破滅フラグしかない悪役国家に転生してしまった…   作:ハンバーグ男爵

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※前回に引き続き原作改変要素が多いゾ
オリジナル設定嫌いならスマホなんて閉じてしてACⅥした方が有益だ





上下巻とも短編集とか恥ずかしくないんか?


誰もお前を愛さない










29 破滅フラグしかない原作開始前小話集 下

 

 

«野良犬達の五重奏(クインテット)»

 

 

 

 

 

竜王国、王族専用執務室

 

 

「陛下!偵察隊による本日の戦況報告が上がりましたのでご確認を」

 

「うむ、目を通しておく」

 

「陛下!先日取り戻した都市内部の安全確認が完全に終了致しました。

こちらは住民台帳と照合し生き残った事が確認された民達のリストです、ご確認を」

 

「よしよし、よくやった!

宰相よ、慰問の為に彼らの元へ赴く時間を作ってくれぃ」

 

「至急、調整致します」

 

「陛下!再計算の結果今年度確保した予算が前年度より上向いております。

以前仰っていた『豪炎紅蓮』の皆様を雇い入れる方針で貴族たちの意見は合致しておりますが、如何致しましょう」

 

「なるだけ早く彼等と接触し、依頼してくれ!

法国の支援があるとはいえ予断を許さぬ現状じゃ、金でどうにかなる問題なら妾のヘソクリだって切ってやるぞ!

戦乙女の稼いでくれた時間を無駄にせぬよう迅速にな!」

 

「ははぁ!」

 

 

飛ぶように文官たちが駆けていく。

 

此処は竜王国王城執務室。

ビーストマンとの生存競争を賭けて、今日も女王ドラウディロンは書類の山と戦い続けている。

 

戦乙女(レイラ)の働きもあり戦線は順調とまでは言わずとも復興の猶予を残すまでに回復した。

ビーストマンが潜んでいた森は前回攻略し、威嚇とばかりにレイラが森全体を凍結させたことにより再潜伏されることもないだろう。

今のうちに戦線を立て直し、反撃の準備を整える必要がある。

 

森を抜ければ2つ目の都市、事前の偵察隊が齎した情報によれば5000を超えるビーストマンがひしめいているようだ。

 

 

「次に戦乙女殿がこちらに合流するまで何としても戦線を維持しなければなりません」

 

「《クリスタル・ティア》、というかセラブレイトに任せるにも限界があるからの………キモイからなるべく頼りきりになりたくはないが。

兵と物資の運搬が整えば2つ目の都市奪還も夢ではない」

 

 

都市奪還は女王の悲願。

以前まではほぼ諦めモードだったドラウディロン。迫り来るビーストマンの圧力に押し潰され滅亡する未来しか見えなかったが、戦乙女の活躍により生存の兆しが見えてきた。

一端の王として、なにより民の為に彼女の前で大見得切ったドラウディロンは覚悟を決めて全力で国王を遂行する。

 

次いでに幼女の演技も遂行する。

そっちの方がウケがいいし!

 

 

「そういえば前線に出張っておる“彼ら”の様子はどうじゃ?

他とないレイラの要望じゃったから二つ返事で了承してしまったが、話を聞く限りあの五人は犯罪者だったそうじゃないか」

 

「“猟犬”の皆様ですか。

今のところは大人しく職務に従事しておられます、戦乙女殿があれだけ念を押した後ですからな」

 

 

宰相の呟きにドラウディロンも思い出す。

 

国を救ってくれた英雄が先日突然連れてきた5人(厳密には4人と1体)のならず者達。

聞けば更生目的で此処に連れてこられたらしい、到着前にレイラが半殺しにしたから抵抗はしないとの事だがやっぱり心配だ。

 

今は戦争中。

遊撃隊とはいえ勝手な行動は指揮の乱れにも繋がるし、最前線の戦場では平時よりも犯罪率がどうしても高くなる。

食うか食われるかの極限状態における兵士の精神力の摩耗は計り知れない、竜王国の兵は皆紳士だとドラウディロンは信じているが、兵士による強姦や暴行事件が起きないとも限らない。

よそ者なら尚更だ。

 

生まれた時から人類と亜人の境界線で戦い続ける北方領のお嬢様から

 

『娼婦、沢山囲っておいた方がいいかもしれません。男性って溜まるものは溜まりますし、戦闘の後はどうしても気持ちが昂るものなので。

兵士の方々の未婚率も高いですからね、発散出来る場所は多いに越したことはないでしょう。

私の領にもあるのか?

勿論ありますわよ。教義的にはグレーゾーンですけれど、個人的に組織して法に触れぬよう監視しながら運営も任せてます。

兵士は前線で命張ってるのに神の教えだけで欲が満たせるかってんですわ!』

 

『とにかく兵站不足だけは起こさせないようにしましょう。飢えが広がれば犯罪も増える、それは歴史と他国が証明していますから。

明日の命も危うく、国の為に肉壁となる彼等に不自由などあってはなりません、その程度工面するのが上に立つ者の甲斐性というもの。

それでも事を起こすような者がいれば私が直々に…ねぇ?』

 

『“みせしめ”って、大事なんですよ(暗黒微笑)』

 

などのアドバイスのもと国公認の娼館を経営して適度なガス抜きを行っていたりもするが、よそ者の彼らが素直に働いてくれるか一抹の不安が残る。

 

 

「“猟犬”からもたらされる情報は貴重ですからな、存分に頑張って頂きたい。

戦乙女殿のお墨付きとなれば竜王国2つ目のアダマンタイト冒険者として取り立てるのも有りかと」

 

「でも1人アンデッドおるじゃないか、アリなのかそれは」

 

「戦乙女殿は器の広い御方ですゆえ、何かお考えあっての事と思いますが。

先の連絡会で仰っていた『国を超えた魔法組織』の一員として取り立てたのでは?」

 

「新しい組織作るから会場工面しろって言ってきたヤツか、どんな事するんじゃろうのー?

ま、生まれた発明は竜王国へ優先的に回してもらうよう手配して貰えたし、様子見かの」

 

「会合には陛下もお呼ばれされたのでしたか、公務の都合上あまり時間は取れませんが」

 

「聞きたいことがあるんじゃって、わらわ位階魔法は門外漢なんじゃが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜王国内、都市部から数km離れたビーストマン生息域にて

 

 

 

「行け行けペシュリアン!

止まったら死ぬぞ!」

 

「全身鎧は…マラソンには……向かん…」

 

「じゃあもっと軽装で来なさいよ!」

 

「…………嫌だ」

 

「「何その謎のプライド!?」」

 

「ウダウダ抜かさず走れお前ら、追いつかれる」

 

「テメーは浮いてっから楽だよなぁデイバーノック!?

呑気にしてねえで撹乱はよしろ!」

 

「チッ…魔力は有限なのだぞ。

酸の霧(アシッド・ミスト)》、《逆立つ草木(グラストラップ・ソーン)》」

 

 

側を浮くアンデッド、デイバーノックが新調した大きなフードを翻し、設置型の妨害魔法が発動する。

後方一面に黄色がかった霧が後方に充満し、変質した地面を撒菱(まきびし)のような棘草が覆えば、それを確認する暇もなくひたすら走った。

 

後ろから聞こえてくる獣達の悲鳴に「ざまあみろ」と溜飲を下げなから、男たちは安全な場所(セーフハウス)まで一直線に駆け抜ける。

 

 

「ッ!マルムヴィスト、横から2匹来る!」

 

「OKOK!ペッシュは左頼む!

ノンストップで殺るぞ!」

 

「ぜェ…承…知ぜェ…した……」

 

 

横道から飛び出した歩哨のビーストマンが2匹、立ち止まる事無くマルムヴィストは腰の刺突剣を構え吶喊する。

真正面から突っ込む彼の動きを援護するように8枚もの三日月刃(シミター)が舞い、ビーストマンの四肢を斬り裂いた。

 

予測不能な刃の雨に傷付き呻くビーストマンを全身鎧のペシュリアンは息を荒くしながらも腰の斬糸剣に手をかけ、脚を止めぬまま振り抜く。

 

斜めに三枚おろしにされたビーストマン、続くマルムヴィストの刺突剣が呆けた顔した片割れの喉に突き刺さり、勢いのまま後ろに倒れ伏す。

血を拭う手間すら惜しい彼らはそのままの速度を維持し、セーフハウスにたどり着く頃には皆疲労困憊の状態だった。

 

 

「ハァーーーーー……」

 

「ッ死ぬかと思った!」

 

「ぜェ……無ぜェ……もう…無理……ゴッホ!オウェッ…」

 

「オイ吐くなら便所に吐け」

 

 

隠れ家に着くなり大の字に寝転がる。

一名兜の中がヤバいことになってそうだが。

そんな人間たちを尻目に、デイバーノックは机に地図を広げ集めた情報を精査し始めた。

アンデッド故に精神的な負荷も無く、体力の限界が存在しない彼はこの部隊において貴重な頭脳労働担当(ブレーン)だ。

 

 

「…前回から彼奴等(きゃつら)の分布が変わっている。

歩哨の数も増加、都市から引っ張ってきたか」

 

 

竜王国周辺の地理が示された地図に1つ1つマークを付けていく。

 

取り戻した第一の都市より少し離れた場所にひっそりと佇む寂れた一軒家。

もう家主の居ないこの家屋を根城に彼等“猟犬”は活動していた。

 

事の始まりは王国動乱の最中、密かに捕らえられた八本指警備部門の猛者たちはレイラによってそのプライドを完膚無きまでに叩き潰され、更生目的でビーストマン蔓延る生存競争の真っ只中に放り込まれる事になった。

 

それからというもの、()()を嵌められた野良犬達は毎日毎日ビーストマンの潜む区域に少人数で乗り込んでは奴らの正確な位置を把握、地図に示し報告する。途中で会敵すれば仲間を呼ばれる前に始末して逃亡。

命懸けの毎日に王国に居た時のような余裕は残っていない。

 

 

「死ぬ…このままじゃ絶対1年経たないうちに俺たち死んじまうぞ」

 

「でも逃げられないじゃん、コレのせいで」

 

 

そう呟く褐色の踊り子エドストレームの胸元、扇情的な谷間から覗く黒いペンダントが付いた首飾り。

竜王国へ到着した当初、ここに居る全員へ同じものが強制的に与えられた。

 

 

「条件を違えると爆発する強制契約(ギアス)付きペンダント。

逃亡は諦めろと言ったろう、我々は大人しくこの地で罪を償うしかない。」

 

 

何を隠そうこのペンダント、持ち主に対して指定した契約を強制させるマジックアイテムなのである。

わざわざ目の前でその性能を見せ付けられた事もある。用意されたマネキンの首に付いていた同じものが爆発音と共に弾け飛び真っ二つになる様子は彼等の脳裏に今でも焼き付いていた。

 

洗脳や魅了ではなく、あくまで本人の善意で行わせる為に用いられる安心と信頼の法国産アイテムだ。趣味悪っ。

 

契約内容は事細かに設定されているが、レイラの口から語られたのはその中のひと握りの情報のみ。

その中のひとつが国外逃亡の禁止という訳だ。

何が地雷か分からない状況の中迂闊に行動も起こせない。

そもそも毎日獣どもから隠れ潜み、時に命のやり取りを繰り返す彼等に今更悪行を企む余裕などとうに失っていた。

 

 

「けっ、聞いたかエド。

アンデッドが罪を償うだとよ」

 

「でも実際、デイバーノックがあの女に掛け合ってくれなかったら私たち問答無用で殺されてた訳だし。

命あっての物種だけど、ある意味死ぬよりキツいわね…」

 

「あのイカレ女、マジで俺達をどうしたいんだよ」

 

「…………だが、此処に放り込まれてから…

俺達は強くなった…」

 

 

息を整え落ち着いたのか、ペシュリアンが鎧越しにくぐもった声で呟く。それに渋々マルムヴィストとエドストレームも同意した。

この国へやって来てからはや1週間、ビーストマンとギリギリの死闘を繰り広げるうちに彼らの練度は見違えるほどに上昇している、そうハッキリと自覚できるほど成長は目覚しい。

 

エドストレームは持ち前の空間把握能力が更に研ぎ澄まされ、操作もより速く正確に、三日月刃の同時操作数も8本に増えた。

 

ペシュリアンの斬糸剣はより遠くの敵を正確に両断し、三本に増えた糸はそれぞれ操れば三方向を同時に相手取れるし束ねた時の威力はそれなりの厚みがある頑強な柱すら真っ二つにするほど。

 

散々文句垂れてるマルムヴィストですら自身の刺突攻撃の速度と威力が目に見えて上がった事に困惑を隠せない。

 

先程の逃亡時の戦闘もそう。

王国に居た時ならばビーストマンを一撃で仕留めることなど到底できはしなかった。

 

 

「……正直、あのまま王国で甘い汁を啜り…堕落するよりも…

こちらの方が性に会っているかもしれん…」

 

「あー…まあね、悔しいけど日に日に成長してくこっちの生活の方が充実してるかも」

 

「ま、元はと言えば俺達、ゼロの旦那に引っ張られて集まったようなモンだしな」

 

 

出自が特殊なデイバーノックを除き、この3人は王国の貧困街(スラム)出身。

幼い頃より三者三様に苦しみ、飢えを満たすために他者から奪う道を選んだ犯罪者だった。

そんな彼等の前に現れたのが、強さを求め闘いを繰り返すゼロである。

ある時は拳で語り合い、ある時は利害関係の一致から、先の見えない闇の王都を生き抜く為彼の背中を追うことにした。

 

悪党云々の前に、3人の根底には誰にも負けない強さへの欲求がある。

 

悪党にだって仁義があれば矜持もある、幸いな事にゼロはそういった誠意には誠意で返す漢であった。

日陰者には日陰者の誠実さがある、そんなゼロだからこそ3人も彼を認めている。

 

 

「そんで、肝心の旦那はどうしたよ。

まさか単独行動で食われちまったとか…」

 

「誰が食われたって?」

 

 

 

マルムヴィストの軽口の途中、大きくドアを開け放ち巨漢の坊主頭が帰還した。

 

 

「あらおかえりゼロ、遅かったじゃないか」

 

「……壮健そうでなにより」

 

「帰還途中で連中から奇襲を受けてな、死体を無駄に増やして警戒されても困るってのに…」

 

 

そう舌打ちをし、ゼロは手に持つ地図をデイバーノックへ放り投げると空いている椅子に荒っぽく腰掛ける。

 

元八本指警備部門のエース、ゼロ。

本来(原作)ならこの場の者たちと共に王国の影で暗躍する裏社会の顔役のうちの1人だった男。

レイラの原作破壊によって何を思ったか竜王国くんだりまで運ばれて、こうして強制的に戦役を積まされている。

この中では特に成長著しく、修行僧(モンク)故に近接戦闘に特化した職業(クラス)である為か今では同時にビーストマンを5体相手にしても負けない程強くなった。

 

かつての部下だった者たちも今となっては運命共同体、互いに背中を任せ、時に助け合い、支えていかなければ獣蔓延るこの国では生きていく事などできはしない。

 

嘘ではない、この作品では猜疑に歪んだ暗い瞳がせせら笑うことは無いのだ(Cv銀○万丈)

ましてや「俺の為に死ね」などと誰が言えようか。

 

 

「序でに飯も獲ってきた。

マルムヴィスト、お前が捌け」

 

「はいはい分かりましたよっと。

げえ、猪かよ。血抜きが面倒だな…」

 

「午後からあの女が顔を出すそうだ。

十中八九ロクな事にならんだろうから食って体力だけでも付けておかないとな」

 

「「うげぇ」」

 

 

〝あの女〟と聞いてマルムヴィストとエドストレームが露骨に嫌な顔をする。かく言うペシュリアンも兜の中で渋い顔しているが。

レイラが此処へ来ると言う事即ち、自分たちの監視と現状報告だ。他にも装備品の手入れや交換なんかも工面してくれる。

「客将として必要最低限のサポートはして差し上げましょう」との言い分だが、来る度に聞いた事のない武技を実践形式で教え込もうとしたり、トレーニングと称してビーストマンの群れに放り込まれたりと散々振り回され、正直あまりいい記憶が無い。

 

それでも自分達がギリギリ死なないラインを反復横跳びしているのは本人達の実力…だと思いたい。

決して考え無しに放り込まれてる訳じゃない、決して。

 

 

「ほう、師が直々にいらっしゃるのか。

ならば報告書はその時にお渡しするとしよう」

 

 

げんなりする彼等と対照的に明るい声音でそう零すのはデイバーノック。

生者を憎むより魔法に没頭する道を選んだアンデッドである彼はあの日以来随分とレイラに入れ込んで、彼女の事を師と仰いでいる。

表向き、レイラにゼロ他3名の助命を乞い竜王国で奉仕する事を交換条件に過去の犯罪歴を抹消し、身分を変えて生活できるよう取り計らった立役者なのだが、本人は魔法を学ぶ打算有りきで3人を生かしたに過ぎない。

 

仲間、とそう呼ぶには頭に(はてな)マークが浮かぶが、優秀な魔法職ゆえに後衛としてチームの生存率を飛躍的に上げているのが現状だ。

 

 

「今度はいったい何しでかす気だい。

前みたいに吐くまで武技の訓練やらされるのは勘弁だよ…」

 

「……《縮地》だったか。

結局会得まで漕ぎ着けたのはボスだけだったが……」

 

「会得した?ンな訳あるか、まだ動きのコントロールが効かんから直線でしか動けん。

あの女は発動中も直角で曲がりやがるからな、体幹どうなってやがんだ…イカレてやがる」

 

「噂じゃ過去に族長クラスのビーストマンを素手で殴り殺したらしいわ」

 

「あの姉ちゃん人間じゃねえよ…」

 

(……なんだかんだ文句言いつつもこの生活で一番活き活きしてるのはボス)

 

 

充実、そう。充実しているのだ。

 

毎日行われる食うか食われるかの生存競争とそれを乗り越え日に日に強くなっていく自分達、まっとうな成長を感じる事に満足感を覚えている。

悪徳の都に浸かり、弱い者を利用し私腹を肥やすよりもずっと。

 

武人としての性か、はたまたなけなしの罪悪感なのか不明だが。

 

 

そんなこんなで原作で使い捨てられるハズだった悪党達は生き残り、戦乙女の使いっ走りとして竜王国の端っこで細々と生活を続けている。

 

 

 

 

 

 

バァン!!

 

 

『ごきげんよう皆様!!!』

 

 

 

「「「「……げっ!?」」」」

 

うわ来た。

 

蹴破らんばかりの勢いで開け放たれたドア。

声の主を確認するまでもなく首輪付きの猟犬達はロクな事にならない未来を思い描き、うんざりしながら互いに顔をため息と共に見合わせた。

 

 

 

 

 

 

彼等が竜王国屈指のワーカーチーム《戦乙女の猟犬》と呼ばれ都市奪還の重役を担い、目覚ましい活躍をし後に国中に名を轟かせる事となるが、この時の彼等は知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの女にはいつか必ず復讐する…リベンジマッチだッ!!」

 

「………飽きんな」

 

「師に勝てる訳なかろうが。

既に何回返り討ちにあったと思っとる」

 

「でもなんだかんだ楽しそうよね」

 

「旦那、もしかしてそういう趣味…?」

 

「違うわッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

«魔巧のすゝめ【序章】»

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごきげんよう!私ですわ!」

 

「……?集合時間までまだ時間あるけど。

っていうか何処向かって叫んでんの?」

 

 

竜王国、某所。

本日は記念すべき魔巧同盟の初会合の日!

ドラちゃんに頼んで用意してもらった会場にてお茶会の準備をしております。

 

持ってきた資料と〜美味しいオッ紅茶と〜美味しいお菓子を用意して〜、魔巧の茶会にゃ地獄の鬼も顔を出すってぇヤツですわ!

 

 

……こほんっ。

失礼、私とした事が少々ハシャギ過ぎました。

 

本日参加予定の方には前もってこちらの〝招待状〟を渡してあります。

 

招待した方はそれぞれ

 

蒼の薔薇イビルアイ様

 

帝国魔法学院長フールーダ・パラダイン様

 

聖王国神官団長ケラルト・カストディオ様

 

現在竜王国で服役中のデイバーノック

 

同伴者は1人まで、現地までの移動方法は招待状をマーカーにルーファス様が《転移門(ゲート)》で直々にタクシーして下さるそうです。

 

神聖存在に何やらせとんねんって思うかもしれません(私も思ってます)が、魔巧の話を持ちかけた際に〝ええやん〟って自主的に『跡が残らず誰にもバレない移動手段』として協力して下さいました。

でも頼りきりになるのも申し訳ないので、転移系の魔法も同盟で掘り下げて開発したいですね。

 

法国からは私と《無限魔力(セレスティア)》ちゃんが出席します。

一先ずは偽名のレインとケレスを名乗りますが、必要ならば本名と本来の役職を公開致しましょう。

我ら魔巧は皆が平等、お互い腹ァ割らなきゃ話すもんも話せませんわ!

 

人類人外問わず魔巧の下に集った夢のオールスター!

どんな化学反応が起こるか、オラワクワク致しますわね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ケラルト・カストディオは聖王国神官団長であり、政務に長け自他ともに認める優秀な魔法詠唱者である。

国によって秘されているが第5位階魔法を行使でき、この世界では稀有な存在である蘇生魔法の使い手。

 

そんな彼女の下に届いた一枚の〝招待状〟

 

差出人はスレイン法国、国家間の宗教観の違いはこの際置いといて、『魔法の新しい可能性』などと嘯いた集まりに若干の疑いの念はあるものの、いち魔法詠唱者としてやっぱり気になっちゃう。

 

怖いもの見たさで参加してしまった神官団長さまは現在、竜王国のとある一室にて困惑のさなかにいた。

 

 

「おっほおぉぉぉぉ転移魔法!

しかも《転移(テレポート)》より高位のものを片手間に!

素晴らしい!貴女様はさぞ高名な魔法詠唱者であらせられるのですな!」

 

〝それほどでも〟

 

「流石はレイン殿のご友人!

彼女とは良い付き合いをさせて頂いております、いやはや長生きはしてみるものじゃ!この歳になって新たな魔法に触れ得る機会に恵まれるとは!」

 

〝あの娘が おせわに なってます〟

 

 

年甲斐もなく騒ぎ立てるのは帝国における切り札的存在、『三重魔法詠唱者(トライアッド)』と名高いフールーダ・パラダイン。

その名は遠く離れた聖王国にも轟いている、彼がいれば亜人との生存競走も一晩でひっくり返ると噂の大魔法使いだ。

 

何故それほどの大物がこの場に?

そんな疑問は直ぐに吹き飛ぶことになる。

 

彼女が開いたらしい《転移門》から続けざまに現れる者たち。

女性が2人と仮面を被った子供、そして極めつけはアンデッドが一体、何食わぬ顔で円卓の席へと腰掛けた。

 

 

「揃ったようなのでそろそろ…

御機嫌よう、現代を生きる偉大な魔法詠唱者の皆様がた。

本日は私共の招待に応じて頂き誠に感謝申し上げます」

 

 

そう頭を下げる青髪の女性、情報部の調べによれば最近法国で頭角を現し始めた新進気鋭の魔法教授、レイン・エルリク・ホーエンウッド。

魔法地質学という珍しい部門の研究者だ。

 

 

「特にカストディオ様。

お仕事もあるでしょうに遠路はるばる聖王国からの御足労、感謝の念に堪えません。

その苦労に見合った対価になるよう、本日は実りある集まりに致しましょうね」

 

「ええどうも、今日は宜しくお願いします」

 

 

人当たりの良い笑顔でそう言われ、こちらも政務官として培ったポーカーフェイスで無難な返事を返す。

 

 

「さて……

早速お話。といきたいところですが、先ずはそれぞれ自己紹介を致しましょう。

我々は国を越え、種族を越え、魔巧の下に集った同志に違いありません。

この場においてあらゆる虚偽に意味は無く、必要なのは魔法の探究心と好奇心のみですからね」

 

 

そう促したレインの視線の先で老公が「ふむ」と顎髭をひと撫でし、声を発する。

 

 

「なら先ず儂から…

宮廷魔術師及び帝国魔法省頭目、『三重魔法詠唱者』フールーダ・パラダイン。

隣は従者で付き添い人を務めるアルシェ・フルトである。

此度はレイン殿のご好意にてこの場への参加と相成った。

魔力系、精神系魔法には一家言ある故、本日は有意義な時間を過ごそうではないか」

 

 

威厳ある声でそう告げるフールーダと、その隣で小さく頭を下げる少女。

が、ケラルトは既に先程のやり取りを横目に眺めていたのでフールーダの事は「偉大な魔法使い」から「やべー魔法キチ」くらいに内心格下げがなされていた。

 

 

次に立ち上がったのはケラルトも気がかりだったアンデッド。

 

 

「……デイバーノック。

見ての通り種族はエルダーリッチ、アンデッドだ。

我が師より此度の会合の機会を賜った。

主に魔力系、種族柄死霊系の魔法にも縁がある。

自分で言うのもなんだが、生者への害意は持ち合わせていない。安心しろ。」

 

「彼は本来なら祓われるハズだったのですが、死してなお収まらぬ魔法への探究心を持ってしてアンデッドの特性を克服した剛の者。

その精神力には目を見張るものがあります。

種族問わず多角的な意見を取り入れたくて今回出席して頂きました」

 

 

すかさずレインからフォローが入った。

アンデッド、それもエルダーリッチクラスのモンスターすらこの会合に参加している。

職業柄、ケラルトはあまりいい気分では無いが許可を得ている事は間違いない為口に出しはしない。

 

 

「ローブル聖王国より参りました、最高位神官団長を勤めますケラルト・カストディオと申します。

付き添い人はおりません。

信仰系魔法の知識と経験なら皆様のお役に立てるかと」

 

 

席順的に自分の番だと立ち上がり、簡単な自己紹介を行った。

 

 

「王国アダマンタイト級冒険者『蒼の薔薇』、イビルアイ「仮面とって下さい、そういう約束ですよね」ぐぅ…分かった。

エルダーリッチが居るんだしなんとかなるか……」

 

 

レインに咎められ唸った少女が仮面を外すと、彼女を纏う気配が一変した。どうやら仮面には認識誤認の魔法が込められていたらしい。

 

出てきたのは金髪に赤い瞳の少女。

 

だが、高位の神官であるケラルトには彼女の抱える違和感を見抜いていた。

 

 

「吸血鬼…」

 

「ああそうだ、とある理由で吸血姫(ヴァンパイア・プリンセス)として暮らしている。

魔力系、結晶魔法に特化させた魔法を使える。それから転移系や精神系の魔法も少し。

言っとくが、今回はそこの女が何を企んでいるのか監視しに来たんだ。余計な馴れ合いはしないからな」

 

 

素顔を晒し、そう孤高を気取るイビルアイだが小さな身体で胸を張る彼女はどこか背伸びしたがりの女の子のような面影がある。

 

 

「ラキュースさんは連れてこなかったんですね。

付き添い人で来る予定では?」

 

「急な依頼が入ったからな、その対応に出てる。

あとツアーとリグリットにもこの会合の事は伝えてある、亜人排斥やら偏向的な行動を取れば即報告してやるから妙な真似はしない方がいい」

 

「あらあら、全然信用されてませんね」

 

 

ふんっ!と不貞腐れた表情のイビルアイにレインはまるで年の離れた妹をからかっているようにくすくす笑う。

実際はアンデッドなぶんイビルアイがだいぶ年上なのだろうが…女性に年齢の話はタブーだ、それは人だろうが死者だろうが変わらない。

 

 

「最後は私、本日この会合を企画させて頂きました。

スレイン法国魔法院魔法地質学部門教授、レイン・エルリク・ホーエンウッド。

付き添い人はケレシア・リーズ・マスターグ…

いえ、皆様の前で偽りの身分は必要ありませんわね」

 

 

レインがウインクすると、呆れたようにケレスもため息とともに掛けていた眼鏡と認識阻害の指輪を外す。

 

すると彼女達が纏っていた雰囲気が一変し、そこには銀の淑女と気だるそうな三つ編みの少女の姿があった。

 

 

「ごきげんよう皆様。

改めまして私、スレイン法国北方要塞都市ローグレンツ領主、並びに漆黒聖典第13席次を勤めさせて頂いております、レイラ・ドゥレム・ブラッドレイと申しますわ」

 

「…同じく漆黒聖典第9席次、セレスティア・デメチ・エウレシス。

職業は神都でしがない古本屋やってまーす」

 

 

なんとなしに自己紹介する2人だが、ケラルトは驚愕していた。

何かのマジックアイテムを使って隠していたのだろう、もはや別人とも言えるほどに変化した仕草や雰囲気、そして風格が違う。

 

 

(漆黒聖典って…法国の虎の子秘密部隊じゃない!

それが2人も!?

確かに両名とも只者じゃない…特にレインの方、本気で戦ってる時の姉さんでも歯牙にもかけないような別次元の覇気。

マジックアイテム1つでこんなに誤魔化せるものなの…?)

 

 

本職ではないが歴代最強と謳われる騎士を姉に持つケラルトだからこそ分かる、戦士としての格の違い。

彼女達の放つ(オーラ)はたちまち部屋を飲み込んだ。

 

 

「お…おぉ……」

 

 

フールーダもそうだ。

帝国最強と称される御老公も恐らくこの2人には敵わないだろう、法国の隠された実力者の登場に驚きを隠せない…

 

 

「だ、だだだだいだぃ1()0()()()いぃぃぃ!?

貴女はまだ実力を隠しておったのか!!!」

 

 

椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がったフールーダがしきりに叫ぶ、第10位階という言葉にケラルトも目を見開いた。

本来なら決して到達出来ることは無く、ごく一部の文献にしか記されていない位階魔法の最上位、第5位階の行使可能な彼女からしてももはや御伽噺の産物である。

一瞬虚偽ではないかと疑ったが、フールーダが異能力(タレント)で位階魔法を目視で判別可能なのは有名な話だ。この場で嘘を吐くメリットもない。

 

 

「申し訳ございません、魔巧同盟を結成するにあたり諸々の事情で身分を隠させて頂いておりました。

ですが魔法にかける情熱は皆様に勝るとも劣らないと自負しておりますのでご安心下さいませ」

 

「おぉぉぉぉぉぉ…わ、儂が求めていた魔導の極地。その一端を貴女は…修めておるのですか…?

ならばそれを是非ご教授頂きたい!!!」

 

「……残念ながらそれはできません。

位階魔法を極めたと言っても属性を限定させた異能力ありきのものであり私はまだ道半ば、貴方に教えられる事などたかが知れておりますもの。

けれど!『ルーン』は違います!」

 

 

レイラの言葉に落ち込んだり目を輝かせたり、そろそろ血圧が大変な事になってそうなフールーダ。後ろでアルシェは「お師匠様また腰が…」と心配そうにアワアワと慌てふためくことしかできない。

 

 

「フールーダ様もご覧になったでしょう?

ルーン魔法を通した魔法の発動過程、そこから見える位階魔法とは明らかに別系統の魔法が」

 

「た、確かに…あれは我々の知る位階魔法とは些か毛色の違う感覚じゃった。

あれ以来研究を続けた他の者たちも貴女と同じ事を言っておった。」

 

「そう。ルーン魔法の根幹、嘗てこの世界で古の竜種達が使用していたとされる生命を糧に発動する始まりの魔法。

またの名を始原の魔法(ワイルドマジック)

 

「始原の…魔法……ッ」

 

「その謎を解き明かし、我々人類の糧としよう。というのが私の本来の目的なのです。

そのために皆様をお呼び立て致しました。

この偉業を成すには誰かに教えを乞う必要などありません、この場に居る方々は皆スタートラインは同じ。

共に学び、研鑽し、人類が未だ見ぬ魔導の世界に脚を踏み入れようではありませんか!」

 

「おぉ……ッおおおおおおおおおおおおぉぉぉ……」

 

 

感極まって滂沱の涙を流しながらもレイラの手をひっしと縋るように取り、フールーダは何度も頷く。

対してレイラは「上手く話を逸らしてうっかり上がっちゃった位階魔法の事は誤魔化せましたわね!セーーフ!!」と内心ガッツポーズを決めていた。

 

 

「……私たちは何を見せられているのかしら」

 

「「「「知らん(ないです)(なーい)」」」」

 

 

などと外野が呟いているが、老公の嗄れた耳には届いていない。今は新たに訪れた魔導の福音にただただ浸っていたのだった。

 

 

 

…………………………

 

 

 

こほん、とレイラが咳払いをひとつ。

 

卓の真ん中に広げたのはいくつかの文言が綴られた小綺麗な羊皮紙だった。

 

 

「さて、互いの本名も明かした事ですし。

皆様は先ずこちらをご覧下さい

私共は国と宗教と種族の垣根を越え集まった魔巧の同志。

全てを始める前に幾つか確認しておきましょう」

 

 

 

 

一つ、同盟内において一切の戦闘行為の禁止

 

 

 

 

「この場は新たな魔導を切り拓く為の組織です。竜王国内に存在するこの建物を《聖域》と定め、絶対不可侵の非戦闘領域であると認めて頂きます。

国同士の不和や種族間の軋轢は不要なものであり、自由の名のもとに我々は魔巧を探究せねばなりません」

 

 

 

 

 

一つ、同盟内で生まれる知的財産、物的財産の共有

 

 

 

 

 

「こちらは任意ですが。

学ぶものは未だ人類の成し得ぬ未踏領域。基礎は私が誠心誠意お教えしますが、そこから先は各々の独創性が魔巧をより深く広い領域へと至らしめることでしょう。

故に、私達が生み出す財産は生み出した者にこそそれを黙秘かつ行使する権利がある。ですが必要ならば互いに共有し合うことで更なる発展が見込めるはず。

勿論、秘匿もまた個人の自由ですが壁にぶつかった際に1人では解決できない問題もありますからね。

そんな時は互いに情報を共有し合い、議論しながら答えを導いていきましょう」

 

 

 

 

 

一つ、魔巧における発展とそれに伴う利益の管理

 

 

 

 

 

「これについては皆様にお任せします。

魔巧から生まれたものに関して私は一切の著作権等を放棄し、私が基礎を教えた本人だからといって裁判や賠償等で金銭の要求を行わない事を誓いましょう。

あなた方が生み出した物の利益と責任はあなた方のもの。

生まれた魔巧の技術を国で育て、商業化するも良し。

独り粛々と研鑽に打ち込むも良し。

それを国事行為または示威行為等に使おうとも一切の責任を咎めません。

各々が責任をもって魔巧と向き合い、学び、広げて頂いて結構ですわ。

個人的な意見を述べさせて頂くなら、それが弱き人々を救い、人類が益々の発展を遂げる一助となれば幸いです」

 

 

その他にも人道的な面や金銭面で細々とした条項が並べられているが、基本はこの3つに抑えられている。

 

羊皮紙の一番下には各々の署名欄があり、既にレイラとセレスティアの名と血判が刻まれていた。

 

 

「以上の項目にご納得頂けるならこちらに書名をお願いします。

あ、この羊皮紙は契約魔法書(ギアススクロール)の類ではございませんので御安心を」

 

 

いわばこれは決意表明のようなもの。

互いを尊重し合い、魔巧という新たな境地で研鑽する為に宣言する意思表示だ。

 

いの一番に飛びついたのは案の定、フールーダだった。

レイラの話が終わるや否や羊皮紙に飛びつき己の名前を殴り書く。

 

 

「兼ねてより話をして頂いていた同盟じゃ、今更怖気付くものか!

アルシェよ、お前は?」

 

「わ、私で良ければ喜んで…!

師のご期待に添えるよう努力します!」

 

 

興奮気味な老公の隣で従者も頷き、後押しされる形で血判を押した。

 

 

「断る理由もない。

元より多くの魔法を学び探究するのが俺の生きがい…いや死にがいか?

我が師より賜った機会を無駄にする筈がない」

 

 

そう躊躇いなくデイバーノックも手を動かし、参加を表明。

 

 

「仕方ない、付き合ってやる。

…興味が無い訳じゃ無いからな」

 

 

腕組みしながらしかめっ面で、でも興味は隠しきれずにうずうずとイビルアイはごちて、ペンを走らせた。

 

 

「ひとつ、聞いてもいいかしら」

 

「なんなりと」

 

「其方の方は?

先程から隅に座って黙ったままなのだけど」

 

 

そうケラルトが視線を向けるのは先程フールーダと成り行きで話をしていた謎の少女。

女性であるケラルトですら美しいと思ってしまうようなその姿はまるで精巧に作られた人形のような印象を受ける。

 

 

「彼女は……そうですわね、《記録係》です」

 

「記録係?」

 

「ええ、連絡役や移動役も兼ねてますが。

当面の間は彼女の転移魔法で皆様を安全に此処へお招き致します。

そして我々の活動を記録し、書物映像問わず後の人類へ伝えていく為に居てくださってますの。

特例中の特例故に詳細は伏せさせて頂きますが、神に誓って皆様に不利益を被るような事は致しませんので御安心下さいな」

 

 

無表情のままひらひらと手を振ってくる彼女にケラルトは困惑しつつも視線を羊皮紙へ戻し、少しの間考えた。

 

 

(魔巧同盟、始原の魔法、魔法の新しい可能性…

言ってる事はきっと嘘じゃない。

どうして他国を巻き込んでこんなことするのか分からないけれど、彼女が悪意を持っていないのは理解できる。

聖王国を取り巻く環境を打破する為にはカルカの善政に頼りっぱなしじゃ立ち行かないし…)

 

 

ケラルトの所属する聖王国では現在大きく2つの派閥に分かたれている。

現聖王であるカルカが治める北部領と歴代初の女性聖王である事に反対した貴族達が治める南部領。聖王女就任から現在まで強い反発を続けており、その険悪ぶりから内戦の勃発まで噂される程だ。

日常的に亜人に攻め込まれる聖王国で、更に本来預けるべき背中をクーデターに怯えなければならないなど馬鹿らしいにも程がある。

というか南部連中は仮に実権を握った後亜人をどう対処するつもりなのか…いや奴等の事だ、カルカを蹴落として悦に浸ることしか考えていないのだろう。とケラルトは内心クソデカ溜息を吐く。

 

魔巧が自国の抱える様々な問題の突破口になってくれるかもしれない、そんな夢を見てしまった。

 

 

「分かりました、私も魔巧同盟に参加させて頂きます。

このような機会を与えて下さった事に感謝します、ブラッドレイ様」

 

「こちらこそ、宜しくお願い致しますわ」

 

 

かくして此処へ6名の賢者が揃い、魔巧同盟は本格的に活動を開始する事になる。

 

 

彼ら彼女らが本編(原作)に与える影響は如何程のものか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

«賽は投げられた»

 

 

 

 

 

 

 

 

スレイン法国、神都中央広場

 

今日は年に一度、建国記念の式典が行われる日。

六柱の神がこの地に舞い降り、種の絶滅に瀕する人類をその御力で救ってくださった記念すべき日和だ。

 

晴天の空の下、神都で最も大きな中央広場には多くの信徒が詰め寄り、祭典事のみ開放される特設バルコニーより説法を説く最高神官長の話に聞き入っている。

 

この高説は全国民に向けて発せられるものであり、国に登録されたあらゆる都市、市街地、村落に至るまで風の巫女らによる遠隔の映像共有魔法がその祭典の様子を伝えていた。それほど大きな行事なのだ。

 

やがて高説も終わり、年間行事もあとわずかとなった頃合い。

気の緩んだ国民の気を引き締めるように、今までより少し強い言葉で壇上より告げる声が響いた。

 

 

『……それでは最後に、皆に大きな告げごとがある。

これより起こる全ての事柄は現実であり、今後の我が国における未来をより良いものにする為、御身自ら我等の下へあらせられた。

 

皆、心して拝聴せよ』

 

 

そう最高神官長が告げるなり彼は脇へはけ、膝を突き服従の仕草を取った。

年ごとの交代制ではあるが、この国における最高位の地位に座する彼が跪く存在。民衆の中でも賢い者はその意味に静かに恐れ戦き、そうでない者達は静かながらに動揺を隠せない。

 

 

やがて壇上より現れるひとつの影

 

 

一言で言うなら〝赫銀の聖女〟だろうか

 

軽いウェーブの掛かったどこまでも深い銀を思わせる艶髪

 

生者とは程遠い色白でありながら、人形のようにシミひとつ無い美肌

 

神の設えた神器を身にまとい、神々しさすら感じさせるその玉体

 

蠱惑的に、見るもの全てを魅了する赫い瞳

 

 

この世のものではない、完成された一つの〝美〟の形

 

そう錯覚させるほど整った

 

「そうあれ」と創造された人外の美貌がそこにはあった。

 

 

ざわめきが更に大きくなる。

スレイン法国には神話として、六大神と彼らに仕える従属神の姿を童話や絵本で既に見知っていた。

六柱の神々の外見的な特徴や、従属の姿も一般的な法国民なら常識レベルで広がっている。

 

神々がこの地を去り、主を喪った従属神が狂い果てて世界を敵に回そうとも、民には彼らの偉業は脈々と受け継がれていたのだ。

 

そんな彼等の脳内で特徴の一致した従属神の姿が今、目の前に広がっている。

 

 

〝静粛に〟

 

 

たった一言(恐怖のオーラLv1)

彼女が一声放っただけで聞くもの全ての背に凍るような緊張感が走った。

 

映像越しに聞いている者たちも同様に。

恐怖と魅了が綯い交ぜになった感情に支配され、突然現れた見た目15に満たないほどの少女から目が離せない。

 

スレイン法国の全国民を釘付けにした彼女は更に言葉を紡ぐ。

 

 

〝誇り高きスレインの民たちよ〟

 

〝父の愛した人類よ〟

 

〝汝らの厚き信仰は実を結び 私は蘇った〟

 

〝我が名はルーファス〟

 

〝建国の祖 六大神が一柱 死の神スルシャーナ〟

 

〝その従者である〟

 

 

ルーファス

 

あるいはルフスとも呼ばれるその名を知らぬ者は居ない。

 

伝承に曰く、主を亡くし狂っていった他の従属神と違い、スルシャーナ亡き後も最後までこの地に遺された忠臣

 

伝承に曰く、十の神魔を手繰り御身の敵を滅ぼす赫の大総統

 

伝承に曰く、支配と解放を司りし善なる悪魔

 

 

本当に彼女が?

 

そんな民の疑問を裏付けるように、中央広場を囲うようコの字型に建つ大聖堂の屋根の上に亀裂が生じる。

音立て、硝子のように弾け飛ぶ十の空間から覗かせるのはそれぞれ異形の魔物達。

 

3つの首に形の違う厳しい角がそれぞれ生えた、禍々しい翼を持つ目の無い巨龍

 

太陽光すら吸い込むほど黒黒しい巌のような鉱石に全身を包まれた巨人

 

それぞれ色の違う7つの光を灯す頭蓋骨が周囲を飛び回る首無しの鎧騎士

 

ゆらめく流体であり、固体であり、気体である性質を持つ水晶からなる9つの大蛇の首

 

腰元より燃える4枚の悪魔の大翼を生やし、男を魅了する豊満な肢体とそれを煽るように扇情的な格好で妖艶な笑みを浮かべ屋根に腰掛ける青肌の女悪魔

 

その他視界に映るどれもこれも、父であるスルシャーナが丹精込めて仕立てあげ、調整を施し、特別な名まで与えた自慢のユグドラシル産最高レベル召喚モンスター達。

見るもおぞましい異形の化物が合計十匹も自分達を見下ろしている。

 

その圧倒的な存在感に思わず誰もが膝を突く。

我が身の助命を乞うかの如く、生物としての格が違うと、無意識のうちにとった服従の証だった。

 

 

〝面をあげよ〟

 

 

老若男女等しく、ギリギリまで張り詰めていた国民の緊張がルーファスの一言で霧散する。

 

 

〝これらが危害を加える事は無い〟

 

〝お前達が善き人々であり続ける限りは〟

 

 

彼女の言葉と共に人型のものはその場に跪いて礼をとり、異形はその首を残らず下ろし、服従の姿勢をとった。

化物達は完全にルーファスの制御下にある、その証明のために。

その逆も然り、「悪い事しちゃダメよ」と釘を刺す意図もある。

 

 

〝これらは人類を守護する駒として用立てる〟

 

〝共に人類を守護する彼等の下で〟

 

 

ルーファスの横に《転移門》が開くと、黒いフードを被った人物が次々と彼女の背後に並び、膝を突いた。

14人が皆目深に被ったフードで判別は難しい、辛うじて男女が判別できる程度だ。

 

 

〝スレイン法国六色聖典がひとつ 《漆黒聖典》〟

 

〝かの組織の存在を公的に認め 今後は直々に我が指揮下に置く事とする〟

 

 

そう、彼等こそスレインにおいて秘中の秘である特殊部隊の構成員たち。

国内でも噂の範疇だった組織の存在が公にされ、更なる動揺が民を襲うが蘇った神の前で今更慌てふためく事もできない。

同時に感じるのは御伽噺の神の復活に立ち会えた万感の思いと、その膝元に自分達が居られるという優越感だった。

 

 

〝五百年もの間寝過ごした我が今更お前達に多くを求めはしない〟

 

〝我が望みは変わらず 人類全ての繁栄と発展 その守護である〟

 

〝故に今後も変わらず 統治は現行の最高神官長及び神官団に一任するものとする〟

 

 

その気になれば全てを牛耳る力を持ちながら、あえて彼女は国の意思を人類に委ねる。「君臨すれども統治せず」と民の前で言ってのけた。

十の神魔が亀裂の向こうへ消えていく。

跪く漆黒聖典を一瞥して、ルーファスは国民に向けて()()()()()()()を言祝ぐ。

 

 

〝人よ 強かであれ〟

 

〝人よ 賢くあれ〟

 

〝されど人よ 傲り謀ることなかれ〟

 

〝貴方達が善き人々で有り続ける限り ()も貴方達にこの心臓を捧げよう〟

 

 

 

〝人類に永久の繁栄と栄光を〟

 

 

 

荘厳な雰囲気は一転して、母が子に言い聞かせるような優しい声音。

無表情が一転、柔らかに微笑むルーファスが大画面に映し出され、脳を焼かれた国民は歓喜の雄叫びを抑えられなかった。

 

伝播した歓声が神都を埋め尽くすなか、彼女は身を翻し漆黒聖典と共に奥へと消えていく。

 

興奮冷めやらぬ式典を最高神官長に任せ、ルーファスを含めた漆黒聖典はいつもの会議室へと移動して、各々がフードを外し席へ腰掛けた。

 

 

 

「おーっほっほっほ!」

 

 

 

声がデカいぞこの女。

 

 

「《獄界絶凍》、はしたないですよ」

 

「ねーちゃん、基本静かにダンマリとか性格的に無理だからねー。限界だったんでしょ」

 

「人をタチの悪いお喋り人形みたいに言うの止めて貰えます?

まあ、シリアスな雰囲気に黙ってられなかったのは事実ですが!」

 

「いつもサボってたから知らなかったけど、レイラって会議中もこうなの?」

 

「番外席次、コードネームで呼んであげて下さい。

一応仕事中なもので…」

 

「ええ〜めんどくさい。

そもそも知ってるの彼女と貴方とクレマン「《疾風走破》です」…しっぷーそーはくらいだし」

 

「全体行動に向いて無さすぎる…」

 

 

相変わらず高笑う13席次にそれを諌める第3席次、実は初めての円卓会議故に疑問を隠せない番外席次を隊長が諌めようと頑張っているがどうにも締まりが悪い雰囲気だ。

 

 

「お前達従属神様の御前だろうが!

静粛にしろ静粛に!」

 

 

我慢できずにそう吠えた第2席次《四大精霊》の一喝に番外席次は気だるそうに「ハイハイ」と返し、隊長と第3席次の謝罪に鼻を鳴らした。13席次は何食わぬ顔でお茶の用意をし始めた。

 

 

〝べつにいいのに〟

 

 

無表情のまま告げるルーファスの声音は少し残念そうだった。

彼女的には公の仕事以外では、畏まられるよりアットホームな雰囲気で話をする方が好きらしい。

 

 

〝さて〟

 

 

一変、ルーファスの言葉に皆の気(一部を除く)が引き締まる。

 

 

〝式典 ごくろうさま〟

 

〝せんげんどおり わたしが漆黒の指揮 とるから〟

 

 

御身直々による労いの言葉に感動し胸を踊らせる一同。

スルシャーナ教徒としてこれほど名誉な事は無い。

皆今より一層の働きを持ってそれに酬いる事だろう。

 

 

〝さしあたり みんなにこれ わたすね〟

 

 

すぅーっと各々の下に羊皮紙が滑っていく。

 

 

「これは…」

 

「上級武技の取得方法、俺の会得してねえ奴だ」

 

「私のは…モンスター討伐記録表?倒せって事!?」

 

「我々個人に向けたトレーニングメニューって感じですわね」

 

 

ん、とルーファスは首肯し肯定の意を示す。

 

 

〝番外と13席次いがい まだよわいし〟

 

〝無理やりにでも つよくなって?〟

 

 

彼ら自身、プレイヤーの血を分けて神人だと今まで持て囃されてきた訳だがここに来て従属神から弱い、とバッサリ切り捨てられてこの中の幾人かは声にならない悲鳴をあげた。

 

 

〝前衛には前衛の 後衛には後衛のためにくんであるから〟

 

〝支援職には能力をのばす訓練をしてもらう〟

 

〝ぜんたいてきに魂の強度 あげる為にモンスターの討伐もへいこうして〟

 

〝期間はだいたい2年〟

 

 

やって?

 

 

いやそんな無垢な瞳で強いてこられても…

 

 

「お待ちください!

御身の言葉を無下にする意図は更々ございませんが、我々が特訓している間聖典の職務は誰が全うするのですか?」

 

 

クアイエッセの言い分は最もだ。

漆黒聖典は他の聖典と比べて選び抜かれた者しか所属できない国一番のエリート部隊、普段の任務量を考えると13名(今は1人増えたが)でローテーションを回してもギリギリだった。

案件が特殊な為他聖典でカバーする訳にもいかず、それに特訓を加えるとなると如何に神人だとしても忙し過ぎて再起不能になるのは目に見えている。

 

 

〝だいじょぶ 駒 つかうから〟

 

 

ルーファスの横に見覚えのある亀裂が走る。

 

程なくして現れた、式典でも見た七色の骸骨に彩られた首無しの騎士がルーファスの前へ跪いた。

 

 

「ルーファス様の召喚モンスターを代用して防衛、その間に漆黒聖典の強化を行うおつもりですのね」

 

〝くそとかげとも 国宝わたしたとき ねまわししておいた〟

 

〝評議国から落伍して人類圏にながれてくる亜人もすくなくなる〟

 

「あ、それならちょっと仕事ラクになるかも」

 

魔樹討伐の際も全員で出撃できなかったのは一部のメンバーが亜人討伐の為駆り出されていたからだ。

人手不足もこれで少しはマシになるだろう。

クソトカゲことツアーがどの程度働いてくれるかにもよるが。

 

 

「要するに、修行パートです!

皆様、2年後にシャ○ンディ諸島でお会いしましょう!」

 

 

「「「「「「「いや何処だそこは」」」」」」」

 

 

まーた訳分からん事言ってるよこの女。

 

 

(まさ)しく神の気まぐれか、こうして唐突に漆黒聖典強化計画は始動した。

 

 

 

 

王国は麻薬と汚職が取り除かれ、帝国では早くに軍拡が進み、聖王国は法国の物資支援を受けながら亜人の侵略に対抗し、竜王国はビーストマンに対して反撃の準備を整えている。

そして法国は正しい意味で人類の守護者としての道を歩み始めた。

 

 

この世を縛る法則すら好奇心の前では意味を成さない

 

 

原作とは違う道筋を歩む異世界の未来。

その賽は今、投げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝それと わたしに 秘書 つけるから〟

 

〝はいってきていいよ〟

 

「はい、失礼致します。ルーファス様」

 

 

 

「皆様にこうしてご挨拶させて頂くのは初めてですね。

僕は元最高神官長秘書官、現在は御身勅命の下ルーファス様の補佐官を勤めさせて頂きます」

 

 

 

「エンヘラ・リード・ガビー」

 

 

 

「どうぞ宜しく」

 











621…連休は……終わりだ…



死ゾ
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