破滅フラグしかない悪役国家に転生してしまった…   作:ハンバーグ男爵

34 / 35



新年明けましておめでとうございます

年末ギリギリまで仕事して一日から寝正月キメてたらいつの間にか日本が大変な事になってるやないですか
非力な作者は募金くらいしか出来ることはありませんが、被害にあった皆様が一日でも早く普段の生活に戻れるよう心から願っております

そして拙作が皆様の鬱屈とした気分を覆す気晴らしの一助になれば幸いです

ま、新年明けても本作品は独自設定マシマシで原作崩壊必至なんですが

あとお気に入り7000越え、ありがとナス!










34 ノーゲーム・ノーアンデッドライフ

 

 

 

 

「お''っ♡…おっ♡おっほぉ…♡」

 

 

びたんびたんと軟体が跳ねる。

形を保てなくなっても尚狂喜と興奮で床をのたうち回るその姿はさながら杵の中で突かれる突き立ての餅さながらで、モモンガの脳内では嘗て映像資料で見た100年以上前の日本の正月の様子が思い起こされた。現実はそんな綺麗なものではないが。

 

 

「おほぉ…♡あぁ…恍惚とは正にこの事ォ…♡」

 

 

息を荒らげ、ビクビクと痙攣しながら本来の形を保てなくなっても、それでも謎の根性で預かったマジックアイテムだけは優しく取り扱う。鑑定職を持つ者の鏡。

 

 

(これが本当の鏡餅…

って俺は何下らない事考えんだ!)

 

「あー…パンドラ、そろそろいいか?」

 

「「「……」」」

 

 

モモンガ自身もここまでやるとは思っていなかったが、それにも増して伴に連れてきた女性陣の目が白いこと白いこと。

初対面のはずなのに養豚場の豚でも見るかのような視線で事の成り行きを眺めている。

 

 

「も…もう少々お待ちくださいませモモォンガ様…♡

ふぅ♡少々昂り過ぎて…擬態能力にまで影響が…はぁ♡

この曲線美♡機能美♡外観♡どれをとっても素晴らしい出来栄え♡ひとつひとつのパーツに職人のSeele()が込められた珠玉の一品…

分かります、分かりますよォ!是なる一品には作り手の思い!拘り!その他諸々の愛情友情血と汗と涙の込められた技術の結晶だと言う事がァ!

何より…何よりアァッ⤴︎︎︎…!!

私の鑑定スキルをもってしても解析不能に陥る程の情報量を持つルーン石と呼ばれる触媒の計り知れなさ、Wie wundervo(なんて素晴らしいのでしょう)!!

私めの奥底に眠りし抗えぬコレクターとしてのリビドーが今ッ!全身をこれでもかと駆け巡っておりますれば!!

はああぁ…見たい触れたい分解(バラ)したああああい!

ンンンんンンンホオォアアアアアアアッ♡

 

 

びったん!びったん!びったーん!

 

 

「うわあ」

 

 

再び荒ぶる姿に一同困惑。

あのシズが無表情ながら声を漏らしここまで引くレベルの悶えっぷりにモモンガも思わず天を仰ぐ。

 

 

 

全ては一丁の撃杖から始まった…

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

ほんの数分前

 

 

 

『かくて汝、全世界の栄光を我が物とし、暗きものは全て汝より離れ去るだろう』

 

 

 

重苦しい音を立てながら巨大で豪奢な扉が開く。

 

ナザリック地下大墳墓。

ギルドシステム「アリアドネ」によって一本に繋がっているはずのギルドホームにおいて唯一隔絶された場所に位置するこの宝物庫には、嘗ての栄誉を誇った極悪ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』その全ての財が眠っている。

ギルドが半ば空中分解した後もコレクターであるモモンガの涙ぐましい努力によって、最低限の補填はされてきた。

 

そして開かれた扉の少し奥、談話室らしきスペースには…

 

 

『ンンンおっ久しゅうございますモモォンガ様ッ!!

このパンドラ、一日千秋の想いで再びお会いできる瞬間(とき)を心待ちにしておりましたッ!!』

 

 

\バァーン!!/

 

 

JOJOだったらこんな効果音が付いてきそうなポーズと共にソファから立ち上がり、モモンガに敬礼を示すNPC。

某国親衛隊とそっくりの軍服を着込むハニワ顔。

 

名はパンドラズ・アクター

 

種族はナーベラルと同じ二重の影(ドッペルゲンガー)にして、他ならぬモモンガが直々に創造したLv100NPCである。

こんな出で立ちをしているが、ギルドメンバー全員に化けその八割程の戦力を再現できる超優秀なキャラクターだ。

加えてアルベド、デミウルゴスに次ぐ頭脳の持ち主。戦闘に投入してもよし、参謀としても無類の強さを発揮出来るときた。

 

そんな竹中○兵衛と本多忠○を足して割った様な超強力ユニットをモモンガはなんで出し渋っているのかというと……

 

 

『おぅ…久しいな、パンドラよ…

私もお前に会えて嬉しいぞ』

 

あァッ!!再びこうして創造主にお会いできるとは!

このパンドラ望外の喜びにごさいます!

それでモ⤵︎ ︎モォン⤴︎︎︎ガ様!

…本日はッ(マントバサァッ!)どのようなご要件で此方へ?(軍帽クイッ)』

 

(ぬっぐふぅ…ッ)ピカピカピカ

 

 

当時のモモンガが「これカッコイイだろ」と感じたもの全てを詰め込んで作製した「ぼくのかんがえたさいきょうのNPC」それがパンドラ。

 

芝居がかった語り口調!親衛隊の軍服!無駄に発音の良いドイツ語!そしてオーバーリアクション!

 

異世界転移した結果、前世白衣のマッドサイエンティストだったり円卓の騎士だったり伝説の配管工だったりするような無駄に良い声を持ってパンドラは爆誕した。

 

過去の自分を突き付けられているようで、見ているだけでモモンガは心がチクチクします。おお、黒歴史黒歴史。

 

そんな文字通り『歩く黒歴史』ことパンドラの下へわざわざ訪れたのには理由がある。

 

 

『状況説明は後だパンドラよ。

お前に鑑定して欲しい物がある』

 

『ほう…鑑定、でこざいますか。

お任せ下さい!

このパンドラズ・アクター、どんなアイテムでも大歓迎!丸裸に致しましょうッ!』

 

 

談話室のソファに案内される。

 

 

『して…本日はどのような品をお持ちで?

あぁッ!栄光あるナザリックにまた1つ、新たなマジックアイテムが刻まれる…素晴らしいッ!

現存する財宝はあらかた磨き終えてしまいましたので最近では金貨を一枚一枚丁寧に拭き直していたのですが、そんな生活とも今日でお別れです!』

 

(マジか、それだけ俺が外に出さずに放置してた結果だよなぁ…

ちょっと罪悪感があるぞ)

 

『ああ、きっとお前の鑑定眼に叶う物だろう。

これから見せる物は我々の世界には存在しなかった完全なる未知の代物だ。

お前の能力に期待している』

 

『〜ッ!Wenn es meines Gottes Wille(我が神の望みとあらば)!!』

 

(おっふぅ…)ビカビカビカー!

 

『な、ナーベラル。あれを』

 

『はっ』

 

 

被せていた布を剥ぎ、テーブルの上へ撃杖(ソレ)を差し出す。

 

一目見たパンドラが一瞬固まって、視線だけがモモンガと撃杖を交差した。

 

しばし、沈黙。

 

ピッシャアアアアアン!!とパンドラの背に落ちる特大の稲妻をモモンガは幻視する。

同時に「やっべ」と本能的に察した。

 

だが奴は、弾けた

 

 

「んっほおおぉおおおおおおおッ♡」

 

 

途端、水風船が弾け飛ぶようにパンドラの身体が四散するのを彼等は見ている事しか出来なかった。

擬態の機能不全に陥っているようだ。即座に精神安定の発動したモモンガはそう判断したがメイド達は何事かと臨戦態勢を取ろうとし、それを上擦った声のパンドラが制した。

 

スライムと見まごう程本来の形を保てなくなった1人分の白い塊は、自身の軍服すら着直せぬほどにうにょうにょと激しく痙攣するパンドラその人。

時折聞こえてくる恍惚の悲鳴が宝物庫に木霊する度にユリとナーベラルの表情も先程までとは違う理由で曇っていく。

 

おそるおそる、そういった様子でモモンガは彼に声をかけた。

 

 

『ど、どうだパンドラ。

何か分かる事は…』

 

O,Freude(おお、歓喜よ) …』

 

『………何だって?』

 

Freude, schoner Gotterfunken!(歓喜よ、神々の麗しき霊感よ)

Tochter aus Elysium!(天上の楽園の乙女よ)

Wir betreten feuertrunken.(我々は日のように酔いしれて)

Himmlische, dein Heiligtum!!!(崇高な汝の聖所に入る)ッ…』

 

『ど、どうしたパンドラ。おい!』

 

Seid umschlungen, Millionen(抱き合おう諸人よ)!

Diesen Kus der ganzen Welt(この口づけを全世界に)!

Bruder, uber'm Sternenzelt(兄弟よらこの星空の上に)

Mus ein lieber Vater wohnen(父なる神が住んでおられるに違いない)!!!』

 

『おい!おーーい!!!パンドラァ!!

戻って来い!』

 

Ahnest du den Schopfer, Welt?(世界よ、創造主を予感するか)

Such' ihn uber'm Sternenzelt!(星空の彼方に神を求めよ)

Uber Sternen mus er wohnen.(星々の上に、神は必ず住みたもうッ!!)

 

『待て待て待て!!!

落ち着くのだパンドラ!

気持ちは分かる!わかるのだが!

それ以上ドイツ語で喋られると俺が辛い!!

頼むから落ち着いてくれェ!!』

 

Besser geht nichthhhhhhhhhh(すんンンンばらしいいいいいいいッ)⤴︎︎︎⤴︎︎︎!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜しばらくお待ちください〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、冒頭に戻る

 

 

「お''っ♡…お''っ♡」

 

 

うん、き た な い

 

cv宮○真守の声で喘ぐ文章を書くこちらの身にもなって欲しい。

 

そんなこんなで不定形になってしまったパンドラ。

 

モモンガはもうなんか恥も外聞もかなぐり捨てて骨の顔を覆って俯いている。蛍光灯かってくらいその背は光り輝いていた。

 

 

「「「うわあ」」」

 

 

そんな役者の痴態を初見で目の当たりにしたメイドたちの心境は如何程のものか想像に難くない。

ユリなんて普段の言動が嘘みたいにゴミを見るような目で役職的には上司であるはずの守護者を眺めてた。

 

役者(アクター)だもんね、この痴態も役者の名演技だと言ってよバー○ィ。

 

ところがぎっちょん、現実は非情である。

 

素なんだなあこれが。

 

 

「大変失礼致しましたモモンガ様」

 

「うわぁ急に落ち着くな!」

 

「一周まわって冷静になりました。

そちらのお嬢様方も、先程はお見苦しい姿をお見せしてしまい申し訳ありません。平に謝罪致します」

 

「え、ハイ」

 

「えぇ…こんなのが私の同胞?」

 

「うわあ」

 

 

なんて大真面目に喋ってはいるが、まだ身体は完全には戻っておらず、辛うじて生成した声帯で冷静に言葉を紡ぐ。

メイドたちもお嬢様扱いされたことすら大して気にしない程度には困惑していた。

シズなんてもう「うわあ」と言うだけの機械になってしまったよ。

 

 

「先ずこちらのマジックアイテムですが、パーツひとつひとつに等級が別れておりまして。

低いものはこちら基準で言うところの【最上級】、高いものなら【遺産級(レガシー)】のレア度を保有しております」

 

「遺産級…我々基準だと少し物足りないが、ひとつひとつにレア度が別れているとは。

俺の鑑定スキルでは計れないわけだ」

 

「ですが性能は侮れません。

私の見立て通りなら組み合わせ次第でその精巧さ、精度の高さは【聖遺物級(レリック)】以上に匹敵するかと。

何よりこのフォォォルムッ!!

杖である事を逆手にとったこの画期的な形状ォ⤴︎︎︎!

内部の排熱機構に至るまで計算し尽くされた機能美ィ⤴︎︎︎!!

中心部の石に秘められし神秘の香穂(かほ)りィア⤴︎︎︎!!!

正に完璧、魔法詠唱者の為に製錬された杖の完成系といって差し支え無いでしょう!!!」

 

「お、おう…そうか…(ピカピカ)

だいぶ私見がこもってないか?」

 

「いぃえッ!そのような事は決っしてございません!

かのマジックアイテムからは造り手の滾らんばかりに熱い情熱が垣間見えます。

有り体に言ってしまえば匠の技というヤツですね。

型番を見るにこれは量産が可能なタイプなのでしょう、できるなら是非ッ!ワンオフ品をこの目で見てみたいものです!

どんな変態機構が見られるのかワクワクでこの胸がッああっ!また四散しそうでございます!」

 

「止めろ、落ち着け。な?

ではナザリックで複製は可能か?」

 

「無理ですね」

 

 

先程までの歓喜の雄叫びから一転、そうキッパリと唱えるパンドラにユリとナーベラルは一目で分かるくらいに顔を顰めた。

 

ナザリックとはユグドラシル内でも有数の巨大ギルド、過去には鉱山を丸ごと占拠だってした事がある。その財力でもってして、たかがアイテム生成に不可能などあるものか。

 

 

「不敬では?

たかが人間の作ったアイテムがナザリックの力をもってしても生成できないなんて…」

 

「そうは仰りましてもお嬢様(フロイライン)

分からないのです」

 

「ほう、分からないか。

ナザリックの宝物庫、そのすべてを把握し素材まで(つまび)らかに記憶するお前が」

 

「素材は木材と鉄、こちらの綺麗な石は別として、判明しているのはそれくらい。

それが何故か魔法を発動し、筒先から放出する。

その結果だけしか理解できません。

全くの未知。このパンドラ、鑑定スキルでレア度と素材の善し悪しは把握できますがそれぞれのパーツがどのような意味を成し、どういった過程で魔法が発動できているのかさっぱりでして。

パーツごとに等級が別れている故なのでしょうか、それとも…」

 

「結果しか分からない、か。

なるほどな」

 

 

モモンガは考える。

パンドラは自分の付け合わせのような安物とは違い、専門職の鑑定スキルを所持している。

一芸秀でれば強いユグドラシルにおいて専門職の鑑定ほど信頼できるものはない。

その鑑定が素材とレア度しか判別できず、かつ『杖』であるということしか理解できないのなら、いよいよもってユグドラシル外のアイテムは完全なる未知の領域だ。

 

 

(いや、違う。恐れるな。

未知だからこそ覚えなければ。

ゲームじゃない異世界だからこそ学習し身につけないとこの世界じゃやっていけない。

パンドラにもナーベラルと同じく魔巧の知識を付けてもらうのはどうだ?

アイツの性格上喜んで勉強するだろうけど…反応がなあ…)

 

「パンドラよ、宝物庫を出て『未知』を学ぶ気はあるか?」

 

 

 

 

 

それはそれは良い返事が宝物庫を揺らしましたとさ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第6階層 コロッセウム

 

 

 

「ああっ!ナーベラル殿素晴らしい!

そう片手でリロード放熱をッッくぅ!!

銃口をそう!もう少し上に!ああその角度!

イイですねぇ最高ですねェ!!ッエーイ☆

モモォォンガ様!アレ私も欲しい!使いたいです!」

 

「俺だって欲しいさ。イイよな、撃杖」

 

「えぇ…それはもう…」

 

「「イイ…」」

 

 

 

「モモンガ様と馴れ馴れしく話してるの、アレ誰?」

 

「宝物庫の領域守護者であらせられるパンドラズ・アクター様です。

これ以上はボク…私からはちょっと」

 

「えー宝物庫番なんて凄いじゃん、ちょっと言動がおかしいけど。

なんでユリは気まずそうに目をそらすの、凄い奴なんでしょ?」

 

「……ハイ。おそらく、たぶん、きっと」

 

「えぇ…でもモモンガ様とっても楽しそう」

 

 

 

 

「アレがモモンガさまが持ち帰った物…

ちょっとかっこいいかも…」

 

「…ん、マーレ様もアレの良さ、分かる?」

 

「は、ハイ!

なんだか心の底を擽られるような不思議な気持ちになります…なんだろうこれ」

 

「…形状、私の魔道銃に似てる、けど。

魔法詠唱者にしか、撃てない。残念」

 

「え!そうなんですか!?

えへ…じゃあ僕も…使えるかなぁ…」

 

 

 

〜〜〜別室にて〜〜〜

 

 

 

「もういいでありんしょう!?

妾もモモンガ様について行きたいでありんす!

チビ助達は解散なのになんで妾だけ!」

 

「駄目だ、実働部隊のシャルティアには覚えておいて貰わないといけない事が山ほどあるからね。

モモンガ様の為に働きたいと豪語したのは君だろう」

 

「そうよ〜頑張って覚えなさい。

じゃあ後は頼むわデミウル「君もだアルベド、守護者統括が会議の最前線にいなくてどうする」しゅん…」

 

「イト、哀レナリ」

 

「モモンガ様のご命令通り、完璧に目標を確保しなければ」

 

 

疲れを知らぬ守護者達の会議は夜明けまで続いた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モモンさん、此方は終わりました!」

 

「了解です。

気配から察するに、入口周りはこれで片付いたようですね」

 

 

王国エ・レエブル領の資源地帯。

都市部より少し離れた村から出発する事少し、辿り着いた件の坑道で俺たちと漆黒の剣の皆さんは戦っている。

 

現地までは領主であるレエブン侯爵直鞍の鉄騎馬が迎えに来てくれて、俺たちはそれに搭乗し領地まで楽々辿り着いた。

馬と違って休ませる必要も無いから到着も速い、日が明るいうちに目的の領地へ到達してしまったのでそのまま坑道へと赴く。

長引きそうだと踏んで野営の準備もしているのだし。

 

周囲の炭鉱夫たちは現場から離れているか既に死んでいるのでこの辺りにはターゲットとなるトロールしかいない。

一番近い村へ続く道にはレエブン侯爵の側近、元冒険者のロックマイアーさん達が予防線を張ってくれているので安心してトロール退治にうちこめるワケだ。

 

鉱夫達の簡易拠点だった建物を荒らしまわり、自分たちの住処にしていた見張り番を三枚おろしにして背後を警戒しながら坑道内部へと突入する。

 

一晩練習したナーベラルの撃杖の具合も上々、パンドラの熱心なレッスンの結果か命中率もかなり上がってきた。

《魔法口径圧縮》についてはまだ座学が必要だけど…

 

奥に進むほど臭ってくる土に混じった血と肉の合わさった腐臭に無い鼻が捩れそうになるが、不快感で吐く胃もないからな。

 

入ってすぐに酷く四肢や頭の欠損した大量の遺体も見つけた。

漆黒の剣の皆さんはかなり渋い顔をしているが…

こういう時アンデッドで良かったと思ってしまう。

 

 

「うっ…」

 

「おそらく炭鉱作業中に襲われたのでしょう。

気の毒ですが埋葬している暇はありません」

 

「モモン殿、冷静であるな。

簡単ではあるが自分が弔っておこう」

 

 

正式な聖職ではないがドルイドであるダインさんが彼等を弔い、自分達は先へと進む。

 

最奥に近付くにつれ、呻き声と共に現れるひとつの影。

 

…なんだ、これは。

 

 

「なんか…様子がおかしくねえか?」

 

 

野伏(レンジャー)だからか、鋭敏な聴覚で感じ取った異変にルクルットが声を上げる。

 

坑道の奥からヨタヨタと現れた1匹のトロール。

サイズは通常個体より少し大きい程度で本来緑色に近いはずの体色は薄気味悪い紫に変色し、片手には人の腕力では到底扱えない大きさの棍棒、空いた方の手には同胞であるはずのトロールの死体の脚を血糊と一緒に引き摺りながら、幽鬼のような佇まいで此方へ近付いてくる。生気の欠片も感じさせない虚ろな瞳が場違いなほどグルグルと動き回り、更に不快感を加速させた。

 

 

「これは…一体…」

 

 

おかしい、明らかにおかしいのだ。

異様な見た目もおかしな動きもそうだが、何故こいつから…

 

アンデッドの気配がする?

 

忙しなく動く血走った目玉が間もなくぎょろりとこちらを睨む。

目玉のひとつひとつがそれぞれニニャとナーベラルに向けられているのに気が付いたその時。

 

 

「闍ヲ縺励>闍ヲ縺励>谿コ縺励※谿コ縺励※ッッッ!!」

 

 

放たれた血を吐くような叫び声。

これは…ッ!

 

 

「ひっ…!?」

 

「…ッ!?」

 

 

途端、それを耳にした2人が震え始め間もなくして腰を抜かしたのか膝をついた。

極寒にいるのかと見間違うほどに身体は恐怖に震えていて、こちらに聞こえるほどガチガチと歯を鳴らし顔色もすこぶる悪い。

 

ニニャはともかく、ナーベラルまでが…!?

 

 

「《恐怖の雄叫び(フィアー・クライ)》か!?」

 

「コイツ狙って魔法詠唱者だけを…!?

ニニャ!ナーベちゃん!」

 

「ナーベ、どうした!?」

 

「モ…モンさッ…ぁ…

なんで…私…ッ!?」

 

 

思わず呼びかけてみるもその瞳は涙目になっており焦点が定まっておらず、宙を泳いでいて呼吸もままならないのか息も荒い。酷く困惑しているのか必死に自分を抱き締め弱々しく震えていた。

明らかに精神状態に異常をきたしている、普段のナーベラルならありえない程怯えた表情だった。

 

おかしい。

冒険者活動における事前準備として俺とナーベラルには考えうる限りの状態異常における耐性をアイテムによって獲得しているはずだ。

そもそもレベルの低いこの世界では俺たちに通用する状態異常の方が少ないだろう。

《恐怖》状態への対処なんて初歩も初歩、きちんと対策はしているはずなのに…何故ナーベラルまで動けない!?

 

 

「これもゲーム外スキルの影響…なのか?」

 

「俺とモモンさんが前に!

ダイン、彼女達に《獅子の如き心(ライオンズ・ハート)》を!」

 

「了解である!」

 

「……了解!」

 

 

内心焦る俺とは対照的に予想外の事態でも冷静な判断を下すペテル。

流石長年リーダーを務めるだけはある。

後方は既にルクルットが確保しいつでも脱出できるようにしてくれているようだ、なら俺は目の前の不届き者を叩き切るだけ…

 

ギルメンの娘同然の存在によくもやってくれたな!

 

苛立ちに任せトロールの胴を薙ぐ。

 

案の定上と下が泣き別れしたトロールの上半身は吹っ飛んで坑道の壁に臓物と共にぶちまけられた。

 

よく見ると腹の辺りにナイフで切りつけた跡の様なものが見える。文字のようだが勉強中の異世界文字とはまた違うものだ。

 

やっぱりレベルは低い、なら何故ナーベが…

 

 

「さ、流石モモンさん。凄いパワーだ…

ッ!!まだ動くのか!?」

 

 

驚愕するペテルの声につられて顔を向けると、衝撃で無惨に潰れたトロールが上半身だけで這いつくばって向かってくる。

 

そうか、アンデッドだもんな。

 

ユグドラシルなら体力が切れれば消滅するハズなのだけど、こっちでは仕様が違うのか?なんて精神安定が働いて妙に冴え渡った頭で考える。

 

 

「丁度いい、一度殺したくらいじゃ斬り足りなかったところだ」

 

 

今度は縦に真っ二つにしてやった。

 

飛び散った破片を散らしながら飛散するトロールだったもの、これで終わり…

 

 

「ッまだ動くのか!執拗いぞ!」

 

 

なんと飛んだ腕はのたうち回って執拗にナーベラルとニニャに掴みかかろうとしている。

 

しかも切り飛ばした勢いを利用して2人へ向かって一直線に飛んで行くじゃないか!

 

 

「ッこの!」

 

 

ダインの魔法によって回復したニニャはいち早く撃杖の先を向け、《火球》で燃やし尽くす。

 

対するナーベも撃杖を残った腕に向けようとして…

 

 

「ぁ…」

 

 

取り落とした。

 

まだ震えている手を抑えながら自分自身に驚愕している、そんな表情でナーベラルは動けない。

 

それでも腕はナーベラルに触れようと眼前まで迫ったその時。

 

 

「ッ危ねぇ!!」

 

 

動けないナーベを突き飛ばし、素早く動いたルクルットが入れ替わるように腕に触れた。

 

 

「なっ!?」

 

 

その瞬間。

掴みかかる腕から紫の光が迸り、ルクルットから腕に向かって何かが流れ出しているのを幻視する。

 

いや、吸い取られている…!?

 

 

「うおおおあああ気持ち悪ぃんだよこの野郎ォ!」

 

 

見てわかるほどの異常事態にルクルットは大声を上げながら力を振り絞り、「俺のそばに近寄るなァァァッ!」とばかりに掴み取った腕を壁に向かって叩き付けた。

そこにすかさずニニャが《火球》を撃ち込み、今度こそ炭になったトロールの腕は沈黙した。

 

 

「な、なんだったんだ今のは…」

 

「ルクルット無事か!?」

 

「あぁ、俺はなんとも…

ッそれよりナーベちゃん、大丈夫か!?」

 

「………」

 

 

ナーベはまだ軽く震えている。

 

 

「ナーベ、声は出せるか?

落ち着いてからでいい」

 

「ッいえ…大丈夫です…

震えも収まりました」

 

「そうか、身体に異常があれば遠慮なく言え。

ルクルットさん、ありがとうございました。

ほらナーベ、お前も」

 

「な、何故「いいから言え」ッ……助かったわ(ボソッ)」

 

 

こんな所までカルマ値の弊害がァ…

だが今回は助けられたんだからお礼くらい言って当然だ、頼むから礼くらい述べてくれ。

 

 

「いーのいーの!

ナーベちゃんが助かったならそれで良かったじゃん!

咄嗟に割って入った時のオレ、格好良かっただろ?」

 

「調子に乗るな死ね」

 

「流れるように罵倒!?」

 

「あはは…探知にもこれ以上モンスターの反応はありません。

ペテル、そろそろ坑道を出ましょう」

 

「ああ、モモンさんもそれでいいですか?」

 

「了解です。

それにしてもなんだったんださっきのアンデッドは…」

 

 

とにかく気色悪いトロールだった。

アンデッド特有の雰囲気はあったが“質”が俺の知っているものと全く異なる。ランクの上下ではなく完全に別物のアンデッドだ。

 

 

「腹に刻まれていた文字も気になるな…」

 

「アレは…僕もチラッと見えただけなんですがたぶん…」

 

「話はあとあと!とっとと下山だ、こんな気色悪い場所にいつまでもいてらんねえよ」

 

 

妙に急かすルクルットに従って、いくつもの疑問を残したまま俺たちは坑道を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

坑道を下山し、ロックマイアーさん達と合流後、俺たちは鉄騎馬の迎えでエ・レエブルの都市まで戻り、領主に事の顛末を伝えた。

 

ロックマイアーさんのチームが確認したが俺たちの働きの甲斐あって坑道のトロール達は全滅していた。

遅延していた炭鉱作業は死骸の撤収作業、焼却処分の後、折を見て再開する予定なのだそう。

魔巧が流行っている今、鉱山資源は貴重だから復興は急ピッチで進めたいらしい。

 

最後に出てきたトロールに関しても報告する。

 

俺とニニャが見たトロールの皮膚に切りつけられていた文字。

あれは魔巧を発動する為に刻む『ルーン文字』だった。

それが原因でアンデッド化したのかは分からないが…

 

 

「実は…ルーン文字の刻まれたアンデッドは他の領地にも出没していてね。

今まではゴブリンや野狼(ローン・ウルフ)程度だったのだが、遂にトロールにまで刻まれていたのか。

どの個体もかのモンスター同様、首だけになっても動き回り炎で完全に燃え尽きるまで動き続けたそうだ」

 

「マジかよ、タチ悪ぃな」

 

「他に我々から出せる情報としては…

魔法詠唱者のみを対象にした《恐怖の雄叫び》の発動、でしょうか」

 

「ニニャさんもナーベも耐性を持つアイテムを所持していたにも関わらず精神への負荷が掛かったようです。

耐性を貫通するほど強力なスキルか、他の魔法によるブーストなのか…」

 

「魔法詠唱者を対象に絞ることによって条件付きで強化されるスキルなのかも知れませんな…

だとしてもそんな高度な技術をアンデッド化したトロールが使用するのは異常だ」

 

「何か意図的なものを感じるのであるな。

不吉の予兆でなければよいのであるが…」

 

「兎に角俺たちはエ・ランテルに戻って組合長に事の顛末を報告します」

 

「ああ、助かった。依頼は完了だ。

報酬はギルド経由で支払ってある。

アンデッドの異変に関しては私の方でも貴族間で情報を集め、注意喚起をしておこう。

君たちも…えーと、モモンくんだったか?

銀級にしておくには惜しい実力だ、益々の活躍を期待しているよ」

 

 

冒険者組合の金払いが悪くなったら雇われに来たまえ、良い金額を提示しよう。と領主に軽口を叩かれ俺たちはエ・レエブルをあとにする。

 

相手はお偉いさんだったんだよな?

思ったよりフレンドリーな人だったな、仕事も斡旋してくれるって言ってたし。『漆黒の剣』のオマケ扱いだと思っていたけれど、存外俺たち評価されてるみたいだ。

 

というか比較対象が横柄な態度のリーダーで有名な『クラルグラ』だから余計俺たちや漆黒の剣の皆さんが好意的に思われてるのかも。

 

 

「そう言えば、モモンさんはパーティ名は考えないんですか?」

 

「生憎と2人ですからね、そうだなあ…

『モモンとナーベ』とか」

 

「そのまんまであるな」

 

「モモンは黒の鎧着てるし『黒騎士』とかどうよ。

ナーベちゃんは『麗しの姫君ナーb』「死んでください早急に」せめて最後まで言わせてぇ!?」

 

「僕らと黒が被っちゃいますね…

でもお2人の力なら銀級なんてすぐに飛び越してオリハルコン…いえ王国最高位のアダマンタイト級だって夢じゃありませんよ!」

 

 

屈託のない笑顔でそう言うニニャ。

薬草採取任務の夜では突き放すような事を言ってしまったが、暫く過ごすうちに彼等にも愛着が湧いている。

 

といっても友人のように、とかではなくアンデッド補正でペットを飼っているような気分だが。

 

…いけないな、この差異に慣れてしまったらいよいよ歯止めが掛からなくなるだろう。

 

『仕事仲間』…『戦友』でもいいな。高く飛べそうだ。

 

初対面でも好意的に接してくれたイアンさん、ガゼフさんもそうだ。

都合のいい情報源ではない、こちらを信用してくれたビジネスパートナー。

信用には信用をもって応えるべきだ。

 

 

 

 

「ッ!?おいペテル、あれ!」

 

 

鉄騎馬の後部座席からルクルットが叫ぶ。

 

視線の先には我々の帰る先、エ・ランテル城塞都市の北部入口付近から黒煙が上がってるのが見えた。

 

それから地鳴りのような轟音と、モンスターの叫び声。

 

 

「この声量…かなりの大型モンスターであるな!」

 

「大型モンスターが城塞都市に直接攻めてきたってのか!?無茶苦茶だろ!」

 

「運転手さん、急いで下さい!」

 

「俺達が先行します、行くぞナーベ。

《飛行》で着いてこい」

 

「……ッはい!」

 

 

鉄騎馬から飛び降り、脚に力を込める。

城門までの距離はさほど離れていない、ならもう鉄騎馬より走った方が早いな。

Lv100戦士職の脚力は尋常ではないのだ。

スタミナもアンデッドなので無尽蔵、やろうと思えばトップスピードのまま一日中走っていられる。

 

踏み込みと同時に土が派手に抉れ飛ぶが今はそんな事に構ってられる状況ではないからな!

 

 

「モモンさん、お気を付けて!」

 

「ええ、そちらも増援が来ないか警戒しつつ急行して下さい」

 

 

 

 

 

…今思えば、この行動は軽率だったと思う。

柄にもない突出をしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行っちゃった…」

 

「つーか速っや!鉄騎馬よりよっぽど速度出てるぞ!?」

 

「やはり規格外の御仁であるな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エ・ランテル城塞都市北門前。

 

いつもなら行商人の通行管理と検問程度の仕事しかなく、人も疎らでのどかなエリアであるのだが、今回ばかりは勝手が違う。

 

けたたましい雄叫び

 

炸裂する破壊音

 

潰れ荒れ果てた検問所

 

城門は既に固く閉ざされており、非戦闘員は既に避難していた。

 

それでも周囲には少なからず被害は出ている。

運悪くその場に居合わせた衛兵の無惨な遺体は損傷の激しいまま転がされており、中には砕けた人型の石像も転がっている。

 

 

(石化魔法…スキルか?

だとしたら敵は大型のコカトリスかナーガの上位種、バジリスク…むっ!?)

 

 

素早くその場を飛び退くモモンガ。

 

さっきまでいた場所には枯れ草のような色合いの巨大な尻尾が叩きつけられ、派手に土を巻き上げた。

 

もうもうと立ち込める土煙の中から獰猛な唸り声と共に現れたのは、血の滴る牙を剥き出しにする大型モンスター。

名をギガントバジリスク。

 

 

「大きいな、ユグドラシルなら金冠クラスだぞ」

 

 

ゲーム時代の記憶を手繰り、思い出すのは序盤に登場するモンスターだ。

ギガントの名の通り、バジリスク種の亜種にして始めたばかりのプレイヤーが最初にぶち当たる大型モンスターの壁である。

ユグドラシルではモンスターの個体ごとに大きさに差異があり、その中でも特別大きい、又は小さい個体は過去に存在した狩猟ゲームになぞらえて『金冠』という呼称で親しまれている。

 

モモンガの持つ石化耐性を付与するマジックアイテムが反応したのを感じる。

不安要素はあったが耐性は確実に機能しているようで胸を撫で下ろす。

 

(テイムしたバジリスクの大きさ比べ大会ってイベントもあったなあ、懐かしい。

…おっと、ノスタルジックに浸っている場合じゃない。

視線による石化スキルは対策済みだ、ならあとは叩ききってしまえばどうとでもなるハズ…

なんだ、額の部分に…また文字だと?)

 

「オイ!そこの黒鎧!

確か銀級のモモンだったよな!?」

 

 

名前を呼ばれ振り返る。

閉ざされた城壁の上、物見台からこちらを見つめる視線を感じた。

 

あの男は確か、ミスリル級冒険者チーム『クラルグラ』に所属していた盗賊(シーフ)だったはずだ。

リーダーの暴走を同じ所属の魔法詠唱者と2人で諌めている姿を何度か見た事がある。イグヴァルジよりはマシな印象、程度の認識だが。

 

 

「そいつに近づくな、石にされるぞ!」

 

「分かっている、マジックアイテムで耐性はあるから問題ない!」

 

「そうじゃねえ血もだ!

斬った傍から吹き出して触れたら鎧も何もかも石にされちまう!」

 

 

通常個体は血に猛毒をもつ筈だが、石化付与する血液をもつギガントバジリスクはユグドラシルに居なかった個体だ。

細心の注意を払わなければいけない。

 

 

「情報感謝する、ナーベ!」

 

「はっ!」

 

 

撃杖から撃ち下ろした《雷撃(ライトニング)》がバジリスクに降り注ぐ。

口径圧縮魔法が使えていればもっと火力が出せたのだろうが、今は詮無きこと。

 

苦悶の悲鳴を上げた後、そのヘイトはナーベラルへと向くのは必然だった。

 

おどろおどろしい爬虫類の瞳が妖しく輝く。

ナーベは一瞬怯むが、それ以外の異常は起きていない。マジックアイテムは問題なく機能したようだ。

 

続けざま、直接触れないよう細心の注意を払いながらグレートソードで斬りつける。

鬱陶しい尻尾を切り飛ばし、前脚を片方根本からもいで、腹には幾つもの斬撃痕を刻んでやった。

Lv100戦士職の力だ、大概のモンスターは即死するはずなのにギガントバジリスクはそれでも石化する血を吹き出しながら暴れ回り、一向に死ぬ気配は無い。

 

 

「やはりあの時のトロールと同じか!

ナーベ、もう一度だ。雷でも駄目なら火を使え!」

 

「はっ!

いい加減くたばりなさい!」

 

 

再びナーベが撃杖を構えようとしたその時

 

 

「蜉ゥ縺代※闍ヲ縺励>谿コ縺励※谿コ縺励※ッ!!」

 

「ッぅあ…!?また……?」

 

 

あの時のトロールに酷似した咆哮。

ナーベに向けて放たれたそれは彼女に致命的な隙を与える。

《飛行》の効果も消え、受け身も取れないまま落下するナーベを見兼ねたモモンガは即座に攻撃を中止、剣を放り捨て落下する彼女を受け止めた。

 

 

「無事かナーベ!?」

 

「う……ぁ…」

 

 

顔を青くして震える彼女の状態は先のトロール戦と同じ。

未知の状態異常に侵されたナーベは最早戦いを続行できる状況にない。

 

そして今度の相手はウスノロのトロールとは違う、特大サイズのギガントバジリスクだ。

 

 

「ッチィ!」

 

 

ナーベを庇いながら巨体に弾き飛ばされる。

痛みを恐れぬバジリスクは戦いの中で負った傷から血が溢れ出し、クラルグラの彼が言ったように触れた地面が灰色に変色し石になっていく。

 

このままではジリ貧だ。

 

犠牲になった衛兵の痕跡を見るに石にされてしまえば鎧であろうとも容赦なく破壊されてしまう。

 

現に先程まで使っていた2本のグレートソードは返り血を浴びて刀身の半分以上が石化してしまった。

もう使い物にならないだろう。

 

 

(不味いな、鎧がやられてしまえば正体が…幻術では誤魔化しきれなくなるぞ。

ナーベラルを抱えたままでは戦闘もままならない)

 

 

それよりも、この化け物はここを越えれば都市内部に雪崩込む。それはよろしくない。

エ・ランテルはモモンガの大事な活動拠点だ、荒らされるのは嫌だし腹が立つ。

 

 

「俺にも“愛着”がちゃんとあるじゃないか」

 

 

日に日にアンデッドの精神に近づいていく自覚のあるモモンガだが、冒険者としての日々は確実に彼の心に彩りを与えているようだ。

 

いや、人であった頃の『鈴木悟』にモモンガがしがみついているという方が正しいか。

 

ナザリックに篭っていたらこの心情はきっと逆転していたのだろうな、と心の中でごちる。

 

 

しかし状況は好転しない。

 

 

いっそパーフェクトウォーリアーを解いて魔法で一掃してしまうか、そんな考えも頭に過ったその時。

 

 

『足止めゴクロー、新人クン』

 

「!?!?」

 

 

戦士職で強化された聴覚でもギリギリ聞き取れた。

一陣の風と共にモモンガの横を黒い修道服が走り去る。

 

 

「《流水加速》、《虚空縮地》、《雷鳴疾駆》。

そんで『38番』、『39番』」

 

 

轟と、更に速度を上げた修道女は両袖から取り出した銃剣(バヨネット)で両脚を斬りつけ、バランスを崩し倒れるバジリスクの下から虚空を蹴って直角に3次元移動しながら背後へと回り込む。

物理的に不可能な高速移動、例えLv100の戦士でもユグドラシル基準なら不可能な立体機動にモモンガは無い眼球を瞬いた。

 

 

「あ〜石化めんどくせー…燃やすかぁ!

『77番』。汝、その身を浄め給え!

 

 

修道女が何かの番号を呟いた途端、その右手に巨大な十字架型の鉄杭が出現した。

 

投げ下ろす十字架が重力に従ってバジリスクの首元に突き刺さり、藻掻く巨体を地面に縫い付ける。

 

モモンガの前に着地し、アンデッド化し尚も暴れるモンスターを一瞥した修道女は心底面倒臭そうに一言。

 

 

 

この魂に憐れみを(キリエ・エレイソン)

 

 

胸の十字架(クロス)にキスをする。

 

その一句に呼応するように鉄杭の四方に込められていたルーン文字が起動し、紅蓮の炎がバジリスクを火だるまに変えた。

 

余程の火力を注がれたのか血も肉も、腐った巨躯があっという間に燃え尽きて黒煙を上げるそのさまを、ナーベラルを抱えたまま呆けた顔で眺めるモモンガに彼女は緊張感の無い笑顔でヘラヘラ笑う。

 

 

「はーいお仕事しゅーりょー。

新人クンもごくろーさん。

さー帰って一杯やろーっと」

 

 

これが冒険者モモンと、エ・ランテルに名高い“暴力聖女”の出会いであった。








◆パンドラ
初登場、文字がうるさい
本作におけるセリフのハートマーク率ぶっちぎりの1位
撃杖のせいでテンションがァ⤴︎アゲアゲでぇ⤴︎困りますゥア⤴︎︎︎!
NPCの中で唯一素のモモンガで居られる存在
実はナザリック内でモモンガにとってかなりの癒し枠

◆モモンガ
それはそれとしてドイツ語は勘弁して欲しい
でも一緒に撃杖の話で盛り上がれるのは現状パンドラだけなので複雑な心境
愛着の湧いたエ・ランテルが不躾に攻められて苛立った
自分の浅慮にナーベラルを付き合わせてしまった負い目を感じている

◆ナーベラル
生まれて初めての恐怖状態、辛いね♡
ゴミ同然だと思ってた人間に庇われてどんな気持ち?♡
これから一杯経験していこうね♡

◆暴力聖女クレア様
魔改造聖女、詳しくはそのうち



次回未定
モチベはあるのに時間が無い、死ゾ




  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。