破滅フラグしかない悪役国家に転生してしまった…   作:ハンバーグ男爵

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|ω・` )チラッ

|ω・` )…チラッ

|ω・` )……

(っ'-')╮ =͟͟͞͞〇最新話

半年以上ぶり☆







35 クレア様が見てる

 

エ・ランテル冒険者組合、組合長室にて

 

 

 

室内は気まずい沈黙に包まれている。

金級冒険者チーム《漆黒の剣》、行動を共にしていた銀級冒険者チーム《モモンとナーベ(暫定)》。

そのほか数名、明らかに入り切らないであろう組合長室にすし詰め状態になっていた。

 

角型の宅を中心にロの字に囲まれたソファのひとつに腰掛ける組合長であるプルトン・アインザックは腕組みのまま微動だにせず、時々低い唸り声を上げている。

 

 

事の発端は北門に出現した大型モンスター、ギガントバジリスク。

 

本来なら樹海の奥に潜み、滅多な事が無い限り人里には現れないモンスター。

しかもかなり大きなボス個体だった。

 

そんなモンスターがよりによって人里まで降りてきて、人間を襲った。

 

被害としては検問を担当する衛兵が8人と、運悪くその場に居合わせた商隊の積荷と手綱を握る召使いが石にされ粉砕。幸い商人は無事だったもののバジリスクによる石化の血を浴びてしまった事で片脚を失ってしまう。

 

此度は早期到着したモモンガと聖女の働きによって事なきを得た。

が、この都市が帝国との関係上、籠城戦を前提に造られた堅牢な要塞だったからこそ被害は最小限に済んだわけで、他の都市ならこうはいかないだろう。

 

で、だ。

実はモモンガも漆黒の剣も知らない、それよりも重大な損失がある。

 

 

「クラルグラのアーシーとカサックら両名が亡くなるとは…」

 

 

エ・ランテル最高位の冒険者であるミスリル級冒険者チーム《クラルグラ》、その内の二名がこの騒動で殉職してしまったのだ。

 

 

「2人とも俺たちクラルグラには欠かせねえ魔法詠唱者だった…くそっ」

 

「アーシーの奴なんて、来週結婚するって言ってたのによォ。

こんな仕打ちあんまりだぜ…」

 

 

他のパーティーメンバーからも彼等を惜しむ声が聞こえてくる。

 

アーシーは風属性魔法を主体に戦う魔力系魔法詠唱者、カサックは支援魔法を主に扱い、撃杖を購入してからは攻撃と支援を両立できる貴重な武闘派神官だった。

どちらともチームに欠かせないサポート役、そんな2人を喪い残されたクラルグラは悲嘆にくれる。

 

…一人を除いて

 

 

「クソッ…クソッ!!

あのバカ共が、勝手にくたばりやがって…!」

 

 

そう悪態を漏らし、行儀悪く脚を机に乗せふんぞり返るガラの悪い男。

彼こそクラルグラのリーダー、イグヴァルジその人である。

その顔を歪め、明らかに機嫌が悪いとアピールしながら何度も悪態を吐くそのさまはとてもこの都市最高の冒険者チームのリーダーとは言えないが…

 

 

「イグヴァルジ、説明しろ。

元はと言えばあのバジリスクに最初に追い掛けられていたのはお前たちだったそうじゃないか」

 

「お、俺は何も悪くねェ!

任務そのものは早々に完了してたんだ、帰還しようと関所近くまで抜けたらあのクソトカゲが森から突然現れてカサックをひと呑みにしやがった!

応戦したアーシーはアイツの叫び声を聞いた途端発狂して使い物にならねえまま引き裂かれて舐め取られた!」

 

「それで撤退を選び、わざわざ城塞都市前まで連れて来たワケだ。

お前の判断を責めるつもりは毛頭ないが…」

 

 

咎めるような組合長の視線にバツの悪そうな表情で口を開くリーダー、イグヴァルジ。

勝てないと察したなら即座に撤退を選ぶ。

チームの判断としては正しかったのだろう、しかし逃げ込んだ先が良くなかった。

結果、北門まで着いてきたバジリスクが検問中の商隊を巻き込んで暴れ回り二次被害が起きてしまったのだから。

 

 

「イ、イグヴァルジの判断は間違っちゃなかったよ…

モンスターを撒く為のアイテムだって全部消費したってのにあのトカゲ、一目散に俺たちだけを付け狙って追い掛けて来たんだ。

道中すれ違ったモンスターに目もくれずに、あの狂った様相でよ…

生きた心地がしなかったぜ…」

 

 

そうフォローに入るクラルグラの男性は怯えきって、その時の光景を思い出し肩を震わせている。

きっと相当に怖い思いをしたのだろう。

 

 

「まーまー、無事討伐できたんだから良かったじゃん」

 

 

責任の所在に誰もが頭を悩ませるなか、一人気楽な声の主は手元のボトルを一杯ひっかけゆらゆらと揺らしながら、僅かに微睡んだ瞳でアインザックに諭す。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

名前はクレア。

エ・ランテル城塞都市に居を構える法国立黒鳶(くろとび)修道院の筆頭聖女であり、教会運営の取締役だ。

 

 

 

「そうは言ってもな。

最近は各領地も物騒だし、この街一番の冒険者チームが半壊状態になっている以上何かしらの対策をとる必要が…ってもう呑んでいるのか貴女は!?」

 

 

アインザックの叫びには非難2割、呆れ8割の感情が込められている。

 

屈強な男達が一堂に会するこの部屋でその女、聖女クレア場違いなほど清楚な修道服を着ていて、ソファに背中まで深く沈み込みながらエールの一升瓶をラッパ飲みしていた。

 

充満する酒臭い匂いに後ろに佇む漆黒の剣の面々も思わず苦笑い。

 

 

「失礼しますクレア様、()()()()お持ちしましたー!」

 

 

元気いっぱいの声と共に唐突にノックの音が響き、入ってきた厨房担当の受付嬢が提げ籠いっぱいに盛られた細切りの揚げ芋をドカっと机に置き、部屋に香ばしい匂いが充満し始める。

 

 

「ありがとー!

やっぱビイルには揚げ芋だよねー。

あ、代金はいつも通り教会にツケでヨロシクぅ!」

 

 

この女、真昼間から当たり前のように酒盛りを始めた。しかも大事な話の最中に。

 

その様子をモモンガは兜の奥から訝しげに眺めるが、組合長が咎める気配は無い。

イグヴァルジだけは聖女の方を睨み付けながらヒクヒクと顔を引き攣らせてはいるものの、それ以上の行動は起こさなかった。

ほかのメンバーは「いつものノリ」といった感じで我関せずを貫いている。

 

どうやら聖女は常にこのスタンスのようだ。

 

 

(これって大事な会議の最中に酒盛り始めてるんだよな、誰も注意しないのか?

というかこのクレアとかいう女、工房で話していた件の“暴力聖女”と呼ばれていた教会のケツ持ちか。

……なるほど、確かに普通のシスターとは程遠い)

 

 

モモンガが考える聖女、すなわち聖職者のイメージはゲームやアニメなどの文献に偏ってはいるものの、概ね「物静かで落ち着き払った清楚な女性」だ。

ところが目の前で酒と揚げ芋(ポテト)を貪り食ってるこの聖女を名乗る不審者はそんなイメージとは程遠い、その横柄な振る舞いは聖職者を騙るコスプレ女だと言われた方がまだ納得できる。

 

 

(でもなあ、雰囲気がリアルの上司と似てて…

激務の疲れを酒とツマミで誤魔化しながら頑張ってるキャリアウーマンなんだよなあ…)

 

 

が、リアルでお世話になった上司の面影が重なって一概に否定できない自分がいた。

 

 

「ふぅー⤴︎︎︎経費で飲む酒うめぇ〜!」

 

(ワァ完っ全に出張終わりのサラリーマンだあ…)

 

 

そんな感想を抱きながらも、会議は続く。

…途中、揚げ芋の匂いに釣られたのか隣のニニャのお腹が小さく鳴って、思わず顔を赤くする彼と目が合ってしまったのは皆には内緒だ。

 

 

「被害にあった商隊の積荷は竜王国からのものだ。

保証関係は我々とパナソレイ都市長に回すとして、聖女殿には被害にあった衛兵家族への慰問と生き残った者の解呪を頼みたい。

石化の呪いは我々にはどうにもできん」

 

「おっけーおっけー、手配しとくよ。

生き残りの商人は片脚無くしたんだっけ?

義足もオマケに用意しといてあげる」

 

 

揚げ芋の油を布で拭きながら、どこにしまっていたのか袖から手のひら大の羊皮紙と魔法の羽根ペンを取り出してサラサラと何かを記入するとそれを丸めて紐で纏める。

 

そこで「124番」と彼女が呟いた途端、逆の手の甲にはいつの間にか金属製の小鳥が乗っていた。

 

その嘴に先程の手紙を咥えさせると窓から解き放つ。

 

鉄の翼をパタパタと羽ばたかせながら本物の鳥のように飛んでいくそれを見送って、再び聖女はまだ暖かい芋に手を伸ばし、もしゃもしゃと食べ始めた。

 

当然、モモンガには何が起こったのか分からない。

金属の小鳥もそうだが聖女の使った謎の技術だ。

戦闘中にも呟いていた番号。

魔法か、それとも手品(スキル)か?

 

 

「それで、だ。

イグヴァルジ、今後の活動はどうする?

お前のチームは魔法詠唱者と神官を失った、このまま活動を続けるのは…」

 

「続けるに決まってるだろッ!

一人二人欠けたところでクラルグラには何の支障も出ねえ!

この街最強の冒険者チームは俺たちだぞ!?」

 

 

あの若造共に追い抜かれて堪るか!とイグヴァルジは憎々しげに漆黒の剣のリーダーであるペテルを睨み、話を切り上げると乱暴に扉を蹴り開け出ていった。

それを追いかけるように他のメンバーもおずおずとその場を去っていく。

 

クラルグラが退出した後、僅かな沈黙の後組合長は呆れたように疲れの籠った溜め息を吐いた。

 

クラルグラは確かにエ・ランテルにおける最高位であるミスリル級の冒険者チームでありこの街の最高戦力だ。

しかし実態はご覧の通り、悪癖のあるリーダーが支配する恐怖政治のようなもので、その態度の悪さも災いし依頼主から苦情が来ることなどしょっちゅうだ。

なまじイグヴァルジ本人が実力者なのも相まって組合長も扱いに困り果てている。

 

となると相対的に、昨今頭角を表し、困難な依頼でも事前準備や確認をしっかりと行い、依頼主とのコミュニケーションも取った上で確実にこなす。

オマケに冒険者間の人脈も広い“漆黒の剣”の評価が上がるのは明白だった。

それがイグヴァルジの自尊心を刺激して負の無限ループが起こるわけで…アインザックの頭痛のタネは尽きない。

 

 

「漆黒の剣の諸君、それからモモン君とナーベ君も救援感謝する。

最終的には聖女様が片付けられたから良かったものの、一歩間違えば大惨事に陥っていただろう。

特にモモン君。凶悪なバジリスク相手に陽動役を買って出てくれたそうじゃないか、助かったよ」

 

「いえ、我々は当然の事をしたまでです」

 

「俺たちはぶっちゃけなにも…」

 

「ハハ、その謙虚さを半分でもイグヴァルジの奴に分けてやりたいくらいだよ…

とにかく御苦労だった、後始末は我々と聖女殿に任せて休んでいてくれ」

 

「あ、ちょい待ちー」

 

 

イグヴァルジ達が出ていったあと、解散の雰囲気だったこの場に待ったをかける声。

 

片手に酒瓶を持ったシスター、聖女クレアである。

 

 

組合長(アッ君)から聞いたよぉ。

キミたちさあ、エ・レエブルでおかしな挙動のトロールと戦ったんだよね?

ちょっち詳しく教えてくんないかな〜」

 

 

具体的に言うとぉ…と、どこからともなく取り出した白紙の羊皮紙に何かを書き込み、こちらに提示する。

記されていたのは文字のような、記号のような、はたまた番号のような何かの羅列。

 

 

「倒した連中の身体にこーんなの刻まれてなかった?」

 

「“ルーン文字”ですね。

坑道の中に居たトロールのうちの一体にも刻まれていました、先のバジリスクにも額部分にこれと同じものが」

 

「はい、僕達が見たのと同じ模様です。

最終的にモモンさんが一刀両断してくれましたが、何度斬っても起き上がってくる気味の悪い相手でした…」

 

 

モモンガの答えに続くニニャが顔を青ざめさせながらそうぼやく。

 

 

「そっか〜。

……ウン、ありがとね。

聖典出動案件じゃないのコレ

 

「「……?」」

 

「アハハ、なんでもないよ〜。

ルーン文字をモンスターの身体に直接刻むとか酔狂なコト、一体何処の馬鹿がやらかしたんだろね」

 

「十中八九“魔巧”絡みの事件だ。

ラケシルが竜王国から戻ったら事態の究明を急ごう」

 

 

アインザックの友人であり同じ冒険者組合に所属する旧名『魔術師組合』、現『魔巧推進組合エ・ランテル支部』の長を務めるテオ・ラケシル。

自身も《(シエロ)》の魔巧位階を修める生粋のマジックアイテムコレクターでその界隈では有名な男だ。

 

その豊富な知識は今回の事件解決のため役に立つだろう。

 

 

「それに彼の帰還と一緒に《冥望星》もこの街にやって来る予定だ。

そろそろ娼婦達の定期検診の時期だからな。

《星》の助力が得られれば心強いのだが…」

 

 

組合長の呟きにモモンガは鎧の奥で骨の顔を揺らし、思考する。

 

かねてより名を聞いていた《星》の魔巧位階を持つ者、七人の魔法詠唱者。

人類に新しい魔法法則を広め、発展を促したその強さは如何程のものか、仮に敵対した場合ナザリック戦力で対処する事ができるのか。

ナーベラルが先の戦闘中に“ああ”なってしまった手前、この世界でユグドラシル(ゲーム)の常識は通用しないのが判明してしまっている。警戒するに越したことはない。

 

 

(《冥望星》、あの時のイアンさんによれば近代魔法医学の第一人者にして凄腕の死霊術師(ネクロマンサー)との話だが…)

 

 

カルネ村防衛の際イアンから得た《星》のざっくりとした情報。

 

王国にて水路設計と都市計画に携わる《水鏡星》とそれを補助する《雷冠星》の両名は水と雷に特化した属性魔法詠唱者(エレメンタリスト)

 

帝国の《灼魔星》フールーダ・パラダインと法国に居るらしい《氷極星》、アダマンタイト冒険者チームに所属する《地彗星》もその二つ名からそうなのだろう。

前者二人は各々の国で魔巧を用いた兵器開発を主立って行っているそうだ。

 

《地彗星》はモモンと同じ冒険者故にいつか巡り会う機会が訪れるかもしれない。

 

聖王国の《陽明星》は《転移(テレポート)》などの空間系魔法を扱うスペシャリストらしい。

汎用性を高めた転移魔法で国家間の物流事情を劇的に改善したのだとイアンは誇らしげに語っていた。

 

そして先程名前に上がった《冥望星》。

 

モモンガはオーバーロード、死霊魔法に特化した魔法詠唱者の端くれとして彼の存在を特に注視している。

その《冥望星》も例に漏れずユグドラシルには無い法則(ルール)を駆使するのだろうか?

 

 

(俺たち(プレイヤー)の扱う“死”はあくまでデータ上のもの、状態異常の一つだ。

俺だって遊びだからこそ気軽に死霊術師の(スキル)を取得して死体を動かし、即死技なんてものを使っているけど、リアル基準で考えたら死体を操るなんて色んな教義に引っ掛かりかねないトンデモ外道野郎だからな…

イアンさんやガゼフさんの反応を見る限り、死体を動かす事にある程度の忌避感はあれど死霊術師という職そのものは認めている雰囲気だったし)

 

(………そもそも死体を弄ぶ事に何ら違和感を感じなかった俺の方が異常だったんだよ。

人の生死に鈍感になったり、感情抑制が四六時中働くのもそうだ。

カルネ村の戦闘でハッキリしたが、オーバーロードになったこの身体に俺自身が引っ張られつつある)

 

(危険だ、これはなあなあで流していい問題じゃない。

違和感に慣れてしまったら俺は…コロニー住まいの一般人“鈴木悟”はオーバーロード“モモンガ”に取って代わられてしまう。

ずっと墳墓に篭っているならまだしも、外の世界に合わせていくと決めた以上こちらで是正できる部分は直していかなくては…

早めに気付くことが出来て良かった)

 

 

まあ、それはそれとして用心はするし、敵対者には容赦しないのだけども。

 

デミウルゴスやアルベド(いつものメンバー)に見つかって敵視される前にこちらで判断の有無を決めておかなければ。

 

なんて考えていくうちに今度こそ組合長より解散がかかり、各々が退出するなかモモンガはかねてより気になっていた相手へと脚を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

案内されたのはエ・ランテル城塞都市の一角、商業区画から少し離れた位置にある白塗りの壁と煉瓦造りの古風な教会。

 

俺こと冒険者モモンは酒瓶片手に前をふらふら歩くシスターに連れられてこの建物の門を潜っていた。

 

名前は『黒鳶教会』というらしい。

 

…アンデッドが教会に入るなんてヤバいんじゃないか?とも思ったが隠蔽のマジックアイテムは機能しているようで、今のところ違和感は無い。

 

因みにナーベラルは先に宿へ帰した。

魔巧の勉強をさせたかったし、組合で会議していた時から顔色が優れないようだったので療養も兼ねている。

本人は気丈に振舞っているつもりだろうが、かつてヘロヘロさんや数多の同僚達の限界状態を目撃してきた俺の目は誤魔化せない。

 

体調が悪いなら無理せず即療養!休めッ!寝ろッ!

 

初めての状態異常で心が追いつかない部分もあるんだろう、この機会に存分に経験してもらう。

ナーベラル、いつもなら疲れていようが這ってでも着いてくる勢いだったのだけど、今回はすんなり宿に戻ったな…

 

 

「じゃあ準備するから待っててね〜。

その辺の椅子適当に使ってて〜」

 

 

ちょいちょいっと指さす礼拝堂の椅子に座るよう促され、腰掛けるとシスターは奥へと消えてしまった。

 

 

……そういえばこういった施設には初めて訪れるな。

リアルに宗教施設はあれど下層階級の俺には無縁だったし、その手の建物も遠巻きにしか見た事がない。

といっても治安の悪いあの世界で外壁は落書きだらけだったし神聖な雰囲気は欠片もなかったが。

 

それに引き換えこの建物、年季は経っているものの清掃が行き届いているのか小綺麗で清潔感がある。

昼間の暖かな日光が差し込んで室温も良い感じだし、過ごしやすい。

両側の窓には十箇所、それぞれ違う模様のステンドグラスが嵌め込まれていて、礼拝堂の奥には沢山の燭台の中央に立つ女性の像が聳え立っている。

 

背後のひときわ大きなステンドグラスを背に、いやに精巧に彫られた女性の像は瞳を閉じたまま手を重ね、祈りを捧げるように鎮座していた。

 

宗教といえばメジャーなのは十字架だけど、やはり異世界ということで別の何かを信仰してるって事なのかな…

 

 

「気になりますか?」

 

 

不意に声を掛けられ我に返る。

っいけないいけない、ついジロジロと見回してしまった。

 

施設のシスターなのだろう、まだ幼げの残る顔つきの女性がいつの間にか隣に座っている。

 

 

「すみません、こういった施設は初めて入るもので」

 

「構いませんよ。

もとより教会は誰にでも開かれておりますので。

よければこの教会について御説明致しましょうか?」

 

 

教会に興味を持っていただけた冒険者の方は珍しいので。とくすくす微笑みながらそう言ってくれた女性の好意に甘えて、説明に耳を傾ける。

 

 

時は600年前、物語は亜種族によって淘汰寸前にまで追い込まれた人類の下に現れた六柱の神々から始まった。

彼等はその身に宿した奇跡の力と、それに付き従う従属神と共に数々の奇跡をもって時に仇なす敵対者を討ち滅ぼし、時に天候すら操って復興を手助けし、人類がその尊厳を取り戻すまでずっと寄り添ってくださったのだ。

人々はかの神々を『六大神』として崇め、その信仰は現在もスレイン法国で根付いている。

 

ところがそれから約100後、現在から500年前に悪しき八人の王が現れ大陸中を荒らし回った。

かつて大陸の大部分を支配し繁栄を誇った絶対強者である竜種を残酷な方法で狩り尽くし、亜人種をゴミのように蹴散らした彼等は『八欲王』と呼ばれ、当時存命だった六柱の神の最期の一柱『スルシャーナ』を殺害した後、伝承では仲違いを起こし自滅したのだそう。

 

それから現在まで、六大神は人類を守り支え続けた神として尊敬を集め、信徒達の信仰を受け続けている。

 

 

「この教会は先程のお話にも登場した最後の神『スルシャーナ』様を奉るものです。

正面のステンドグラスには六柱の神々の御姿が描かれており、手前の像はスルシャーナ様の従属神であらせられる『ルーファス』様の御姿を象った像になります。

そして両側の天窓にはまっている十箇所のステンドグラスはルーファス様の使役されていた使い魔達…

『十戒律の使徒』の姿を模しているそうです」

 

 

一通りの説明を受け、ふと疑問が頭に浮かぶ。

 

これ、プレイヤーの痕跡なんじゃないか?と。

 

 

突然現れた超常(Lv100)の力を持つ存在、従属神をNPCに言い換えて、天候を自在に変えたのは《天候操作(コントロール・ウェザー)》。

考えれば考えるほど俺が此処にいる状況と一致してくる。

 

600年前に突然6人のプレイヤーが飛ばされて、滅びかけた人類を衝動的に助けた。

そのままなあなあで助け続けて宗教として信仰されるまでになってしまった、と考えれば辻褄が合う。

実際転移した身として何となくだが分かるもん、衝動的に動いちゃってあとから取り繕わなきゃならない時の気持ち。

 

 

(ならスルシャーナは…アンデッドだった?)

 

 

100年経っても他の神とは違い生き残っている時点で人類種ではない。

奥のステンドグラスに描かれた六つの姿には一つだけ明らかに黒づくめの格好で大鎌を携えるテンプレ死神のような格好をした存在がある。

 

すなわちスルシャーナは自分と同じオーバーロードかそれ準ずるアンデッド系の種族だったのだろう。

 

ならば竜種を狩り尽くした八欲王という存在も十中八九プレイヤーだ。それもかなり上澄みの。

 

めっちゃ強い8人のプレイヤー、か。

昔たっちさんも勧誘されてたあの廃課金害悪ギルドか…?ユグドラシル時代に幾つか思い当たる節がある。

 

『同じチャンピオンでも彼等とは反りが合わない』

 

そう困ったように笑いながら話してくれたあのギルド、名前はなんだったかな。

8人全員富裕層で課金もじゃぶじゃぶやってるクソ成金共だってウルベルトさんも目の敵にしてたような…

 

ともかく、ナザリックが来るよりも前に何度かユグドラシルのプレイヤーが異世界へやって来ているという事だ。

 

 

「その六大神や八欲王に生き残った者などは居ないのですか?」

 

「八欲王は先のお話の通り仲違いの後、全滅したと伝えられております。

六大神様も既に皆様お隠れになられておりますので…

でも六大神様の血を引く子孫たち、その中でも神の血を覚醒させた『神人』と呼ばれる方々がスレイン法国にはいらっしゃるそうですよ」

 

 

ならスレイン法国にはなおさら警戒心をもって接しなければならなくなった。

プレイヤーの痕跡が残る国、ならば必然彼等が使っていたアイテム等も残っている…

古参なら《神器級(ゴッズ)》や《伝説級(レジェンド)》は当たり前のように所持しているだろうし、ナザリックのようなギルド単位の拠点が丸ごと移転したのなら《世界級(ワールド)》アイテムすら保管していてもおかしくはない。

 

まあ六大神はその名の通りクラン程度の小規模パーティなのだろうけど、拠点ごと転移していたら厄介だな。

なら法国の都市から村に至るまで全てに強力な結界を張っているのにも納得がいく。

 

自分たちが護ったものをみすみす盗られたくなんてないもんな、立場が同じなら俺だって張れるだけの予防線を張ってやるさ。

 

俺がナザリックを護りたいのと同じように、600年も昔に6人のプレイヤーは人類を護りたかった。

 

……なら法国へこれ以上の無粋な諜報活動は避けるべきだろうか。

推定Lv100クランの痕跡が残る異世界の都市だ、未知のレベルは想像を遥かに超えることだろう。規模の小さいギルドアタックと大差ない。

なら下手な企み事をするよりもまっとうに外交して正当な関係を結ぶ事ができればナザリックも「人類国家のお墨付き!」って感じで周知して貰えるのかも?

 

こちとらアンデッドだけども、スルシャーナだって推定アンデッドだし、なんなら死の支配者(オーバーロード)の種族も被ってるまであるぞ。向こうは鎌持ってるから近接職、オーバーロード・ジェネラルあたりだったんだろうか。

交渉次第でなんとかなるのでは?

 

でも相手は国単位だ、外交なんて俺にはサッパリ…アルベドやデミウルゴスに相談すればいい案が出てくるだろうけど、カルマ値がなあ…

 

これ、最初に気づけてなかったら何も考えずに2人に相談してたんだろうな。

そんでおかしな解釈されてまた話が変な方向に…

 

 

『成程、法国と交渉を…

お任せ下さい、必ずや御身の前に跪かせてみせましょう』

 

『人間風情が御方と対等に交渉しようなど身の程知らずにも程があるわ。

取り敢えず鬱陶しい結界を張っていた罰を与えて、身の程を弁えさせるのが先でしょう。

暗殺なり洗脳なりで秘密裏に法国上層部を掌握し、モモンガ様の傀儡政権を擁立できるよう手配するわ』

 

『だね、表向きは“交渉”という体で発表できる。

フフフ…御方の真意を一割でも汲み取れていれば良いのですが』

 

 

1ミリも汲み取れてないんだよなぁ…

 

いやいや流石にそこまで排他的じゃ…ない…よね?ね?

 

イマジナリー極悪悪魔達の回想が頭の中でぐるぐるするが、かぶりを振って振り払った。

あの2人に相談するのはもう少し検討してからにしよう…

 

そういえばパンドラも2人に負けないくらいの知恵者として設定していたよな。

カルマ値はマイナスだけど極悪よりマシだった筈だし、そっちになら相談できそうか?

 

 

「おまたー、じゃあ場所移動しよっか…

ん?アーちゃんと話してたの?」

 

 

なんて思考を膨らませていると修道服とは違う動きやすそうな運動着を着込んだシスタークレアが戻ってきた。

髪もポニーテールに纏めてて、「これから運動するよ!」ってカンジの服装だ。

 

 

「ええ、この方に教会について説明を受けていたところです」

 

「アーちゃんが?ふーん…」

 

「ギックゥ!?」

 

「客引きは程々にするんだよ〜」

 

 

……客引き?

 

なんかシスターが急にわたわたと慌てだし、手を振って必死に何かを否定しているようだ。

 

 

「あっあークレアさま。

誤解、誤解ですよ。

私はただお客様にこの教会についてご説明していただけで」

 

「じゃあその後ろ手に隠してる避妊薬の瓶は誰に渡そうとしてんのかなー?

一応ココ神様のお膝元なんだけど」

 

「かかか神は休暇取って賭場にでもご旅行なされているのでは?

これはですねえお客様が今晩ご利用なさるかと思いましてぇ…えへへ」

 

「ひ、避妊薬?」

 

 

俺の呟きにシスターはギクシャクと固まったままぎこちない笑みをこちらに向けてくる。

さっきまでの落ち着いた雰囲気は既にない、悪戯のバレた子供みたいな様子で狼狽えていた。

 

 

「あー…えっとぉ、ですねぇ…

えへっ♡」

 

「あのねえ…指名がほしーのは分かるけどさぁ、表の仕事中に勧誘やるなっつってんの!

いくらウチの支部が規則の緩いトコだって言っても限度があるわ限度が!」

 

「だあああってええええ!

今月苦しいんですもん!教会のお布施だけじゃ欲しい物も買えないんですよ!」

 

「だからって白昼堂々新米冒険者ひっかけて娼館に誘う奴があるか!しかも聖堂の中で!

このド淫売シスターが!」

 

「白昼堂々神の前で呑んだくれてる酒乱聖女サマに言われたくありませぇーん!」

 

「「はああああああああああ!?!?(互いに全ギレ)」」

 

 

……なんか収拾つかなくなってきたな。

 

後からシスタークレアから聞いた話によると、どうやらあの少女は初めから“指名”が目的で猫かぶって俺に話しかけてきたらしい。

“指名”というのは夜のお仕事…要は今晩、娼館で私を名指しでお相手をしてくれませんか?という事だ。

避妊薬の瓶は「これを使えば妊娠なんて気にせずにヤリまくれますよ♡だから私でいっぱい気持ちよくなってね♡」という娼婦からのサービスなんだってさ。

 

……余談だが、この世界の避妊薬は男性が服用するものもあるそうだ。飲むタイプの。

この世界にゴムはなさそうだしな…

魔法やら薬学やらを駆使して避妊効果と精力剤の効果が込めてあり、なんと国のお墨付きで何回戦でも元気に夜の営みを行える冒険者御用達の優れもの。

 

…その元締は以前俺達が漆黒の剣と共にこなした依頼主であるポーション屋、ンフィーレア氏の祖母らしい。世間は狭い。

 

そういえばルクルットが共同依頼の道すがら雑談を交えていた時に「エ・ランテルは強固な城塞都市であると同時に王国きっての歓楽街なのさ!」って自慢げに語っていたな。

〝歓楽街〟ってこういう事だったのか…普通に観光地として有名なのかと思ってたよ。

 

あのシスターはリアルでいうところの風俗の勧誘みたいなものだった。

えっちなのはいけないと思います。

 

こういう事されるとやっぱ此処は現実世界で異世界なんだなぁって思いが強くなる。

ユグドラシルはフルダイブ型のゲームの中でも特に18禁行為に厳しいゲームだったからな。

触れるのはもちろん、女性NPCに戦闘やテキスト会話以外でちょっかいかければ即BANだったし。

…どうにかしてシャルティアのスカートの中を覗こうと奮闘したペロロンチーノさんも危うく垢消しの憂き目に合うところだった。

 

『異世界特有の貞操観念ユルユル概念!

ハーレム作り放題じゃねーか!

モモンガさんズルいっすよ!』

 

ちゃうねん、黙ってくれイマジナリーペロロン。

 

それで彼女は俺を誘おうとしていたワケなのだけど、指名もなにも俺アンデッドだからムスコは既にこの世に居ないんだよなあ…ハハッ(股間の隙間風を感じながら)

 

 

味覚や眠気が消えたのもそうだけど、異世界にやってきたことで三大欲求の自由は確実に得てるハズなのにアンデッドになってるせいで全部台無しされてないか、俺。

 

人間の身体なら今頃ナザリックの豪華な料理だって食べ放題だし自室に設えられたふかふかのベッドで幾らでも惰眠を貪れた。ご丁寧にメイドたちによってベッドメイキングも毎日健気にしてくれているのだし。

それにその…性欲の解消だって!

この世界の女性は皆美人だ、アルベドやシャルティアのような造られた人外の美しさも際立つけど原住民の顔面偏差値は男女共にリアルと比べてかなり高いと言っていい。

 

目の前の「アーちゃん」と呼ばれる彼女だって、一般的な女性の体型より小柄だが修道服越しでも栄える身体のラインに出るところは出てるワガママボディ、抱き心地の良さそうな体つきで夜のお相手としては申し分ないんだろう。

 

リアルのそういう職の人って余程の高級店じゃない限りはガリガリらしいし。

…それこそ借金のカタに薬漬けになって格安で売られてる訳ありの娼婦だ。

会社の同僚づてに聞いただけで本物は見た事はないが、そんな状態の女性で性欲を解消したい奴の気が知れない。

 

そんなリアルの闇とは対称的に、健康な女性を気兼ねなくお金で買って性欲の捌け口にできるこの世界の性事情はかなり恵まれてるといえる。

 

NPC達と違って娼婦相手なら後腐れもないからね!

 

けどいくら美人だ、と思ってはいても性的に興奮しないのはムスコが居なくなったから、もといアンデッドになったからだ。頭でわかってる分余計悲しみが増す。

結局一度も実戦投入されること無く居なくなってしまったな…ハハッ

 

冒険者なんて毎日命懸けの生活しているんだし、少しくらい良い目を見て当然だ。

俺の身体が人間でナザリックのギルマスという立場を背負っていなければそんな娘達とあわよくば…なんて未来もあったハズなのに!

 

アルベド?シャルティア?なんか後が怖いんで遠慮しときますね…

 

リアルと違い娼婦は法律で護られた立派な職業のひとつだそうだ。

国営の娼館に登録し、シフトを決めて出勤する副業のような扱い。

この国、風営法に関して滅茶苦茶厳しいらしく国の認めたもの以外で勝手に営業したり娼婦に暴力でも振るおうもんならあっという間に憲兵がやってきてしょっぴかれてしまうらしい。

 

薬師による避妊薬の提供や定期的な健康診断を受けることが義務付けられていて、性病等を予防する為に衛生面には特に気を付けている。

 

働き口の一つとして国が公認し、就労者のアフターケアも万全ときた。

 

国ぐるみで風俗営業を保護している状態故か、この国の女性にとって性接待のハードルはかなり下がっているようで、男性に身体を触られる事に忌避感がなければ小遣い稼ぎの感覚で手を出せる職業なんだ。

 

このシスターみたいに。

 

 

…シスターが娼婦やってていいの!?

 

 

「その、詳しくは知りませんが教義とかは…」

 

「本国や王都支部の教会はもっと厳しいよ?

エ・ランテルは人の往来が盛んだからね、ここらの娘は信仰心より商業意識が強いんだ。

だから昼間は冒険者ギルドの受付なりシスターなり働いて、夜は不定期で娼婦として冒険者や流れの商人とヨロシクやって小遣い稼ぎに勤しむ娘も結構いるんだぁ。

まあスルシャーナ教って元々ユルい戒律だし、犯罪に手を染めなきゃ私もとやかく言わないんだけどねー。

仕事のメリハリくらいつけろっつーの」

 

「ひーん…」

 

教会(ウチ)が風俗店だって勘違いする奴がでちゃうでしょーが。

実際そういうバカが最近来たし。

アーちゃんが汚して帰ってきた修道服、毎回洗う洗濯係の身にもなれっての」

 

「だってぇ…『清楚で不可侵なシスターを汚す背徳感!』ってお客さんに大好評なんですもん。

ギルドの受け付け嬢と黒鳶協会のシスター、冥望診療所の癒者は城塞都市のコスプレ三枚看板ですよ!?」

 

「どうしてこうも自慢げにシモの事情を語れるのか…」

 

診療所の癒者?ナースさんの事か?

っていうかギルドの受け付け嬢もお清楚な顔しときながらヤることヤってんのかい。

……確かに背徳的かもな。

 

 

「一回マジで土下座しに行ったほうが良いわアンタ。

とりあえずアーちゃんがダメにした改造制服全部修復するまで反省室にカンヅメだかんね」

 

「ええっ!?

嫌です!何着あると思ってるんですかぁ!」

 

「腰まで裂けたスリットに谷間モロ見えになるまで開いた修道服なんて使えるわけねえだろうが!

他にも光沢素材のエッグいハイレグレオタードとか横乳が見えるように脇に大きく穴が空いてる修道服とか!

アレを修道服と言い張る度胸は逆に感心するよ、全部縫い直しな!」

 

「あれは私の“覚悟”の証なのです!」

 

「捨ててしまえェそんなもんッ!!」

 

 

この女、全く反省していない。

 

聖女クレアにあっという間にロープで簀巻きにされた彼女はひんひん泣きながら他のシスターに連行されていく。

 

 

「ごめんねーいきなり教会の恥部見せちゃって」

 

 

会議中に堂々と酒盛り始めるのは恥ずかしくないのかこの聖女。

 

 

「今『呑んだくれてるお前が言うな』って思ったでしょ」

 

「ソンナコトナイデス、ハハッ」

 

 

ソナコトナイデスヨォークレアサンハモハンテキセイジョサマデスゥー

 

 

「アーちゃんも悪気はないんだよねぇ。

此処の教会、結構新しくできた方でさあ。

3年くらい前まで王国って結構危ない国だったんだ。

デカい犯罪組織が幅を利かせてて、汚職貴族がのさばってるクソみたいな国でさ」

 

 

聖女クレアが話してくれたのは数年前までのリ・エスティーゼ王国の実情。

貴族による汚職が蔓延り、国民が搾取されていた時代があった。

なかでも巨大犯罪組織、通称『八本指』の影響は強く王族にも内通者が居たほどだそう。

 

 

「国そのものは国王が代変わりした時の大粛清で一掃されてマシになったんだけど、被害を受けてた一般市民の数がとにかく多くてさぁ…

劣悪な環境で働かされてた違法労働者とか薬漬けで廃人同然のまま働かされてた娼婦とか、後始末が超大変だったのよ。

そんで本国が教会に働きかけて、被害者の保護とか社会復帰の為に作った施設が教会も兼ねた此処ってワケ。

さっきのアーちゃんだってもとは違法娼館で道具同然の扱いを受けてた娼婦の一人なんだよねぇ、今はああやって軽口叩けるほどまで回復したけど来た当初は酷いもんだったよ」

 

「なら彼女は何故また娼婦を?」

 

「そりゃ国公認で安全が証明されて皆が手を出しやすくなったのもあるんだろうけど、身体が覚えちゃってるんだろうねー。

知ってるぅ?

昔出回ってた麻薬はねー、使うと頭パチパチ弾けて思考能力や判断力が吹っ飛んで、嫌なこと全部忘れて脳みそ蕩けちゃうくらい気持ちよくなれる。

男に使えば疲れを忘れて壊れるまで働ける奴隷を、女に使えば何しても喘いで常時絶頂してる締まりのいい肉人形が簡単に作れちゃうんだって」

 

「腕を折ろうが脚を切り刻もうが、ね」

 

ヘラヘラと軽い口調で聖女クレアは喋っているがその実、猫のような瞳は微塵も笑ってはいない。

あるのはとびきりの侮蔑と、嫌悪感。

 

 

「オマケに一度使ったら身体からなかなか抜けない依存度の高さ。

クソみてえな物作ってくれやがってさ、まったく」

 

 

……現実にもそういう話はある。

秩序の崩壊した世界で違法なドラッグに手を出す者は社内でもかなりの数がいた。

仕事の疲れを忘れる為に、誰かに薦められ興味本位で、何もかもが嫌になって。

軽い気持ちで手を出して依存症とその後の人間関係のトラブル等で地獄を見るものは少なくない。

 

 

「アーちゃんが助かったのはホントに運が良かったんだよねえ。

王国の改革時期に明るみになったから保護できたようなものだし、それまで手遅れになってた娘も山ほどいたよ。

やるせないねー」

 

 

亡くなった母がいつも執拗く言っていた、「常に善人でなくてもいい、けどクスリと犯罪にだけは絶対に手を出すな」と。

 

大人になってから助言の有難みをひしひしと感じたよ。

 

小卒程度の学歴と母の情操教育も相まって、リアルで問題を起こす事はなかった俺だがこの世界の市民たちは…

 

 

「“それ”に縋るしか、なかったのですね。

例え禁断症状に苦しむとしても、悪人の道具にされると分かっていたとしても彼女はそうする他なかった」

 

 

自分の身体を売りに出してまで、または出さざるを得ない状況にまで追い詰められて。

 

 

「『やめれば良かったのに』、『間違った選択をした』なんて言わないよ。

弱い奴が縋れるのは自分の手の届く範囲だけ。

選択肢なんかなくて、頼るすべを失って、四方八方塞がったあの娘が最後に行き着いたのが違法娼婦(あのザマ)だったんだ。

正気に戻っただけで御の字さ。

無茶は懲りてるようだし、教会のお布施が渋いのは事実だから副業も兼ねた金策って名目で黙認してるの。

相変わらず貞操観念も股もユルユルみたいだけどねー。

まっ、夜中に泣き叫びながら男の身体を求めて裸のまま教会を抜け出さなくなっただけマシじゃんね」

 

 

ヘラヘラ茶化して言ってるがとんでもない事だ、これが異世界ジョーク…

 

 

「あとー、情報収集とかも頼んでるかな。

娼婦の世界ってスゴいんだよー?

ある意味人間関係の極地だもんねぇ、小さい噂から客の大事な秘密まであらゆる情報が流れてくるんだ。

世渡り上手なのもアーちゃんの才能だよねぇ」

 

 

た、確かに…さっき話し掛けられた時、彼女とは初対面だったにも関わらず俺はまったくと言っていいほど警戒心を抱かなかった。

修道女という立場や立ち振る舞いが人を安心させるのか?

俺は結構用心深い方だと自負しているが、自然と彼女の言葉に耳を傾けたくなった。

 

今までの経験や培ってきた話術が為せる技なのか…

 

 

「し、しかしそれほどの重症でよく快気まで漕ぎ着けましたね。

薬の後遺症は重いものだったのでしょう?」

 

「……この教会に預けられた薬物患者ね、重症者はアーちゃん含めて5人。

全員意識はトんでるし、仮に戻ってもクスリ切れの後遺症で発狂するか生きてても糞尿垂れ流しの廃人一直線だったよ。

助かる見込みも殆どなくて、ホントそういうのだったら私が“介錯”してやる手筈だったんだケド」

 

 

“介錯”、という単語に理解が及ぶ。

彼女がこの教会で「ケツ持ち」と呼ばれる理由もそうだ。

単に修道女達を率いるリーダー、武力で問題を解決できるケツ持ち、という立場だけでなく。武力と技巧に優れる彼女は手遅れになった者をなるべく一瞬で、苦しみのないように、()()()()処置を行う仕事も担っているんだろう。

 

 

「《冥望星》がバレアレのばーちゃんと協力して麻薬を中和する解毒薬を開発したんだよ。

それで手遅れだと思ってた子達も殆どが助かった。

あと“とーせき”とか?で徐々に体内の薬を薄めていったらしーね、魔法医学は専門じゃないからよくわかんないや」

 

 

私としてはあの偏屈ジジイに借りを作るのは複雑なんだけど…となんか含みのある言い方してるシスタークレアに歩きながら説明をうけ、辿り着いたのは教会の裏手にある広場だった。

 

 

「じゃー気を取り直して、色々と教えてあげよっか。

冒険者にポコポコ死なれちゃこの街も困っちゃうからね。

キミの…えーと、名前なんだったっけ?」

 

「モモンです」

 

「そうそう、モモちゃんの実力は前のアレでだいたい分かってるからぁ。

基本じゃ物足りないみたいだし覚えとくと便利なのを幾つか…そうだねえ。

《縮地》って武技、知ってる?」

 

 

案の定、聞いた事のない単語に心を踊らせながら俺は初めての戦士職、初めての武技習得に励むのだった。

 

 

 

 

 

 

……いちいち突っかかるナーベラルが居ないとこんなにも話がスムーズに進むんだなあ、と思ってしまったのは内緒にしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナザリック地下大墳墓

第6階層【コロッセウム】

 

 

 

古代ローマのコロッセオをモチーフに作り上げられた、ナザリックでも一際大きなこの施設の真ん中で漆黒の鎧が蠢く。

 

 

「………フ〜ッ」

 

 

深く、深く息を吸い、吐き出す。

脳に酸素を回し集中力を高める為の深呼吸。

といっても中身は骸骨だ、頭蓋の中は空っぽで吐ける吐息などありはしないがついやってしまうのは人であった前世の名残りなのだろう。

 

 

「準備は良いか、アウラ」

 

 

そう問う目線の先、30メートル程離れた場所に位置取るダークエルフの少女は手を振りながら準備完了の意を示した。

 

直線上には白線で決めた目標地点、その少し先に待機させるのは巨大な低反発マットレスを数体がかりで大盾のように構える死の騎士たち。

 

固唾を飲んで見守るのは守護者の中でも近接戦闘に優れるメイドのユリ・アルファ、並びに愛しの御方へうっとりと視線を向けるサキュバス、守護者統括アルベド。

そして軍服の埴輪パンドラズ・アクター。

 

そんな三者に見守られつつ、モモンガは漆黒の鎧で脚に力を込める。

 

彼女の教えは的確だった。

単なる筋肉の躍動でなく、一時ばかりの瞬発力でもなく、鍛錬と研鑽、そして名を呼ぶ事で成立する戦士の嗜み。

それが武技であると。

 

 

「では……武技、《縮地》ッ!!?」

 

 

踏み出すと同時、視界が前方に伸びるような感覚。

意識が引っ張られ飛んでいきそうになるのを必死に耐えている間に一瞬だけ目標地点に立っていたアウラの残像が見えた気がして、踵を地に着けたと思った瞬間。

 

ぐるんっと視界が一回転して、背中に重い衝撃が走る。

無い肺を潰されたような圧迫感。

程なくしてモモンガは自分がマットレスに飛び込んだのだと自覚した。

 

ズドン!という衝突音、土煙と共にマットレスを支えていた死の騎士が大きくスライド移動し後退する。

衝撃で体力は全損し、死の騎士固有能力である“食いしばり”が発動したようで召喚主であるモモンガに情報が入ってきた。

Lv100戦士職の突進をマットレス越しとはいえ受け止めたのだから無理はない。

 

逆さまの視界の中、向こうから慌ててユリとアルベドが駆け寄ってくるのが見えた。

そして自分が目標にしていた白線部分は大きく抉れ、隣でアウラがおろおろと自分とアルベド達を交互に見ているのを見て、思う。

 

 

「また失敗、か」

 

 

そう結論づける、もう何度も試した事だが。

 

 

かれこれ数時間、モモンガは同じ動きを何度も繰り返していた。

全ては聖女クレアより教わった武技、名を《縮地》。

その習得の為の訓練を行っているのだ。

 

彼女の教えによりきっかけは掴んだ、ハズだ。

脚の動き、動作の流れ、注意すべきポイント、あの酔いどれ具合に反して教え方はとても丁寧だったし、初心者のモモンガでも充分に理解の及ぶものであった。

教会の裏手で何度か試し、後は自己鍛錬あるのみだとその日は解散となった為こうしてナザリックで延々と同じ動作を繰り返していく。

 

アンデッドなので疲労はない、夜通しだって練習できる身体なのを今は有難く思いながらモモンガは戦士となって初めての“壁”に立ち向かっていた。

 

 

「これで28回目の失敗。

やはり高速移動に俺自身の思考が追い付いていない、俺が元は魔法詠唱者だからか?それともパーフェクトウォーリアーの弊害なのか?

思考のラグが生じているな」

 

 

コロッセオに広がる無数の穴ぼこ、それはモモンガが停止し損ねて巻き上げた土の跡である。

 

今でも疲れ知らずのアンデッド達が穴を埋める作業に勤しんでいた。

 

Lv100の膂力は凄まじい。

この世界の人類には到底到達できない規格外の身体能力は、こと武技の習得においても如何なく発揮され踏み出したモモンガは超スピードで動く事ができる。

 

動く事は、できる。

 

問題は…

 

 

(ブレーキがっ!効かねえ!!!)

 

 

止まれねえのだ、単純に。

 

確かに、Lv100のパゥワーとスピードはモモンガの理想とする動きを叶えてくれるだろう。

だがしかし、慣性制御までそうとは言ってくれなかった。

 

意識が追いつかない、目標地点で止まろうとした時には既に遠く過ぎ去っていて、グリップが効かずつんのめった結果吹っ飛んでさっきのような無様を晒している。

 

ちなみに教会の裏手で行った一発目の縮地は見事に塀とその先にあった馬宿を破壊してドンガラガッシャンと大きな音を立ててしまいお茶の間を騒がせた。

「修理代はツケとくねー」と酒瓶片手にカラカラ笑いながら聖女は事も無げに言っていたが申し訳なさで死にたくなった…(既に骨の身)

 

そも《縮地》の本質は短距離、中距離を速度で一気に詰める歩法である。

つまり狙った場所へ正確に到達する事で初めて成功したと言える移動用の技術なのだ、対してモモンガはどうか

 

…止まれず突っ込む闘牛じゃないんだからさぁ。

 

現にお手本としてクレアが見せてくれた《縮地》はまるで瞬間移動のように一瞬で、軽やかなステップとともに目の前を点々と移動していた。

時折分身したように残像を残しながら飛び回る彼女を見て、素直にカッコイイと思ったし是非ともモモンガも真似したいと思う所存である。

 

ただし現実は非情である。

 

 

『初速で踵を軸にするか爪先を軸にするか決めておけば重心のバランスを取りやすいよ〜』

 

『初めのうちは予め地点を決めて、その隣に直線距離で着地するのが目標ね』

 

『視界は絶対閉じないこと、実戦だと目測で距離を判断しながら発動しないとだから。

間違えるとさっきみたいに吹っ飛ぶよ〜』

 

『うーんセンスはあるんだけどなー。

なんだろねーモモちゃんの〝運動できない馬鹿力〟感。

力はあるのに身体の動かし方全くわかってない感じ』

 

『まー反復練習してればそのうちできるようになるよ〜』

 

 

(結局教会じゃ一度も成功しなかったもんな…

あとちゃっかり中身バレする所だった!

やっぱ分かる人には不自然さが露呈してしまうんだ…)

 

 

「モモンガ様!!」

 

「ご無事ですか!?」

 

「ああ、アルベド、ユリすまない。大丈夫だ。

なかなか難しいな、武技というものは」

 

 

支配者らしくない、恥ずかしい所を見せてしまったと照れるモモンガ。

 

だがそれすらもアルベドにとってはご褒美なので「うおォン!苦難にもめげないモモンガ様の凛々しい御姿最高ゥ⤴︎︎︎!」と心の中では全裸で狂喜乱舞してるのだが、モモンガには預かり知らぬこと。

 

 

「それでどうだ、お前達。

私の動きを見て思うところがあるか?

近接職の意見も聞いておきたい」

 

「…私めの役割は(タンク)

そうタブラ様より創造されておりますので、歩法というものには縁がございません。

先程仰られたようにかの《武技》なるものは我々のもと居た世界には存在しない独自の技術なのでしょう。

恥ずかしながら、モモンガ様が行っている所作全てが私めには理解が及びませんでした」

 

 

悲痛な表情のまま答えるアルベド。

何をやっているのか分からない、というのはそのままの意味だろう。ナザリック随一の叡智を誇る彼女が端的にそう表現せざるを得ないほどNPCにとって武技は理解し難いものなのか?

 

本来データであった彼女達にとって、ユグドラシル(ゲーム)という枠組みが世界の全てである。

レベル、性格、容姿、与えられた役職など、根幹は全て運営(プログラマー)の手によって出力され生み出されたもの。

 

対して異世界独自の技術を覚えるには技への理解と反復練習が必要になる。

技の起こり、行動中の所作、発動のタイミング、全てを身体に叩き込む必要があるからこその反復だ。

ゼロから1へ踏み出す事、プログラミングと同じでそれがどれほど重要で、大切な事か。

 

(ユグドラシル(ゲーム)異世界(リアル)は違う。

ゲームを現実に持って来れないように、現実をゲームに移植する事は出来ない…

当たり前の事だ、ユグドラシルはどこまでいっても仮想世界で、モモンガがいくら大魔法を使える巨大ギルドの長だったとしても、所詮は全部作り物。

現実は汚染されたコロニーを必死で生きる底辺小卒サラリーマン鈴木悟だからな。

でも…完全に隔たりがある訳じゃない。

この異世界はゲームと現実がごちゃ混ぜになったものだと考えている)

 

教会で聞いた話の中にあった、プレイヤーと現地人の間に子供ができること。

そして生まれた子の中には神人と呼ばれ、プレイヤーのように現地人の平均を大きく超える実力を持っていることがある事実。

つまりゲームの概念を現実の人間に補強している、という仮説をふまえると、反対に異世界の技術を外部スキルとしてゲームに落とし込むことは不可能ではないのだろう。

 

問題はその方法がとんと分からないことだ。

 

身体はゲームの産物(アンデッド)、思考や意識は現実の鈴木悟という状況にあるモモンガ。

完全なゲームの産物であるNPCたち。

 

 

(今のところ反復練習くらいしかできる事がないのはキツいなあ。

不完全な武技じゃ実戦投入なんてとてもとても…)

 

「ユリ、お前はどうだ。

発言を許す」

 

「…では僭越ながら。

ボ…私の所持している近接職のスキルの中に《虚歩》というものがあります。

先程のモモンガ様が行われた一連の動きにはそれを似たような動作を散見致しましたが、あくまで『似ている』程度の認識ですので確証はございません。

そういった知識は私よりも高位の修行僧(モンク)を習得しておられるセバス様の方がお心当たりがあるのではないでしょうか」

 

 

彼女の言にふむ、と首肯しつつ。

 

確かに《縮地》の所作は端々に格闘家のクラスと似通った部分はあった。

思い返せばその職を修めたギルメンが戦闘時に近しい移動方法を用いていたような気もする。

 

同じ歩法という点では参考にしてみるのも良いのかもしれない。

 

とは言ったものの、現在セバスはソリュシャンと共に王都へ偵察中だ。

出発した直後にいきなり拠点へ連れ戻すのは気が引ける、彼ら下僕達にそんな遠慮は要らないのだろうけどこれはモモンガの気分の問題だ。

 

それに己の力のみで手探りでやる努力というものはハマれば中々心地よい。

少なくとも肉体的疲労のないこの身体なら一晩中だって試していられるのだから、ナザリックの主としての重責も忘れて没頭できる。

 

モモンガ、もとい鈴木悟は初見のゲームは攻略本を見ずに進めるタイプだった。

 

 

「セバスは今、ソリュシャンと共に王都への道中だったか」

 

「ご用命とあらば即座に招集致したます」

 

「良い、初の外界を渡る任務だ。

些事にわざわざ呼び出す必要も無いだろう」

 

「はっ、モモンガ様がそう仰られるのなら…」

 

(デミウルゴスの話だと、たしか王都までの道中に武技を使える人間と魔巧の知識を持つ者を調達するって内容だったが如何せん説明が難し過ぎて殆ど反射で許可しちゃったんだよなあ。

ソーラや同僚の冒険者は居なくなっちゃうとこれからの冒険者生活困るから対象から外せって言っておいたけど、正直不安が…)

 

 

ちょうどモモンガがナザリックに帰還するのと入れ替わりのタイミングで、ソリュシャン、セバス、シャルティアの偵察隊は王都へと出発した。

 

馬車で途中の大きな街を挟みながら王都へと向かう道中、ソリュシャンは『高慢ちきなご令嬢』を、セバスは『それを嗜める有能執事』を演じ、獲物を釣り上げる為の撒き餌としての役割を果たす。

 

捕縛対象はモモンガの要望により「居なくなっても問題ない人間」をおびき出し、可能なら武技や魔巧の知識を持つ者を捕縛、そうでなくとも捕らえた人間はナザリックの為に役立てる。

無駄のない、かつリスクの少ないこの作戦はデミウルゴスによって提案されたものであり、アルベド、パンドラの両名からもGOサインを出されたので問題は起こらないと踏んでいるが…

 

現在の時刻は現実時間だと夜の3時半。

地下施設であるナザリック内では時間の感覚が曖昧になるが、ここ第6階層の施設はギルメンの惜しみない努力により現実時間と同じサイクルで天井の空に太陽が出現するようになっている。

今は夜なので天井には満天の星空が広がっているわけだが、モモンガが武技の鍛錬を始めた時にはまだ日が沈みかけの頃だった。

 

時間を忘れ没頭してしまったな、と今になって小っ恥ずかしくなってしまう。

 

 

「鍛錬はここまでにして、そろそろ第9階層へ戻ろう。

アウラ、すまないな。

コロッセオを穴だらけにしてしまって」

 

「全然大丈夫ですモモンガ様!

マーレがいればすぐ元に戻せますし、いつでも使って下さいね!」

 

 

そう言いながら身の丈に合わないほど大きなトンボで地面を慣らすアウラに、作業の手助けにとクッション係のデスナイト三体を新たに貸し与え、モモンガはお供2人と第6階層を後にする。

 

そして土で汚れた身体を(隙あらば背中を流そうと全裸で浴室に飛び込もうとするアルベドに警戒しながら)洗い流し、私室でひと息ついたその時である。

 

 

『モモンガ様、よろしいでしょうか』

 

 

デミウルゴスだ。

魔法は《伝言》。

だが何故だろう、いつもより声の質が固いというか、少しおかしいような…

 

 

「どうしたデミウルゴス、任務に支障でも?」

 

『いえ、そちらの方は滞りなく。

当初の目的通り50人程ですが確保致しました。

これよりシャルティアと共に帰還致します。

魔巧の知識を有する者も何人か捕縛出来ております、ただ武技を持つ者に関しては残念ながら調達する事ができませんでした。

この失態、どうか私めに罰を…』

 

「その必要はない。

もとよりそちらは結果が上振れれば、程度の期待度だったのだ。

戻り次第シャルティアと共に玉座の間へ来るように、皆の前で今夜の成果を教えてくれ」

 

『勿論で御座います!

ただ…』

 

(…ん?どうしたんだろう、あのデミウルゴスが戸惑っているような…発言を言い淀むなんて)

 

「話せ、デミウルゴス。

《伝言》越しなら聞いているのは私だけだ。

私はお前の心からの言葉を望んでいる」

 

『ッッッ!滅相も御座いません、御身の前で隠し事など!

御身の慈悲に心から感謝致します。

実は…』

 

「…………………なに?」

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 





☆エ・ランテル城塞都市
商業盛んで各領地ともアクセスの良い好立地に生まれ、神殿勢力と行商ギルドと次いでに法国勢力がロアナプ○並に跋扈する混沌とした都市のバランスを保ち、ならず者同然の冒険者達を制御する組織の長が無能な訳がなかった
これで上がパナソレイ都市長(愚者を演じる有能勢)なのでこの街は原作屈指の完全無欠セーフポイントとして機能する
本作においても魔巧の影響で活発になった竜王国から流れる品物を取り扱う商人や実質的庇護下に入った法国による治安の監視もあり、都市内の治安と交易による利益率は過去類を見ないほど安定している
相変わらず原作おなじみ『死を撒く剣団』を初めとした犯罪集団も大なり小なり点在はするが、都市近くで行動を起こそうものならもれなく教会在住の〝暴〟の化身が爆速報復にやってくるので活動は原作よりかなり小規模
裏で何かコソコソやってるようだが…


☆プルトン・アインザック冒険者組合長
略して組長
エ・ランテル城塞都市の冒険者を取り纏めるオジサマ
原作では有能枠、本作でも有能枠
問題児に頭を悩ませる苦労人

イグヴァルジ(窘め)
おいイグヴァルジ(困惑)
イグヴァルジ…(呆れ)

詠人:プルトン・アインザック



☆テオ・ラケシル
魔術師組合、もとい魔巧推進組合長を務める男
魔巧位階《空》保持者
アイテムオタクが突如生えてきた新魔法に飛びつかない訳がなかった
魔巧の品を城塞都市で取り扱うよう法国を説得する為、担当者宛に羊皮紙何ロールにも綴られた、いっそ気持ち悪いくらいの熱烈アピールは身を結び、見事エ・ランテルは魔巧先進都市としての第一歩を踏み出した
当時の担当者(某領主兼魔巧学者兼秘密部隊員)は「フールーダ様とは別ベクトルでやべー奴ですわね、怖いですわー戸締りしとこ」と残し一抹の不安を憂いたという


☆漆黒の剣
金級冒険者、都市の頼れる冒険者チーム
<出番少ねぇ!
<しょうがないであるな
<これでも原作より長生きらしいよ
<それよりルクルットは安静にしてた方が…


☆クラルグラ
魔法職2名が殉職で戦力大幅ダウン
シャルティアが無事ナザリックに戻った事で現状マーレに頭を潰される未来は消えたがどうなるイグヴァルジ
カジッちゃんより過去が薄くて庇いにくいぞイグヴァルジ


☆聖女クレア
法国立黒鳶教会エ・ランテル支部を取り仕切るシスター長
仕草はいい加減だが他国の民を慈しみ、都市の成長を見守る敬虔な神の使徒
その経歴は謎に包まれている、一体何聖典の何番席次なんだ…
組合長も認める都市公認の暴力装置、荒事は取り敢えず彼女に投げておけば切り刻んで解決してくれるので便利ですわよ
使う武器はスティレットだけに留まらず、魔化の施された様々な暗器をマジックアイテム(現地産、義姉のツテで手に入れた新開発の超希少品)で呼び出し斬ったり刺したり潰したり、暴力聖女クレア様は今日も酒瓶片手に都市の平和を護っておられます
原作より流通の激しい城塞都市を守護しつつ、なにやら探し物をしている模様


…余談だが某VTuberとまんま名前が被ってしまった、検索結果に彼女と全く関係ないこの作品が表示されて苦情が来たらどうしよう


☆モモン(ガ)
慣れない土地で慣れない職業しながら慣れない技を練習する多重縛りプレイを現在進行形で行う変態、素直に魔法詠唱者として冒険者登録しないから…お前のせいです、あーあ
不完全な武技をどうにかモノにしようと奮闘中、疲れとは関係なく黒塗りの上級悪魔に電凸されてしまう
同僚を庇い全ての責任を負った第7階層守護者デミウルゴスに対し、ギルドマスターモモンガの出した示談の内容とは…


☆ナーベ(ラル)
失態に脳を焼かれて放心中
主が外出中、何度も自死も考えたが固く禁じられているのを思い出しどうしたらいいのか分からず宿の中で右往左往している
そのうちちいか○わみたいな泣き声を出しそう
誇り高きナザリックが誇る戦闘メイドの姿か、これが…


☆《冥望星》
魔巧の頂点、7つの星のそのひとり
異世界に先進的な医療魔法を広げた偉大なネクロマンサー
かつて大陸に存在した『口だけの賢者』の遺した文書を参考にしつつ、死霊術師としてのアレンジを加えながら開発した「ポーションや回復魔法に頼らない」医療技術は魔法の使えない状況や物資不足の際にも重宝し、その知識をもとに開発した医療用マジックアイテムは痒い所に手が届く性能で冒険者や一般の大衆問わず人気を泊している
また小規模だが私塾『冥望診療所』には30人ほどの弟子がおり、後進の育成に余念が無い
彼の下で癒者の卵が日々研鑽を積んでいる







次回はシャルティアのおつかいから

更新は…未定
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