破滅フラグしかない悪役国家に転生してしまった…   作:ハンバーグ男爵

18 / 34



こちら後編となっております

2話連続投稿ですわゾ

死ゾ






18 破滅フラグしかない対談に臨んでしまった…(下)

 

 

 

 

 

夢を、観ているようだった

 

 

 

永い永い生のなか、寝床で観る暖かい夢

 

 

 

毎日が新鮮で日々の小さな変化にすら喜びを感じる未熟な若輩者のような

 

 

 

僕は束の間の冒険(ゆめ)を観る

 

 

 

 

 

『〝白銀〟、これからヨロシクな!』

 

 

そう言って無防備に伸ばしたその手を忘れることはない。

 

世界各地に散らばった破壊の残滓、〝魔神〟と呼ばれる遺物たち。

滑稽にも自滅した八欲王達が遺した汚物を探し出し、始末するため大陸を奔走していた時期に彼等と出会った。

 

弱そう……いや弱いな、ちっぽけな人間だった。

周りにいる仲間達とは比べ物にならないくらい練度が低い、そこら辺にいる農民と変わらないような弱者。それがリーダーの第一印象だ。

 

弱いくせに戦闘では我先にと前へ出て、ボコボコにされて帰ってくる。

リグリッドから「死に急ぎ野郎かいお前は!」と何度も叱責されていたのをよく覚えているよ。

 

けれど皆の力を合わせて最初の魔神を倒した時、彼の力は見てわかるほどに大きく飛躍した。

他にも魔神に荒らされ全滅した街を見た時や非道な行いで他者から略奪を行う人間を止めた時も、悲しそうな表情とは正反対に彼の五体には力が漲り、弱き者を助けるためと通常以上の力を発揮し続けた。

 

喜ばしい事だ。

旅を同じくする仲間の成長ほど嬉しいものはない、僕達竜種は常に種の頂点として生まれてくるからね。下手に寿命も永いもんだから彼の言う「成長の喜び」とやらを実感する機会が無くて珍しいんだ。

 

 

それからもリーダーはメキメキと力をつけ、迎えた最終決戦。

彼はこの中の誰よりも強く、僕の鎧だって気を抜けば負けてしまうくらいには強くなっていた。

 

心から嬉しかった

 

そう、嬉しかったんだ

 

今まで共に冒険した仲間の成長にこれほどまで心揺さぶられるとは思ってもみなかった。

寝食を共にし(鎧だから食べることはできないけど)、強大な敵を打倒するため隣で戦って、他愛ない会話で笑い合える。

種族も地位も関係ない、等しく皆が平等で、足りない所をお互い支え合い、助け合う。

 

〝仲間〟

 

これが、そうなのか。

 

 

 

僕はずっと独りだった。

永劫に近い竜の寿命と始原の魔法に繋がる資格を持ち、この世界の最強種として生まれた。

いつも孤高を気取っていた竜帝(ちち)や他の竜王のように、僕もそうあるものだとばかり考えてた。

「竜は一にして全である」とは誰が言っただろうか。恵まれた肉体を持ち、尽きぬ魔力と生命力はこの世界の支配者たる証。

故に竜種は孤独だ、誰かに頼る事をせず、独力で全ての問題を解決しようとしてしまう。実際、できてしまうからね。頼ってしまったなら他の者から後ろ指を指されかねない。

 

でも彼等に出会って僕の価値観は根本からひっくり返ったよ。

 

エルフも、ドワーフも、死霊使いも神官も、天使も悪魔の混血児すら同じ輪の中で笑い合い、時に背中を預け共に戦い、活きていた。

しかもその中心人物が人間だったんだ。

 

 

満天の星空のもと、野営のため皆で集めた薪に火を付ける。

匠王の持ち込んだ酒を大神官やリグリッドが飲み漁り、カナミと暗黒騎士が盃片手に何やら熱心に語り合っていて、慣れない酒でうつらうつらと頭を揺らすキーノをリクが介抱している。吸血鬼なのに飲めるし酔える酒を用意してくるとは流石ドワーフ産、恐ろしい。

生真面目なエルフは最低限の食事を済ませたら直ぐに周囲の警戒へ行ってしまった。虹彩異色(オッドアイ)の彼女は王族の生まれらしく、普段は素っ気ない態度だがいつも影で皆を気遣っていた。今回も皆が安心して騒げるように気を使って自ら動いているんだろう。その為の野伏(レンジャー)だ。

 

散々騒いで皆が寝静まった頃、独り見上げる夜空は住処に篭って眺めるより何倍も美しく見えた。

 

ああ、幸せだ

 

鎧姿なのが本当に口惜しい

 

こんな(ゆめ)がずっと続けば

 

 

 

彼等はあの忌々しい〝ぷれいやー〟とは違う。

同族を遊び感覚で皆殺しにし、尊厳を貶めた外道どもとは違うんだ。

 

違うんだ……!

 

違うに決まってる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、ゆめは覚めたんだ

 

 

 

『ご…めんな…ツアー……』

 

自らの爪が彼の身体を貫いた時の光景を僕は忘れない。

 

 

ああ、ああああああ……

ああああああああああああああああぁぁぁ……ッ!!

 

 

違う!違う違う違う!違うんだ!

僕は殺すつもりなんてなかった!

懐疑心はなかった!疑う気持ちなんてこれっぽっちもなかった!

そのハズだ、そのハズだったのに!

 

君を裏切ったあの男を疑った、偽りの力に溺れ人命を軽んじ世界征服なんて嘯いて実行しようとした仲間を斬ったリクを…

君も将来そうなってしまうのかもと頭に過って…

考え始めると止まらなくなった!

 

所詮〝ぷれいやー〟だと、あの八欲王と同じ種族なんだと一方的に決めつけて君を罠に嵌めた。一番最低な方法で暗黒騎士と大神官を殺した!君を殺した!

 

なのに何故、君は最期まで僕に微笑むんだ…

八欲王(あの日)の地獄が忘れられなくて、一時の浅慮で関係ない君たちまで巻き込んで、挙句の果てに疑心暗鬼で仲間を罠に嵌めた最低のクズ野郎に。

 

 

『ごめ…ん…

もっ…と……はな…し、すれば…よかったな……』

 

『なかまの…きもちにも……き…づいて…

あげられない…なんて……りーだーしっかく…だ』

 

 

なんで謝るんだよ

 

なんでそんな目で僕を見るんだよ

 

暗黒騎士も大神官も同じ目をしてた

 

騙されて背中を刺されてるっていうのに揃いも揃って恨み言のひとつも言わないで

 

まるで迷子の子供をあやしているような、困った表情で笑うのだ

 

僕は君たちを散々利用して、取り入って、しまいには裏切った最低野郎だっていうのに

 

 

『じゃあ…泣くなよ……バカやろ…う……』

 

 

 

言われて気付く、目元から溢れるものに

 

(ゆめ)の中、炎で街を焼かれた娘が、魔神の気まぐれで家族を殺された父親が、やっとの思いで支配から開放された村長が、見知らぬ誰かが悲しみ、時に喜びと共に流していたそれ

 

僕にはきっと無いものだと思い込んでいたよ

 

そうか、これが〝涙〟か

 

〝後悔〟なのか

 

リクの心臓から鼓動が止まる、目から光が消えていく。僕らの頼れるリーダーは静かに、腹を貫かれたというのに穏やかな表情のまま息を引き取った。

その高潔な魂は蘇生を完全に拒否していた。

 

 

 

 

 

周りの竜王達はこの話題に触れると「よくやった」「上手くやった」と口々に僕を褒め称える。

ただ1人、色彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)だけは複雑な表情で僕を見ていたけれど。

彼にはワンエイスの曾孫が居るからね、何か思うところあるんだろう。

 

僕のやった事は支配者として正しかった、けど友人として最低の事をした。

仲間との絆と一時の均衡を秤にかけて、愚かにも均衡を選んだ。

リグリッドやカナミに顔向けなんてできないくらいに最低な行動だ。

 

けれど竜王としての僕は厚かましくも彼女達に素知らぬ顔して話ができる、できてしまう。

 

 

 

 

だってしょうがないじゃないか、この世界の未来の為なんだから

 

 

慈母(マザー)の笑う声が頭の中に響く

 

竜帝(ちち)の愚行を精算しなければ

 

 

あんな思いをするのなら、もう弱い人間に頼りはしない。

初めから期待しなければ後悔なんてする必要もない。

今後は人間に頼らず僕だけの力で異物を排除してみせる。その為に人類にはこの大陸の端で細々と生きていて欲しい、ぷれいやーの子孫たちもそうだ。

強者なんて要らない、慎ましく種が存続しているだけで万々歳だろう?

 

 

 

 

タイミングのいい事に、スレイン法国が評議国と不戦条約を結びたいと申し出てきた。

スルシャーナが消え、ぷれいやーという抑止力を無くした事が国民に不安を与えているようだ。それにかこつけた議員達が人間にどんな不平等条約を突き付けるのかは分かりきってる。

 

スレイン法国はスルシャーナ達の遺した最期の人類領域、他の5人が寿命や稼働限界を迎えて命を終える中、アンデッド故に最期まで残った彼とは何度も話し時にアドバイスを貰っていた協力者だった。

彼らの遺したアイテムの回収も行いたいが…弱りきった国にそれは流石に酷だろう。時を見て、話を持ち出せばいい。ただスレイン法国には六大神の子孫が混じっている、万が一その中から強者を見出してしまったら制御ができなくなるから監視も兼ねて条約を組むように議員達に提案してみよう。僕の頼みなら断りはしないだろうし。

 

 

 

 

そして嘗ての仲間、カナミもぷれいやーだ。

天使である彼女はリーダーのように寿命がない分いつどこでタガが外れるか分からない。

だからやらなければ。

次に会う時は彼女にも…嘘を吐かなきゃいけないのか。

仕方ない、仕方ない事だ。けどそれはちょっと、嫌だな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人類はいずれ神の手を離れ、自らの脚で歩き出す。これは確定事項です。

友人すら信じられなかった裏切り者のお前如きがどの面下げて許さないとかほざくんですか。

そして、言いましたわね?

私の友人を殺そうなどと戯けた台詞を」

 

 

部屋の空気が凍る。

窓は外が見えないほど霜で真っ白になり、鎧が擦れ合う音でガチガチと耳障りな音を立て、所々から氷柱が滴り落ちていた。

既に超低温に達していた筈の室内温度はマイナスを振り切って、数値化するなら物理温度の限界値である-273℃にまで達しようとしている。

 

 

「貴方、生きて帰れると思わない方が宜しくってよ?」

 

 

そんななか、怒りによってなかば暴走状態になった異能力で人体に影響どころかこの世全ての生命体が絶命するレベルの冷気を放つレイラ。

言葉だけではない、今の彼女には殺ると言ったら殺る〝スゴみ〟がある。

プ○シュート兄貴の教えも忘れる程に怒りを露わにする彼女に相対する白銀鎧、ツアーは必死に考えを巡らせていた。

 

(不味いな、少なくとも鎧のままで勝ち目はなさそうだ。

始原の魔法を使えば鎧経由で彼女1人なら始末できそうだけど、そうすると後に控える半森妖精に備えられない…こんな事ならリグリッドを待ってから彼女に会うべきだった。)

 

仮に鎧が破壊されても本体に問題はない。それよりも後に控える問題の方が大事だ。

そもそもこの鎧、本当なら信頼できる友人と共にきちんとアポイントメントを取ってから訪れるつもりだったのだが、早く確認したいが故に独断専行を優先してこのザマである。

 

 

『じゃあどうすれば良かったんだよ…』

 

 

レイラにも聞こえないようなか細い声、ツアーの吐露した愚痴にも似た台詞が消え入るように鎧の中へ響く

 

 

 

 

 

 

 

 

〝そこまで〟

 

 

 

「『ッ!?!?』」

 

 

2人が一触即発の膠着状態に陥っていたその時、声と共に《転移門(ゲート)》が開く。

そこから現れた影にツアーは驚愕し、レイラは驚きと共に鎧から脚を離し即座に跪いた。

 

認識阻害の魔法らしい、纏っていた黒いモヤが晴れる。

そこから現れたのは赫と黒を基調に彩られたロングドレス風の修道服、ウィンプルの代わりにティアラを被る。まるで精巧に作られた人形のように美しい女。

薄衣のように白い肌とエルフのように尖った耳、2人を見つめる光のない赫い瞳から彼女が人ではないと直感できる。

 

 

 

『…まさか君まで出てくるとはね、ルーファス。

スルシャーナが殺されて以降現れることは無いと踏んでいたけれど。』

 

 

ルーファス、そう呼ばれた彼女こそ六大神の一柱スルシャーナによって創られ、主人亡き後もスレイン法国に留まっていたNPCその人であった。

 

 

 

〝……… 〟

 

 

 

ツアーの言葉に見向きもしないルーファスは跪いたままのレイラへと近寄って、徐にその頭に手を置く。

 

〝部屋 もどして〟

 

「し、承知致しましたわ!!」

 

先程までの怒りはどこへやら、慌てて落ち着きを取り戻した(矛盾)レイラが指を鳴らすと部屋はたちどころにもとの温度へと戻り、満足したように彼女はツアーの対面にあるソファへと腰掛けた。レイラは付き人の如くソファの後ろ側に控え様子を伺っている。

 

本来ならば目覚める事すらなかった六大神の従属神、ルーファス。

嘗ての神々を失い、仕えるべき主を無くしたNPC達はその深い絶望から自死を選ぶ者、錯乱し周囲に甚大な被害を及ぼした者など様々な症状が記録に残っている。そんな中彼女だけは何故か錯乱も絶望もせず、封印という形でスレイン法国地下深くに留まった。

そのまま幾百年、ただのひとつも暴走を起こさずに眠り続けていたのだが…何故か最近になって目覚め、漆黒聖典の魔樹討伐を期に法国内で活動を再開している。

 

竜王と六大神のNPCという本来(原作)ならありえない奇跡の組み合わせ、そんな状況の中静かにルーファスはその口元を開き…

 

 

〝 くそとかげ ばーかばーか 〟

 

 

『…………なんて???????』

 

 

クッソ幼稚な暴言をお吐きになられた。

 

 

〝メッセージを再生します〟

 

 

と思ったら突然機械的な口調で告げてきた。

 

 

〝あー、あー、この録音をツアー、お前が聞いているということは、俺はもう滅んでいて、ルーファスの保管魔法が解除された後だろう〟

 

 

それはルーファス本人の声ではなく、低い男性の声音だったのだがレイラとツアーはこの声の主を瞬時に理解する。

 

(……もしかしてこのお声、ススススススルシャーナ様!?!?)

 

『彼が、何故……』

 

スレイン法国の守護神にして六大神の一柱、名をスルシャーナ。

500年前に滅び、謎に包まれた彼の肉声などそれだけでスルシャーナ教徒にとっては国宝に匹敵する貴重品だ。

 

 

〝連中、好き放題やり過ぎだ。

少しだけ話する機会を貰ったが、この世界の住人の事を素材としか思っていないようだし、ゲーム感覚が抜けてない。説得は無理だった。

知ってるか?ワールドチャンピオンって響きは良いが、要は9つの世界から選ばれた超重課金者だ。金にものを言わせて、働きもせず延々とゲーム続けるなんてとんでもない。クソみたいなリアル環境の中でそんなこと出来る奴は限られてくるんだよ。

お前には聞き覚えのない単語が沢山出てきただろうが察してくれ。

チャンピオンってのはごく一部を除いて選りすぐりのキチガイ集団なんだ。

そんな連中が8人も集まったらどうなるか想像着くだろう?〟

 

 

彼が語るのは当時存命だった八欲王について。

ユグドラシル最強のチャンピオン8人が興した少数精鋭ギルドはその圧倒的な課金額と昼夜を問わずゲームに張り付く膨大なプレイ時間をもってして行われるゴリ押しは数々のイベントにおいて猛威を奮った。

流石に大人数を有する大型ギルドの物量には届かないが、重課金で固めたNPCとワールドチャンピオンに成り上がる程のキャラコントロール能力、そして〝チャンピオン〟の職にふさわしい強力無比な固有スキルを存分に使った戦いは全プレイヤー中でも群を抜いている。

 

ある意味ユグドラシルを誰より楽しんでいた彼らはゲームにどっぷり浸り、名残惜しくも迎えたサービス最終日。

8人は拠点ごと異世界へと転移する事になる。

 

それはそれは喜んだことだろう。

レベルはそのまま、スキルは引き継ぎ、所持アイテムも豊富、嘗てはその希少性と防御力の高さから難攻不落の要塞とまで言わしめた空中神殿と重課金で武装した屈強なNPC達をそのままに〝ユグドラシルII〟が始まったのだと。

 

自分達以外の者は全て作り物(NPC)と勘違いし冒険心の赴くままに素材を集め、モンスターを斃し、勇者の如く家探しをして村々を荒らし回った。

 

邪魔してきた竜王達には持ちまえの力をもって蹂躙してやった。

命乞いをする者は気まぐれで生かし、報酬がしょぼければその場で斬り捨ててクエスト破棄もした。

 

そうして何年もゲームと現実の区別もつかぬまま、世界中を荒らし回った。

 

 

〝やつら竜王や亜人狩りに飽き足らず俺達が守ってきたスレイン法国にまでちょっかいを出してきやがった。

話し合い…はもうできそうにない。

一応同種のよしみだろうが、竜王戦と違って虐殺に否定的な奴も一定数居るらしいな。侵攻が遅いのは意見が食い違って竦み足になってるんだろう。

全体主義に同調圧力、こういうとこ無駄に人間臭いんだよなあ、近いうちに仲間割れでも起こすんじゃないかあいつら〟

 

〝まあ、アンデッドの俺は間違いなく滅ぼされる。

竜種の皆にも既に酷い被害が出てるだろう。言っても仕方ないだろうが、同郷の馬鹿共が起こした愚行を謝罪させて欲しい。本当にすまなかった。

でもなツアー、どうかこの結果だけが人間の全てだと決め付けないでくれ〟

 

〝あいつらも元は何の力もない一般人だった。

たまたま玩具のおかげでなんでもできる力を手に入れて、舞い上がっちまってる。俺だってそうだった。

アンデッドつっても元は土建務めの底辺小卒だったんだぞ!何度も話したよな!?〟

 

〝馬鹿共には明日、灸を据えてくる。

十中八九殺されるだろうが…俺もここらが潮時だ。竜王達が徹底抗戦したおかげで向こうも死んで、幾らかレベルダウン食らってるだろうがチャンピオンの固有スキルがあるからな…1人でも道連れにできれば御の字か。

人類はもう俺達の加護なんて必要ない。子が親から独り立ちするように、スレイン法国も自分の脚で歩き始める。ちょっとばかし狂信的過ぎるのは不安要素だが…

でもそれでいいんだ、元々俺達は世界の異物だったんだから。お前が言ってた「竜帝の汚物」って表現がピッタリさ〟

 

〝寿命持ちは軒並みくたばって、ねこにゃんとアーラも稼動限界を迎えた。神都の要塞化にレベルを消費しなけりゃもっと永く生きられたかもしれないが…もう終わった事だ。

そして俺も、綺麗さっぱり掃除される。〟

 

〝最近、目を閉じるとよく昔の事をよく思い出すんだ。

サービス名終了後、クランでいきなり異世界(こっち)に飛ばされてから滅びかけの人類を見つけて衝動的に助けちまってさ、神だなんだと崇められてホイホイここまで来ちまった〟

 

〝どいつもこいつもゲーム中毒者の馬鹿ばっかりだったから政治も経済も分からねえ、お互い意見を出し合ってなんとか現地人の前で取り繕って〟

 

〝みんな手探りで必死だった。

でもそれが楽しかったんだよ、誰かと一緒に悩んで考えて、時にぶつかり合ってさ。

「活きてる」って実感、それがあったからアンデッドの俺でも最期まで人類に寄り添う事が出来たんだと思う〟

 

〝だから、ツアー。

この記録を聞いたら、友人を作ってくれ。

ゆっくりでいい。腹を割って正直に、自分の本音が語れるような相手を作れ。

そんで悩みとかちゃんと相談すればいい。皆で話し合って決定しろ、竜の誇りを捨てろとは言わねえがそこはホラ…折り合い付けてさ。

お前さん、頭固いし。一人で全部抱え込む癖があるからな、放っといたら使命感と責任感で潰れちまいそうでよ。

ただでさえ連中に同族殺されまくった後だってのに…やっぱあいつら絶許だわ、全員5回くらい即死キメとくか?〟

 

〝ま、ツアーはツアーだ。

ありがとな。短い間だったがお前には世話になった、竜達の中でまともに取り合ってくれたのはお前だけだったしよ。

だからこうして最期の挨拶を俺の娘に託す。

俺達のガチ装備も全て娘が保管して封印、苦労はしたがワールドアイテムを使ってNPCとしての枷も外した。凝り固まった設定(思考)が少しはマシになるだろう。時が来るまで徹底的に隠蔽させる。法国の宝物殿はフェイクさ、万が一連中に荒らされた時用の囮だ。

ワールドアイテムも1個入れといたから信憑性はあるだろ〟

 

〝もし子孫の誰かが…「人類を正しい方へと導くに相応しい人材」が現れた時、ルーファスの封印は解けるようになってる。

悪魔は嘘や悪意に敏感ってテキストを逆手に取ってな、この子の探知能力なら法国じゅうの人間の中から『ホンモノの救世主』を探し当てるだろう〟

 

〝なに、そう時間は掛からねえよ〟

 

〝お前たちの言う『揺り返し』。

ユグドラシルプレイヤーの転移に備えねえとな、俺が居なくなっても人類がツアーの手助けになれるようサポートするんだ〟

 

〝人類は弱い、言葉に嘘を乗せて裏切りもするし騙しもする。

けどよ、前に進もうとする力はどの種族より強いんだ。

不幸を、後悔を、失敗を、全部全部飲み込んで己の糧にできる種族だ〟

 

〝きっとお前の力になってくれる〟

 

〝このメッセージを聞くのは封印が解けてルーファスとお前が対面した時だろう、連中の侵攻の都合で急拵えの設定だから粗が多い計画だし、タイミングがズレたら時期が遅過ぎ…なんて事にもなるかもしれないがどうか…〟

 

〝お前を傷付けちまった人類を、もう少しだけ信じてあげてくれ〟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝再生を終了します〟

 

 

静まり返る書斎。

レイラは口をつぐみ、ツアーは深く俯いている。

 

法国の伝承によればスルシャーナは八欲王との戦いに敗れ、この地を去ったと言われている。

同じ外からやって来た者同士で設けた短い話し合いの場で、彼は八欲王のスタンスを悟った。

 

彼らは元いた世界でいう所の富裕層にあたる人物だ。

コロニー内において富を独占する支配者達、金にものを言わせ気に入らない事があれば過剰な報復を行う幼稚な精神性、社会人としての道徳など投げ捨てた彼らの所業をスルシャーナは同郷故に何度も見ている。

そんな彼等が圧倒的なレベルと最強のクラス、無敵のNPC達に囲まれて、自分たちより弱い原住民に対して何をするのか想像に難くない。

彼等はそういう生き方しかできない人間なのだから。

 

この世界の支配者たる竜達を絶滅寸前になるまで狩り尽くし、亜人を木っ端の如く粉砕しながら最終的にアンデッドのスルシャーナにまで手を伸ばそうとした。

人間を匿うアンデッド、という存在が気に入らないのか、それとも六大神の保有するマジックアイテムを奪う為か、八欲王はいつも通り幼稚な衝動のままこちらを排除しようとするだろう。

 

そして歴史の通りにスルシャーナは滅ぼされ、敵を失った八欲王はその一件の後宝の奪い合いで仲間割れを起こし全滅した。

 

 

 

 

『……言うのが200年遅いよ、きみ』

 

 

 

ぼそりとツアーが呟く。

 

リーダーのこと、スレイン法国のこと。

忠告をもっと早く聞いていれば、なんて今考えてもしょうがない。

けれど胸を苛む重い後悔だけはいつまで経っても消えなかった。

 

 

〝悪魔は『あくい』や『うそ』にびんかん〟

 

〝たいきょくに いちする 天使も そう〟

 

〝いままでのお前 うそしかなかった〟

 

〝じふんに 『うそ』 ついてた〟

 

〝でも 聖女とはなして 『うそ』 きえた〟

 

〝 だから パパとのやくそく はたす 〟

 

『………』

 

 

全て見透かされている、この小さな悪魔に。

目覚めて少し、ルーファスは法国に残った資料とその探知能力でもって失った500年分の情報を精査した。

眠っている間この世界で起きた事全てを頭の中に叩き込み、自分の立場を理解する。同時に存命の最強種達についての調査も並行して。

仕えるべき主を失った喪失感はある、しかしそれに苛まれるよりも先にルーファスには彼が遺した最後の命題が託されていた。

 

そして機械的に論理的に、ひとつの結論を導きだす。

国民や政府上層部の凝り固まった人類主義思想は正に主が危惧した未来そのもの。自分が眠ってから500年分の積もり積もった偏見を打開できる〝爆弾〟が必要だった。

 

そこで白羽の矢が立ったのがレイラである。

 

悪魔の彼女はその特性上、その言葉や行動に込められた『悪意』を察知し、相手の虚偽を見抜く事が出来る。

その性質を応用すれば『純粋な善意』を持つ人間を逆探知することだって可能だ。というのがスルシャーナの考えた作戦である。

スリープモードの状態のまま他の機能をオフにして、探知能力に特化させたルーファスの悪意センサーは国中を網羅した。

 

スルシャーナ的には「人間って寿命短いからサポート役として娘を着けたいな。代替わりしても寿命のないルーファスは残り続けるから引き継ぎも楽になるだろうし、人類の負担も減るだろ!」くらいの気分だったのだ。感覚的に50年に一人くらいの周期で現れる予定だった。

しかし彼には誤算がひとつ、選定役のルーファスが抱く『善人』のハードルはすこぶる高かった。

 

故に候補は上がれど採用までに至らず、結果何百年も眠ったまま過ぎた後遂にレイラが選ばれた訳だ。

 

「母の愛した領民を守り、人類を護る」その言葉には驕りも偽りも一切含まれていない。貴族産まれにも関わらず民の心に寄り添い、他種族であっても平等に接する懐の深さを持つ。口だけではなく具体的な取り組みにも精を出し、結果領地は豊かになった。この国において神の加護が無くともその脚で歩き出し、しっかりと先の未来を見据えている彼女にルーファスは主の影を見た。

 

純人間ではないから、などと無粋な事は言うまい。彼女こそ人の世を救済するに足る器。

 

そう判断したルーファスの行動は早い。

そもそもサポート役として生み出されたこの身だ、戦闘補助はもちろん、『優秀である』と設定された彼女は六大神の現役時代もスルシャーナに付き添い、他の従属神達と共に数々の政務をこなしてきた。処理速度はピカイチだ。女の身体として生まれたのだから時には〝そういう〟サポートもしなくてはいけないのかとも思っていたがレイラは既に夫持ちであり、杞憂に終わる。

 

レイラとの会談の際もツアーが容赦無く殺しにかかっていたなら即座に戦闘へ介入していた事だろう。

主の命令で探し続け、やっと見つけた『ホンモノ』をみすみす失う訳にはいかないのだから。

 

そして進めなければならない。

命令通り、『真なる人類の導き手』が望む国づくり。その第一歩を。

 

 

〝スレイン法国 は 評議国の ひごから だっする 〟

 

 

相変わらず無表情のまま一方的に話すルーファスの言葉に思わず顔を上げる。

そんな事、レイラだって知る由もない。

だって彼女が提案したのはスレイン法国の完全な独立。竜王の庇護から離れ、自らの手で人類を導くと宣言したのだから。

従属神(NPC)たるルーファスがそう言うとはつまり、宗教国家スレインの総意に他ならない。

会議?承認?多数決?

知らん、そもそも此処は元は神(ぷれいやー)が統治し動いていた国だ。

いちいち多数決など取る必要は無い、この場においてはそれが最善だと彼女は判断した。

 

『それを他の竜王が許すとでも?』

 

〝だから こうかんじょうけん 〟

 

〝《傾城傾国》 あげる 〟

 

「ええっ!?」

 

大きな声で驚いたのはレイラだった。

国宝ケイ・セケ・コゥク、名称《傾城傾国》はスレイン法国に伝わる最高峰のアイテム、ユグドラシルにおいてもその位は最上級となる〝ワールドアイテム〟に位置し複製は愚か現地においては2つと存在しない超貴重品だ。

それを、議論も無しに譲渡すると言った。

 

そろそろ神官長達が泡吹いて倒れる未来が浮かんできたぞ

 

(マジですの!?

確かにカイレ様が亡くなられてから所有者は居ませんし…今更取られても…)

 

〝 ほかにも 宝物殿のアイテム いらないぶん じょうとする これでおあいこ 〟

 

〝竜王 せっとく まかせた〟

 

ぐっ、とサムズアップするルーファスに唸るツアー。確かに提案は魅力的だ。

元々スレイン法国のユグドラシルアイテムはツアーが保管し、管理するべきだと思っている。ツアーたち現地住民にとってユグドラシル産のアイテムは適正のある極わずかな者以外は装備できない仕様になっており、一度所有者が居なくなれば次に発見されるのは何年先か分からない。その間アイテムは持ち主不在で宙ぶらりんのまま国庫の中で眠らなければならず、管理費だって馬鹿にならないのだ。

永き時を生きるツアーはユグドラシルアイテムが世界に広まるより前に産まれているため装備などできない。国宝を渡されても使い道は全くない。故にただ手元に起き、保管する。危険な効果を持つものであればあるほどに目の届く所で管理がしたい。

あと竜種の本能が光り物やレア物を好んでいるのもあるが、本人は気付かない無意識下での事だ。

それに《傾城傾国》の譲渡、これはデカい。

あらゆる者を耐性無視して洗脳、魅了できるこのワールドアイテムは彼が注視していたアイテムのひとつだった。世界級の存在である竜王には効かないだろうが、これがスレイン法国にある限り他国はいつまでも洗脳による裏切りを懸念しなければならないのだから。

これをツアーが管理できるメリットは大いにある。

 

 

〝 それに 腹をわって はなさないと 〟

 

『君と?』

 

ゆっくりと首を振るルーファスが書斎の扉を指差した直後、向こう側からドタドタと複数人の足音が響いた。

 

「ねーちゃん大丈夫!?

なんか屋敷の一角が吹き飛んでるんだけど……って書斎がスゴい事になってるぅぅぅ!?!?」

 

音を立てて扉を蹴破って、転がり込んできたのはクレマンティーヌ。続けてアンティリーネとその後ろから老婆が姿を現す。その瞳には確かな怒りの感情が宿っていた。

 

げっ…

 

そうツアーから声が漏れたのをレイラは聞き逃さなかった。

 

 

「ツアーーッ!

こんッッッの大馬鹿鎧が!

アタシを放って何処ほっつき歩いてるのかと思ったら屋敷をこんなにしよって!」

 

『ま、待ってくれリグリッド!これには深い事情があるんだ!

それから今スゴい大事な話をしてる!だからお説教は後に…』

 

「いいや限界だ!言うね!

だいたいお前さんは独断専行し過ぎなんだよ人の忠告に耳を貸さずに!」

 

『でもこうしてちゃんと接触出来ただろう!?』

 

「結果他所様の家を半壊させてるがね!

お前さんの事だ、相手への配慮も説明も無視して突然現れたんだろ!」

 

『いやそんな事は…』

 

「あら、透明になって邸内に不法侵入し私を監視していましたが。」

 

 

にやにやしながらそう呟くレイラに一瞬顔を向けたツアーは内心毒づいた。余計な事を…

それがさらに老婆をヒートアップさせる。

 

 

『だからそれは仕方の無いことで…』

 

「〜〜ッ!こんのバカタレがぁッ!!

 

 

リグリッド、そう呼ばれた老婆は部屋に入るなりツアーの鎧に詰め寄って問い詰める。

 

まるでおばあちゃんに叱られる孫みたいだなとレイラは思った。

 

 

 

 

 

 

 

漸くリグリッドのお叱りもひと息つき、落ち着きを取り戻した書斎(半壊)にて。

レイラによる状況説明とルーファスの紹介が一部の内容を伏せながら行われた。

クレマンティーヌなどはルーファスに対して死ぬ程驚いていたし、「これ国家機密だよね?漏らしたら消される奴だよねぇ!?」って言いながら終始ドギマギしていたが。

逆にアンティリーネなどは国同士の辻褄合わせには興味がなく、直感で気付いたのか今も鬱陶しそうな目でツアーを見つめている。

 

 

〝 いいたいこと これだけ 〟

 

〝 議会には わたしが はなし とおすから 〟

 

〝あと 聖女に まかせる 〟

 

「承知致しました、ルーファス様。」

 

 

《転移門》を開くルーファスに漆黒聖典の面々が礼をとる中、振り返った彼女は続けた。

 

 

〝人類は まだ あきらめない〟

 

〝お前は どーする?〟

 

無表情だったが、彼女にしてはひどく挑戦的な口調にツアーは苦笑い。

子は親に似るという、その口調にかつての友を思い出した。

 

〝じゃーな くそとかげ〟

 

今度こそ《転移門》の向こうにルーファスが消える。

 

 

 

 

「あー…」

 

気まずそうに言葉を濁すクレマンティーヌ。

説明をうけ、評議国の偉い人(?)らしいこの鎧と自分の義姉が殺し合い一歩手前まで迫っていた事は明白だ。

どうしようかな…と頭を抱えていた時、我らがご令嬢が黙っている訳がなかった。

 

 

 

「観光なさい!!!!」

 

『「「……なんて??????????」」』

 

 

 

どかーん!と椅子から立ち上がり、鎧を指差すレイラに一同困惑。

 

 

「私は世界一切り替えが早い女、これしきの事態で一々沈黙していられますか!

なのに貴方はこの期に及んでもまだ責任感がどーのこーのグチグチ考えているのでしょう、スルシャーナ様直々のお言葉がありながら!!!」

 

「切り替えが早いのは分かる」

 

 

マイペースにうんうんと頷くアンティリーネ。

 

 

「ならば我が領地を観光なさい、視察なさい!

幸いにも本日より3日間、此処はスレイン法国でもっとも賑わい活力のある場所。

実際に貴方の目で確かめると宜しいでしょう、私達が何のために意固地になるのか。六大神様が創り、スルシャーナ様や十三英雄達が守護(まも)ろうとした世界をじっくりたっぷりご堪能下さいませ」

 

今なら超有能ツアーガイドとして私と警備隊長二名が同伴致しましょうそうしましょう!

 

ウッキウキでそう語るレイラの事を見ていたら、何だか難しく考えるのが馬鹿らしくなってきた。

途端、今まで沈黙を貫いていたリグリッドは呵呵大笑に笑い出す。

 

 

「そうだねえ、それがいい!

行くよツアー、お嬢ちゃんに案内してもらおうか。

今はそうした方がいいさね、きっと。

〝折り合い付けて〟さ?」

 

『………はぁ、分かったよ』

 

 

「それはそれとして、屋敷の修理代は評議国にツケさせて頂きますからね」

 

 

『構わない、僕の短慮が原因だ』

 

 

鎧も立ち上がる、今度こそ間違えないために

 

 

『よろしく頼むよ、レイラ』

 

 

今度は作り物でない、花のような笑顔でレイラはツアーの手を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リグリッド様には自己紹介がまだでしたわね。

私はスレイン法国辺境ローグレンツ領当代領主、レイラ・ドゥレム・ブラッドレイと申します。どうぞよしなに。」

 

「あたしゃリグリッド、今回はツアーのお目付け役さ。よろしくねお嬢ちゃん。」

 

「……?どうか致しましたか?」

 

「いやさなんでもないよ。

昔の友人に雰囲気が似てると思っただけさ。

ほんと、姿は違えと雰囲気がカナミによく似てる。」

 

「えっ、なぜリグリッド様がお母様の名前をご存知ですの!?」

 

 

「『お母様ァ!?!?』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はとんでもない一日だったねぇ…」

 

スレイン法国からの帰りの道中、リグリッドがごちる。

本当にとんでもない一日だった、今日だけで数年分働いた気分だよ。

 

あのあと彼女の案内で向かった豊穣祭。

数々の催し物には僕ですら楽しそうだと思うものがあったし、露店の食事はどれも美味しそうだった、本体で来なかったのをちょっと後悔しちゃったよ。《保存(プリザベイション)》の魔法覚えておいて良かった。

そしてそれを営む人達の目には皆活気が溢れていた。

評議国のものとはまた違う、明日に希望を抱き活きる目だ。嘗てのリーダーが宿した瞳の色彩(いろ)と同じ輝き。

 

それは美しく、尊いものだ

 

なにより守らなければいけないものだ

 

強者ゆえの重責も気にすること無く、自由に過ごす彼女ならそれが可能なんだろう

 

羨ましい

 

 

それに国としても十分な利益のある話だった、国宝の譲渡を初めとした新しい条約の締結は両国に新しい風を齎すだろう。

他の竜王や議員達への説得には骨が折れるだろうけど、仕方ない。

 

 

それにしたって……

 

「アンタ、なんであの子がカナミの娘って教えてくれなかったんだい?じゃなきゃもっと穏便に事が進んだ筈だろう!」

 

『僕だってあの時初めて知らされたんだ!説明不足じゃないぞ!?』

 

レイラってカナミの娘だったんだね!?!?

全っっっ然気付かなかったよ!

雰囲気は似てるなとは思ってたけれどまさか本当に娘だったとは…

 

 

 

 

『真実の愛を探して旅に出るわ!』

 

 

 

彼女は旅の答えを見付けていたみたいだ。

 

観光の終着点、街の外れにある教会の地下に安置された彼女の遺体を見せてもらった。

天使だから腐敗しないらしい、亡くなってから20年近く経っているのに目立った損傷は一切なく、とても安らかな表情で眠っていたよ。

 

「願いが叶って良かったねえ、カナミ。」

 

愛おしそうにそう呟く彼女の瞳には涙が滲んでいた。

 

 

『リグリッド、君に話したい事がある。

聞いて軽蔑するかもしれないし、僕を殺そうとするかもしれない。

けど……』

 

「分かってる、拠点に戻ったら幾らでも聞いてやるよ。罵倒と一緒にね」

 

 

 

肩をすくめる彼女と帰路に着く

 

 

もう、間違えないさ

 

 

 

 

いつの間にか、頭に響いていた慈母の笑い声は聞こえなくなっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後。

 

ローグレンツ豊穣祭の3日間にわたる行事も終わり、使節の接待も無事完了したレイラは中央政府より呼び出しを受けた。

 

「あら《占星千里》ちゃん、貴女も呼び出しですの?」

 

「は、はい…

多分仕事の話、だよね?叱責とかされたらどうしよ…」

 

「三年連続アカデミー首席になるほど優秀な貴女に限ってお叱りを受ける事は無いでしょうけどね。

まっ!私首席取っても入隊初日にハチャメチャ怒られましたが!」

 

 

おーっほっほっほ!!

 

 

いつもの調子で笑うレイラに《占星千里》も苦笑いで返す。令嬢特有の溢れ出る陽キャのオーラに一体一で相対するのは根っから陰キャの《占星千里》には些か刺激が強過ぎるのかもしれない。

 

二人は通路を進み、辿り着いたのは中央政府の議員達がいつも会議を行う円卓の間。漆黒聖典として何度も訪れている。

既に開いている大扉を抜けると、円卓に集う神官長達。入室を告げると最高神官長に促され彼等の前へと辿り着く。

 

「ごっきげん麗しゅう神官長の皆様。

第13席次《獄界絶凍》ただ今馳せ参じました」

 

「お、同じく第7席次《占星千里》、御前に」

 

そう膝を着く二人に一拍置いた直後、円卓の真ん中に《転移門》が開く。

出てきた影に神官長が皆跪く、覆っていたモヤが晴れ、隠蔽を解いたルーファスが姿を現した。

 

「ッッッ!!」

 

特別な『目』を持つ彼女なら分かってしまう、ルーファスの人と隔絶した存在感とその力に。思わず息を飲み、呼吸を荒くする《占星千里》にそばにいたレイラは「大丈夫ですよ」と笑顔で伝えた。

 

 

 

〝我が神の使徒たる聖女たちに勅命を与える〟

 

〝王国へ向かい 人に仇なす脅威を駆逐せよ〟

 

〝裁定は《獄界絶凍》に委ねるものとする〟

 

〝虐げられし弱者に救済を〟

 

〝仇なす愚者に誅罰を〟

 

〝薬が人類へ蔓延する前に迅速に遂行せよ〟

 

 

 

荘厳、まさにその言葉が似合う威厳あるお言葉に場が静まり返る中、顔を上げたのは我等がご令嬢。

 

「拝命致しました。

必ずや貴女様の望み通りに事を進めて見せましょう、お任せ下さいませ」

 

堂々と言い放つ、そこに謙遜など微塵も無い。

どんな時でも変わらない、いつも通りの先輩だ。

《占星千里》の肩が少し軽くなるのを感じた。

 

 

〝現地にて第12席次《天上天下》と合流した後 事を進めよ〟

 

〝二人に六大神の加護あらんことを〟

 

 

さあ、行きなさい

 

頷き告げたルーファスの姿が消え、議場を支配していた圧が無くなったのを境に指揮官レイモンが口を開く。

 

「ルーファス様が仰った通り、王国には既に《天上天下》が潜入している。

向こうに着いてからでも構わないが…追加人員が必要なら今のうちに進言してくれ。」

 

「そうですわねえ…でしたら変装や潜伏が得意な水明聖典の皆様を何人かお借りしたいのですが。

おそらくあちらでは諜報合戦になりますからね」

 

「分かった、ウチで手配しておくよ」

 

「ありがとうございます。

では、準備を整え次第出発致しますわね?」

 

「ああ、頼む。《占星千里》もそれで構わないな?」

 

「承知致しました」

 

満場一致、話はまとまった。

 

 

巫女の勅命により、スレイン法国漆黒聖典の力をもって大麻草『ライラの黒粉』の除去及び王国に潜む麻薬組織『八本指』の殲滅が今、正式に決定される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵は国を股に掛ける麻薬組織、そして一部王国上層部…

協力者(ラキュース)にもコンタクトを取るべきでしょう、連中の目を掻い潜る必要がありますわね。

待ってなさい八本指、全力で轢き潰して差し上げますわぁ…」

 

うふふふふふふふ……!

 

(ひえええええ先輩怖ぁ…)

 

妖しげに笑うレイラを横に《占星千里》はちょっと引いていた

 

 









キャラ紹介
※今作における未登場キャラの解説なので原作とは全く関係ありません


ルーファス 《異形種》

【死神の従属神】【麗しき悪魔の大総裁】


役職------六大神が一人《死の神》スルシャーナ唯一の従者にして娘
元スレイン法国財務兼経済兼防衛兼執務担当


住居------スレイン法国中心、大聖堂ドラグノア最深部の秘密部屋及び宝物庫


属性(アラインメント)------善〜中立[カルマ値:+100]


種族レベル------------小悪魔(インプ)Lv10
悪魔の大総裁(デビルズ・プレジデント)Lv5
ほか


職業レベル---------プリンセス・オブ・ダークネスLv10
カオスセージLv10
古式召喚士(エンシェント・サモナー)Lv5
高位司祭(ハイ・ビショップ)Lv10
ほか



種族レベル+職業レベル------計100レベル


HP------50
MP------100
物理攻撃------10
物理防御------95
素早さ------20
魔法攻撃------25
魔法防御------95
総合耐性------90
特殊------100


六大神スルシャーナ唯一の従属神。
異世界時間軸において600年前、龍帝の招いた『揺り返し』により主と共に現れたNPC。
後に同じ理由で現れた5人のプレイヤーとそのNPC達と共に人類国家を築き、以降その守護に当たる。
種族は悪魔だがスルシャーナの惜しみない課金努力により人の形をしており、その見た目も美人といって差し支えない。まさに「俺の考えたさいかわNPC」として彼の欲望を体現した形となった。
因みにスキルの構成上取らざるを得なかった上位種族『悪魔の大総裁』本来の姿は禍々しい6本腕の所々に目が生えたのっぺらぼうの巨躯を持つユグドラシル産の怪物である。
一応そちらの姿にもなれるし、ゲーム時代は「ギャップがあっていいんじゃないか?」くらいで済まされていたのだが、転移以降変身を解いた途端パッシブ効果だった《恐怖のオーラLv5》が溢れ出し周辺住民が皆発狂死、老若男女問わず全身から色んな汁を噴き出した死体が大量に転がる悲惨な光景を作り出してしまい、その後スルシャーナから直々に「二度と元の姿に戻るなよ、オーラ無しでも子供が泣くから絶対にな!?フリじゃねえぞ!?!?」とキツく命令されている為、それ以降常に美少女のまま。ルーファス本人も主が手塩に掛けて造形したこの見た目を気に入っているようだ。

スキル構成としてはガチガチのタンク構成、攻撃面は即死を押し付けるスルシャーナがいたのでそのサポート役として壁になる事に特化した。
本人の防御力と神器級装備に加え召喚士も習得し、呼び出す高レベル高HPの強化召喚モンスターは例えプレイヤーでも突破するまでそれなりの時間を要する。
召喚するモンスターは皆課金アイテムでスルシャーナ好みにカスタマイズされており、パッと見で弱点が判別されないように工夫されていて、この辺りにユグドラシルの高度な情報戦略の一端が伺える。
中でも最上級のモンスター召喚はエフェクトにも拘った彼渾身の出来栄え。背後で歪んだ空間に亀裂が走り硝子を割る音と共に超弩級の怪物達が空間を破って現れる演出は特にお気に入り。
飾りだって大事です、偉い人にはそれが分からんのですよ!

フレーバーテキストについてあまり書き込みはなされておらず、『むっちゃかしこい』とか『悪魔なのに人間が好き』『甘い物に目がない』とか小卒の独身オタクが考えた平々凡々な内容を書き連ねた。その中に『スルシャーナの娘であり、父をパパと呼ぶ』という申し訳程度の父性を込めた文言がある為、転移してからは自身を娘と自覚して事ある事に彼を「パパ」と呼ぶ。このせいでスルシャーナは他のメンバーから性癖を疑われた。

テキストの関係上、忠誠心というよりは親子の情や愛に近い感情をスルシャーナに抱いている。「親子であればいずれ子は親のもとを離れ、独り立ちしなければならない」という考えが心の根底にあり、それが忠誠心に囚われ主人を失った絶望で暴走した他のNPCとの違いだったのかもしれない。
しかし親子の関係はある意味主従関係よりも重いもの、スルシャーナの死はルーファスに大きな影を落とした。故に彼の遺言に誠実に向き合った結果なかなか後継者が決まらず500年経ってしまった。うっかり。

人形のように整った顔立ちは感情をほとんど表に出さず、舌足らずで淡々とした口調で喋る。一応よそ向きの喋り方もできるが「疲れるから嫌」とのこと。
一見無感情にも見えるがカルマ値は高い為人類に悪感情を抱くとかは無く、侮辱も不必要な殺戮も行わない。主の命令であれば渋々従うが。
カルマ値は高くとも悪魔である、ので原作デミウルゴスのように《支配の呪言》が使えるが、相手の意志を無視し強制させることを嫌うので殆ど使わない。使う時は不測の事態において混乱の中、統率力が必要になった時など。過去にも六大神が直々に行う演説などにおいて静聴を徹底させる為に用いられた。
頭の固いツアーの事は嫌いである。

なお、彼女はワールドアイテムを所持しており、他界した他の六大神のガチ武装も管理、保管を任されている。この事はあの場でスルシャーナの遺言を聞いたツアーとレイラのみ知っている事実であり、一切の他言は無用となった。






スルシャーナ
異形種プレイヤー、レベルは当然100。
リアルでは小卒、しがない町工場で日夜日銭を稼ぐ貧困層。
さっぱりとした性格の若者でオンラインゲーム以外にもカードゲームなどの幅広いジャンルを網羅するオタクだった、故にコミュ力が高い。
戦闘スタイルは大鎌《カロンの導き》を用いた近接攻撃とアンデッド由来の死霊魔法で物量攻めを得意とする、プレイヤースキルも高くエクリプスのスキルもあり油断を突けば格上も相手取れるだろう。ルーファスを造ってからはさらに得意の戦法が安定するようになった。
転移後は六大神として崇められるも、異形の姿ゆえ彼らが恐れ半分で自分を崇めている事を顔には出さないが気付いていた。顔に出すもなにも顔は骨になったが。
他のメンバーが寿命や稼働限界でこの世を去る中、ただ1人残り彼等の遺した国を守り、直接干渉は控えつつも人類の行く末を考え続けていた。そして八欲王出現の折に自らの最期を察し、自身のNPCにメンバーのガチ装備を託し隠蔽、果敢にも挑み掛かり敗北した。
その後八欲王は戦利品であるスレイン法国の宝物の所有権を誰にするかで仲違いを起こし自滅、200年目の揺り返しはこうして幕を閉じた。


ツアー
他作品で腐るほど出てるので最早説明は割愛。
精神的にわからせられた。
今作では法国を監視していた理由は人類への不信感5割、竜王としての使命感2割、過去に人類種の集まりだった八欲王への私怨3割で成り立っている。
訪問のあと改心しリグリッドにリーダーの事を全て告白、彼女もお小言多めながらもしっかりと受け止め、納得。
今後は彼女に相談しながら友の守ろうとした人類をもう少し自由に眺める事だろう。



リグリッド
今回のMVP、彼女がいなかったらレイラは破滅ルート一直線だった




次回から王国編
六腕死す、デュエルスタンバイ!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。