破滅フラグしかない悪役国家に転生してしまった…   作:ハンバーグ男爵

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王国編まとめて終わらせるぞせるぞせるぞォ〜!










26 破滅フラグしかないお家騒動が起こってしまった…

 

 

「………ガゼフよ」

 

「はっ!!」

 

「本当にお前が見たもの、聞いたもの、感じたもの全てに、偽りは無いのだな?」

 

「はっ!

この剣に誓い、あの場での出来事に一切の嘘は御座いません」

 

「そうか…ならば此処でもう一度、皆の前で言って聞かせよ。

王都地下で何があったのかを」

 

 

エ・ランテル王城。

姫君を失い、失意と復讐の狭間に揺れる王の心情を表したかのような、深い深い曇天の日和。

 

昼間だというのに陽の光も届かぬほど薄暗い議事の間にて、神妙な面持ちで戦士長と言葉を紡ぐ王の姿があった。

 

先日、勅命のもと戦士長含め少数精鋭で構成された八本指討伐隊。

第二王子ザナックのもたらした文書、活動拠点を示したものや奴らと深い関係にあると予想される貴族のリストをもとに、迅速に襲撃計画は練られた。

 

討伐隊はそれぞれの入り口から王都地下の坑道へ侵入。

息白む程の低温のなか、彼等が目撃者したのは大量の凍死体と八本指の幹部らしき8人の氷像であった。

凍死体の方は身体の芯まで一瞬で凍らされたのか、なんの抵抗も許されず殺されたであろう痕跡と運悪く体勢を崩し床に散らばった者が多数。

そして更に奥に進んだ先、凍り付いた議場らしき部屋で椅子に座ったまま、或いは何かから逃げるように床に這いつくばっている8人分の氷像を発見。

 

驚くべきことにこの8名にはまだ息があり、仮死状態であるらしい。

 

全員の顔を照合したところ、うち一人が過去に逮捕歴がある違法奴隷商アンペティフ・コッコドールであると判明、現状証拠とその後の捜査からこの8名が八本指最高幹部であると断定した。

 

渋る貴族を殴り付けんばかりに一喝した王の鶴の一声によって国宝によるフル装備で意を決して乗り込んだガゼフであったが、いざ突入してみれば戦闘は始まる前に終わっており、とんだ肩透かしをくらう羽目になった。

 

 

「恐らく奴等は別の何者かに襲撃された後だったのでしょう。

地下道内にも関わらず肌に纏わりつくような湿気は一切なく、まるでアゼルリシアの山中かと感じるような冷気と低温。

その中で凍死していた構成員とみられる者たちの姿はほぼ一瞬でなんの抵抗も許されず殺され、放置されたようでした。

……まるで我々に後片付けを押し付ける形で」

 

「ふむ…

自演の線は薄いか。

八本指を憎む第三者によって滅ぼされた可能性が濃厚、という事だな」

 

「国王陛下、俺からも報告だ」

 

 

そう言って飄々と手を挙げたのは厳正な議場に相応しくない着崩した胸元を晒す、どこかラキュースと雰囲気の似た男。

隣では当のラキュースがジト目でその姿を睨み、脇腹を小突いていた。

 

 

「ちょっと叔父さん、陛下の指名を受けてから発言してよ…!

御前会議なんだから!」

 

「良いだろぉ別に、こういう違和感はさっさと言うに限る」

 

 

アズス・アインドラ

アダマンタイト冒険者『朱の雫』に所属する冒険者であり、ラキュースの叔父にあたる人物。

今回たまたま王都に訪れていたところ、友人を失い失意に暮れていたラキュースに見つかり、何も知らなかった彼は声を掛けてしまったのが運の尽き。

説明を受けたあと半ば強引に此度の事件に付き合わされることになった。

本人は渋々だと言っているが、ラナーを失って亡霊のようだったラキュースのメンタルケアをぶっきらぼうながら買って出て、その後も蒼の薔薇とともになんだかんだ付き合ってくれているのは彼なりの優しさなのかもしれない。

 

 

「構わぬ、『蒼の薔薇』のツテでわざわざ来て頂いた身だ。

存分に意見を述べてくれ」

 

「…へへっ、仰せのままに国王陛下。

ザナックの坊ちゃんから依頼された場所(ポイント)を全て飛び回って調べてきたワケだが、既に全部潰された後だった。

現場には何も残ってねえ、あったのは更地になった地面と異常に気温の下がった大地だけ。

丁度戦士長サマの言ってた地下道の状況と同じだぜ」

 

 

あっけらかんと言ってのけるアズスと目を合わせたガゼフは一瞬気まずい顔をする。

2人のファーストコンタクトがどんなものかは知る由もないが、どうやらガゼフはアズスに苦手意識を抱いているらしい。

 

まあ立場も性格も正反対な二人なのでさもあらん、と王は気にせず話を進める。

 

 

「…ラキュースよ、貴殿らには八本指の麻薬施設の偵察を依頼していたな」

 

「はい、結果は先程叔父が言った通りです。

指定された全ての施設、密造所らしき畑も貯蔵庫らしき倉庫も全て僅かに痕跡を残したまま吹き飛んでいました」

 

「補足しておくと、破壊痕から見て施設は全て強烈な爆風と冷気によって“氷砕”された可能性が高い」

 

「結果麻薬は全部消し飛んだ、辛うじて残っていても極端な寒さに弱い黒粉はもう商品として機能しない」

 

 

横から出てきてサラッと一言加える双子姉妹。

 

 

「なら話はカンタンだ、地下道で八本指をとっちめた連中と麻薬施設を吹っ飛ばした連中は同一人物で、事は俺たちがガサ入れをする前に全部終えちまった。

そんで俺たちは後からノコノコと事後処理の為にやって来て、その場にいた半生半死の幹部共をとっちめたワケだな」

 

「黒粉は在庫分とこれからの生産分も含めてほぼ壊滅していると言って良いでしょう。

これで奴等の影響力は大きく削れました」

 

「この事件の裏で何者かが動いた、という事か…」

 

「それもタダの人じゃねえ、相当優秀な魔法詠唱者の仕事だぜ。

おうラキュー、心当たりあるんじゃねえの?」

 

「ぅえっ!?

えっえっ…そう、ね…無いことは……ない、かな…?」

 

「相変わらず嘘が下手かよお前」

 

 

突然振られて慌てるラキュースでなんとなく察したアズスは言葉を続ける。

彼女曰く心当たりはあるが、その人物は八本指の関係者とかではなく、少なくとも王国に害なすものでは無いとのこと。

それだけは自信を持って語る。

 

察した王もそれ以上言及するのは避けた。

娘を失った怒りはあれど、ザナックの持ち込んだ文書や時間を空けた事もあり、現在の彼は一旦ではあるが人並みに落ち着きを取り戻している。

 

それでも娘を殺された激情は今も奥底でふつふつと煮えたぎっているわけで、協力者によって既に捕らえた賊共には然るべき時に地獄を見せてやるつもりではあるが。

 

 

「…尻拭いをさせてしまった、という事だな」

 

 

誰に語るでもなく、呟く。

 

この国の未来を憂う者、しかし直接的な干渉を避ける必要があり、全て裏方で済ませてしまいたい、そしてそれを秘密裏に、迅速に執り行えるだけの力を持つ組織。

 

心当たりは、ある

 

そう結論を出し、この会話をただ突っ立って聞いているだけの地方貴族達を眺め、三者三様の態度で聞き入る六大貴族を眺め、息子達に目をやって、最後に亡き娘が居たはずの椅子が目に留まる。

 

ならば娘は何故逝ってしまったのだろう。

いや、全ては己の不徳が招いた結末なのだ。

先代から、先々代から甘えていた負債が漸く自分の代に回ってきただけのこと。

燻った復讐の炎の裏で自罰的な考えばかりが過ぎる。

墓に向かって「先代の背負った負債なんぞ儂には関係ねえだろクソッタレ!」くらいの悪態は吐いてやりたいところだが、そこは培ってきた矜恃と責任感で蓋をしておいて。

 

 

「ならば是非もあるまい。

蒼の薔薇、そしてアズス殿、急な依頼にも関わらず対応して頂き感謝する。

冒険者組合を通し報酬は後ほど渡す故、ほとぼりが冷めるまで少しばかり待って貰えぬだろうか」

 

 

本来なら国に頓着しない冒険者組合。

今回も国事に関わること故強制は出来ないが、ラキュース達は善意で協力してくれた。その好意に対して金でしか返せないのも歯痒いが、この世で一番手っ取り早い感謝の印だ。

 

 

「一応はビジネスだからなァ。

貰えりゃコッチはなんとでも」

 

「複雑だけれど、謹んで頂戴致します」

 

「うむ。

王国全土に触れを出せ。

明日、捕らえた八本指幹部の処刑を執り行うとな」

 

 

早い話が“見せしめ”だ。

大勢の民の前で、悪を裁くこと。これが未だ潜む悪党共に対して原初にして最も“効く”特効薬となる。

民の怒りの矛先を八本指という悪に絞るとともに、国全体でそのような真似を容認しないという確固たる意思表示を他国に対しても行う事が出来るからだ。

 

ザワザワと貴族達が騒ぎ出すが今更王の勅命に異を唱える者もいなかった。

この時既に王によって50名以上の小貴族達が捕らえられており、今も収監されている。

どれもこれも王を軽く見た為に口を滑らせた知能の低い者達だった、しかも反逆罪をチラつかせると他の貴族の情報を売り出す始末。それにより芋づる式にどんどん逮捕者が膨れ上がり、現在に至っている。

 

せめて貴族としての矜恃とか持ってねえのか、と担当した尋問官は元々期待していなかったが想像以上(もちろん悪い意味で)の結果に憤りを通り越し呆れ果て、思わず天を仰いだ。彼もそれほど貴族に対して落胆していたのだろう。

 

これを機にランポッサ王は今後の王国の在り方について直面しなければならなくなる。

 

 

「そろそろ潮時なのかもしれん」

 

 

そう彼は呟き、告げる。

 

 

「八本指処刑を機に、此度をもって儂は玉座を降りようと思う」

 

 

それは実質的な退位宣言だった。

もとより考えていたことだ。先々代より放置してきた犯罪組織による民からの不信、甘い対応で貴族たちを増長させ続けてきた責任は取らねばならない。

 

 

(後継者の覚悟も決まった様だしの)

 

 

唐突だからこそ、この場の者たちにはよく効くのだ。

 

見ろ、六大貴族達の狼狽えっぷりを。

ある者は正道を以て、ある者は邪道を以て虎視眈々と狙っていた王位の座、それが突然目の前に出されてきっと今頃頭の中宇宙猫だ。

 

 

「父よ、とうとう決められたか!」

 

 

そんな中案の定と言うべきか、いの一番に大声を上げたのは第一王子であるバルブロだった。

通例通りならば正当な王位継承権は彼にある。

 

 

通例通りならば

 

 

「そうじゃ、今まで決めかねていたが漸く決心がついた。

()()()()()()()()()()()、バルブロよ」

 

「おぉ…!」

 

 

父の言葉に目を輝かせるバルブロ。

それを聞いた彼と親しいボウロロープ侯が密かにガッツポーズをとる横で、レエブン侯は王の仕草に違和感を覚える。

派閥を渡る蝙蝠は様々な可能性を巡らせ、考えた結果ある結論に辿り着いた。

 

きっと結末は、皆の思うようなものとは程遠いと

 

あと帰って最愛の息子(リーたん)吸いてえなぁ、と

 

 

「儂の跡を継ぎリ・エスティーゼ王国の新たな王となる者を此処に宣言しよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼を後継者として指名する」

 

 

「………………………………………は?」

 

 

 

 

ひとしきりの沈黙の後バルブロ、目が点。

 

言い間違いか、聞き間違いか?

 

王の言葉を何拍も遅れて意味を理解した貴族達が案の定ざわつき初め、異例の決定に彼らの喧噪はあっという間にピークに達する。

 

 

「何も言い間違えてはおるまいよ。

儂は第二王子ザナックを次期国王として指名する、これは勅命であり覆しようのない決定じゃ」

 

「王よ!

一体どういう事だ!!

何故バルブロ第一王子ではなくザナック第二王子を王に据えるつもりか!」

 

 

天国から地獄に突き落とされ錯乱しつつも唾を飛ばしながら必死に叫ぶボウロロープ侯。

 

実際、彼の言っていることは尤もで、リ・エスティーゼ王国において世襲で次代の頭首を決める場合、長男から順に継承権を得る。これは貴族社会では当たり前の事であり、王族であってもそれは変わりないはずだ。

故に継承権が二位三位の次男や三男は一位の長男が病気や事故等で亡くなった際に一家としての体裁を整える為の替えのきく“スペア”である。

 

こと王国においては貴族教育は基本的に跡継ぎたる長男が最も重んじられ、続く弟たちにはマナーもしきたりも碌な教育を施しておらず、結果成人しても世間知らずで礼儀のなっていないボンボンばかり…なんてのはザラなのだが。

 

閑話休題。

 

ともかく、「長男が家の跡継ぎとなる」のが王国の常道である。

それを覆しわざわざ次男(スペア)を王に任命したランポッサの考えや如何に。

 

 

「言ったであろう、ボウロロープ侯。

此度の決定に至った原因はバルブロ、お前にある」

 

「何を……ッ!?」

 

 

じっ……と、バルブロを見つめる。

()めつけるような、隠さぬ不審感、いや敵意すらある。

凡そ実の息子に向けて良い視線ではない。

 

 

「みなまで言わぬと分からぬか、息子よ。

貴様、八本指と繋がっておったな?」

 

「ッ!?!?」

 

 

無駄に大きく育った体躯が思わず跳ねる。

額から脂汗が浮かび、息が乱れているのが傍から見ても直ぐ分かった。

 

 

「そそ、そんな訳がある筈無いでしょう!

あの真面目で勤勉なバルブロ第一王子がよりにもよって八本指と関わりがあるなど…」

 

「そうか、そうか。

…ザナックよ、例のものを持て」

 

「こちらに」

 

 

言われるままにザナックが取り出したのは羊皮紙の束。

魔法の込められたスクロールではなく、メモ書きや製図などに用いられる一般的なものだ。

なにやらびっしりと殴り書きがなされているようだが…

 

そのうちのひとつを手に取り広げ、息をひとつ。

 

「先日、突入したガゼフらが持ち帰ったこの資料には八本指の収支報告が記されておる。

売上を残すため様々な情報が記帳され、それらは厳重に管理されておった。

誰が、何を、幾らで買ったか、事細かにな」

 

「特に違法娼館の抱えていた報告書は凄まじい量でな、違法である為に面倒な書類が多い」

 

「何せ娼館という私有地で内々に従業員を奴隷扱いで買わせ、事に及ぶらしいのぉ。

抜け道を知った時は呆れを通り越して感心したわい。

部門同士が協力し法を掻い潜りながら…全く賢しい事よ」

 

 

ははは、と生気の伴わない瞳のまま王が嗤う。

誰も喋れない、野次も入れない、入れたが最期容赦無く首を刎ねられる。そうこの場の全員が幻視するほどの笑顔に裏付けされた威圧感。

 

ヒルマとコッコドールの運営する違法娼館。

利用者はヒルマの経営する娼館という外から見えない敷地内で娼婦という名のコッコドールが用意した奴隷を買い、思うまま使う。

通常ならは娼婦にもそれなりの人権があり、酷い乱暴や強姦紛いの行いは店の信用に関わるため御法度だ。

しかし相手が奴隷という名の商品ならばどんな違法性交(ハードプレイ)も思いのまま、訴えられることも無い。奴隷に人権など無いのだから。

そして娼館へ預けるという形で商品を保管し、客は店を後にする。

 

私有地で客が商品を購入し、使い、ペットを預ける感覚で娼館へ保管する。

法と照らし合わせても何の問題も無い、この巧妙な手口で二人は他の部門をぶっちぎってあまりあるほど大儲けしてきた訳だ。

…それだけ王国には表に出せない特殊性癖持ちが多い裏付けになる訳だが、是非もなし。

 

 

「じゃが必然、書かねばならぬ物も増える。

契約の関係上、例え違法でも奴隷の売買書などはサインが必要らしい」

 

「その中に、お前の名があったぞ。バルブロよ」

 

「はっ…!?

そ、そのような事があろうはずが御座いません!

俺がまさか…よりにもよって八本指の息のかかった違法娼館になど…」

 

「そうですぞ!

だいたい、名があっただけで通っていると決めつけるなど王に有るまじき行「筆跡」…は?」

 

「筆跡、じゃよ。

何年も共に過ごした家族の書く文字くらい、一目見れば直ぐに分かる」

 

 

ボウロロープの目が点になる。

娼館内にて商品を購入する際には必ず本人のサインが必要。

これは王国内でまだ奴隷売買が法による取り締まりを受けていなかった頃から決まっていた通例(ルーティン)であり、時代が変わっても取引方法に変更を加えなかった。

 

変更手続きを面倒臭がった奴隷部門、ひいては部門長コッコドールの怠慢である。

また万が一バルブロが正気を取り戻し(戻るわけ無いのだが)八本指との縁を切りたいなどと申し出た場合に際して、契約書を公にする事で王子の信用を失墜させる為の揺さぶりをかける、脅しの道具として保存していた背景もあったりするが。

 

 

最初は王も疑った。

 

性格に多少の難あれど、自分の息子がまさか犯罪組織に関わっているはずがないと。

 

関わっているにしても何かしら弱みを握られて協力を余儀なくされているのだと。

 

けれど発見した奴隷契約書の中に何枚ものバルブロサインを見つけ、それが本人直筆のものであり枚数からして殆ど毎日足繁く通っている事を確信してしまった。

 

 

「ざっと見てさえこの有様なのだ。

よくよく精査すれば他の協力者との繋がりなど容易く看破できよう」

 

「それら全てを纏め、此度の事件を真実へと導いたのが第二王子ザナックなのだ。

独自の調査により八本指の潜伏拠点及び麻薬保管庫の位置特定を終え、儂に報告してきよった」

 

 

皆の視線がザナックへと注がれる。

彼は目を閉じたまま黙って王の言葉を聞き入っているが。

 

 

「問おう、バルブロよ。

お前は継承権第一位の次期国王候補として何を成すつもりでおった?

一国の王として、どのような大義を掲げ国を導くつもりであったのか?」

 

「ぐっ…」

 

「答えられぬか?」

 

「おっ、俺は…!

民が俺の統治の元豊かに暮らしていけるような国作りを…」

 

「その為に犯罪組織に手を染めるか?

八本指がどのような存在であるか、まさか知らぬわけはあるまい」

 

 

バルブロは押し黙る。

だってこの男には掲げる大義も正義も無い。

民は王に尽くすのが当然で、王とは民を好きにできる絶対者、程度の認識しか持ち合わせていない。

隣にランポッサという偉大な父が有りながら、王という存在がどういうものか深く考えもしてこなかった。

長兄だから父の跡継ぎとして決まった地位と権力を得て、長兄だから当たり前のように国王になり、国王だから皆を好きにできる。

当然だ、自分は王であり絶対者なのだから。

生殺与奪の権を握り、豪勢な玉座に座って指先ひとつあれば王国の全てを動かせると本気で思っていた。

 

そのような楽観的な考えで今までを過ごし、ボウロロープ侯の娘を娶った頃からその勘違いは更に加速していくことになる。

 

王になれば全て意のままに操れる

 

そんな悪魔の甘言に唆され、あるいは己から進んで、次第に傲慢になっていく彼は遂にある日、懇意にしていた叔父からとある組織を紹介された。されてしまった。

 

泥濘(ぬかるみ)に肩までどっぷりと、浸かってしまえばもう逃げ出す術もなく。

彼と八本指の癒着は行き着くところまで行き着いて、最早擁護しようのない程にまで至ってしまっている。

 

 

「ザナックは示したぞ?

犯罪組織の悪辣な企みを看破し、成果を上げた。

民に対し王としての矜恃を示した。

お前はどうなのだ、バルブロ」

 

「ッう!?…ぉ…」

 

「それがお前だ」

 

 

そうため息と共に視線を外す。

それが犯罪者に身を堕とした息子に対し、親として最後の情であったと、後に彼は思い返した。

 

 

「王とは、民が居らねば成り立たぬ。

どれだけ豪勢に着飾ろうと、玉座に座り胸を張ろうと、それを認める者がいなければただの道化に過ぎぬのだ」

 

「此処でハッキリと宣言しておこう。

バルブロよ、お前に儂の跡を継がせる気は毛頭無い。

次期国王にはザナックを据える。

八本指と関わった貴様には例え我が子であれ容赦無く罰を与えよう」

 

「貴様ら貴族もだ。

これまで儂を舐め腐り、民を蔑ろにした挙句、保身に走り身内で脚を踏み合う事しか出来ぬ愚図共。

貴様らにはほとほと愛想が尽きた。

調べれば八本指との関わりを持つものは直ぐに分かる、首を洗って待っておれ」

 

 

我が身可愛さで汚物に手を染めたこと、存分に後悔するがいい。

 

冷徹に言い放つ王の言葉が玉座の間を支配する。

ランポッサは本気だ。以前より溜まりに溜まった鬱憤が娘を殺された事により堰が切れ、復讐の鬼と化した彼は大粛清を行う勢いで過激な報復を繰り返している。

さながら暴君の如く振る舞う彼を揶揄する者など居ない。

 

だって言ってる事は全てどうしようも無い正論なのだ。

 

殆どの貴族たちは椅子ばかり見て、そこに座る枯れ木の王を内心では蔑んでいる。

 

本当に国を憂い、正しい方向へ導こうとしている者などひと握りのみで、王前での報告も野次を飛ばし隣の脚を引っ張り合うだけの無為な時間と化していた。

 

挙句の果てには目先の利益に踊らされ、犯罪組織や他国の間諜として機密情報を流す始末である。

 

各々の領地経営手腕はこの際問うまい、それを差し引いても正に「何処に出しても恥ずかしい」貴族たち。

 

為政者としての敬意を忘れ、矜恃を忘れ、上に立つものとしての誇りすら忘れ去った、プライドばかりが肥大した、レイラ曰く「悪性腫瘍」。

挙げられる事実のみが胸に突き刺さる。

もちろん、この中に存在する数少ない〝まとも〟な貴族たちにとって精神的なダメージなど殆どない。むしろ率先して間違いを正し、強引にでも導こうとする王に対して畏敬の念すら抱いていた。

 

反論する意思があるとするならば、それは感情のみに任せた浅ましい癇癪にも等しいもの。

本音と建前を使い分け、相手の手の内を探りながら笑顔の背中で中指立て合うのがこの業界の常道。

正論ぶつけられて口汚くキレるなど権謀術数渦巻く貴族界隈で最も蔑まれる愚行だ。無論、それすら出来ない者も在籍してしまっているのが現在の王国なのだが…

 

 

その沈黙を破った者がいる。

 

 

「巫山戯るなァッッ!!」

 

「さっきから黙って聞いていれば…

素質?矜恃?民への在り方?

そんなものは後から勝手に付いてくる、大事なのは誰が王かだ!」

 

 

それがバルブロ・アンドレアン・イェルド・ライル・ヴァイセルフという男。

先程までの権威を保つためとっていた態度は怒りで吹き飛び、手を震わせながら口汚く父を罵る。

 

 

「ザナックのような陰気なデブに王が務まるものか!

それに俺は八本指に呑まれたんじゃない、従えたのだ!

事実、奴等は全滅しただろう?

俺が先んじて接触し、その存在を知らしめたからさ!

ザナックは最後の成果をかっ攫ったに過ぎん、八本指壊滅の真の立役者はこのバルブロなのだァ!!」

 

 

この男、とんでもない事を言い出した。

自分は利用されたのではなく利用したのだと声高に主張する。

誰がどう見てもそれは焦った末に考えた見苦しい言い訳に過ぎず、蒼の薔薇の面々やまともな良識のある者は余りの往生際の悪さに皆思わず顔を顰め、あのアズスですら「おいおいマジかコイツ」と肩を竦める始末。

 

…なんならバルブロはボウロロープ候、八本指と共に王位を得るためならクーデターすら画策する予定であった。

それが八本指壊滅によりおじゃんになった事がより彼の焦りを掻き立てる。

 

そんな中

 

 

「いい加減にしてくれ兄上!!」

 

 

響く怒声に皆が目を剥く。

声の主は椅子から勢い良く立ち上がり、息を荒くしバルブロを睨みつけた。

 

 

「なんだザナック、貴様は黙っていろ!」

 

「いいや黙らん!

いつまでも見苦しいぞ、大人しく罰を受けろ。

これ以上皆の前で王家の恥を晒さないでくれ!」

 

 

血を吐くように叫ぶザナック。

いつもの彼ならば考えられない事だ、少なくとも貴族たちの知る彼はいつも争い事を避けてのらりくらりと場をいなし波風を立てぬよう振る舞う、王候補とは思えない程の情けない姿ばかり、ましてや継承権を掛けて戦う兄との口論などした事はない。

 

硝子の向こうに広がる曇天から時折稲光が走る。

ザナックの心情を表すように、怪しい雲行きのまま。

 

 

「親父の言葉一つで継承できて急に態度がデカくなったな貴様ァ…」

 

「ああそうさ、父上は俺を選んだ。

それに此処で兄上を止めなきゃ大事なものを護れなくなる、それだけは勘弁願いたいからな。

ラナーの死も報われん」

 

 

ザナックは決断する。

きっと此処が王国の転換期(ターニングポイント)

(ラナー)を失い、八本指壊滅に王手を掛け、法国に目を掛けられている中、甘ちゃんだった父はこの国の改革を望んでいる。

ならば配役的に表に立たねばならないのは自分だ。良かれ悪かれ、スポットライトを浴びなければならないのは自分なのだ。

面倒だなどと甘い事を言っている場合じゃない。

兄ではいけない、それでは自分の()()()()()は叶わない。

 

民が安心して暮らせる国、弱き者が救われる国、魔法を軽視しない国、プライドとしきたりで錆び付いたこの国を根底から突崩せるチャンスは今しかないのだ。

 

その為なら、ザナックは立ち上がろう。

 

結果が道化でも端役でもいい、湖面に石を投げ水面に波紋を起こすように。

できるなら大きな波紋を、より大きな変化を。

 

 

「もう、譲らない」

 

 

曇天の空に稲光が走る。

彼の覚悟を祝ってか、呪ってか、轟く雷鳴は不思議と勇気を与えてくれる。

 

肥えた身体で兄を指さし、脂肪だらけの喉から出せる限界を、あらんかぎり大きな声で絞り出した。

 

 

「兄上、私は……貴方を断罪するッ!!」

 

 

すべては、新たな一歩(恋路)の為に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「八本指、壊滅したんだってな」

 

「知ってるよ、今じゃ王都じゅうその話題で持ち切りだ。

最高幹部達が軒並み捕らえられて、処刑されるらしい」

 

「今日の昼一番に中央広場で全員一気に殺るんだろ?

国王陛下も思い切った事するよな…」

 

「捕らえたのはガゼフ戦士長、流石王の懐刀だよ」

 

 

黄金の輝き亭。

掃除の行き届いた小綺麗なエントランスにて耳をそばだてれば、賑わう客達からそんな話が漏れてくる。

 

この数日間で王国には大きな変化があった。

 

市井の民たちの耳に入ってくるのは犯罪組織『八本指』の最高幹部達の投獄をはじめ、その悪質な実態を示す情報の数々。

ある者は借金のカタに攫われたとか、ある者は泡風呂に沈められたとか、凡そ市民の憤るような内容を網羅した胸糞悪いものばかり。

大きな触書きと共に大々的に告知された罪状は今や王都じゅうに広がっている。

 

そんな悪党共の首領達が逮捕され、処刑されるなら少しは民の溜飲も下がろうもの。

 

実際はもっと醜悪で、疑いを掛けられた貴族から共犯者を釣り上げ、罪を擦り付けようとする事案が後を立たず担当者が嘆く始末の悪さであったのだが。

 

 

このタイミングで国王も代替わりするらしい。

リ・エスティーゼの新たな王の名はザナック、継承権第一位の兄を追い落とす形で即位する事となった。

噂では兄であるバルブロは前述した八本指との繋がりがあるとされ、それが原因で継承権を放棄せざるを得なくなったらしい。

いち市民には与り知らぬ事だが、王族内でも様々な内部争いが繰り広げられているのだと思うと薄ら寒くなる。

 

新しい王は手始めとして、八本指壊滅と幹部の処刑を手土産に民に対して信頼を得る形となる。

 

だが喜ばしいニュースばかりではない、胸を裂くような辛い出来事だって起こってしまった。

 

 

「けれどその過程でラナー様がお亡くなりになった。複雑な思いだよ」

 

「だなあ、可愛らしい姫さんだったのに残念だぁ…

一度だけ姿を見る機会を賜ったが、優しそうで、皆を慈しむあの笑顔がもう見れないとなると…

やっぱつれぇわ」

 

 

第三王女ラナーの死。

その可憐な容姿と無垢な姿で皆に愛されていた姫君が、あろう事か犯罪組織の卑劣な手段を用いて殺害されてしまったと報じられた。

国民の負担が少しでも軽くなるような政策を幾つも提案した才人であり、公道の整備などにも尽力して民からの信頼も篤い人物。

 

そんな彼女の若すぎる死に国民から悲しみの声が止まない。

先に行われた告別式には王都以外からも多くの国民が訪れ、彼女の死を悼んだ。

 

 

「姫様は残念だったが、これでこの国もちっとは良くなってくれれば万々歳なんだがねぇ…」

 

 

ため息と共に肩を竦める。

 

ハッキリ言って、国民からみても王国は国としてかなりの末期症状であった。

横暴な貴族、蔓延る犯罪者、収穫時を狙いやってくる帝国戦に備える徴兵制度、他にも細かい事を挙げれば腐るほどある不満に民は辟易とし、明日に希望も見いだせない。

 

そんな中、新たに選ばれた王はこの国にどんな変化を齎すのか。

 

 

期待3割、諦め7割と言ったところだが、自分達の暮らしが少しでも良くなって、愚痴の種になってくれれば幸いだ。と、彼らは冗談交じりに笑うのだった。







キリが悪いから次も投稿しちゃうんだなこれが
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