による怠慢あれど「後に敵対するかもしれない」そう考えたうえでの対応だったのだが、彼女の予想外の反応に良い意味で期待を裏切られた形となった。
それはまるで、在りし日の〝リーダー〟の姿と重なるように
『…君は何故、この国に留まる。
神に近い稀有な能力を持ち、その気になれば世界を支配する事だって可能な筈だ』
もちろん、そんな事をすれば竜王達は大手を振って彼女を排除しにかかるだろう。
はるか昔に世界の法則を歪ませる事で現れるようになった〝ぷれいやー〟。
その影響力は凄まじく、時に種の存亡まで左右し世界の安寧を悪戯に揺るがす存在である為、同じ時代を生きた竜達は侮蔑を込めて彼等の事を『竜帝の汚物』と吐き捨てた。
ツアーはまだ理知的なほうで、他の竜王によってはぷれいやーと判断されれば即殲滅対象にもなりうる。
「興味ありませんわね。
私には護るべき国があり、護るべき人が大勢居ます。民を放り出して突っ走る領主がどこに居ますか。
それに、生憎他所様を害する余裕も気概も持ち合わせてはおりませんわ」
ほら、人間って臆病な生き物ですから。と冗談めかして笑うレイラ。
ますますもってこの人間の事が分からなくなった。
ただ感じるのは彼女の言葉はその場を取り繕う為の嘘ではなく人類を安じる紛れもない本心。なのにどこか他人事のように達観している。
(まるであのお転婆天使みたいだな)
脳裏に過ぎるのは嘗て共に旅をした仲間達。
その破天荒ぶりから何度リグリッドと一緒になって頭を抱えた事か、紆余曲折ありながらも最後は結局自分の道を突き進んだ彼女をツアーも気付けば裁定者という立場の垣根を超えて応援してしまっていた。
皆を巻き込み引っ張る力、俗に言う〝カリスマ〟と呼ばれる才能を彼女は持っていたのかもしれないと、今となっては思う。
心を許せる数少ない友人だった、〝竜帝の汚物〟と切り捨てるには惜しいほどに。
(能力は本当に
全く、鎧の遠隔機能を超えて本体にまで届く猛毒なんて聞いてないよ。もう呪いの類いじゃないか。
ウン百年と生きてきたけど下痢と腹痛で拠点を離れたなんて後にも先にもあの時だけだ…)
その後偶然一回会ったきりで足取りは掴めていないが彼女の事だ、きっと自分の満足する終わり方を選んだのだろう。
『………』
「…?なにか?」
『いや、すまない。考え事をしていただけさ。
ともかくこれで確認が取れたよ。
君が突出した強者である事、この世界を悪戯に乱す気は無い事がね。
それをふまえて君に告げなければならない』
もう力は使うな
これ以上世界を汚すなら竜王は容赦しない
◆
「ハイハイ大人しくねーあんまり動くと腕折るよー?」
「イデデデデデすいませんすいませぇんッ!!
ちょっと気が立ってただけなんですぅ〜!!」
腕を拘束され地面とキスしながら情けない悲鳴を上げる若い男、組み伏せたのは華奢な体躯の少女であった。
警備担当クレマンティーヌは先程見つけたトラブル、屋台営業に難癖付けて料金を踏み倒そうとした男達の捕縛に勤しんでいる。
彼女としては最初は注意だけに留めるつもりだったのだが舐めた態度であしらわれ、再度注意すると暴力に訴えてきたので
「〝ちょっと〟で屋台ごと破壊する馬鹿が何処にいるのかなー?えいへーい、連れてってー」
「はっ!承知致しました!オラ歩け!」
既に戦意喪失した男を衛兵は連れていく、祭りの間の恒例行事な為その連行ぶりも慣れたものだった。
「あとは逃げた2人を追ったアンティリーネなんだけど、大丈夫かなぁ…」
「誰が大丈夫ですって?」
「ぎゃっ!?!?
いきなり後ろから話し掛けて来ないで貰えますぅ!?」
びっくりした猫みたいに飛び退くクレマンティーヌの背後に現れたのは期待の新人警備員(本人談)ことアンティリーネだ。
警備中、たまたま見つけたトラブルに介入しクレマンティーヌは主犯格の男を、アンティリーネは逃げた取り巻きを追っていた。
「ほれ、2人取り押さえておいたわ。
ちゃんと通行人に配慮したから」
ぽいっと両手に掴んでいたものを放り出す。
顔中真っ赤に腫れぼった、ズタボロ状態のガラの悪い男2人が床に転がった。
酷く引っぱたかれたのか顔の大きさが2倍くらいに膨れ上がって、滂沱の泪と共に時折小さな嗚咽が聞こえてくる。
「わーお…」
「暴れるから取り敢えず黙らせた、死んでないしこれなら文句も無いでしょう」
ふふん、と胸を張るアンティリーネ。
素手とはいえそもそもレベルに天と地ほどの差があるのだ、五体満足なのを感謝して欲しい。運が良かったなチンピラ。
反射的に「いやそうじゃない」と言いかけたクレマンティーヌは口を閉じ、代わりに特大の苦虫を噛み潰したような引き攣った笑顔で答えることにした。
「すまんね、そこのお2人さん。ちょっといいかい?」
声のする方へ振り返ると、そこには1人の老婆が立っていた。
一目で老人だと分かる姿をしているがその声は力強く老いを全く感じさせない、そんな彼女の底知れぬ〝強さ〟を目敏く気付いたのかアンティリーネは口の端を吊り上げる。
「なぁにお婆さん、またトラブルかしら?」
「ちょいと道を訪ねたくてね。
街の入り口で〝ぱんふれっと〟は貰ったんだがアタシの行きたい所が記されてなくて困ってたんだ」
そうして老婆がひらひらと手で靡かせるのは祭り期間中に発行される無料の案内紙だ。3日間で出店する店舗の情報やイベントの会場、日時など、あらゆる情報が記載されている。
活版印刷技術の浸透していないこの世界において『紙の量産』はかなりの苦労と手間を要するのだが…まああの女ならなんとなしにやってのけかねない。
「道案内も警備員の仕事よ、任せなさい。
それで何処へ行きたいのかしら」
「お嬢ちゃんやる気だねぇ、助かるよ。
場所は領主様の御屋敷さ。
まったくあのバカ鎧め、アタシを置いて行きよってからに…」
「「?」」
◆
「ふむ……」
考え込むレイラ、といっても出すべき結論は既に決まっているのだが。
「つまるところ、アガネイア様はこの世界に属する何かしらの高貴な存在で、本日は貴方なりの警告のつもりで此方にいらっしゃった訳ですね?」
沈黙をもって肯定とするツアーに彼女は一切笑顔を崩さぬまま淡々と告げる。
「先ずは対話の為にわざわざ我が領地まで出向いて下さった事、真に感謝申し上げます。
貴方様から最大限のご配慮を感じますわ、きっとお忙しい中貴重な時間を割いて下さったのでしょう」
すらすらと彼女の口から出てくる言葉にツアーはなおも沈黙を貫いている。
彼としても最大限譲歩した、今回の警告は魔樹討伐の報酬とも言っていい程だ。レイラの言う通り人間の為に自分の時間を割いた、永い永い竜の寿命の中では束の間の一刻。
それでも竜である自分の時間を使ったということはそれほどに意味のあるものだと彼が判断したからだ。高圧的になってしまったがこの対話により彼女も大人しくなり、世界への干渉を控えたまま人生を終えてくれるだろう。人の寿命は過ぎ去っていく矢のように早いのだから。
本気でそう思っている、レイラの表情から読み取って竜のツアーは間違いなくそう判断した。
「それをふまえたうえで、私からお答え致しますね。」
だって彼女は笑顔なのだ、どうしようもなく。
氷のように張り付いた天使の微笑みを崩さず、一切の山もない平坦な口調で言葉を紡ぐレイラ。
……仮に此処にクレマンティーヌかゲバルト以外の自領の誰かがいたとしよう。そいつは今の彼女を見るなり顔を真っ青にして逃亡しているか、土下座して泣いて許しを乞うているに違いない。
結局、竜に人の心は分からない
「いやですわ♪」
屈託のない、爽やかだが強い拒絶の言葉。
『……うん?聞き間違いだったかな』
「いいえ、嫌です。とお答え致しました」
にっこりと、それはもうにっっっこりと笑顔でそう返す対面のソファに座る淑女の圧に一瞬思考が停止する。1回聞き間違えかと思って聞き直してもダメだった。
(あ、アレ?
納得してくれたんじゃなかったの?)
「止めるわけないでしょう、馬鹿なんですか?」
すっげえいい笑顔でクッソ辛辣な返しをされ竜王、困惑。
声音は至って平坦。
だが何故だろう、言葉の端々から感じる〝圧〟は。
配慮した?笑わせるな、やっている事は不法侵入及び恐喝だ。そこに配慮も平等もあるものか。
一方的にやって来て、頭ごなしにこちらを脅すヤ〇ザのやり口となんら変わりない。なんならレイラが聞かなければ名すら名乗りはしなかった(しかも偽名)無礼者だ。
本当に正体不明の何者かによる警告ならまだしも、この鎧が誰であるか明確に分かっているレイラの前ではただの無礼なゴロツキと変わらない。そんな礼儀も知らぬ阿呆がいけしゃあしゃあと口にする要求にはいそうですかと頷く程彼女が従順なわけなかった。
というか原作知識を踏まえても予想以上の無礼千万ぶりにブチ切れてる。
初めに抱いていた「穏便に済ませる」目標は一体何処に行ったのか、月まで飛ばしたんじゃないですかね。
「百歩譲って、不法侵入は大目に見ましょう。文化の違いと捉えて納得致します。
千歩譲って、偽名を使った事に関しても意見はありません。貴方は本来あるべき立場を超えてまで此処へ来て下さったのだから。
ですが一方的な私見で人類の歩みを邪魔するのだけは断じて許容できませんわね」
確かにレイラは原作知識によってツアーがどのような存在であるかも知っているし、自分がどれだけ足掻いても届かない強者であることも、生物としての格の違いだって分かっている。
しかし、その程度の理由で止まれない。
自分が殺されるだけならまだいい、しかしナザリックが後に起こすのは人類レベルの厄災だ。
人命を軽んじ、餌や素材としか見ていない外道共。善人であれ悪人であれ、老いていようが若かろうが人であるのなら喜んで貶める残虐な化け物達。
一部例外はあれどその雀の涙ほどの善性は主人への忠誠心の前にあっさりと塗り潰される。
彼女が知る限りならその者らは人を生きたまま虫の苗床にし、蘇生と回復を繰り返しながら楽しそうに生者の生皮を剥ぎ、女子供を攫い拷問と人体実験をさも当たり前のように繰り返す、そんな連中が現れる。やって来てしまうのだ。
「そうあれ」として創られた贋作たちによる、生存競争ではなく異物の侵略。
そんな奴らが未来に来ると分かっている以上、生き残るために対策は立てて当然だろう。新しい技術や武力で武装し、己を守る為に策を練るのは防衛本能として正しいはずだ。
この鎧はそれすら許してくれないのか、後で割を食うのは自分達だというのに。
(まあ、ツアーにだって分かりっこない未来の話なので言ってもしょうがないんですけどね)
「貴方が仰りたい事、よく分かりました。
要は気に入らないんですね」
『…なに?』
「強すぎる力とか、異物だの汚物だの真っ当な理由を付けているように見せかけてその実、貴方が嫌な思いをしたくないだけでしょう?と言っているんです。
貴方達、滅ぼされかけましたもんねぇ?」
はるか昔、世界を支配していた竜種。
その天下を一夜にして崩したのが八欲王と呼ばれる異物の集団であった。
〝ワールドチャンピオン〟
元の世界ではそう呼称され、数多のユーザーの中から選りすぐられた9つの世界の頂点。9人のプレイヤー、そのうち8名が何の前触れもなく異世界に放り出されたのだ。
本人達の意志とは関係なく、転移直後で現実とゲームの区別も付かぬまま、彼等は自由に振舞った。悪い方向に。
「ゲームならモンスターを倒してドロップを狙うのが当たり前」、「殺してもまたポップするから大丈夫」、「自分達よりレベルの低い雑魚ばかり」。
まるで幼児が銃を振り回しているようだった。
ゲームという偽りの中で積み上げた、ただただ強いだけの
その圧倒的な力に大陸は恐怖のどん底に突き落とされた。
そんな彼等に義憤を覚えた者、単に自分達の存在が脅かされるのを危惧した者、つまるところ異世界に置ける頂点である竜種は勇敢にも挑みかかり、種の壊滅という結果をもって敗北した。
剣一振りで大地を分割し、振るう魔法で天候が歪み、死んでも死んでも蘇生アイテムで蘇り何事も無かったかのように戦線に戻ってくる。
そんな連中が同族の皮を剥ぎ、ドロップだなんだと訳の分からない事を言いながら迫ってきたら恐怖でしかないだろう。
理不尽だ、と心の底から思っただろう。
それは理屈で表すには単調すぎる、感情の話。
〝嫌い〟にならない訳がない。
「私と同じ人類が、自分達より圧倒的に弱いはずの存在が、人間〝如き〟が自らを脅かしたのが気に入らないのですね?
その子孫がのうのうと繁栄し、生きていくのを見るのが癪に障るのですね?
だから貴方は監視と称して人類を好き勝手しないよう一方的に縛り付けている」
『待て、待ってくれ。
君は…何処まで知っているんだ?
偽名の件も含め、僕は名前以外自分の事を明かしていないはずだ、どうしてそこまで考えが及ぶ?
君は何者だ!?』
「何者かについては先程も申し上げましたでしょう、二度も言わせないで下さいな。
それに、貴方今ご自分で『竜王』って言ったじゃないですか。
法国が唯一恐れ、その動向を常に把握しようと奔走している亜人連合国家に属する
普段のレイラから出るとは思えないほど冷めきった言葉。
原作知識と母より託された日記より、レイラは何故かの竜王がスレイン法国へこれ程までに監視の目を向けるのか、幾つか仮説を立てていた。
そして実際にこの目で確かめて確信を得る。
言葉にするには極めて陳腐な〝私怨〟と八欲王に滅ぼされかけた恐怖がもう一度来るかもしれないという〝怯え〟、それから僅かばかりの〝後悔〟を。
信用なんてこれっぽっちもしていなかった。
だからこそ、母カナミは彼に関する文書の端々に「うそつき」と記載した。旅をしていた時も、魔神を打ち倒した時も、パーティが解散して暫く、久しぶりに会って話した会話の中でもすべて。
『そうだ、僕が竜王のメッセンジャーだと知って何故そこまで強気でいられる?』
「いられるも何も、別に媚びへつらう必要もないでしょう。
私は成すべきことを成すのみ。
技術は進歩し理論は飛躍する、人類の進化は止められない。例え貴方が他国の間者で圧倒的強者だったとしても、チープな脅し程度で私の歩みを止める事など言語道断!止めて堪りますか!」
本来なら人類が判断し、決める事だ。それを他国の上位存在が私怨で監視し、あまつさえ裁定者などと気取っているのに誰が納得するか。
内政干渉お断り!と静かに怒気を放つレイラだが、リク改めツアーは強気な姿勢を崩さない。
『…なら君は何を成すんだ。
それが世界を汚すと知っていながら何故力を付ける、何故強くなろうとする。』
「〝対等〟になる為です。
弱者と強者の溝は深い。お互いが拮抗してこそ対等が生まれ、同じステージに立つ事で初めて話し合いという席が設けられる。」
ナザリックを前にして僅かでもレベルの差を埋めておけば少なくとも「舐められる」ことはない。守護者クラスはともかく、戦闘メイドレベルの強者相手に互角に持ち込める程度まで強くなっていれば「迂闊に手を出さず警戒して然るべし」とあの主人公なら判断するだろう。少なくとも直ぐ蹂躙して終わり、という選択肢は消える。
それにゲームには存在しないこの世界独自の技術を保持していれば対等とはいかずとも有事の際にはその技術を餌に交渉のテーブルに着く事ができるかもしれない。カルマ値最悪のNPC達を前にしてこんな努力に望みは薄く、希望的観測ではあるが。
一方的な庇護は要らない、過度な接待も要らない、同じ目線で同じ世界を見る為に彼女は力を欲した。
だがツアーはそんな事は露知らず、目の前の人間が傲慢にも自分との契約を無視し話を進めているようにしか見えなかった。
お互い食い違う2人の対話は熱を増していく。
『絵空事だな。
君達は既に世界を汚した、魔樹を殺したあの半森妖精の少女もそうだ。
法国は僕との条約を既に破っていた、この対価は支払ってもらう事になる。』
「お好きにどうぞ?
ですが法国は今、大きな転換期を迎えています。
今まで通りの高圧的な外交でどうこうできるような生易しい相手だと思わないことです。
八欲王との戦争から逃げ、おめおめと生き延び今更になって我が物顔で裁定者を気取る竜王に期待はしてませんけど。」
『…なに?』
「ハッキリ言わないと分かりませんか。
邪魔なんですよ貴方、これ以上
貴方は監視者でも裁定者でもない、〝ぷれいやー〟と言う名の災害に負けた被害者の1人に過ぎません。
私達は先に進みます。
しょうもないプライドで古参が新規の足引っ張るの止めて貰えます?」
信用してないんでしょう?ならもう放っといて下さいませ。
途端、殺気が満ちる。
鎧越しでも分かるほどに濃密なそれは部屋中で軋みをあげて、鳴いているようだった。
『図に乗るなよ人間』
低い低い、地の底を這うようなドスの聴いた声。
圧倒的な格上の竜種が放つ本気の威圧だ。
『短命な君達には分かるまい、世界規模の脅威など。
奴等がどれほど世界を捻じ曲げ、汚し、法則を乱して余り有るか』
普通の人間なら震え上がり、失禁でもしながら意識を飛ばしかねない強烈な怒気を真に受けるのは他ならぬレイラである。
「はぁ」
『確かに、君達を信用していない。
期待もしていないし、生かすことで将来自分の助けになるなど考えた事はない。
それでも監視という名目で生かしている。
最大限の譲歩だ、これ以上は傲慢というものだ』
「はぁ」
『スレイン法国はその枷を外そうとしている、これ以上の勝手を許せば君達を始末しに他の竜王達まで出張る事になるだろう』
「はぁ」
『魔樹を討伐した事に関しては感謝しているよ。
だからここまでだ。
これ以上君達は世界に干渉するな』
「はぁ、そうですか。
『…………は?』
あっけらかんと答えるレイラに再び固まるツアー。
おかしい。さっきまで殺さんばかりの怒気を放っていた鎧が一変、僅かに震えたかと思うと嘘のように大人しくなった。
どうやら仮説は当たっているらしい、と彼女は言葉を紡ぐ、その顔に笑みを貼り付けたまま、特大の爆弾を投下した。
「貴方の答えで漸く合点がいきました。
もう用済みでしたものね。
生かしておいても新しい脅威になりかねないから先手打って殺したんでしょう?
賢い賢い裁定者様♡」
〝十三英雄〟そう呼ばれた集団がいた。
それは約200年も昔のこと。
八欲王が悪逆の末、仲間割れで滅び平和が戻ったのも束の間、主を失った従属神達が乱心し〝魔神〟として世界各所で破壊活動を活発に起こすようになった暗黒の時代。
荒ぶる魔神を鎮めるため1人の男が立ち上がった。
〝リーダー〟、後にそう呼ばれるようになる彼は傷付きながらも旅をし、そんな彼を慕い、魔神討伐の旅路には多くの仲間が加わった。
彼ははじめは弱かったが傷付きながらも必死に剣を降り続け、やがて誰よりも強くなった。
彼等は幾つもの夜を超え、幾つもの出会いと別れを繰り返して、旅路の果てに大陸全ての魔神を討伐せしめたのだ。
リーダーを筆頭に魔神を打ち倒す彼等の姿は人々の心に希望を与え、やがてかの一団を〝英雄〟と語り継ぐようになる。
そんな吟遊詩人の語る御伽噺のような一団に当時のツアーは所属していた。
彼には竜王という立場がある、故に魔法で鎧を創り遠隔操作で視覚を共有しながら諸国を周り、魔神への対抗策を練っていた。そんな折、魔神討伐を目指して旅していたリーダーと出会えたのは正に運命と言っても差し支えない。
今でも鮮明に思い出せる、あの懐かしき日々。
「……法国には500年の歴史が有りますわ。
当然、これまでに起きた500年分の出来事を記録し保管する施設だって存在します。
その中から私、探しましたの。十三英雄の事を」
曰く、〝十三英雄〟という呼称はスレイン法国が亜人軽視で歪めた人数なのだがそこは割愛して。
「国の始まり、人間国家を形創った六柱の〝ぷれいやー〟。
我欲のまま奪い、殺し、最期は内輪揉めで崩壊した八欲王なる〝ぷれいやー〟。
そして世界に散った魔神を永き旅路の果てに全て討伐せしめた十三英雄。
私、その中でも十三英雄についてよく調べてまして、国の書庫や他国の歴史書なんかも全部掘り返して探していたんですよ」
200年も昔の話なのに、調べてみるとわりと痕跡は残っているものなんですよ。とヘラヘラ笑うレイラ。
破滅フラグをへし折る為なら彼女は文字通り〝何だってやる〟。今までもそうだった、力をつけるため両親に止められようが一心不乱に槍を振り続け、魔法を覚える為に書庫に籠って何徹もしながら勉強に耽った。
例え千を超えるような膨大で乱雑な過去の資料でもひたすらに掘り起こし読み解いて、必ず答えを見つけるだろう。
母の日記に記された記録を垣間見て生まれた竜王に対する〝疑問〟、その答えをレイラはずっと探し続けていた。
「〝リーダー〟を筆頭に多種族からなる混成部隊は最後の魔神を討滅した後、解散した。
ただ、それぞれが故郷へと帰っていくなかでどうしても足取りの追えない人物が何人かいまして」
「彼等は人類種であるにも関わらず魔神討伐後も人間国家に属することはなかった。
これだけならよくある事なんですが、疑問は他にありましたの」
「とある場所へ行ったっきり、幾ら探ってもそこから先の消息が掴めなかったんですよね。
暗黒騎士、大神官、そしてリーダーの3人。全員が同じ場所で足跡が途絶えたんですが、そこが何処だが知ってます?」
含みのある笑顔で天使は微笑む。
悪魔のような甘い声音で語り出す。
鎧は何も喋らない。
「アーグランド評議国」
「3人ともそこに向かったのを最後に記録が無くなっているんですよ、それはもうぱったりと」
「うち2人は戦士職、大神官は記録によると天使を召喚する信仰系魔法詠唱者だったそうですね。3人とも転移系の魔法は習得出来ない」
「もしかすると…第三者の転移魔法か未知の手段で遠くの地へ旅立ったのかもしれません。
もしかすると…ちゃっかり評議国に永住していて見つけられ無かったのは私の研究不足なだけかもしれません。
ただこれは私が独自に調査し、得た推論なのですが」
「殺されたんですわよね、3人とも」
吐き捨てた言葉に空気が凍った
「けどおかしくないですか?
魔神を斃し、世界を救って、誰よりも強くなった勇者達は練度も実力も極限にまで達していた筈。
なのに他殺されるということは、油断させて暗殺か、彼等以上の力を持つ者が手を下したか……
世界から弾かれた異物を打ち倒す程の彼等を物理的に打倒できる存在なんて片手程しか数えられません。
現行人類の私達ではあの魔樹にすら苦戦させられましたからね」
『………』
「攻撃手段も分からない魔神を初見で討伐するには相応の装備が必要だった事でしょう、一撃で殺されない防御力は当然としてアイテムか装飾品で毒や呪い系統の耐性も得ているはず。
それらを貫通するほどの強力な攻撃や毒の類を使った可能性も考えられますが、そんな事をすれば周囲に相応の被害が出て破壊痕や魔力の残滓は必ず証拠として遺る。
なるべく静かにコトを済ませるには…装備を剥ぎ取って背後から一撃で仕留めるのが常套手段ですわね」
「けれど百戦錬磨の猛者ならば当然、警戒心の高さも天井知らず。
余程の事がないかぎり無防備に背中を晒すなんて真似はしない」
『…………』
「なら3人を殺した犯人は
人類最強クラスの猛者を一撃で葬れる実力を持ち
相手の耐性、装備、所持アイテムも熟知したうえで
彼等が警戒心の欠片も抱かないほど親しい
そんな〝誰か〟になるんですわよねぇ」
「そうそう、記録によれば3人とも〝ぷれいやー〟様かそれに連なる血筋の方々だったそうですね。
彼等が最後に接触したのは『高価そうな白銀の鎧を着た仲間』なる人物だそうですが……そこの所どうお考えですか?白銀の鎧さん?」
瞬間、レイラの頬を巨大な剣が掠め背後の本棚に突き刺さる。
本棚ごと壁をぶち抜き、もうもうと煙が立ち込めるなか、凍った紅茶の入ったカップが音を立てて割れる音が響いた。
『……もう、たくさんだ』
当然、それをやれるのは1人しかいない。
「壁の修理代は評議国宛に請求させていただきますわね」
『君は危険だ。
やはりここで殺す、あの半森妖精もだ。
世界を穢す血は絶やさねばならなかった』
「…それが勇者殺しのクソトカゲが出した結論ですか。
しょーもねえですわ、でも自白したようなものですね。
貴方は仲間を裏切った。
彼等は貴方を信じて国まで訪れ、歓待を楽しみにしていたというのに」
『……黙れ』
「魔神を討伐できるほど力を付けたぷれいやーが八欲王と同じ未来を辿るのではないかと疑心暗鬼に陥って、出した結論が
『やめろ』
「勇者達はさぞ浮かばれないでしょう。
使われるだけ使われて、目的を達成すれば用済み。
まんまとおびき出されて挙句消されるだなんて」
『やめろ…!』
「結局お強い上位種族様は下等生物の命も尊厳も、何もかも奪っていく…
利用して利用して利用して、終わったらポイっ!
まあ!何が〝裁定者〟ですか、やってる事がそこら辺の犯罪組織となんら変わりありませんわ!」
『やめろと言ってるだろッ!!』
「認めなさい。
お前は苦楽を共にした友人との絆よりも、使命感の皮を被ったちっぽけな私怨を優先した。
後で後悔して、罪滅ぼしのつもりで人類の監視でもやっていたんですか?
自ら手を掛けた事に中途半端な罪悪感でもあったんですか?
所詮人間だと自惚れて、ズタボロにやられた挙句恨みつらみを抵抗できない弱者に押し付けて保護した気になっているだけでしょう!」
『…ッ違う!!』
レイラが言い終わらぬうちに、ツアーの周辺に展開された大量の武器が速度を増して襲い掛かる。
その直後、凍りつき力なく床に落下した。
『なっ…!?』
それを確認するため首をひねろうとした時、異変に気付く。
鎧がぴくりとも動かない、まるで磔にされたかのように椅子に座ったまま姿勢が固定されている。
現在ツアーの鎧の中には魔法によって生まれた氷が隙間なく詰め込まれている。
鎧の中は伽藍堂、氷によって関節に蓋をされてしまえば物理的に隙間がなくなり動けない。温度の変化で普通なら気付くだろうがこの鎧はツアーが遠隔操作で動かす玩具のようなもの、感覚などないだろう。故に気付くのが遅れてしまった。
「…そちらが手を出さない限りはこちらからも手を出さないよう努めましたが、残念です」
既に極低温に凍りついた部屋の中、そう答えたレイラは机に身を乗り出して、片脚で鎧を強く踏みつけながら撃杖を動けないツアーの頭に突き付けた。
「私はお前の全てを否定する。
停滞を好み、進歩を拒み、最強種の驕りで過去をいつまでも引き摺った。ただ無為に永く生きているだけの自惚れ竜王。
200年前も、そして今も、お前はまた間違えた」
その瞳に絶対零度の殺意を乗せて、淑女は嗤う
後半へ続く