破滅フラグしかない悪役国家に転生してしまった… 作:ハンバーグ男爵
…………なんで占星千里が予知夢で漏らしたところだけここすきやたらあるん?君たち?
自分は〝特別〟な人間だ
けれど〝特別〟にも種類があって、強かったり弱かったり、役に立ったり立たなかったりする。
この世界に特別なんて星の数ほど存在するんだ。
私が生まれついて得た〝特別〟は『眼』だった。
文字通り千里先まで見通す遠視能力、遠方の帝国に名高い大魔道士フールーダには劣るけど、人間の気配や
生まれた村では
私は〝特別〟で、なんでもできるんだって息巻いてた。
そうして意気揚々と法国で一番の魔法学院に入学し、知ることになる。
先生は私が見た事のないような魔法をいくつも扱えた
先輩達の決闘を間近で見て、迫力に圧倒された
同級生は私なんかよりずっと賢くて、ずっと努力してた
私が気付いていないだけで、〝特別〟なんてそこかしこに転がってる。
私の〝特別〟なんて此処では沢山あるうちの一つに過ぎなかった。
この眼だけを自分のアイデンティティにするには小さ過ぎて、世界の広さを思い知った。
その事実に打ちのめされて、謙虚に生きていこうなんて思ったのはいつ頃からだろう。
異能力の事は忘れて、無難に友達作って、無難に勉強して、無難に卒業する。
恋愛結婚なんてロマンチックな事は望まないからそれらしい旦那さんを見繕ってもらって、村に戻ったら大人しく余生を過ごすんだ。
なんて思っていたのよね、1年生の半ば辺りまでは
『ごっきげん麗しゅう中等院生の皆様!!!』
教堂内がザワつく。
大扉を蹴りあける勢いで現れたのは、本来出くわすはずのない高等院の先輩たちだ。
『あの、昼休憩だからといって流石にいきなり中等院に押し掛けるのは些か礼儀に欠けるのでは…?』
困ったように笑うのは飾り気のない清楚な振る舞いと溢れんばかりの母性で男女問わず大人気、学内聖歌部隊の歌姫にして『聖母』と名高い愛され生徒会長。
ヴィーナ・フロデューテ・ロモワ
『……今のレイラちゃんに何言っても無駄よ。
諦めな、かいちょ』
雑な三つ編みのボサボサ髪に無愛想な面した女生徒は、入学して以来ずっと学年模試一位を独占して教員からも恐れられる学院きっての『神童』、なのに上級生から目の敵にされては返り討ちを繰り返し彼女が通った後には喧嘩の魔法跡が絶えないと噂される問題児。
セレスティア・デメチ・エウレシス
そして…
『おーっほっほっほっほ!!』
レイラ・ドゥレム・ブラッドレイ
この法国立魔法学院で歴代トップクラスのぶっちぎりでヤバい女。
実力もさることながら、その奇抜な行動は教員ですら制御不能。
「目が合ったと思ったら既に背後に回り込まれてる」
「高笑いで
「竜種を素手で殴り殺せる」
「実際亜人は殴り殺せた」
嘘か真か数々の噂話は学年を超えて伝わっている。入学当初、周りの生徒たちもその先輩の話題で持ち切りだった。
入学式典で教頭のカツラを剥ぎ取り代表挨拶としたこと、他にもセレスティア先輩とタッグを組んで上級生に決闘をふっかけては彼らのプライドを片っ端から叩き割り、怪しげな実験に学院長を巻き込んで髭が一万二千色に光り輝くようにしたり、魔法学院七不思議の1つであり六大神様がこの学院の何処かに隠したとされる埋蔵金、通称〝ライノォ・ゴーン〟を見事発見し法国史に遺る偉業を成し遂げたとも。
三者三様にこの学院では有名人で、夜空に輝く星みたいな人達だ。
中等院のいち学生である私なんて廊下ですれ違うくらいの頻度でしか顔を見ない関係だと思ってた。
いったいどうしてこんなところに……
『ルリ・ヘティス・キスタインさんはご在席かしら?』
なんでさ
滅多にない上級生の訪問に静まり返る中、クラス全員の視線が一気に私に向けられた。ヤメテヨ…
目が合って私がぎょっとしてる間にクラスメイトが道を開け、先輩達がズカズカとやってくる。
うわ〜瞳キレイ〜スタイル良過ぎない?本当に学生?ていうか私と同じ人類か?(現実逃避)
『ごきげんようキスタインさん、ちょっと面ァ貸して頂けます?』
人当たりのいい笑顔で歴戦の不良みたいな台詞を吐きながら迫ってくるのはやめて下さい、温度差で死んでしまいます。
『レイラ、取り敢えず事情を説明しない?
何も分からないままキスタインさんも困惑してますよ?』
『おっと失礼、順番が逆でしたわね!
ルリ・ヘティス・キスタインさん、私達と……』
おバンド致しましょう!!
『『『『なんて?????????????』』』』
クラス全員の気持ちがひとつになった瞬間だった
……なんて?
話を一通り聞いた感じ、先輩達は毎年行われる学院大祭で行われる公聴演奏会に挑むため一緒に楽器を演奏するメンバーを募集しているらしい。
法国魔法学院は国創りの神々である六大神様のうち四柱が考案し、創り出したとされる人類最初にして最古の魔法教育施設であり、国の最重要指定文化財だ。
都市から離れ、自然豊かな立地と広大に広がる古城をイメージした巨大な校舎は六大神様直々に設えた代物らしく、『ある神は魔法で天を拓き、ある神は水と大地を興し、他の四柱は土と瓦礫の山からこの城を作り上げた』と文献に記されている。
『やっぱ魔法学校なら古城だろ!』
『隠し部屋とか山ほど設置しましょ!』
『9と4分の3番線を作るんだよォン!?』
『近くの森にユニコーンとヒュポグリフ放そうぜ!』
『マイ〇ラ1000時間の実力見せてやんよ!』
『うるせえヒキニート共、リアル土建屋の俺が通るぞ!
先ずは図面引いてからだ!』
当時の神々のお言葉が遺された貴重な資料より抜粋したものだ。
六大神様は市井に親しくとても寛大な神であったそうで、教育機関の設立にも喜んで力を貸して下さった。それが今日の法国の基礎を形作っている。
法国で六大神様が永く深く信仰されるのは、こういった市民に寄り添ったエピソードが多く残っているからだ。
そんなこんなで完成したこの法国魔術学院には年に一度、作りたもうた神々に感謝を捧げるべく全学年を挙げて大祭が行われる。
期間は一週間、校内を開放し教員や生徒以外の外部の人間を招いて行われる大規模な儀式、と言っても形式ばったものではなくて生徒達がクラスごとに創意工夫を凝らした露店を出店して売上金を稼ぎ、その一部を神へ献上する、というものだ。
他にも吟遊詩人による演目や神々がもたらした『ガッキ』という音が鳴る道具を用いて語られる趣向を凝らした芸なんかもある。
その発表会に先輩達は出演したいらしい。
『でもなんで急に…』
『ナッちゃん、今年が最後の大祭なんですよね。
今まで堅っ苦しい聖歌しか歌ったことないそうですから、最後くらいはっちゃけた演目で絶唱したいでしょう?』
『だから公聴演奏会を乗っ取って、かいちょに学生時代最後の思い出作りをさせてあげたいってワケ。
ま、本音は形式ばってつまんなくなった演奏会をぶっ壊してやろうと思ってるんだけど』
『ちょっ、セレス!?貴女そんなこと考えてたんですか??
いやに乗り気だと思っていたら…』
『でもなんでわざわざ中等院の私の所へ?』
『貴女入学申請書の得意分野の欄に〝ギィタ〟って書いてたじゃないですか』
『なんで先輩達が私の入学申請書見てんですか!?』
『そこはホラ、会長権限でちょちょいっと…』
『ロモワ会長はともかくお2人は役職持ちでもなんでも無い一般生徒のハズですよねぇ!?』
個人情報の漏洩じゃない!
確かにギィタは弾けるけど、たまたま村に置いてあったのをおじいちゃんに教わりながらちまちま弾いていただけだし…
他にも楽器が弾ける生徒はいるだろう。
わざわざ私じゃなくてもいいハズだ。
『別に私じゃなくても…』
『他の連中は楽器はできてもお粗末な信仰心のせいで既存の曲しか弾きたがらない。
私達がやろうとしてるのは作曲から演奏まで全部オリジナル、それに着いてきてくれる子が欲しいの』
『も、もちろん貴女に信仰心が無いと言ってる訳じゃないのよ?
他の皆さんはすこーし頭が堅くって、どうせやるならマンネリになった公聴演奏会にも新しい風が必要かなーって思って…』
『そこで!
1年生のキスタインさんなら適任かと考えた次第ですの!
どうかしら、私達と一緒に学院の
なんでいちいち不良みたいな言い回しなんだ…
そう言って自信満々に手を差し伸べるブラッドレイ先輩には一切の迷いも下心ない、
…眩しいなあ
きっと先輩達は特別の中でも更に〝特別〟なんだ
そんな彼女達に私が混ざるなんて烏滸がましい
夜空に輝く一番星に手を伸ばしたところで届きはしないのに
けど
それでも
『…わかりました、やります』
私は、
これが私と先輩達との初めての出会いで、平凡だった学院生活を波乱の毎日に変えるキッカケになった出来事。
この日を境に私は色んな非日常に巻き込まれる事になる、それは漆黒聖典に選抜された今でも続いていて…
「使者の方々、はるばる法国よりよくぞ参られた」
此処は王城リ・エスティーゼ、そして目の前の玉座に座っている老人はこの国の国王であるランポッサ三世。
現在私は外套に身を包み、法国の使者として王城へと招かれている。
これも《
「歓待に感謝致します国王陛下。
陛下におかれましてはご家族共々にご爽健そうでなによりにございます」
対面する国王の隣には王国最強の剣ガゼフ・ストロノーフが控え、第一王子、第二王子、第三王女が椅子に座り並ぶ。
そして私の周囲に並んでいるのは六大貴族を初めとする国内の貴族たち、そしてその周りを衛兵が囲っていた。当然ながら厳戒態勢だ。
「顔を上げてくだされ。
それにしても随分と若い司祭殿ですな」
「私はつい最近司祭に就任したての新人でして、経験を積ませていただく事も兼ねて今回の訪問に同行する運びとなりました」
「ほぉ…歳も儂の娘と殆ど変わらないだろうに、立派なものよ」
「恐縮でございます、国王陛下」
第三王女と一瞬目があって、此方に微笑みかけてきた。
裏では先輩と一緒になって国を潰す勢いで八本指殲滅を企んでいるってのに、彼女もとんだ演者よね。
「わざわざ新人を連れて来るとは…法国は王国を舐めているのか?」
ボソボソと貴族たちからそんな声が聞こえる。
覚悟はしてたけどこの国の貴族たちは本当に酷いもんだ、文句以前に御前会議で私語そのものが御法度でしょうに、空気も読めない無能なんだろうか。
ま、今に始まった話じゃないけど。
そんな声が聞こえたのか、ランポッサ王はわざとらしく大きな咳払いをひとつ吐き続けた。
「さて、使者殿。
事前の書状によれば此度の訪問の目的は先日焼け落ちてしまった教会の新設についてだったか。
しかしかの施設は余が国王として就任するより昔に建てられたものゆえ知識不足でな、詳しい経緯を話してはくれまいか」
「承知致しました、国王陛下。
かの教会が設立されたのは約200年前、当時国王であらせられた初代ランポッサ王とスレイン法国との友好の証として贈られたものになります」
当時はまだ貴族達の汚染もなく、肥沃な土地を活かし優秀な人材を生み出す国として王国が期待されていたため、法国の支援策のひとつとして礼拝堂とそこに所属する神官団の派遣が認められていた。
《
それが代替わりするにつれて国とともに腐っていって現在の惨状に至り、先日の火事(自作自演の焼き討ちだけど)に繋がるのだけどね。
「建造されて200年余り、法国でも類を見ない歴史ある建造物でした。
それが放火によって焼け落ちてしまうとは…事実を知った神官長達もたいそう心を痛めております」
「しかも件の下手人はかの犯罪組織『八本指』だそうではないですか。
悲しみ以上に心無い蛮行に神官長の皆様は憤っておられました」
「むう……」
一応犯罪組織への危機感はあるんだろう、唸るランポッサ王を見る限りはそう思った。
なので、と私は続ける。
「
私が先輩から託されたこの役は別に大したものじゃない。
けど気配を他人より察知しやすい私にしかできない〝特別〟な仕事、王国浄化の為の最後の裏取り。
できるだけ甘い汁で悪人を釣り上げること
「せめて形だけでも元通りにしたい、というのが神官長の総意です。
工費は我々が負いますので、どうかもう一度礼拝堂を建て直す許可を頂けないでしょうか?
そしてスレイン法国も八本指撲滅に微力ながら支援させて頂きたい。」
議場がザワつく、「内政干渉だ」とかの意見も聞こえるが国王の一喝で黙らせた。
勝手な発言に隠す気のない野次、本当に無能なのね、この国の貴族って…
「失礼した、使者殿。
八本指には我々も手を焼いている、協力して下さるならばこれほど心強いことは無い。
して、協力とはどのような形で?」
「部隊投入などは先程どなたかが仰っていた通り内政干渉に当たりますので、鎧や武器などの物資支援が主になりますね。
それから負傷者を治療する神官団も教会再建の暁には数を増やして配備させていただきます」
「それは王国としても有難い事だが…
因みに工費はいくらかかりそうかね?」
「あの大きさの礼拝堂で元通りに再建となると…
金貨100万枚ほどでしょうか、ステンドグラスや調度品の発注には専門の業者を雇い入れる必要がありますので」
まあ、大嘘だ。
あの礼拝堂に金貨100万枚は流石にやり過ぎ、王国の業者へ委託する事を加味しても余り金が山ほど残る。
わざわざ白金貨に換算せず提示したのはそっちの方がインパクトがあるから。
そう、使い道の無い用途不明金が大量に
それこそ、少しばかり着服しても大差ない程の
そしてこの事実は建築の指揮や総括を行っていた者なら直ぐに辿り着ける
八本指のアガリ、つまるところ資金源は多岐に渡る。
麻薬の栽培や販売は氷山の一角に過ぎず、奴隷売買、違法娼館の運営、売春の斡旋、ブラックマーケットを利用した関税を取られない物資の密売など。
その中でも特に規模が大きく、より人とカネが動く事業が土木建築だ。
健全な土木業者に様々な理由を付けて法外な仲介料をせしめる悪徳商法。
「既にこちらで財源を用意しております、国王陛下の許可さえ頂ければ明日にでも王国各地の土木業者へ連絡を取り着け後着工可能です」
「なんと…既にそれほどの準備を進めているとは…
しかし、我々は見返りに何を出せば良い?」
「正直な話、神官長の皆様は現在のリ・エスティーゼ王国に良い感情を持っておられません。
麻薬を国外へ流出させる悪行を国が容認している、など私も有り得るなどとは思っておりませんが、彼等は言外に『自らの潔白を証明せよ』と仰っているのでしょう」
麻薬による汚染拡大は最早王国だけに留まった話ではなくなってしまった。
とめどない被害は犯罪組織の行いだけでなく、王国そのものがその悪行を容認、または援助しているのではないか、そう神官長達は零す。
麻薬が流通しているという情報を水明聖典が得てからというもの法国は逐一王国内の最新情報を仕入れているけれど、待てど暮らせど一向に改善の兆しはみえない。
それどころか第一王子にまで癒着の関与が疑われている有様だ。
先輩の判断で第一王子の関与はまだ「疑いがある」状態だと本国へ伝えているけれど、本当はズブズブの癒着地獄に浸かりきってるんだよね。
なんかもう落胆とか通り越して笑えてくるわこの国。あぁ、先輩の目がみるみる死んでく!
…であるならば、このタイミングで王国は自分達の身の潔白をハッキリさせておかなきゃならない。
「スレイン法国は血縁関係による国同士の強い結びつきを望んでおります。
具体的には…その……
ラナー第三王女と法国貴族の婚姻を結び、血の繋がりを強化したい。との事です。」
…一部の貴族達の雰囲気が変わった。
六大貴族、及び各小領地の貴族達のプロフィールについては頭に叩き込んである。
性格、能力、思考、体調、家族構成、影響力、癖、趣味の傾向、家族との距離感、部下の扱い、王への態度、忠誠心、反逆心etc…
水明の皆さんに調べてもらった情報は1人1人全てプロファイルして頭に叩き込んだ。
そうでもしないと先輩達には追いつけない、力で劣る私は頭を使うしかない。
幸い私にはこの眼がある。
僅かな呼吸の乱れ、挙動から相手の感情のゆらぎを察知するのはお手のもの。
ブルムラシュー侯とリットン伯は事前調査で完全に〝クロ〟だ。
前者は拝金主義の裏切り者、帝国に情報を流しながら犯罪組織ともつるんで金を巻き上げてる大戦犯。既にこっちでコネクションも全部把握してるし粛清されるのは確定。監視対象から外す。
後者のリットン伯、自領に多数の農村を偽った麻薬栽培施設を設立してる。能力が低く承認欲求ばかりが高い、自分の価値を上げようと民に無理な重税を繰り返す。小さなプライドに反比例するように密売所は多数。そんなもので貴方の価値が決まるわけないのにね。
ウロヴァーナ辺境伯、〝クロ〟。
僅かに脈が上がって呼吸も速くなってる。
領内の密造施設は6箇所と小規模、動揺の仕方からして本人が直接関与しないでも息子のうちの誰かが八本指と癒着している可能性アリ、それを知りながらも見て見ぬふりしてるかなし崩しに自分も加担する嵌めになったんだろう。王からの信頼や人間的な魅力は貴族の中で一番なのに、巻き込まれて可哀想なおじいちゃんね。
因みに調査によって彼の息子の中で最も八本指に近しいのは三男と四男だと判明済み。そこから芋づる式に関わった人間を釣り上げる予定。
ペスペア侯、〝シロ〟。
六大貴族の中では一番の若輩、正直者なのか八本指の情報を得てから今までずっと領地の隅々まで警戒し続け、密売施設を作らせてない。
別の形で犯罪組織への関与が疑われたけど今のところそれらしい証拠は無し、周囲の家族、親族、関係者も調べあげたところまさかの全員真っ白、王国では数少ない根っからの真面目な一族なのよね。
だから彼の脈拍が上がっているのは周囲のひりついた雰囲気に影響され若輩者故の経験値の無さから来る不安や焦燥の表れ。問題なし。
レエブン侯、〝シロ〟
六大貴族の中でも異質な男、貴族派閥と王族派閥を飛び回るコウモリ。領内の密造施設の数はゼロ、家族親族と冒険者上がりの護衛、並び周囲の関係者にも犯罪組織に関与した形跡なし。清廉潔白。
寧ろ彼の尽力のおかげで今まで六大貴族は瓦解を免れている、それに気付いている者は国内に僅かしかいない。
そもそも気付いてたら「コウモリ」なんて揶揄はしないわ。
ポーカーフェイスを崩していないけどきっと今も法国という異物をどう処理しようか必死に頭を働かせているんでしょう。
そして最後にボウロロープ侯。
六大貴族中最も広大な領地を持つ貴族派閥筆頭、元軍属の成り上がり貴族。
先の帝国との戦争で戦果を挙げ続け貴族の地位にまでのし上がった勇将であり、根っからの軍人気質故に少々思考が凝り固まっている歩兵戦力至上主義者。
王国で魔法詠唱者がぞんざいに扱われるのもこの男を筆頭に軍関係者が魔法を軽視しているから。新しい技術を受け入れられない堅物。
娘をバルブロ第一王子に嫁がせて地位を確固たるものにした。
この男が第一王子と八本指を接触させて、王族の顔に汚職で泥を塗った張本人。
調べてみたら出るわ出るわ密造施設と密売所の山、六大貴族の中で最も八本指と関わりが深い人物は彼だと断言できる。
黒も黒、真っ黒の犯罪者よ。
他の小貴族も相応に動揺しているようだけど、一番呼吸が乱れてるのは彼。さあ、どうする?
……冷静に考えて上位貴族の七割が八本指の駒って、この国終わってない?今に始まった話じゃないけどさ。
「ラナーを法国へ嫁がせよ、と申すか…」
低く唸るようにそう呟くランポッサ王。
当然だろう、彼がラナー姫を溺愛しているのは周知の事実だ。それを政略の道具にするなど納得出来るはずがないし。王国と法国の力関係上、これは政略結婚というより人身御供に近い。
でも今は状況が状況だ。八本指に国を食い荒らされ他国が口を出してくるほど深刻な状態に陥ったこの国の現状を理解している彼ならば、王として何が最善かなんて分かりきっている。そして何よりも…
「陛下、この申し出受けない手はありません!」
「さようですぞ、法国の支援を受けられるのならば決断すべきでは?」
貴族達は乗り気になる。
口々に騒ぎ出す貴族達。
真面目な貴族はラナー1人の犠牲によって法国という巨大なバックアップを受ける事ができて安心するし、そうでない貴族も目の上のたんこぶだった彼女が消えて国外に行ってくれるならそれに越したことはない。
そして目の前には建築費用とは名ばかりの用途不明金貨100万枚という大金が転がっている。
邪魔者が消えて餌も貰える、そんな美味しい話を前にして欲深い彼らが黙っているとでも?
「急な申し出ゆえ、陛下におかれましては慎重に慎重を重ねた議論が必要かと思います。
2日後再び王城へ赴きますので、その時に返答をお聞かせ下さい。
滞在期間中、我々は『黄金の輝き亭』を宿にしておりますので要件があればそちらへ御連絡を」
「………承った、厚意に感謝する」
「良い返事を期待しております」
貴族のヤジも耳に入らないほど考え込むランポッサ王に別れの挨拶を交し、お付きの司祭達と玉座の間を後にする。
去り際、間の抜けた表情をする兄ふたりの横で佇むラナー姫と一瞬だけ目が合って、表面上悲しそうな顔をした彼女は満足したように僅かばかり頷いた。
計画通り、と
謁見前日、漆黒聖典潜伏拠点
『第三王女を法国へ嫁がせる…?』
『ええ、それが現状ラナー姫を最も安全に王国から脱出させる手段でしょう。
国と国の取り決めで連れ出してしまえば八本指も手は出せないはず。むしろ有難がられるのでは?今までも散々煙たがられていたようですし』
『でも姫の身柄と引き換えに法国の支援を受ける契約なんでしょ?
今までずっと隠してた私たちの存在を仄めかして大丈夫なの?』
『大丈夫じゃないです』
『えぇ……』
『だから教会の再建築を本国に打診したんですよ。
レイモン様に打診して、再建予算はなんと金貨100万枚ですわ☆』
『高っっっっか!!御殿でも建てる気なの!?』
『「バックアップは任せろ」って仰ってましたからね、必要経費ですよ必要経費』
(水明の長に引き続き…おいたわしやレイモン殿)
『まあ金額は置いといて。
多くの人と物とカネが動く大型事業、それを王国に放り投げたら彼等がどうすると思います?』
『着服しようとするね、間違いなく』
『そう。
金貨100万枚という餌で彼らを釣り上げて、更に厄介だったラナーが他国へ行くかもしれないという情報を与えます。
貴族から情報を抜いている八本指幹部たちはどう思うでしょう?』
『…動揺は広がるね。
今後の対応や取り分の話をする為に集まるのかも』
『
ところで王都地下に広がる広大な地下通路の存在はご存じかしら?
先代ランポッサ王が帝国の侵略を恐れ作らせた緊急用の脱出路。万が一の時のために籠城戦まで考慮されたうえで蟻の巣の様に複雑で入り組んだ作りをした、王都中に繋がる迷路です。
使われないまま100年近く経った今では王族すら話にも出さない忘れられた存在でしたが、その何処かで八本指は会合を行うのでしょう、隠れ潜むのにぴったりですから。
ラナー姫から預かったこれ、渡しておきますね』
『この地図…王都近郊の地下通路の見取り図と開通履歴じゃない!
国王の調印がしてるって事はこれ、原本…?
……あのお姫様、もしかしてここまで先読みして先輩にこれを?』
『でしょうねえ。ホント、賢い娘』
『ホントどこまで優秀なのあの人…
了解、会議ができそうな広間の特定と地上出口の包囲は任せて。
聞いてるわね《天上天下》』
『無論、半日で完了させる。
水明は姫の護衛以外全て動員するが構わないな?』
『ええ、お好きになさって。
…ああ、後で護衛役の水明の方々と話をさせて貰えます?一言伝えないといけない事ができましたので。』
『待機させておく』
『よろしい、明日から王都は騒がしくなりますよ。
私の予想だと約束を取り付けてから王国正規軍が動き出すまで2~3日ほど猶予があるはず、その間に任務を完遂し証拠を全て消しなさい。
「犯罪組織は善なる国王の手によって完膚無きまでに叩き潰され、もう麻薬が市井に蔓延ることはない」、その結果のみを民の耳に届け安寧を与えるために』
その為に我々は神の使徒より遣わされたのだから
王都王城内、玉座の間
「王よ、どうかご決断を!」
「この期を逃せば王国は二度と立ち行かなくなります!」
若い貴族たちからそのような声が飛ぶ。
法国の使者は既に帰路につき、与えられた猶予は2日間。その間にランポッサ王は大きな決断をせねばならなかった。
「父上、これは国の有事なのですぞ。
ラナー1人を犠牲にすれば法国の支持が得られます、安いものだ」
鼻を鳴らしそう嘯くのはランポッサの子であり長男、バルブロ第一王子であった。
雄弁に語る彼には思惑がある。
前述の通り八本指と彼とはズブズブの癒着状態であり、単刀直入に言って彼が国王に就任した暁には晴れてリ・エスティーゼ王国は八本指のものとなる。
義父にあたるボウロロープ侯と結託し王位を手にれる為ならばどんな手段も講じる彼にとって、賢く美しく、且つ民から人気のある妹がすこぶる邪魔だった。
元々ラナーは継承権を放棄し継承争いにも我関せずの姿勢をとっているものの、その求心力をバルブロは危惧している。
そんな彼にとって今回の縁談は渡りに船であり、余計な事をする前に妹を法国へ追いやってしまいたい。そうすればあとは自分の手腕のもと、法国をバックに帝国へ向けて圧力を掛けられる。
この男は法国が今の状態の王国のまま黙って従うと本気で考えていた。
それよりも、頭の中には法国が用意した100万枚の金貨しかなかった。
バルブロだけではない、この場の六大貴族のうち殆どが降って湧いた100万枚の金貨をどうやって懐に収めようか腹の中で皮算用を決め込んでいる。
歴史あるだか何だか知らないが高々教会1つで金貨100万枚なんて絶対に余る金額だ、一度請け負ってしまえばあとは横領し放題。
どうやって王を言いくるめて工事を自領の管轄にしようか、そればかり頭の中で考えていた。
が、誰一人としてそれを顔に出さないあたり、性根の悪sゲフンゲフン…腹芸の上手さが伺える。
口々にまくし立てる貴族達
そんな中、未だ黙して王の隣に仕える男。
名をガゼフ・ストロノーフ。
先の御前試合にてその頂点に立ち、見事戦士長の地位を手に入れた王家の懐刀であった。
ガゼフには政治が分からぬ、ガゼフはしがない平民の出であった。
毎日愚直に剣を振り続け、ただ王の刃となるべく研ぎ澄まされた彼にとって陰謀渦巻く政闘の渦中は些か居心地が悪い。しかし王の護衛は戦士長の義務であり、退出する訳にもいかない。
だからせめて自分は邪魔をせぬよう置物に徹していよう、そんな心づもりでこの場に立っていた。
しかし…
(なぜ、誰も姫様のお心を問おうとはしないのか。
彼女とて年頃の娘、それを政略結婚など…
うら若き乙女の人生をまるで道具のように扱っている事に誰も疑問を覚えないのか?)
悲しいかな、この場で最も人間らしい意見を胸中に秘めていたのは彼だけだった。
(姫様が王位継承権のない娘だとしてもこれはあまりにも惨い仕打ちではないのか?
いや、この場においては俺のような思考の者こそが異質。故に口を挟むべきではない。
俺はただ王の剣としてこの場に居るのみ)
ちらり、と俯く件の第三者を横に見る。
まだ歳若い御身ながらこうして政闘の場へと赴き、老獪な貴族達と向き合っている。本人の意思とは関係なく自身の未来を決められようとしているのに。
強い御方だ。
(そして、クライム)
彼女の隣で心配そうに見つめる純白の鎧騎士クライム。
ラナーは彼の事をいたく気に入っており、滅多に言わないワガママを言い路上の捨て子だったクライムを王城まで引っ張ってきた。そして周囲にアピールするかの如く特注の鎧を与え、側仕えとして仕えさせている。
彼女がクライムにどんな感情を抱いているかなど、馬鹿でも分かる。
それに応えるため、クライムは己を鍛えていた。何度かガゼフが指導をした事だってある。
(尚更に辛かろう、何もしてやれない自分が不甲斐ない)
届かぬ想い、迫る政略結婚、いっそ吟遊詩人の詩にでも出てきそうな程の悲恋である。
この世には剣の腕だけでは覆せぬ理が存在する、それを彼は思い知り誰にも気づかれぬよう拳を握りしめた。
ガゼフは清々しいまでに善人であった。
と、ガゼフの胸中を語りながらも貴族と王の茶番は止まらない。
王としての自分と親としての自分の狭間で揺れ動く王、それに便乗し利益を取り合う心無い貴族、最早さっさと妹を追い出したいだけの第一王子。
事態は混沌を極めつつある。
そんななか、声を上げた男がいた。
「あー…父上、兄上も。
取り敢えずはラナーの意見を聞いてはみないか?」
ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフ。
王家ヴァイセルフの次男にして王位継承順位第二位の男、普段は不遜な態度で兄であるバルブロを刺激しないよう行動する彼が何の気まぐれか、どうして今になって声を上げたのか。
「聞く必要などないだろう。
継承権のない王の子供というものはこういう時の為にこそ使ってやるべきだ、国同士の契りを結ぶ為にな!」
「…………」
なおも沈黙を貫くラナー。
「だが当人の考えも聞いてやらないとあんまりではないか兄上、ラナーはその…近衛との事もある」
「ハッ!何を馬鹿な、そもそも平民と王族が釣り合うはずがない!
城に居させてやってるだけ有難いと思え」
嘲るように笑うバルブロ、悔しいがクライムは何も言い返せない。格差意識の激しいこの国では当たり前の事だった。
耳を貸さないバルブロにザナックは小さくため息を吐き、今度はラナーへ向き直る。
「ラナー、お前はどうなんだ。
国のためと聞こえはいいが、他国の見知らぬ貴族と婚姻を結ばされるなど。
思うところの1つでもあるだろう?今のうちに言っておいた方がいい」
「わたし…は…
クライムと一緒に居たいです…
でもっ…!」
かぶりをふって顔を上げたラナーは瞳に涙をいっぱいに浮かべ、言う。
「私にしか出来ないこと、なのですよね?
私が法国へ嫁げば、犯罪組織をやっつけるために役に立てるのですね?」
「それは…そうだが…」
「八本指には皆が苦しめられています。
お父様のような求心力も、バルブロお兄様のような腕力も、ザナックお兄様のような図太さも持ち合わせない非力な私でも出来ることがあるのなら…それに縋る事が王族として最善なら…」
「ヴァイセルフの娘としてラナーは…
ラナーはその責務を全うします…ッ!」
今にもぐしゃぐしゃになりそうな笑顔を浮かべながら、気丈に振る舞うラナーはそう父へ宣言する。
精一杯の強がりだと、ひと目で分かった。
辛いはずだ、悲しいはずだ。それを必死に押し殺し、ラナーは笑う。それは幼い姫が一生懸命考えた末に辿り着いた最善を掴む為の結論であり、民を思う決意の現れ。
自身の運命に殉ずる儚い姫君の姿だった。
「ら、ラナー……」
溺愛する娘の〝覚悟〟を見せつけられたランポッサ王は身を焼かれるようだった。
女児であったがゆえに甘やかし、蝶よ花よと育ててきた娘の勇ましい姿を初めて目の当たりにした。
なんと健気で勇ましいことか。
同時に今まで野放しにし、これほどまでに娘の心を締め付けた八本指を必ずや打ち倒してみせると心に誓う。
とうに彼から迷いは消えていた。
「その覚悟、しかと受け取った…
皆の者!
これより王国は法国と共に総力を上げて犯罪組織『八本指』を撃滅せしめる!
これは王の勅命と心得よ、必ずだ…必ず奴らを根絶やしにしてくれるッ!」
その雄叫びにも似た力強い宣言、普段の王とは似つかぬ威風に覚悟なき貴族達は思わず竦み上がり、そうでない貴族は一気呵成に、一拍遅れてそれぞれ応える。
「至らぬ儂を許して欲しい…ラナーよ…」
「いいのです、お父様。
全ては王国の未来のため。
……クライムも、お願いね?」
「…〜〜ッ!!最後までお供させて頂きます、ラナー様」
『王国騎士たるもの、私情を捨てよ。
常に主の剣であれ』
クライムがかつて教えを乞うたガゼフ・ストロノーフが言った言葉。
騎士とは国の軍隊である。誇りと矜持を掲げ、清く正しく実直に与えられた使命を全うすることそこが我等の務め。時として己を捨て、抜き身の剣の如く振る舞わなければならない事だってある。
不意にその教えが胸を過ぎる。様々な感情を押し殺し、若きクライムは精一杯騎士としての矜持を示した。
美しい主従を見せられ、周囲の反応は様々だった。相応に感動し、うっすらと涙すら伝う者、冷めた瞳で茶番だと嘲る者、先を見通し思考を巡らせる者。
多くの思惑が渦巻く中、王国の方針はこれで決定した。
2日後、使者が赴くまで彼女は王国で最後の時を過ごす事になる。
その夜
「ザナックお兄様」
「こんな時間にどうした、腹違いの妹よ。
護衛も連れず部屋を抜け出して…夜更かしは美容の敵ではなかったのか?」
「今はそれはいいのです。
少々、真面目なお話をさせて頂きにまいりました」
「……それは、
「その通りです。
残された時間ももう僅かしかない。
とてもとても、大事なことです。
私と、この国と、そしてレイン様に関わる」
「ッ!!そうか、入りなさい」
翌朝、ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフは王城から忽然と姿を消した
To Be Continued…