破滅フラグしかない悪役国家に転生してしまった… 作:ハンバーグ男爵
作者激動の3ヶ月だった為執筆の余裕がなかったよ、ごめんね
仕事先が変わって色々やらなきゃいけないことが多くてね
決してACの新作にかまけてたとかじゃないよ
ホントダヨ
※改変要素あるぞ、気を付けろ
リ・エスティーゼ王国。
麻薬と犯罪組織を巡る一連の大きな動乱の後、一旦は落ち着きを取り戻した王都場内、国王の執務室にて。
豪奢な執務机に頬をべったりと突っ伏しながら溜息を吐く肥えた男の姿があった。
「無理だろ…コレ」
虚ろな表情の先にあるのはうずたかく積み上がる書類の山、山and山。
かのアゼルリシア山脈を彷彿とさせる紙束の霊峰が執務机に…いやそれすら通り越して来客用の卓にまで広がり、鎮座しているではないか。
「くそ…八本指め…!
面倒事を全て押し付けて死んで退場とか巫山戯やがって…殺したのは俺だが」
そうごちる男こそリ・エスティーゼ王国現国王、ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフその人であった。
あの大粛清の後、王政府は早急に機能を回復させる必要があった。
予めレエブン侯が配置した人材がその役割を果たし、幸いな事に接収した領地で目立った反抗はない。それどころか「あのままクソ領主に搾取され続けるより何倍もマシ」だと現地民から好意的な報告がいくつも上がる始末。
如何に今までが貴族の悪政であったか、そしてそれを見て見ぬふりしていた封建体制の怠慢に憤慨する。
自分が就任したからにはそうはさせない。
処刑場で民に誓ったように、彼の思いは本物だ。
国民が王国民であることを誇りに思えるような国を作り、マトモな状態で次の代へとバトンを繋ぐこと。
それがザナックの願いであり、憧れであり、使命なのだ。
これには父ランポッサもニッコリ。
なのだ、が。
それはそれとして各領の収支報告、活動記録諸々、確認しないといけない書類が多すぎる。さらに八本指壊滅後の後始末も並行して行わないといけないのだからタチが悪い。
共に王国を立て直すと誓い合ったペスペア侯、レエブン侯、そしてウロヴァーナ辺境伯も今頃自分と同じ業を背負い書類の山と対峙している事だろう。
(レエブン侯なんて家に帰れなさすぎて最近息子の幻覚を見始めたとか給仕の娘達が言っていたな、ああはなるまい……)
虚空に向かって「ああリーたん…会いたかったよお」とか「ほらおいで〜パパでちゅよぉ〜」と調度品の壺に向かってのたまう虚ろな瞳のレエブン侯の姿が度々目撃されているらしい。素直に怖い。
それほどのストレスなのだろう、それでもがんばる侯に心の中で合掌。
「家族、かあ…」
書類を捌く手を止める。
ザナックの家族、つまりヴァイセルフ王族一家。
王家の次男坊として生を授かった彼は本来この椅子に座る事など決して有り得ることはなかった。
本来王位を授かるはずだった兄バルブロは犯罪組織関与の罪で幽閉、末の妹ラナーは動乱に巻き込まれ帰らぬ人となる。
独りになった自分にのしかかる責任はあまりにも大きい。
隠居した父ランポッサは退位後もその人脈を利用して各領地を周り、国民の生の声を聞きながら改善案を時折提案してくれている。
前王には培った信頼がある、それは今まで王国を土壇場で支え続けてきた手腕の賜物であり、成果だ。王位に就いてからより先代の偉業を実感している。
なら自分はこれから実績を積み上げるしかない、幸い先代からの悪性腫瘍だった八本指は取り除かれ、面倒な貴族達も皆居なくなった。立て直すにはこれ以上ない好機なのだ。
使命感がザナックを突き動かす。
一分一秒が惜しい。
国民の為、散っていったラナーの思いに応える為、そして……
「レイン、どの」
思わず口から零れるその名。
ほんのりと胸が熱くなる。
嘗てラナーの友人だった女性、魔法学者だという。
正直に言おう、一目惚れだった。
あの日偶然ラナーと共に渡り廊下ですれ違った時、雷に打たれたような衝撃を受けた。
空に溶けるような蒼い長髪、深い知性を感じさせる紫艶の瞳、何より花のように華やかでしおらしい態度がザナックの目を惹き付けて離さない。
初めて王城に招かれ緊張していたのだろう、恥じらう姿すらいじらしく、愛おしかった。
その身を抱きしめて、全てを奪ってしまいたいとすら思ってしまった。
人生で初めての感情の激流に押し流され、奥手な自分はその時何も言い出せず、ラナーの話すら耳には入っていなかったのだろう。恥ずかしい限りだ。
自室に戻り、気付けば高鳴る鼓動を抑えられず布団に突っ伏して転げ回っていた。
そしてこれが恋なのだと自覚した。
国を建て直したいと思い切ったのも使命感半分、もう半分は彼女に立派になった自分を見てもらいたかった、いいカッコしたかったからだ。
想いは人を動かすと言うが、まさかあの兄に大見得切って幽閉まで宣言してしまうとは…我ながら柄でもないことをしたと思う。
だが結果として事態は好転した、一生をスペアで終えるはずだった冴えない次男坊は今や国の頭目としてその任を全うしている。
「今度は我々が返す番だ。
先ずは魔法への意識改革から始めなければ…」
幸い、『王になったらこんなことがしたい』と考えていたアイデアは山ほどある。
王国は永く軍事を司っていたボウロロープ侯が兵力第一主義であったこと、貧富の差による国民の識字率の低さなどの要因から国内の魔法教育を疎かにしていた。
貴族が自分達の利権を守りたいがために意図的に教育水準を下げていた可能性すらある。
うん、クソだな!死ね!というか既に死んでたか!とザナックは流れるように心の中で罵倒した。
お隣の帝国などは魔法教育を国是として掲げ、国を挙げて教育に勤しんでいるというのに。
王になると見えてくる、いや見ざるを得ない他国との大きな差異。
それをどう解消し他国から舐められないようにするかも今後の課題となるだろう。
幸い今は亡きラナーの伝手で使者を送り、法国から魔法教授を派遣して貰える手筈は整った。
死人を交渉材料に使うのは些か心苦しいが、彼女と仲の良かったレイン教授は快く受諾してくれたという。
「法国に脚を向けて眠れないなこれは…
しかしこれも国の為だ、頭くらい幾らでも下げてやるさ」
決意は堅い。
奴隷制度も煩わしい、この期に王都以外からも完全撤退してしまおう。八本指という悪い見本を国民も目の当たりにした直後だ、反対される事もないだろう。
新兵の教育はガゼフに一任してしまったが大丈夫だろうか、事務机に座るしか能のない俺には兵の割り当てくらいしかできることが無い。
あーでもない、こーでもない、考えているとキリがない。
扉をノックする音と共に走るペンを止め、応答すると大臣3名が慌ただしく次々と入室してきた。
全員が顔が見えなくなるほどうずたかく積み上げられた大量の
執務机は既にいっぱいいっぱいだった。
「…はぁ…はぁ、ザナック新王陛下、必要な案件をお持ちしました」
「こちら八本指との癒着が発覚した施設を洗い出したものです、ご照査下さい」
「こちらとこちらは王印が必要な公文書になります、ご要望通り期限は最短の3日でごさいます。ご確認の程を」
現在の王国は人手不足も甚だしい、更に動乱の余波も相まって王が直接中身を
それらを選別し、苦労して此処へ運んで来てくれた臣下達を恨む気など毛頭ない。
「……………御苦労」
が、うんざりはする。
およそ人生で見たことの無い量の書物の山に囲まれながらザナックは色んな感情を押し殺し、仕事をする為だけのマシーンと化すのだ。
民のため、国のため、気になるあの人がこの国に訪れた際ストレスなく魔法教育を行えるようにする為、ザナックは今日も机に向かい大量の書類と格闘する。
その果てに何が待つかは、まさしく神のみぞ知るところ
早朝
差し込む陽射しと朝を告げる鳥の声で目を覚ます。
北国特有の冷えから体温を守る大きく柔らかな毛布に包まれて、一糸まとわぬ姿で寝息をたてる彼の隣に寄り添いながら、幸せに微睡む私。
その寝顔を眺めていたら我慢出来そうにない。
起き抜けに朝の一番搾りを頂こうかと思ったけれど、昨夜は気絶するまで求めあったのを思い出しそこはぐっと我慢して、衣擦れの音を響かせながら布団を後にする。
クローゼットから取り出すのは私の装い。
嘗ては毎日のように着ていた豪奢で高価なドレスではなくシンプルで簡素なもの、そこら辺の村娘でも購入出来るような安物だ。けれど不満は何一つない、むしろ彼の前でならいつも全裸でいたって構わない。
世間体?それ、クライムより重要な事かしら(論破)
もう自分独りで着替えを行うのにも慣れたもの。
さっさと着替えてエプロンを探す……一着しかない、二着用意して貰ったハズなのに。
少し考えて、そういえば巷で噂になっていた淑女の夜の装い『裸エプロン』を一昨日彼の前で試したあと、盛り上がって汚れてしまったのを脱衣所に放り投げたままだったと思い出した。
洗濯物が増えたわね…
お気に入りの色だったのだけど、仕方ないから綺麗なもう一着を使いましょう。
私の名前はラナー。
どこにでもいるごく普通の女の子。
糞のような過去を捨て、法国の片田舎で夫と暮らす良妻賢母です。
この街、北方領ローグレンツに落ち延びてから3ヶ月ほど経過した。
あの女により設えられた逃亡先。
母国も全て失って、2人で暮らすのに苦労ない程度の一軒家と資金を与えられ、必要最低限の仕事をこなせば残った時間はずっと彼と一緒に居られる夢のような環境。
目を覚ませば隣にクライムがいて、農作業に精を出すクライムを視界に収めながら家事をこなし、クライムと食事を共にして、クライムとお風呂に入り、クライムと共に寝る。
生活の全てにクライムがいる、人目を憚ることなくクライムを摂取できる、クライムに集る悪い虫も此処にはいない。
私だけのクライム。
クライムは私の一部で、私はクライムの一部なの。
つまりこの世界はクライムによって廻っている。
証明完了、完璧過ぎて反論の余地は無いわ。論文にして後世に伝えてやってもいいくらい。
これを聞いたあの女は「ついに来る所まで来ましたわね貴女…」って頭を抱えていたけれど、理解力が足りないのね、可哀想に。
やっぱりクライムでない男と付き合っていているような奴は駄目なのよ、彼は私のモノだけど。
王城暮らしで生活力皆無だった当初と比べて、今では家事にも慣れたもの。
慣れた手つきで2人分の朝食を用意して、愛しい彼の起床を待つ。
起きてこなかったら起きるまで搾り取ってしまえばいい。
クライムは押しに弱いの、私から攻めると仔犬みたいにキャンキャン鳴いてくれるわ。可愛いでしょう?うふふふふ…
「おはようございます、ラナー様」
聞き慣れた筈なのに、私を呼ぶ声を聞くと思考が蕩けてしまいそうになる。
ああクライムしゅき…
「もうっ、捨てた身分なのに貴方はいつまで敬語を使うつもり?」
「す、すいませ…ごめん。
未だに慣れなくて…
おはよう、ラナー」
「はい、よろしい♡
ふふふ、おはようクライム。
朝ごはんはもうできてますよ」
2人で過ごす甘い甘いひととき
時々搾りたての牛乳をお裾分けして下さる近所のお婆さまから教えて頂いた秘伝のレシピ、凄く役に立っているわ。
簡単な朝食から男の胃袋を掴む創作料理まで多数を網羅した私にとっての
『男をオトすには胃袋からさ。
いいかいお嬢ちゃん、好いた男に抱かれたいなら薬や魔法を使えば一瞬だ。
だが好いた男と添い遂げたいなら料理の腕を磨きな。
食は全ての資本さね、生きてる限りずっと付きまとう。ソコを押さえちまえばもう逃がす事ァない。
男共は目が離せなくなるだろうよ。
この私のようにね』
そう不敵に笑う彼女の瞳には信念と実績に裏打ちされた自信が垣間見えた。
間違いない、彼女は恋愛強者。
数々の修羅場を潜り抜けてきた歴戦の猛者なのだ。
そんな彼女に師事できたことは幸運だった、おかげで料理の腕はメキメキと上達し立派な彼の伴侶として成長する事が出来たのだから。
成長、そう。成長している。
城の中では決して味わうことの無い自然の匂い、流れる川の水や草木のせせらぎ、そういった外部からの刺激を受け続けた結果、私は以前より心落ち着く時間が多くなった。
王国にいた時より常に晒され続けていた第三王女としての責務、外様の視線や貴族の嫌味から解放されて久しく、私の心境は穏やかだ。
全てあの女の取り計らいなのが唯一の不満点だけれど、彼女の助力がなければこうしてクライムとの蜜月を過ごすことは叶わなかった。その事実が私を悶々とさせる。
「それじゃ今日も畑の手伝いに行ってくるよ。
そろそろ果物が収穫時期なんだって」
「あら、じゃあジャムを作る用意をしておこうかしら。
クアイエッセ様の事だからきっとたくさん差し入れて下さるわ」
近頃は作物の収穫時期が近いのも相まって、クライムは他の畑にも駆り出される事がある。
本当はクライムを誰とも知れぬ女の目が届く所に置くなんて許さないけれど、それじゃ仕事の折り合いが取れないとレイラに諭され、派遣先は万が一にもしもの事態が起きないよう彼女の信用できる知り合いのみで妻帯者の家に絞る形で渋々だけど同意した。
クアイエッセ様はレイラの未来の夫であるので大丈夫、他の方々も御挨拶に行った時諸々を調べ、事情は常に把握してある。
一緒に働く若い(あちら基準の)エルフの飼育係達は懸念材料だけど、此処に来る前は皆夫持ちだと会話の中で漏らしていたので問題はないだろう。
長寿故かエルフは皆自身の夫一筋らしい。
栽培主任を自称する口やかましいトレントも生物的には雌個体だろうけど、クライムに寄り付く悪い虫にはなり得ない。
あとは既婚者で老後を農業にあてるおばあ様方だ、クライムに熟女癖が無いことは確認済みなので問題なし。
時々やってくるハーフエルフのあいつは……強者にしか興味のない猪女なので大丈夫ね。
「それじゃあ行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい。あなた♡」
出かける彼には毎度の如く行ってらっしゃいのキス。
新婚だもの、絵物語みたいに馬鹿な夫婦の真似をしても許される。それを咎める者もいないのだし。
遠くなっていく彼の背中を眺める度に、胸に込み上げるものがある。
……本当は誰の邪魔も入らないところに閉じ込めて全てを管理してしまいたい
彼の姿が他の女に見られる事すら忌まわしい
指先から髪の毛一本に至るまで、彼が欲しい
例え人を辞めることになったとしても
ドス黒い感情。嘗て王城に居た時に何度も感じた、未練と呼ぶに近いそれは未だに燻っていてあのままの環境ならいずれ爆発してしまっていただろう。
そしてその願いがそう遠くない未来で、きっかけさえあれば
けれどそれは、きっと別の世界のお話
(邪魔よ、邪魔。失せなさい。
この感情は今を楽しむのに不要なものだから)
かぶりを振って不要な感情を追い出す。
彼と私の未来にそんな後暗いものは必要無い。
欲しければ求めればいいのだから。
求めれば好きなだけ与えられるのだから。
彼はもうどこにも行かない、私だけのもの。
〝愛〟の意味をやっと分かり始めたのだから
もう少し生活が安定して、決心が着いたら避妊薬を頼むのはやめにしよう。
ずっと不安だった。もし私のクライムとの子供が産まれたとして、私はその子を心から愛せるのか。
クライムに与えるように、クライム以外の存在にも愛情を注ぐ事ができるのかって。
そんな私の不安を見抜いているかのようにレイラは薬師に話を取り付けて、避妊薬を用意してくれていたらしい。腹だたしい限りだけど、その気遣いには感謝しかない。
これのおかげで今日まで心置きなくクライムを求められたのだから。
それに万が一、億が一、彼が私の下を離れようとするなら、嫌という程教えてあげましょう。
私が誰のもので、彼が誰のものなのか
お互い隅から隅まで知ってるその身体に、ゆっくりと時間を掛けてたあぁ〜〜っぷりと。ね?
うへへへへへへへ…♡(元王女とは思えないだらしない表情)
「どうしたクライム君、急に震え始めて。風邪か?」
「……ッいえ、なんでもありません。
(なんか、今凄い…全身をねっとり舐められるような悪寒が…)」
子犬系騎士の明日はどっちだ
何に忠を尽くすのか
もとより生まれた意味など知らぬ
適性を持って生まれた時から私の運命は決定づけられ、適性があったからこそ私は今まで生きてきた。
…いや、生かされていた。
国の南端、小さな村落に誕生した私を両親は愛情深く育ててくれた。
決して裕福とはいえない家庭で、国内では珍しい人里離れた寒村といっても差し支えない人口200人程の小さな村。
父は農夫で、母は織物をして外貨を稼ぎ明日へと繋ぐ。
村の皆々は同じく貧しいであろうに人当たり良く、困っている者が居たら声を掛けなければ気が済まない性分で、都会の者からよくお節介焼きなどと揶揄されたが、それが彼等の…ひいてはこの村の良い所。
私は童の頃から外で遊ぶのが大好きで、よく山菜採りなどに出かけ、山中を駆け回り背カゴを一杯にして帰ったものだ。
いつも笑顔を絶やさず、他人をも笑顔にできる暖かな両親に影響を受けて、私もいつか「皆の笑顔をまもる救世主」になりたい、なんて無邪気に話していたりもした。
そんな私が15になった頃、神殿よりやってきた遣いの持ち出した話。
とあるアイテムの適性を調べる、と。
当時の私は深くも考えず、試すだけでこの貧しい村を支援して下さるとの仰せを受け、そのまま差し出された着衣を身につけた。
そしてそこらの野ウサギに向かって命令をしろと、頓珍漢な事を依頼するものだから、私もふざけ半分で「逆立ちして木の周りを3周しろ」なんて冗談を言ってしまった。
途端、着衣に刺繍されていた龍の紋章が光り輝いたと思ったら、それは先程指さした野ウサギへと吸い込まれていく。
そして信じられないことに、野ウサギは前脚2足で逆立ち、木の周りをきっかり3周したと思ったら、まるで命令を待つ兵隊のようにそれっきりその場から動かなくなったのだ。
思えばこれが最初の誤ちだったのかもしれぬ
私には魔法の才はなく、魔力も毛ほども持ってはいない。
はて?と首を傾げる私の横で狂喜乱舞する遣いの者になされるがまま私は神都へと半ば強引に連れ去られ、この法衣の真の名を知る事になる。
『ケィ・セケ・コゥク』
国宝に数えられるスレイン法国でもとびきりのマジックアイテム、伝承に伝わるその能力は『ありとあらゆる者の魅了、洗脳』。
かのマジックアイテムの適合者は100万人に1人、その役を担う者に私が選ばれた。選ばれてしまった。
その時は私も若気の至りというか、調子に乗っていたのだろう。
誰かの役に立てる喜びと使命感で頭がいっぱいだった。
故郷への支援を約束させる代わりに協力を承諾した。山盛りの食材を持って帰り、村のみんなと共に宴を開いた時は本当に幸せだった。
親孝行がやっと出来たと、その時は無邪気に喜んでおったよ。
国宝を唯一使用できる特別な女、その意味をこれから嫌という程実感する羽目になるとは露とも知らずに。
『あらゆる存在の洗脳、魅了が可能』なかの国宝、それが起動できるのは私一人、ならば私を囲いこもうとする者が出るのは必然だった。
宗教の派閥同士による、水面下でおきる泥沼の権力闘争、それに何度加担させられたか数知れない。
最終的に私を勝ち取ったのは、嘗て私に国宝を着せその価値を見出した神殿の遣い。今では元老院議員に名を連ねる程の重役である。
彼の指示のもと、大義の為に多くの人をこの法衣で堕としてきた。
時に国を内側から崩壊させようと目論む神官長を秘密裏に始末する為、時に暴力的で手に負えぬ亜人共を同士討ちさせる為、かの議員に叛意を抱く者にすらこの法衣は力を発揮し、彼の地位は磐石なものとなる。
大義の名において、人類存続の為ならば汚れ仕事もまた正義である
そう言い聞かされながら、何度も同胞に手を下した。
その度に私の心はひび割れて、悲鳴を上げていく。
これが主の望んだ救済なのか。
これが私の求めた生きがいなのか。
私はいったいなんの役にたっている?
幼い頃に夢想した、「皆の笑顔を護る救世主」に私はなれたのか?
疑問の答えを見出すには少々遅過ぎたらしい。
嗄れた肌、しわくちゃの手、叛意を口に出せるほど私ももう若くない。
このまま国に使い潰され、老いさらばえていく運命、そう
彼女に出会った。
『やあやあ我らがスレイン法国の誇る最高の避暑地、ローグレンツへようこそ!
おばあちゃん、此処は冬場のドカ雪と年中亜人が攻め込んで来る以外はとぉっても過ごし易いリゾート地だよ!
ゆっくり疲れを癒していってね!』
なんじゃ、この女。
スレインの北端、辺境ローグレンツ。
もとは死の神スルシャーナ様を祀る者たちが興した小さな村、それが時を経て都市にまで発展し、今では国防を担う重要な防衛拠点として機能しているはずの北方領に私は訪れていた。
最近疲れが溜まっているように見えるからと、若い衆が気遣って手配してくれた慰安旅行。
最近神都でも噂になっている北のリゾート地なるものに言われるがまま連れてこられた訳じゃが…
もっとこう…スルシャーナ様を祀る荘厳な感じの街だったハズなんじゃが?
なんじゃあの気安い女は…は?領主の嫁?
〝ほてるこんしぇるじゅ〟兼〝わかおかみ〟?
なんて???????????????
『スルシャーナ教?
ああ、ダーリンが熱心に信仰してるアレかぁ。
お参りしたいならこっちだよ』
ちょっと待てい、これがスルシャーナ教の神殿か?
他の六代神様の神殿と全然違…えぇ…?(困惑)
全体的に木組みじゃしなんか色合いも茶色と橙が多いし…姫巫女の服装も肌の露出の少ない紅白柄で神都の巫女装束と全く違う…いったいどうなっとるんじゃ!?
『風の巫女長から話は聞いてるよ。
日頃の疲れが溜まってるんだって?
なら我が領自慢の天然温泉にどうぞ!
肩までゆっくり浸かれば溜まったコリも疲れもバッチリさ!
宿と料理も一番グレードの高いやつね、代金は気にしないで。VIP様々だよ!』
なんじゃこの湯船、湯が濁っとるではないか…
へ?アゼルリシア山脈の雪解け水が産んだ天然温泉?滋養強壮、肩こり解消、冷え症対策や貧血対策にもなる?
というかアゼルリシアに活火山なぞなかろうが!
どっからこんな温泉引いて来た…掘ってたら当たった?えぇ…
いい湯じゃった…悔しい…でも肩が軽くなっちゃう…
暑い夏にあえて温泉、というのもなかなかオツなものじゃった。
食事も美味い、神都では清貧を強いられるからの。疲労回復の為のガッツリとした料理は躊躇われる傾向にある。
『旅館から観る星はサイコーだよ!
私の故郷と違って空気が綺麗だからね、夏でも冬でも夜は露天風呂から見上げれば満天の星が見えちゃう!
高地だからいっそう綺麗だね!』
はぁ…癒されるぅ……♡
『またのお越しをお待ちしておりまーーす!!』
なんか物凄い勢いで一日が過ぎた気がする。
メチャクチャ疲れが取れたわ!
温泉と美味い飯でここまで改善されるとは!
というかいつの間に温泉街になってたんじゃ!?
帰りの馬車に揺られ、潤いを取り戻した肌に感動しながら、来月も来ようと決心するのだった。
それが私とカナミの初会合。そこから慰安目的でローグレンツには何度も足蹴く通う様になり、徐々に客と従業員の関係から友人関係に発展していった。
なんというか、聞き上手なんじゃよな。
仕草や雰囲気だったり、こちらが話しやすい流れを作ってくれている感じがする。
ありゃ相当場数を踏んどるよ。
だからあやつに娘が産まれたと聞いた時、いの一番に祝いに行ったし、あやつが死んだと聞いた時は目の前が真っ暗になった。
カナミはいつもそう、いつも他人に与えるばかりで見返りを求めようとしない。
挙句勝手に死にましたって?もう返したくても返せないじゃないか、大馬鹿娘め。
娘のレイラはすくすくと育ち、母親譲りの自由奔放っぷりは健在で今も領主として元気にやっておる。
そんな彼女の所へ時々顔を出して、美味い飯を食い温泉に浸かりながら林檎酒を嗜むのは月に一度の楽しみじゃった。
カナミの遺したものは此処にあると。
あの地に居る間だけは、国宝の重責も忘れ自由な自分でいる事ができた。
目の前には1枚の指令書がある。
内容を全部読み、掟に従い証拠を残さぬよう焼却処分した。
いつも通り国宝を使用しての極秘任務。
『ローグレンツ領主レイラ・ドゥレム・ブラッドレイを国宝を使い魅了し神官長に服従させよ』
長ったらしい言い訳が書き連ねてあったが要約するとこうだ。
どうやら元老院の〝彼〟は自らの地位を脅かす存在を許してはおけないらしい。
しかしその個としての力は強大で手に負えない、故に国宝を用いて支配することを選んだ。
レイラの奇天烈な噂は学生の頃からこちらまでよく流れてくる、教頭のヅラを剥いだだの学友と一緒に高慢ちきな上級生を叩きのめしただの好き放題やっているようだ。
卒業後は自領の運営に熱心に務めているそうだが、エルフの奴隷を買い取って従業員として雇用したりはぐれドワーフを引き取って工廠を営ませていたり、法国では類を見ないやりたい放題ぶりは神官長の間でも度々話題になっておる。
あの堅物ゲバルトの娘がのう…カナミの血、強過ぎじゃろて。
そんな娘を国宝で洗脳し人類を護る尖兵にしろと?
自我を奪って、言いなりになるだけの人形にしろと?
巫山戯るんじゃなぁないよ
使命感を押し潰して余りある激情が胸の奥より込み上げる、いっそ命令を下した彼に国宝を使ってやりたいと思ったほどだがそれをやると後が面倒だと早々に思い至り、一先ずベッドに腰掛け頭を冷やすことにした。
しかし老体の私に反抗の術は残されていない。
既に催促の書状は何枚も来ており、察するに彼は相当急いているのだろう。
元老院なんて古臭い制度、形骸化が過ぎて近々取り潰しになるんじゃないかと言われていた程だ。
年ばかりくったお歴々共は何とかして自分たちの保身の為に奔走しているようだけど、その皺寄せが私の所に来るとは…
レイラが「信仰心もロクに無い癖にプライドだけは一丁前な害悪老人とか要るぅ?要らないですわよねえぇ!!」ってしょっちゅう不満をぶちまけていた気持ちが今になってよく分かるよ。
あの娘はブレないね、と苦笑しつつ物思いに耽る。
脳裏に蘇るのはカナミとゲバルト、娘のレイラの姿。
「方法は、ある。
私が消えればいい、それで全てが丸く収まる」
解決策は私が死ぬ事。
そうすれば国宝は機能不全に陥り、洗脳などという倫理を無視した手段を行使できる者は居なくなる。
適性以外に何も無い私ができる唯一の抵抗。
温泉に何度も通い詰め、心身共に健康で居られたおかげか私の寿命は法国の平均的な女性の寿命より随分と永いようで、もう充分生きた。今更半端な生に頓着する気もない。
もとよりこうすれば良かったのだ。
問題は自殺の手段だった。
六色聖典所属者は皆、情報漏洩を防ぐ為『法国に関する質問に3回応えると発動する自決魔法』の使用と毒薬の携帯を義務付けられている。
魔法が掛かっていないのはそれこそ負ける前提の無い漆黒聖典の精鋭達か、私のような特別な事例のみ。
私の手元にも毒薬はある、が。
これを使えば彼等は「どうして毒薬を飲んだのか」理由を探り回るだろう。
魅了、洗脳が国策に組み込まれた法国上層部だ。私が自分の意思で自決した事すら疑い、下手をするとその場で犯人探しの魔女裁判が行われる可能性がある。
居ない犯人を永遠に探り合い、お互い疑心暗鬼になれば組織の崩壊すら招きかねない。それはいかん。
あらためて、この身に不相応な重責にため息が出そうになる。
外で自然死を装おうにもこの老体だし、外出許可なぞ下ろして貰えそうにない。
というか若い巫女達に日常生活でも世話を焼かれておる有様じゃ、1人で行動など許してはくれまいよ。
その時
部屋の隅に生まれた黒いモヤが大きくなり、そこから現れる影。
「な……なんと…」
スルシャーナ教徒ならば知らぬはずもない、死の神の隣に侍る従属神様のお姿が突然目の前に現れた。
夢か幻か、その真偽を疑う余地もなく。
ルビーのような赫灼の瞳に射抜かれただけで身を焼かれそうになるような焦燥に駆られる、圧倒的な存在が今私の前に立っている。
思わず膝を着き、祈った。
真偽など最早どうでも良い、必要なのは信仰心だけ。
〝面を上げよ〟
御身の肉声に弾かれるように顔を上げた拍子、再び目が合う。
それだけで御身は全てを理解したかのように頷き、そっと私の頭部へ手を翳した。
〝望みを〟
ああ、何もかもお見通しなのか。
私が抱えているもの、これから起こる全て。
見通したうえで、その裁量を私に委ねて下さっておる。
ならば
「私はもう、十分に国に忠を尽くしました」
〝……〟
「ならば最期くらい、私は私に忠を尽くす。
既に抱えきれぬほど与えられました、どうか一思いに」
〝ありがとう〟
「ッ!?」
〝あなたは 皆の笑顔を 護れてる よ〟
頭を撫でられた。
柔らかで舌足らずな言葉と共に。
「…ッはい……はい…ッ!!」
どうか天使の娘に幸あらんことを。
彼女達のこれからに六大神様の祝福を。
ああ、運命の鎖でがんじがらめだった人生だけど最後の最後で報われた。
カイレは幸せでした。
〝おやすみなさい 救世主〟
〝どうか 良い夢を〟
穴埋めの短編集でまったく話が進まないのに二話合わせての文章量25000字超えという恐怖、恥ずかしくないんか?