破滅フラグしかない悪役国家に転生してしまった…   作:ハンバーグ男爵

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王国編、始まるよっ

でも、仕事の兼ね合いで作者は死ぬんDA☆


お気に入りと評価感想ありがとナス



捏造がぁ、増えていくぅ







19 破滅フラグしかない国へ潜入してしまった…

 

 

 

どうしてこうなった

 

 

頭の中で同じ言葉を何度も何度も連呼した。

 

すべて上手くいっていたはずだ。

強さを求め、強敵を求め、本能の赴くまま闘ってきた自分。求めるものは最早〝表〟の世界には無いと悟り、鳴り物入りで飛び込んだ裏社会。

同僚、あるいは部下との仲は良好だった、衛兵に狙われない安全な隠れ家も手に入れた。

雇い主の組織は麻薬の密売や売春業、奴隷商売で勢力を拡大し、これからも王国の犯罪界に根強く蔓延るであろう大物だ。食いぶちには困らない。

奴らは純粋な戦闘力を欲している。

なら俺達を売るには絶好の機会だ、いずれ成り上がり連中と同じ席に名を連ねるのも容易いだろう。

もう少し人数が欲しいところだか、まあいい。

俺達《五腕》はこれから覇道を歩むはずだったのに。

 

「どうしてこうなった…ッ!!」

 

破壊された一室で瀕死のまま無惨に転がされる腕利きだったはずの部下、そして同じくボロボロの姿で無様に床を舐める自分を客観視する。

 

「〝どうして〟ですって?」

 

ぼそり、と元凶が呟く

 

もはや動かぬ屍(元から死んでるが)となって壁にもたれ掛かるデイバーノックを蹴飛ばして、マルムヴィストの顎と背骨を砕き、ペシュリアンの両腕を細切れにして、肋を数本割られたのか蹲って呻くエドレストームを今も踏みつけながらそいつは…

 

何の変哲もない村娘のような衣装を着込んだ女は絶対零度の視線を俺に向けてきた。

 

 

「そんなもの、決まっているでしょう。

貴方が弱いからですが?」

 

 

なんだと…?

 

 

「自らの強さに驕り、弱者を虐げ今の地位に満足していた貴方。

もうこれ以上は頭打ちだと決め付けて、立ち止まって下を向いたのは貴方でしょう。そんな軟弱者に私が負ける道理なんて髪の毛程も存在致しませんが」

 

 

知ったような口であっけらかんと言ってみせる女に腹の底から怒りが込み上げてくる。

 

軟弱者だと?この俺が?

 

 

「巫山戯んな…ッ!!」

 

 

四肢に力を込めようと踏ん張った矢先、顔面に迫った蹴りをもろに食らい後ろに一回転しながら背中から壁に叩きつけられた。首がもげなかったのは奇跡だろう。

 

クソッ!鼻が折れちまった…

 

おかしい、こんな事あっていいはずが無い。

武闘家の俺には分かる。

動きは酷く緩慢で、達人のそれとは程遠いハズなのに全く避けられない。

ただただ一撃が重く、速い。どう目を凝らしてもあの女の筋肉量ではありえない速度の蹴りが見切れなかった。

 

魔法や異能力の類か?なんて一瞬頭をよぎったが、そんな悠長な思考も許してくれないほど奴の攻めは圧倒的で、激しいのだ。

文字通り〝格〟が違う。

 

「巫山戯てるのは貴方でしょう。

それほど恵まれた肉体を持ちながらやってる事は小悪党以下だなんて、恥を知りなさい」

 

女は吐き捨てる。

それは俺達がこの教会を買収し占拠していたことか、それとも流れてくる孤児達を奴隷娼館へ流していた事だろうか。

何が問題なのだ、弱者は強者に食われるのが世の理だろう。ましてやこの王国ならば尚のこと。

 

 

「その顔、全く反省していませんね。

これだからこの国は…」

 

「《獄界絶凍》」

 

 

言葉を遮るように女の背後の暗闇から現れた男、その手に捕縛されているのは俺達が買収したこの教会の神父だった。

外傷はそれほどなさそうだがこれ以上無いほど顔を青くして怯えきっている。

 

 

「背信者に任意同行して頂いた」

 

「あら、早かったですね。

御機嫌よう神父様」

 

 

爽やかな女の笑顔と共にズシリと音を立て、気温が一気に下がった気がした。

神父はその贅肉まみれの顔からガチガチと歯を鳴らすほど震え、(おのの)いているのがわかる。痛みで薄れかける意識の中、そんな2人を眺めながら〝蛇に睨まれた蛙〟って諺を思い出した。勿論蛇は女の方だ。

 

 

「はっ…はひっ……」

 

「神官団教父として王国でのお勤めご苦労様です。突然の訪問、失礼致しますわ。

そうそう、貴方の教会(おうち)に賊が侵入していましたので不躾ですが先に対処致しました。事後報告になってしまってごめんなさいね」

 

「えぇ!?いや…そのようなお手間を…ハイ。

あ、ありがとう…ございます…」

 

 

全部分かっているんだろう、これ以上ないほど白々しい女の台詞に青色だった神父の顔が土気色にまで落ち込んでいく。

 

 

「あらあらぁ?どうなさいました?随分と歯切れが悪いですね。

賭博場ではもっと元気に喋っておいででしたのに」

 

「ヒッ!?!?」

 

 

見てわかるほど大きく奴の身体が跳ねた。

そう、この男は表の顔こそ教会を仕切る善良な神父を演じているが、裏では八本指(オレたち)と結託して孤児を娼館や違法奴隷として市場へ卸す販売人(ブローカー)。俺たち《五腕》が此処を仮拠点としていたのもその繋がりがあったからこそ。

……酷い賭博癖があるとは聞いてたが、それを嗅ぎつけられたか。

 

 

「よく賭けておいででしたねぇ。

人の趣味にとやかく言うつもりはありませんが、今後は合法な施設を使って遊びを楽しんで下さいね?」

 

「はひっ…はひぃ…わかりまひた…」

 

 

息も絶え絶えになんとか息を吸いながら辛うじて蚊の鳴くような返答を繰り返す神父。

あのデブはもうダメだ、完全に女の気迫に押し潰されている。気を失わないのは女が奴の気絶しないギリギリまで追い詰め、おぞましい笑顔で覇気を制御しているからだろう。

 

 

「それはそれとして。

今まで法国から教会へ贈られた多額の寄付金の使い道と保護と称して消えた子供達の行先を本国で洗いざらいたあぁっっっぷりと御説明して頂きます。

覚悟なさって下さいね♥」

 

「へあぁッ!?!?!?」

 

「《占星千里》ちゃん」

 

「了解」

 

「お待ちください漆黒聖典さま!

話します!洗いざらい全て話しますから本国行きだけは「《重度昏睡(ヘビィコーマ)》」あふぅん……」

 

 

隣にいた眼鏡の女が使った魔法によって強制的に眠らされ、白目を剥いて崩れ落ち連れていかれる神父を横目に連中が何者なのか悟る。

神父が叫んだ単語「聖典」という単語からしてこいつらは隣国スレイン法国の人間だ。

人類救済なんて笑える目標を本気で掲げるイカレ集団に王国が目を付けられる理由は……腐るほどあるな。

 

 

「漆黒…せい…てん…?」

 

 

いつだったか、裏の情報ルートを使って聞き齧った隣国の特殊部隊の噂。

5種類ある特殊部隊の存在しない6番目、曰く人類最強の精鋭部隊で人類救済の為に汚い仕事を秘密裏に行う連中なんだとか。

 

当時は鼻で嗤っていたが、そんな奴等に八本指が目をつけられた?王国も黙っちゃいないだろうがたかが知れてるだろう、下手したら全く気付かないままかもしれん。愚図の集まりだからな。

 

 

「あらあら、聞かれちゃいました。

まあ良いでしょう。」

 

 

胸ぐらを捕まれ、ありえない力で持ち上げられる。

俺の身体をかつてない恐怖が支配した。

これが、人間だって?

 

化け物じゃねえか

 

周辺最強国の特殊部隊が八本指を狙っている。

あの調子だと既に王国じゅうに密偵を放っているんだろう、そして武闘派部門を狙い撃ちで潰しにかかったという事は組織の弱点も把握されてる。

 

 

間違いない、法国はこの国ごと八本指を滅ぼす気だ。

 

 

「《天上天下》さん、お願いがあるのですが」

 

「如何様にも」

 

「彼等と同じ体格、性別の死体を4人分用意して下さる?

アンデッドの彼は私が供養致しますので結構です」

 

「御意」

 

 

死体…4人分…?

 

 

「先輩、それは…」

 

「大丈夫ですよ《占星千里》ちゃん、責任は全て私が背負わせて頂きます。巫女様にも一任されていますからね。

我々はあまねく人類に救済の手を差し伸べなければなりません、それが誰であろうとも」

 

 

 

 

 

「貴方達、楽に死ねると思わない事ですね♪」

 

 

これ以上ないくらい蠱惑的な笑みを浮かべた女の顔に走った特大の悪寒を最後に意識が堕ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人類に仇なす害虫を駆除するRTA、はーじまーりますわよー!!!

 

本日走るのはこちら、リ・エスティーゼ王国に巣食う闇組織『八本指』をメタメタに叩きのめす蹂躙チャートとなっております。

 

八本指というのは王国内に蔓延る巨大犯罪シンジケートであり、原作オーバーロードにおいてひとつの要所となる「ゲヘナ編」、それを発端に起こる「王国滅亡編」の原因になる(される)可哀想な人達の集まりですわ。

 

麻薬販売をはじめ思いつく限りの悪行を組織的に繰り返し、他国に勢力を伸ばすまでに成長してしまった犯罪集団。法国は当初、発見はしていても他国への内政干渉になる為遠慮して王国が対処するのを待っていたのですが、待てど暮らせど一向に対策すらとれない彼等に痺れを切らし、結果原作では国力を落とし帝国に併呑させる目的で行った戦士長暗殺に繋がるわけですね。

 

うーん、どうしてそうなった?

 

国としては最早王国を切り捨てる勢いで計画していたんでしょうけど、何故ガゼフ様を?彼、理由話せば協力してくれそうですのに。コレガワカラナイ。

まあ十中八九、法国首脳陣のお篤い人類守護精神(笑)からくる怠慢でしょう。

 

驕るな!!(無名司祭)

 

 

 

おっと失礼、話が逸れましたわね。

このとおり、作中でも屈指の悪役集団です。なので原作でもその末路は悲惨の一言に尽きます。

たしか深読み悪魔(デミウルゴス)に組織ごと乗っ取られるんでしたっけ?そんで幹部達は虫のプールにご招待されて心まで犯され傀儡扱い、唯一セバスによって真っ先に殺された六腕のメンバーが一番幸せな死に方をしたのでした。流石はセバス、ぐう聖。

 

そんな彼等は王国内の至る所に繋がりを持っていて、そのパイプは商人、巡回使、王国貴族、そしてなんと一部の王族にまで及んでいます。そうですね、みんな大好きバルブロ第一王子の事ですわ。

どうしてこうなるまで放っておいたんでしょう。

 

王位継承権を持つ第一王子が犯罪組織と繋がっている事がどういう事か理解出来ますか?

王族とは言わば国の〝顔〟、気品や威風はもちろんその繋がり(コネクション)に至るまで、他国からすればそれら全てが評価対象になるわけです。歴史の長い王国であれば尚のこと。

 

バルブロ王子はその顔に泥ぶっかけて顔面パックしてる状態なんですよ。

 

麻薬捌くような犯罪組織に汚染された王族なんて他国からすれば論外も論外、一瞬で敵国認定待ったなしでしょう。本人の能力も低いので就任後も手腕で持ち直すなんて不可能そうですし、仮に王位継承してしまえば法国の対王国方針が静かな心を持ちながら激しい怒りによって反転し、麻薬撲滅から原作通りの国家転覆に変わる事間違いなし。

幸い?にもこの事はまだ周辺諸国にも知られていない極秘情報ですので、我々が事を起こす際に上手く使えると良いのですが。

 

…つーか彼を《天上天下》に尾行させて3日も経たないうちに八本指と接触して金を受け取り、その足で意気揚々と違法娼館に通うお姿を確認してしまいました。おそらくかなり昔から癒着は常態化しているのでしょう、周囲の警戒もクソもなく油断だらけでしたし。

ハッキリ申し上げてドン引きです。間者の警戒もせず白昼堂々と王族が賄賂&陰姦なんてマジで世も末ですわ……

 

終わっちまってんなリ・エスティーゼ王国!

 

原作開始前でこの有様ですのよね、そりゃ第三王女も悪魔(比喩ではない)に魂売りますわ!いや彼女なら例え国が正常に稼働していても売りますわね、たぶん。

だって精神異形種(ラナー)だし。クライム君(わんちゃん)との願いを叶える為なら自分の国なんて100%オフの帯付けて常時決算大セール中です。

 

もはや王国の未来はザナック第二王子の手にかかっているのでは…?

 

というワケで、我々はこの組織を撲滅、麻薬による被害を根絶し国を正常な状態に戻す為派遣されました。

いち人間国家相手に漆黒3名の動員は異例の事態に他なりません、諜報目的だとしても《天上天下》とほか聖典の諜報員で事足りるなか私と《占星千里》ちゃんにまで出撃許可が降りたという事はかなり本腰入れて王国を矯正するつもりなのでしょう。

ルーファス様直々の勅命ですからね、皆様の気合いの入れようも半端じゃありません。

 

そんな訳で今回派遣されたのは私こと《獄界絶凍》と魔樹戦でも活躍して下さった《占星千里》ちゃん、そして法国が誇るザ・ニンジャ《天上天下》さんの3名でお送り致します。

そして私の要望により、諜報が得意な水明聖典から数名ほど動員して頂いておりますの。

 

 

「数名どころの騒ぎじゃないだろう」

 

「ナチュラルに私のモノローグに入るの止めて下さいません?」

 

 

数名ですよ、す・う・め・い。

取りなして下さった水の神官長様には後で御礼の品を送りましょうね。

頼んだ時「こいつマジか」って顔してドン引いてましたけど多分私の見た幻覚ですよ幻覚。

 

 

そして気持ち新たに挨拶も兼ねて法国の神官団が経営する王都の教会へ来たわけなんですが、そこにはどっかで見たことのある褐色禿頭とその御一行。

 

 

…………………?

 

なーーーーんでゼロさんいらっしゃったの????

 

なんで???????????????

 

 

…いや、よく考えてみれば不思議な事じゃないんですよ。

此処は原作でも序盤から最も深く描写され、最後の最後まで不遇だった可哀想な国。

悪党共が蔓延り弱者がゴミのように扱われ、如何に腐敗した政治が行われていたか、こと(つまび)らかに語られた王国、及び王都リ・エスティーゼ。

国としての前提が劣悪過ぎて主人公が滅ぼした方がまだマシとまで言われたディストピアです。

 

こんな異世界ロアナ〇ラで経営する教会やそれに付随する孤児院がマトモなわけないんですよね!

残念ながら此処には力の均衡を望む香港マフィアも永遠の闘争を望む元ソ連軍敗残兵も居ないので、教会だろうが孤児院だろうがしっかり八本指に染まって悪党共の隠れ蓑になってました!おf〇ck!!

 

そんで内心中指立てながら突入してみたらあら大変、『六腕』の皆様がたむろってるではありませんか!

といっても5人しか見当たらなかったのでまだもう1人の…えーと、クライム君に倒された人。サキュなんとかさんでしたっけ?が揃っていないようでしたので五腕ですけど。

 

取り敢えず五人沈めて今に至る訳ですがただ今まっこと困り散らしております。

だってこの人達と交戦する気はなかったですし、八本指潰すにしてももっと回りくどいやり方使って、法国の力をこれでもかとアピールしつつ全力で絞め殺してやろうと思ってたんですが…

 

早速チャート崩壊しててレイラこわれちゃ〜う

 

まあシバキ倒してしまったものはしょうがないですね、オリチャー発動しましょう。

まず彼等には死を偽装してもらって……竜王国にでも行ってもらいましょうか。ビーストマンと毎日食った食われたの生存競争していれば悪巧みする暇もないでしょうし、そもそも彼等って原作でも八本指の用心棒みたいなポジションでしたので案外お金次第でどうとでもなるのかも。神父様と結託し孤児院の子供達を保護と称して奴隷送りにしていたのは絶許ですが。

 

 

ならば話は早い、早速彼等を未来へ冷凍保存(コールドスリープ)して竜王国へ即日発送いたしましょう。

 

へっへっへ…竜王国へようこそ。

死にたくなければ戦いなさい、君たち一人一人にバッドエンドスチル(主にビーストマンに捕食)を用意した世界線で歓迎しますわよ…

 

 

『ッその杖は…!?』

 

 

おっと私とした事が、成仏させ損ねたアンデッドが何か言いたそうですわ。しきりに私の撃杖を指さしていますが。

 

 

『その杖にある宝石、知っているぞ!

コレだろう!』

 

 

と懐から取り出したのはなんとルーン石(赤)ではありませんか。

まだ市場に回してませんのにどっから盗んで…いや待って、たしか王国へ出立する直前に速達便でフールーダ様から文が届いてましたね。

 

なんでも私が研究用に譲渡した撃杖を一丁盗難されてしまったのだとか。下手人は皇帝陛下の手腕のもと直ぐに捕らえられて回収されたのですが中に収まっていたルーン石だけ抜き取られて闇市に流れてしまったそうです。

手紙にはアルシェさんのご家族の方がこの事件に関わっていたり、皇帝陛下が過去に類を見ないほど激怒してもう一度貴族の大粛清をおっぱじめる気なんだとか色々と書いてありましたが…もしかしてそのブツがアンデッドのもとへ渡った?

裏市場なら国を跨いで移動していてもおかしくありませんし…状態を見るにこれを売った本人も「ちょっと大きめのルビーだろ」くらいの気持ちだったんでしょう。

ルーン石なんて価値の分からないものにはただの綺麗な石ですからね。

 

 

『頼む!これについて教えてくれ!

中にルーン文字が刻まれていて炎属性の魔力を宿しているのは理解した。

同じ石を持つお前ならこれが何か知っているだろう!?』

 

 

まあ私、開発者ですしおすし。

 

あーそういえばこの人、原作にもいましたね。六腕に所属する知性を持ったアンデッド。名前はたしかデイバーノックでしたっけ?

生者を憎むアンデッドの習性を覆すほど強い魔法への好奇心が彼の人間性を保っているんでしたか。

 

 

『構造から察するに魔法発動の触媒としての用途か、内包する魔力量は永続的な魔化(エンチャント)を施す為のものだろう!』

 

 

お、ビンゴです。なかなか勘がよろしいですね。

 

 

『そしてこの触媒以外にも必要な魔法媒体があるな?

それらを組み合わせる事によって何らかの術式を発現させる、石に込められた魔力が一系統のみなのは発動対象を1属性に絞る事で魔力流動率を上げるためだ!』

 

『興味深い、実に実に興味深いぞ!

アンデッド化して暫く、こんな衝動に駆られたのは初めてだ!』

 

「ふむ…大正解です。

認識を改めないといけませんね」

 

徐に撃杖を抜き、無詠唱の《嘆きの氷柩》で気絶した4人を凍らせ拘束した私にアンデッドは驚愕の表情(腐ってますが)を浮かべます。

 

 

『……ッ無詠唱魔法か!!』

 

 

fooooooo⤴︎︎︎!!技術マウント楽しい〜⤴︎︎︎!!

 

 

『たっ、頼む!

その魔法の原理を学ばせてくれ!

対価なら幾らでも払おう、俺の全てを差し出す!』

 

 

五体投地で平伏するエルダーリッチという珍しい光景を目の当たりにしてしまいました。

勢いが凄いです、正直ちょっと引いてます。

《占星千里》ちゃんも困惑ですよ。

 

 

「先輩、もうさっさと浄化したほうが…」

 

「まあお待ちなさい。

貴方、名前は?」

 

『デイバーノック!』

 

「デイバーノック様。

私は教義として、本来なら貴方を浄化し魂を浄土へ還さなければなりません。

そんな姿になってまでこの世にしがみつく理由はなんですか?」

 

『………俺は知りたい、生前知り得なかった魔導の全てを。

生者を(うと)むのを忘れるほどに、貪欲に知識を求めている。(デイバーノック)はそういう個体なんだろう。

皮肉な話だ、生者を憎み殺める事がアンデッドの本質だというのに、生者から生まれるものでしかこの好奇心は満たせないのだからな…』

 

「この石は何処で?」

 

『先週だったか、馴染みの闇市から購入した。』

 

「やっぱりそうでしたか……

購入した闇市の場所を洗いざらい詳しく吐きなさい、それで手打ちにしましょう」

 

『ッ良いのか!?』

 

「この魔法について知りたければ教えて差し上げます、どうせ彼等と一緒に面倒見るつもりでしたし。

ただし、貴方がこれまで行った悪行の数々は決して消える事はないし、私も此処で起こした事を赦す気はさらさらないですわ。

私から信用を得たければ彼等と共に働きで取り戻しなさい。

先ずは他4人の説得からですね」

 

『承知した…いや承知致しました!

その知識を得られるのならこのデイバーノック、蒙昧なる不死者の身なれど貴方様の下で罪を償わせて頂きます!』

 

 

ははーっ!て感じで平身低頭なデイバーノックさんには後で闇市の情報を吐いて頂きましょう。

 

八本指の内情も話してくれると助かるのですが、どうやらこの時点で六腕の皆様は警備部門を設立したばかりで、まだ組織内の地位はそれほど高くないそうです。彼らはいつ死ぬか分からない裏稼業、お互いを騙し合っていた犯罪者なので、それが利益目的で集ったところで組織内で信頼を勝ち取るには相応の時間が必要でしょう。

 

他人を易々と信用出来ない故に腕っぷしだけで成り上がるには難しく、設立したてでまだ若手の彼らは古参勢にとって未だに使い勝手のいい用心棒扱いなのだとか。

まあ下手に高い地位に居着かれても抜けた時怪しまれるだけですし、このタイミングで始末を着けられたのは僥倖ですわね。

 

 

『ーーーーーー以上が俺の知る闇市の所在と流通ルートです』

 

「宜しい、では暫く眠ってて下さいな♪」

 

『は、それは…ッ!?』

 

 

言い終わらないうちにデイバーノックさんを《嘆きの氷柩》で閉じ込めて、ゼロさん達同様竜王国へボッシュートしておきましょう。

 

「水明聖典さん、王都に噂を流してくださる?

『教会で放火騒ぎ、犯人は周辺に屯していたチンピラ。居合わせた神父とトラブルになり火事に巻き込まれて死亡』と。

話の本筋さえ合っていればそちらで少し脚色を加えても構いませんので。

それと本国から教会復興の支援申請を取り付けて、書類を一式揃えてくださいな」

 

「承知致しました、《獄界絶凍》様。

二日以内に御用意致します」

 

大組織ゆえに、幾重にも張り巡らされた八本指の情報収集能力は脅威です。

なので虚偽の情報を掴ませて彼等は死んだ事にしてしまいましょう。

幸い原作より六腕の地位は低いようなので「ああ、新入りが馬鹿やっておっ死んだか」くらいに思われるはず。

水明聖典の働きにより情報を敢えてあちらへ流して、死体も偽装すればいつもの王国で起こる些末な出来事として処理される。この国ってこういう所ありますからね。

徹底的に隠蔽します、尻尾を掴む前に雲隠れされたら堪りませんもの。

スレイン法国の使者が王宮に遣わされる理由付けにもなりますしね。

 

教会を燃やすのは些か心が痛みますが…

 

「さあ、撤収しますよ。

地下室も無し、我々以外に人は居ないのは確認しました。

悪党に汚された教会なんて綺麗さっぱり燃やして消毒です」

 

「あっさり燃やしちゃうんだ…」

 

「致し方なし、我々の教会が汚職の温床となったのならいっそ燃え落ちた方が教義も穢れぬというもの」

 

 

というわけでパパパッと火を付けて、終わり!

 

 

 

オリチャー発動して若干遠回りになってしまいましたが、早いとこラキュースに接触して本腰入れて活動開始せねば!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新しく出来たレストラン?」

 

「そ、ラナーの紹介でね。

最近オープンしたばかりだけど結構人気なんですって」

 

他愛ない会話を広げながら昼の王都を歩く5人組。

王国アダマンタイト冒険者『蒼の薔薇』は今日も依頼を終え、事後処理を終える頃には太陽は既に真上を過ぎており、少し遅めの昼食をとりに街を徘徊していた。

 

「知ってる、大通りからちょっと外れた所にあるやつ」

 

「なんでも独自のルートで仕入れてるから価格もリーズナブル…らしい、客の会話を聞き齧っただけだけど。」

 

独自のルート、と呟いたティアにガガーランは怪訝な表情を浮かべ、考えを明かした。

 

 

「それってよぉ、まさか〝連中〟が絡んでたりしねえか?」

 

「それもふまえてラナーに依頼されたわ。

八本指が新しく設えた興行なら警戒しておく必要があるからね」

 

 

頷くラキュース。

かねてより友人ラナーから依頼されたのは最近新設された町外れのレストランの調査だ。

なんでも値段のわりに量も多く、冒険者や市民たちから話題になっているらしい。

しかしその出自がハッキリしておらず、もしかすると八本指の息がかかった店かもしれない。

 

例え人気でも犯罪組織の資金源になる可能性があるのなら、証拠を見つけ次第処罰する必要がある。

 

 

「イビルアイ、確か毒や薬物を判別できるマジックアイテム持ってたわよね?」

 

「《炭鉱のカナリア》の事か?

ああ、持ってるぞ」

 

 

 

イビルアイが取り出したのは緑色の小さな水晶が埋め込まれたブローチ。

これはマジックアイテムで、毒や薬物を周囲に検知すると水晶が赤く輝き危険を知らせてくれるという代物だ。

 

 

「食べ物に混ぜてる…とかはないでしょうけど、店の内部で麻薬の取引がおこなわれているのかもしれないし、組織の幹部がいるのかも。充分注意しましょう。

取り越し苦労ならそれはそれでいいわ。

ご飯も美味しいと評判だしね」

 

「私は食べられないがな」

 

「それは悪いと思ってるけど…」

 

「分かってる、いつもの事だ。

お前らが食べてる間は周囲を探知魔法で警戒しよう」

 

公にはできないがイビルアイは吸血鬼、アンデッドだ。食事をとる必要のない身体はある意味便利だが、こういった場面では煩わしい。特にラキュースはいつも残念そうにするのでどうにかしたいと考えているが、ジョークを飛ばしたつもりが逆に申し訳なくなってしまった。イビルアイ反省。

 

アダマンタイト冒険者の自分達が来店すれば、やましい人間なら僅かなりとも何らかのリアクションを起こすだろう。その辺は表情を読むのに長けた忍者達に任せるとして、探りを入れるにはちょうどいい。そう判断したラキュースは4人を連れて中央通りから外れていった。

 

 

 

 

 

 

 

「店員に私好みの美人がいるといいけど…」

 

「店員に私好みのショタがいるといいけど…」

 

「あんた達そればっかりね…」

 

「「相手は犯罪者、ならヤリ捨てても問題ない(キリッ)」」

 

「最低だな」

 

「こいつらの方が犯罪者じみてねえか…?」

 

 

 

 

 

 

王都の外れ、賑わう中央通りから少し離れたところ。

問題なく件のレストランには到着した。

真新しい塗装の施された外観に、レンガ造りの煙突より上る煙、玄関先に整えられた鑑賞樹、ところどころに新築の雰囲気が伺える。

 

 

「悪党のレストランにしては小綺麗にしてんじゃねえか、もしかして取り越し苦労だったか?」

 

「まだ油断はできないわ。

先日のような火事があった後だもの」

 

「教会がチンピラに放火されたやつ?」

 

「幸い保護されていた子達(ショタ)は皆無事だったそう、良かった。焼け死んでたら絶許」

 

先日起きた教会放火事件の話はラキュース達の耳にも届いている。一部情報が偏っているが…

犯罪組織に与するならず者達が屯していた教会で神父とトラブルになり、争ったあと最終的に火をつけた。だが間抜けなことに火の手に呑まれて教会もろとも燃え尽きてしまったという間抜けな犯人の起こした事件。なんとか神父と保護されていた孤児達は助かったが重症を負った神父は本国へ帰還してしまったらしい。

 

教会はスレイン法国が過去に建築した歴史ある建物で、信徒たちの拠り所だったので再建の話し合いを行うため近いうちに使者が王城へ訪れるのだそう。

 

 

「トラブルの原因は八本指の神官団勧誘が原因だろう。回復魔法が使える人間を抱きこもうとして失敗したか…」

 

「だからって教会ごと燃やす奴があるかよ、馬鹿共が」

 

 

忌々しげにガガーランが吐き捨てる。

勢力を増し、最近更に好き放題するようになってきた八本指だ。今後も似たような事案が起きなければいいが…

 

小綺麗な店内に足を踏み入れる。

中は外観より広い印象で、テーブルには席いっぱいに客が詰め込まれ、その間を縫うように店員が忙しなく右往左往していた。

 

 

「あちゃあ、いっぱいだなコリャ」

 

「いらっしゃませ!

何名様で…ウソ、もしかして蒼の薔薇!?」

 

一番近くにいた店員が驚きの声を上げ、店の視線が一気に集まる。

アダマンタイト冒険者になってからというもの、この手の視線には慣れたものだ。が、小っ恥ずかしいのは変わらない。黄色い声援がたつ中、軽く手を振ったラキュース一行は席を案内された。

 

 

(………85点♠

はつらつとした雰囲気と大人しめの眼鏡のギャップがGood、胸も小ぶりながらいいカタチ。

将来に期待大♣︎)

 

(黙りなさい失礼でしょ!

何よその気持ち悪い喋り方は!?)

 

(我が慧眼を用いた由緒正しき採点法、故郷にも伝えられている)

 

(今すぐ伝承破棄しなさいそんなもの!)

 

 

ティア(レズ)がなんか言ってるが気にしちゃダメ。

 

 

「本日は当店のご利用ありがとうございます!

その…大変申し訳ないのですが只今お席がほぼ満席でして、相席でしたら6名様席がございますがどういたしましょう?」

 

「私は構わないわ、皆は?」

 

「いいぜ、匂いを嗅いでたら腹が減って仕方がねえや。早くなんか食おう。」

 

 

店内の美味そうな匂いに当初の目的が若干ぶれ始めているガガーランが同意し、それに続くように双子が頷く。イビルアイは相変わらず仮面を付けて素っ気ない態度だが、食べないから多少はね?

 

元気よく頷く眼鏡の女性店員の後を追い、一番奥のテーブル席へと辿り着く。

相席、と説明されたのでそこには1人で紅茶を傍らにケーキを楽しむ青髪の女性が読書に耽っていた。

 

 

「お客様、相席宜しいでしょうか?」

 

「ええ、構いませんよ。」

 

 

快い返事と共に促され、ラキュース達も席に着く。

「ご注文決まりましたらそちらの呼び鈴でお呼び下さい」と告げ去っていく店員の背を見送って、メニュー表を開いた。

全体的に肉料理が多めだ、物価の高い王国では考えられないほど値段もひと回りほど安い。

 

 

「ねえ貴女、このお店にはよく来ているの?」

 

 

初来店ゆえ何が美味しいのか分からないのでとりあえず相席の女性に問うてみる事にした。

彼女は読んでいた本から目を外し、ラキュースに微笑む。

 

 

「ええ、私も最近通いつめるようになったんです。

肉料理がお好きならこちらの『ボンベグゥ』などは如何でしょう、ボリュームもあって満足できると思いますよ」

 

 

この世界のメニュー表には写真がない。

なので常連の意見を参考にしよう。

 

 

「使われているお肉は竜王国産のものを使用しています」

 

「竜王国?あの国は今ビーストマンでてんやわんやなんじゃねえのか?」

 

「侵攻を察した酪農家達が予め王都近くの農場まで家畜を大移動させたのだと聞いています。

経済を腐らせないために。

取引ができるだけで有難いと女王陛下のご好意で安価で提供して下さるそうですよ」

 

「太っ腹じゃねえか竜女王サマ。

じゃあお言葉に甘えてオレはこいつにしよう」

 

 

景気のいいガガーランはボンベグゥに決めた。

 

 

「お姉さん、他にオススメはある?

なければ貴女を食べたい」

 

「ちょっとティア!初対面の方に失礼でしょうが!」

 

 

いつもの調子な忍者を嗜めるラキュースに女性は口元を抑え遠慮気味に笑う素振りを見せる。

 

 

「真に残念ですが、私すでに夫のいる身の上でして。

ごめんなさいね」

 

「問題ない、私は人妻もイけ…る……ッ?」

 

 

突如として身体が跳ね、さっきまで女性に向けていた淫蕩な目とは裏腹に姿勢を正すティア。それに勘づいたのか双子のティナも一瞬瞠目し腰の暗器に手を掛けた。

 

 

「貴女、何者?」

 

「あら?気付かれちゃいましたか」

 

「顔も雰囲気も全部別物。

でもこの人、過去に1度私達と会ってる」

 

「?どういう事よティア」

 

「その根拠は?」

 

「嗅いだ事がある匂いがした、それだけ」

 

 

忍者の鼻は誤魔化せないという事だろうか、それか単にティアの性癖(レズ)が行き過ぎているだけか。

 

 

「香水まで気を使ったつもりなんですけどねぇ」

 

 

女性が瓶底メガネを外す。

 

青かかった髪色はたちまち輝くような銀髪に

 

瞳はくすんだ色から黄金に

 

例え地味な装束を着ていても隠せぬその気品(オーラ)

 

そう

 

 

「ごきげんよう、久しぶりですわね」

 

 

私、ですわ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「覚えてくださって光栄です、『青の薔薇』の皆様」

 

にこりと微笑み、上品に紅茶を傾けるその顔にラキュース達は見覚えがある。

不幸な行き違いで剣まで交える羽目になった他国の特殊部隊員、そして対八本指の秘密協力者。

 

《漆黒聖典》

 

その内の一人、たしか名前は《獄界絶凍》。

コードネーム呼びなのは出自を誤魔化す以外に呪い避けの為でもあるのだろう。

一見無防備を装っているがその力の差を彼女達は嫌という程知っている、この関係は一時のもの故に警戒は怠らない。

 

 

「貴女が接触してきたということは…」

 

「ええ、本国から正式に許可が降りました。

スレイン法国は王国の麻薬組織撲滅に全力を挙げて取り組むよう、勅命を頂いております」

 

「マジかよ。

周辺最強国のあんたらが協力してくれんなら頼もしいが…」

 

「ですが事は想像よりも大きいようでして。

本来なら直接介入するつもりでしたが、我々はあくまでも秘密裏に〝お手伝い〟させて頂く方針をお伝えしておきますわね」

 

「それは何故?」

 

「王国首脳部の中に八本指と関係のある者らが潜んでいるからですよ」

 

「……そう」

 

俯くラキュース。

彼女も王家に連なる貴族の産まれ、高貴な一族だ。

友人(ラナー)との話もあり薄々想像はしていたが、腐敗貴族の中に犯罪組織へ与する者が確認されてしまったことに不信と落胆を隠せない。本当は信じたくなどないが、自分たちより遥かに優れた情報収集能力を持つ法国に「そう」だと断定が取れてしまったら疑うべくもないだろう。

 

彼女曰く法国の目的は八本指及び関係者の徹底的な撲滅と麻薬に汚染された国の浄化、なのだが国の中枢に食い込むような位の貴族が関わっているとなると下手に手を出せば他国の内政干渉になってしまう。なので表立って行動はできない、との事。

 

 

「法国も面倒ないざこざは避けたい、か」

 

「あくまでも今回の主役は貴女たち、私達は影ながらサポート致しましょう。

まあ、他の方法もあったそうなのですけどね」

 

「…例えば?」

 

「ン〜…没案だし言っちゃっても構いませんか。

陰湿な方法だとガゼフ・ストロノーフ戦士長を暗殺して国力を低下させ、帝国との戦争で併呑させる長期作戦ですかね。

もっと直接的な方法だと…王国全土を法国が一晩で制圧して支配権を奪い取り、無理矢理にでも犯罪組織を炙り出して始末する。とかかしら」

 

「戦士長を暗殺なんて…」

 

「一晩で制圧」

 

「そんな無茶な…とは言わない」

 

「ああ、奴さんなら本当にできちまいそうだ」

 

目の前の女ならやりかねない。

おそらく個として人類最強クラスの彼女なら一晩で王都を凍土に変えて制圧、なんて離れ業も朝飯前だろう。

 

「なるほど、神人の貴様らなら王国の蹂躙など容易いか。相変わらず人類救済の為ならやりたい放題だな法国は」

 

「それほど貴女達の国は末期症状だということです。

少しは反省して頂きたいですね」

 

 

そうレイラは肩を竦めて見せる。

実際、レイラが進言し懇切丁寧に報告書まで作ってルーファスに直訴しなければここまで思い切った介入が決定されることは無かっただろう。

腐敗の現場を聞いてはいても見た事がない中央政府のお歴々ではどんなに鮮明な報告書を提出しても解像度に限界がある。

仮に沸点の低い大元帥や火の神官長なんかが現地の悲惨な光景を目撃してしまったら、義憤に駆られそのまま派兵か火滅聖典投入…なんて選択肢もゼロではない。

それだけ人類への愛が深いといえばそうなのだが…もうちょっとこう、手心というかなんというか…ね?

 

 

「それでは早速、お仕事の話をしましょう。

我々が集めた情報と貴女達の持つ情報、すり合わせをしておかないといけませんからね」

 

 

紅茶で口を湿らせ、一呼吸置いて彼女は口を開く。

ここからは大変機密性の高い話になる、そう察したイビルアイが盗聴防止のため周囲の音を消すマジックアイテムを使おうとしたのをレイラは優しく制した。

 

 

「…?何故止める、こんな店の往来で聞かれては不味い話だろう。

この中に間者がいるとも限らない、双子忍者なら見つけ出せるだろうが…」

 

「ご心配なさらずともこの店だけは王国の何処よりも安全ですよ」

 

「それは何故…?」

 

 

 

首を傾げるラキュースに勿体つけていたレイラは手元の呼び鈴を鳴らす。先程注文を取るために店員から渡されたものだ。

 

金属の鳴る音が店内に響き…

 

 

 

 

()()()()()()()()

 

 

 

 

「……ぇ?」

 

ラキュースは瞠目し、気付く。

 

いたる所から感じる視線。

 

 

先程まで隣の席で酒を交えながら下品な馬鹿話を繰り広げていた3人組の男性が

 

食べ物で口を汚す子供の面倒を見ていた親子連れの家族が

 

顎が弱いのかステーキ肉を噛みきれず右往左往していた老人が

 

厨房で料理に精を出すシェフも、忙しなく店を走り回っていた店員でさえ

 

 

 

見ている

 

 

 

店内のあらゆる人間が、誰一人として喋らずに動きを止めて自分達が座る席を凝視していた。

 

針を落としても聞こえそうな静寂が突然訪れる。

 

 

「「「「「ッッッ!?!?」」」」」

 

 

ガガーランは突然の事に言葉を無くし、双子は焦りつつも瞬時にいつでも戦闘、離脱が出来るように備え、イビルアイでさえ仮面の向こうで唖然としていた。

蒼の薔薇全員に注がれる視線を一身に受け、特大の悪寒を感じたラキュースの頭はひとつの結論に辿り着く。

 

 

「……一体いつからこの国に、何人潜伏していたの?」

 

 

息があがる、堰を切ったようにどっと流れだす冷や汗が止まらない。

 

全員、そうだ全員だ。

この店に入ってから今に至るまで、この空間に居る老若男女全ての人間はスレイン法国から来た諜報員である。双子でも気付かないような演技で、まるでもともとそうであったかのように王国へ溶け込んでいた。

 

立地は王都の端とはいえ此処は王国のド真ん中、そんなところに店を構え目に映るだけでこれだけの数の人間が他国から紛れ込み当たり前のように過ごしている。その事にラキュースは恐怖と同時に強い危機感を覚えた。

 

それでも強ばる顔を必死に取り繕って、頬杖を着いて微笑むレイラを懸命に睨み付ける。

 

 

「お答えしかねます。

我々は利害関係が一致したが故に同じ(テーブル)に着いているだけ、初めにそう契約致しました。

お互いに仕事以外の質問、不要な詮索は無しでいきましょう」

 

 

 

ね?

 

 

 

微笑みと言葉尻から生じる有無を言わさぬ()に思わず頷くしかない。

悔しいが、同時にここまで何の抵抗もなく他国の人間の侵入を許してしまった王国の不甲斐なさを改めて噛み締めた。

 

もう一度、レイラが呼び鈴を鳴らす。

さっきまでの静寂が嘘のように皆が動き出し、店に喧騒が戻った。未だに愕然とする蒼の薔薇の面々を他所に、先程自分たちを案内してくれた眼鏡の店員が持ってきた資料を机に広げ、ケーキを一口含み甘味を楽しんでいる。

 

 

「せっかくの機会ですし、食事でもしながら楽しく作戦会議しましょう。

裏方ながら我々もこれで大手を振って麻薬殲滅に動き出せるわけですし、さしあたっては…貴女たち以外にも表立って動いて下さる仲間が必要ですよねぇ」

 

 

さあ

(あまね)く人類救済の為、よからぬ事を始めましょうか

 

 

悪戯を企む子供のように、鼻歌を歌いながら八本指を潰す計画を立てるレイラがこの時だけでも敵でなくてよかったと心底思うと共に、王国の未来に一抹の不安を覚えたラキュースであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都リ・エスティーゼ王城内

 

とある一室にて

 

一人紅茶を嗜む少女がいた。

 

金色の髪は長く後ろで流れ、唇は微笑を浮かべた桜の花の如く、深い青の瞳はブルーサファイアを思わせる。

まるで絵画からそのまま飛び出したような美少女は優雅な仕草でカップを回し、紅茶を一口。

 

 

「今頃ラキュース達は例のお店へ行っているかしら」

 

 

誰に問うでもなく、一人部屋の中で呟く

 

 

「竜王国から帰ってきてこっち、明らかに様子がおかしいんだもの。なのに親友の私に何も相談してくれないなんて…」

 

 

親友、とても便利な言葉だ。大好きだ。

決定打は1ヶ月ほど前、依頼で竜王国から帰ってきた時の事。

明らかにラキュースの態度が変わった。

変わった、といっても常人には分からない誤差の範囲だが目ざとい彼女は一発で見抜いている。あれは何かを隠している顔だ。

だからいつか話してくれる筈だと待っていたのにラキュース本人からは一向にその気配もない。

 

問い詰めるのは簡単だ、あの子はすぐ動揺が顔に出る。幾つか推論をぶつければ当たりに反応するだろう。

 

 

「隠しているものは何か、なんて聞かなくてもすぐ分かるけれど。

問題は…」

 

 

協力者が誰なのか

 

何処、ではない。誰、なのかだ。

 

王都郊外に最近オープンしたレストラン、メイドや騎士たちの会話から察するに安くて美味しいらしい。中でも肉料理がとても良いものなのだとか。

王国で安く肉を卸せる場所は限られてくる、なので国外から輸入し提供していると考えるのが常道だろう。

ならば肉の提供元は…距離的に竜王国。ビーストマンの侵攻で逼迫したかの国ならば赤字覚悟で取引がしたい、ならそれを上手く手の上で転がせるのは便宜上彼等を庇護するスレイン法国だけだ。

 

結論、あの店はスレイン法国が運営しており、八本指とはなんの関係もない。

 

この国は犯罪組織に汚染されている、それを確かめる為か、既に対処する段階にまで入ったか、諜報員が次々と国内へ侵入してくるだろう。いやおそらくもう入っていて、今日も何食わぬ顔で王国民として暮らしているのだ。

 

 

しかしこのシナリオを誰が仕組み、王国内に大量の諜報員を送り込んだのか。それが分からない。

幾つか掻い摘んだ情報の中で使えそうなものを模索する。

可能性として挙げられるのは行政機関、あちらの国の神官長と呼ばれる身分の者達。

憶測でしかないが王国のような一人の勅命で動くのではなく大人数で話し合い、多数決によって国の方針を決めているのだろう。情報は既に掴んでいる筈なのに今までの動きが鈍かったのはそれが原因だ。

 

それが漸く重い腰を上げた、という可能性も考えられるが、やり方がスレイン法国らしくない。

 

かの国ならばもっと間接的に時間をかけて…そう、遠回しに国力を下げてから帝国に併呑させるくらいの回りくどい手を使ってきてもおかしくない筈だ。

 

だが蓋を開けてみれば大量の諜報員を国内に忍び込ませ、真綿で絞め殺すようにじわじわと八本指を追い詰める浸透戦術。このまま続けば彼等は殺されている自覚すらないまま潰されるだろう。

 

つまり国の決定でありながら、作戦立案している件の人物は決断が早く余程の切れ者である事を示している。

虚偽と真実を上手くすり合わせ、「人が怪しむギリギリのライン」を上手く突いた情報操作。その手腕に少しだけ興味が湧いた。

 

それに便乗し、この国に害成そうとするかは不明。

ただ理解出来るのは、八本指とそれに付随する麻薬を本気で撲滅しようとしている事。

 

これまでにない速度で、綿密に確実に情報を集めている。それも八本指に全く悟らせず、警戒すらさせない程隠密性も高い。

その気になれば国王の尻毛の数まで網羅しそうな勢いだ。

 

スレイン法国は謎が多い故、如何に彼女が原作をして〝異形種〟といわしめるレベルの優れた頭脳を持っていたとしても、推理と予測には限界があった。

事実は小説よりも奇なり、と確かめようにも自分は籠の中の鳥、迂闊に外へは出られない。この時ばかりは背負う身分が煩わしい。

 

 

「じゃあ此方へお招きしましょう」

 

 

ラキュースが件の協力者と接触すれば、なにかしらの反応は必ずある。

 

 

この国はもう末期だ。

汚職と麻薬が蔓延し、経済は低迷、このような事態にも関わらず民を指揮する貴族たちは身の振り方しか頭になく、これ幸いと犯罪組織が台頭してくる始末。挙句の果てに王位継承権を持った自分の兄までもが犯罪に加担しているとくればもはや未来はないだろう。

 

まあ、彼女にとってはそんな事は心底どうでもいいし、どんな末路を辿ろうが些事でしかないのだが。

 

彼女に見えているのはひとつだけ、他の全てを投げ打ってでも独占したい■■■(クライム)との甘い甘い記憶だけだ。彼の事を考えている時だけは心の底から幸せを感じる事が出来る。

 

人でありながら人に馴染めない彼女にとってそれが全てだった。

 

ラキュースとつるんでいるスレイン法国の協力者も、私とクライムの未来のために働いてくれる優秀な駒であれば儲けもの。

 

なのでこんな国には適当に見切りを付けて、何処か落ち着いた場所に亡命でもして2人でしっぽりねっとり(限りなくマイルドな表現)したいなあ…と、紅茶を楽しみながら耽るのであった。

 

 

 

「はあ…いつになったら私の平穏はやってくるのかしら」

 

 

 

誰も居ない部屋の中、鈴のなるような声とそれに反比例するようなドス黒く濁った瞳で吐いた溜息が溶けていく










頭のいいキャラ出すと話が難しくなり過ぎて作者が死ぬんだ
つまりラナーとデミウルゴスは作者の天敵さ

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